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■オープニング本文 「待ってよ、緑葉!」 「早くしないと先生に怒られるぞ」 神楽の都の往来を二人の開拓者見習いが走っている。少女が骨董屋の店の中に興味を示したようであり、一緒にいた男の子が咎めている。 師匠の言いつけで用事を納めに行っている様だ。 ここは開拓者の街、このような光景は良くある事。 用事を済ませた先で二人は持成しを受けた。 「来てくれてありがとう。ゆっくりしていってくれ」 行き先の人物は老夫婦が住んでおり、二人の師匠の古い友人でもあるようだった。 婦人が出してくれたのは甘くてふわふわしたジルベリアのお菓子。この夫婦はジルベリアの知識に長けており、二人が出向けばジルベリアのお菓子で持成してくれる。 「わぁ、甘くて美味しい」 「うん、美味い」 二人が嬉しそうに食べているのを見て、老夫婦は更に嬉しそうに微笑む。 「さて、君達に来てくれた用件は、奴に渡して貰いたい物があってな」 よっこいしょと声を入れて男が立ち上がり、蔵へと向かう。 「さ、たんと食べてくださいね」 婦人が穏やかに言うと、二人は遠慮なく食べていると、奥から悲鳴が上がった。 三人がバタバタと奥の方へと行くと、老人が腰を抜かして蔵の前に座り込んでいた。 緑葉がこっそり蔵の中に入ると、漁られた形跡があった。 「あ、鍵が壊されている!」 菊が鍵を確認すると、南京錠は無残にも壊されていた。 「くっそ、賊か」 そっと中を確認すると、どうやら、二人の師匠に渡すものが盗まれたらしい。 「どんなものですか?」 「鉱石だよ。武天のとある地方で採れた青い鉱石でね。彼がそれを加工して奥方に贈りたいと‥‥」 大きさを伝えると、菊が首を傾げる。 「まだ綺麗に加工してないから、土やら石やらがくっついている状態なんだ」 「あー!」 はっと、思い出した菊が叫びだす。 「私見たよ! 骨董屋さんで!」 「何だと!」 「ほら、さっき、見てたお店で!」 菊が言うと、緑葉が走り出す。 。俺達、店に行ってきます!」 「待っててくださいね」 「ああ、頼んだよ‥‥」 老夫妻の声を背に、小さな開拓者見習いは走り出した。 骨董屋に行けば、店主は一見の客だったと言う。 「その石、盗まれたやつなんです」 「何だって!」 「その客の人相教えてください」 緑葉の言葉に店主は二十台後半の商家の人らしい姿をしていたと言った。 「でも、石はお店にあるんですよね」 菊が必死そうに言うと、店主は首を振る。 「つい、さっき、売れてしまったんだよ」 「ええ!」 ころりころりと変わる事態に二人は目を白黒するばかり。 「どんな人ですか!」 「職人風だったよ。武天の北の方から来たって」 「どっちに行きましたか?!」 少年少女に急かされて困った店主を見かねた人物が声をかける。 「慌てさせはいけないわ」 三人がその方向を向くと、一人の女性が佇んでいた。 「真魚さん」 菊達の呼びかけに真魚はにこりと手を振り、店の中に入る。 「私、開拓者ギルド受付係の北花真魚と申します。彼らは開拓者見習いでして、盗賊を追っているのです。どうか、商家風の方と職人風の方がどちらに向かったか教えてくださいませんか?」 真魚がてきぱきと言うと、店主は職人と商家のものの方向を教えた。 店を出た三人は開拓者ギルドにて依頼作成を行っていた。 「‥‥うう、やっぱり、まだまだなんだね‥‥」 菊が反省していると、緑葉は悔しそうに黙っている。 「まぁまぁ。これからこれからよ」 「俺達より年下の子が一人前なのに‥‥」 苦笑する真魚に緑葉が拗ねたように呟く。 「そういうのは人は人よ」 「でも、私達、あまりお金ないよ」 菊が思い出したように言うと、真魚はくすくす笑う。 「私のを出すわよ‥‥‥すくないけど」 「私も出す!」 「俺も」 わいのわいのと言いながら、三人で依頼書を作り上げていった。 |
■参加者一覧
鷹来 雪(ia0736)
21歳・女・巫
紅 舞華(ia9612)
24歳・女・シ
和紗・彼方(ia9767)
16歳・女・シ
劉 那蝣竪(ib0462)
20歳・女・シ
オドゥノール(ib0479)
15歳・女・騎
溟霆(ib0504)
24歳・男・シ
宮鷺 カヅキ(ib4230)
21歳・女・シ
シャハマ(ib7081)
45歳・女・魔 |
■リプレイ本文 「菊ちゃん、緑葉君」 二人が振り向くと、静かに佇むのは白野威雪(ia0736)。 「雪お姉ちゃん!」 間髪入れずに名を呼んだのは菊だ。緑葉も覚えていたようで、深々と頭を下げる。 「二年で大きくなりましたね」 「雪さん、知り合いなの?」 感慨深く呟く雪に和紗彼方(ia9767)が首を傾げると、雪は嬉しそうに微笑む。 「ええ、以前にご縁があって」 「雪君の影響か、成る程」 菊の輝く瞳に気付いた冥霆(ib0504)が頷く。緑葉の憧れは諭してくれたサムライらしい。 「顔合わせも終わった事だし、はじめるぞ」 「二人とも、頑張りましょう」 オドゥノール(ib0479)が声をかけると、可愛らしい老婦人の宮鷺カヅキ(ib4230)が二人に笑いかける。 最終的な打ち合わせの時、菊と緑葉、真魚にシャハマ(ib7081)が情報収集に走り、よい所を誉めてもらい、見習い二人はそれぞれの表現で喜びを現していた。 更に緋神那蝣竪(ib0462)と紅舞華(ia9612)が店の人に商人と職人の特徴を教えてもらい、似顔絵を作成した。よく特徴を捉えており、見習い開拓者二人は歓声を上げていた。 はしゃぐ見習い開拓者を見た雪はちりりと心が寂しく感じた。 ● 組に別れ、まずは商人風の男の足取りを追おう。 「緑葉君はどう思う?」 那蝣竪と雪が緑葉を挟み、肩を並べて歩いている。 「うーんと、商人と職人ですよね。まずは繋がっていると思います。何軒も入れ違いに売買されるのってありえないと思います」 「そうね、時間を置いているとはいえ、似たような事があると、そう思ってしまうわよね」 ゆっくりと緑葉が考えを述べると、那蝣竪が頷いて更に緑葉の考えを補強したり、疑問に思うならば、尋ねたりする。 「ここで疑問が出てくるな。売り飛ばすだけでいいのに、何故、また買うということが必要なのか。話を聞けば全て大きめの原石だ」 「その後はどうしているのだろうか」 ちらりと、オドゥノールが緑葉を見やると、緑葉はうっと、言葉に詰まる。 「予測つかない事があれば、一度、深呼吸をしてみて下さい。心を落ち着かせる事によって、いい考えも出てきます」 雪が優しく言えば、緑葉はゆっくりと深呼吸をしてから、記憶や思考を辿る。 「師匠から聞いたんですが、石は原石ではあまり価値は無く、職人が石を加工し、宝飾をすると、価値が跳ね上がると聞いてます」 静かに緑葉が言うと、オドゥノールが頷く。 「いい所に目をつけたな。今回は早く仕事をした方がいい、加工される前に。舞華も同じ考えを持っていた」 無表情のオドゥノールだが、緑葉の推理にふと、目を細め、口角を上げる。 そんな緑葉の様子に那蝣竪と雪がくすくす笑いあう。 「さて、飲み屋街だね。さ、入ろうか」 冥霆が言うと、緑葉は緊張した面持ちで足に踏み入る。 まだ昼間とはいえ、営業している店は多々あり、着物を着崩した女達が男を客寄せしたり、酔客が陽気に歩いていたりしている。 「あのように肩を顕にした服装をしている女開拓者は多々いるぞ」 肩が顕になった女の姿にあたふたしている緑葉にオドゥノールが言えば、緑葉はそれとは別物でしょと慌てる。 「菊がこっちに来なくて正解だと思います。きっと、何か勘違いしそうです」 緑葉が恥ずかしそうに俯く。 誘拐されてそのまま売り飛ばされるという事を冥霆はそっと心の中に仕舞い、聞き込みをすると言って店の裏手に入る。 「じゃあ、私達も手分けしましょ」 那蝣竪が言えば、更に三方に分かれた。 ● 一方、菊は幼馴染の緑葉が飲み屋のおねーさんにどぎまぎしている事も知らずに‥‥ 「絶対に探し出します!」 無駄に意欲を燃やしていた。 「でもさー、折角盗んだ石を売ってまた買わせるって何か得があるのかなぁ?」 呟く彼方に菊が燃やしていた闘志を止め、一緒に首を傾げる。 一度店に売って金を貰い、その金を元手で買ったとしても、得にはならないのだ。 「石という物は磨かれてからこそ、価値が上がる。原石よりもどれだけ美しく加工されたかで原石の何倍にも跳ね上がる。手を加えられない内に取り戻そうな」 見かねた舞華の言葉にしっかり頷く菊と彼方にカヅキが微笑む。 「そう焦らないでねー。まずはしっかりと状況を掴みましょう」 杖を突いて歩くカヅキに菊は思い出したようにカヅキに合わせる。 きちんと年配を気遣う事が出来る菊に彼方が笑みを浮かべる。 シャハマは似たような手口で石の買取があった店を歩いていた。 話によれば、職人は必ず商人らしき男が持ってきた原石を買うらしい。その他にも普通に買って行ったりするとの事。鉱石を加工し、店に納品している職人との事。腕もいいらしく、人柄はまぁ寡黙だが、それを差し引きしても納品してほしいと思う店は他にもあるが、気になる点がいくつかあるとか。 「どんな事?」 「何か、怪しげな男と最近接点があるようでね。おっと、コレは内密だよ」 思わず口を滑らせた店主にシャハマは分かったとお茶目な笑みを浮かべて頷く。 「腕のいい職人なのね。今はどこのお店に納品しているのかしら」 「ああ、それなら‥‥」 どうやらその店主は職人をよく知っているようで、丁寧に道を教えてくれた。 舞華達は職人が商品を納めている小間物問屋に向かい、話を聞く。 「彼はいい職人だよ。必ず売れるし、固定の客もついてくれている。その分、手間賃はあげているさ」 店主が言うと、ふむふむと菊は話を聞いている。 「どの辺にすんでいるんだ?」 舞華が尋ねると道向こうの長屋と教えてくれる。 「奴さん、あまり愛想良くないからな、冷たくされても泣くなよ?」 冷やかされて、菊はカッと声を荒げる。 「泣かないもん! わる‥‥」 「わーわーわー! 菊ちゃん、店先で叫んじゃ迷惑だよ!」 彼方が慌てて菊の口を塞いで、真魚が菊を抱え、店の外に出る。その間に舞華が騒がせた事を簡潔に詫びてそそくさと店を出た。 「菊‥‥逸る気持ちは分かるが、職人が悪人という確証がない限り口にしてはいけない」 「そうなの?」 道の影に身を潜め、舞華が菊に諭している。 「もし、職人が悪人でなかったら大変な事になるのよ」 「謝ればいいって、お母さんが言ってた!」 彼方が言えば菊が言い返す。 「そうね、確かに謝るのはいいことよー。でもね、職人が悪い人だって言いふらしたら、いくら職人がいい人だったからって、皆が納得してくれる事は難しいことなの」 カヅキは一度菊の言葉を認め、更に言葉を続ける。 「何で、だって、悪い事してないんだよ! 悪い事してたら悪いけど! 菊の言葉に四人がどう言っていいか思案する。 「んと‥‥悪い事をしているかもしれないと一度聞かせられると、悪い人かもしれないと思って、その人を悪い人と思うようになるんだよ」 言葉を選びながら彼方が言うと、菊は何か思い当たるような気がした。 「もし、私が彼方お姉ちゃんにアヤカシを見たって言って、信じてもらえなかったら、ホラ吹きって言われて、他の人にもホラ吹きって思われちゃうって事?」 「似ている事は似ているな」 舞華が頷くと、菊はしゅんと項垂れる。どうやら、事態を理解できたようだ。しょげる菊に彼方が慌ててしまうと、真魚が彼方を見上げて耳打ちをする。 菊が挙げた例は菊が自身が受けた事であった。 「謝らずに済む為に職人が悪い人なのか、いい人なのか確認しなくてはならない、それが調査だ。分かってくれるか」 穏やかに舞華が言うと、菊はこっくりと頷いた。 それから、職人の周辺を洗うと、やっぱり、よくない人とつるんでいたり、最近、奥さんの姿が見えないとかの情報が出てきた。 「じゃ、ボクは緑葉君の所に行って来るねー」 彼方がさっと、踵を返し、早駆で走っていった。 緑葉にとって、飲み屋街は中々に苦手と思う。 酒特有の匂いはまだいいとして、女の白粉や香の匂いに参る。 「大丈夫‥‥?」 一緒についていた那蝣竪が心配そうに言えば、無言でこくこくと頷く。 「お水を頂いてきました」 雪がそっと湯のみを緑葉に渡すと、飲み干して一息ついたようだ。 「まぁ、初めてなら仕方ないね。少し休むといい」 「俺は平気です!」 立ち上がろうとする緑葉に冥霆が制する。 「僕達も休むんだよ」 意外な言葉に緑葉がぽかんと、冥霆を見る。 「私達だって疲れるんだ、休憩を挟まないとな」 オドゥノールが歩き出すと、雪がにっこりと緑葉に微笑みかける。 「近くに甘味屋を見つけましたの」 「あら、楽しみね」 雪の言葉に那蝣竪が食いつく。 どうしていいのか分からず、とりあえず緑葉は先輩方について行った。 甘味屋に到着すると、それぞれが注文をとる。 緑葉はなんでこんな事にと首を傾げながら麦茶を啜る。 「さ、緑葉君、向かいの店をそっと見てごらん。そっとだよ」 冥霆が緑葉に言うと、緑葉がそっと視線をずらす。 「あれ‥‥」 言葉をもらす緑葉に那蝣竪が「しーっ」と片目を瞑って合図する。 向かいの店には那蝣竪が書いた人相書きと同じ顔がいた。 緑葉が匂いで参っている間、開拓者達は商人風の男がいる飲み屋を発見していたらしい。 ふと、視線をオドゥノールに動かせば、彼女の瞳が何かを追っているように思えた。緑葉も追うと、彼方の姿があった。 「今、連れてくるよ」 冥霆が三杯酢をかけたところてんを啜っている。 「そわそわする気持ちは分かりますが、まずは待ちましょう」 お団子を勧める雪はとても落ち着いている。緑葉はそのままお団子を手に取り、食べる。落ち着いている雪が甘味の魅力に負けてしまっているのか否かは緑葉には分からないが。 「‥‥菊、興奮しないといいんだけど‥‥」 「大丈夫ですよ。菊ちゃんを信じましょう」 心配する緑葉に雪が優しく宥める。 「その通りよ、行って来るわ」 立ち上がった那蝣竪は店から出て行った。 ある程度時間が経つと、那蝣竪が商家風の男に近寄って行った。 職人組はシャハマと合流していた。 とりあえずは行ってみようという事で、行く事にした。 舞華が戸を叩くと、戸を少しだけ開いた。 「あんた、誰だ」 「石を返して!」 即座に叫んだ菊に慌てて真魚が口を押さえるが遅かった。 瞬時に舞華が構えたが、職人はそのまま戸を開けた。 「入れ」 くるりと踵を返すと、開拓者達は遠慮なく中に入る。 中は男やもめといわんばかりに散らかっていた。 「奥方は?」 「‥‥あんたら、開拓者だろ」 舞華の問いに答えず、職人は壁に背をつけて座る。 「何か原因があるの? 先ほど、お店で貴方の飾りを見たけど、中々のものだったわ」 シャハマが素直な感想を口にすると、職人は自嘲する。 「それで二人分食ってるからな」 「もう一人は出かけているの?」 素直な菊の言葉に職人はどう答えていいか悩んでいる。 「連れ去られた?」 「ええ?!」 カヅキの言葉に菊が驚く。 「ああ、やられた‥‥」 「そうなると、商家風の男か」 舞華が言えば、職人は頷く。 「奴ァ、盗賊だ。数人でやってるらしい。俺の腕に目をつけて、盗んだ原石で俺に仕入れさせて飾りを作らせやがった」 「何で嫌だって言わなかったの?」 「断ったら、女房を誘拐しやがった‥‥大人しく作ればいずれは返すと」 菊が言えば、男は答えて項垂れた。 「成程ねぇ‥‥」 ふむと、シャハマが納得している。 「ともなれば、奥さんを取り返さないとねぇ」 きょとんとしている職人は目の前の老婦人のカヅキがやるのかと目を瞬いている。職人の視線に気付いたのか、カヅキは悪戯っぽく片目を瞑る。 機会よく、トントンと、戸が叩かれた。 「商家の男が見つかったよ」 彼方の言葉に菊ははっと、目を見開く。 「まぁ、とりあえずは‥‥わー! 菊ちゃん!!」 彼方が説明をしようとする前に菊は走り出してしまうが、腕の長い舞華の手によって阻まれてしまう。 「は、早く行かないと、石が!」 「とりあえず、落ち着くのよー」 ぽふぽふとカヅキが肩の力を抜かせるように菊の肩を叩く。 「嬢ちゃん、石はここだよ」 ぽんと、職人が石を菊に投げ渡した。 あの時に見た原石がそのまま残っていた。 「俺も行く。首実検にでも使ってくれ」 「では、行こうか」 職人が立ち上がると、舞華が声をかけた。 那蝣竪は夜春を使用し、商家の男を誑し込んで心を開かせているようだった。 先程までは健康的で爽やかなお姉さんといった印象を持つ那蝣竪だが、今はどこか妖艶な雰囲気を醸し出している。 盗み見るという状況もあるのか、緑葉は恥ずかしそうに俯いてしまう。 やはり、色の方はまだまだである。 「安心しろ。同じ女子なのにあの術はどきっとする」 「た、確かに‥‥」 冷静に分析するオドゥノールに対し、雪は顔を真っ赤にして頷いている。冥霆はというと「商人の男が羨ましい」との事らしい。 冥霆のような余裕はどれほどの修行を積めばいいのかと思案してしまう。 そんな折に、菊達が来て、緑葉は更にバツの悪そうな顔となった。そんな青少年の気持ちは置いといて、情報交換を手早く行う。 一方、那蝣竪は淑やかに艶やかに商家風の男と酒を酌み交わしていた。 「こんな昼間から飲んでるって事は、相当な大店なの?」 くすっと、艶笑含みで那蝣竪が尋ねると、男は鼻で笑う。 「ちょいーっとした商売だよ。こういう格好だと信用されるんだよ」 「たとえば?」 「古物商の信用を得る時とかな」 盗み聞きしているシノビ達の視線が光る。 「それじゃぁ、いきましょうかー」 杖を突き、カヅキが歩き出した。 「職人君の奥さんの居場所を吐いて貰おうかな」 颯爽と店内に入った冥霆が商人風の男に声をかける。 「何だてめぇ」 男が睨みつけると、ぞろぞろと開拓者が男を囲む。職人の姿を男は確認した。 危機を察した男は手近の皿を菊に投げつけようとしたが、その皿はゆっくりと、卓の上に落ちた。男の肩には杖が突かれ、押されている。 その杖の先にいるのは‥‥ 「カヅキおばーちゃん!」 カヅキが素早く男の肩を制した。 「騒がない方が身の為だよ」 ぽつりと可愛らしく彼方の声が男の耳に響く。冷たく感じるのはきっと、首筋に当たる死の冷たさか。 「開拓者か‥‥」 がくりと肩を落とし、男は降伏した。 職人の妻を助け出した後、役人に突き出したのは商人を語った男だけで、職人は突き出さなかったのは事情を知った最後の被害者だった。 菊と緑葉の師匠も話を聞きつけ、職人に妻に贈る飾り物を頼んだ。 「良かったわね」 那蝣竪が言えば、菊は無邪気に喜んでいるが、緑葉はちょっと不満顔。 「どうかしたか?」 舞華の問いかけに緑葉は自分の力不足を痛感したようだ。 「誰しも最初から上手くいく者などいない。慌てずもがくといい」 オドゥノールが言えば、矛盾してないかと緑葉は思ったが、理解はしているようだ。 「これからよ」 穏やかにカヅキが緑葉を励ます。 これから小さな見習い開拓者がどう成長していくかはまた別のお話。 |