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■オープニング本文 理穴首都奏生より一日歩いた所に三茶という街がある。 大きな街道沿いにあるだけにとても栄えた街だ。 その街に入ったのは羽柴麻貴と上原柊真だ。 「活気があっていいな」 道行く人々を眺めながら柊真が呟く。 「ああ、偽の当代がいなくなったから戻れたんだ」 穏やかな眼差しで麻貴が呟く。 とりあえず、二人が向かったのは三茶を守る雪原一家だ。 雪原一家は行くと、麻貴の顔を見た家人達が喜んで奥へ通してくれた。 通された部屋には両脇に雪原一家の者達上座に雪原当代、緋束が座っていた。 「よく来てくれた」 晴れやかな笑顔で迎えてくれた緋束は客人の到着に嬉しそうだった。 「いや、こちらこそ急に来てしまって申し訳ない」 柊真の言葉に緋束は首を振る。 「そんな事はねぇよ。こっちも折居って頼みたい事があったんだ」 緋束が言った後、目配せをすると、家人達が部屋を出て行った。 家人達がいなくなった後、三人だけになると、家人達との入れ違いでお茶を持ってきた赤垂が現れた。 「いらっしゃいませ」 元気よく挨拶した赤垂は麻貴の姿を見てあっと驚く。 「やぁ、元気だったかい? 「はいっ」 お茶を貰って麻貴がお礼を言うと、赤垂は嬉しそうに頷く。 「頼みたい事とは?」 本題を戻した柊真が言うと、緋束は赤垂に視線を向ける。 「こいつを‥‥赤垂を預かって欲しい」 ぎょっと赤垂が緋束の方を向くと緋束は優しく赤垂の頭を撫でる。 「陰陽師の術を今習っている。ここではなく、奏生の方で合宿のような事をしてほしくてな。十日ぐらいで頼めるか」 「それは構わないが‥‥いいのか?」 麻貴が心配そうに言うと、緋束は前から赤垂が術の上達を望んでいる事を口にした。 「暫く離れるが、ちゃんとしてるんだぞ」 緋束が言えば、赤垂はこっくりと頷く。 「さ、支度して来い」 緋束が言えば、赤垂は自分の部屋へと向かった。 赤垂の足音がなくなると、緋束は真剣な表情で二人に向き直る。 「今、三茶を狙う連中が居る。武闘派な連中でな、何度か遣り合ってる」 「赤垂君を遠ざける為にか」 ぽつりと、麻貴が言えば、緋束は頷いた。 「赤垂にも奴らとやりあうのは勘付いているだろう。だが、今あいつを戦いの中に身を置くのは早すぎる。それに、三茶以外の街にも出来るだけ出してやりたい。名前を顔が売れれば売れるほどここに居て街を守らないとならない。頼む」 深々と頭を下げる緋束に柊真は目を伏せる。 「わかった、麻貴、預かってくれ」 「柊真?」 言い方が気になった麻貴が声をかける。 「俺は残る。どうせ、火宵関連の筋者の動きを見る為にここに来たんだし、ちょっくら正義の味方をしたっていいだろ」 「とりあえず、開拓者、呼んでおく。戦は士気が大事だ。それには美味い飯が必要だからな」 そう、赤垂が居なくなれば雪原一家の台所事情は崩壊しかねない。 「頼む」 麻貴が立ち上がると、丁度良く赤垂が支度をして廊下を歩いてきた。 「当代に挨拶しておいで」 優しく麻貴が言えば、赤垂は少し寂しそうであるが、気を張って、行って来ますとだけ言った。 赤垂が居なくなった雪原一家では赤垂を寂しがると同時に抗争のテンションも上がってきたようだ。 大事な家人とはいえ、赤垂はまだ子供。 いずれは知る事になるだろうが、やはりまだ知ってほしくはないようだった。 「奴らとは多分、三茶の町外れの街道沿いでの戦いとなるだろう。数は分からんが十人はいるだろう」 「まぁ、開拓者が集まってから調べるか」 ふむと、柊真が自分で淹れた茶を啜った。 |
■参加者一覧
滋藤 御門(ia0167)
17歳・男・陰
劉 天藍(ia0293)
20歳・男・陰
御樹青嵐(ia1669)
23歳・男・陰
珠々(ia5322)
10歳・女・シ
劉 那蝣竪(ib0462)
20歳・女・シ
羽喰 琥珀(ib3263)
12歳・男・志
レティシア(ib4475)
13歳・女・吟
藤田 千歳(ib8121)
18歳・男・志 |
■リプレイ本文 三茶に現われた開拓者は即座に雪原一家の元へと向かっていた。 開拓者の顔を知っている家人が中へ通してくれた。 顔見知りの開拓者を見て声をかけたり、笑顔を見せてくれているが、そこにある得も知れない緊張感を肌で感じ取った藤田千歳(ib8121)は違和感という言葉でしか表す事ができなかった。 同じく珠々(ia5322)も何度か雪原一家には関わっているが、こんな様子は初めてだった。 「これが‥‥抗争‥‥」 奥に通されると、幹部だろう人物達と地図を見合っている雪原一家当代緋束がいた。 「お客人が来やした」 家人の言葉に緋束はにこやかな笑顔を見せてくれた。 「ご無沙汰してます」 滋藤御門(ia0167)が笑顔で挨拶をすると、緋束が「よく来てくれた」と労う。 本名で呼んでいいのか分からず、劉天藍(ia0293)は気遣って偽名の方で柊真を呼んだ。 「今、茶を淹れて来てくれている」 緋神那蝣竪(ib0462)は台所に立つ柊真の姿が気になって仕方ない。 割烹着姿だったらどうしようとかこっそり思いを馳せる。 「おう、来たか」 入ってきたのは柊真だ。その姿は板前のような姿だった。 普段の着物姿とは違って、細身であるが、しっかりと筋肉がついた身体である事が窺がえる。 「カタナシさん、料理できたんですね」 素直な天藍の感想に柊真は苦笑する。 「大したもんじゃないさ、それに本名でも構わん。カタナシの名前を久々に呼んで貰えるのも嬉しいがな」 「柊真さん、後の家事はお任せください」 御樹青嵐(ia1669)が声をかけると、柊真は助かると笑う。この人数の料理は骨が折れていたようだった。 「睦助。お前も手伝うんだぞ」 「ええ!? あっしもッスか!」 後ろで控えていた睦助に天藍が声をかける。 「当たり前だろ。今まで赤垂がいなくても料理できる奴らがいたはずなのに、赤垂がいなくなるとこぞっていなくなるだなんておかしいだろ。今回こそ赤垂の手伝いが出来るまでになってもらうぞ」 正論を口にする天藍に睦助をはじめとする数人の家人ががっくりと肩を落とす。 「ごはんも大事ですが、何より、赤垂君に「お帰り」を言って貰える場所はなにが何でも守ります」 ぐっと、拳を握るのはレティシア(ib4475)。心の中ではようやっと、任侠のカッコいい所が見れると内心ワクワク半分、安心半分。 「そんじゃ、いっちょ、いってくるかー!」 羽喰琥珀(ib3263)が元気よく立ち上がると、それぞれがそれに倣った。 ● 「すごい賑わい」 各国の首都、神楽の都まではいかないが、中々の賑わいに那蝣竪が驚く。 「二年くらい前まではこんなに活気があった街じゃなかったんだ」 天藍の言葉に那蝣竪が首を傾げると、天藍は偽の当代が緋束に怪我を負わせ、雪原一家を仕切り、街の衰退、治安の悪化を促していた事を告げた。 「監察方と俺達が手伝って偽当代を倒したんだ」 「そうだったの‥‥」 苦しみの影があったからこそ今の平和な輝きがある。 それを知り、憧れる那蝣竪は眩しそうに街並みを見つめた。 「絶対に守らなきゃね」 心を決めた那蝣竪が言えば、青嵐も頷いた。 単独で外に出た琥珀とレティシアはとある旅籠に入る。 「あら、いらっしゃい」 「なーなー、ちょっと教えてほしー事あんだけどさ、最近、妙な余所者とかって見てないか?」 女将さんは即座に二人を厨房に入れ、更に奥へ連れて行く。 「この道の奥にかなり襤褸だけど、安い旅籠があるんだ。そこで筋者らしい男達がいるって聞いたんだよ」 「ありがと!」 ぱっと、勝手口から二人は出て行った。 小袖姿になった珠々は古くからありそうな三茶の店や情報網を持つ人に接触していた。 「数日前から襤褸旅籠に逗留しているようだ。人数は四人だが、その日で帰ってくる人数がまちまちだそうだ」 「‥‥どこのお店にいますか?」 尋ねると、男は道を教えてくれた。 旅籠で男達の似顔絵を見せたら首実検は成功していた。話を聞いた後、飲食店をいくつか回って見つけたのは先行隊の姿だ。 ばったりと会ったのは珠々。 「見張り頼むな! 俺、誰か連れてくる」 ぱっと駆け出した琥珀に二人が頷く。 程なくすると、睦助ともう一人の家人が現われ、離れて琥珀が戻ってきた。 「先行隊は四人と聞きましたが、半分しかいませんね」 レティシアが言えば、琥珀がきょろきょろとしている。 中では睦助が家人と酒を飲んで談笑している。 勿論、内容は緋束が遠出するから人が少なくなるという話だ。 引っかかった先行隊の一人が立ち上がり、店を出た。 「頼むぜ」 琥珀が言えば、珠々はしっかり頷いた。 一方、買い物に出ていた三人は当代達が近日一家を留守にするという話を行く先々で話していた。 「あらあら、それは大変ねぇ。赤垂君も今はお使いで奏生に行ってるそうじゃない」 魚屋の女将さんが天藍の話を聞いて、鮭の焼漬を渡す。 得したなぁっと、ちょっと上機嫌で八百屋の方へと行けば、同じく偽情報を流している青嵐を見つけた。こちらは八百屋の亭主に色々と貰っているようだ。 天藍が眺めると、買い物を終えた那蝣竪が荷物を天藍に預ける。 「どうにもそれっぽいのがいるみたい」 那蝣竪が言うと、天藍は頷く。 視線の向こうにはそれらしい旅人の姿があった。だが、その様子は素人のものではなかった。 こちらも先行隊の二人いた片方がどこかへと向かった。 難なく那蝣竪がつけて行く。 大きな通りを抜けて、街道近くになると、珠々を見つける。 「睦助さん達に一芝居打ってもらいました」 「そう、この向こうに連中がいるのね」 前を向くと、街道に入り、少し道を外れた所に廃寺があり、そこに先行隊二人が入り込んだ。 廃寺の周囲には好き放題生え伸びた竹林があり、一見、人目に付き辛い。 超越聴覚を使って話を聞けば、どうやら、当代が留守にする旨を伝えているようで、引っかかってくれて安心したようだった。 「‥‥私はここで張ります。那蝣竪さんは報告を」 珠々が言えば、那蝣竪はその場を離れた。 戻ってきた那蝣竪が緋束達に報告し、地図で周辺の状況も報告する。 「助かったよ、那蝣竪さん」 緋束が笑うと、那蝣竪も微笑む。 台所では支度が始まっており、青嵐、天藍、千歳、御門、レティシアが先に入っていた。 青嵐の指揮の元、千歳が補佐をし、天藍が一家の者達に料理を仕込み、御門とレティシアがフォローに回る。 「遅くなってごめんね」 那蝣竪が割烹着を被ると、家人達がおおっと、声が上がる。レティシアの時は和まされたが、妙齢の那蝣竪もまたイイらしい。 「千歳さん、御門さん、ご飯が炊けましたら、解した焼漬と梅干をそれぞれ入れてお握りを作ってください」 「はい」 二人がせっせと握り飯を握り、その横では天藍が里芋の剥き方を伝授している。 「そんな感じ。頑張れ」 教え方が上手い天藍の指導で家人達もせっせと芋を剥いている。 那蝣竪が剥いた芋を茹でている間に家人達は浅漬け作りへ。 蕪が美味い時期なので、蕪の浅漬けにする。 後は鍋に使うほうれん草と茸の切り分け方を教えてもらう。 里芋が茹で上がると、天藍指導の下で味付けを行う。里芋は煮っ転がし予定だ。 味見を那蝣竪とレティシアに頼むと。二人は美味しいと絶賛。 女性に誉められて喜ばない男はまずいなく、心の中で拳を握る。 「良いお嫁さんになれるわよ♪」 飛び切りの笑顔でそう言われて、天藍も家人達も肩を落とした。 握り飯を作っている御門は千歳の手際のよさに声をかけた。 「田舎では交代で料理をしてました」 「お料理作れるのって羨ましいです、僕はあまり出来ませんから」 いつも青嵐や天藍に料理を甘えている御門が弱音をこぼすと、千歳が言葉少なに助言をしていくと、御門の作るお握りが段々綺麗な形になっていく。 「出来たでしょう?」 「はい、ありがとうございます」 年中組の様子を見て、青嵐が微笑みつつ、茸鍋の味を見ている。 珠々も戻り、台所からとても美味しそうな御飯の匂いがしてくると、自分が空腹である事に気づいた。 「珠々、お帰り」 丁度通りかかった柊真と緋束が声をかける。 「‥‥ただいまもどりました」 お帰りと言う言葉が自分にかけられるものというのに慣れてない珠々は少しだけ戸惑ってしまう。 皆揃って頂きますの挨拶。 それからは皆で一斉に食事を始める。 まずは食べる事。 「わーっ、美味い!」 大喜びでかき込んでいるのは琥珀だ。 「んぐっ、とってもおいしいのです!」 珠々もまた天敵を避けながら食べている。誰も言ってこないのは、戦力が減る事を恐れての事だ。 「はいはい、皆さん沢山食べてくださいねー!」 ライトブルーにフリルをあしらったエプロンドレス姿のレティシアが給仕をしている。 料理が出来ない分、給仕で家人達の士気を上げている。 見事に食事が空になり、皆がそれぞれ酒を一杯ずつ飲み始める。 「え、お酒?」 きょとんとする御門に緋束がかち込みをする時の儀式だという。 「酒は身を清めるという意味もあるわね。後は気持ちを高揚させ、戦闘心を煽るの」 それを口にしたのは那蝣竪だった。自身の過去で知っていたのだろう。 儀式が終わると、配置へと走る。 一家で志体のある者は前線に向かうがそうでない者達は後衛‥‥家を守る事になる。 家を空にして、何かあっては意味がないのだ。 開拓者全員がはっとする中、低い声が通った。 「俺が残る」 柊真が言えば、天藍が頼むと声をかける。 ● 晴れた夜だ。 天藍が人魂で鼠の式神を召喚する。寺の中へ走らせて様子を確認する。 見えた数は十四人。 頭らしき人物にそれに控える男たちは幹部かもしれない。 志体持ちまでは分からなかったが、志体あるか否かで判断は出来ない。 何が起こるかわからない。それが抗争だ。 意識を戻し、天藍が皆に状況を伝える。 「とりあえずは相手が眠るのを待ちましょう」 青嵐が言い、全員が竹林の中で待機した。 琥珀が夜の冷えに肩を竦めた頃、寺の中にあった小さな灯りが消えた。誰もが奇襲へと動く。 家人達が隠していた篝火の台を竹林から出して火を灯して行く。 「いくぞ」 緋束が言えば、全員が廃寺へと走り出した! 寺を囲むように中に入ると、直に本堂となっており、中々に広い。 御門や青嵐が夜光虫を発動させて天井に付かせる。 これで一応の光源が確保できる。 「雪原一家が当代、凍月の緋束だ!」 「雪原ぁ!」 半分寝ていただろう頭らしき男が奇襲に驚きつつも臨戦態勢となる。 「他はいい! 緋束を殺せ!」 その叫び声に男達が手にした獲物を振り回す。 一人の視界の下に何かが掠める。 「ぐあああああ!」 一瞬の間に男が斬られて蹲った。他の方向でも一人が蹲る。 「さーて、いっちょやるかー」 待ちきれないように飛び出して先制をかけたのは琥珀だった。もう一方は珠々が忍拳を使用し、倒した。 「ガキだと!」 「やっちまえ!」 わっと三人が琥珀と珠々の方に向かうと、二人が金縛りのように立ち竦む。 「子供と思って甘く見られては参ります」 「この街に手を出すのは諦めてもらおうか。俺達が黙っちゃいないぜ」 呪縛符を発動させた御門と天藍が声を上げる。 放っておけと誰かが叫び、雄たけびを上げて緋束の方へと刀を向ける。いけると一人が確信した瞬間、肩に衝撃が走る! 「そうはいかないわ!」 左手で逆手に苦無「獄導」を持ち、右手に刀を持つ那蝣竪が他の家人達と緋束を守るように立つ。 「皆、露払いお願い! 頭を倒すのは緋束さんの仕事だから路を開けて!」 「合点!」 那蝣竪の言葉に家人達が応える。 「さぁ、皆さん! いきましょう!」 後ろでレティシアが歌で奏でるのは黒猫白猫。 軽やかなリズムに合わせてレティシアの周囲に現われるのは可愛らしい黒猫白猫の幻影。 レティシアのメロディに合わせ、全員の身体が軽くなったかのように相手の攻撃を軽々と避けられた。 相手の剣士風の男が志士らしき姿の千歳に気付く。 「志士か」 「そちらもか」 いつも無表情である千歳ではあるが、更に表情をなくしていたのは今回が「初陣」だからだ。 「浪志組隊士、藤田千歳だ。参る‥‥!」 すっと、刀を抜き、名乗りを上げた瞬間、戦いが始まった! 中は乱戦を極めていた。 術士の開拓者を持つ者達がいる分、有利ではあったが、それでも、向こうは強かった。 「くっそ! はぁ!」 志体持ちと戦っていた琥珀は紅焔桜を発動させ、刀身に淡い桜色の燐光を纏わせる。 大きく一歩踏み出し、刀身を思いっきり振るうと、男の視界に枝垂桜の幻影が現われ、一瞬、目を惹かれる。だが、その幻影こそが自身の敗北を意味する。 斬られた男は倒れた。 「シノビか!」 素早い奴を呪縛符で倒そうとしていた天藍だが、相手はシノビだった。 「私が相手です!」 目には目、シノビにはシノビと珠々が入り込む。 更にレティシアの奴隷戦士の葛藤のメロディが入り、相手の動きが鈍る。それでも相手は動きを止めなく、珠々に刀を振り下ろした瞬間、天藍の呪縛符が発動した! そのまま珠々が相手の鳩尾に攻撃を喰らわせ、その場に崩した。 路を開ける為に露払いに参加していた御門が自分を狙う敵に気付かず、気付いた瞬間、青嵐の呪縛符に助けられた。 「すみません」 「この乱戦では仕方ありません」 謝る御門に青嵐が首を振る。目印につけている赤い帯がなければ相打ちもありえた。 きっと、一緒に戦いたかっただろう赤垂の分まで戦い、緋束を守り、勝たねばと御門は心を奮わせる。 千歳は自身が身に付けていた剣技が相手に通じているという事に手ごたえを感じていた。 いける。 そう感じた瞬時に手にした虎徹に紅い炎が纏われる。 一気に気力が漲ったが、相手も同じく紅い炎が纏われた! だが、千歳は戸惑いはなかった。 数瞬だけ千歳が早く、刀を振り下ろし、剣士を斬った。 「後は俺がやる!」 緋束の言葉に露払いの先頭に立つ那蝣竪は頷き、先陣を譲った。 走り出した緋束に二人が刀を振り上げたが、一人は御門の呪縛符に前に落ち、もう一人は緋束に斬りり捨てられた。 頭だけとなり、一騎打ちとなった。 誰もが二人の剣撃に視線を注ぐ。 手助けをするべきだと思ったが、手が出なかった。 誰もが確信した。緋束が勝つと! 緋束が相手の距離を一気に詰めて払い抜けを決めた! わっと、雪原一家と開拓者の歓声が上がる。 相手の撤退を見送ったら、もう夜が明けていた。 柊真が現われると、先行隊が雪原の屋敷に奇襲に来たらしく、柊真達で片付けたらしい。 完全勝利に喜ぶ皆を他所に千歳は震える自身に気付く。 守る為に、斬り、命を奪う。 その重みは決して無視できないものだ。 「人を斬るのは初めてか」 柊真に肩を掴まれ、千歳は顔を上げた。 「その気持ち、絶対に忘れるな」 胆に響くその声に千歳はしっかりと頷いた。 屋敷に戻り、盛大な宴を開くのは休んだ後‥‥ |