【陰刃】狂いの織成
マスター名:鷹羽柊架
シナリオ形態: シリーズ
EX
難易度: 難しい
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/10/17 20:03



■オープニング本文

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 豊穣感謝祭

 この時期になると、各国で行われる収穫祭。
 理穴でもその祭りは行われる。
 城近くの一般道の両脇に簡易店舗や茣蓙を敷き、品物を並べているというまで色々とごった返している。
 その祭りに地位の高い者達も心惹かれる者は少なくはない。
 祭りにかこつけて宴会を行ったり、新鮮な旬の素材をよい店に行って食べに行こうと思う者だっている。
 浮き立つ中は何かと隙が生まれるもの。
 それに乗じての事件、事故は多々あるもの。

 故に、改方に属する役人達は気を引き締めさせられるのだ。


 理穴の閑静な住宅区域の一角‥‥羽柴家に手紙が届いた。
 宛先は羽柴麻貴となっており、差出人は鷹来沙桐とあった。

 手紙を手にした麻貴が理穴監察方の役所に戻り、柊真に手紙を渡す。
 内容は最近の近況に織り交ぜた火宵の動きの報告書でもあった。

「‥‥決まった似たような所を随分と念入りに歩いているようだな」
 ふむと考えるのは監察方四組主幹、上原柊真だが、麻貴の表情は少し、複雑そうだった。
「新涼の話に寄れば、有明は火宵をあの屋敷におびき出して、彼らに殺させようとした。あの腕前ならば、火宵に致命傷は与えられるかもしれんが‥‥」
「白夜の状態次第ではあったがな。羽柴、話を逸らすな、私情を交えるな」
 麻貴が言葉にすると、柊真はノった振りをして即座に麻貴を嗜めた。
「‥‥すんません」
「まぁ、お前にとっては記憶がなくてもいい場所じゃないだろうしな、精々、羽柴様に孝行しろよ」
 ふっと、柊真が微笑むと、麻貴は恥ずかしそうに俯いた。
「だが、全部が全部、滅ぼされたりした事がある村や街ばかりか‥‥」
 柊真が手紙を読み返して思案している。
「アヤカシだけじゃなく、諍いの中心現場で滅ぼされたりしているとの事だ」
「まぁまぁ、よく気がつかなかったものだな、キズナ?」
 手紙の言葉の一つに柊真が気がつく。
「ああ、キズナの身辺も調べさせた。どうやら、親が諍いに巻き込まれたらしくてな、親戚に預けられたらしい」
「命あるだけ儲けものだな」
 麻貴の言葉に柊真が溜息をつく。
「後、お前が手紙を取りに行ってる間に新涼がもう一つ吐いたぞ」
「何?」
 ちらっと、柊真が麻貴の方を見やる。
「以前、三茶近くの芦屋の工房を探っていたのが有明の手下だと分かっただろ」
「曙が前に有明が芦屋家の資産を狙っているって言ってたんだろ、行っても間違いじゃないが、殆ど道楽でやっているようなもんだ。街の人間にだって、なんら問題はない。狙う理由なんてあるのか」
 柊真の問いかけに麻貴が首を傾げる。
「理穴の三京屋から教えてもらったんだが、どうにもあそこの工房の布は評判が良くてな、高値で売買されるらしい」
「そういや、工房に潜入していた人達がいい布だと言ってたな。つか、泥棒かよ」
 麻貴が毒づくと、柊真は笑う。
「他の資産も似たような手口でどんどん取って行くだろう。新涼の話によれば、有明の手でそうやって破滅に追い詰められた地方役人が多々居たそうだ」
 柊真が言うと、麻貴は溜息をついた。
「さっさと捕まえた方がいいが‥‥証拠を集めないとな」
「それだが、何とかできそうだ」
 にやりと柊真が笑う。
「有明と芦屋で、とある地方の大店の主を脅して不正な取引をさせようと近日奏生内で行われるそうだ。新涼の予測の範疇だが、そろそろ、芦屋を暗殺する可能性があるらしい」
「新涼からの情報か、というか、随分とぺらぺら喋るな」
 麻貴が呆れると、柊真はくすくす笑う。
「仲間もやられてもう、奴に尽す理由がないんだろ。人望がないから仕方ない」
「人の資産に意地汚く食いついてきたんだろうな」
 アヤカシも人間もあまり変わらないと麻貴は心の中で毒づいた。


■参加者一覧
滋藤 御門(ia0167
17歳・男・陰
劉 天藍(ia0293
20歳・男・陰
御樹青嵐(ia1669
23歳・男・陰
黎乃壬弥(ia3249
38歳・男・志
紫雲雅人(ia5150
32歳・男・シ
珠々(ia5322
10歳・女・シ
輝血(ia5431
18歳・女・シ
緋那岐(ib5664
17歳・男・陰


■リプレイ本文

 有明と芦屋家の取り押さえと捕縛に走る中、滋藤御門(ia0167)は麻貴に声をかけていた。
「柊真の鏡の件か」
「どうしても気になるんです。火宵が武天にいた場所についても」
 御門が意を決した言葉を告げると麻貴の表情が少し曇る。
「教えては頂けませんか?」
 麻貴が口にしたその詳しい場所は鷹来家の領地の近くと口にした。
 本来ならば麻貴は鷹来家の息女であったが、駆け落ちをし、決められた家の女とは違う女との子の為、男の沙桐は引き取られ、麻貴は危うく殺される所だった。
 その時に双子の母親の生家‥‥理穴が名家、羽柴家の当主である杉明が引き取りに来たのだ。
 今でも麻貴は鷹来家の領地に近寄る事を許されていない。
「すみません‥‥」
 麻貴が沙桐を思う気持ちを理解している御門は麻貴の複雑な思いを感じ取り、謝る。
「気にする事はない‥‥すまない、私達が掟に捕らわれてしまっている所為で」
「気にしないで下さい。僕が気になっている事ですから。捕縛に参加できなくてすみません」
「私の分まで頼む」
 謝る御門に麻貴は優しく微笑む。

 麻貴と別れた後、御門は劉天藍(ia0293)と会った。気落ちしてない御門の様子から天藍はほっとし、懐の紙を御門に渡す。
「宜しくお願いします」
 紙を受け取った御門の言葉に天藍はしっかり頷いた。


 はっきり言われたのは、公式資料なんかないという事。
「報告書がないわけじゃないのよ」
 沙穂がすたすたと御樹青嵐(ia1669)を導いた部屋は紙の匂いが充満した書庫だ。
「これとこれとこれ」
 どさどさと青嵐が抱えられたのは柊真の報告書だった。火宵の元に入ってからの情報があった。
 理穴の賭場の事や、武天の違法取引の利潤の行方が騙された刀匠達の生活費や武器を作る材料費、たたら場の維持費なんかに使われていた事が分かる。
 ふと、思い出に耽りそうになってしまう気持ちを抑え、青嵐は読み続けたが、特に何もなかった。
 あったとすれば、自分達が随分と関わってきた事を思い知らされたという事だけ。

 麻貴が御門と別れ、大部屋に戻ると、紫雲雅人(ia5150)が浮かない表情を浮かべていた。
「どうしたんだ?」
 首を傾げる麻貴に雅人は頭を下げる。
「心配かけて申し訳ありません」
「怪我はもうよさそうだな、謝る事はない。私がしたいからするのだ。君は私の筆であり言葉だ。声を出せぬ所にいる私の代わりに声を出してくれるのだからな」
 ふふりと笑う麻貴に雅人は苦笑する。目の前の人物はこういう人物なのだ。

 柊真と一緒にいる黎乃壬弥(ia3249)は物足りなさそうに茶を啜っている。
「しかし、情報が足りねぇ」
 渋茶でも飲んだかのように壬弥の表情が曇る。
「それは分かっているが、今、有明を押さえねば、火宵を押さえる為に邪魔になる」
「‥‥自分の立場可愛さに息子を殺させるような輩だからな、ああいう小悪党は放置しとけばしとく程何かと邪魔になるからな」
「面倒だなぁ」
 ぼんやりと緋那岐(ib5664)が呟く。
「ま、取り押さえられる時に押さえるべきだよ」
 輝血(ia5431)がどこか能天気に言うが、臨機応変さは四組の誰もが手本になると思われている。
「分かってくれて助かる」
 柊真が苦笑して手筈に向かった。

 御門が向かったのは三京屋だったが、理穴では見た事がないと言われ、武天の三京屋本店に調べて貰おうかと女将さんに提案して貰った。
 次に向かったのは上原家。
「まぁ、話通り何と愛らしい」
「麻貴さんが気に入るのも仕方ないですわ」
 早々に迎えられた上原家の正室様と側室様の歓迎に御門はどうしてくれようか悩んでしまうが、美冬と柊真は顔立ちがよく似ていると思った。
「母さんは出た出た。美冬さん、宜しくねー」
 沙穂に連れてかれた側室様を見送った御門は改めて美冬に向かい合い、天藍が描いた模様を出す。
「これはどこかの家紋ですか?」
 単刀直入に尋ねる御門に美冬は頷く。
「私の生まれ故郷の志族の家紋です。これをどこで?」
 御門は素直に柊真に見せてもらった旨を伝え、紋様の柊と炎が柊真と火宵を思い出す事を伝えた。
「火宵という者を存じていますのね」
 美冬は夕陽の監視の際に火宵の姿を見ている。
「はい」
「お話を聞かせて頂けますか、どのような御方か、生まれは、母御は‥‥」
 どこか必死そうな美冬の様子に御門は自分が知る事を話した。
 理穴地方の豪商の妾の息子であり、何かを目標としている事、母親は旭という名である事を告げると、美冬ははっと、息を呑む。
「今、旭と申しましたか‥‥」
「ええ」
 頷く御門が見たのは美冬が流した一筋の涙と優しい微笑み。


 青嵐が四組の大部屋に戻ってくると、柊真が出迎えた。
「いい情報はあったか?」
 悪戯っぽく笑う柊真に青嵐はつんと、顔を背ける。
「誰かさんがもっと友好的であれば楽なんですけどね」
「懐かしいものもあって面白かっただろ」
「火宵の動きですが、私としては、生き残りの方々と接触してるのでは推測しますが」
 青嵐が言えば、柊真は首を傾げる。
「接触はあるかもしれんな。だが、キズナのように連れて帰った事は俺が知る限り一度もない」
「武天に出て行った事はあるんですね」
「出かけてくるの一言でふらっと半月は帰ってこない。適度に完徹を使っていけば何とかなるだろうしな」
 腹を探ろうとしている青嵐に柊真は楽しそうに受け止めている。
 珠々(ia5322)は柊真の方へ駆け出すと、柊真の背中の服を引っ張る。
「ん、どうした?」
 優しく微笑む柊真に珠々はどう言っていいのか分からなく、戸惑っている。
「火宵の話ばっかりはよくないです」
「じゃぁ、人参の秘密でもしようか」
「それは良いですね」
 はっと逃げる珠々だが、柊真の膝の上で延々、柊真と青嵐、天藍の人参談義を聞かされる事になった。

 芸妓の服装やらなにやら調達完了した輝血と緋那岐は柊真の膝の上で魂が抜けた珠々の姿に呆れる。
「どうしたんだ」
 慌てる緋那岐だが、珠々はもう抜け殻に近い。
「人参談義にやられたらしい」
 天藍が言えば、輝血は溜息をつく。
「珠々、青嵐を女装させるよ」
 鶴の一声のように輝血が言えば、珠々は生気を戻し、ずるずると青嵐を引きずっていった。


 天藍、壬弥、雅人は役人となり、地方商人の出迎えとして付いていた。
 見た所は普通の人といった感じであり、進んで悪事をするような人間ではなさそうである。
 商人を芦屋家に送り届けると、それぞれの持ち場へと入る。
 壬弥は屋敷の庭なんかの外回りの警備、天藍は商人付、雅人は控え室にて待機。
 三人揃っての感想はやたら武装者が中に多い事で、外には不気味なくらいにそういった気が見えない。
 先ほど、雅人が調べた所、芦屋家の評判は神経質なまでにきっちりしているという事。良いものにはその分上増しをするが、悪いものには目をかけない。悪質な業者は絶対に近寄らないらしい。
 この辺は芦屋家の工房の評判と似ていると雅人は思う。
 有明の目撃情報だが、ちょくちょく客人が来ているらしいとの事。どこかの商人のようだと聞いた。
 思案しても仕方ないと思い、雅人は他の役人に厠へと言ってその場を辞す。
 程よく人気がないところで天藍の式神と合流し、屋根裏に潜り込み、抜足を使い、音なく進んでいく。
 天藍の式神の案内で芦屋の私室へと向かう。どうやら、先に調べてくれていたようである。雅人は微かな衣擦れがこの屋根裏部屋にある事を気付いた!
 視覚を鋭くしても、わかるのはシノビのものという事だけ。そのシノビには殺気はないが、警戒するべきだ。
「理穴監察方に恩を返したい者だ」
 懐に手を入れた雅人に気付いたのか、そのシノビは芦屋の地下牢を言葉で伝えた。
「頼む」
 その声は老人の者だ。雅人は頷くと、そのシノビは離れ、屋敷を出たまでを聞いていた。
 すんなりと、部屋に辿り着くと、雅人は誰もいない部屋で証拠となるものと商人の弱みを探した。
 恐ろしいほど神経質な男は予想通り、印をつけていた。それで所定の物を置くようにしているのだろう。雅人は寸分違わぬように戻していった。
 一つ、気になった書簡があり、雅人はサッと読む。一年前の報告書らしくどこかの家に潜り込んだ女中が毒で少しずつ跡取りを弱らせ、その新妻を取り入っているもの。その家には忍軍があり、羽柴杉明の暗殺をそのシノビに任せても大丈夫というものだ。
 雅人はその書簡も懐に入れて地下室へ向かった。

 外回りをしている壬弥は様子を見ていた。
 確かに人相が悪そうな奴もいるが、奇妙な規律よさというか手馴れている感が目に付いた。
 異様にピリピリしているのは元からいる芦屋家の者だろうとは思うが。
 歩いていくと、人がいない所に出てしまい、壬弥は引き返そうか悩むが、その必要がなくなる。
「警備はどうだ?」
「芦屋の人間がピリピリしてるな。大抵、有明側だと好き放題しているのが定石だが、随分ときちんとしているな」
 それが芦屋側がピリピリする原因だがと壬弥は呟く。
「そっちはどうなんだ?」
「紫雲さんが今、地下に入っている。シノビらしい奴は俺達で片付けたから、後は援軍もあった」
 すっと、壬弥が目を細める。援軍の話は聞いていない。
「金子という忍軍を擁する家があってな。奴等は金子家当主を脅して芸妓に化けたシノビで羽柴様を殺そうとしたんだ。その件で随分苦しい思いをしたらしい」
「義理堅いシノビだな」
「外道にとって、人間すらも駒さ。外で人が集まってきたようだな」
「俺が街で吹き込んだ。施しをやるって」
「何もなかったら暴動起きるぞ」
「そっちのちびっ子三人組に見つかって、同じ事を言われた。今、手を考えてくれている」
 ならいいやと、床下の声は消えた。

 天藍が隅で控えている中、宴会が静かに行われようとしている。
 商人の様子は緊張なのか、これからさせられる罪に恐れているのか、微かに震えているのが分かる。
「いやいや、そんなに緊張する事はない」
 上座の直横にいる男が有明なのは分かる。火宵とはあまり似てなく、ごつく、角ばった顔立ちの男だ。上座にいるのは芦屋だろう。細面の男ではあるが、その目は常に眇めるように細く、睨みつけているようである。
「まぁ、そんなに緊張をしては意味がないだろう。今は宴を楽しんでくれ」
「その通りだな」
 明るい有明の声に芦屋が頷き、持っていた扇をぱちんと、肩で叩く。
 衣擦れの音が聞こえてきて、入ってきたのは芸妓の芙蓉だ。それから他の芸妓の中に輝血や青嵐、緋那岐が混ざり、太鼓持ちが入り、最後に舞妓が二人入ってきた。
 青嵐の女装は見慣れているが、緋那岐は意外と可憐な女性に扮していた。先に作った姿を見た輝血が緋那岐が誰に似ているのか即座に当てた。
 緊張しているから舞でも踊って酌でもしてくれと言う有明に芸妓達が動き出し、太鼓持ちが音をとる。
 舞妓に変装している珠々の様子が少したどたどしいと天藍は思う。盆の上にお銚子を載せて歩くのもやっと。もう一人の舞妓が珠々を補っている。
 その姿を見て、珠々が毒味をしたと理解するのは容易だった。
 青嵐がお酌をしているが、商人はただただ飲むばかり。それを察した青嵐が飲む量を調節し、食べ物も勧めている。
「どうぞ」
 微笑みを浮かべる輝血に芦屋が杯を受ける。
 緋那岐が芙蓉と一緒に踊り、視線をめぐらせるついでに周囲を確認している。
 有明も他の芸妓の姐さんに酌を貰っている。
 芦屋が一口、肴を食べる。
「今日は味付けが違うな」
 ぽつりと、芦屋が呟いた。
「そうですかな? いつも通りの魚の煮つけだとは思いますがな」
 有明が首を傾げる。
「だが、こちらの方が今日の酒とよく合う。後で料理人には誉めておかねばな」
 芦屋の言葉に青嵐がより微笑を深め、商人に料理を勧める。
 天藍がそういう事かと、ふと天井を見上げた瞬間、かちゃんと、有明が箸を落とした。
「これは失礼、美しい舞に見惚れてしまった」
 有明が詫びると、輝血が小さな音に気付く。さっと、立ち上がると共に天藍が走り出し、芦屋を伏せさせて自身が壁となり、青嵐が斬撃符を天井めがけて飛ばした!
 微かな隙間を潜り、どさりと、天井の裏で崩れる音がした。
 意外にも響いたその音に下座の奥の襖が開いた。
 武装した男達六人がいたが、襖を開いた瞬間、細身であるが、上質な刀と華やかな拵えの刀が霊気を帯びて前にいた男の首を捕らえた。
「悪いな。殺させるわけにはいかないんだよ」
 ぎろりと、壬弥が凄みを利かせると、男達は怯む。もう一本、細身の刀が抜かれているのは忍び込んでいた麻貴のものだった。
「お取り込み中すみません」
 おっとりと入ってきたのは雅人だ。彼がそっと、促したのは地下の湿気や汚れで汚くなった着物を着た少女だ。
「お父様!」
 その声に惚けていた商人の意識が戻り、即座に自分を父と呼んだ娘を抱きしめた。
「娘を誘拐してたのか。今までもそういう手を使っていたようだな」
 壬弥が吐き捨てると、有明は懐から手にしていた刀を抜き、芦屋を刺そうとする。
「させません!」
 珠々が椿の簪を抜き投げ、有明の手首を貫通させた。
「うぐ!」
 呻く有明に輝血が前に出て、手首を返し、音もなく有明をねじ伏せる。
「これ以上あがくと命の保障はないよ」
 苦無を突きつける輝血が凄むと、男達が主を守らんが為に刀を構えた。
 その構えた刀はあっけなく、折られた。
 平正眼で命中力を高めた壬弥がたった一振りでその刀を折ってしまった。それだけで壬弥の強さを理解できないものはいない。
「大人しく縛につく事だ」
 壬弥が言えば、誰もが戦意喪失した。
「麻貴さん、柊真さん、締めてくださいね」
 青嵐が商人親子を別室で護衛する為に部屋を出る。監察方の名を聞かせる分けにはいかない。
 別の部屋で身を潜めていた柊真が出てくると、有明は「カタナシ‥‥」と呟いた。カタナシの正体は有明側の方まで届いていなかったようだ。
「理穴監察方と言えば貴方達は理解できるだろう。貴方達の所業は十分、理穴に不利益かつ、不毛。沙汰あるまで理穴監察方の監視下となって貰う」
 柊真が言い切ると、二人は口を閉ざしてしまった。

 芦屋家の塀の外では、監察方の年下組三人組が一口大福を和紙で包んだものを撒き散らして街の人達に施しを与えていた。
 騒ぎが収まる一刻ほど、中にいる者達が足止めされていた。


 御門は上原家を出て、美冬との会話を会話を思い出していた。
 火宵が回っていた村の中に、美冬の故郷も入っていたようであり、未だ、復興はされていないとの事。
 跡取りをアヤカシに殺されてしまい、氏族は断絶された。跡取りが持っていた鏡が割れたと同じ瞬間に。
 旭が人違いでなければ、美冬の幼馴染にして、顔がよく似ていた。
 鏡の片割れを持っている。
 だが、美冬の最後の記憶では旭が崖の土砂崩れに巻き込まれて、そのまま行方不明になった。
 厭な予感だけが御門の心を締め付けていた。