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■オープニング本文 ※このシナリオは初夢シナリオです。オープニングは架空のものであり、ゲームの世界観に一切影響を与えません。いいね? ●偽王再び 「ポストが赤いのも私が負けたのもシナリオで風信機が使えなかったのも、春華を名乗る逆賊のせいであるぞ! 金星で宇宙人がそう言ってた!」 本日も電波ゆんゆんな偽春さんは、春王朝への逆恨みをネチネチ募らせていた。 説明しよう。 偽春こと偽春華王は、常春の国、泰国を動乱に叩きこんだ国賊であり、大規模合戦【泰動】の中ボスであり、ボイドラの圧倒的存在感でもって戦後処理が終わった頃ようやく全身図が公開されたラスボスの影の薄さを補うがんばりやさんである。 「いざ立て者ども。天下を獲りにいくぞ」 「マジかー」 「だるーぃ」 臣下はごろ寝している。 「いきなり天下とか無理でゲス。できることからコツコツと、でゲスよ」 「まずは幼稚園バスを乗っ取るロボ」 「幼稚園……ふふふ、いい方法があるぞ」 偽春はにたりと笑った。 ●ヒガラさんち 仕事から帰ってきた先代春華王こと、飛鳥(23歳・既婚・薬剤師)は、リビングでせんべいかじりながら高檜とマリカやってる偽春の姿に慄然とした。 「国賊め、何用ですか!」 「まあ待て、あと一周だ。……高檜、こざかしいぞ」 呼子笛と赤い飾りを首から下げた幼児が、画面から目を離さず返事をする。 「バナナは道が狭いとこに置けって父さんが言ってた」 「青甲羅を回避するな」 「直進ドリフトは基本だって父さんが言ってた」 「バグ技ショトカを使うな!」 「人んちのコントローラーを投げるやつは地獄の業火に投げ込まれるものであるって父さんが言ってた」 「さすがに父さんそこまで言ってないぞ」 盆がフローリングで跳ねる。飛鳥が振り向くと蒼白になった棗が扉の影に居た。 「常春さんかと思ったら。あなた、どうしましょう……」 よろめく棗にあわてて近寄り、飛鳥は肩を抱いた。 偽春が鼻を鳴らす。 「貴様が棗か。おまえが曾頭全を裏切ったのがケチの付き始めだ。我より男を取った不忠者め」 「とりますわよ。うさんくさい組織と頼れる旦那、どちらを選ぶと思ってますの?」 「ぐうの音も出ない」 「自覚してらっしゃるなら、速やかにお引き取りくださいませ」 ひしと抱き合う夫婦。偽春は扇子を床に叩きつけた。 「見せつけおって! どうせノーパソを前に二人羽織状態で、やーん操作がわかんなーい、はははこうやるんだよ、とか言いながらマウスの上で手を重ねてたりするんだろうが!」 「なぜ知っているのですか」 「ほんとにやってるのか、今ちょっと引いたぞ」 「じ、自分から水を向けておきながら。おいといて、何を企んでいるのですか」 「……ククク、ふはは、はーはっはっは!」(CV野兎) 飛鳥の問いにひとしきり高笑いすると、偽春は高檜を抱きあげた。 「結婚するのだ! じつは私は女の子だったのだ! IFだからな! あの笑顔のフラグクラッシャー常春が嫁探しをするとは思えん。必然的に継承権は高檜に行き、妻である私が堂々と春王朝の仲間入りだ。後付け設定をフルに活かした完璧な作戦、我ながら惚れ惚れするぞ。式場で改めてまみえよう、お義父さん、お義母さん!」 劇場版魔法少女のエフェクトに身を包んでウェディングドレスに着替えた偽春は、高檜のくびねっこをつかんだままチャペルへの道を駆けていく。バストは平坦である。その後ろを赤もふら、丸々が必死で追いかける。 「たすけてぇたすけてぇ。白鳳おじさんと同じ顔のおよめさんはいやぁ」 ちたぱたしていた高檜が呼子笛をくわえ、おもいっきり吹いた。 (「お願い助けて、笛の音が聞こえたなら!」) ぷすー。 音は出ない。出ないけどいいのだ、心に響くから。 |
■参加者一覧
六条 雪巳(ia0179)
20歳・男・巫
ユリア・ソル(ia9996)
21歳・女・泰
フランヴェル・ギーベリ(ib5897)
20歳・女・サ
神座早紀(ib6735)
15歳・女・巫
中書令(ib9408)
20歳・男・吟
呂 倭文(ic0228)
20歳・男・泰
ハティーア(ic0590)
14歳・男・ジ
小苺(ic1287)
14歳・女・泰 |
■リプレイ本文 ●だけど僕は一途だから 「駄目だ、ノーパソがノーパンに見えた!」 蒼穹に小苺(ic1287)の叫びがこだました。 エアリーな外跳ねショートはピンク色、くりっとしたライムグリーンの瞳。口元で八重歯が光る。片方だけ耳の折れたほわほわネコミミ。先がまあるくなったカギしっぽ。チャイナカラーの襟元には苺のぽんぽんが揺れ、パニエでふわふわのスカートで葉っぱのメロディを奏で五線譜が踊る。トゲの生えた腕輪は苺のシールでデコってあった。なお、この描写はすべて妄想である。 「でも全裸に見えたよりマシにゃ、てへぽよ☆」 舌を出して額をこつん。カメラ目線で愛嬌を振りまき、飛鳥宅へ舞い戻る。 そこでは銀糸の刺繍が光る白のタキシードを一分の隙もなく着こなしたフランヴェル・ギーベリ(ib5897)が、ウェディングドレスの幼女二人を溶けそうなほど熱く見つめていた。 「お待たせ、八重子、クマユリ♪ 今日はボク達三人が家族になる日だね。長い間寂しい思いをさせてしまってごめんよ」 「わあ、うれしい」 「おねーさんカッコイイー!」 「どれだけこの日を心待ちにしてきたことだろう。思えばボクらは出会いからして衝撃的だったね♪ 出会ったのは、そう小雨そぼ降る麦秋だった。きみ達はダンボールに詰められて震えながらそっと身を寄せ合っていたっけ」 思い出に浸るフランヴェル、その奥でハティーア(ic0590)に壁へ追いつめられているのは、腰が引けてる飛鳥と涙目でイヤイヤしている棗だ。前はハイネックで清楚な、しかし背が大きく開いたタイトなウェディングドレスからのぞく小麦色の素肌。その上で揺れる雪のような銀髪。甘やかな吐息をこぼし、ハティーアはひきつっている飛鳥へ頬を寄せる。 「薬剤師ってことはさあ、けっこう稼いでるんじゃないの? 僕のこと、もらってくれていいんだよ?」 「失礼ながら、私にとって棗以外はヒジキの生えたダイコンにしか見えません」 「ほんとに失礼だねあなた。囲ってくれればそれでいいからさ。三食昼寝とあったかい布団にポテチがあれば、お礼に背中くらい流してあげるって」 「およしになって。宅の主人を誘惑なさらないで」 「笛の音が聞こえた気がして立ち寄ったら、このグダグダっぷりは一体」 「雪巳さん! ……助かった」 玄関で呆然としている六条 雪巳(ia0179)の姿に、九死に一生を得た飛鳥夫妻が胸をなでおろす。 庭に面したリビングの窓が叩き割られた。赤もふらの丸々を腕に抱き、輝くガラス片を舞わせ降り立ったのは神座早紀(ib6735)。 「高檜さんの笛の音、確かに聞こえました!」 凛とした乙女の声が響く。ローンがという飛鳥のぼやきは黙殺された。外で転がっていたらしい丸々をソファに寝かせてやる。 「ヒガラさん、棗さん、私が来たからにはもう安心ですよ。丸々さんをぼてくりまわした犯人は誰ですか。さては貴方? お覚悟!」 ハティーアに向けて放ったストレートは寸前で網に絡んだように制止した。 「……私の右が不埒者以外を相手に途中で止まるなんて。まさか貴方、貴方ではなく貴女?」 褐色の額にこぼれ落ちた銀髪をかきあげ、ハティーアは無駄に色っぽいまなざしを早紀に投げかけた。 「そのとおり。僕の夢、すなわち今年の目標は、ヒモになって楽な暮らしをすること。そのためならば性別転職だって辞さない。今の僕は夏の夜に舞う月光蝶のごとき優艶辣華なジプシー改め、人んちでごろ寝希望のパラサイトさ!」 「知ってます。ぬらりひょんですね」 「座敷わらしと言ってくれないかな。ちなみに活性化スキルは、1、『両性具有』。2、『【おっぱいは】偽乳【つくれる】』。3、『ターゲット☆ロックオン』」 「そんなふざけたスキルがあってたまりますか! 2番だけ詳細を述べなさい!」 「話が進みません」 いつのまにかリビングでお茶をすすっていた中書令(ib9408)が湯呑みをテーブルに置く。本物のぬらりひょん、そんな単語が雪巳の脳裏をよぎった。 「ノーパソを前に二人羽織状態で夫婦円満をはかるのは、ちょっと高檜さんの情操教育に悪いかなと思ったりしましたが」 「見ていたのですか」 「まあ雪巳さん、それはそれとしまして」 せんべいをいただきながら中書令は閉じたままのノーパソを指差した。 「これがあるのなら、いんたーねっともあるのではないでしょうか。ヒガラさん、この辺りでチャペルのある結婚式会場を検索してください」 「わかりました」 ぽちぽち。 「大通りを挟んで東と西にあるのですか。近いのは東の方ですが、西では30%オフキャンペーン中……」 画面をのぞきこんだ中書令は、飛鳥と二人羽織になっていると気づいた。お互い無言で席から離れる。微妙な空気のまま玄関を出て愛用の琵琶に手をかけ、時の蜃気楼を奏でようとした。雪巳が家から飛び出す。 「中書令さん!」 「なんでしょう」 「ヒガラさんがスマホ持って行けって」 「これはごていねいに」 ●家の裏で偽春が死んでる (「わからなイ、何もかモ!」) 黒の燕尾服を着たまま白 倭文(ic0228)は頭を抱えていた。 「そこをどかんか、女!」 チャペルまであと少し。門の手前、彼の目の前ではプリンセスラインのウェディングドレスの偽春が、たすけてぇとすすり泣く高檜をつかみ扇子をかまえ威嚇している。対するユリア・ヴァル(ia9996)は赤いレースのウェディングドレスに、兎耳カチューシャ。 「チャペルで旦那様を待っていたら大物がかかったわね。どう、この衣装。両方あれば最強だと思わない?」 「なぜ兎耳なのだ」 偽春の問いにサテンの兎耳を撫で、ユリアはやわらかく微笑んだ。 「いつのまにか女の子になってる人のセリフとは思えないわ。単なるノリだけど、美人が付けるとまた別格よね。ちなみに赤の花嫁は短剣を隠し持ってるから注意よ♪」 挟み撃ちにした早紀が偽春を指差す。 「そこのずうずうしいぺたん娘さん! 高檜さんは私が怖がらずに済む貴重な、真っ赤な林檎を頬張る可愛い」 「年下の男の子」 「ご協力ありがとうございますぺたん娘さん。今時キャン○ィーズが通じるなんて、あなた18才って嘘でしょう。ますます高檜さんは渡せません!」 「だ、だまれ15才(外見年齢)!」 大量の空き缶がくくりつけられたLOの影で、マーメイドラインのウェディングドレスを着せられた雪巳が固まっている。 「クマユリさん、確かにお式に合う服をとお願いしましたが何故これを。皆さんそれぞれ盛装で……普段と違うお姿を見られて、とても楽しいですが……その、ジルベリアの衣装はこう、体にぴったり沿いすぎているというか……」 気弱な笑みを見せる雪巳にクマユリが胸を張る。 「大丈夫だって、すっごく似合ってるって!」 「そうだよォ、お兄さん髪もお肌もつやつやでキレイだもの。ユリアさんと小苺さんもそう思うよね」 楽しげにうなずく八重子に二人も首を縦に振る。 「男でも女でも美人には似合うものよ。あとはベールをつければ完璧ね。結った銀髪が隠れちゃうのはもったいないからここはコサージュでいくべきかしら。中書令も……化かしがいがありそうね」 「プロデュースしてあげるにゃ。ありがたく思うにゃ」 「いやいやいや」 首といっしょに両手を振ってお断りする中書令に、小苺がイイ笑顔のままにじり寄る。 「ウェディングドレスとタキシード、どっちがいいにゃ」 「いえ、どちらも私には似合わないと申しますか」 「なら白無垢か、それとも紋付袴にゃ?」 「それも似合わない気がしますが」 「となると、バニーにゃ!」 「この流れは強引に過ぎるのでは」 「問答無用!」 「お許しを、お許しを」 頭痛が痛い。何が起こってるのかさっぱりわからないが、一番わからないのはこの。 「倭文さん、早く受付に行きましょうよ。今なら諸経費込み30%オフですって」 腕に抱きついたままのエンパイアラインなウェディングドレスを着た呂。 「何ダこの設定。我の記憶が確かならまだフラグのフしか立ててないハズ」 「これから立てるんですよ!」 「突っ込みどころが多すぎて怒るに怒れなイ。とりあえずあれだロ……高檜救出でいいんだよナ?」 「指輪の交換ですよ?」 「そういうこと言ってるとほんとにさらって嫁にするゾ」 不可視の衝撃波が発せられ、倭文と呂は吹き飛ばされた。アスファルトに亀裂が入る。 「私の目の前で背景に花を飛ばす奴は許さん!」 破壊された門に偽春が駆けこもうとしたその時。 「ボクを置いて先に行くなんて子猫ちゃん……そこまで式を楽しみにしてるとは感動だよ!」 猿叫が轟いた。信号無視して迫り来るその姿はまるで疾風だ、疾風フラン! LOの脇にいた八重子とクマユリをかっさらい、偽春を轢いてゴールイン。高檜が宙を舞う。 「ぴょー」 「オーライ、こっちです」 キャッチしたのは早紀だ。拳で顔をぬぐう偽春へ左手を掲げる。薬指には燦然と輝くカメオリング。 「貴方に渡すくらいなら私が結婚します! 呂さん、私の方が高檜さんに相応しいと思いますよね? 私と呂さんの仲ですもの。私を選んでくれますよね?」 かざした左手の下からアイコンタクトを送る。 (「時間稼ぎです。わかってくれますね」) しかし呂はとまどった様子で聞き返してきた。 「でも、早紀さんの本命はお姉さまでは?」 隣で倭文が空気読め戚史殿とつぶやいた。 (「しまった、こんなところに孔……羽扇「伏龍」の罠が、って考えてみれば通常運転でしたね。ここぞというところで足をひっぱってくれるのが呂さんでした……」) 本日もダイヤは正常だった。 りーんごーん。出し抜けに鐘が鳴った。花吹雪とライスシャワーが視界を埋めつくし鳥が歌う。感涙にむせび泣きながら八重子とクマユリを腕に抱き、チャペルからフランヴェルが出てくる。 「ありがとうありがとう。二人とも必ず幸せにする。三人でずっと一緒にいよう。最高!オールオッケー! さあこのまま世界一周だ!」 熱いベーゼを二人と交わしLOへ飛び乗る。ごつい翼が風をはらみ二人のスカートがまくれ上がった。フランヴェルにだけチラ見えしたドレスの中は。 「ノーパソだと……!」 LOの上で赤い飛沫が爆散した。 「ああっ。フランヴェルさんが全体液を鼻血に変換してしおしおに! どうしようクマやん」 「八っちゃん輸血だよ輸血。トマトジュースだよ」 「ワインのほうがいいんでないかい?」 「……ノーパソテ」 不幸にも騒ぎを耳にしてしまった倭文は傍らの呂をうろんな目つきでながめた。 「失礼な。はいてますよ、ほらっ」 「めくるナ!」 呂が持ち上げたドレスの裾を、間髪入れず叩き落とす。 「くまさんはねェだロ! もっと普通のにしろヨ、金ラメとかレインボーとカ!」 「普通、とは」 生まれも育ちも天儀な雪巳が思わず真顔になった。視線が集まる。 「わ、私は普通ですよ。いたって普通です。普通だと申しあげております」 「小苺は赤スパンコールにゃ!」 「おやめくださいこれ以上の普通の定義を覆さないで下さい、おねがいします」 「僕は紫グラデのレースだよ」 ウインクするハティーア。片膝を地につけたままの偽春に近寄り、あごを持ち上げる。 「それにしても、偽春さん……変身魔法、失敗したのかな? すごく……絶壁だよ。それに高檜さん、嫌がってる……そんなんじゃ、立派なヒモになれないよ? 僕が誘惑の仕方、教えてあげようか?」 言葉を途切れさせ、パラサイトは早紀と高檜を振り向いた。 「……というより、僕が高檜をオトしたら、生涯ヒモ生活できるんじゃ?」 じり、ハティーアが近寄る。じり、早紀が後ずさる。 「花嫁の隣に並び立つのは花婿じゃないにゃ。……ケーキにゃー!」 小苺が間に飛び込んだ。ウェディング、ケーキにしか見えない、ドレス。体高3mはある。 「お も て な っしーんぐ! フシャー!!」 勢いを乗せてボディアタック、たまたま早紀とハティーアに挟まれていた偽春に直撃するがケーキドレスのかさが多すぎて本人誰に当たったかわかってない。たぶん目的は果たした、ということにして、1カメ、2カメ、3カメ、順にばっちり決めポーズ。 ユリアが早紀の腕の中の高檜をのぞきこむ。 「女の子を蔑ろにするのは感心しないわよ? たとえ偽春華がちょっとアレな性格でも、お断りするなら誠実に断りなさい。良い男は度量も広くなくちゃ。それに、結婚はまだ早いにしてもお友達にならなっても良いんじゃない? 偽春華の性格も少しはしおらしくなるかもしれないし♪」 次は偽春へブーケトスからアイヴィーバインド。身動きの取れない偽春を背後からがっちりホールド。 「やめ、頚動脈決まっ」 「うふふ、ちみっこなら可愛いのよね。ねえ、男の気を引くのなら、こんな強引な求婚は逆効果よ。いい、結婚は男と女の戦争なのよ? 惚れさせてこそ女。その方が、のちのち思うがままにできると思わない?」 笑顔で物騒なセリフを吐く彼女の旦那さんが、はたしてどんな扱いかは神のみぞ知る。 「女子力あげなくちゃだめよ。手ほどきして上げましょうか? 細面だし甘ロリが似合いそうよね。縦ロールと大きなリボンね、ピンクのフリフリドレスも。それから笑顔の練習に、上手な甘え方ね♪」 雪巳がこくびをかしげた。 「それ以前に、天儀では14才から成人なのですよね。高檜さんはまだ14にはなっていないはずですから……親御さんの許可がいるのではありませんか? それに、春華のおうちに入りたいのならわざわざ傍系の高檜さんと結婚するよりも、直接常春さんにお嫁入りしたほうが早い気もしますけれど」 ようやく調子が戻ってきたらしい倭文も続けた。 「そうだゾ、兄かつ父親の旦那は女に惚れて駆け落ちだゾ。それで二人羽織でいちゃついてんダ。つまり惚れたらスゴイ。だから他のに取られたら終いダ。本人オトス方が確実でいいっテ」 「ふざけるな!」 偽春が絶叫した。 「あやつのせいで組織は壊滅だ。顔も見たくないわ! でも春華の座は欲しい。妥協! これがマネジメントだ!」 「お式を挙げてからでは、後悔しても遅いのですよ……」 「雪巳殿の言うとおりダ、春殿」 「春?」 毒気をそがれ、偽春が倭文を見つめた。 「ああ、偽付けんの不憫だし春殿でいいカ?」 ぽかんとした偽春は、ほろほろと涙をこぼし始めた。 「おまえ、いい奴だな……」 (「やべェ、なつかれタ」) 「よし、天下を獲った暁には貴様を宰相に任じてやろう!」 「もう無理、逃げル! さっそく転んでんじゃねェ戚史殿、しょうがねェ奴だナ!」 呂を姫抱っこして走り去る倭文、牽制に精霊砲を放ち高檜を抱いて逃走する早紀。追いかける偽春。猛追する一同。騒動を放置し、白亜のチャペルに足を踏み入れたユリアは澄んだ冬空に夫の面影を重ねる。 「神は信じてないけれど。……愛してるわ、旦那様」 そしてまぶたを閉じ胸の内で一人ごちた。 (「今更ええ話風にまとめるのは、さすがに無理ではないかしら」) |