【狂幕】誘う刀
マスター名:鷹羽柊架
シナリオ形態: シリーズ
相棒
難易度: 普通
参加人数: 7人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/01/24 19:23



■オープニング本文

 正月を過ぎた頃、羽柴家に一通の手紙が届いた。
 差出人の名前は鷹来折梅とあった。
「義父上、ばあ様より手紙が届きました」
 麻貴が手紙を義父の杉明に渡すと、杉明は礼を言って、自分の部屋へと戻った。
 誰もいない自室で手紙を開け、文字を追った。
 家族が集まる居間では麻貴が嬉しそうに祖母の手紙を読んでいる。
「あら、麻貴、楽しそうね」
 くすくす笑いながら葉桜が麻貴に甘酒を渡す。
「沙桐からの手紙も大事ですが、こうしてばあ様からもお話が読めるのは嬉しい事ですから」
「そうね。家族ですものね」
 ふふっと、二人の『姉妹』が顔を見合わせて笑った。

 数日後
 普段はあまり夜遅くまで仕事をしていない杉明だが、今日だけはどうしても手がけている書類整理を終わらせたかった。
 護衛役の役人がいるので、彼らの事も考えて早く終わらせたく、手を早める。
「‥‥集中力が散漫としているな」
 溜息をこぼした杉明がある程度一区切りつかせると、部屋を出た。
「駒木殿、申し訳ないな」
「いえ、お気になさらず」
 謝る杉明に護衛役は首を振る。
 数人の護衛役と共に出ると、護衛役の一人が足を止めた。
「どうした」
 その護衛役は記憶では心眼使いだ。役人が身振りで気配を伝えると、駒木が弓を手にして矢を引く。
 弓はわざと反らさせて相手の意識だけを引く。心眼使いが刀を抜いてその方向へと走り出す。
 塀の曲がり角‥‥死角となる場所に奴らはいた!
 心眼使いの役人が刀を振り下ろしたのと同時に相手も刀を抜いて役人の刀と切り結ぶ。
 鋭い音が聞こえる。
「志体持ちだな」
 ニヤニヤと塀の死角から出てきたのは開拓者崩れのような男三人。
 駒木が杉明を庇うように立ち、退路を確認する。
「仲間だったか」
 溜息をつく杉明が腰の刀を抜いた。
「おっさんに恨みはねぇが、死んでもらうぜ」
 後ろにも二人出てきた。多分、心眼を考慮し、距離を離していたのだろう。
「恨みがあってもなくても今死ぬ気はない」
 構える杉明に男達が刃を向けた瞬間、呼子笛が響いた。
「ち、厄介だな」
「ずらかるぜ!」
 男達がばたばたと走り出した。
「羽柴様、ご無事ですか!」
 走ってきたのは理穴監察方の上原柊真と真神梢一。
「うむ、助かった」
「とりあえずは監察方へ」
 梢一の言葉にそれぞれが頷いた。

 杉明にとって今回の襲撃は身に覚えがない。
 政敵とみなされていた芦屋の失脚の件で誰もが大人しくしているはずなのに。
「何にせよ、突き止めねばならんな。申し訳ないが、麻貴には内密にしてほしい」
 杉明が言えば、二人は頷く。
「当然です」
「羽柴様に危険に遭わせるやもしれないし‥‥それに、貴方が襲撃された事を知ればきっと、護れなかった事を悔やむでしょう」
 麻貴の泣き顔には堪えるというのは三人の共通のようだ。
「しかし、どうしましょうかね」
「麻貴の別件はどこに担当させる予定だ?」
 ふむと考え込む柊真に杉明が尋ねる。
「そうですね。三茶の方に向かわせる予定です。雪原の当代のには上手く言っておきますので」
「そうか。では逆方向に別宅があるからそこで捕まえよう。街中では何かと不便だからな」
 杉明が提案すると、二人は頷いた。
「それと柊真殿、例の件頼んだぞ」
「はい」
 付け加えられた言葉に柊真は頷いた。


■参加者一覧
滋藤 御門(ia0167
17歳・男・陰
劉 天藍(ia0293
20歳・男・陰
御樹青嵐(ia1669
23歳・男・陰
珠々(ia5322
10歳・女・シ
輝血(ia5431
18歳・女・シ
フレイア(ib0257
28歳・女・魔
叢雲 怜(ib5488
10歳・男・砲


■リプレイ本文

 集まった場所は上原家だった。
 杉明の安否を確認し、ほっとする者や、杉明を狙う理由に疑問を浮かぶ者もいた。

「今回、麻貴さんに付きます」
 御樹青嵐(ia1669)の言葉に柊真は頷くと、青嵐が進み出て、柊真の耳元で言葉を呟く。
「私は輝血さん一筋ですので」
「お母さんは何を言っているんだ?」
「誰がお母さんですかっ!」
 真顔で答えられて青嵐はつい、語気を強める。
「信じているさ、彼なら牽制するがな」
 柊真の視線は杉明と世間話をしている滋藤御門(ia0167)。
「‥‥心が狭いんですね」
「何とでも言え。椎那でさえ牽制するさ」
 一筋なのは彼も同じなようで、青嵐はほっとしたような気持ちになる。


 羽柴家は名家ではあるが、常駐している使用人は数少ない。
 屋敷に住んでいるのが四人だったりするが、料理に関しては長女の葉桜が全て担当しているので、料理人がいなかった事にフレイア(ib0257)は内心驚いた。
「最近、違う点ですか‥‥」
「見張られている感じがしますわ」
「なんだか、この辺にいるような人ではないですよね」
 葉桜を交え、女中や庭師なんかを呼んでフレイアがお茶をしつつ、話を聞いている。
「旦那様のお仕事もお仕事ですから仕方ありませんが」
 苦笑を浮かべて年配の女中が微笑む。
「そうですか」
 確かに、羽柴を狙っている者はいるのだ。
 フレイアが羽柴家を出る際、物陰に隠れて家の出入り口を見張っている者の影を見た。丁度良く、太陽の傾き加減で隠れていても影が伸びている。
 お粗末だと呆れつつ、気にせず待ち合わせの場所へと戻った。


 御門は柊真の立会いの下、有明と面会していた。
 牢の生活で有明は最後に会った時より痩せていた。御門が知りたがっていたのは天藍が会った事がある男の事だ。
 男の容貌は年の頃は二十台後半、角ばった輪郭に鋭い目が印象的な剣士風。髪も短く刈り込んでいて、一見、筋者のようにも見えるが、着ている物はよい物だったそうだ。
 だが、有明は首を横に振るだけだ。
 御門と柊真が牢から出ると、柊真が御門を守衛控え室に連れ込む。
「先程の男だがな、あれは繚咲の自警副団長だ」
「りょうさ?」
 初めて聞く名前と沙桐の名前に御門は首を傾げる。
「鷹来家が統治している土地の総称だ‥‥あいつが報告していた旅人はやっぱり劉だったか」
 よかったと肩を落とす柊真を見て、何かあったのだろうかと御門は思案する。
「ま、これで一つ心配事がなくなったな」
「え?」
 御門はきょとんと、柊真を見る。
 どこをどう見てもこの聞き込みは空振りなのにと。
「言わなかったか? 沙桐にも武天での火宵の動きについて調べて貰っている事を」
「あ」
「まぁ、色んな方向から見ると見えるものがある。奴が敵でなくてよかったという事が今回分かったし、奴が会った旅人が劉でよかったしな。小さな積み重ねが功を呼ぶ。前向きにな」
 柊真に諭されて、御門は頷いた。
「で、奴に会った当人は?」
「劉先輩なら‥‥」


「くしゅっ」
 奏生の往来でくしゃみをしたのは劉天藍(ia0293)だ。
 今回は変装をしていて、占い師の姿をしている。
 柊真や杉明から聞いた話は理穴にいる連中で、所謂ろくでなし。特に住まいなどはないようで、任侠者の住まいなんかにも世話になっているとか。
 大抵の居場所はもう特定されているらしいが、踏み込むには人目が多い所に出入りしているようで、面倒らしい。
 天藍の伝令役は天藍も知る椎那だ。彼は監察方が擁する隠れ蓑にいるらしく、鴉の人魂で天藍を目的の場所へ導いてくれている。
 あるところで鴉が軌道を変えてどこかへ飛んでいった。
 きっと、この近くがその場所なのだろう。
 その中の一軒に飛び込んでみると、薄暗い店内には酒の匂いが充満しており、客と客の相手をしている女が睦みあいながら酒を飲んでいる。
 天藍は酒だけを頼むと、目的の男達の事を話すと、親父は心当たりがあったのか、一つ頷いた。
「ここには来ているがここ数日はいねぇよ。他の店を当たってみな」
「そうかい」
 銚子一つを飲み干すと、天藍は代金を卓に放り投げて外に出た。

 天藍が入った店の一本向こうの通りには叢雲怜(ib5488)が情報収集に話しかけていた。
「うん、知ってる。よく色んなお店で文句つけてはお金払わない人たちだよ。この通りを仕切る親分さんの居候みたいな人たちだから、みんな、強く言えないの」
「そっかぁ、嫌な奴らだな。ね、他に誰かと会ったようなことあった?」
 怜に情報を提供しているのはこの辺で丁稚奉公で働いている女の子だ。
「うーん、いつもあの五人でいるから、私は見た事ないの」
「そっか、助かったよ。ありがとな」
 首を振る女の子に怜がにこっと笑ってお礼を言うと、女の子はちょっと顔を赤らめて頷いた。
「じゃ、お店頑張ってね」
 そう声をかけると女の子はこくんと頷いた。
 この通りではどうやら迷惑している連中のようで、誰もが嫌な顔をした。
 開拓者崩れという事で、強く言えないのがどうにも悔しいらしい。
「全く嫌な奴らだな!」
 ぷんすか怜が怒って次の聞き込みに入る。


 少し時間は巻き戻り、青嵐は杉明を通じ、何人かの人を挟み、芦屋と組していた文官に話を聞かせてもらえるようにして貰った。
 芦屋が失脚となった今、誰もが政敵に対し、静観というスタイルをとっている。
 誰もが今の地位を脅かしてまで政敵を陥れる事をしたくないからだ。
「確かに、政敵を陥れ、己の権威の増幅と思う。だが、芦屋殿の二の舞だけは‥‥」
「そうですか、では、芦屋が失脚し、利益を受けた者は?」
「いたとしても芦屋殿の関係者には居らんだろう。羽柴殿はその恩恵が受けるほど低い地位にいる方ではない」
「わかりました。時間を割いていただき、ありがとうございます」
 それだけ言って、青嵐は小部屋を出た。
 一度外に出て、監察方に向かおうとした時、青嵐が声をかけられた。
 理穴のこの場所で気軽に声をかける者は数少ないが、この声は目的の人物。手を振って現われたのは今回の目的の人物、羽柴麻貴。
「これは麻貴さん。いえ、三茶に行く用がありまして、少々用事を済ませてました」
「三茶にいくのに?」
 麻貴が見上げた場所は関係のなさそうな場所だった。
「開拓者にも色々とあるんですよ」
 困ったように麻貴が言うと、ふうんと気のない返事をした。
「ま、いいや。青嵐さん、私も三茶に行くんだ。一緒に行かないか」
「ええ、喜んで。監察方でお米を炊かせて貰っているんです。握り飯を作っていきましょう」
「やった!」
 素直に喜ぶ麻貴に青嵐はこのまま住んでくれるようにと祈った。


 輝血(ia5431)は珠々(ia5322)と一緒に最近の奏生について調べていた。
 だが、これと言った様子はなく、火宵関連の人間も全く大人しくなっていた。
「ふーん、最近はあまり動いてないんだ。そんなに有明と芦屋がいなくなったのが堪えたんだ」
「地方とはいえ、豪商がやっていた事だからな。火宵の事までは手が伸ばす事が出来なかったが、まぁ、色んな連中が抑えている。まぁ、地方任侠ではちょこちょこあるかもしれないが、この冬場だ。相当なことがない限りは抗争まで手を出す馬鹿はいない」
 興味なさそうに輝血が言うと、柊真が更に説明してくれた。
「だから、不自然なんですよね」
 ぽつりと珠々が呟いた。
「冬は奇襲には丁度いいけど、突発にするには気力が持たないね。何らかのやる気がないと。だから、今更? って気がする」
 輝血がお茶を啜ると、柊真が頷く。
「有明派残党の線はどうなのでしょうか。残党の場合は有明の奪還が目的の可能性もあるのでは?」
 戻ってきた御門が話に加わると、柊真は目を伏せる。
「確約した言葉がだせんな。だが、有明残党はこちらでも探している。何かあった場合は捕縛を頼むだろう」
「その時は遠慮なく依頼に出しな」
 サラッと言う輝血に柊真が微笑む。
「さて、あたし達は間接的に護衛に入るよ。先行ってる」
 輝血が話を切り上げると、御門を連れて先に出て行った。
 柊真と二人きりになった事を確認した珠々は柊真に心の内を打ち明けた。
「杉明さん自身に心当たりがなくとも、彼が倒される事で彼を尊敬する人達を精神的に弱める事が目的なんじゃないかなって思います。主に麻貴さんや羽柴家の人達を」
 珠々の言葉に柊真は無表情だ。
「確信する証拠がないとダメって分かってます。これからその証拠を探しますからっ」
 必死そうに言う珠々に柊真は柔らかく微笑み、珠々の頭を撫でる。
「俺もそう思うが、監察方に対してなら、監察方と羽柴様の点を結ぶ線を知る者が少なすぎるんだ。芦屋でさえ、有明と組まない限りは羽柴様の「次女」が監察方に与している事を知らなかったんだ」
「知っているのは金子家みたいな諜報組織を持ってるような人?」
「後は、羽柴様同等、もしくはそれ以上の地位の方だが、あの辺は関係ない。監察方四組主幹の名にかけて断言する」
 その言葉に珠々は敵はどこにいるのだろうかと薄幕の闇むこうを心の中で視た。

 何軒かの聞き込みをしていた天藍に例の男達が声をかけてきた。
「お前か、俺達の事を嗅ぎまわっている奴は」
「ああ、そっちから話しかけてくれてありがてぇなぁ」
 伝法な口調は誰に似たものだろうか。男達は天藍を見て訝しそうに顔を顰める。
 見た目は細身気味の優男だが、口調は伝法まがい。そこまではよくいるとは思うが、占い師のような姿と言うのがどうにも男達は怪しさを感じているらしい。
「ちょいと聞いた話でな。いい金づるを見つけて仕事をしてるって話じゃないか」
 これは天藍が実際に聞いた話だ。
「安くてもかまわねぇよ。一口噛ませてくれよ。開拓者辞めてから体が鈍ってしょうがねぇ」
 気だるそうに天藍が首を回す。
「かまわねぇよ。そろそろ時間だ。ついて来い」
「ああ」
 男達の了解を得て、天藍はこっそり人魂を飛ばした。
 天藍のやり取りの様子を物陰から見ていた怜は自分と同じように物陰から天藍達を見ている影に気付いた。それとなく近づくと、そこにはもう、誰もいなかった。
「‥‥シノビ‥‥?」
 周囲を見回し、ぽつりと怜が呟いた。


 三茶の道中、青嵐は輝血とのやり取りを思い出した。
 輝血が青嵐に「ちゃんと麻貴を護るんだよ」と少し強い語気で念を押した。
 青嵐が心配かと尋ねると、「後が面倒」と素っ気無く答えただけ。「葛先生にとって、輝血さんも麻貴さんや沙桐さんのように大事にされてるとは思いますよ」と言えば、輝血は言い返せなくて、苛苛した視線を青嵐によこした。
 輝血に気を使って貰える麻貴が羨ましくも思う。
 ある種、溺れている青嵐は藁‥‥ではなく、麻貴に相談のような愚痴を持ちかける。
 心の内を輝血に言ったが、答えてくれなかった。そして、彼女の内面に踏み込めない自分の情けなさを口にした。
「青嵐さんは輝血の心に踏み込めば輝血を振り向かせると思うのか?」
「いや、それをしなければ、輝血さんに近づいた感じがしないと思うんです」
「青嵐さんって、輝血に何をしたいんだ?」
 首を傾げる麻貴に青嵐は戸惑ってしまう。
「私は柊真に笑ってほしい。柊真からだって笑わせてほしい。楽しいとか嬉しいとか思ってほしい。青嵐さんは輝血にちゃんとそういう事してる?」
「ですが、輝血さんは‥‥」
「それは言い訳」
 麻貴の威圧に押され、青嵐はそのまま麻貴の話を拝聴することになった。
 三茶に着くまで何一つ怪しい気配は感じられなかった。


 杉明の移動時の直営は珠々とフレイアと柊真。
 距離を置いて警護に入っているのは輝血と御門だ。怜はまだ戻らず、夜に別邸に入る予定。
(「ああ、無事に仲間に入れたんだ」)
 心の中で呟いた輝血が見たのは距離を置いて杉明達を尾行している開拓者崩れの男達と天藍だ。
 珠々が柊真に視線で合図すると、二人揃って振り向く。開拓者崩れの男達と天藍に向かって視線を向ける。だが、その視線は直に外される。
「シノビだな」
 確信した開拓者崩れ達は一層慎重に距離を離しつつも尾行するが、お粗末具合はそのままだ。
(「本当に開拓者なのでしょうか‥‥」)
 心の中で御門が呆れた。

 無事に別邸に着いた杉明達を物陰から眺めて待機している。
「お前、何が出来るんだ?」
「陰陽師だ」
 天藍が言えば、式神を作り出す。本来の髪と同じ藍色の羽の小鳥。
 飛ばして、屋敷の方に向かわせると、適当な実況を言ってみる。意外に信じてくれているようで天藍は心の中で助かっている。
 怜が勝手口から入った事を男達には知らせなかった。

「どうやら、劉先輩が相手に嘘の情報で操っているようですよ」
 くすりと笑い、御門は片翼の小鳥から拾った情報を皆に伝えている。
「それは面白いな」
 和やかな雰囲気の中、皆が様子を聞いている。
「中々隙だらけですわね」
 庭先にフロストマインをかけてきたフレイアが肩を竦める。
「油断はしちゃダメだね、何が乱入して来るか分からないし」
 輝血が言えば、全員が頷いた。


 宵の口に入り、周囲の人が眠りに付きそうになった頃、男達は動き出した。
「お。正門が開いているぜ」
「馬鹿だなぁ」
 にやにやしながら男達が入っていく。目的の人物‥‥杉明の場所は天藍の人魂で分かっている。
 庭を経由して行けば‥‥
 先頭を歩く男が踏み出した瞬間、猛烈な吹雪が襲ってきた!
「うわっ!」
「罠か!」
 先頭の男が動けなくなった瞬間、その隣にいた男の足に激痛が走り、そのまま転んでしまう。
「杉明のおっちゃんに危ない目に合わせる奴は許さないぞ!」
 マスケット「魔弾」を構えた怜が啖呵を切る。
「開拓者か!」
 元は開拓者、子供が銃を構えていても瞬時に見分けた模様。
「突っ切ってやっちまえ!」
 男が叫ぶなり、風が上から降りてきた。
「突っ切れられるの?」
 冷たい声が降ってくると同時に男の肩に鋭い痛みが刺さる。
「ぐぁああああ!」
 肩を抑える男はそのまま膝をつく。
「やったなぁ!」
 別の男が輝血に自身の獲物である刀を振り上げると、眼突鴉が襲ってきた。
「わ、何だ! ま、まさか!」
 鴉を振りほどき、男が振り向けば、斬撃符が男の肩に奔った!
 入口を塞ぐように御門と視方だった天藍が立っていた。
「悪いな。これも仕事なんでな」
 天藍がにやりと笑うと、男はぎりぎりと歯軋りを立てて天藍を睨み付けた。
 最後の一人はフレイアのアムルリープで眠らせて戦闘は終了した。
「あっけなかったね」
 驚いた怜が言えば、輝血は呆れるように柊真を見やる。
「どうする? 尋問する?」
「当然だ。開拓者崩れだか知らんが、遠慮する気はない」
 縄に縛られて庭に転がされている開拓者崩れを柊真が見下ろし、冷たい声で言い捨てた。


 三茶で麻貴お子守をしつつ、雪原一家でお母さんをしていた青嵐だったが、結局は異変は起きなかった。
 だが、赤垂の料理と術の腕前が上がったのは何より嬉しい事だった。