【狂幕】誘いの曲り角
マスター名:鷹羽柊架
シナリオ形態: シリーズ
相棒
難易度: 難しい
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/02/28 00:19



■オープニング本文

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 開拓者臨席の上、女の聴取を行った。
 随分と怯えて自棄になって暴れていたりしていたが、時間を置けば従順となった。
「あたしを雇った奴は先に賭場に現われてたんだよ」
 目線を逸らし、女が口を開く。
「どんな男だ?」
「若い男だよ。お付の用心棒を二人付けていたから、金持ちだと思ったんだ! 身形も所作も遊び慣れてなさそうだったし、いいカモだと思ったんだよっ」
 柊真の問いかけに女が堰切ったように言い切る。
「‥‥男はなんて言ったんだ?」
「御大尽を痛めつけてくれと。その後でその御大尽の娘もやってくれ、別に殺しても構わないと。それだけでとんでもない額を出してきたんだ!」
 最初から最終的に麻貴を狙っていたようだ。
 直接開拓者崩れを雇った男は賭場のサクラで、女とは情交の仲らしい。
「シノビを雇ったのもお前か?」
「いいや、あたし達はあの開拓者くずれだけだよ。あたしが開拓者崩れを負けさせて、あの人に声をかけさせてたんだ」
 首を振る女に嘘は無いようだ。
「そうか‥‥男と会った時に何か気になった点はあったか?」
「‥‥本当に遊んでなさそうな男だったよ。あたしみたいな女には慣れてないっぽくって、用心棒はあたしの動向よりも男の方を見てた気がしたよ」
 記憶を辿る女に柊真は分かったとだけ言った。
「近々、あたしを雇った男と会うんだ。会う時はかならずあたしの家の中に造花の花弁が投げ込まれてあって、それが合図で七日後に会うんだ」
 その場所とはとある小さな店であるが、奥に離れがあるとの事。店の人に言えば、部屋まで通してくれるらしい。
「お前と会った男にもそう言ったのか?」
「聞かれたから、そのまま言ったよ‥‥」
 そうなると、近日火宵は現われるだろうと柊真は考えを踏む。
「ねぇ、あたしはどうなるんだよ」
 女は自分の心配をしているようで、柊真はちろりと女の方に視線を向く。
「罪に問われる事がなかったとしても、お前が賭場でしでかした方が問題じゃないのか」
 冷静に言い放つ柊真に女は顔を青くした。


 女の取調べを終えた翌日、沙穂が報告に柊真の前に現われた。
「黒猫ちゃん達が会ったシノビの隠れ家見つけたわよ」
「そうか」
 沙穂によれば、シノビは中級階級の空き家を使用しており、今は怪我を負っている為、大人しくしている。
「数は?」
「一人みたい。誰か来る様子も無かったわ。酷く警戒してて、近寄れなかったわよ」
 肩を竦める沙穂に柊真がそうかと溜息をつく。
「そいや、壷振り女の待ち合わせはどうするの?」
 主幹室の部屋の隅に置いてあるお茶が入っている鉄瓶を湯飲みに傾けつつ、沙穂が柊真に尋ねる。
「開拓者に行って貰うか、囮として自身に行って貰うか悩んでいる」
「その辺は決めてもらった方がいいかもね」
 悩む柊真の前に沙穂が湯飲みを差し出す。
「そうするか‥‥」
 湯飲みを受け取った柊真がぬるい茶を飲む。
 椎那が主幹室に現われ、手紙を渡してきた。
 裏を見れば、やっぱり麻貴の名前。


 この間は癇癪起こして悪かったな。
 キズナはやっぱり大事だから、利用していると思われるのは我慢ならなかった。
 キズナは元気か?
 そろそろ俺の用事も終わるから麻貴を返す。
 麻貴は随分とお前達からハブられていた事にショックを受けていたぞ。
 護ると遠ざけるは別物だ。
 カタナシの悪い癖だな。
 まぁ、麻貴は元気だ。
 怪我一つ無い。
 とりあえず、麻貴を脅して調査しているから麻貴の処分とかやめろよな。

 追伸
  麻貴の寝起きは可愛いな。


 もう一枚は麻貴からの手紙だ。

 開拓者の皆はどうしているか心配だ。
 私が火宵と共に行動している事に驚いてはいないだろうか。
 私とて鷹来家を護りたい。自分に何が出来るかはわからないが‥‥
 そろそろ私は返されると思う。
 ちゃんと御飯も食べているから心配するな。
 それと、火宵と未明から潜入している時のお前の話を聞いた。
 眠れない時は火宵がお前の話をしてくれた。
 なんだが、子供の頃を思い出すよ。
 とりあえず、柊真サイテー。


「あいつ、何話しやがった‥‥」
 ぐしゃりと、柊真は手紙を握り締めた。


■参加者一覧
滋藤 御門(ia0167
17歳・男・陰
劉 天藍(ia0293
20歳・男・陰
御樹青嵐(ia1669
23歳・男・陰
紫雲雅人(ia5150
32歳・男・シ
珠々(ia5322
10歳・女・シ
輝血(ia5431
18歳・女・シ
フレイア(ib0257
28歳・女・魔
叢雲 怜(ib5488
10歳・男・砲


■リプレイ本文

 監察方四組主幹室には呆れ顔の梢一と不機嫌顔の柊真がいた。
「随分とふて腐れてますね」
 そう笑うのは紫雲雅人(ia5150)だ。
「惚れた女と女誘拐した男にこんな文を貰って苛つかない男なんざたかがしれてる」
 言い捨てる柊真にフレイア(ib0257)が微笑む。
「意外と可愛らしいのですね」
「麻貴さんを交換材料に使う時点で利用しているというのに‥‥」
 声音を低く呟いているのは劉天藍(ia0293)だ。
「俺達は羽柴様の命を狙った連中を調べる為に君達を利用しているわけだ」
「それは仕事でしょう」
 御樹青嵐(ia1669)が言えば、輝血(ia5431)が瞳を伏せる。
「大義名分だろ。白と黒しかない世界は楽ではあるが」
 柊真が言えば、滋藤御門(ia0167)を見やる。彼は別段様子は普通だ。柊真の様子に気づき、いつもの花のような笑顔を見せる。
「僕は大丈夫ですよ。麻貴様のお顔が見れてほっとしてます」
 初めて会った時はこんな風に受け止められる少年ではなかったはず。
 頼もしい御門の様子に柊真と梢一は笑みをこぼす。
「今回こそ監視者を捕まえるのだ!」
 ぐっと拳を握りしめる叢雲怜(ib5488)に珠々(ia5322)も頷く。

 柊真がいる条件の上で青嵐と輝血は壷振り女の尋問を許された。
「そいや、花びらってどんなのだ? 紙で出来ているのか?」
 思い出したように柊真が尋ねると、女は首を振る。
「絹だよ。市にでているような簡単に入るもんじゃないよ。質が違いすぎるよ。多分、輸入もんじゃないかね」
「たかが連絡の為に使うなら絹を使うのは相当金の使い方がわからないという事でしょうか」
 ふむと考えるのは雅人だ。
「今、花びらを持ってますか?」
「ああ、あるよ」
 御門が女の代わりに会うので、その合図の花弁を出してもらう。
「後、奏生の地理をわかってなかった。あれは余所ものだよ」
「余所者を使ってやらせていたのか」
 ふむと、輝血が思案する。
「地方の有力者とかでしょうか」
 御門の呟きに輝血は「かもね」とだけ言った。
 火宵と麻貴の様子に関しては仲間にしてはぎこちない気はするが、場数だけは踏んでいると女は見たようだ。確かに、個別で考えれば二人は場数だけは踏んでいる。
 女の尋問を終えて、柊真は花弁を指先で弄びつつ黙り込んでいた。
「カタナシさん?」
 柊真の様子に気づいた雅人が声をかける。
「いかがしました?」
「いや・・・・考えを纏めている」
 断ってくれるだけ以前よりはマシと思い、御門もそれ以上の追求をやめた。
「彼女の代わりに行ってきます」
 差しだされた御門の繊手に柊真は思い出して三枚あった内の二枚を渡した。
「一枚持たせて貰う」
「わかりました」
 御門が頷くと、フレイアが手紙を御門に差し出した。
「羽柴様からの伝言です。火宵さんが遼咲の呪花冠として麻貴さんを浚ったなら、鷹来家関連と見てもいいやもしれないと」
「・・・・確かに、そうかもしれませんね」
 低く唸る雅人に青嵐が手配をと言おうとした瞬間、もう調査は出していると柊真が言った。
「では、今はその調査の結果待ちですね」
「ああ」
 だからさっき柊真は言葉を濁したのだ。

 天藍は先に美冬に会い、繚咲のお家騒動について話を聞いていた。
「次期当主‥‥麻貴さん、沙桐さんのお父様の花嫁候補のお一人が亡くなったと聞いてます」
「一人? 複数いるのですか」
「ええ、繚咲の当主の結婚は繚咲内の天蓋以外の有力者達の娘から選定されているのです」
 目を見張る天藍に美冬は頷く。
「それとアヤカシの関係は?」
「わかりません‥‥ですが、亡くなったお嬢様は毒殺と聞きました」
 話を切り上げ、天藍はキズナの方へと向かった。
「あまり会えなくて残念でしたが、今回はお話ができて嬉しいです」
 嬉しそうに笑うキズナに天藍は初めて会った時のキズナを思い出す。
「業雲君が、今度一緒に遊びたいような事を言っていた」
 世間話を切り出すと、キズナは頷く。
「怜は砲術士って聞きました。一緒に狩りとかしてみたいです」
「そうか‥‥」
 のんびりとキズナと話をしている天藍はキズナの様子をじっくり見る。
 本当に大事にされて、意志を持って貰っている事がよく分かる。
 遅れて青嵐と輝血が現われると、いくつかの質問をキズナにぶつける。
「麻貴さんの事ですか。ボクが誰ですかって聞いたら、繚咲のお姫様って言ってました」
「繚咲の? 理穴のではなくて」
「本来は繚咲のお嬢様だって聞きました」
「では、麻貴さんの話をしてる時の火宵さんの様子は気にされましたか?」
 青嵐の言葉にキズナは首を傾げたが、少し思案してから口を開いた。
「んー。上原さんと無事に祝言できるか心配してました」
「‥‥結局は繚咲の呪花冠が鍵なんだね」
 ふーっと、溜息をつく輝血を見て、キズナは首を傾げる。
「火宵様は麻貴さんが双子の弟をとても大事にしているとききました」
「ああ、うん、そうだね」
 麻貴が男装をしているのは自分が男装をしている事で沙桐がそばにいると思い込ませている為だ。
「そんなに大事なら、苗字だって同じにしたいって思うのに出来ないのが可哀想だと火宵様が言ってました」
「それなら沙桐が動くはずなのにそうなってないのってどういう事だ」
 輝血の言葉に天藍と青嵐も顔を上げて見合わせた。


 雅人は役所の外に出て人を待っていた。
「お待たせ」
 そう言って出てきたのは壷振り女の姿になった沙穂の姿だった。
「よく似てますね」
 沙穂は元々潜入調査を重きにおいている為、変装ごともよくやるそうだ。
「背格好が似てて良かったわ」
「それではお願いします」
 沙穂が頷くと、二人は繁華街へと入っていった。

 繁華街に入ると、雅人と沙穂は裏道に入り、様子を窺う。
「あ、お二人とも」
 フレイアがこっそり声をかけると、二人は彼女も裏路地に引っ張り込んだ。
「何なんですか? 任侠者の出入りが多くって。繁華街だから仕方ないですが」
 フレイアは女が会う予定の料亭の下調べに行っていたが、繁華街に入るなり、任侠者が何かを探しているようだと言った。
「それって、壷振り女の事でしょうか‥‥」
 雅人が言えば、沙穂が片翼の鳥を見つけると手を振る。鳥は旋回して消えてしまう。暫くすると、御門が現れた。
「どうにも、壷振り女を探しているようです」
「‥‥沙穂さん、囮をお願いします」
 雅人の言葉に沙穂は頷いた。

 青嵐は輝血と共に未明と青嵐が会った場所に来ていた。
「‥‥懲りないね。アンタも」
 呆れ声の未明が声をかける。
「麻貴は?」
「火宵様ともう行ったよ。こんな所にいても意味はないんだから、早く壷振り女が待ち合わせていた店にお行きなよ」
 輝血の言葉に未明は手を振って二人を追い払う。
「繚咲の呪花冠が関係するの?」
「麻貴がいる事で得をしない連中がいるのは確かだよ」
「火宵の目的は」
 青嵐が尋ねると、未明は溜息をつく。
「余計な被害を出さない為に情報収集しているのさ。火宵様は麻貴を監察方の人間ではなく、繚咲のお嬢様として連れて行った。どーせ、あんた達には得体の知れない人間が何を言うって話だろうけどね」
 それだけ言うと、未明は消えてしまった。
「あの方角は上原家‥‥キズナさんを迎えに行ったのでしょうか」
「‥‥そうじゃない?」
 それだけ言って輝血は繁華街の方へと足を向けた。


 珠々と怜は先に監視者の塒へ赴いていた。
 閑静な住宅街であるが、隣家とは少し離れている所だった。
 抜足を使い、珠々が様子を窺がっているが、特に大きな反応も無く。複数いるようには思えなかった。
 相手がシノビである事を鑑みれば、自分のように抜足を使っている可能性は否めない。
 情報が足りないと感じるなり、珠々は肩を翻すと、藍色の鳥が入れ違いに飛んでいったのを確認した。
 相手に悟られないような距離に怜は潜んでいた。
「珠々、どうだった?」
「‥‥大まかに見る限りは一人かと。あと、天藍さんが来ました」
 天藍の名前に怜は珠々が戻ってきた意味に気付く。
 少し珠々が休んだ後、二人は外に出た。
 珠々が天藍の方まで行くと、手の平を使っての筆談で人魂を飛ばした様子を伝えた。人魂の偵察からも一人しかいないようだった。
 怜が短筒を抱え、監視者の塒へと向かう。
 相手がシノビだというのに足音を消さず、堂々と歩いているのは隠れる必要が無いから。家の前に着くと、怜は物怖じもせずに戸を蹴飛ばした!
 短筒を構えた怜の視界の中に入ったのは血が染みた包帯を腹に巻いたあの時のシノビ。

 今こそ捕まえる!

 怜が引いた引き金と監視者が投げた苦無は同時だ。
 微かな振動が怜と監視者の間で震えた。
 一気に閃光が走り、監視者は視界を奪われた!
 だが、超越聴覚を持つ監視者にはショートカットファイアを使ってもう一度撃とうとする怜の動きも間合いも把握した!
 もう一本の苦無で監視者が走り出した瞬間、その動きは封じられる。
 自分の腰周りで鳥の羽ばたく音が聞こえる。
 夜に小鳥が羽ばたくわけが無い!
 超越聴覚を持っているのは自分だけではないのだ!
 珠々が足元から潜り込むように抜足で音を隠し、羽ばたきを頼りに珠々が監視者の傷ついた所を抉り、傷を広げる。
 シノビであるが故に悲鳴は出なかったが、満足の行く治療を施されているわけではなく、志体持ちといえど、傷は塞ぎきっていなかった。
 それでも監視者は動きを止める事無く、怜を狙う。
 怜が練力の弾丸を監視者の足を貫通させた!
 動きを止める事を知らないのか、怜の眼前まで迫った監視者に天藍は呪縛符を施した。
 呪縛符を施された監視者に珠々が舌噛み防止に手拭いをかませる。
「どこの監視依頼か吐いて貰うからな」
 天藍の言葉に監視者はここで話すと言うと、自分から話し出した。
「俺は元々‥‥羽柴麻貴を監視するように言われていた‥‥」
「誰から」
「言うと思うか」
「言ってもらいます」
 監視者の軽口に珠々が淡々と答える。
「羽柴麻貴が鷹来家当主と再会した事を快く思わない者だ」
「再会? 麻貴が娘である事じゃなくて?」
 怜が首を傾げると、監視者は「同じ事だな」と自嘲する。
「そろそろ痺れを切らした奴がいるって聞いてな。羽柴麻貴の家族を狙えば黙らせる事ができる」
「待って下さい。それは貴方の仲間じゃないのですか?」
 珠々の言葉に監視者は首を振った。
「麻貴を狙っている人はまだいるって事?」
 違うの様子に怜が声をかけると、監視者は頷いた。
「そういう事だ。羽柴麻貴は最終目標ではない。あくまで最終目標は別だ。」
「別とはどういうことだ」
「俺は鷹来家や有力者がどうなるかはどうでもいいが、繚咲だけは全うになってほしい」
 監視者はそこまで言うと、歯軋りをするように歯噛みする。異変に気付いたのは珠々だけで、即座に監視者の口の中を開けると、悔しそうな様子で俯いた。
「自害したか‥‥」
 静かに天藍が呟いた。


 花弁を持って現われた御門は壷振り女が言っていた店で案内を受けた。
 離れの部屋で御門を待ち受けていたのは本当に壷振り女が言っていた通りの人物よりも生真面目だと御門は感想を持った。
「貴方は‥‥」
 戸惑った黒幕と思われる男は御門にどうしたらいいのか悩んでいる。ちらりと、後ろのお付の男の方を見やれば、用心深く御門を見ている。
 お付の男は一人だった。
「あの女がもう降りたがっていてさ。代わりにやらないかって誘われたんだ」
 御門がいつもの口調を崩して男に話を切り出す。
「降りたいと言っていたのですか」
「そうだよ。こっちもヒマしてたし、金になるんだろ」
「それなりの手練を用意できるのか」
 サムライとおぼしき男が言えば、御門は興味なさそうに頷くがその視線の先にあるのは黒幕の男。
「あんた、顔色悪そうだよ」
 御門の言葉に男はそんな事はないと言った。

 色んな意味で囮役となった沙穂はシノビの身軽さを利用して繁華街のあちこちを回っていた。影で追う雅人がシノビだから出来る芸当だ。
 ふと、雅人が視線をめぐらせて行くと、影を感じる。
 誰か、沙穂を見ている。
 複数かは分からないが確かにいる。
 目を凝らして雅人が見た先を確認した瞬間、雅人は回りこむように走り出した!
 その路地の向こうにいる影に辿り着いた雅人は苦無「獄導」を影に投げ込む。そのまま突き進み、影の捕縛を試みる。
 影が振りほどいた所から苦無は命中したのだろう。即座に雅人へと投げ返されるが、雅人は何とか避け、苦無も誰にも気付かれず、店の柱の影に突き刺さる。
 忍刀を取り出して捕まえようとしたが、逃げられた。
 雅人が沙穂の方へと戻ろうとすると、気配に気付き、忍刀を振り上げる。刀が受けたのは同じく忍刀の刃。
「シノビか」
 雅人が背後からの気配に気付く。風が雅人と影の間に吹いた気がしたが、そこにいたのは茶色の髪の少年。
「加勢するよ」
 後ろから艶っぽい声が聞こえる。
「未明‥‥何故‥‥」
「もう、用は終わったからね」
 多勢に無勢と理解したその影もまた逃げられた。
「料亭に向かいな。そこにいるよ」
 未明が言えば、雅人は頷くが、少年が気になる。
「キズナです」
「紫雲、雅人です」
 自己紹介の後、未明が声をかける。
「劉って人に御礼を伝えて。良い蕎麦をありがとうと。後、あの影二つ。壷振り女を雇ってた黒幕のお付かも。気をつけて」
「怜にも伝えて、絶対遊ぼうねって」
「わかりました」
 二人の伝言を受け取った雅人は沙穂と共に料亭へと向かった。


 とりあえず次会う約束をした御門だが、それは二人の闖入者の手によって遮られた。
「なんだお前ら!」
 お付が言えば、片割れが軽薄に笑う。
「お前らが何者か調べに来た」
 御門が火宵と麻貴なのは分かっているが、ここで名を言う訳には行かない。
「繚咲の関係者か」
 麻貴が言えば、雇い主の男ははっとなる。
「繚咲を存じているのですか!」
 はっとなる男にお付の男が麻貴に食いつく。男は麻貴を見て何も気にしていない。目の前に殺したい相手がいるのに。
「出るぞ」
 障子の向こうより退却の声が聞こえ、お付の男は雇い主の男を連れて行ったが、雇い主の男は根付けを落とした。
「羽柴麻貴、次こそは」
 障子の向こうから忌々しく声が聞こえた。
「逃がさない」
 輝血と沙穂、雅人が後を追い、何とか方角だけは見定めた。

「火宵、目的は達成されたのか」
「俺はな」
 麻貴が尋ねると、火宵が頷く。離れには麻貴と御門、青嵐、フレイアそして、火宵がいる。
「鷹来家を調べて何をするんですか」
「余計な被害を齎したくない。それだけだ」
 青嵐の言葉に火宵はあっさりと言う。
「あの、麻貴様を守って下さってありがとうございます。肩はもう大丈夫ですか?」
 御門が火宵を気遣うと、当人は目を見開いたがすぐに人懐っこく笑う。
「気にする事はねぇよ」
 火宵が言うと、彼も闇夜に紛れてしまった。
「残念ですね」
 フレイアが火宵が消えた方向を眺めた。

 とりあえずは、麻貴が戻ってきた。