教えとくれよ開拓者さん
マスター名:鳥間あかよし
シナリオ形態: ショート
危険 :相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/04/16 01:16



■オープニング本文

 銭亀八重子は不機嫌だった。
 最近、幼馴染が、嘘かホントかわかりゃしないアヤカシ話を仕入れては、次から次へ披露してくる。
 そりゃ八重子だってそういう話は大好きだとも。
 だけども聞くばかりってのは、しゃくなもんだ。
 次こそはこっちから、とびっきりこわーいアヤカシと、それを颯爽と退治するつよーい開拓者の話をして、あいつの目をまん丸にしてやりたい。

 というわけでやってきました開拓者ギルド。
 ここならびっくりでドッキリな冒険譚が聞けるはず。
 受付カウンター前でおもいきり背伸びをして、ぷるぷるふるえながら書き上げた依頼書を提出する。

 『いらい』
 こわいこわい あやかしのおはなし してください
 どやつて かこよくたおすのしたかも おはなしください

 そこの いすがいぱい あるとこで まつてます
 ばんごはんおくれたら おこられるので はやくしてください

 ぜにがめ やえこ

 受付嬢は依頼書を確かめると、八重子を優しい目で見つめた。
「ねえ、どんなアヤカシが怖いと思う?」
 アタイ? と、八重子は自分を指差す。
 受付嬢がうなずく。
 八重子は腕組みをして首をひねり、ぽんと手を打った。
「追いかけてきたら怖いと思う」
「なるほどなるほど。ほかにはどう?」
「囲まれたり、逃げられなかったりしたら、すごく怖い」
「うんうん、まだ何かあるかな?」
「倒したと思ったらそうじゃなかったりしたら……アタイちびっちゃうかも」
「確かにそうね。私も怖くなっちゃったわ」
 受付嬢はほがらかに笑った。
「でも大丈夫、そんな時のために開拓者が居るのよ」


■参加者一覧
柊沢 霞澄(ia0067
17歳・女・巫
露草(ia1350
17歳・女・陰
村雨 紫狼(ia9073
27歳・男・サ
神座亜紀(ib6736
12歳・女・魔
カルフ(ib9316
23歳・女・魔
雁久良 霧依(ib9706
23歳・女・魔
鴉乃宮 千理(ib9782
21歳・女・武
イグニート(ic0539
20歳・男・サ


■リプレイ本文

「アヤカシの話……。それでは私が、長く関わったお話をいたしましょう……」
 柊沢 霞澄(ia0067)は頬に手を添え、やわらかく微笑んだ。直後、笑い声が響き驚いて肩をすくめる。
「ガハハハハ! 俺様の武勇伝を聞きたいというのはお前か」
 声の主はイグニート(ic0539)だ。待合室の一角、腰に手をあてポーズを取っている。その前であっけにとられているのが今回の依頼人、八重子。年は十かそこら、地味な着物の女の子だ。
「おっと、イエスロリータ、ノータッチだ。胸に浪漫、心に愛を抱けなくちゃ紳士とはいえないぜ?」
 利き手を掲げて場を制したのは村雨 紫狼(ia9073)。八重子は胸をなでおろす。そこへ足音と話し声が近づいてきた。
「あ、君が八重子ちゃん? こんにちは!」
 神座亜紀(ib6736)が手をあげた。自分と同じ年頃の開拓者に八重子は驚く。
「魔術師のカルフと申します。よろしくお願いします」
 ていねいにお辞儀をしたカルフ(ib9316)。金髪が揺れるたび尖った耳がのぞく。露草(ia1350)が八重子に近づき視線の高さを合わせる。
「こんにちは。今日はとびっきりのアヤカシを教えてあげましょうね」
 少女と開拓者はうちとけた笑みを交わしあった。
「八重子ちゃんって言うのね、可愛い〜。よろしくね!」
 笑顔で頭を撫でたのは雁久良 霧依(ib9706)だ。
「やーん、ふわふわ! ほっぺたもふにふにじゃない」
「あ、よしとくれよ。せっかく結ったのに、髪が」
 小さな女の子にほおずりずりずり、豊満な肢体でがっちりホールド。
「煩悩は仕舞っとき」
 鴉乃宮 千理(ib9782)が笑いながら霧依の肩を卒塔婆ではたく。
「お望みならこれも破ーっといくが?」
 鳴らした錫杖に幻が浮かび上がる。八重子の瞳が輝いた。彼らにとっては日常でも八重子にとってはお祭りのよう。
「ただの挨拶じゃない。八重子ちゃん、また後でね」
 霧依が離れると、代わりに亜紀が八重子の隣に腰を下ろし手帳を取り出す。
「今日みんながするお話、ボクがこれに書いてあげる」
 まだ字が上手くかけない八重子には願ってもない申し出だ。カルフが残念そうに小首をかしげる。
「私も手帳を持ってこれたらよかったんですが、ちょっと手持ちがいっぱいで」
 そう言いながらバッグを開けると、中は甘酒や雛あられでぎっしり。歓声が上がる。
「さ、召し上がれ。まだまだたくさんありますからね」
「おっと私も。お茶とお茶うけよ」
 霧依も緑茶とワッフルセットを皆に配る。ふんわりといい香りに包まれちょっとしたお茶会のようだ。
 その影で悪巧みをしていたのがイグニートだった。
(「今日はいいタマがそろってるではないか。特にあの乳尻ふともも、俺の女にしてほしいと見た!」)
 霧依のボディラインをじったり見回すイグニート。その邪心に気づかず、露草が語り始めた。
「私の話は『超巨大アヤカシ』、その名は地龍『うねりもがく者』……」
 声音を変え前のめりになり、彼女は気持ち八重子に近づく。
「形は龍だけれどもその背に翼はなく、凶悪なまでに大きな体は一歩踏み出せば岩をも砕き、人がその腹の下に入ってもつかえるどころか、膝の裏を狙えるほど。にもかかわらず機敏なのです。当然攻撃も……」
 露草の手が宙を走る。その鋭さは地龍の一撃を思わせた。
「術で作った壁すらも、攻撃を一瞬受け止めるのがやっと」
 露草は手の平に人魂を呼び出し異形の姿をとらせる。
「これが地龍の似姿。本物はこの何千倍、見上げるように高くて歩けば轟くような音がするのですよ……そして」
 ぽんと音を立て逆の手にマグロ。八重子の目がまん丸になる。
「破魚符です。これで龍に殴りかかりました。皆で龍をその場にとどめ、援護も得てようやく首を切り落としたのです。倒したその姿も、小山のようでした。すぐに散ってしまいましたけれど……」
「そのマグロでもおっつかないくらい大きかったんだね」
 八重子の感想に露草はうなずく。
「次は俺に任せろ。題してゴブリンスノウ退治談だ!」
 露草を押しのけイグニートが八重子の向かいに座る。
「雪に紛れて襲い掛かる狡賢い小鬼の話だ、狼よりもずっと強いぞ。その日は深い雪で歩くのも大変だった。俺以外のメンツは武器を杖代わりにして進む有様だ。不意に木に積もった雪が崩れて視界が覆われた……その時! やつらが現れたのだ!」
 これ見よがしに力こぶをつくり、何故か女性陣に向けてアッピル。そういえば今日は三人も魔術師が居るぞ。
「邪悪なゴブリン共に襲われピンチになる魔法使い。しかし俺が大剣を振り抜く! スマアアアアッシュ! 奴らの首が飛ぶ!」
 ツバを飛ばしながら熱弁を続けるイグニート。
「ザコをばったばったとなぎ倒し、残るはリーダーのみ! 当然一撃で葬り去った! 仲間達は俺を称え、依頼人も感激のあまり報酬を倍にしたのだ。もっとも俺に言わせると端金だがな」
「すごーい!」
 八重子が興奮もあらわに手をたたく。
「ガハハハ! 喜んでくれたようで何よりだ。……今のは守秘義務の関係で、俺の活躍以外はウソだからな」
 きらきらした八重子の瞳にちょっと胸が痛んだらしい。
「まあこの俺の活躍を聞けたからには依頼成功は間違い無し、というわけで」
 イグニートはすすっと霧依に近寄った。
「子どもの相手は退屈だろう。大人同士どこかにしけこもうぜ」
「あら。言うこと聞いてくれたら、後で……ね?」
 思わせぶりなウインクをすると霧依は両手を組み合わせた。手を組んだまま人差し指だけ突き出したその印は。
「こんな形の、人間の手首くらいの小型アヤカシの話よ。常に背後から奇襲、しかも素早くて攻撃を受けたと思ったらもういないっていう厄介な奴だったわ。小さくて隠れやすいから、知らない間に傍に来てるの、例えば……」
 霧依が視線をすべらす。
「その椅子の下とか!」
「ひゃ!」
 椅子から飛び上がらんばかりに驚いた八重子に、霧依はにんまり笑った。
「いないみたいね。ちなみに攻撃は……」
 霧依はイグニートを立たせ、その背後に回る。
「こういうの!」
「おぎゃーーー!!」
 女性とはいえ熟練の開拓者、その渾身のカンチョーをくらったイグニートは奇声をあげて倒れた。
「実際にはこの数十倍の威力で、被害者は皆絶叫し、通院を余儀なくされたわ。私も攻撃受けたわ、ものすごい衝撃だった……でも!」
 霧依はむっちりしたヒップを八重子に向けた。
「このお尻でぎっちり挟んで捕まえて、仲間に魔法で倒してもらったの。鍛えておいてよかったわ」
「開拓者さんてのは、尻も鍛えなきゃならないんだね」
 難儀な商売だと八重子はごくりと生唾を飲む。
「興味があったら特別指導してあ・げ・る」
「志体を持っているからできる芸当ですよ。間に受けないほうがよろしいかと」
 カルフはやれやれと首を振る。その背中にやっと立ち直ったイグニートがにじり寄る。
「痛……あの女、ハクいが可愛げがない。カルフとか言ったな、おまえこそ俺様にふさわし」
「アムルリープ」
「すやり」
 地べたに転がったイグニートを八重子は唖然と見下ろす。
「魔法です。大丈夫ですよ、開拓者ですからこのくらいで風邪は引きません」
 イグニートを脇へ転がすと、カルフは湯のみに甘酒を注いでやった。
「先の合戦でのアヤカシを話しましょう。あれは包囲された里の人々を救出する作戦のときでした。仲間が突然私に弓を向けたのです。
 矢は私の影に向かって放たれました。『何をする!』と言おうとしたら、影から悲鳴が上がって瘴気が出ましてね。影鬼というアヤカシが潜んでいたのです。仲間がいなければ、私は今ここには居ないでしょう。何せ影に潜むと見えませんから……」
 八重子が自分の足元を見た。そこには傾きかけた日差しを浴びて黒々とした影ができている。
「はいこれ」
 亜紀がもふらのぬいぐるみを取り出した。
「これをぎゅっとすれば気が紛れるよ」
「ア、アタイ平気だよう……」
 そう言いながらも八重子はぬいぐるみを受け取り抱きかかえた。カルフが再び口を開く。
「人化鬼にも苦労させられました。その名のとおり人に化けるアヤカシです。彼らが里の人に紛れ込んでましてね」
 カルフが黒い懐中時計を取り出す。ただの時計ではないらしい。その証拠に四本の針の中央には怪しく光る宝珠が埋め込まれている。
「この『ド・マリニー』を持ち合わせていたので助かったのです。これには精霊力などを測る機能がついています。普通の人は、もちろん貴方も、精霊力を持ってます。でも人化鬼はアヤカシなのでそれがない。なので時間を計る振りで、精霊力が違う人を調べ攻撃したのです。結果は……すべてアヤカシでした」
「そんな貴重な品がないと見抜けないなんて……」
 八重子は不安を隠せないでいる。茶をすすっていた千理が豪華なキャンディボックスを開いた。
「飴ちゃんいるかね? 舐めときゃ恐怖も紛れるじゃろて」
 八重子はすなおにそれを受け取り、口に入れた。
「そうさの、まずは黒氷雨の話をしよう。まず獲物をその瞳で眠りに落とす。そして近づいて仕留めるのじゃが、この時わざと獲物を起こすのじゃ」
 首をかしげた八重子に千理はうなずいてみせる。
「何故かって? 恐怖はご馳走なのじゃよ。黒氷雨どもは集団でひっそりとこうした行動を起こす。一匹では戦闘に向かんが、技能と知能で埋め合わせる狡猾さを持っているのじゃよ」
 千理はぐびりと茶を飲みさらに続ける。
「知り合いの話をしよう。とある村がアヤカシのモノになってたのじゃ。そやつは村を瘴気で覆い、村人をアヤカシにしてしまった。ヒトの身体と記憶はそのまま、徐々にじゃ。結局、出稼ぎから帰った男が異変に気づいて逃げてきたことで発覚した。開拓者が着いた頃には村人は完全に……おや?」
 八重子は真っ青になっていた。無理もない、熟練の開拓者でも吐き気を催すような話だ。千理は頭をかく。
「では口直し。ふらもというアヤカシがおる。汝の抱いておるもふらのパチモノで、悪戯ばかりする奴じゃ。おつむもかなり抜けておる。そういうのもいる」
 言いながら八重子の背中を撫でてやる。落ち着いたのか顔色のよくなった彼女に千理はもうひとつ飴をやった。
「アヤカシより怖いヒトもおる。気を付けるのじゃよ」
 そう結んだ千理の隣で紫狼が髪をかきあげた。
「おまえの話で、苦い過去を思い出しちまったぜ」
 紫狼はしゃがみこみ、八重子の顔をのぞきこむ。真剣な表情のまま口を開いた。
「俺みたいな暢気者も場数だけは人並みにこなしてきた。正直倒してきたアヤカシの数は覚えちゃいない。けれど、中には忘れられない戦いもある……決して美味くはない。ザラザラした砂のような、酷く無味という味を、味わったよ」
 紫狼は目を伏せた。
「お嬢ちゃん。約束してほしいんだが、俺の話を面白がって言い触らさないで欲しいんだ。相手がこの世界の災厄だとしても、アヤカシの死に様なんて口にしちゃダメだ。それが約束できたら、俺の話をしてもいい……いいかい?」
 八重子は困ってしまった。だって今日は幼馴染に話すアヤカシ話を仕入れに来たのだもの。こんな前振りなら心に残る魅力的な話だろうし、それを誰にも言わないでおくなんて無理な話だ。死地に身をおく開拓者と違い、ただの町の子な八重子に秘密厳守というのも難しい。
「そうだな、お嬢ちゃんにはまだ早いな……こんな悲惨な話はよ」
 察した紫狼は立ち上がった。
「いいかい、開拓者の戦いは華々しいものだけじゃない。血反吐を吐き泥まみれになりながら不幸になるとわかっている依頼に挑戦しなきゃならない時もある。忘れないでくれ」
 紫狼の言葉に亜紀も細い腕を組んだ。
「アヤカシなんて、実際遭遇したら名前も聞きたくなくなるもんだよ」
 亜紀は座りなおし、八重子の方を向く。
「ボクは『三魔星』っていう骸骨アヤカシのお話。石鏡の狂気の天才陰陽師の作品の一つさ。ボクも重傷を負わされたよ。でも仲間と力を合わせてなんとか一体倒してやったー! って思ってたら……」
 八重子が拳を握って続きをせがむ。
「すぐさま復活しちゃったんだ。何それ反則だよーって感じだよね。実はそいつら、三分以内に全員倒さないと復活する事が解ったんだ。それで作戦立てて慎重に近づいて、仲間が必死に斬りかかるのをボクが魔法をぶちこんでサポートしたんだ。ボクのお陰で討伐は成功したんだよ、えへん」
 胸を張る亜紀に拍手する八重子。最後ちょっとホラ吹いたのは秘密だ。二人の様子に微笑んでいた霞澄が、両の手を膝に置いた。そしてぽつぽつと語り出す。
「私は、とある絵師さんから女の子を探して欲しいとの依頼を受けました……。絵師さんは自分の絵のことで悩んでいました……三年前山で出会った子どもが気にかかり、もう一度会いたいというのです……。
 私たちは山に向かいましたが、そこは瘴気に覆われていたのです……。しばらくして、絵師さんから女の子のお父さんが現れたと連絡がありました……。その子、憐は、三年前にあの山で崖から落ちたというのです……。
 私達は再び山に向かいました、そして憐さんを見つける事が出来ましたが……彼女はアヤカシになってしまっていたのです……意思も記憶もあるのに、他の命を奪うアヤカシ……それは優しい憐さんにとってどれだけ辛い事だったでしょう……。
 でも、そんな憐さんをお父さんは抱きしめ……そして絵師さんはお礼を言ったのです、君の一言が私を変えてくれた、ありがとうと……そのとき憐さんに笑顔が戻りました、アヤカシになってしまった自分でも必要としてくれる人がいたと……。
 そして私達は憐さんをあるべき所に還しました……私達の心に残った想い、それが憐さんの生きた証です……」
 愁いを帯びた霞澄の横顔。葉ずれの音に小鳥のさえずりが重なった。

 八重子は開拓者達にぺこりと頭を下げた。今日一日でたくさんのものを見、聞き、学んだ気がする。幼馴染は地団太踏んで悔しがるだろう。おいしいお茶やお菓子もいただいたし、もっとお礼を言いたいが、そろそろ帰らなくてはならない。
「ありがとうね、また遊びに来るよ」
 亜紀からもらった手帳の切れ端を胸に、八重子は開拓者達に手を振った。手を振りかえした紫狼がくるりと振り向く。
「どうする、これ」
 指差した先にはイグニート。
「放っておきましょう」
「私もそう思います……」
「ボクも関わりたくない」
「起こしたら、鮪を差し上げたくなりますし」
「そうじゃな」
「すぴー。ぐふふ、良いおっぱい……」
 極楽夢気分なイグニートに一行はなまぬるい視線を投げる。
「私が回収ということで!」
 手を上げた霧依に任せ、ギルドを後にする。悲鳴が聞こえた気がするが、もうまったくどうでもいいのだった。