ハクーシの防戦
マスター名:龍河流
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや易
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/12/25 00:28



■オープニング本文

「この平原の平和ば、おらだちが守るだず!」

 ジルベリアのどこか、ハクーシと呼ばれる地方の平原で、とある土偶が叫んでいた。
 妙に訛っているのは、周囲に粉雪が舞って寒いから‥‥というよりは、きっと元からだろう。
 そして周囲には、なぜだか多用な開拓者の相棒達がいた。
 開拓者はいない。

 だが、ハクシの平原にいるのは、彼らだけではなかった。
 どこからともなく、土偶に似通った存在が歩いてくる。
 土偶に比べるともう少し人がましく、鎧を着けたような姿で、手には剣を模したものを持っている。
 姿の特異な土偶のようだが、あれはアヤカシだ。

「アヤカシのぐぜに、づるぎ持ってなまいぎだず。おらなど棒しがないだずに」

 アヤカシの群れが進んでいる。
 開拓者はいない。
 けれども、開拓者達と数多の戦場を潜り抜けてきた様々な相棒達が、そこにはいたのだった。

「とつげぎーっ!」

 アヤカシと相棒達の戦いの火蓋が、切って落とされたのだった。




■参加者一覧
カンタータ(ia0489
16歳・女・陰
乃木亜(ia1245
20歳・女・志
斉藤晃(ia3071
40歳・男・サ
叢雲・暁(ia5363
16歳・女・シ
露羽(ia5413
23歳・男・シ
アーニャ・ベルマン(ia5465
22歳・女・弓
鈴木 透子(ia5664
13歳・女・陰
アルベール(ib2061
18歳・男・魔
プレシア・ベルティーニ(ib3541
18歳・女・陰
ウィリアム・ハルゼー(ib4087
14歳・男・陰


■リプレイ本文

 依頼の後、速やかに戻らなくてもいいのなら、もちろんのんびりするに決まっている。
 寒いし、小雪もちらついている。この後は止んで、明日はよい天気になると土地の人が言うのであれば、休息を取るのは悪いことではあるまい。
「依頼も終わったからしばらく自由にしててええよ。夕飯までにはもどってきぃや」
「ボルシチを作っておきますねー」
「お土産を買えるような所はあるでしょうか」
 各々が自由に過ごすことにしている間に、ハクーシ地方の平原では誰も予想だにせぬアヤカシの進軍が行われていたのだが‥‥気付いた者は人ではなかった。

「この平原の平和ば、おらだちが守るだず!」
 土偶の威勢のよい声に応えたように、忍犬・遮那王が尾を引く咆哮をあげた。近くに鈴木 透子(ia5664)がいれば、その鳴き方は『敵影見ゆる』の合図だと気付いたろうが、あいにくと人の姿は一つもない。
 代わりのように、低空を飛ぶのは炎龍・カノーネ。こちらも相棒のカンタータ(ia0489)は宿の台所でボルシチ作成真っ最中で、彼らが何をしているかなど知らない。
 けれども、彼らは理解していた。
『ハクーシの平和は自分達が守る』
『上空からの支援は任せておけ』
 この程度の敵で人間達を呼ぶまでもないと考えたか、意気揚々とアヤカシの群れに対している。この二体に限って言えば、言葉がなくとも連携をする気持ちも満々だ。
 だが、もちろんアヤカシを退治する気持ちは、居合わせる者達も変わりない。
『アヤカシ退治なのね!人形っぽいのね!手早くやっちゃうのね!』
 左右に勢いよく打ち振られる尻尾がそんな心情を表しているのだろう。忍犬・ハスキー君も威勢良く吠え立てている。主人の叢雲・暁(ia5363)が一緒の戦いでは、常日頃から牽制役を受け持っているから、アヤカシ達の足並みを乱れさせるのは自分だと言わんばかりだ。
『この程度のアヤカシ、我らだけで充分だ』
 ゆったりと尻尾を一振り、余裕のある態度は忍犬・黒霧丸。相手の数は大量だが、一体ずつの力量はそれほどではないと見て取ったのだろうか。けれども一体たりとも逃さず、主・露羽(ia5413)の休息を妨げさせぬと意欲に燃えている風情だ。
『乃木亜はハクシは防がなきゃと言ってるから、お前達はこれ以上進ませないぞ!』
 姿は違えど、ミヅチ・藍玉も鋭い鳴き声を上げていた。こちらも主と任じているか、それとも友人なのか、乃木亜(ia1245)を呼ぶ気持ちはないらしい。
 アヤカシを前に盛り上がりに盛り上がっている一団のすぐ脇では、人妖・フレイヤがプレシア・ベルティーニ(ib3541)を探して慌てふためいていた。普通なら逆の構図が展開されるべきだろうが、多分彼女の相棒は心配しなくてはならない何かがあるのだろう。
『心配するな。少なくとも、あのでかいだけのウドの大木に襲われちゃないだろうぜ』
『そうかしら‥‥流石にそこまでプレシアもドジじゃないとは思うけど』
 フレイヤの会話の相手は、猫又・ミハイル。口調と黒の色眼鏡がニヒルな雰囲気をかもしているが、ことサングラスはこの場では視界を妨げるだけではなかろうか。あいにくと気を利かせてとってくれるかもしれないアーニャ・ベルマン(ia5465)は不在だ。
 そして、そんなことを指摘する者はおらず、なんでここにいるのか正体不明の土偶が一声叫んだ。
『とつげぎーっ!』
 ここに多種多様な相棒達とアヤカシの戦いの火蓋は切って落とされたのである。
『むふふ、フレイヤちゃん可愛いもふ』
 まるでそこらに転がっている大きな石のように、戦いとは何の関係もございませんと含み笑いを漏らしているもふら・パーシングの煩悩にまみれた呟きを聞きとがめる者もいない。こちらもウィリアム・ハルゼー(ib4087)の不在が痛いのか、いても同じなのかは不明。
『下で何かやっているようだが‥‥喧嘩と言うより戦いか?』
『移動だけでくさくさしていたのよ。その憂さ晴らしにちょうどよいのがいるわね?』
 更に他の龍達より上空で、飲酒に勤しむ斉藤晃(ia3071)から遠出を促された炎龍・熱かい悩む火種と、移動だけで体力気力共に有り余り、アルベール(ib2061)に無断で文字通り飛び出してきた炎龍・エイレーネーが、何か起きたようだと気付くのだが、そのことに気付いた者もまたいなかった。そもそも龍同士の鳴き交わしなど、上空を渡る風に吹き散らされている。

 白く染まるハクーシの平原を、ミハイルは『ちゃんと宿題出したのに、なぜか提出していないことになっている』ような場所だと評した。猫又の彼にどんな宿題が発生するのかも謎だが、『ここを守らなかったら一大事』な気分はパーシング以外が共有している。おそらく、先の依頼の余波だろう。
 だから、もふら以外は平原を黙々と進むアヤカシどもに一斉に躍りかかった。最も速かったのは、低空飛行中のカノーネだ。背後を疾走してくる遮那王はじめ三頭の忍犬達に道を拓くように、前方に向けた爪に掛かるを幸い、次々とアヤカシを薙ぎ倒していく。
 それだけではアヤカシが動きを止めることなどないが、わざと上を駆け抜けていく遮那王とハスキー君の動きに立ち上がることを妨げられているのは間違いがない。じたばたしているアヤカシには、冷静に駆け寄った黒霧丸が、爪の一撃を加えている。
『なんだ、見掛け倒しではないか』
 ふんと鼻を鳴らした様子が、いかにもそんな風に言っているような黒霧丸だが、鼻先で笑い飛ばしたくなるのも道理。いかに渾身とはいえ、龍と忍犬から一撃ずつ喰らっただけで瘴気に還るアヤカシは数少ない。見た目が堅牢そうなだけに意外だったが、彼我の数を考えればありがたい話だった。
 と、そこまで黒霧丸が考えたかは不明だが、少なくとも油断することはなかったようだ。いよいよ威勢良く、倒れたアヤカシどもが立ち上がらないうちに、攻撃を仕掛けていく。動きが鈍ったところを攻撃するのは、戦いの基本だろう。
『‥‥遅い!』
 忍犬の彼らが素早く、小回りが利くことを考慮しても、あまりに愚鈍に見えるアヤカシに対して、他の二頭も果敢に戦っていた。
 だが、こちらは前線で戦うことも厭わない黒霧丸とは違い、撹乱を得手としているようだ。
『ご主人のいつもの言いつけどおりにやるのね!』
『二本足だけあって、簡単にこける奴らだなっ』
 バウバウと低く鳴き交わす声の真意は不明ながら、ハスキー君も遮那王も、相手が転倒すると簡単には起き上がれないことをすぐに飲み込んだらしい。群れて動く合い間を素早く縫い進み、追いかけようとする手を掻い潜り、時に噛み付き引き倒し、周囲のアヤカシを巻き込んで転がしていく。
 流石にその後ろのアヤカシまで躓かせることは叶わないが、そうして進軍が停滞したところを、今度はカノーネが尻尾でなぎ払う。もちろんそれに忍犬達を巻き込むこともなければ、巻き込まれることもない。
 ただし、体の大きなカノーネが地上に完全に降りてしまうと、周囲から包囲されて攻撃を受ける恐れが高い。よって、カノーネの攻撃は主にアヤカシを地面に打ち倒すものになった。後は忍犬達が駆け回り、止めを刺したり、よりいっそう動きを妨げたり。
 そうこうしている内に、後続がしっかりと追いついていた。
『まったく、プレシアを探さなきゃいけないのに。邪魔をしないで欲しいものだわ!‥‥なんだか寒気がするのも、こいつらのせいかしら』
『寒いぜ、こんちくしょうっ。思い切り暴れて、早く帰らせてもらうぜ!』
 なまじ人語を解する上に話すものだから、フレイヤとミハイルの攻撃は口でも行なわれていた。アヤカシに聞く耳があるかどうかも気にせず、言いたい放題だ。まあ、黙々と戦っていては、確かに寒くて気が滅入る。
 ミハイルは獣爪「氷裂」を閃かせ、フレイヤは鴉丸と羽刃を交互に繰り出して、起き上がりかけたアヤカシ達に斬りかかる。どちらも威力よりは手数を優先しているが、どこかしらに大きな亀裂が入ると瘴気に還るアヤカシ達には、体の小さな二体の攻撃ですらも脅威のようだ。
『ふふん、俺の初戦闘デビューにふさわしい成績だ』
 途中、ミハイルが非常に満足気に呟いて、
『え?初めて?なんだか俺に任せておけみたいなこと言ってなかった?』
『ゆっだだな』
 フレイヤのみならず、氏名不詳の土偶にまで突っ込まれていたが‥‥そのくらいの余裕はあったということなのだろう。土偶は手にした棒で、びしばしアヤカシを叩いて壊しているが、同族破壊に勤しんでいるようにも見えなくはない。
 そうした前線から少し下がって、アヤカシの群れの最前線。人里に最も近い位置には、藍玉がいた。宝珠『水蛇』をかざして、他の相棒達の攻撃を潜り抜けてきたアヤカシの足を止めるべく、水柱を使っている。
『乃木亜のところには行かせないぞ!』
 ピィピィ鳴く姿は勇ましく、明らかに自分を越えて人里に近付けさせるものかという気概に満ち満ちている。乃木亜の周りで甘えてうろうろしていた時とは、別のミヅチのようだ。
 その背後で、
『もうちょっと露出が多ければよいもふ!冬という季節が恨めしいもふ!』
 口からだらだら何か液体を垂れ流しつつ、フレイヤの戦いぶりへの煩悩に弾けた発言も誰に憚ることなく垂れ流しているパーシングがいなければ、相棒を思う非常に素晴らしい光景になったのだろうが‥‥
『どしたの?』
『なにもふか?もこもこした尻尾がないミヅチには用はないもふよ。あぁ、あの尻尾にすりすりしたいもふ〜』
 地を這うような煩悩の呟きに振り返った藍玉に、パーシングは用がないと一言で断じたが、幸いにして藍玉はそんなことで怒るほどカリカリした性格ではなかった。とはいえ、大量のアヤカシがいる中、いかに他の相棒達が奮戦しても、攻撃から零れるアヤカシは少なくなく‥‥
『あら、ミヅチもいたのね。この程度のアヤカシ、憂さ晴らしにはちょうどいいものね。でも私の戦いぶりに見惚れて、余所見をしないことね!』
 パーシングにまったく戦闘意欲がなかったので、二体まとめて危うくなっていたところに、上空から飛び込んできた大きな影があった。この機を計っていたのかと思うような絶妙の間で割り込んだのはエイレーネー。藍玉に迫っていたアヤカシが、まとめて数体踏み潰された。
『なにやら劣勢のようではないか。面倒だが、手を貸すのも悪くはない』
 別の、まだ相棒達の攻撃が届かないアヤカシの群れのど真ん中には、熱かい悩む火種が火炎をはいていた。嬉々として暴れている姿は、なにやら『助けに来てやったぜ』感を全身から漂わせているが、残念なことにそれに気付いた相棒達はいなかった。
 まあ、熱かい悩む火種も別に感謝の念を強要したいとか、尊敬の目で見て欲しいなんて事は考えていなかったようだ。ハスキー君の背後を取っていたアヤカシども目掛けて、再度火炎をぶつけている。
 新たに二体の龍の参戦を得て、大量にいたアヤカシの群れも分断され始めた。エイレーネーはひたすらにアヤカシを蹴って蹴って蹴りまくり、あちらこちらにアヤカシが蹴り飛ばされる景色を作っている。爪や牙は、どうやら彼女には攻撃に使うものではないのだろう。そちらの方が当てやすい時でも、地上に降りたり、飛び上がったりを繰り返しつつ、せっせと足を使っていた。
『ああもうっ、鬱陶しいほどいるわねっ。あら、牙をむくなんてはしたないことを』
 一度だけ、威嚇の声を上げてから、なにやら反省するように首を振っていたのだが‥‥龍にも龍なりの美学があるのだろうか。
 そうかと思えば、熱かい悩む火種は。
『逃げていく奴が出てきたか。駄目だなぁ。全然駄目だ。ここで消えてしまえ』
 単に巨体を避けたかったのか、それとも逃亡するほどの知恵があったのか。アヤカシの一部が自分に背を向けたのを認めて、高らかに咆哮を響かせた。続けて、前足を大きく振り上げて、手近のアヤカシを数回踏み、潰す。
 カノーネとエイレーネー、熱かい悩む火種の三体の龍が、低空と地上を行き来して、アヤカシの群れを次々と地上に引き倒していく。カノーネはそうした行動が身についているのか、種族を超えた遮那王との友情か、忍犬三頭の近くで、常にその動きを目に入れつつアヤカシの動きを止めることに尽力している。
 減じたとはいえ、アヤカシと相棒達の数ではまだ前者が多いが、優勢なのは自分達だと察したのか、これまでは撹乱や牽制に動いていたハスキー君と遮那王が攻撃に転じた。カノーネだけでは止めを刺しきれない地上に這うアヤカシどもに、次々と爪や牙を立てていく。咆哮烈も含めた攻撃は、どちらもに残ったアヤカシの中でも大物狙いで向けられる。それでたまに押されることもなくはないが、
『なんの見てろー!』
『まとめて一網打尽なのね!』
 表情に不屈の闘志を滲ませて、低く高く唸りながら、挫けることなくアヤカシに掛かっていく。極端に大きな敵がいれば、カノーネの尾の一撃が援護で繰り出されていた。
『止めは頼んだっ』
 そんな会話が繰り広げられていそうな区域から少し離れて、黒霧丸が煉獄牙で立ち上がりかけたアヤカシを雪原に再度引き摺り倒した。自分より大きな体を力強く振り回し、瘴気に還るまで離さない。
『シノビの技は必殺。見れば命はないと思え』
 冷淡さも窺わせるその表情には、そんな言葉が似合うだろうか。確実に止めを刺すために、多少怪我も負ってはいたけれど、動きを妨げるほどのものはない。
『後で治癒するから、心配しないでね。あとちょっとよ!』
 他にも皆少しずつの怪我はしていたが、フレイヤが懸命に励ましている。命に関わる怪我ならば、急いで駆けつけるが、そこまでの者は見当たらないから彼女もアヤカシに変わらず斬り付けている。
『おうおう、気を抜いたら駄目だぜ。って、遊んでいる奴はいないだろうな!』
 景気よく鎌鼬を繰り出していたミハイルが、気合を入れ直すのか高らかに叫んだ。当の猫又は、アヤカシを引っ掻き、走り回り、いまだ外さない色眼鏡の中から周囲をじろりと眺め渡していた。
 と、その目がきらりと光ったような、単に雪明かりが反射したような。
『うお〜っ、邪魔を』
 傍観者がいれば明らかな、今まで何にもしていなかったパーシングが、誰にも負けない大きな声で叫んでいた。ついでに、これまで地に這って、下からフレイヤを眺めていたのが、突然走り出している。
『するなっ』
 走り出した先には、これまでの攻勢をかわしていた様子のアヤカシが一体。その持つ武器が狙うのはフレイヤだ。
『もふ〜っ!』
 飛び掛って、前足で殴る。
 着地前に胴体で体当たり。
 着地して、後ろ足で蹴り。
 ほとんど体重だけでの攻撃だが、まったく効果がないわけではない。殴られ、体当たりされ、蹴られてたたらを踏んだアヤカシには、藍玉の氷柱が喰らわされる。
 やはりピィピィと心配そうに覗いてくる藍玉と、我が身の危険に今気付いたフレイヤが見る中、パーシングは胸を張っている。
『だいじょぶ?なんともない?よかったね』
 藍玉が安心したように上下に揺れているが、パーシングはそちらを見ていない。だから、気のいい藍玉が周りのアヤカシに一通り氷柱を喰らわして止めを刺したが、その間はまた『観察』に戻っていた。
『あら、もう終わりなのね』
『そろそろ夕飯時だ、帰るか』
 すっかり暴れまわって、気分がすっきりした様子のエイレーネーと熱かい悩む火種は、辺りを見回して満足気だった。先程、最後のアヤカシ達が逃亡しようとするのを火炎の息吹で気持ちよく焼き払ってきたところ。
 相手の数が多かったから、確かにちょっとは怪我をしたが、フレイヤがいるから心配はない。怪我もないのに擦り寄っているパーシングは、ミハイルに押し退けられて迷惑そうだ。
『戻ってご飯なのね!』
『飯食って、一杯やりたいな』
 ハスキー君とミハイルがなにやら会話を成立させているように見えるが、実際は吠えている犬と独り言を呟く猫又だ。ただし、両者の間には何か心通じるものがあったらしい。
『さあて、帰りましょ。プレシア、どこ行ったのかしら‥‥』
 フレイヤの一声が切っ掛けではなかろうが、三頭の龍はばさりと羽を広げて空に上がっていった。熱かい悩む火種はすっかりと自分の調子で、エイレーネーは挨拶するように皆の頭上を一回りしてから、カノーネは速度を合わせるつもりかゆっくりと飛び始める。
 その間に、自分の役目が終わったと見た黒霧丸は速やかに人里目掛けて駆け出し、少し遅れて遮那王がカノーネを見上げてから走り出した。
 ハスキー君は気前よくフレイヤを上に乗せて、背後からパーシングのじと目に睨まれつつ、元気に駆けている。ミハイルも同様で、藍玉はのんびりと飛んでいく。
『待っでぐで〜』
 一体だけ、他に比べて移動が遅い土偶だけは置いていかれているが、きっと戻る先は同じだろう。

 その後、おやつを抱えた相棒に再会したり、美味しい夕飯にありついたり、また依頼完了の咆哮を心置きなくあげたり、相棒の財布払いでいっぱい楽しんだりと、それぞれに自由気ままに楽しい時間を過ごし、一部は人間達に怒られたり、心配されたりと忙しかったのだが‥‥
 彼らのおかげで、ハクーシの平原に再びアヤカシが現れることはなかったのだった。