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■オープニング本文 小春日和の昼下がり、昼食を終えた受付嬢は心地よい眠りがきていた。 このまま寝てしまおうかと思ったとき、そこに現れたのは華奢な体躯に白い肌、艶やかな黒髪、頬にささやかに紅がさしている。 紅顔の美少年‥‥まさにその通りの人物がそこにいた。 「‥‥!!!」 「あの‥‥」 首を傾げればさらりと前髪が流れた。 「は、はい!」 眠気もどこへやら、受付嬢はその少年に釘づけ。 「悩みがあって‥‥」 「恋愛相談か何かですか?」 「いえ、先日、アヤカシを見たのです」 その言葉に受付嬢の表情が変わるが、少年は困った表情のまま顔を俯かせる。 「それも大変なんですが、その‥‥最近眠る時間になるとある人が僕の家の前にいて‥‥」 「付きまとわれているのですか?」 「ええ‥‥朝になるといなくなっているのです」 これほどの美少年だ。その容姿に惹かれて纏わりつこうと思う輩もいるだろう。 「どんな女性ですか?」 「違うんです」 「え、まさか‥‥」 「‥‥男性です」 しばし二人の時が止まる。 という事は、夜な夜な男が少年が寝る前の辺りに立っている‥‥? そっと受付嬢が身を引いてしまう。 同姓同士の恋愛を題材にした本を好む者もいるが、受付嬢はそういったものには興味がない。 「いや、僕はフツーです! 助けてください!」 悲痛な叫びがただただギルド内に響いていた。 |
■参加者一覧
犬神・彼方(ia0218)
25歳・女・陰
音有・兵真(ia0221)
21歳・男・泰
衛島 雫(ia1241)
23歳・女・サ
縁(ia3208)
19歳・女・陰
小野 灯(ia5284)
15歳・女・陰
輝血(ia5431)
18歳・女・シ
詐欺マン(ia6851)
23歳・男・シ
トーマス・アルバート(ia8246)
19歳・男・弓 |
■リプレイ本文 ●本日のゲストは開拓者! 思ったより深い林を抜けて出たのは一軒の結構大きな家。 話によれば林を抜ける前にある農村の地主の家だとかで依頼人の家は裕福な家らしい。 「んじゃぁ、俺等は当たりを探してくるぜぇ」 ぷかぁっと、ゆったりした口調と合わせて紫煙を吐き出したのは犬神彼方(ia0218)。 「よろしく頼む」 片手を挙げて頷いたのは音有兵真(ia0221)だ。隣にいる輝血(ia5431)とトーマス・アルバート(ia8246)は玄関を見つめている。ごめんくださいと、兵真が声を上げると、出てきたのは依頼人。今回は初めての仕事だというトーマスは確かに美少年だと納得し、見目麗しい者が多々見かける事が多く、美形美女に慣れてしまった受付嬢を紅顔の美少年と力説をかけられるだけあると兵真は思った。輝血に至ってはこれが悪人だったら思いっきりカモにできたのになと少し残念がった。見るのはそこじゃない。 「宜しくお願いします‥‥三人だけですか?」 「時間が惜しいから他の六人は情報収集に出ているんだ」 輝血が簡潔に言うと、少年は頷いた。 「そうですか。僕は紅葉といいます。今回は宜しくお願いします」 礼儀正しく頭を下げる紅葉は客間へと案内した。 「親御は?」 紅葉以外の人気を感じなかったのか、兵真が尋ねる。 「両親もお手伝いさんも今は村の方にいます。帰ってくるのは夕方くらいかと」 客間まで連れてきて、紅葉はお茶を持ってくると言って部屋を出た。 見上げると、梁の色あせがどれだけ長い間人が住んでいるのかよく分かる。どうやら、ここは古くからある地主のようだ。 お茶を乗せた盆を持ってきた紅葉が配膳をして座ると、兵真が詳しい話を聞かせてくれと言った。 「依頼書でも書いてあったが、もう少し詳しい場所が知りたいと思ってな」 「はい、僕の部屋は壁の高さ半分ぐらい上に一枚窓があるのですが、他にも上の方に小さな窓があるんです。そこから見ると、男の人が立っているたんです。後ほどその場所は案内します」 「小柄な中年の特徴は他になかったか」 トーマスの言葉に考え込んで俯く紅葉。 「うーん、あ、髪は金色に近いような坊主っぽい形で、上に白っぽい狩衣で中には黒っぽい着物を着ていたような‥‥」 狩衣という言葉が聞きなれていないのか、兵真がトーマスに説明をする。 「アヤカシを見た時に彼はいたか?」 「いいえ、いません。見てから来るようになって‥‥」 一度顔を上げた紅葉は怖くなったからか、また顔を俯かせてしまう。 「なんだったらさ、あたしでよければ彼女になるよ?」 人差し指で自分をさして輝血が声をかけた。 「え?」 「そういうのだったら、嘘でもいいから彼女がいるって強調したら結構引くもんじゃないかな。引かなかったらこっちで何とかするから。どお?」 「お、お願いします!助かります!」 願ってもいない輝血の提案に紅葉は嬉しそうに頷いた。 「じゃぁ、その場所に連れて行ってもらおうか」 話も纏まって、兵真はお茶をぐいっと飲み干した。 ●何が出るかな こちらは情報収集班。 「愛とは時に甘美で時に苦きものでおじゃる‥‥それが更に強くなるのは秋だからでおじゃろうか‥‥」 切なげに言うのは詐欺マン(ia6851)。 「一人身ならぁ、確かにそうだろうがぁ‥‥連れ合いがいてもより温もりを欲しがるもんだろぉなぁ」 火がついていない煙管を回して彼方が同意する。煙草を愛飲する彼方が吸っていないのは左手が包み込んでいる小さく可愛らしい紅葉の手を守る為。 「あかりは、かなたねーさまとおててつないでるから‥‥あったかい、よ?」 素直な感想を言うのは小野灯(ia5284)だ。そんな呟きに彼方は確かにそのとぉりだぁ!と豪快に笑っていて、衛島雫(ia1241)と縁(ia3208)が可愛らしい事を言う灯を見て微笑む。 何故自分の言葉で皆が笑うのか灯はよく分かっていないが、皆が笑顔なのは嬉しい事だから灯も笑顔になる。 農村にて、皆が得た情報は皆似たようなものであり、縁が丁度よく紅葉の両親とお手伝いの姿を確認できた。どうやら、アヤカシの目撃情報があるのは確からしく、まだ遠目でしか確認出来ていないようだ。縁が聞いた話だが、紅葉の両親は晩年に出来た子供であり、随分大事にしているらしい。 まだ被害者が出ていないのは幸いだと思い、情報収集班は合流場所の方へ向かうことにした。 農村ではあるが、入り口の方は街道も近い為、小さいながら宿がある。そこで夕食を取り、夜になったら張りこむ形にした。 先に情報収集班が食事を取っていると、残りの三人が戻ってきた。後ろには依頼人である紅葉もいた。依頼人が何故と思ったが、輝血が恋人同士の真似をするという提案で一度ここにいて一緒に家へ入り、親密に交際している女がいる事を強調しようという話だ。 「悪くない提案だな」 雫が頷けば、隣に座る雫の頬に味噌田楽の味噌だれがついていたので、雫はそれをとってあげる。 「弁当こさえてどこ行くんだ」 くすりと、笑って言えば、灯は首を傾げる。 「おべんとう、もっていく? アヤカシたいじに?」 「確かにいいかもしれんなぁ。腹が減っては戦ができぬってなぁ」 彼方が低く笑いながら里芋の煮っ転がしを摘み、口へ運ぶ。 「おにぎりでも握ってもらいましょうか?」 楽しそうに縁も言えば、皆がそれはいいと笑う。 天儀に着てまだ日が浅いトーマスはそれなりに箸が使えるが、豆を摘まむのはまだ難しいようだ。それを見た紅葉が箸の使い方を教えている。 「おお、掴めた」 「あまり力を入れるとかえって捕まえられないんですよ」 丁寧な紅葉の説明にトーマスが聞き入っている。摘まめた豆を口の中に入れれば、ふんわりとした甘みが広まる。 「うん、美味い」 「こちらの焼き物も食べてみるといい。山椒が効いて美味い」 兵真が差し出されたのは鶏肉を醤油に漬けた肉を山椒をつけて石焼で焼いたものらしい。パリッとした皮が歯ごたえよく、肉は柔らかく、肉汁と脂が溶け合っている。 「舞茸の天麩羅も美味いでおじゃるな」 紅葉おろしを天つゆに入れたものに舞茸の天麩羅を軽くくぐらせて頬張っているのは詐欺マンだ。サクサクの衣を齧れば、肉厚な舞茸が柔らかい歯ざわりを与える。 「山の幸が一杯ね」 幸せそうに縁が言えば、彼方が少し残念そうな顔をする。 「これで酒があればなぁ‥‥」 「仕事が終わったら飲めばいいだろう。 雫が言うのは最もだ。 「んく。たくさんの、ひとたちといっしょに、ごはん‥‥たのしいね」 よく噛んでから飲み込んで灯が一人呟いた。少年を見つめるおじさんともこうしてご飯を食べられたらいいのにと心の中で思いながら。 食事が終わっても出発するには少し早いので、そのまま少し体を休める事にした。 情報収集班も少年の話を聞く事にし、それから派生したのは依頼内容に関する事のある恋の話。 「やっぱり、自分の思いばかりぶつけるのはあまりよくないな」 「そうね、恋をすると匙加減が分らなくなるものともいうわよね」 「愛とは無数にあるでおじゃる」 「他に誰か相談出来る人間は必要だな」 「こいって、およめさんにいくこと?」 「うーん、飛びすぎかな」 「灯が嫁に貰うやつぁ、この俺を倒す事だぁな」 「一々薙ぎ倒していたら嫁にいけないから」 云々、喋り通していると、灯が少し目を擦る。 「少し眠るといい、起こしてやるから」 雫が言えば、灯は頷いているのか、舟を漕いでいるのか分らない状態でいて、彼方が胡坐をかいている自身の膝の上に灯の頭を乗せる。柔らかく優しい温もりは両親の温かさにも似ていて、灯はすぐに整った呼吸を繰り返した。 ●私って○○なんです。 そろそろいい頃合になり、雫は胡坐をかいた彼方の膝で寝ていた灯をそっと起こす。食事を取った後、灯は夜に備えて寝ていた。 「さて、行くか」 兵真が言えば、輝血と紅葉が頷く。先に二人を歩かせて、残りはこっそりつけて歩く。 恋人役である輝血が紅葉の腕に自分の腕を絡めて歩く。 「‥‥恋人じゃない人にこういう事するのって嫌じゃないんですか?」 ぽつりと輝血にしか聞こえないように紅葉が呟く。 「ん? 仕事でしょ。あたしは気にしないなぁ」 「すごいですね」 一言だけ純粋に敬いの言葉を紅葉が言えば、輝血が目を見張る。 「‥‥初めて言われた」 耳に残るのは騙していた事への男達の恨みや罵声。 「僕はそう思います」 「そっか」 何も考えたくないように輝血は紅葉の肩に頬を寄せた。 紅葉が教えてくれたポイントにはもう男は立っていた。紅葉が言ったとおり、狩衣姿に金髪の坊主頭。足音が聞こえ、男は少し驚いたが、紅葉が輝血と一緒に歩いているというのを見ると、安心したようにそのまま立っている。 二人が中に入ってもその様子は変わる事はなかった。 「違うのか?」 雫が首を傾げれば、抜足を使って男に接近するのは詐欺マンだ。 「愛と正義の使者‥‥なんと!」 驚いた事に、男は開拓者である詐欺マンの抜足に感づいたのだ。 「もしかして、陰陽師か?」 ぽつりと兵真が呟く。 「んあ?」 隣で兵真の言葉を聴いた彼方が口をぱかっと開けて、咥えていたキセルを落としかける。 「どわぁ! 何なんですか!」 でもやっぱり闇夜で至近距離をとられるのは怖いので男は声を上げてしまう。ついでに下の方から引っ張られる感覚にまた驚いてしまう。下を向けば、袖を引っ張る灯の姿。 「どうして、もみじを‥‥みているの? もしかして、まもって、る?」 首を傾げる灯に男はきょとんと、目を瞬かせる。 「は? いや、確かに私は時折紅葉君を心配そうに見ていましたよ?」 「誰かを想うのは辛い事ですが、紅葉君は怖がっています。どうか、わかってあげて」 「え? 誰が?」 真摯に縁が言えば、男は事情をよく飲み込めていない。 「あんたが紅葉が好きだから夜な夜なここに立っているんじゃないのか?」 トーマスがトドメの一言を入れる。 「そんなわけないでしょう! 私には愛する妻も子供もいます! 私は小阪睦和という開拓者です! 彼の両親に頼まれてアヤカシ退治を引き受けたんですよ?!」 男の叫びに全員が一瞬静まる。 「えええええ?!」 叫んだのは壁の向こうにいる紅葉だ。 確かに、男は紅葉の部屋の前に立っていた。 「んー、紅葉。あの人と目が合わない時も自分の方を見てたか確認した?」 ちょっと考えてから輝血は紅葉に首を傾げる。 「あ、いや、混乱して怖くてそのまま寝てしまって‥‥」 しどろもどろに紅葉が言うと、全員が溜息をつく。 全員の気が抜けた頃、ガサガサと草を踏みしめながら山の方から歩く音がする。全員がそちらを見れば、金色の体毛に鬣がほんのり緑色の二足歩行の獅子らしきアヤカシが‥‥ 「犬の神に従い、我が敵に喰らいつけぇ!斬撃符!」 先手必勝といわんばかりに彼方が斬撃符を発動させる。術を発動させた事によって、彼方に従い、アヤカシを喰らいつく影の如きの黒き犬の姿となり、アヤカシへ飛びかかる。 彼方に標準を決めたアヤカシが駆け出そうとすると、彼方の前に出た雫が咆哮をあげた。 「化け物め。貴様の相手はこちらだ」 腹に力を入れ、雫が剣を掲げ、アヤカシを見据える。 雫に注意を向けている隙に輝血がアヤカシの前に立つ。人の姿を確認すると、無意識に手というか、前足を振り回わす。撹乱するように輝血が動き回り、アヤカシの動きを誘導するが、腕を掠ってしまい輝血は顔を歪め、一時離れて間を取る。 トーマスが弓を撃ち、詐欺マンも同じように手裏剣をもって、足元を狙う。 幼く愛らしい灯の手から呼び出したのは、紫から赤へと揺らめきながら彩る炎の蝶。炎の揺らめきの火の粉が弾けるように灯の視界を掠めるが、熱を持って灯を傷つける事はない。アヤカシの前に舞うが如くに現れると、細い紐となり、アヤカシの体を絡ませる。 最期は疾風脚をもって兵真がアヤカシに蹴りを入れた。 見事な連携の下、アヤカシは無事に無に帰した。 ●今夜の当たり目 「真実に気がついたのはぁ、灯と音有だったなぁ。灯、よく気づいたなぁ」 彼方に頭を撫でられ、灯は誇らしくもくすぐったそうに笑う。 後ろの方で怪我をした輝血が縁の治癒符を受けている。 「一つの事しか提供されないとそれしか見えなくなる事ってあるよね」 鋭い爪を立てられた輝血の白い柔肌が引きつったように赤い傷口を見せていたが、縁の治療符でもって、 紅葉から見れば、そんな状況であれば、男が自分に対して好意を持っているという恐怖心に駆られる事もあるだろう。だが、正面を見るのと側面を見るのはまた違うのだ。 寒い所で立ち話は何だという事で、紅葉の両親も含めて話をする事になった。 両親は息子が若い娘を連れ込んだのを見ては驚き、更に、自分達の友人を追い払う為に開拓者を雇った話を聞いて更に驚いた。 「お騒がせして申し訳ありません」 深々と両親が謝ると、雫が言葉をかけた。 「何故、紅葉の両親は伝えなかったんだ?」 大事にしている紅葉が恐怖心を持っているのに気づいているのに何故、放っておけと言ったのか、雫にはいま一つわからなかった。 「それは、紅葉君に余計な恐怖心を与えたくなかったんですよ。自分達は私が誰であるか知っていますし、大丈夫だと信じているからでしょう」 これに対し、フォローをかけたのは睦和だった。 「息子さんを大事にするのは大事だが、もっと信じたらどうだ」 兵真が言えば、両親は畏まってしまう。 晩年に出来た息子は蝶よ花よとそれは大切に育ててきた。アヤカシという脅威を知ってほしくないからこその行動が息子に不安を生じたのは両親に責任がある。 「ごめんなさいね、紅葉」 「もう少し信じてやればよかったな。申し訳ない」 両親の一言に紅葉はほっとしたように首を振った。 「確かに怖かったけど、もう大丈夫。小阪さん、失礼な事をしてすみませんでした」 紅葉が素直に頭を下げると慌てて両手を振る。 「いやいや、私も怖がらせて申し訳ない!」 謝り合う二人はどうやら和解が出来たようだ。 「みんな、なかよくは‥‥いいね」 そんなやり取りを見て、灯がにっこり微笑む。 |