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■オープニング本文 ●開拓者と冒険者 とある家屋の軒下。縁側に座り、雨上がりの涼やかさと酒を楽しむ二人の老人が居た。 「一流の冒険者は開拓なんぞ、せん。開拓とは、そこに人を招き入れる為の仕事じゃろう?後から来る者がおるような地での冒険なんぞに、価値は無いんじゃよ。そんなものは、ワシから言わせればただの散歩じゃわい」 とは、一流の冒険家だったという照翁の談。それに対して、 「ふん。素直に『出来ない』と言ったらどうじゃ?アヤカシに立ち向かう勇気も持てん臆病者が」 と、元開拓者を自称する青翁が切り返した事が切っ掛けだった。 「ぬかせ、青二才。ワシが本気を出せばアヤカシなんぞ‥‥」 「体も気も小さいお前さんの本気なんぞ、底が知れとるわい」 「大体、お前さんはいつも‥‥」 「手前こそ、この間も‥‥」 口論はやがて、論点のズレた不毛な言い争いとなり、 「もう勘弁ならん。表へ出ろ!」 「望むところじゃ!」 出来て間もない水溜りを避けようともせずに歩き出す二人。ついに軒先で取っ組み合いをするに至った。 年寄りの冷や水。泥の中で繰り広げられる『泥沼の掛け合い』は孫に見つかるまで続き、見つかった二人は案の定、こっぴどく叱られた。 ●老馬が手網を握らんと 「っていう感じでね‥‥ちゃんと言い聞かせて仲直りさせたと思っても、三日も持たずにまた‥‥」 受付カウンターに突っ伏してそう愚痴る少女は、僕の目が確かなら、未だ十五にも満たないように見える。 「‥‥ご苦労をお察しするよ」 若いうちの苦労は買ってでもしろとは僕も時たま言われるが、この子は若いどころか、幼いと言っても差し支えない。 「それにね‥‥わたし、おばあちゃんから聞いちゃったの」 「うん?聞いたって、何をだい?」 「二人とも本当は、冒険者でも開拓者でもないんだって」 「‥‥ええ!?」 お祖母さん‥‥よりにもよって、孫にそんな‥‥。 「二人とも、お互いに見栄を張ってるんだって」 「そ、そうなんだ‥‥」 つい先ほどまで、本当に不憫な女の子だと思っていた。が、本当の本当に不憫なのは、翁達かもしれない。 自業自得とはいえ、面目が立たないどころか、既に存在していない。正しく、目も当てられない。 「だからね、ホンモノの開拓者さん達にお説教して貰おうと思って」 「お説教‥‥か。はぁ〜‥‥うん、なるほどねぇ」 何というか、妙に得心がいった。確かにこの子は、そのお祖母さんあってこそな気がする。 「あ!でも、私が全部知っているってことは絶対に内緒ね。さすがに可哀想だから‥‥」 「‥‥ああ、そうだね」 知っているという事実を突きつけてしまうのであれば、依頼するまでもないか。 「えっと‥‥すごく少ないけど、おばあちゃんからお金を貰ってるから‥‥お礼はこれで‥‥」 その言葉と共に、やや控えめに差し出された小さな手。そして、その手に収まる程度の依頼料。 「‥‥あー‥‥まあ、依頼としておく分には、報酬なんて無くても問題ないよ」 「え、本当!?」 僕の言葉に少女は目を輝かせ、跳ね起きる。意外と現金だ。 「ただし、無報酬の依頼を受けてくれる開拓者が居るかどうかは‥‥ね?」 「ぅ‥‥そっか‥‥そうだよねぇ‥‥」 呟きながら力なく萎れ、再びでろーんとカウンターにもたれかかる。やはり、現金だ。 「それじゃあ確認するけど、お祖父さん達を反省させれば、依頼の達成としていいのかな?」 「うん。お説教でもいいし、お芝居みたいな事をして懲らしめてくれてもいいよ」 さらっと凄いことを言い放つ。これも血筋なのだろうか。 「‥‥その際の条件は、きみが依頼した事をがバレてはいけない、という事だけ?」 「そうそう。それは絶対に秘密、ね」 「ん、よし。じゃあ最後に‥‥きみの名前は?」 「凛って言います」 「リン‥‥ね。では、その依頼、確かに承りました」 僕がそう言って書類に判を押すと、凛はホッとしたような表情を見せた。 「よかった。門前払いされちゃうかと思ってた‥‥お兄さん、ありがとう」 「いや、まぁ、仕事だし‥‥それに、依頼を受領してくれる開拓者が居る保証はないからね?」 開拓者達は物好きや変わり者が多い、とはいえ‥‥さて、どうなることやら。 「うん、あんまり期待しないで待ってる」 凛は純真な眼差しをこちらに向けて微笑み、受付を後にする。 「‥‥不憫だなぁ」 業務用の作り笑顔で彼女を見送りながら、僕はそう呟いた。 |
■参加者一覧
小野 咬竜(ia0038)
24歳・男・サ
空音(ia3513)
18歳・女・巫
設楽 万理(ia5443)
22歳・女・弓
エグム・マキナ(ia9693)
27歳・男・弓
明王院 浄炎(ib0347)
45歳・男・泰
小星(ib2034)
15歳・男・陰
花三札・猪乃介(ib2291)
15歳・男・騎
央 由樹(ib2477)
25歳・男・シ |
■リプレイ本文 ●面通し かつては石畳だった、ひび割れて苔生した板石。かつては門や壁だったのであろう、倒れて砕けた石塊。文字通りの舞台となる寺院跡地にあるのは、それら数々の石と、昨夜までの雨に撃ち落とされた木の葉のみだった。 そこに、寺院が寺院として存在していたのはかなり昔の様だが、跡地と呼ばれるようになったのは、ごく最近の事。見識ある者でなければ「遺跡」だと分からないこの場所を訪れる者など村には居らず、せいぜいにして此度の芝居に関係のある者だけだろう。 「変な自己紹介ですけど‥‥ボク達が悪役です。一応、顔を覚えておいて下さいね?」 そう言って凛と握手を交わす、小星(ib2034)。その背後、少し離れた所で、小野 咬竜(ia0038)と央 由樹(ib2477)が凛の視線に気付き、手を挙げて応える。 「はいっ!皆さん、よろしくお願いしますね!」 凛が小星の言葉に答えると、 「しっかりしてる‥‥ううん、さすがと言うべきかな」 その快活な声に感心した設楽 万理(ia5443)が、凛の目の高さまで屈んでからそっと頭を撫でた。 それからややあって、 「只今戻りました」 遺跡の周囲を散策していた空音(ia3513)と明王院 浄炎(ib0347)が茂みから姿を現す。 「おかえりー‥‥ってか、仕事早いなぁ」 ものの十五分足らずで周囲の散策を終えた二人を、花三札・猪乃介(ib2291)がそう評した。 「うむ‥‥天気も含め、障害と成り得るものは、一切見当たらぬ」 穏やかに、しかし確かにそう言い切る浄炎に、 「‥‥ん?天気も含めて?」 猪乃介は当然の疑問符を浮かべる。が、空音がくすりと笑って、 「林になっているのは、この寺院跡と村の周りだけ‥‥林を抜けると、この暗さが嘘のようにとても眺めが良いんですよ」 と、種明かし。 「ちょうど、演者も揃いましたね?それでは‥‥改めて、立ち回りの大まかな流れを決めておきましょう」 まだ幼い凛への配慮か、エグム・マキナ(ia9693)がまるで生徒を引率して遠足に来た教師のような、抑揚を強調した口調で切り出した。 ●旧きを教戒へ 「‥‥ったく。開拓者じゃなくったって、別にいーじゃんなぁ‥‥」 何も知らない翁達が待つ、凛の家の門前で、猪乃介がふと漏らす。 「いっそ、凛が開拓者になっちまえばいいのに」 「え?ええっ!?」 唐突、且つ、意外な言葉に、凛は驚きを顕にする。 「それについては私も同感ですね。まったく、大した子です」 猪乃介の言葉に同意しながら、マキナが笑った。 「いずれにしても、此度の芝居には、凛の協力が必須故な。こうも積極的であるなら、此方もやり易いというもの」 「‥‥えへへ‥‥ありがとうございます」 照れ笑いを浮かべる凛だったが、すぐさまその表情が曇る。門の向こうから、男性の言い争う声が聞こえてきたからだ。 「ああ、もう。またやってる‥‥」 やれやれ、という顔で溜息を吐く凛。 「‥‥ああ、うむ‥‥では、参ろうぞ」 気を取り直す様な浄炎の言葉に、猪乃介とマキナが頷く。それを見て取った浄炎は門戸を二度叩いて、 「失礼致す!」 と、大声で告げ、戸を開け放った。 捏造した事情を掻い摘んで説明するマキナは、終始柔らかい笑みを崩さずに人当たりの良い雰囲気を纏い続け、翁達に疑う余地を与えなかった。子供相手に教鞭を取っていたこともあり、この手の事は造作もないといった様子だ。 「‥‥という訳で仲間達と相談していたところ、凛君が声を掛けてくれたんです」 「村に開拓者が居ないかと尋れば‥‥幸いにして、話を聞いたこの子の祖父と伺ってな、案内して貰ったのだ」 厳格な表情を変えない浄炎。マキナとは対照的な印象だが、その立ち居振る舞いから発する雰囲気が翁に適度な緊張感を与え、話の信憑性を高める。 「お、俺たちだけじゃ、少し心細くてさ‥‥」 演技に自信の無い猪乃介は、若干俯いて翁達から視線を逸らし、見るからに自信の無い表情で呟く様に話す。しかし、その自信の無さが現れた表情と声は、困っている開拓者という役柄を見事に演出していた。 「むぅ‥‥遺跡の探索とな‥‥」 「わ、ワシらも歳じゃからのう‥‥」 翁達は開拓者の誘いに、予想通りな難色を示す。が、 「お二方は共に、かつては第一線で死線を潜り抜けた方々と聞いた。土地勘もさる事ながら我ら後進に手本を見せて頂けぬかと」 ここぞとばかりに浄炎が持ち上げ、 「天儀中を旅したおじいちゃん達なら、村の近くの遺跡なんて、あさめしまえ?だよね」 凛がたどたどしい口調で叩き落す。 「ぐ‥‥むぅ‥‥そ、そうじゃな(この辺りでアヤカシが出たという話はきかんしのう‥‥)」 「‥‥し、仕方がない‥‥協力してやってもよかろう(何事もなければ誤魔化しきれるじゃろう)」 この時、翁達は自らを取り繕うことに必死で、根本的な過ちに気づけなかった。 ●序幕にして極点 「見ての通り、私は巫女なので戦闘に向かず‥‥どうしたものかと考えあぐねていたのです」 寺院跡地の入り口に当たる、風化した石段。その脇に鎮座する大きな岩に腰掛けた空音は、自嘲とも取れる笑顔で告げた。 「ならば、俺達に同行せぬか?此方には経験豊富な開拓者に加えて、冒険者まで居られる」 「熟練の‥‥それなら私達にとって大先輩ですね〜。ご一緒できれば頼もしいですっ」 「あ‥‥う‥‥うむ」 空音の言葉に、青翁は口を噤み、 「‥‥‥!」 照翁は体を強張らせた。 開拓者達が口を開く度、翁達の心に走る亀裂が枝を増やして行く。 「では、遺跡を歩きながら自己紹介でも‥‥‥と、言いたいところですが」 予定通りで不意な、マキナの真剣な表情。 「‥‥いやな予感がしますね‥‥少々お待ちを。探索します‥‥」 手で皆を制し、先行しながら弓を用意。他の者達もそれに合わせ、後に続く。 辛うじて形状を残す石段を登りきり、石の塊が転がる広い場所に出た。と、同時に、マキナが足を止めて弓の弦を弾く。 キィィィン、と、澄んだ音が辺りが響いて─── それが幕開けの合図だった。 「これは‥‥!皆さん、下がってください!」 叫びを聞いた猪乃介が凛を後方へ退かせ、空いた空間に浄炎と空音が割り込む。 マキナは自らの言葉に一人反して、自身を一歩前へと進めた。本物の一撃を自ら受け、偽者の翁達に見せつけるために。 ぴしぃっ! と、不穏な音がした直後、マキナは鮮血を伴いながら体を浮かせる。 「なっ‥‥!?」 その光景に、青翁は無防備に驚き、 「ひっ‥‥!?」 照翁は腰を抜かして、その場に尻餅をついた。 「‥‥よし」 茂みからマキナを攻撃した小星は作戦の成功を確認し、続けて翁達を呪縛に捉える。 「‥‥志体持ちらしからぬ動きですね。後で詳しく聞かせてもらいますよ‥‥?」 マキナはすかさず持参した薬草と包帯で応急処置をしながら、予定していた台詞を言い切る。 空音が治癒をするためとマキナに近づく。が、傷は浅い事を確認すると、 「‥‥お二方、治療は致しますので、やっつけちゃって下さいませ!」 演技を重視すべく、期待の目指しを翁たちへ向けて発破を掛けた。 「あ‥‥わ‥‥ワシ‥‥は‥‥っ」 空音の押しに照翁は核心を口にしかけるが、呪縛と恐怖で思うように呂律が回らず、もたついてしまう。その僅かな間に、 「な‥‥何事じゃ!?アヤカシか!?」 驚愕した青翁が、照翁の言葉を遮ってしまった。 襲撃役の面々は「惜しかった」と、互いの顔を見合わせる。が、すぐに気を取り直し、石壁の影から姿を現した。 その数、三人。昼間だというのに木々が陽を覆い隠していて薄暗く、顔まではよく分からない。 「‥‥何やワレら。ここは俺らが先に見つけたんや。これ以上、怪我せえへんうちに帰れや」 由樹がドスの聞いた声で脅しに掛かる。 続いて万理が、 「これで、あと三人‥‥あ、じいさん達も居たか」 挑発的な物言いで翁達に危機的状況を知らしめる。 「‥‥‥‥」 最後に、咬竜が何も言わずに太刀を抜き、ゆっくりと歩き出す。抜き身の刃と無言の圧力が、翁達の恐怖を煽る。 「‥‥猪乃介、そして御老らよ。気付いておろう?」 些か声を張る浄炎。 「あ、ああ!まだ一人‥‥マキナの兄ちゃんをやった奴が、どっかに隠れてる!」 猪乃介も浄炎に習い、声を張り上げて台詞を述べる。 「無駄話してると、怪我じゃ済まないよ!」 そう叫んだ万里が弓を引く。狙うは、呪縛に囚われた照翁の頭。の、数尺ほど右で舞い落ちる木の葉。 「行くぞ!」 敵か、味方か。狼狽した翁達には、もはや誰が叫んだのかすら分からない。 「三下開拓者じゃ、相手にならないのよ!」 万里が、鏃のない矢で木の葉や枝を射抜くと、 「三下か否か、身を持って試してみるがよい!」 浄炎が空を斬りつける。 ガキィンッ!! 咬竜が届かぬ距離で太刀を薙ぎ、それを猪乃介が前に出てアーバレストで受け、派手な音を立てる。 子供の喧嘩よりも安全な出来試合。 しかし、それでも開拓者達の動きは常人の域を逸しており、攻撃、防御、回避。その動作の全てが凄まじい。冷静さを失った常人である翁達が、演技だと気付けるはずもなかった。 「下調べが甘かった私にも問題がありますからね‥‥私からは何も言いませんよ」 応急処置を続けるマキナが自白を促す。 「‥‥まさか、その爺さん達、ホンマの只者か?」 マキナの台詞に合わせて由樹が、訝しむ言葉と同時に苦無を投げ、 「お爺様方、何をぼーっしていらっしゃるのですかっ!」 更に空音が圧力を掛けた。 「‥‥そろそろ、かな?」 小星が会話から自白の可能性を察し、翁達の呪縛を解くと、 「う、ぅぁあ‥‥!」 途端に照翁は、その場で頭を抱えて蹲る。 「ワシは、ワシらは‥‥」 青翁も呪縛が解かれると同時に、地に片膝を着いた。 が、次の瞬間、 「ワシは開拓者じゃあ!!!」 雄叫びをあげながら、乱戦となっている開拓者達の誰にともなく駆け出し、文字通りの矢面に向かう。 「なっ‥‥!!」 「え!?」 戦闘中の全員が対応できず、否、対応しようと動きを止める。演技とは言え武器振るっての立ち回りをしていた為、皆、翁達からは距離を取っていた。加えて、板石に生した苔は未だ昨夜の雨水を含んでおり、重心を無視して蹴り出そうものなら、容赦なくそれを受け流す。 中空を行く矢は止まれるはずも無く、錯乱した青翁も恐らくは止まらない。矢と翁は同一の瞬間に、その軌道を交差させる。 ドッ!! 鈍い音と、一瞬の静寂。 「っ!!」 痩せ細った老体が、派手に飛んだ。 「‥‥‥‥」 矢と翁の交差するはずだった地点には、腕に鏃の無い矢を受けた小星が立っていた。 小星に突き飛ばされた青翁は、駆けつけた咬竜が体で受け止めて衝撃を殺し、着地させた。 突き飛ばされた衝撃で気を失っているが、怪我は無いようだ。 「‥‥潮時、じゃな」 咬竜が溜息と共に太刀を下ろし、後退りしながら茂みへと消える。 「そうやな‥‥」 由樹もまた足元の苦無を拾うと、素早くその場を離脱した。 「‥‥お、覚えてなさいよ!」 万理は思い出した様に台詞を述べる。が、言った当人は、その台詞が翁達に聞こえているとは思えなかった。 「‥‥‥(思わず出ちゃったけど‥‥どうしよう)」 小星は次にどうすべきか、と、照翁を一瞥する。戦闘の音は止んでいるにも拘らず、未だに蹲ったまま震えていた。 「悪役‥‥の、はずだったのになぁ」 万理同様、こちらの声が聞こえないと見た小星は笠をついと上げ、誘引役の面々に向けて苦笑いをして見せた。 ●沖波静まりて 明くる日の、凛の家。 「じいさん‥‥ウソはあかんで、ウソは。悪いことは言わんから、ウソつくんはこれぎりにしとき」 由樹が、ぐいと酒を飲み干して言った。 「冒険者も開拓者も共に命を賭して事を成すは同じ‥‥偽物の虚勢、虚言が、時と人の命に関わると肝に銘じよ」 浄炎も、それだけ言って、酒と料理に手を伸ばし始める。 「そうじゃの‥‥主らにも迷惑を掛けた‥‥」 「返す言葉もない‥‥正しくその通りじゃ‥‥」 昨日目の当たりにした本物の開拓者達を前に、翁達はすっかり萎縮していた。 「反省しているのであれば、それでいいのですよ」 マキナが、まるで教え子を慰めるような笑顔で、頭を下げる翁達の顔を覗き込む。 「その通りですよ。もう済んだことですから‥‥あ、この煮物、とても美味しいですね」 空音がほっこりとした笑顔を翁に向ける。 「どれ、本物の開拓者の話でも聞いていく気はありませぬかな?」 咬竜が酒と杯を手に、翁達に歩み寄ると、 「そうだ、昔話してくれよ!開拓者じゃなくったってさ、じーちゃん達の話、聞きてぇんだ!」 反対側からは猪乃介が身を乗り出す。 その様子を眺める万理が、 「私達、ここにいていいのかな?」 と、漏らすと、 「良いんじゃないですか?依頼の成功を祝して、ということで」 小星が笑って徳利を差し出し、杯を持つよう促す。 本物と偽物は各々経験を語り、互いの話に湧き合った。 やがて偽物は本物となり、後進の良き手本になったと聞くが、真偽の程は定かではない。 |