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■オープニング本文 雲の流れる青空に、ぽんぽんはじける花火の音。 帯を締めなおしたあなたは、控え室の扉を抜け長い廊下を歩いた。 ここは砲術士の国、朱藩は遊界(ゆうかい)。賭け事の街だ。的当て、競馬、花札、丁半、あらゆる賭場が開かれている。そう、例えば、武者が純粋にその強さを競いあう場も。あなたはその武を見込まれてギルドを通じて招かれ、リングへと上がるのだ。 ひんやりした冬の空気があなたの神経を冴え渡らせていく。廊下の終点、まぶしい光をくぐると広い闘技場が目の前に現れた。 歓声があがり全身を包んでうねる。 円い石舞台の直径は50mほどもあろうか。走り回ろうと技を放とうと観客までは届くまい。整備員の美女、黒髪ショートカットのジト目、も居る。つっこんだらあかん奴やと察してあなたは目をそらした。ひとつ言えるのはいつでも万全な状態で戦えるということだ。 黒服のからくりがリングの中央に立っている。七三分けの見た感じ、たぶん雄なんじゃないかな。紅白の旗を両手に持ち胸を張った。 「レディイイッス! エーンじぇんとぅめーーーーん! ウェルカムトゥザ『絢爛武闘会』!!」 「「「イエエエエエ!!」」」 「勝利の栄光か敗北の美か!? 力こそパワーか、戦いは数か!? 儀の下を平らげ武で鳴らした開拓者の戦へかける信念を見よ!」 「「「フウウウウウウウウウウ!!!!」」」 「ぶつかる拳、さんざめく魔方陣! 荒唐無稽が日常茶飯事! リングの奇跡に隠された【切札】が! 今! ベールを脱ぐ!」 「「「フォオオオオオオオオオオオオオオオオ(キャアアアアアアアアアアア)!!!」」」 会場は既にクライマックスのテンションだ。紙ふぶきが舞い散り、肩をむき出しにした芸子の娘たちが身をよじって黄色い声を上げている。からくりが赤い旗を高く掲げた。 「赤コーナー! 夢は大きく、心は狭く! 兄の心配をしている場合か!? 無職、玲結花(リン・ユウファ)!」 「花嫁修業です!」 顔を真っ赤にした娘がどなりながら舞台へあがってきた。泰剣を握ったまま、適当なリングネームをつけるなとぷりぷり怒っている。玲は剣をくるりと舞わせ切っ先を正眼に定めた。 「本気で行きますから」 「えー、司会進行はわたくし、朱藩砲技術振興会、御津菱 重工(みつひし しげたく)がお送りします」 乾いた風が吹き抜ける。 試合の予感に痛いほど鼓動が高鳴る。 強敵を打ちのめし拳を掲げるか、それとも全力で戦い抜き華と散るか。 鋭いゴングの音が絢爛武闘会の始まりを告げた。 |
■参加者一覧
羅喉丸(ia0347)
22歳・男・泰
天河 ふしぎ(ia1037)
17歳・男・シ
蓮 神音(ib2662)
14歳・女・泰
フランヴェル・ギーベリ(ib5897)
20歳・女・サ
ジェーン・ドゥ(ib7955)
25歳・女・砂
白隼(ic0990)
20歳・女・泰 |
■リプレイ本文 ●一回戦 カードが開かれるや歓声が沸きあがる。 「蘇る英雄譚、刻むは北斗七星か! 四神もひれ伏す極みへ至った泰拳士、羅喉丸(ia0347)!」 「我が名は羅喉丸。道を究めんと歩み続ける者だ。長々と語るのは不要だろう。わが力は試合にて示そう」 「散るは薔薇かそれとも牡丹か! エロース&アガペーサムライ、フランヴェル・ギーベリ(ib5897)!」 フランの白い歯が輝く。 「全国一千万の子猫ちゃん達! 君達の夜のお供だよ♪ 寂しい夜はぜひ僕を呼んでくれたまえ! 身も心も熱くしてあげよう…この戦いが終わったら、君を攫いにいくよ…」 騒ぎをよそに羅喉丸は呼吸を一定に保ち続けた。おとぎ話の英雄タオにちなんだ赤い雉尾冠と緑の筒袖鎧をまとい舞台へあがる。 ゴングが鳴った。 刹那、羅喉丸が短く息を吐く。 ――ドン! 練り上げられた気が迸り、衝撃波が石畳をも吹き飛ばす。八極の陣から流れるようにくりだされた真武両儀拳が空を裂く。九連撃が炸裂する直前、フランは掲げた、盾ではなく剣を。 「切札発動!」 血中アウル濃度が上昇し全身からオーラが立ち昇る。プレートメイルが黄金に輝く。空が暗く濁り、重金属酸性雨が降り始めた。 「ドーモ、ラゴウマル=サン。受身に回れば盾ごと打ち砕かれ、反撃は全弾回避される。まともにやって勝てる相手じゃない。ならばこの身を伝説と化し神話生物の力を得よう」 「その意気やよし、返礼する!」 瞬時に状況を判断したラゴウマルは、上体をひねって奥義の出をキャンセルするとフランへ回し蹴り。フランが、垂直に浮いた! 「飛べゥウリャア!」 ラゴウマルはアッパーで追い討ち!実況チャブのタカネは貴族めいて青ざめる!「あれは……!」「知っているのか、タカネ=サン!」「久遠に続く連撃。相手が倒れるまで攻撃の手が止まることはないでありいす!」「ああっと、観客が続々とトイレに旅立っていきます!」 ――『永久(トワ)』各武道の開祖が意図せず生み出し秩序の天秤を崩すものと言われた禁断の奥義。かつて使用者は鬼と化し最大で出禁と言う重い罪に問われた。時の流れによって、その意味はもはや分からないが、バスケ、戦国陸上、宇宙旅行等と、時代や地域により様々な呼称でよばれる。 使われたが最後、厠に行ってくる、炭酸水を買ってくる等なすがままにされるしかなく、阻止する手段は清めの灰で鬼を追い祓う演舞のみと謳われ恐れられた。ちなみに現代でも怒り心頭に達した任侠が灰皿を投擲するのはこの名残である。玲明書房刊『泰国武道列伝』より―― しかし。ラゴウマルの精密機械めいた動きが止まった。重金属酸性雨の陰鬱な雨音が続いている。「死ななければ実際安い!」フランがラゴウマルを羽交い絞めにし漆黒の空間を二人は上昇、その姿はまさに彗星! 「スゴイ・ゴウランガ!」眼下で巨大な青い星が爆発四散!おお見よ、星が砕けた痕から虹色に輝くアブクが!『一で全部、全部は一』と威圧的なミンチョ体で縦書きされている。「イヤーッ!」黄金の光が虹色の物体を裂け目へ押し戻す! K・O リング整備員の美女がほうきで辺りを掃く中、しれっと戻ってきたフランは羅喉丸にウインクした。青空へ白い旗が上がる。 「勝者、フランヴェル・ギーヴェリ!」 「ヤッター!」 「く、修練がたりなかったか」 どこかやりきった表情で羅喉丸は崩れ落ちた。 ●二回戦 黒服の担架に乗って運ばれていく羅喉丸と、切札の後遺症がまだ抜けてない様子のフランヴェルを見送り、ジェーンはゆっくりと花道を進んだ。 「馬手に無念の血脈、弓手には蒼き狼の矜持! 知略と克己の砂迅騎、ジェーン・ドゥ(ib7955)!」 コールされた自分の名も声援もどこか遠く感じる。緊張、しているのだろうか。常にかの商家の駒たらんと努力してきた自分が。 (「初戦から比類なき攻防。戦争とは異なる、純粋な力と技のみで相応の実力者が集まる武闘会……傭兵の技が通じるか分かりませんが、依頼は果たしましょう」) ジェーンが舞台へ上がると同時に、石畳をさっと大きな影が走った。グライダーが空をよぎった瞬間、ばさりと視界に何かが広がる。旗だ。 「とうっ」 グライダーの操縦席から少年が飛び出した。猫のようにしなやかな影の裏から逆光が刺す。 「夢と希望の翼を広げ、光るゴーグル、正義の証! 空賊団『夢の翼』団長、天河 ふしぎ(ia1037)、ここに参上!」 旗の裾をつかんでマフラー代わりに首へ巻きつけ、ふしぎは回転しながら二本の刀を抜く。その勢いで姿勢を整え舞台へ着地した。霊剣と妖刀がふしぎの闘気に応じるかのように輝く。ジェーンは一礼し、決然と言い放った。 「ワーグナー家代行、傭兵団『フェンリル』が隊長ジェーン。お相手させて頂きます」 ゴングが鳴った。 残響へ狼の唸り声が重なる。蒼い炎がジェーンの手元で燃え上がり、銃が火を吹く。 「フェンリルの牙、貴方に受け切れますかっ!」 機先を制されたふしぎは反射的に手に構えた刀で弾道を阻む。 (「重い……!」) 衝撃が肩にまで響いた。鉛のような痛みが広がる。すり足で正対する軸をずらすも、ジェーンはウィマラサースの鋭い動きで弾丸を装填し、付かず離れずの距離を保ったまま発砲する。動きを固められたふしぎに魔狼の牙が容赦なく襲いかかる。油断は禁物と考えているのか、優勢に有りながらジェーンは張り詰めた瞳のままふしぎを見据えていた。 (「この展開は予想してなかったんだぞ。僕、ワクワクしてきたぞ」) 舌なめずりをするふしぎ。その姿がかき消えた。 会場全体に不自然な静寂が落ちる。まるで深夜のような。ジェーンが息を呑むと同時に、背後でおぞましい気配が壁のようにせりあがった。 「そして時は動き出す……メイオー!」 「かはっ!」 黄泉路の力で上空へ打ち上げられ、全身の骨が砕けたような激痛が走る。放物線を描き、彼女は舞台へ落ちた。 「ここまで、ですか……」 冷静に呟く彼女へ影が落ちた。涙目のふしぎが片手をひらひらさせている。 「アイタタ、まだ痺れてるんだぞ。たいした銃なんだぞ」 ジェーンは薄い笑みを浮かべ、上体を起こすと襟を正した。 「良い勝負でした。お相手、感謝します。これもワーグナー家の武具あればこそと言えたでしょう」 敬意と共に勝者へ差し出した銃にはサソリの銘が入っていた。 ●三回戦 「小さい胸にでっかい希望、夢は師匠のおヨメさん! 今日も唸るか『究極の技!』、開拓者、蓮 神音(ib2662)!」 「胸の事は余計だよ!」 ツッコミが蒼穹にこだまする。てか人の夢ばらさないでよっ、神音はほっぺたを膨らませ、白隼は口元へ手を添えおっとりと微笑んだ。 「いかなるときも優雅でありたいから泰拳士なのだ! 白き鳥は水面の下でこそ踊る、舞手、白隼(ic0990)!」 「一期一会の輪舞にて、観客の皆様を魅了出来たなら舞手冥利ですわ」 舞台へあがった白隼は柳のように腰を折り礼をした。武者相手とは声音の違う歓声があがる。からくりが旗をあげた。 ゴングが鳴った。 「初戦から飛ばしていくよ〜!」 両腕をぐるんぐるん回し、神音が突っ込んでくる。白隼は彼女を包むように腕を広げた。無防備にさらけだされた胸に向けて神音の拳が飛ぶ。空気を裂く短い音があとから聞こえた。 「あなたにもこの歓声が届いているかしら?」 豊満な胸へ拳が吸い込まれる刹那、白隼は軸足を大きく後ろへ下げた。すべるように開脚し、ぺたりと地に伏せる傍ら八尺棍が神音の足首を薙いだ。 白隼は片腕を上に伸ばし棍を回し続ける。白木の棍と白銀の翼、そこへ日に焼けたなめらかな肢体が相合わさり、観客席からのぞく姿は白い花弁を持つ花そのものだ。演舞の美に四方から驚嘆と賛美があがり割れんばかりの拍手が起こった。 (「……うれしいわ。この舞が天へ届きますように」) 八極の作法で逃げまわる神音の足を、棍が捕らえた。神音とすれ違うように勢いよく立ち上がる白隼。引き倒された神音は危なげなく反転し仰向けになった。両手を背後にまわすと、それを支えに白隼へ二段蹴りを入れる。 白隼の背で痛みが広がる。神音の蹴りは、一撃目が掴みをほどき、二撃目が白隼の背筋を打ち据えていた。だが白隼は笑みを崩さない。長い足を組み替え軽やかに神音へ近づく。神音が腰を落とす。その両腕が炎に包まれた。 「せっかく覚えたのになかなか使う機会がなかったから丁度いいよ〜! 奥義、炎煌阿修羅拳!」 直線的な神音の突きと蹴り、白隼の円を描くような動きが交差する。目にも留まらぬ連打が白隼の正中線を捕らえた。 「――ぅああっ!」 褐色の肢体が石畳の上でバウンドした。からくりが神音の勝利を告げる。上体を起こした白隼は残念そうに首を振った。 「もっとあなたと踊っていたかった。切札を打つ前に終わってしまうなんて……。ふふふっ。負けはしたけど、素敵な舞を織りなすことが出来たわ。観客の皆さんの歓声と熱気がその証拠ね。素敵な一時をありがとう」 彼女の言うとおり、会場は健闘を讃える拍手であふれていた。 ●準決勝一 「さてさて。勝利が微笑むのは、白き疾風のサムライか、忍ばないシノビ代表か!」 フランが投げた薔薇の姿が、ふしぎの飛空船と重なった。自由の旗はためく飛空船を背に、ふしぎは逆手に握った双刀をかまえ挑発的に笑む。フランは口の端を甘く和らげ、真剣なまなざしを笑顔の裏に隠した。 「全国一千万の、おっと、さっきのでファンが増えたから一億かな、の子猫ちゃんに誓って、全力を尽くす」 「僕の本気は、まだまだこれからなんだぞ!」 フランがマントを翻し、ふしぎが姿勢を低くする。実況席のおしゃべりをよそに二人は運命の一瞬を待った。 カー…… ゴングが鳴った気がした。 色の抜けた会場で、ふしぎの右目と霊刀だけが青白く燃え立っている。ふしぎは後方へ大きく跳んだ。 ――ン! 着地の直前、周囲から耳元へわあっと音が押し寄せる。盾を構えたフランへふしぎは妖刀を突きつけ、すかさず叫んだ。 「サンライトスプリング・ハズ・カム!」 勢いだけで召喚される式に呪われ、フランの全身に血管が浮かんだ。細かな血しぶきが白皙の肌を彩る。押し切るつもりで、ふしぎはさらに黄泉からの魔の手を伸ばそうとした。が。一転して青ざめる。 (「しまった、練力が足りないんだぞ……」) 重圧から解放され、フランは血まみれの目元だけを拭う。 「……切札は既に見せたね。次はボクの奥義をごらん!」 危機を感じたふしぎが半身になる。フランは走り出す直前のように膝をつき姿勢を低くした。 「天歌流星斬!」 咆哮が、刃が奔る。流星と化すフラン。かすったとは思えない重撃にふしぎはたたらを踏んだ。夜での距離差をくつがえし、フランはふしぎの背後へ回り込む。 「かーらーの、奥義、轟嵐牙!」 「ぐああああっ!」 練力の刃が黄金の光となってふしぎの全身をうがつ。ふしぎは倒れることもできず攻撃を受け続ける。その時、リングサイドから何かが投げ渡された。タオルではなく、さらに言えば、輝く空賊旗とそこに集う仲間たちへ続いている。 「……来たか、なんて渋く言ってみるんだぞ」 ふしぎは縄梯子を握り上空へのがれる。 「この旗の元に! 夢の翼一斉攻撃☆ 艦首宝珠砲、その他一斉射撃。撃てー!」 「「アイアイサー!」」 エネルギー弾が乱射され、密度を高める面制圧へ主砲が突き刺さる。フランらしき影が垣間見えた。 「フッ……サヨナラ!」 どくろマークのキノコ雲が立った。 「僕に勝つには10年早いんだからなっ」 ふしぎは縄梯子につかまったまま、ばさりと旗を広げた。観客へ、そして仲間へ振って見せる。 「みんな、応援ありがとう!」 ●準決勝二 神音vs結花 ※Lv10泰拳士 「炎煌阿修羅拳!」 「キャイン!」キャイン…キャイン…(エコー) ●決勝 会場はかつてない盛り上がりを見せている。 「ラストカード! 破竹の快進撃、夜を渡る攻守二刀流、天河ふしぎ! 対するは実力十全天運万全、人事を尽くして天命もある、ラッキーガール、蓮神音!」 二人が会場へ手を振ると黄色い悲鳴と野太い歓声の二重奏。紅白の紙ふぶきが降り注いでくる。 ふと神音の胸を友の面影がかすめた。この試合が終わったら久しぶりに顔を出そうか。会場の向こうの空に思いを馳せ、開始位置へ向かう。ふしぎもトレードマークの赤いマフラーを巻きつけ、相対する場所へ立った。 (「次はどの手で行こうか。下がるか、それとも……」) 軽く顎を下げ胸を開く神音の一挙一動をつぶさに眺める。高まる緊張に観衆も潮が引くように静まり返った。 ゴングが鳴る。 時を止めてくるのは神音にとって想定内だった。これまでの試合で手の内は見せてもらった。瞬時に吐息のかかるほどの距離へ飛び込まれるも、利き手でふしぎの牽制を捌き、妖刀を空振らせる。 (「泰拳士に同じ技は二度通じ……るけど、がんばって回避するもん!」) 体のばねを弾ませ、後ろへ下がると見せかけて横へ。ふしぎの刀を神音の突きが制し、神音の一歩をふしぎのすり足が遮る。拳が妖刀の小手を狙い、膝蹴りが少女の脇をかすめる。 (「実力伯仲、打ち破るにはこれっきゃない」) 師の教えを磨いた奥義の感触が神音の丹田で燃え上がる。華奢に見える両腕に炎が宿った。阿修羅の六臂がふしぎを射抜かんとした。 「んきゃっ!」 たん、と背中を突き飛ばされ、神音は出鼻をくじかれた。前転した彼女は、舞台に立つふしぎに余裕の笑みを見る。夜で避けられた。そう気づいた時には、ふしぎの姿が消えていた。 ――上だ! 獣の感性で身を翻す。直後彼女の居た位置へ、刃を下に向けたままふしぎが飛び降りてきた。 「空賊剣技『天河両断』!」 着地と同時に天辰を放つ、天をも切り裂かんばかりの剣圧が神音を襲った。石畳が吹き飛ぶ。砂煙の中、重い手ごたえが柄を通り抜ける。 (「入った……」) 風が煙をさらい、神音が現れた。霊刀を白羽取りする彼女の姿が。やがて小さな体がきらきらと輝き始める。 「つーかまえた。切札はつどーう。行くよっ」 またたきする間もなくふしぎは懐に飛び込まれた。 「君はっ」 掌底がふしぎを打ち上げる。神音も続けて跳ぶ。 「しゅーてぃんぐ☆」 連撃でお手玉するように打ち上げられ、ふしぎは運ばれていく。遠く遠く成層圏のナユタの向こう。空の色が青からオレンジにやがてまっくらに変わった頃、神音はふしぎの上で宙返りし、渾身の力を込めて背中を踏みつけた。 「すたー!!!」 音に鳴らない音が全身を包み、二人は大気圏に突入する。神音は右腕を高々と上げた。 「我が前に敵無し! だよ」 キイイイイイイン――。 光を放つ流星が一筋空を駆けていた。 舞台の中央に向かい、耳障りな超音速の光が落下してくる。からくりは気にせず実況を続けた。 「では皆さん。拍手でお出迎えください。優勝の蓮神音選手です!」 |