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■オープニング本文 神楽の都に近いとある街に晴れっ傘の螺茜と呼ばれる子供がいた。 晴れの日も雨の日も必ず同じ傘を差している子供。 父親が腕のいい和紙職人であったからで、彼が作った傘をいたく気に入っているようだった。 現在は知り合いの工房の手伝いで一つ山向こうの工房に出向いて留守にしている。 父が早く帰ってきてほしいと願いつつ、自分がここにいる事を分からせる為に螺茜は晴れの日も傘を差している。 そんなある日、螺茜の家の蔵に奇妙な綿のようなものがちらちら目にしているようだった。 時折しか扉を開けなかったのだが、それが次第にはっきり視界に入り、蠢いているのだ。 「螺茜、蔵に入っちゃダメだよ」 「どうして?」 まっすぐ見つめる螺茜に祖母が穏やかに諭す。 「アヤカシがおるんだよ」 「わるいやつか」 「ああ、そうだよ。人を傷つける悪いやつらさ」 「おれがやっつけようか」 螺茜には動きに自信があった。年上のいじめっ子にも螺茜には敵わない。 「お前じゃ何も出来ん。これからばーちゃん達が開拓者を呼ぶ。父ちゃんが帰ってくる前に蔵の掃除をしてもらうんだ」 首を振るばーちゃんに螺茜は素直に頷いた。近々、父親が帰ってくるのだ。 その次の日だ。 街を歩いていた螺茜が街の人達の話が聞こえた。 「ああ、あの山道だろ」 「猟師が喰われたってよ」 「やだねぇ」 彼等が言っていた山道は螺茜の父親が知人の工房に行く時に使う道。 このまま使えないとなれば、父親の帰りも更に遅れてしまう。 そんなのは嫌だ。 螺茜が走り出した先は開拓者ギルドだ。 「あら、どうしたの?」 入口付近にいた受付員に声をかけられた。 「えっと、アヤカシを退治してください!」 「わかりました。こちらでお話を聞きましょう」 にっこりと微笑む受付員に螺茜は傘を閉じてその後ろを歩く。 受付員より麦茶を貰ってごくごくと飲み干して自分が沢山走った事を思い出した。 「さて、君が見たアヤカシはどこで見たの?」 「この街から北にある街の更に向こうの山でアヤカシが出るって聞いたんだ」 受付員はおっとりした口調であったが、螺茜の話を聞いてくれた。 粗方話した螺旋はある事に気付く。 「あ、お金はこれで‥‥」 巾着の中に入っているなけなしの小遣いを机の上に置くと、受付員は少しだけ受け取った。 「そんなのでいいの?」 「いいんですよ」 受付員の笑顔に絆され、螺茜は帰っていった。 螺旋が帰った後、受付員は自分が受けた依頼書を確認していた。 「これにつけたしてっと」 とある一枚の依頼書に受付員は付け足した。 ある民家の蔵に出没したアヤカシ退治の依頼だったが、その民家の近くの山道に出るアヤカシ退治を付け加えた。 |
■参加者一覧
万木・朱璃(ia0029)
23歳・女・巫
小伝良 虎太郎(ia0375)
18歳・男・泰
オドゥノール(ib0479)
15歳・女・騎
杉野 九寿重(ib3226)
16歳・女・志
叢雲 怜(ib5488)
10歳・男・砲
戸仁元 和名(ib9394)
26歳・女・騎
ディラン・フォーガス(ib9718)
52歳・男・魔
弥十花緑(ib9750)
18歳・男・武 |
■リプレイ本文 開拓者を初めて見た螺茜はぽかーんと彼らを見た。やっぱり傘は差したまま。 ディラン・フォーガス(ib9718)のような逞しい男であれば納得がいったが、綺麗なお姉さんにお兄さん、自分と変わらない子供もいて意外すぎて何もいえないようだった。 「おねーさんにまっかせなさい☆」 腕をまくって眩しいほどの笑顔で言い切った万木朱璃(ia0029)に螺茜は驚く。 「綺麗なおねーさんなのにか!!」 叫ぶ螺茜に朱璃は「おねーさん煽ててもご飯は出るわよ」と誉められて嬉しいようだ。 「ねぇ、なんで晴れの日でも傘差してるの?」 気になって仕方ないのは小伝良虎太郎(ia0375)だ。 「父ちゃんが作った傘なんだ」 「あ、そうなんだ」 「父ちゃんは紙職人だけど、絵もうまいんだ」 螺茜が答えると、虎太郎はそうかと納得した。 「確かにいい職人だな。螺茜という名前も洒落ているし、なぁ坊主」 ぐりぐりっと、螺茜の後ろから頭を撫でるのはディランだ。 少し離れた所で戸仁元和名(ib9394)が「えっ!?」と一人驚いて、何か言おうとしたが、螺茜と目が合う。坊主と言われた螺茜は和名ににんまりと笑みをつくり、ぴんと立てた人差し指を口元に当てた。 「‥‥す、すみません」 その様子を見ていた弥十花緑(ib9750)はくすりと微笑み、オドゥノール(ib0479)もちらりと見ていた。 「螺茜さんはええ子やなぁ。傘も髪飾りもよう似合ってます」 「‥‥父ちゃんの事を誉められるのは嬉しいから」 花緑が言えば仕草で紗が流れるように揺らめく。その微笑を見た螺茜はちょっと恥ずかしそうに俯いた。 「大好きなパパ上が無事に帰れるようにアヤカシ倒してくるからな!」 叢雲怜(ib5488)が元気よく言えば、螺茜は頷く。 年少二人が笑い合う姿を見て、杉野九寿重(ib3226)は実家にまだいる姉妹弟を思い出す。 ●蔵のお掃除 「確かに、掃除だな」 ふむと納得したのはオドゥノールだ。 中は薄暗く、少し埃っぽい 「そうですね。どれくらいのアヤカシがいるか悩みどころですが‥‥」 話に寄れば、蔵を開けるのは数ヶ月に一回あるかないからしい。 瘴気があれば繁殖もその時々である。 「兎も角、蔵の品を傷つけないようにする事だな」 オドゥノールが袖を捲くったり、髪を簪でざっくりと纏めると、螺茜の母親が「あらあら」と彼女の髪を纏めなおす。 「みどりの黒髪ね。お節介してごめんなさいね」 黒なのにみどりと首を傾げるオドゥノールに花緑がこっそり教える。 「みどりとは新芽や若い枝の事。綺麗な若々しい髪と言う誉め言葉ですね」 「‥‥ありがとう‥‥」 誉められるのは嬉しい事。オドゥノールは少し気恥ずかしそうに呟いた。 「蔵の中だと小回りが利く武器がいいですよね‥‥」 おずおずと忍刀を抱えている和名にオドゥノールが頷く。 「とりあえず、突きを主体に応対しようと思います‥‥す、すみません、大雑把で‥‥」 きゅっと目を瞑る和名だが、九寿重も同様だ。 「雪喰蟲もどのような規模かも分かりませんから、その方がよいと思います。私も同じように戦う予定です」 九寿重の言葉にほっとしつつ、和名は「すみません‥‥」とまた言ってしまう。 「とりあえずは品々を護りつつアヤカシを殲滅する事だ」 オドゥノールが蔵の方へと向かうと、三人もそれに従った。 蔵の中はあまり光が差さない為、少し薄暗かった。 そっと心眼を発動させるのは九寿重だ。 「結構多いですが、ある程度固まっているようです」 方向を指し示すと、三人が動き出す。九寿重は三人が行かなかった方向へと向かう。 そっと歩きつつ周囲に神経を研ぎ澄ます九寿重は視界の端に動く何かを見つける。薄暗闇の向こうを見据え、動きを止める。 自分が動いた風ではない。 本能的に向こうもまた、捕食せしものと認識しているのかもしれない。 その前に‥‥ ソメイヨシノに赤い燐光が煌き、一歩踏み出した九寿重は蠢く黒に突き刺した。 綿の感触は分からないが中を突いた感触だけは分かった。 慎重かつ、素早く和名は移動している。 すこし視界を逸らせば、紙の飾り折や絵が置かれている。 受け継ぐべきものを危機に晒すわけにはいかない。 決して壊してはならない。 心に思う瞬間、そっと作品に這いよる黒い綿毛に和名は即座に近づき、逆手に構えた忍刀で綿毛の向こうにある急所を見抜き、突いた。 作品には触れないように、周囲を傷つけないように素早く振り、通路の上に動かなくなったアヤカシを置く。 ある程度奥へと入った花緑が視界の端に 「さ、お仕事や、精霊さん。此の度もよろしゅう」 穏やかに言う花緑が武器を掲げると、どこか強い気を纏う精霊が見えた。無駄な動作なく、花緑が杖をゆっくり降ろすと、精霊は一気に雪喰蟲へと向かった。 精霊が雪喰蟲を貫くと、ぱちんっと蟲は弾け、綿のみとなった。 一つ撃破した花緑がふと、肩の気配に気付く。 いる、自分の肩に‥‥! ぱちんっ 自分の耳元近くで手を叩く音がし、花緑は反射的に目を瞑った。 そっと、花緑が目を開くとそこにはオドゥノールがいた。 無表情の彼女が柳眉を険しく寄せていた。 確か、彼女は自分とは違う方向へ歩いていたはずなのに、もう仕留めたのだろうか。花緑が見ている中、オドゥノールは嫌そうな顔をして両の手の平を見ていた。 「‥‥やるんじゃなかったかな‥‥」 想像とは違う感触があったようで、騎士として平静にすべきと己を律する彼女でもその感触は遠慮したいものだったようだ。 「‥‥そら、蟲ですから」 「‥‥そうだな」 花緑の言葉にオドゥノールは素直に頷いた。 それから小さな雪喰蟲を丁寧に排除し、最後に九寿重が一度心眼をかけてアヤカシがいなくなった事を確認する。 「とりあえず終わりましたし、掃除をしましょう。折角蔵に入ったのですから」 九寿重の手にはいつの間にかはたきがあり、蔵の外で待っていた螺茜にアヤカシの殲滅を伝えた。 「これから何するの?」 「お掃除です」 「俺も手伝う!」 螺茜も加わり、蔵の掃除が始まった。 ●山のお掃除 山道組はそろそろ現場に着くころだ。 「結構、被害でてるんだよな‥‥」 ぽつりと虎太郎が呟く。 「うん、だから絶対に逃がしたらだめなんだぜ」 虎太郎の言葉を聞いて怜も頷く。 「ああ、坊主の親父さんが早く戻れるようにしないとな」 道すがら彼らは聞き込みもしていた。 何も知らずに通る遠くからきた旅人なんかも被害に入っているようであり、飛脚も碌に動けなく、足止めを喰らっているようだった。 「さて、そろそろですよ」 顔を上げた朱璃がきりりと表情を引き締めて向こうを見据える。瘴索結界を使ってアヤカシの捜索をしていた。 巫女の朱璃の様子に三人も同様に表情を引きしませて自分の武器を構える。 山道は木々に囲まれた場所であり、向こうから来る気配は木々を避け、自分の達の方へと駆けて来ている。 前に出たのは虎太郎だ。 「こいっ」 両の手にはめられた甲にはそれぞれ風神雷神が彫られている。 他の三人が前に出た虎太郎に合わせてそれぞれ背中を預け合う。 虎太郎が見た姿は二体。 情報は四体。まだどこかにいる。 間合いを見ていた虎太郎が一歩前に出ると前傾に構え、剣狼の動きを引きつける。体に触れるか否かギリギリの所を右に飛び、剣狼の噛みつきを避けた。 頬に剣狼の刃を受けても怯むことなく横から虎太郎が一体に二度攻撃を与えた。 瞬間、甲の風神雷神になぞらえて風と共に雷が剣狼に衝撃が走る。 二度の攻撃に剣狼が地に無様に倒れ込み、そのまま大きく痙攣を起こし、そのまま動かなくなる。 もう一体は虎太郎の左隣の怜が受け持つ。 剣狼は怜の銃のすぐ近くに迫ったが、彼は冷静だった。 剣狼をギリギリまで引きつけ、素早く銃を引き抜く。今回彼が持っているのは短筒。ショートカットファイアを使い、即座に撃つ。狙うは頭部。余力など残す必要はない。一撃でしとめる。 轟音が響いた瞬間、弾丸は剣狼の眼を貫き、頭半分を吹き飛ばした。 頭半分だろうと奴は血を吹き流しながら怜に向かう。 目の前にある旨そうな肉を食いかじる為に。剣狼が怜に触れた瞬間、彼の肩に痛みが走った。 「怜君!」 朱璃が精霊砲を打ち放ち、剣狼の後ろ足を吹き飛ばす。 みすみす食わすわけには行かないのだ。 怜は練力を込めてもう一度引き金を引いた。 強い衝撃は剣狼の頭部を打ち砕き、ようやっと剣狼は動かなくなった。 「追加が来るぜ!」 ディランが叫ぶなり彼は詠唱を始める。 近づけさせるわけには行かない。今、朱璃が閃癒で虎太郎と怜の治療をしているのだから。 今の所は一匹。 まずは機動力を削る為にホーリーアローを放つ。右前足を動けなくする。 足を奪われ、剣狼の動きが鈍くなると同時に怜の声が響く。 「もう大丈夫なんだぜ!」 その言葉を聞き、ディランはすぐに別の詠唱を始める。 ディランの渋く低い声に惹かれるように風がゆっくり集まりどんどん渦巻く速度を上げていく。渦巻く風の振動をディランは肌で感じる。 指で銃の形を作り、撃つ真似をした瞬間、風は弾丸の如く走って剣狼を斬り裂いた。 「後一匹‥‥」 もう一度調べた朱璃が前に出る。 「囮になるよ!」 虎太郎が前に出た。ディランが先にホーリーアローで剣狼の軌道を修正するように足下を狙う。 最後の一匹は虎太郎の姿を見つけ、更に速度を速める。 背拳使い、飛びかかる剣狼を回避した。次に怜が足の付け根を狙うと、そのまま左前足が弾け飛んだ。 「これで終わりです!」 朱璃の叫びと共に放った精霊砲が剣狼の上半身を吹き飛ばした。 「後はほかにアヤカシがいないか確認していこうか」 ディランの言葉に全員が頷いた。 四人で声を掛け合いつつ、朱璃の瘴索結界を適宜使いつつ、下山していく。 アヤカシの姿は見受けられなかったので、四人は街によって、アヤカシの討伐成功である事を伝え、飛脚に山向こうの街の方へその知らせを運ばせた。 ●未来の職人へ 山組が螺茜の家に戻ると、蔵組は螺茜のお母さんの差し入れで桃を食べていた。 「お疲れさま、暑かっただろ」 笑顔で螺茜が山組を迎い入れる。 「わ、桃だ」 「うまそう」 「まずは手を洗いましょうね」 喜ぶ怜と虎太郎に朱璃が一言入れると、山組達が井戸の水を汲み上げて手を洗う。汲み上げた井戸水は火照った肌にひんやり優しかった。 「雪喰蟲がまだ残ってるなら手のひらでぱちーんとやりたかったな」 ちょっと残念がっているのは虎太郎。彼女の他にも興味がある者がいたようだった。 「先程オドゥノールさんがやってましたよ」 「どんなんだった」 九寿重の言葉に虎太郎がわくわくしてオドゥノールに問うと、彼女はそっと顔を背ける。 「やっぱりむしだった‥‥」 その言葉に虎太郎は「ああ」と何かを察した。現実のアヤカシは夢をくれなかった模様。 「特に異常がなくてよかったです」 微笑むのは花禄。アヤカシの被害に遭ってないか螺茜の家族を看ていたようだ。 「皆、アヤカシ退治お疲れさま。すぐに父ちゃんも帰ってくると思うし、すごく嬉しい。本当にありがとう」 今日も傘を差す螺茜の笑顔は晴れやかだ。 「やっぱ、傘を差したら父ちゃんに会えるのかな」 傘は螺茜の父親が作ったものだから意味はないと、元気いっぱいの虎太郎の表情が陰る。 「虎太郎。虎太郎は父ちゃんから何を貰った? もしかしたら物で貰ってないかもしれないけど、虎太郎が会いたいって気持ちを諦めなかったらきっと会えるよ。俺は父ちゃんと会うのを諦めなかったから皆がアヤカシを倒してくれたんだから」 「そっか。うん、諦めない」 虎太郎に笑顔が戻ると、怜がひょっこり加わる。 「三人で遊ぼうぜ!」 三人が頷きあうと、何して遊ぶか相談しあう。虎太郎は随分とお兄さんであるが、面倒見よく付き合っている。 「しかし、晴れ傘は涼しいんやろか」 縁側で首を傾げる花禄にたまたま駆けていた螺茜が気づき、日傘を花禄に渡す。 「肩が熱くならないからすごくいいんだ」 「ええのですか?」 「特別」 にこっと笑う螺茜に近くにいた和名が声をかける。 「その傘、よう似おうてると思うよ‥‥髪飾りも素敵よ」 「和名ねえちゃんはねじくれた格好をした俺のこと、よくわかったね」 悪戯っぽく笑う螺茜に和名は微笑む。 「後で、櫛いれよか‥‥」 和名が言えば螺茜はお願いするねと笑う。 その向こうで怜が螺茜を呼ぶ。 大人達は蔵の中の作品を見てきた。 受け継がれる細工された紙や絵‥‥どれも目の保養だ。 ここにないものは寺や神社に奉納したとか。 帰り際、和名に髪を綺麗に梳いて貰った螺茜にディランが声をかけた。 「お前も職人になるのか」 「うん、もう少ししたら修行する」 こっくりと頷く螺茜にそうかと口元を緩ませる。 「いつか俺に、クールな傘を作ってくれよ」 「うん、いいよ。お客さん、お目が高いね」 螺茜の言葉にディランは楽しそうに声を上げて笑う。 「青田買いだな、しっかり予約したぜ 」 またねと手を振って別れを告げた。 数日後、螺茜の父親が家に戻り、久々に団欒となった。 |