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■オープニング本文 前回のリプレイを見る 繰隈の一味を捉えた翌日、羽柴麻貴は理穴に戻ってきた。 「只今戻りました」 やっぱり今年も実家には寄らずに真直ぐ役所に姿を現していた。 「今年は早かったな」 「早く休みを貰いましたから」 あくびを噛み殺した柊真が言えば、麻貴は顔を顰める。 「何かありましたか?」 「賊の捕縛だ。曙から火宵の父親、有明の動きを教えてもらってな」 柊真が首をごきごき回しつつ、話をする。 「何かやろうとしているのか?」 「夕べの捕り物は火宵と繋がりがある賊だったんだ。何か知っているのではないかと思って捕まえてみたんだが、有明は自分の店がある街がどうやら火宵に掌握されかけているらしい。俺がいた頃もそんな感じだったがな」 「一枚岩ではないという事か」 麻貴の言葉に柊真が頷く。 「有明は商才やら人望やらそこそこあるんだが、なぁ‥‥それを軽々と才能を越えるのが火宵だ」 「自分の息子に嫉妬か」 溜息をつく麻貴に柊真が残り物の饅頭を麻貴に渡す。 「火宵には目的がある。それが何なのか知るのは、未明と曙だ。繰隈の頭から聞いた話だと、刀匠達が作った武器やたたら場で作らされた焙烙玉は火宵の手でどこかへ持って行かれた」 「まだ分からないという事か‥‥」 溜息をついた麻貴が饅頭を頬張る。 「で、お前は火宵の動きを調べてきたんだろうな」 「ああ‥‥火宵は何度も武天に来ていた。特に悪さはしてはいないが、必ず立ち寄っていたのは荒地や廃墟。沙桐に土地の確認はさせている。早ければ一月程度で連絡が来るだろう」 そうかと柊真は頷く。 「有明の情報を貰ったかわりに曙に頼み事をされた。まぁ、こっちが本命だがな」 柊真がしたのは蕎麦屋で曙に兄の白夜の件を麻貴に話すと、彼女は面倒だといわんばかりに項垂れる。 「だが、捕まえさせろという事は、それ以上に曙が心配している事があるという事だろうが‥‥裏を取る事はまだ不可能か」 「結局は繰隈の頭は白夜の居所を知らなかったんだよな‥‥」 「だが、白夜は何故、姿を消したのだろうか。有明は偽火宵を立てて火宵の人員を掻っ攫って行ったんだろ。そんな凄腕、ほっとくか? 偽火宵は本多家にいたんだ。その辺は調べたんだろう」 麻貴が言えば、柊真は報告書を渡す。それを読んだ麻貴は無言でそっと柊真に返す。 「私が白夜の事を調べよう」 ふーっと、溜息をつく麻貴を気にせずに柊真は報告書をしまう。 「羽柴様が寂しがる葉桜を連れて遊びに行ってた時にたまたま会ったそうだ」 「凄い確率だな」 面白そうに言う麻貴に柊真がちろりと視線をよこす。 「で、その元凶のお前は帰ったのか?」 ‥‥‥ 「檜崎! ちょっくらこの馬鹿、家に帰してくる! 少しの間頼むぞ!」 柊真の怒声が響き、麻貴を担いで柊真は役所を出た。 歩いていると、麻貴は柊真の懐に反射する物に気付く。 「柊真、なんだそれ」 「ん、ああ。母上から貰った。お前の風にも言われたよ。曰くがありそうだってな」 柊真が麻貴に渡すと、半分に割れた手鏡を見る。 「綺麗に手入れされてるな。拵えは古そうだな」 「美冬様は確か、武天の出身だっけか」 ふむと麻貴が言えば、柊真は頷く。 「理穴の国境で行き倒れていた所を親父に拾われてすったもんだの末に結婚」 「上原様の女癖、治ったと思ったら、そんな事はなかったって義父上が言ってたな」 今も女癖の悪さは直ってないとは柊真も言えなかった。 「麻貴、お前なら後生大事にしてて誰にも見せなかったものを夢を見ただけでそれを誰かにやれるか?」 柊真が麻貴を見上げると、麻貴は柊真の肩で腹の収まる位置をずらしつつ、思案する。 「後生大事にするという事は、大事にしようと思う何かがあるからだろ。でも誰かにあげるって事は大事にしてたけど、手放したかったものかもしれない」 「例えば?」 「私がお前にまた片翼の首飾りを託したというのと同じ事」 「また沙桐に会えるからいらないという事か」 柊真が言えば、麻貴は顔を顰める。 「お前が仮定の話をするなんてどうしたんだ」 「‥‥確証が取れたら言う」 そのまま話は途切れ、麻貴はそのまま羽柴家に放り投げられた。 柊真が戻ると、手紙が来ていた。 「あれ、雪原一家か」 今年の正月に顔出しをしてきちんと本名を当代の緋束に伝えている。 手紙の内容は、三茶から一日離れた所に小さな町があり、そこに染物工房がある。最近、妙な人影が多く見るということで、元雪原一家にいた爺さんがちょっと調べてくれと雪原一家当代の緋束に相談を持ちかけられた。 雪原としても、相談に乗ってやりたいが、他の街までは自分達はいけれないということで、柊真に連絡をした。 「こっちも白夜を追ってた女の事とかあるんだがな。暇じゃないが‥‥調べてみるか‥‥」 ふーっと、柊真が溜息をつき、ギルドへの手紙を書き出した。 |
■参加者一覧
滋藤 御門(ia0167)
17歳・男・陰
劉 天藍(ia0293)
20歳・男・陰
御樹青嵐(ia1669)
23歳・男・陰
黎乃壬弥(ia3249)
38歳・男・志
紫雲雅人(ia5150)
32歳・男・シ
珠々(ia5322)
10歳・女・シ
輝血(ia5431)
18歳・女・シ
緋那岐(ib5664)
17歳・男・陰 |
■リプレイ本文 「麻貴さん、お帰りなさい」 監察方の大部屋に入ってきた紫雲雅人(ia5150)が麻貴を見つけて声をかける。 麻貴は目を見張ったが微笑み、ただいまと口にした。 皆が落ち着いた頃、口を開いたのは黎乃壬弥(ia3249)。 「つかさ、白夜達の情報が少なくないか?」 「確かに」 ぽんと、手を打ち付けて同意したのは緋那岐(ib5664)だ。 「柊真殿は知っているなら教えてほしいんだが」 壬弥の言葉に柊真が一つ頷いた。 白夜の事は置いといて、他の五人の事。 名は、蓼正、秋雲、新涼、稔利、豊年という。 蓼正と稔利は一刀のみを使う剣士で、秋雲は居合を得意とし、豊年は殲刀所持、新涼は槍使い。 「実際に見た事は?」 輝血が尋ねると、柊真は白夜だけと首を振った。 「人相書きでもして、皆で首実験でもしようじゃねぇか」 「俺も手伝う、本職ほどじゃないが」 頷く雅人に劉天藍(ia0293)が声をかける。 「読売屋は書かないのか?」 麻貴の言葉に雅人はとりあえず、天藍にも手伝ってもらって、柊真の証言を元に似顔絵を作成した。 「見た顔が重なりませんね」 珠々(ia5322)が困ったように呟く。輝血(ia5431)も同じようだ。 「夕陽か」 柊真が指を置いたのは壬弥が見た女の似顔絵。 「火宵達がいる里にいたが、白夜と共に有明側にいたな」 「なんだ、白夜のコレか」 壬弥が下世話に小指を立てると、柊真が苦笑し、肯定をした。 「そいやさ、御門が前に聞いてた鏡、俺にも見せてほしいんだけど」 天藍が柊真に言うと、懐から出した。 真中から割れた鏡で裏をひっくり返せば、薄い銅に彫り物が施されている。 「模様‥‥家紋?」 うーんと、唸りながら天藍と滋藤御門(ia0167)がじっくり見ている。 「柊の葉っぱが何枚もずらしてあって、炎のようでもありますよね」 御門が言えば、柊真は反応せず。御門の中では手鏡も何か鍵になると考えているが、当の柊真が口を開かない為、どこか困ったように柊真を見やる。 「ともかく、それぞれ気をつけて仕事に当たってくれ」 素知らぬふりで柊真が言うと、御樹青嵐(ia1669)がわざとらしく溜息をつく。 「仕事は仕事としてこなしていきますが‥‥依頼の筋にあたる方が妙な隠し事とかしてない限りはね」 ちろりと、青嵐が見やると、柊真は動じていない。 「俺が裏切りの確証があれば俺を殺せ。簡単だろう、一歩踏み込んで調べれば明白だ」 くつりと、笑う柊真に青嵐はぞくりと悪寒と殺気を覚える。 雪原に向かう前、御門が呆れたような表情で柊真と向き合っていた。 「あんな事言って、立証されたらどうするんですか」 「俺は裏切ってない、それに‥‥鏡の事を暴く事を俺は迷っている。秘密を暴くのは簡単だし、必要な事と確信している」 声を沈ませる柊真に御門が柳眉を顰めた。 「お前の深慮さはいいと思う。決断する時は迅速にな」 「‥‥迷う事が大事なのですか」 首を傾げる御門に柊真は微笑む。 「色々な可能性、進んだ事によって何が起きるか考え、よい道を選べ。割り切る事が全てじゃない」 柊真が送り出すと、御門はしっかりと頷いた。 街に出た壬弥は、奏生のギルドに一声かけると、白雪というギルド員が引き受けてくれた。 街の人達は優しく、壬弥を見て、しっかり者の娘さんに見限られたんだろうと勝手に思われて、上手い事貼らせて貰った。 小腹が空いたので店屋で食事を取っていると、ずかずかと足音がした。 「アンタね! 人を娘に仕立て上げて貼り紙張ったのは!」 前回、壬弥に掴みかかった女が壬弥に再び掴みかかる。 「落ち着けよ、とりあえず、俺は敵意はない」 「‥‥アンタ、繰隈の親分んのモンでしょ、逃げたの?」 「そんなもんだ。因みに繰隈の親分は何も知らないそうだ」 壬弥の言葉に夕陽が顔を顰める。 「こちらとて白夜の情報が欲しいし、そっちだって、白夜の居場所を突き止めたいんだろ」 「白夜をどうしたいのよ」 夕陽がじろりと壬弥を見る。 「曙って奴が、白夜を止めたいらしい‥‥とりあえず来てくれ‥‥」 壬弥が立ち上がると、夕陽は従った。 とりあえず、三茶に着いた三人は雪原一家に赴くと、赤垂と合流し、目的の街まで歩く。 御門が修行を尋ねると赤垂の表情は明るい。 「呪縛符が上手になったよ! ちゃんと走って逃げる睦助さんを捕まえたよ!」 笑顔で報告する赤垂に三人の心中は複雑だ。 「上手になってなによりだ」 微笑む天藍が思い浮かべるのはキズナの事だ。 本来、雪原一家を頼って欲しいと思っていたが、話の流れで火宵の方へと行ってしまった。 赤垂の性格ならば、キズナとよい友達になってくれると思っていたのだが‥‥ 「天藍さん?」 首を傾げる赤垂に天藍は首を振り、先を進ませる。 翌日から三人は工房に入って仕事に入る。 別嬪と男前に女性達は大喜びだ。 それぞれ分かれて仕事に入る。 天藍は男達と一緒に養蚕に使う桑園の手入れ。 「兄ちゃん、手つきなれてるなー」 「山奥に住んでたんだ。こういうのは得意だよ」 誉められて嬉しいらしく、天藍は嬉しそうに答える。 「とっつあんに頼まれた開拓者でなかったらずっと働いてもらいたいくらいだよ!」 「給料と見比べないとな」 冗談交じりに天藍が言うと、普段食っていく分とちょっとの飲み代には困らないものだと男達は答えてくれた。 「ここの工房の主はどんな人なんだ?」 「神経質な人だけど、目利きはいい、きちんと記録を作って、それを見てちゃんと仕事してるかどうか分かる人なんだ」 どうやら、神経質だが、公平な目利きが出来る人物のようだ。 御門は糸工房の手伝いをしている。 繭の選別し終わったものの運びや、糸紬の手伝いなどの小さな雑用を主にやっていた。 笑顔で仕事を頑張る健気な御門はどこか幼くも秀麗な美貌で女性陣の心もがっつりキャッチ。 「そういえば、人影って見た事ありますか?」 休憩時間になり、御門を囲んでお喋りタイム。御門にとって、情報収集に丁度いい。 「しょっちゅう見るわ、なにげなーくしてるけど、ずっと見てるの」 「何かをするわけじゃないけど、気味悪いわ」 「中には入ってくるんですか?」 女の子達の話を聞きつつ、御門が問うと、一人が頷いた。 「私見た。中できょろきょろしてたわ。私を見ると、直に出ちゃったけど」 気味が悪いと女の子は嫌そうな顔をする。 「何かあった時は声をあげてくださいね、僕達が駆けつけますから」 「はい!」 女の子達は揃っていい返事を聞かせてくれた。 一方、染色工房に入っている青嵐は見事な調節を見せてくれて、綺麗な糸を染め上げてくれた。 説明を聞くと、青嵐は試しに誘われて自分で調合した物で糸を染めていた。 「いやぁ、見事だねぇ」 ベタボメされて嬉しそうに青嵐が微笑む。 「ほおずきみたいだね」 染め上げられたいとはほおずきのような鮮やかな朱色。 「ええ‥‥まぁ‥‥」 誰をイメージしたのかは一目瞭然。 わいわいきゃいきゃいと女の子達に根掘り葉掘り聞かれ、青嵐は冷や汗をかく。 「あの、そういえば、ここの工房は個人的恨みとかはないのでしょうか」 逃れる為に他の話題を出すと、女性陣はうーんと唸る。 「ここの工房自体はないと思うわ」 「主様は色々とやってるって聞くけど、とりあえず、この工房がなくならなければいいわよね」 噂好きの女性陣が言うからにはそうなのだろう。 ふむと、青嵐は芦屋について思案した。 その頃、奏生では‥‥ 白夜の人相書きを持って、雅人は奏生の街を歩いていた。 不思議な事に、白夜の情報は引っかからない。 男六人が行動を共にするという事は何かと目立つものだ。それなのに一切情報が入ってこない。 「読売屋」 よっと、麻貴が手を上げると、一緒に居たのは護衛方の一人、駒木だ。 以前の護衛方襲撃事件と見せかけた羽柴杉明の暗殺で囮として狙われた人物であり、その黒幕である偽火宵は有明の手のものと判明している。 挨拶を交わしていると、麻貴が早くと急かす。 「護衛方に遊びに行かせて貰う事になった。首尾は?」 麻貴が言えば、雅人は首を振る。 「ならば、尚更だ。行くぞ」 そう言って、麻貴は更に足を進める 「足がつかめると思ったんですけどね」 自嘲するように雅人が言えば、麻貴がくるりと振り向く。 「情報がないというのだって、立派な情報だ。前回、有明の部下である偽火宵は羽柴家と敵対する芦屋家派閥の本多家にいた。白夜の主の有明は芦屋家と関わりがあるのが濃厚」 「護衛方で芦屋家の様子を聞き、芦屋家と有明の繋がりを明確にし、当たっていくという事ですね」 「その通り」 緋那岐は両替屋にいた芦屋家の縁者を探していた。 辿って周辺に聞き込みをしていた結果、来てしまったのは、芦屋家の前。 うーんと、唸った後、緋那岐は少し離れた所で人魂を召喚する。 小鳥の式神は空を羽ばたき、芦屋家の中に潜り込む。 まずは奥の台所や使用人達がいる場所を探す。 中庭を越えた先に前に青嵐が見たと言っていた芦屋家の縁者がいた。 縁者は黙々と勝手口の周辺を掃除している。後は特になさそうだと緋那岐が判断すると、小鳥は飛び立ち、他の方も回る。 目に付いたのは、武装している者が多々いる。 用心棒風やシノビと思われる者‥‥ ひどく物々しく、どこか、この家自体を見張っているようでもある。 人数だけは数えて緋那岐は小鳥を戻らせた。 「緋那岐さん」 小鳥との同調を終えた緋那岐が耳にしたのは珠々の声。 「ここの先って‥‥」 「芦屋家。結構、武装した連中が見張っているようだったぜ。あの家を」 緋那岐が見た事を言うと、珠々は目を細める。 「有明はつるんでいた役人の資金を乗っ取ろうとしていますね。長居は危険です。戻りましょう」 珠々が促すと、緋那岐は頷く。 もう一人の連絡役である輝血は苛苛したように溜息をついた。 「全く持って引っかからない」 街中の屋根の上を伝っていると、下の道で壬弥と女が一緒に歩いていた。 「壬弥、それ‥‥」 ふたりの前に降りた輝血が言えば、壬弥が夕陽だと言った。 それから役所に戻ると、柊真を見た夕陽があっと驚いた。 「あんた‥‥役人だったの‥‥!」 どうやら、柊真の正体は有明側には広まっていなかったようだ。 夕陽が知っている事といえば、芦屋家と有明がつるんで違法取引をしていた事、有明側の精鋭が芦屋家に滞在していた事、芦屋家の派閥の本多家に有明側の人間を使わせ、羽柴家を追い込まそうとしていた事、有明が火宵を邪魔と思っている事だった。 白夜については、有明が一番信頼している精鋭である事。 「‥‥つか、勝手に出ていいの?」 輝血が言えば、夕陽は縮こまって黙り込む。 「惚れた男がいなくなったら心配するのは仕方ないからな」 戻ってきた麻貴と雅人、珠々や緋那岐も参加する。 「白夜が有明様に黙って皆を連れて出るなんておかしいもん」 夕陽が言うと、しゅんと黙り込む。雅人は自分が護衛方で仕入れた情報が夕陽と合っている事に安堵しつつ、ふと、思い出す。 「有明は白夜を探すようには言ってないのですか?」 雅人が言えば、夕陽は首を振る。 「放っておけって‥‥なんだかおかしくて‥‥」 気落ちする夕陽に壬弥が溜息をついた。 「‥‥そんなお気に入りが消えたのに冷静なのは相当肝が据わっているか、自分から眩ますように言いつけたかの二択だ」 「自分からにしても、どこにいるんだよ。一切の情報が出てこなかったんだろ」 緋那岐が言うと、珠々が思案しながら口を開く。 「芦屋家に有明の部下がいるという事は、資産乗っ取りの事はまだ芦屋家には知れてないという事」 「潤沢な芦屋家の資産ならば、いくつか別邸もあるだろう」 麻貴が細くすると、雅人が少しだけ納得する。 「そこで使用人を遣わしてもらって引きこもり生活をしていれば、情報は最小限となる‥‥」 「移動も夜明け前ならば人目も少ないからね。あんたが知ってる芦屋家の別邸を教えて」 溜息混じりに輝血が問うと、夕陽は顔を曇らせる。 「全部回ったの。一つだけ行ってない所がある。芦屋家が本多家に与えた別邸で、まだ本多家の使用人もいるみたい、芦屋家の名前を出したら使わせて貰えそうなの」 行って来ると輝血と雅人が立ち上がる。 「私は御門さん達の方へ」 珠々が即座に部屋を出た。 残った面々は、夕陽をどうするか悩んでいる。 「ウチで預かる」 切り出したのは柊真だ。 「大丈夫か? 麻貴嬢ちゃんがいるのに」 「心配なのは父親に口説かれるか否かだ。母上や沙穂の母上もシノビだし、大抵の敵は退けられるさ」 心配する壬弥に柊真が問題発言を口にする。 その後、輝血達が目的の屋敷から戻り、白夜達がいるのが限りなく近い事を報告した。 夜になり、工房に出来るする者がいなくなると、影は慎重に中へ入っていく。 「‥‥ぅ!」 苦しそうに三人が悶えて倒れこむ。振り向けば、御門、青嵐、天藍がいた。 「逃がしませんよ」 静かに御門が言えば、残りが三人に対し、刀を抜く。 人影に対し、両端の御門と天藍は離れるように走り出した。天藍は斬撃符を発動させ、自分に向かっている影‥‥賊に投げつける。 賊は斬撃符に反応し、着物を少し斬られる程度に避け、そのまま突きの構えで天藍に向かった。 天藍が反射的に避けたが、腕を少し斬られ、肌に血が滲む。相手は剣が出来る事を理解した天藍は斬撃符よりも呪縛符で捕らえる事を優先させた。 寸ででかわしているが、いつまでもかわせる事は出来ない。隙が出来るのを待っているが中々出来ない。 瞬間、男が見えない何かに斬りかかろうとし、天藍を通り過ぎる。 「天藍さん!」 どうやら、御門の幻影符が天藍の相手に効いた模様。天藍は急いで幻影符に惑わされている敵を呪縛する。 幻影符の発動で隙が出来、御門の相手から大きく隙が出来た御門に上段から剣が振り降ろされる。 パキィンと、小気味いい音を立てて御門が付けていた狐面の上部が欠けた。 「くっ」 苦悶の御門から血が一筋流れる。面がなければ、更に酷い怪我となっただろう。 「御門!」 はっとなった天藍が斬撃符を御門の敵に投げつけると、見事命中し、腹に大きな傷をつけ、痛みに堪えた御門が呪縛符を投げ、拘束させた。 青嵐も防戦となり、いくつかの怪我があった。 ラストひとりとなった敵は三体一で戦う羽目となる。 天藍と御門が青嵐の敵に回りこむと、後ろの確認で隙が出来た敵に斬撃符を飛ばし、受けるダメージの隙を狙って御門が呪縛符を発動させた。 ドサッ‥‥と、音を立てて敵全員を拘束する事に成功できると、三人はその場に膝をついた。 「なんだなんだ!」 工房近くに居を構える者達が現れ、開拓者と不法侵入者がぐったりしているのを見て慌てた。 夜が明けると、珠々が現れ、夕陽の保護と有明と芦屋家の繋がりを伝えた。 翌々日未明、監察方に引き渡された人影が有明の部下である事が判明する。 |