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■オープニング本文 唯一絶対なる神の御許に全ての民は平等である。 その信徒は精霊を使役することで、世を善なる方向に導くことを美徳とする。 神教会の教義は、宗派と区分けされる集団ごとに多少の差はあれど、おおむねこの点が共通している。そのはずだった。 けれども、皇帝庶子の親族たるガリ家所領にて摘発された神教会信徒の宗派は、大きく異なる思考を持っていた。 いわく、唯一絶対なる神の教えを信じない者は、死する事によってしか救われない。 ジルベリア帝国中枢からも狂信と断じられたこの思考は、端的に言うなら『仲間以外は皆殺しにして良い』だ。神教会の教えが禁じられて百年余、数多の宗派が摘発されてきたが、ここまで過激かつ危険な思考の持ち主達は他に類を見なかった。 これが叛乱を計画した貴族と手を結び、ガリ家領内で蜂起し、勢力拡大を狙ったのは最近のこと。その蜂起に直接関与した者達はおおむね捕らわれたが、その一部から無視出来ない証言が取れた。 「要するに、預言者を称するアヤカシに良い様に使われていたと言うことでしょう? それにしても、このフェイカーというアヤカシは、神教会がよほど好きなのね」 「禁教の信徒は仲間同士の繋がりが強い。加えて、秘密裏に魔術師の育成を行っている事例も多々見られます。帝国への恨みも戦力もある、いい手駒になり易いのでしょう」 「何か、皇帝陛下や帝国中枢に恨みでもあるのかしらねぇ?」 「それはないと思いますわ。アヤカシは人が嫌う混乱、恐怖などが好きだと聞くので、知恵があるモノは自らそうしたものを招こうとするのでは」 「はた迷惑だこと。アヤカシさえいなければ、帝国の発展ももっと楽に進むというのにねぇ」 アヤカシ・フェイカーに、まさにいいように使われた神教会の過激派達は、近日起こる『裁決の日』のため、武装蜂起も計画していたらしい。『裁決の日』は、この宗派独特の教義で『正しい教えを信じる信徒以外が、神の罰で滅ぶ日』だ。 この教義自体は、古いものではない。せいぜいがここ十数年のもので、切っ掛けは神教会弾圧からこの宗派を守った『預言者』の預言だという。もちろんこの預言者とやらが、フェイカーだ。 何度か神教会の弾圧から守ってやり、アヤカシの襲撃を事前に察知した振りをして得た信頼で、フェイカーは元から先鋭的だったこの宗派を過激派に仕立て上げたらしい。挙げ句に、近日『裁決の日』が来ると預言して、この過激派からよしみを通じた帝国各地の神教会信徒や帝国への不満分子にも影響を及ぼしていた可能性もある。 だが、そこまで話が大きくなると、取り締まるのは基本的に帝国中枢の役目。ガリ家が行うのは、自領と近接領内で判明した神教会過激派の集落を制圧して、そこから情報を得ることとなる。 問題は、その集落が山間部に点在しており、制圧と住人の捕縛、保護を目的とするには、相当数の戦力が必要になることだった。 「殲滅なら、手間はないのよねぇ」 「そんな出来もしないことを口になさいますな。人口台帳では、全体で千人近いのですよ。全部が当家の領民ではないものの、保護する人数が百人に届くかもしれません」 「貧民街から保護した子供の教育も大変なのに、更に倍増。我が家の金庫が空になる日も遠くはなさそうよ」 「止めてください、縁起でもない。今回はどうしたって、開拓者ギルドに依頼せねば人が足りないと言うのに」 「開拓者といえば、フダホロウの祭りばかりか南部の劇場の演目まで手掛けるそうじゃない。いいわねぇ、一度くらい観劇に行ってみたいものだわ」 「そんな遠くに行く暇はございません」 ガリ家の当主夫人が、側近と今回の制圧作戦の金銭面の計画を立て終えると同時に、使者がジェレゾの開拓者ギルドに向かった。 依頼内容は、神教会過激派の居住地区の制圧。 武力で徹底抵抗する者は生死問わず捕縛、老人や子供などの非戦闘員は出来るだけ穏便に保護という、対応が二種類に分かれる制圧作戦である。 |
■参加者一覧
リューリャ・ドラッケン(ia8037)
22歳・男・騎
ユリア・ソル(ia9996)
21歳・女・泰
フラウ・ノート(ib0009)
18歳・女・魔
フェンリエッタ(ib0018)
18歳・女・シ
ヘスティア・V・D(ib0161)
21歳・女・騎
アイリス・M・エゴロフ(ib0247)
20歳・女・吟
葉桜(ib3809)
23歳・女・吟 |
■リプレイ本文 狂信者ならば、捕らわれたことを恥じて自害するかもしれない。口封じに、捕らわれた者を害するかもしれない。そこには複数の開拓者が思い至り、皆で警戒していたことだ。 では、どこまで警戒すれば安全になるのか? 「ちぃっ、ついうっかりが大増殖しそうだぜ!」 「ヘスティアん、どういうこと?、ってー!」 目の前の惨状から気を逸らしたい気持ちが働いたか、幼馴染みの愚痴にすぐ反応したフラウ・ノート(ib0009)が、ヘスティア・ヴォルフ(ib0161)の行動に今度は目を丸くしたままで絶句した。 そのままでいられないのは、自身と他人の命が掛かっているから。残念なのは、守るべき対象と思う相手が、こちらを敵だと認識していること。ホーリースペルの効果もあてに出来ず、ヘスティアのからくり・D・Dが二人の意を汲んで、無痛の盾で二度目の攻撃を我が身に受けている。 別の場所でも、ユリア・ヴァル(ia9996)が苛立ちも露わに坂の上へと叫んでいた。 「掛かってくるなら、あたしにしなさい! 死にたいなら、一人で死ねって言うのよ!!」 合流していたからくり・シンや竜哉(ia8037)、葉桜(ib3809)が、捕らえた住人の襟を掴んで、盾を並べて防御に専念する兵士達へと押しやった。兵士達も盾の影に引き込もうと努力しているが、先程まで魂が抜けたようにされるがままだったはずの住人達が、この期に及んで頑強な抵抗を見せている。 「仲間を犠牲にすることを許す神なんて、信じてたわけじゃなかろうがっ」 そして、竜哉の怒声に、揺すられているうちに猿轡が緩んだ一人が、満足気な微笑を浮かべて、こう言った。 「信仰なき者に命奪われれば、魂が救われない」 「この世で懸命に生きないで、あなたの信仰する方は許してくれますか。どうして」 「わしらの信仰に、端から聞く耳も持たない愚か者が偉そうに口を出すな! 貴族の言うなりの貴様の口から、わしらが間違っている以外の言い分が出るのか!」 信仰が違うものなら殺してよいと、そんな教義に共感する者はこの地に派遣されていない。だから住人とは確かに最初から相互理解は成立せず、それゆえの急襲だが‥‥ 「今のうちに、先程の洞窟に! 人の音はしませんが、確認はどうぞよろしく」 退路を塞ぐつもりのアーマー・アマリリスが、自分達の退路も塞ぎかねない状況になって、イリス(ib0247)は捕らえた住人達に次々と当て身を食らわせて、抵抗を封じているフェンリエッタ(ib0018)や兵士達に呼びかけた。多分応答があったはずだが、アーマーの開閉の音に紛れてよく分からない。超越聴覚を掛けなおそうとしていた矢先だったのは多分に偶然ながら、練力を要するアーマーを使う事態になっては、僅かでも余裕があるのはありがたい。 それが、装甲で攻撃を受け続けるだけでも、稼げる時間で助かる者が出るはずだ。 「人の気配はありません。体の小さい人を頼みます。貴方は、後方の警戒を」 イリスの盾のおかげで攻撃の止んだ隙に、フェンリエッタは矢継ぎ早に兵士達に避難の指示を出した。気絶させることで住人の抵抗はなくなったが、代わりに担いで運ばねばならない。一番体格がいい男性は自分が肩に担ぎ、速やかに防御がしやすい場所へと移動を始めた。とりあえずは、先程見付けた農具などの置き場にしているらしい崖に開いた洞窟だ。 後方から襲われないだけ、そこは避難に適していると思われたが。 『上から見ても、何にもなかったよ‥‥』 羽妖精の特性を生かして、上空から異常がないかを確かめてくれていたラズワルドが、引き攣った声を出したが、洞窟前に崩れた兵士と住人の体にはこの時期にはありえない吹雪の跡が白く纏わりついていた。 同胞を巻き込むことを躊躇わない攻撃は、まだ終わる気配はない。そこここから子供の泣き叫ぶ声が、谷間に広がる集落に響いていた。 問題の集落への急襲計画を企んでいた時。 「関係者と一般人が混じっていると、判別が面倒なのよね‥‥」 「集落全部、一般人ではなかろうが」 見せられた地図で予想以上に全域の制圧が困難そうな集落を確かめて、思わずユリアが呟いた言葉を、ガリ家次期当主のソーンが聞きとがめた。集落全体が神教徒、しかも過激思想に染まっている恐れがあるから、確かに一般人とは言い難い。それでも老人と子供は保護だと言い切るのは、後者はまだ矯正の余地があると考えているかららしい。 ならば前者はどうするつもりかと、竜哉など勘繰ってしまう。ここで質しても時間の浪費だが、ガリ家は当主一族から家臣まで、相談時の口ぶりから情報収集に拷問を使用したことを隠さない。だがまずは、集落の住人達が無為の抵抗や自暴自棄で死傷者を増やさないように、短時間での制圧を目指すべきだろう。 しかし、その点で最大の問題点が、現在イリスと葉桜を悩ませる事実だ。 「笛の音で世間話が出来るなら、符丁は百を超えそうですね‥‥」 「付け焼刃では、真似出来ません」 集落内では、遠方と笛の音や独自の発声で連絡を取ると聞いていたから、その幾つかが分かれば撹乱も可能ではないかと、吟遊詩人の二人は仲間からの期待を受けていた。けれども、そもそもの合図を集落外の誰も再生出来ないことが判明したのだ。畑や家畜の様子から冗談を交わすまでこなす合図の種類は多く、何度か聞いたくらいでは意味など把握出来ない。 それなら下手に真似るより、強い音を被せて聞き取りにくくした方が良いだろうと、方向性はだいたい決まるが、これは当然こちらの動きが相手に知られてからだ。今回は、どこまで集落全体に存在を知られずにいられるかが重要になる。 「畑があるのだから、暗いうちに開始しないと駄目かしらね」 「現地に到着したら、一度リッシーに様子を確かめさせよう」 今の時期、農村の朝は早い。それに先んじて活動を開始するなら、どこから手を付けるのが得策かと頭を悩ませているフェンリエッタに、フラウが猫又・リッシーハットで人家周辺の様子を探らせようと提案していた。偵察には、他に竜哉の人妖・鶴祇の人魂もあてに出来るが、実際に現地到着から偵察までに掛けられる時間は極僅かだ。 こうした山間部にありがちとはいえ、あちこちに点在する人家の位置が一番厄介だと皆が頭を悩ませている中で、ヘスティアは少しばかり違うことを考えていた。 「ついうっかり? あぁ、なるほど。開拓者でそう言うのは、珍しいのじゃないか?」 「生業は傭兵だし? 捕らえてから裁判、処罰ってのが筋だとしても、無理な奴も出るだろ。捕縛に拘って、仲間や兵士に被害が出るんじゃ本末転倒だ。これは目星がついているなら、な?」 もちろん依頼は努めて遂行するが、無理をして必要以上の死人を出すのはごめんだ。ヘスティアの申し出は、他の開拓者にも聞こえないように為されて、ソーンに一言だけで返された。 「お前の判断で構わん」 後で文句言うなよと言い返したヘスティアに、フラウが容れ物の準備が出来たと声を掛けた。 リッシーハットと鶴祇の偵察の結果は、集落全体がまだ動き出していないというものだった。夜明けまであと少し、家の中では起き出している住人がいるかもしれないが、大半は寝静まっていると見える。 葉桜とイリスの超越聴覚でも、人の話し声は聞き取れない。集落全部を把握は出来ないが、まずは少しでも多人数を的確に捕縛、保護し、抵抗する人数を減らしていく必要がある。 それで、地図と偵察とで確認された八戸と七戸の住居が集まるところから、住人の捕縛、保護が開始された。ユリアの指導者は高いところにいるのではないかと言う意見もあったが、徴税役人等の証言では村長の家は集落の中ほど、高さも幅からも集落の真ん中近くに置かれていたので、人数の方が優先される。 村長と宗教指導者を最初に捕らえられればいいのだろうが、前者は住居まで到達する前に住人に鉢合わせる可能性が高い。後者は誰だか分からない。結局片端から捕まえていくしかなさそうだ。 何はともあれ、手近の家から次々と住人を捕らえて、無力化し、兵士達に引き渡していく。これが手順だが、 「こっそり開けるって、誰か出来たかしら?」 「あそこの窓から行くか」 余所者が滅多に立ち入らぬ農村のこと、家の扉に施錠されているとは限らないが、もしもの場合に蹴破って入るのは問題があったかと、ユリアが眉間に皺を寄せている。竜哉が明り取りの窓からでも入れると口にはしたが、葉桜が確かめたところでは、すでに中の住人の一人は起き出している。悲鳴か怒号一つ上がれば、近所の家も異変に気付くだろう。 「どうしましょう。歌で眠らせることも出来ますが、他に聞こえてしまいます」 ならば葉桜の夜の子守唄で眠らせてしまおうにも、これまた抵抗しきった者が出れば同じくだ。必ずいるだろう魔術師や暴力的な抵抗に気を取られ過ぎたかと、少しばかり反省しつつ、手前の家の扉に手を掛けた。 同じ頃、別の家にはヘスティアが躊躇いもせずに雪崩れ込んでいた。 「どうせいつかはばれる。どんどん次に行くしかないさ」 こちらはそうあっさり決めてしまった者がいたせいだが、押し込み強盗もかくやの姿にフェンリエッタが渋面を作ったのも最初の数分のこと。 「他にもご家族がいますね? その方々はどこですか?」 幼児と老婦人という二人住まいに、最初は丁寧に話し掛けていたフェンリエッタだが、同様に家から二人を連れ出そうとしたイリスに指し示された棚を見て、顔色を変えた。ヘスティアはとっくに、イリスは慌てて、別の家に向かっている。 「フラウ、音がしない家も開けてみて!」 すでに取り繕うことをしていない大声に、屋外で周辺の様子を警戒していたフラウとリッシーハットがこそとも音がしないと言われていた家の扉を押し始めた。 もう奇襲の意味はないが、他の家々にはまだ急は伝わっていない。家の中で発見された人々は、何を尋ねられてもまったく返事をしないか、子供は驚いて泣き始めるばかりだったが、合図を出す機会がなかったからだ。フラウの呪歌に抵抗した者がいないせいでもある。 しかし。 「なんで、これしかいないの?」 フラウの疑問に答えられる者は、今の段階ではいなかった。 竜哉とユリアも同様に各家の住人を無力化し、葉桜が次々と眠らせていたが、状況は変わらず。予想よりよほど少ない人数に、幾つかの原因を考えて‥‥そのいずれであっても、対処が難しいと悩んでいた。 地図には、点在する集落を繋ぐ道が一本だけ記されていた。徴税役人や地図作成の技師は、住人がその道しか拓けない場所に住んでいることに呆れと感心を相半ばさせつつ記録したものだ。 それらは現地を歩いた人々の記録の上、測量もされた地図だから信頼性が高いとされていたが、人口台帳は住人が神教徒という特殊性から信憑性が疑われていた。周りが敵だと信じる思想なら正しい情報は出さないだろうし、そうやって誤魔化した人数で各地に布教に赴いている聖職者が隠されていたかもしれない。だが、それでも百八十人はいた事になっている。 けれども、圧倒的に人数が足りない。というか、七軒も八軒もあって、その全てに老人と子供しかいないというのは不自然だ。家の中の様子から、子供の親兄弟に当たる成人が居ただろうことは、容易に推測される。 「隠し部屋とか礼拝堂とかっ、どこかに隠れているんじゃないの?」 「心眼で分かる範囲には、反応がありません。ラズ、他に隠れられそうな場所を探して」 「鶴祇、上空から確認してくれ」 「土筆、人の匂いを追えますか」 分かれた各所で、姿が見えない住人を探しつつ、家々から飛び出してくる人々も捕らえたり、機先を制して眠らせたりしていた開拓者達だが、発見した住人達の反応はいずれも大差がなかった。 襲撃を察知すると、叶う限り逃げる。大抵が老人と子供だから追いつくのは容易いが、とにもかくにも一心不乱に逃げていく。そうしないのは、走るのが覚束ない者だけだ。激しい抵抗を予想していた側からすると拍子抜けだが、おかげで無為に武器を振るう必要がなく、負傷者は最低限ですんでいた。流石に手を出すと暴れるので、双方共にかすり傷などは多々こしらえている。 姿が見えない住人は、すでに集落の外に出ているのではないかと、余りの気配のなさに皆が思い始めた頃。 『誰かいる!』 リッシーハットが集落の斜面の上に方に人影があると叫び、それを振り仰いだ人々は、魔術で捕らえた老人や子供が吹き飛ばされる光景を見る事になった。 突然の攻撃で、相手の人数はさぞ多いかと思いきや、よく観察すると五人もいない様だった。自分達より少ない相手に一時的でも翻弄されたのは、実力の差ではなく、庇う者の有無が原因だ。 「神教会の神は、全ての民が平等だと言っているのじゃないのか。自分を信仰する者を、その死に方で差別するような神なのか」 地下のどこかに大人数が隠れられる場所があるようだと知れたのは、ラズワルドや鶴祇が洞窟とも見えない岩場の影から、数人が出てくるのを発見したからだ。ただし、出てきた人数は四人くらいだと言う。 これが攻撃を仕掛けてきた連中だろうが、竜哉が追いついたのは一人きり。竜哉と大して変わらない年頃の男は、投げかけられた声に一瞬きょとんとした顔になった。 「神の名を、己の復讐の道具にしていないか?」 重ねて問われた男は、竜哉の身なりを確かめて何事か納得したらしい。 「傭兵だな。捕まった者がどうなるのか知らないだろう。荒地に追いやられ、早く死ぬように過酷な仕事をさせられるんだぞ。その片棒を担ぐのは楽しいか?」 「たつにー、言い争ってる場合かーっ!」 こちらを襲ってくる相手と話している場合ではないと、別方向から走ってきたヘスティアが声を荒げている。流石に二人相手は荷が重いと察した男が、これまた躊躇いなく逃げ出した。だが地の利があっても、二人相手に逃げるのは容易ではなく、逃走時間は僅かなものだ。 他に三人ほどが捕まったが、 「アヤカシと手を結ぶなんて、それがまず神への叛逆じゃないの」 ユリアに怒鳴られても反抗的な目付きをするばかり。同様のことをフェンリエッタに説明されても、まるで稀代の嘘吐きを見る目付きだ。仲間の行方を聞きたいが、下手に喋れる状態にすると何をするか分からないから、早々にフラウのセイドの出番となった。 それからふと気付いたが、この近隣の神教徒に様々な働き掛けをしていたフェイカーは預言者を名乗っていた。住人はアヤカシと関係したつもりなどなく、余計に警戒を強めただけかもしれない。 この間に、捕らえた四人が出てきた岩の隙間から奥に礼拝堂らしい空間と、おそらく神教会弾圧の手が伸びて来た時の逃走用だろう細い道が掘られているのが、葉桜やイリスによって確かめられた。そうした道は所々で外に出て、また山肌に隠れして、集落を作る谷の外に続いているようだ。 兵士達に結果的に全員を捕らえる形のなった住人達の移送を頼み、護衛として竜哉と鶴祇が付き添い、残りはその道を辿っての追跡を開始して。 「どうやら、同じ村の人達ではなさそうですね」 「とにかく行かせたら駄目だってば」 周辺の住人と合流したのか、それとも追いついた相手が別の集落の神教徒なのか。どこかに同一の目的地があったらしい集団を数十人、行動不能に追い込むことには成功した。 けれども、他の集落でもやはり先に捕らわれた者が攻撃されて死傷者が出ており、それを為した以外の成人は家族を助けるでもなく、どこかに向かったと知らされる。目的地はまだ不明だが、この出立は預言者からの知らせによるものだったとは、複数の者が漏らしたことだ。 「預言など仕組んで、人を駒のように‥‥」 『裁決の日』のための武装蜂起。その情報はすでに掴んでいたものの、この時期に実行しようとは、予測していた者が開拓者にもガリ家側にもいなかった。もうこれまでに捕らわれたりした者達の失敗で諦めたかと、目の前の住人捕縛と保護に注目しすぎたのか裏目に出たか。フェイカーは、集めた人々にどこかで何かをさせるだろう。 唯一幸いだったのは、竜哉の警戒で移送中の住人達がそれまで以上の被害を受けなかったこと。確かにそちらを狙った者が少数いて、これは偏った信念による『浄化』のための使者だと、捕えた者達が真剣に口にしたのだ。 そうした者は開拓者の誰より若くて、アヤカシの悪意の輪の中を断ち切る決意を、新たにさせた。 |