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■オープニング本文 ※このシナリオはギルドを通してなく、重症、アイテム廃棄のペナルティが発生します。 必ずOP、解説、MSよりを熟読の上、ご参加ください。 夜の街すらも眠りについた奏生の街外れに一人の影が降り立った。 「ったぁーくよ、親父の奴もこんなタイミングでよくも呼び出してくれたな!」 毒づくのは一人の男。 限りなく満月に近い光に照らされたのは二十台半ばに薄茶の髪に紫色の瞳。右のこめかみに古傷がある。 「俺の邪魔、してくれるなよ親父殿‥‥!」 実現に近い己が願いの為、男は好戦的に笑い、首都の街を歩き出した。 有明側についていた白夜を追っていた夕陽は上原家にて保護されていた。 夜も眠れず、ぼんやりと天井を眺める。 「役人に保護されて何してるんだろ‥‥」 火宵の新しき片腕と思っていたカタナシは火宵や有明の不正を追う役人だった。 夕陽だって火宵の性格は知っている。 味方には優しく、裏切り者や敵には冷酷。 カタナシだって例外ではなかったはずだ。 有明側であった自分も理解ある者と見てくれてるようで、ちょっと意地悪だが、優しい人だ。 白夜の想いに思案にくれて困り果てた時、火宵が彼の母親と共に親身にでも意地悪に背中を押してくれた。 でも、今は白夜とは離れ離れ。 一言も告げてくれなかった。 「わけわかんない」 不機嫌そうに夕陽が呟く。 「あん?」 部屋の外‥‥庭の、塀の向こうで誰かが呟いた。 夕陽が上体を起こし、様子を窺う。 「その声、夕陽か?」 塀の向こうから聞こえるのは先ほどから思案していた人物の声だ。 「火宵様‥‥!」 あわてて着替え、塀を越えようとする夕陽に塀の上に登った火宵が手を差し出す。その手を掴んだ夕陽はそのまま塀の外に降りると、火宵は夕陽の手を掴んだまま走り出した。 「黙ってろ」 火宵はそう言って、夕陽はどんどん恐怖に怯える。 自分がいた場所はカタナシ‥‥上原柊真の自宅。 裏切られたと思われたのだろうか。 殺される。 白夜に会う前に‥‥! 「死にたくない! 白夜に会うまでは!」 夕陽は思いっきり、立ち止まり、手を振り切る。 「落ち着け」 「嫌、あたしは白夜に会うのよ!」 「殺さねぇよ!」 火宵に一喝され、夕陽は黙る。 「とにかく落ち着け。白夜の所に案内してやるから」 「え‥‥」 歩き出した火宵に夕陽はぎゅっと、唇を噛んでついていく。 「火宵様は裏切ったと思わないの‥‥?」 「お前の事だ、白夜絡みでドジ踏んだんだろ」 何も言えない。 「俺は前にも言っただろ。一生好きになる奴なら絶対離すなって」 「はい‥‥」 ぴたりと、火宵が足を止めた。 この先には芦屋家が本多家に与えた別邸がある。 自分が情報を与えた後、開拓者が調べに行ったら、白夜らしき男達が確認できた。 確認だけであまり調べられなかったと言っていた。半数は志士で心眼持ちがいるから仕方ないが。 「どーせ、監察方の風切羽とかが調べてんだろ。俺の予測じゃ、この先に白夜がいる。行けよ。一生惚れた奴とは最期まで傍にいろ」 夕陽は涙を滲ませて火宵に一度深く頭を下げ、先を走り出した。 どうして自分と白夜はこの人に付いて行かなかったのだろうか‥‥ 「悪りィな、カタナシ」 夕陽の足音が消えたのを確認し、にやりと火宵が笑う。 「お前は何者なんだ」 柊真が建物の影より姿を現す。 「夕陽を逃がしたのは都合が悪いか」 「夕陽狙いじゃないだろ、俺の家に来たのもあの人に言われたからか」 「手土産だ。俺は孝行息子だからな」 おどけて肩を竦める火宵に柊真は眉を寄せる。 「俺の母親がお前を見て、お前を調べろと言った」 上原家では柊真母子、沙穂母子で夕陽を監視していた。柊真の近くには沙穂が隠れている。 「そうかい‥‥いい一番の手土産だ」 ふと、火宵の表情が柔らかいものへと変わる。 「‥‥俺は今からの発言は、理穴監察方の人間としてのものじゃない。上原柊真一個人の考えだ」 監察方四組主幹の柊真が確証ある事しか口に出さないのは、悪事を突き止めるという事と秘密を晒すという事の分別をつける為。 それができなくなり、影なる力の下で悪事と秘密を晒した時、それはただの凶器にしかならない事を叩き込まれている。 「白夜達があの場所にいて、お前が里に戻らず、ここにいるのは有明がお前を邪魔と思い、お前をここに呼び出し、白夜達でお前を殺そうとしているんだろう!」 秋に近づく、生温い風が二人の頬を撫でた。 火宵は一つにやりと笑う。 肯定の笑みだ。 「何故、来た。分かってて」 「いずれ、こうなると分かってた。お前が俺の立場なら必ず来ると思うぜ」 「何故、言い切れる」 「何故、お前は俺にそんな事を言う。羽柴麻貴でも、真神梢一でも言える奴はいるじゃねぇか」 その通りだ。だが、言えないのは、彼らが監察方の人間だから。そう自分で線引きをした。何故、捕まえるべき火宵には言えるのか、柊真の中ではそれが分からない。 火宵が微笑み、柊真の方へ歩み寄る。 「道を外れなかったら、お前は俺の背中で、お前の背中は俺になっていたはずなんだ。ついでに言えば、蛙の子は蛙だ」 曙から話は聞いてる。大義名分にも使ってくれ。 そう言って、火宵は三年前の瓦版を渡した。 瓦版にはとある大店の一家全員が惨殺された事件のもの。この犯人は今も捕まっていない。 じゃぁなと、火宵は闇に消えた。 後日、火宵が渡した瓦版の犯人が白夜である事を確信し、柊真は開拓者達に手紙をしたためた。 この度の依頼はギルドを介するものではなく、上原柊真、一個人の依頼である。 現本多家別宅にいる剣客六人と巫女一人を捕らえてほしい。 相手は全員手練れであり、君達の安全は一切保障できない。 武器の損失、命を脅かす事もあり、危険すぎる相手である為、覚悟が何より必要とされる。 恐れて断るのも可能だ。 相手の目的は私達理穴監察方が追っている火宵の暗殺だ。 火宵はこちらにとっても最重要人物であり、私個人でも追っている。 白夜達の思惑を阻止したいと思っている。 白夜の捕縛に関しては、君達開拓者だけではなく、私、上原柊真と羽柴麻貴も参加する。 君達の足手纏いにはならない実力はある。 よく考えた上で覚悟を決め、私達と白夜の捕縛に協力してくれる者だけこの依頼に応じてくれるよう頼む。 上原柊真 |
■参加者一覧
滋藤 御門(ia0167)
17歳・男・陰
音有・兵真(ia0221)
21歳・男・泰
劉 天藍(ia0293)
20歳・男・陰
御樹青嵐(ia1669)
23歳・男・陰
黎乃壬弥(ia3249)
38歳・男・志
紫雲雅人(ia5150)
32歳・男・シ
珠々(ia5322)
10歳・女・シ
輝血(ia5431)
18歳・女・シ |
■リプレイ本文 夜明けの知らせにも程遠い時間、揃って、目的の屋敷に到着した。 まだ起きている事を知らせるように、正門の灯りの薪は新しく、門が一人すれすれ通れる程開けてある。 黎乃壬弥(ia3249)の心眼に寄れば、全員、屋敷の奥に入っているという事。一度庭まで出ないと引きずり出せない事に壬弥は歯噛みする。 まず、庭に出たのは珠々(ia5322)だ。偵察を終えているので、楽々と入る。 灯りを倒し、苦無で吊らされている提灯を落とした。床に落ちたその火は紫雲雅人(ia5150)が蹴って火事を防ぐ。 それでも欠けた月が光量としては十分だ。 「来たか」 誰かが屋敷の中の奥で呟いた。 「火宵様じゃない。監察方だ」 夕陽の声が聞こえた。 「土足ですまないな」 どこか明るい声音は音有兵真(ia0221)のもの。緊張感の裏にあるのは危機感というなの快楽か。 「お前さんはそっちに行ったか‥‥」 心眼で夕陽だろう気配に気付いた壬弥が呟く。 「自分で決めた道だから後悔しないわ」 夕陽の声音は凛としており、迷いがなかった。 「手加減はしねぇぜ」 そっと目を伏せる壬弥だが、手にしていた片鎌槍「北狄」の穂先が白いオーラが纏った事で戦闘態勢ある事が感じられた。 剣士の一人が侵入者の姿の一人に見た顔を見出した。 「カタナシ‥‥」 「上原柊真だ。貴様らが主、有明を追う者だ」 名乗りを上げたカタナシはもう刀を抜いていた。その言葉は剣士達に十二分な隙となろう。 輝血(ia5431)と珠々が奥の夕陽を見つけ、走り出した! 容赦なく輝血が繰り出したのは「夜」だ。 狭き短き闇の静寂を繰り出す。たった数瞬だが、夕陽の両腕を狙うには間に合う。 前に立つ槍使いを抜き 夕陽の前に走り 彼女が手にした扇を奪う 時が動き出した瞬間、珠々と物陰に隠れた麻貴が射た矢が夕陽のそれぞれの腕を狙った。 瞬間、夕陽の体が光り、珠々が何なのか悟った瞬間、横から飛んできた切っ先が珠々の天狗蓑を燃やした。急いで蓑を外し、外に放り投げた。 「蓼正‥‥」 「扇取り返して来る」 ぽつりと、夕陽が男の名を呼ぶと、蓼正と呼ばれた男の刀には炎の燐片が残っていた。 「取り返せるなら取り返してみな」 周囲の襖を旋棍「竜巻」でドゴォ。と、音を立てつつ壊していた輝血が蓼正と相対する。 「お前は馬鹿か心配するぞ」 他の男がばしっと、夕陽の頭を叩いた。 滋藤御門(ia0167)が待つ庭に一人の男が降りた。 「白夜じゃなくてすまないな。何かと、こちらが楽でな」 穏やかに言うのは恐ろしく長く太い刀を持った男だ。柊真の話通りならば、豊年に当たるだろう。瞬間、豊年は殲刀を大きく振るった。 ぽとりと落ちたのは木の陰より射られた矢だった。 「ただ、戦うだけじゃ無理か」 御門の前に立ちはだかるのは槍を手にしている壬弥だ。 「武士と術士に射てか不足はない。来い」 戦いの高揚感と壬弥は静かに戦っていた。 白夜と呼ばれた男が一歩踏み出した。 「頼むぞ」 ふと、微笑んだ白夜に夕陽は嬉しそうに頷き神楽を舞う。 精霊武器である扇は輝血の手の中。 「千早ですか」 巫女であった雅人が呟く。 夕陽が着ている薄物は武器以外で精霊魔法を使える物。 「させません」 劉天藍(ia0293)と御樹青嵐(ia1669)が斬撃符で夕陽を狙うが、それは槍を持った男が器用に符をかき消した。 「短い槍だな。新涼か」 仁王立ちの兵真が呟くと、男はこくりと頷く。 「室内で長い槍を持って戦うのは難しいですからね」 丁寧な新涼はそのまま槍を構える。瞬間、畳に滑り込んだ珠々が兵真の足元より出てきて、ふわりと何かが持ち上がった。 飛び上がった兵真が畳の側面を器用に蹴飛ばすと、新涼が慌てて避けた。 「面白いな」 にやりと笑ったのはまだ刀を抜いていなかった男だ。 一歩踏み出した瞬間、男の目の前で白い壁が生えてきた。 「結界呪符か‥‥」 呆れたように男が言った瞬間、ふっと壁は消え、目の前に現れるのは頂心肘を構えた兵真だ。男は兵真の攻撃を見切り、寸でにてかわすと、柄に手をかけ、一気に刀を抜き、切っ先は兵真の目を狙う! 「くっ!」 兵真が苦し紛れに身体を捻るが、切っ先は逃してくれない。兵真の背にいた珠々が瞬時に苦無「獄導」に颯を載せて飛ばした! 苦無は男の二の腕に命中したが、その腕はぶれる事もなく、切っ先が兵真の鉢金に命中した何とか倒れることなく、兵真は持ちこたえる。 額からとめどなく流れる赤い血。顔の半分以上を血で汚されていても、その目は闘志を燃やしている。 「今行く! っ!」 走り出した天藍の肩に痛みが走った。天藍が後ろを振り向くと、居合いの男‥‥秋雲の腕に刺さっただろう苦無が床に突き刺さっていた。 珠々の方を向けば、バルカンソードを構え、新涼と合間見えている。 刹那、均衡を崩したのは八枚羽の手裏剣「八握剣」。 珠々が即座に天藍の後ろに回り、苦無を回収する。忍刀に持ち替えた雅人が代わりに新涼と対決する。 ふっと、新涼の視界が暗くなった。どす黒い霧が新涼の周りに張り付きだした。青嵐が放った暗影符だ。作ってもらった隙を見逃すことなく、雅人が振りかぶった瞬間、新涼の黒い霧が晴れた。 「はぁあああ!」 はっとするのも束の間、新涼が気合を叫び、槍を振り上げ、雅人の忍刀とぶつかった! 槍と忍刀が触れ合った瞬間、発生された衝撃波が忍刀が受けてしまい、刃が折れた。そのまま姿勢を崩されて雅人は衝撃波のダメージで痺れ、倒れる。 「新涼、後ろだ!」 白夜が声を上げた瞬間は新涼に隙が出来たのと同時だ。 向こうから放たれた矢が新涼の腕を掠めた。 珠々が走り出し、倒れる雅人を抜け跳び、つま先が新涼の槍の穂先に軽く触れ、そのまま跳んだ! 新涼は懐に飛び込まれ、何とか持ち越そうとしたが間に合わない! 珠々の小さい手が握っているバルカンソードはそのまま新涼の右肩を貫く。間接を砕く感触が酷く重く、珠々は全体重をかけて剣ごと畳に突き刺した。 「まずは‥‥ひとりです」 ゆっくりと立ち上がった珠々が奥にいる白夜、夕陽ともう一人を睨みつける。 蓼正と輝血が珠々が新涼を倒した所を見ていた。 「あんなちっさい子も借り出されるのか」 「無駄口なんて余裕だね。タマを甘く見るんじゃないよ」 蓼正にはあちこちが傷があり、輝血の旋棍「竜巻」の跡が見え隠れしている。 「お前も甘く見てはならないだろうな」 すっと、腰と落とす蓼正に輝血は容赦なく竜巻の如くの強風を発動させる。蓼正は風にも怯まず。風力の減退に勘付くと、一気に間合いをつめ、炎を纏った刃を容赦なく輝血の胴に入れる。 「くぅっ!」 輝血が痛みを堪えて間合いをとる為、風を発生させるが、蓼正は容赦なく次の攻撃を輝血に浴びせる。 「輝血さん!」 青嵐が叫んだ頃には、輝血の陣羽織が無残にも焔陰の刃で焼き焦げ、輝血の忍装束が血と皮膚が焼き焦げた事を指し示すように赤黒い。 「青嵐! あたしを守ろうだなんて馬鹿な事を考えるな!」 走り出した青嵐に勘付き、ゆっくりと輝血が起き上がり、叫んだ。 愛らしい口元は内臓をやられた事によって血を流している。使い物にならなくなった陣羽織を脱ぎ捨て、輝血は旋棍「竜巻」を再び構える。 走り出して蓼正の間合いを詰め、振り下ろされた武器を包みこむが、蓼正はそのまま、足で更に輝血の怪我をした方の腹に蹴りを入れた。 堪らず、青嵐が斬撃符を蓼正に走らせる。これ以上は輝血の命の危険に関わる。 斬撃符は蓼正の背に当たり、その痛みで隙が出来た事を輝血が見逃す事も無く、自身に風の損傷を受けたまま、すかさず蓼正の腹に忍刀「蝮」の刀身をずぶりと刺した。 うめき声を上げ、蓼正が倒れた。 「蓼正!」 夕陽が神風恩寵を蓼正にかけるが、かろうじて動ける程度だった。 「蓼正、死ぬな」 それだけ言って輝血の前に出たのは白夜だ。走り出した青嵐が輝血を支え、その二人の前に出てきたのは柊真だった。 「我が弟が手間をかけさせたようだな」 ぽつりと白夜が呟いた。 「錆壊符を喰らっても‥‥」 呆然としているのは御門だった。 御門が錆壊符を発動させ、豊年の殲刀を錆びさせたのはいいが、豊年は特に気にせず、壁役の壬弥と戦っている。 「斬るってよりも叩きつけた方が早いか」 軽口を叩いている壬弥であるが、顔を守っていたアサシンマスクは斬られてしまい、頬に大きな傷が出来てはそのまま血を垂れ流している。 「その通りだ。しかし、邪魔だな」 呟く豊年が走り出した方向は麻貴が隠れているだろう木だ。 「させません!」 御門が叫び、斬撃符を浴びせようとした瞬間、麻貴が御門を呼んだ。 気付いた頃には御門は屋内からの真空の刃に吹き飛ばされてしまう。 地面に叩きつけられた御門が見たのは、木を両断剣で切り倒そうとしている豊年の姿。だが、壬弥が阻止しようと走り出すが、錆びた剣とはいえ、両断剣を豊年より受けており、その動きは鈍い。何とか間に合ったが、麻貴が危機を察知し、飛び降りた。降りる間際にも、豊年めがけ、矢を射た。 矢は見事に豊年の肩に当たり、壬弥の槍の切っ先が豊年の腹を切り裂いた! 「御門君!」 無事に着地した麻貴が御門を起こす。豊年は動いていないからもう向こうの戦力ではないだろう。 残る剣士はあと三人。 「輝血さんはとりあえず休んでください!」 それでも動こうとする輝血に青嵐が悲痛な叫び声を上げる。治癒符が間に合わない。今の状況下では傷口を塞ぐ事で精一杯だ。重ねる時間がない。 顔を上げた青嵐は戦況を把握する。こっちには陰陽師の治癒符しかない。向こうは夕陽含めて四人。こっちは九人‥‥ 再び走り出した青嵐は雅人の天藍の傍に向かい。言葉をかける。 「もう大丈夫です。秋雲は俺が引き受けます」 「頼む」 雅人が治癒符で少し回復すると、立ち上がり、珠々とともに立ち向かう。 「行きます」 珠々が呟くと、二人は秋雲へ走り出した! 中に入った御門が額の血が止まらない兵真に駆け寄り、治癒符を当てる。雁金を直撃した為、血を止めるだけで効果が終わってしまう。 御門含め、四対一となった秋雲は気にする事もない。 珠々と雅人の手裏剣を潜り抜けている秋雲は隙を見出そうとしている。 再び剣を鞘に納めた秋雲に危機を感じ、雅人が手裏剣を投げたが、紙一重でかわされ、一気に間合いを詰められ、秋雲がそのまま刀を抜き、雅人の腹にその勢いを載せた。 「がは‥‥っ!」 血を吐いた雅人はそのまま倒れこむ。 御門は倒れる雅人と秋雲からの隙を窺がい、斬撃符を発動させ、麻貴は一気に矢に練力を流し込み、秋雲の鎖骨に当てた。二人の強力な攻撃に大きな隙を乗じた秋雲に兵真が更に懐へ入り込み。破軍を重ねた頂心肘を当てた! 肋骨が折れ、肺か臓器を傷つけたのか、秋雲はそのまま血を吐いて倒れた。 「読売屋!」 麻貴が叫ぶと、御門が走り出し、雅人に治癒符を当てた。 壬弥と柊真が戦っているのは白夜だ。 白夜と剣を交えた感想は強いという事だけ。 先ほど、豊年から受けた傷がまだ重いと壬弥が感じている。 「後は頼むぜ」 確信した壬弥が前に立つ。今、手にしているのは鬼神丸と長十手。屋内で槍は邪魔以外の何者でもない。 壬弥が十手で白夜の刀を受け止めようとしたが、思いっきり二つに別れた。 白夜はなんら問題とも思わなく剣を振りかぶった。 同じ志士である壬弥だからこそ、その切り替えにわずかに慄いた。 恐ろしいばかりのその剣の速度に壬弥がそれが何であるか気付いた。回避は不可能。ならば‥‥! この好機を逃さず、十手を手放し、違いざまに鬼神丸を抜き、打ち付けるがそれは自身の刀の切っ先が飛んでいった。肩から脇腹まで剣を受けた壬弥はそのまま倒れこんだ。正確無比の神速の刃は血飛沫すら吹かせる事はない。白夜もまた、壬弥との打ち合いで気迫に押され、息を荒くしていた。 「白夜!」 叫ぶ夕陽は神風恩寵を唱えようとしたが、天藍が稔利と夕陽の間に結界呪符を発動させて、二人の間に壁を作らされ、その詠唱がとぎらされた。 そのまま斬撃符を稔利目がけて発動させる。稔利はさっと、避けたが、天藍の狙いはそこではない。斬撃符の発動の後、即座に結界呪符を解除させた。稔利という壁がなくなれば、そこにいるのは夕陽一人。 更に別方向からも青嵐が斬撃符を飛ばしていた! 二人の斬撃符は淡い光に飲み込まれ、そのまま消滅した。 「おかしい‥‥夕陽はもう三つ術を使っているのに!」 天藍が叫んだ瞬間、稔利の真空の刃に察知したが、遅かった。背後の御門を巻き込み倒れた。 「俺はまだ、二つしか技を使ってないぞ」 くつりと笑う稔利に青嵐が勘付く。 「最後の技、喰らうといい」 稔利が青嵐の方を向くと、青嵐の前に黒い風が降りた。 「喰らってやんぜ」 にやりと笑う軽薄な声。 「愚か!」 稔利が大きく踏み込み、手にした剣を思いっきり男に込めた。 「いけない!」 御門が錆壊符を稔利の刃に発動させると、刀が錆びていくが稔利に迷いはない。男の心の臓を貫くのだ。それが下った命なのだ。 男は切っ先を頬で掠り、稔利の懐の中に飛び込むと手にしていた刀を稔利の心の臓を突き立て、捻り抜いた。噴出した血を男が被り、稔利はそのまま絶命した。 立ち上がった返り血の男を見た天藍が言葉を失った。 「火宵‥‥」 呆然と呟いたのは柊真だ。 彼の足元には更に柊真の剣を受けた白夜が苦しそうに火宵を見つめている。 「何故来たのですか」 「俺の命を奪う奴らと関係のないお前達が傷つくのを見ていられなくてな」 御門が言えば、火宵が肩を竦める。 「火宵、お前は手を出すな」 「夕陽をけしかけたのは俺だ。白夜には俺の暗殺命令が出ているんだろ」 白夜は苦悶の表情を浮かべ、火宵の方へと向かう。 どこまで彼は予想していたのだろうか。 「ダメだ火宵! キズナが‥‥!」 叫ぶ天藍に火宵はからりと笑う。 「逃げてもいつかはこいつは俺を殺しに来る。俺はキズナを守らないとならない。アイツには血の一滴も見せさせやしない。約束しただろ」 その言葉に誰も動けなかった。 勝負は一瞬で決まり、白夜は絶命した。 白夜の死を見た夕陽は白夜の刀で自害した。 生きている意味がないから。そう言って、開拓者と火宵に感謝の言葉を述べて。 「次、会う時は戦う時だろうな」 微笑んだ火宵が上がろうとする朝日の光の中に溶け込むように彼は行ってしまった。 「旭さんの元に一度戻るんだろうな」 柊真の言葉を御門が拾った。 「どなたですか」 「火宵の母親だよ。母親には孝行息子だからな」 やるべき事を終えた御門だが、心に仕舞った物が堪えきれず、転がりだしてきたようにも思った。 鏡の事が御門の心の中には残っている。 様々な傷跡を残し、凶行は止まった。 |