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■オープニング本文 ●四辻の怪奇● 川沿いの町であり、港町との交易の要衝として栄えている五行の首都『結陣(ケツジン)』。 この都には国王である架茂(カモ)王も居を構えており、国王自らも陰陽師である。 国内には陰陽師達の鍛錬や教育に力を入れた国営施設もあり、陰陽師の都として賑わいを見せている。 しかし、アヤカシによる被害は少ないものの氏族間の統率はとれておらず、国家としての体裁を保つまでにはなかなか到っていないという。 街並みは川沿いと言う事もあり、拠点となる要所は川沿いにある。 拓けているのは国内全てというわけではなく、首都以外の土地はまだ未開拓の場所も多い。 その首都・結陣より南へ徒歩4〜5時間程下った所に、旅の者が立ち寄る交通の要所がある。旅人向けの旅館や飲食店、商店などが軒を連ねるそこは、ひとつの町として機能していた。町人の大半は店を構える者か、店で働く者たちだ。 結陣へと至る大きな道を中心として店などは並んでいる。その通りの中心には真横に走る大通りがあり、丁度十字になっている。そこを基点として路地や小道が通り、町は作られていた。 街並みは首都を真似て碁盤の目状に整備されている。要所という事もあって、利便性に長けた建物の配置だ。 碁盤の目状というのは道の整備上都合がよく、とても整然として見えるので景観が良い。 しかし、それが仇となるような事件がこの首都で起こっていた。 最近、巷の町人達の間でまことしやかに囁かれている怪奇な噂があった。 「北の小道の四辻を夜中に通ると、人が消えて戻ってこなくなる」というのだ。 ●生暖かい風の中● 月夜の美しい晩だった。 白壁の続く大通りを1本脇道へ入った通りを、その男は歩いていた。 夜ともなるとアヤカシの出現を恐れて人通りはほとんどなくなるが、その日その男はそれを失念していた。 ほろ酔いの態で通りを歩くその男は、着崩れた水干装束に折り箱を持ち、とても機嫌よく鼻歌などを歌っている。 「俺も〜やっとここまできたか〜」 ぐふふ、とにやけた笑いを見せたこの男の名は、堺 十四郎(さかい じゅうしろう)という。町にある老舗の扇屋で扇職人として働く三十路過ぎの細身の男である。 昨年、待望の男子が生まれた十四郎は、今度は職人として腕を認めてもらうために必死で働き、先日ようやく張り職の頭として昇格された。今まで上がらせて貰えなかった師匠の工房への出入りも許されたとあって、今日は仲間達と祝いの酒を呑んできたその帰り道であった。 (「給金が上がったら、倅に玩具のひとつ、女房に帯の1本買ってやるか」) そんな事を思いながら、十四郎は普段使わない通りへと入っていった。 碁盤の目状の通りは、よく似た場所や曲がり角が多い為、間違いやすいのが‥‥幸いした。 「いっけねぇ、ここぁいつもの角じゃねぇぞ」 いつも通る道より、1本北の通りを曲がったらしい。 仕方ねぇなぁとボヤきながら、十四郎はそのまま道を直進した。 「‥‥なんだありゃぁ」 最初の四辻で、ふいに十四郎は本来通るはずだった通りの方へ目をやった。 左隣の四辻の真ん中に、何かいた。 そして―― 「ぎゃぁぁあああ!」 「!?」 十四郎は腰が抜けんばかりに仰天した。 くぐもったような、女の悲鳴が轟き、なんとも言えない不快な音が響く。 通り過ぎようとしていた辻を逆戻りし、辻の陰からそっと顔を覗かせた十四郎は、そこでおぞましい光景を目の当たりにした。 人間の頭だけが浮いていた。 骸骨のように痩せこけた顔。ざんばらに切られた様な不揃いの髪の毛は、脂にまみれたようにべったりとしているようだ。 そしてその顔は、首から下が‥‥なかった。 目には爛々と血色の鈍い光を湛えている。 その首は、十四郎と同じく辻を通り過ぎようとしたであろう中年の女の喉笛に、なんと噛み付いているのである。 「ひっ‥‥ひいぃぃぃっ!」 情けない悲鳴を上げ、十四郎は来た道を猛スピードで駆け戻っていった。 もし、いつも通りの道を通っていたら―― 喉笛を裂かれていたのは、自分だったかもしれない―― それを思うと十四郎は、身の震えが止まらない。恐ろしさに、歯の根が合わなくなった。 十四郎はその足で、町の自警団の詰め所へと駆け込んだ。 すっかり酔いも冷めてしまった彼は、ガタガタと震えながら叫ぶ。 「た、助けてくれぇ!! 大首が出た!」 |
■参加者一覧
羅喉丸(ia0347)
22歳・男・泰
皇 輝夜(ia0506)
16歳・女・志
雲母坂 優羽華(ia0792)
19歳・女・巫
楠木 麻(ia0947)
16歳・男・志
青 燐子(ia1133)
25歳・女・陰
輝夜(ia1150)
15歳・女・サ
皇 りょう(ia1673)
24歳・女・志
斬鬼丸(ia2210)
17歳・男・サ |
■リプレイ本文 ●ギルド集結● 五行―― 首都・結陣から南に位置する交通の要所として賑わう町。 その町の自警団より依頼を受けた開拓者達一行は、翌24時の精霊門の開門を待って五行へと至った。 ギルドへ到着した一行は、ひとまずギルドのカウンターへと向かう。 「灯りと呼子笛をお借りしたい」 サムライの斬鬼丸(ia2210)は、感情表現の乏しい無表情で職員に声を掛けた。職員は依頼の内容を確認すると、奥から提灯と呼子笛を持ってきた。提灯は4個、呼子笛は2つだった。 「2班で行動しますし、充分でしょう」 手に借り受けた品を持って戻ってきた斬鬼丸は、そう言って呼子笛と提灯を輝夜(ia1150)に渡した。 「構わぬ。数だけあっても用が無ければ邪魔となろう」 身分の高そうな口調でそう答えた輝夜は、呼子笛を見つめて「ふむ」と呟いた。 「我より、りょう殿に持っていて貰おう。殿を頼む」 「承知しております、策は輝夜殿にお任せします」 紐のついた呼子笛を受け取り、薄く笑みを浮かべたのは皇 りょう(ia1673)。腰に届くかという程の長さの銀髪を、紐と共に編み込んでいる。 「提灯は先頭を行く者が持った方がいいなら‥‥輝夜さんとボクで持ちましょうか」 金髪赤眼の細身。柔らかい笑顔で近づいてきた楠木 麻(ia0947)が提灯を1個受け取った。 「各班に提灯が2個、笛が1つずつのようですね。あちらにもお渡ししてきた方が、いいですか?」 麻の問いに、りょうがこくりと頷いた。 「そうですね、お願いしましょう」 「じゃ、渡してきますね」 満面の笑みで元気に答えた麻は、提灯と呼子笛を持って踵を返した。 「これ、こちらの班の皆さんの分ですよ」 着々と準備を進めていた仲間達の所へ、麻はやってきた。 「あらぁ、楠木はん。わざわざ、うちらの分まですみまへんなぁ」 雲母坂 優羽華(ia0792)は、帯を硬く締め直しながら、はんなりとした口調で麻から呼子笛と提灯を受け取った。 「あらいやや、これ結構重いんどすなぁ」 そんな声を上げた優羽華の細い腕から、そっと提灯を受け取ったのは屈強な腕の持ち主の羅喉丸(ia0347)だった。 「俺が1個持ちましょう。もうひとつは‥‥ああ参られたようだ」 やってきた斬鬼丸に提灯を1個手渡すと、身支度を終え腰に太刀を差した皇 輝夜(ia0506)が「じゃあ」と声を上げる。 「索敵は俺の役割‥‥笛を預かってすぐ合図出来るようにしておこう」 淡々とした口調で言った。 「そちらはもう準備は宜しいですか?」 声をかけてきたのは、青い髪に青い瞳が印象的な陰陽師の青 燐子(ia1133)だった。 「あれ、お待たせして堪忍え。こちらはいつでも構いまへん」 優羽華の言葉に目を細めた燐子は、待機していた後ろの仲間達に報告する。 その腰元には酒瓶がぶら下がっており「天儀酒」と書いてあった。 「燐子はん‥‥それ持って行かはるんどす?」 ひょこっと酒瓶を覗き込んだ優羽華に「ああ」と気付き、燐子は酒瓶をひと撫でした。 「時と場所は、ちゃんと弁えますよ? ただ‥‥これがないとどうも落ち着かない性分で」 ふふふ、と豊満な肉体を揺らして笑う燐子の様子に、優羽華は 「それで少ぉし遅れて来はったんどすなぁ。さては買いに行かはってたんやろ?」 と言って、面白そうに笑った。 全員の準備が整ったところで、一行は一路南へと向かって出発した。 ●区画整備の罠● 明け方近くになり、一行はようやく現地へと到着した。 交通の要所と言うこともあり、朝から町は賑やかである。 一行は依頼人である自警団の詰め所へと向かい、詳細を聞いておくことにした。宿直の団員が何名かおり、一行を出迎える。 団員の一人が、実際に目撃した男を連れに詰め所を駆け出て行き、数十分後には目元にクマの浮いた三十路の男を伴い、戻ってきた。 「貴方が、十四郎殿ですね?」 燐子の問いに、十四郎はほっと安堵の表情で頷いた。 「詳しい話を聞かせていただこう」 無表情で淡々と言う斬鬼丸の言葉に、十四郎はこくりと再度頷いた。 ある程度の情報を得た一行は、団員から町の地図を貰い、現場を実際に見てみる為詰め所を後にした。暖簾を上げたばかりの店々が立ち並ぶ大通りを指を指しながら歩く。 一行は大通りを北上し、問題の筋へと至った。 「碁盤の目とは‥‥確かに整備されて景観は良いようだが、厄介だな」 輝夜は辻と辻、筋と筋の状況などを眺めて眉を顰める。どちらを向いても、どこか似た造りの建物が立ち並んでいるため、今いる場所がどの筋のどの辻なのか、判り難いことこの上なかった。 「どないしましましょ? これやと‥‥笛で呼んでも、自分の現在地が判りまへんえ?」 同様に周囲を見渡していた優羽華も、不安気に呟く。 班の笛持ち役を務めるりょうは、しばし考え込むと、改めて地図と周囲を見渡した後「こうしましょうか」と皆を呼び集めた。 提案はこうである。 地図によると、捜索範囲の筋は町の北西部。南北の筋が4つ。東西の筋が5つある。 「なんとか自警団の方にお願いして、現在地が把握しやすいよう辻に何か施させていただけないでしょうか」 その言葉に、燐子は地図に目撃地点を記し、頷いた。 「とりあえず、大通りがどちらかだけでも目印でもあれば助かりますね」 ●大首、出現● その後一行は、一旦自警団に戻り、作戦の仔細を話した。 早く騒動が治まり、周辺の住民の不安が取り除けるなら、と自警団から数名の団員が手伝いに参加することになった。 自警団は廃材の板を材木屋から調達し、簡素な立て看板のような物を作った。南北筋か東西筋の、どちらの大通りか近い方を示した矢印を書いて、辻の真ん中に設置することになった。 「いざ発見しても、こうしておけば迷わず大通りに向かえますね」 団員達が各辻に立て看板を置くのを眺めながら、麻はうんうんと頷いた。 一行もその作業を手伝い、昼過ぎにその作業は完了した。 夜に備えて、自警団詰め所で一行は仮眠を取らせて貰うと、午後9時を回った頃いよいよ捜索に向かうことになった。 捜索班は2つ。 1班は羅喉丸、皇 輝夜、雲母坂 優羽華、斬鬼丸。2班は楠木 麻、青 燐子、輝夜、皇 りょう、となった。 「大通りから西へ向けて、こちらは東西の筋を捜索する」 「我らは、西から南北筋を北へ向かって捜索致す」 提灯を持った斬鬼丸と輝夜はそれぞれ頷きあう。十四郎が大首を目撃した深夜1時に目撃地点に集合すると決め、それぞれの班を伴って捜索を開始した。 「気味が悪いな‥‥」 1班は順調に各筋を捜索していた。丁度、北から3つ目の東西筋を西へ向かっている頃だった。 夜も更け、人通りのない道は静かだった。時折、生暖かい風が吹く。 皇 輝夜は太刀をいつでも抜けるよう手をかけたまま、班と共にゆっくりと歩いていた。 「‥‥とっとと出て来い」 時折心眼を発動して探るが、まだ察知できない。 「大首て、えろぅ大きい首どすか‥? 早ぅ片付けて、どきどきせんでもええようにしてまいまひょ」 「夜に生首が浮いているような薄気味悪い事態、早く終わらせるに限りますな」 拳に装着した飛手の取り付け具合を確かめながら、羅喉丸は優羽華の言葉に答えた。 一方。 「さすがに住民の方達はいないようですね」 提灯の灯りを持ち先頭を行っていた麻は、捜索範囲にうっかり住民が出ては居ないか注意深く確認していた。 「なかなか協力的な団員の方々で、我々も助かりますね」 りょうの言葉に、麻と並んで前方を歩いていた輝夜は振り返った。 「協力的なのは有難いが、どこもこうだと助かるのだがな」 開拓者とは言え、なかなか地元民の協力が得られない場合もある。今回のように、町の自警団の協力が得られたのは、幸運と言えるだろう。 「しかし‥‥さても不気味な雰囲気ですね‥‥嫌な感じがします」 すでに有事に備えて式神人形を手にした燐子は、通り過ぎる辻ごとに四方を確認しつつ、慎重を期していた。 深夜0時を回った頃である。 ゆっくりと時間をかけ、時折辻で他班とすれ違う際などに軽く状況を報告しあいながら、一行は捜索を続けていた。 2班は、南北の筋を通過中だった。 「この筋を大通りまで行けば、ひとまず一通りは南北筋を見廻った事になりますね」 りょうの言葉に、皆が振り返った‥‥その時だった。 ピー! ピー! 「――笛が!」 燐子は顔を上げた。 「出現したか!」 どうやら1班が大首を発見したようだった。呼子笛の音は発見の合図である。 ピピー! ピピー! 今度は連続した音色が2つ。 1つの時は東西筋の大通りへ、2つの時は南北筋の大通りへ向かうという合図と決めていた。 段取り通り行けば、そのまま筋を駆け抜け、南北筋の大通りへ大首を誘導する手筈である。 「次の辻で曲がり、先に大通りへ出るぞ!」 輝夜は叫び、皆は急ぎ辻へと向かった。 「急げ! 意外に早い!」 1班は突如出現した大首と遭遇した。 ぼんやりと浮かび上がる首は、目撃証言どおりにざんばらの、脂にまみれた黒髪を振り乱し、一行に気付くと追いかけてきた。 皇 輝夜は笛を銜え、合図を送る。その音に反応したのか、大首は大きな口を開けて迫り始めた。 「大通りへ急ぎますえ!」 背後に迫る大首を引き付けながら、一行は一目散に南北筋の大通りへ駆けた。 1班が大通りへ転がるように飛び出した時、すでに2班は大通りに待機していた。 彼らの姿を認めると、2班は足早に駆け寄ってくる。すでに戦闘態勢だった。 「輝夜殿っ!」 りょうの声に、抜いた刀を翳して輝夜は頷いた。 「どうした! 我はここに居るぞ? 汝に選択の余地なぞ無い。さっさと掛かってくるがよい!」 1班の背後に迫っていた大首目掛け、輝夜は咆哮を放った。 重力を無視した不自然な動きで、大首は輝夜へと方向転換し突進を始める。 自らの班を行き過ぎ、対象を輝夜へ向けたのを確認すると、間合いに気をつけながら優羽華は走った。 神楽舞・攻を舞い、引き付けている輝夜を奮起させる。 「輝夜は〜ん! ふぁいとぉ〜!」 それを合図にするかのように、一行は攻撃を開始した。 「いかなアヤカシといえ目だけは鍛えられまい。貫け、骨法起承拳!」 大首の頭に、羅喉丸は強かに力を込めた骨法起承拳を叩き込む。 「ちっ、ちょろちょろと鬱陶しいっ」 抜刀と同時に太刀に炎魂縛武を発動し炎を纏わせた皇 輝夜は、羅喉丸が拳を引いたのを確認し一閃した。炎に包まれた太刀の切っ先が、大首の後頭部を切り裂く。 「もう一太刀!」 麻は軽い身のこなしで大首の脇へ滑り込むと、同じく炎魂縛武を発動し、低い踏み込み位置からの斬り上げで大首を分断した。 カカカカッと乾いた音を搾り出した大首は、分断された切り口を瘴気に侵食されるように静かに霧散していった。 「お見事! 案外、強ぅないんどすなぁ」 ぽんと手を打って仲間達を称えた優羽華。 「いや‥‥まだ油断は出来ません、索敵をしておきましょう」 りょうは刀を抜いたままで、そっと目を閉じた。 「心眼!」 カッと目を見開いたりょうは、周囲30M四方に位置するものを注意深く探った。 周りには仲間達がいる。近くにいるのは皆、仲間のはず‥‥。 しかし―― 周囲の仲間は7人、しかし自分を除く8体目の反応―― 見開いた目を周囲に巡らせる。 「――優羽華殿! 後ろに!」 最後尾の優羽華が立つ背後の道の陰から、ざんばら髪が覗いた。それは赤い瞳を濡らし、優羽華を視界に収めていた。 りょうの叫びに、優羽華は即座に身を反転させた。純白の装束の袖がふわりと翻る。 間一髪と言うべきか。大首は優羽華の肩を掠めたのみで、直撃は逸れた。 白い装束は肩が露出している。その部分に優羽華は掠り傷を負った。 「おのれ‥‥我が相手を致す!」 逸れた大首に、輝夜は今一度咆哮を放った。 その隙に優羽華は大首から距離を取り、神風恩寵で傷に回復を施す。 「うちは大丈夫どす! 構わずやっておくれやす!」 その声に、燐子は式神人形を構える。念を送り、青い瞳を大首へと向けた。 「‥‥行きなさい!!」 燐子の声と共に式が放たれる。白いカラスの姿をした式は一直線に大首へと向かうと、その頭部を切り裂いた。 脂にまみれたふぞろいの髪が、大首の頭部から離れて地に落ち、霧散する。 「止めを!」 「承知‥‥」 漣の如く静かに構えた斬鬼丸は、大首を見据えていた。燐子の式が消失する前に大首の間合いに飛び込むと、刀を返す。 「しぶといですね‥‥そろそろ消えてください」 言葉が終わる間もなく、大首の頭部は動きを止めた。 カチリ、と刀が鞘に納まる音と共に、大首はさらさらと空気に散るように消えてなくなっていった。 ●夜明けの空に笛音無く● 大首を無事討伐し終えた一行は、出現地を含める町の北西範囲を明け方まで見廻った。 戦闘の後の見廻りはさすがに堪えたが、町の住民達の安寧の為と空が白むまで歩き続けた。 ようやく日の出となった頃、大首出現の気配がないことを確認した所で、一行は捜索を終了した。 「人が消える」という噂の元となった事も、一行は解明した。 丁度、捜索範囲であった北西角地にて、人骨を発見したのである。そこは町の最果てで、草の茂る空き地となっていた。喰われでもしたのだろうが、人通りもなく行き止まりの空き地だった為に発見されていなかったのだろう。 「人を喰らうだけでは飽き足らず、こんな姿を晒させるとは‥‥無念は晴らしておいた、安らかに成仏するがよい」 輝夜はそう言いながら、そっと手を合わせた。 腰にぶら下げていた天儀酒の瓶を傾けると、清めとして燐子は酒を振り撒き黙祷を捧げる。 「‥‥この御方、きちんと御供養した方が宜しおすなぁ‥‥」 哀れな者の前にしゃがみ込んだ優羽華は、自警団に連絡して然るべく供養をするよう申し出る事にした。 一行はひとまずその場を後にし、報告の為自警団詰め所へと向かった。 その道中、朝日の眩しさに皇 輝夜は目を細め、 「さすがに、眠いな‥‥」 と呟く。 そろそろ、各家では朝餉の準備が始まる頃だろう。少しずつ、ざわめきが戻り始めていた。 報告の後は‥‥ひとまず朝餉か、と話しながら、一行は清浄な朝日照らす大通りを行くのだった。 |