【IF】そんでまた別のお話
マスター名:鳥間あかよし
シナリオ形態: イベント
相棒
難易度: 普通
参加人数: 19人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2015/04/30 19:23



■オープニング本文

※注意
このシナリオは一般的な【未来】シナリオと違ってIFシナリオです。
シナリオは未来の世界設定と極端に矛盾しないよう設定されていますが、実際の出来事、歴史としては扱われません。

●前説
 人類が増えすぎた人口を他儀へ移民させるようになって、既に半世紀が過ぎていた。
 嵐の壁の奥から新たに発見された巨大な浮遊大陸は人類の第二の故郷となり、人々はそこで子を生み、育て、そして死んでいった。
 天儀暦1076、天儀から最も遠い新たな儀「ヴェ=ガ」は『バニーは網タイツ派』宣言をし『バニーは後ろシーム派』の天儀との間に対立を深め紛争に発展した。
 この一ヶ月あまりの戦いで各国は全兵士にバニーコスを強要し、総人口の半分を日常からバニーならしめた。
 人々はみずからの行為に狂喜した。紛争はどうでもよくなり、八ヶ月あまりが過ぎた。

●以下、高度の柔軟性を維持しつつ臨機応変な対応を求む

 乾杯!

 威勢のいい声とジョッキを打ち鳴らす音。
 ここはここであってここでない場所にある居酒屋だ。今日も時空の扉が開き、見覚えのない小道を抜けて、突然空いた落とし穴にはまって、あるいは寝台に寝転んだはずの、客がふらりとやってくる。

 客が全員バニーガールもしくはウェイター姿だという点以外はなんら不審ではない。
 くりかえす、なんら不審ではない。

===

●片隅で

 呂戚史(リウ・チーシー(もういい加減いらんよなこれ))は音を立ててビールを飲み干すと、空になったジョッキを勢いよく置いた。

「くぅ〜〜〜〜〜疲れました!」

「出落ちだわ」
「OPは出落ちで十分だにょ」
 目をすがめる玲結花(リン・ユウファ)の隣で、猫から自前のウサ耳に置き換わった参梨那(サン・リーネイ)がするめを噛んでいる。
「もっと汎用的な話題になさい。お客様がプレイングの書き方に迷うでしょう? てか年代限定ネタ寒いのよ!」
「うるさいもう真面目なのはやりつくした! 女将さーーーん! 生おかわり!」
 紫の着物を着た極妻風の女性が呂へ新しいジョッキを渡す。先代戚夫人こと欧戚史だ。手元でおでん鍋がくつくつ煮えている。隣では和ニー姿の黒髪ショトカのジト目美女が小なべをかき混ぜていた。
「反省会でもしにきたのか?」
「ここのところシリアス続きだったから眉間のしわ取りに来たにょ。ただでさえ登場人物の名前が読みづらくて目がすべるのに」
「それはプロット上の名前が最後まで『かませ』だった私のことか。それとも『古代人が天儀人を襲うのはなんでですか』と聞いたら『特に理由はない』と返された蟹のことか」
「蟹は?」
 くつくつ。くつくつ。

「正気なのあなた達! 最後のシナリオが本気でどうでもいいことで埋まるわよ、ひゃおっ!」

 座っていた座敷がカパッと開き、結花は悲鳴をあげて穴へ落ちていった。欧がじゃこを炒りながらぼそりと呟く。
「細かいことを気にすると没収されるぞ」
 蓋が閉まる直前、動きが止まった。何かが挟まっているのか、歯車がギリギリと空回りする音が聞こえる。
「ぐ、ぬぬぬ……くう……志体持ちなめる、な……」
 穴のふちに手をかけ、結花が這いあがろうとする。
「こ、このままではNPCの会話だけで終わってお客様おいてけぼりになってしまう。もっと世界観に沿った内容でコンテンツの成熟度を鑑みた時期とか状況とか自分のキャパシティやお客様ひとりひとりの立場に立ったOPぴぃぎゃああああ!」
 参が空になったジョッキを結花の頭に置く。結花は暗闇へ飲み込まれた。
 かと思うと壁から吐き出され、天井のペンデュラムにヒットし向かいのアイアンウォールで暖炉に放り込まれ毒ガスが降り注ぎタライが落下。
「殺す気? あと今のコンボ繋がらないからね!?」
「いちいち突っ込んでくれるアンタは優しいいい子だにぇ」
「さっきから私、何も間違ったこと言ってないじゃない!」
 欧はよしよしと結花の頭をなでた。
「わかったわかった、超すごいアヤカシ召喚してやるから許せ。えーと、これとこれとこれの能力ぐるぐる混ぜてポン」

 煙が晴れ、現れたのは常春と偽春だった。
 二人そろって人をダメにするクッションへもたれ四角い小型の何かをいじり倒している。
「紅玉出た?」
「まだ」

 ――上司来た!
 結花は青ざめた。
「リ、リテイク。リテイク!」
「そうだな、アヤカシではなかったな」
「そういう意味じゃないかも!」
「さすがにネタが賞味期限切れじゃないですかにぇ」
 カチンときたのか、偽春が立ち上がり扇子を開いた。
「2012年頃のコピペを恥ずかしげもなく使い倒す厚顔無恥のわりには気が利くな。そうさ……私は所詮偽王、心の底ではみんな私のことを見下してるんだきっとそうなんだ、おまえらみんな死刑だ! 喜べい!」

 居酒屋店内を吹き荒れる紫の稲妻。
 そしらぬ顔でバリヤーを貼ったまま大根の桂向きをしているジト目の和ニー。
 ぜんぜん気にせず飲み倒す開拓者達。
 呂は座敷の隅でよだれをたらして寝こけていた。
「むにゃ、明日からがんばる」


■参加者一覧
/ 羅喉丸(ia0347) / 柚乃(ia0638) / 葛切 カズラ(ia0725) / 天河 ふしぎ(ia1037) / からす(ia6525) / ルンルン・パムポップン(ib0234) / シルフィリア・オーク(ib0350) / リィムナ・ピサレット(ib5201) / カメリア(ib5405) / フランヴェル・ギーベリ(ib5897) / 霧雁(ib6739) / 刃兼(ib7876) / 鍔樹(ib9058) / 呂宇子(ib9059) / 朱宇子(ib9060) / 乾 炉火(ib9579) / 葛切 サクラ(ib9760) / 二式丸(ib9801) / 呂 倭文(ic0228


■リプレイ本文

●弔問の多い料理店
 
 
「こういうノリは! 苦手だと! 言ったはずダ!!!」
 
 
 耳がキーンとする。
 天河 ふしぎ(ia1037)は反射的に顔の脇へ手をやり、違和感に気づいた。あるはずの感触が消えていて、代わりに頭の両サイドになんかある。筒みたいで、けっこう太くて、ぬくいし、なめらかな手触り。あとお尻のあたりも違和感、自分の意思でぴくぴく動く、なんだろうこれ。座るときにクッションが欲しくなりそう。
「嘘だ、嘘だといってよバニー…なんだぞ!」
 遺跡で空賊団の仲間達と一緒に宝を見つけ、宝箱を開いた瞬間、レベルアップでもしたようなファンファーレが鳴り、気がつくと居酒屋だった。視界を埋め尽くすバニーさんバニーさん。どういうことなんだぞ。というか叫んだのは誰、あ、居た。
 呂 倭文(ic0228)が女将らしき夫人に詰め寄っていた。
「開幕疲労感マックスだゼ、なんでだヨ、我はこういうキャラじゃねェだロ。必要もないのに大声で叫んだりしねェし、間違っても長文でツッコんだりしねェし、カマーベストにロングエプロンの給仕服と申告したはずダ!」
「そうだな」
 まるで聞いていない欧に倭文は崩れ落ちた。バニーコスのままで。耳は自前、尻尾も自前。山犬系獣人のアイデンティティをごっそり奪われたうえに、後ろシームであった。ふしぎはごくりと生唾を飲み、倭文の事と次第を飲み込んだ。ああ、あの人NPCと結婚としたんだ、かわいそうに全力でいじられてる。しっぽにじゃれついているのがお嫁さんかな。結婚は人生の墓場というし……ふしぎは彼へ頭を下げた。
「このたびはご愁傷様です」
「恐れ入ります」
 よかった、僕はウェイター姿で。
 嫁が一升瓶を抱えたまま倭文へぐりぐりと頭を押し付けている。
「わあーい、しゃおうぇ〜。おそろーい!」
「ぐでんぐでんだナ、オマエ」
「すきすきー、もうね、もうだーいすきー! あいしてるー!」
「うんうん愛してるよ。湯冷まし飲んで帰ろうゼ。出口はどこダ」
 クールな態度で率直にデレるのをクーデレと呼ぶらしいが、照れ屋のわりに酔うとデレデレになる奴はなんと呼ぶべきだろう、ただの酔っ払いか。早くも状況にうんざりしていた倭文だったが、マタタビをかじった猫みたいにごろごろしている嫁の胸元のふっくり具合が目に入り、ちょっと癒された。焼きおにぎりへ刷毛で醤油を塗りながら欧が言う。
「ま、飲め飲め。最後にこの場へ飛び込んできたなら覚悟完了しているのだろう?」
「いや無理だろう。バニーは無理だって。誰が喜ぶんだこのハイレグは。あれだけ予防線張ったのに、どうして犬の尾が兎になってるんダ」
「男は尻だぜ!」
 振り返った倭文は後悔した。
「お、おう。……美脚だナ」
 青いバニースーツで身を固めた乾 炉火(ib9579)が壁に背を預けている。カットアップされた胸筋をエナメルのカップがやさしく包んでいた。倭文は、即死系ヒロインを最後まで守り抜いた機知で持って、とりあえず褒め殺しに出る。だが値踏みをするような炉火の無遠慮な視線に、得体の知れない何かを感じた。
「いけているぜ、その無理やり着せられました感。特筆するほどしっくりきているわけでもなければ、さりとてまるっきり似合わなくもない。サテンの安っぽい輝きがスタイリッシュな本人の見た目を引き立てているんだか、下げているんだか着せた支配人にもさっぱどわかんね。喉越しがっかり、キラリと光る安心、後からじわじわくる安定感は、まるでファッション誌の目玉コーデがモデル私物だったかのようとまで歌われる」
「人の不幸をワインでも語るようにとうとうと描写しないでほしいんだガ」
「というわけで今夜は無礼講だ、尻触らせろ!」
「我にそういう趣味は今のところないと思われるんだゼ」
 BGMがロマンでポルノへ変わりそうなほどの夜春オーラを振りまきながら、じりじりと詰め寄る炉火。倭文はその獰猛な目つきが嫁ごと自分を捕らえていると悟った。その男、両刀につき。口から蒸気を吐きながら迫り来る炉火に、倭文は嫁を抱え上げ、いさぎよく逃げようとした。
 スパンッ!
 倭文の顔へカフスが叩きつけられた。ボタン部分がけっこう痛い。面をあげると、それを投げつけた参が立っていた。
「決闘を申し込む」
「礼を言われることしかしてねェ」
「私のかわいい明ちゃんを犬ガムにした罪は重い」
「徹頭徹尾、言いがかりダ! っていうか道塞ぐナ!」
 事の次第を見守っていたふしぎがさすがに止めに入ろうとした瞬間、閃光が走った。
「いや〜ん、て言うところかな、ここ。台本あってる?」
 炉火に尻肉をわしづかまれ、はにかんだ笑みを浮かべているのはシルフィリア・オーク(ib0350)。みどりなす黒髪に白いウサミミがまぶしい。肉感的な肢体に沿って縫製されたレザーのバニースーツの上から、ミニジャケットを羽織っている。肩の下には同じく皮の長手袋に続いている。はちきれんばかりのふとももを網タイツが覆い、ハイヒールのヒール部分だけがワンポイントで赤い。藍色がかった黒のバニー姿、強調された谷間だけがくっきり見えた。
「女性の扱いはご存知? 優雅に、なめらかに、絹を撫でるように……」
 上から下まで炉火を眺めたシルフィリアは、ぽっと顔を赤らめた。
「……ひきしまった腰に、ビロードの上からでもわかる割れた腹筋。盛り上がった僧帽筋、がっしりした鎖骨、ステキ」
 歌うように言いながら夢見る瞳ですすすと近寄っていく。
「あんたとはいい酒が飲めそうだな。あ、俺の雄っぱい触りたいだぁ? そいつぁ別料金いただくぜ」
 豪快な笑い声をBGM代わりに、倭文はいまだ臨戦状態の参の視線を明燕で防いだ。どういうことなんですか。すがる視線をカウンターへ送ると、欧の隣でニラを刻んでいたシルフィリアが返す。
「通過儀礼だよ、倒すとコミュがアップするよ」
「夕日の川原じゃねェぞここ」
「臆すな! この程度で怯むようで、大アヤカシとやりあえるか!」

 ――ザシャア!

「アンタは……」
「バニーかわいい!!!!!!」
 両義流道場開祖、羅喉丸(ia0347)の登場だった。黄金色のバニースーツへ山吹色の特攻服を羽織っている。生地の裏では竜虎が舞い踊っていた。
「バニーを着て、バニーに接客されながら、蓮華と一緒に酒を楽しむ。任務は完遂だ、問題ない」
 依頼は完遂するもの、そこに疑問を挟む余地など何もない、が。
「ん、蓮華はいないのか、何か既視感がするが気のせいだな。(社外秘)さんもいないし」
 羅喉丸はカウンターの隅でジュースを飲んでいるジト目の和ニーに近づき話しかけた。もしもし大雪加さんはお越しですか。このたびはご愁傷様です。恐れ入ります。いやまさかの俺の嫁(86)だった。依頼に参加しすぎて年代ジャンプを起こしたか。
「もはや時間を超越した存在となった今となっては些細な事だな。後世になって実在を疑われなきゃいいが」
 近くでシルフィリアがぱっちり片目をつぶる。
「氷羅と砂羅を同時に殴れた時点で、気にしちゃダーメ。でもエロには厳しい酒豪班。ブラジャーって書くだけで指導が飛んでくるよ!」
「布胸当と表記すればよかったのかもしれないな」

●谷間・ミゼラブル
 あまりの光景に鍔樹(ib9058)は口をあんぐり開け、刃兼(ib7876)は背筋をピンと伸ばした。今日は宅飲みのつもりだった。いつものメンツで長屋でわいわい、酒につまみにあれもこれも用意してふすまを開けたら、なぜかそこは居酒屋、バニーさんバニーさん。フェティッシュなむちぷりエロチカが座敷をまわって注文をとるシュールな世界。振り向けど壁は閉じれり我が悩はものや思ふと人の問うまで。
「……なんぞこれ」
 妙に首元が苦しいと思ったら、刃兼は蝶ネクタイの給仕服に変わっていた。糊のきいた白いシャツに黒いロングのエプロン。鍔樹はネクタイをベストの胸ポケットにつっこんでおり、二式丸(ib9801)はリボンタイにショートの巻きエプロン、その隣は……ちょっと待て。
「わーお、何これ『ばにーがーる』ってヤツ?」
「えっと。その、ちょっと……ええええええ、何っ? 何この服!?」
 白いエナメルの双子バニー、呂宇子(ib9059)と朱宇子(ib9060)だ。赤毛がこぼれおちる段差。普段はめったに拝めない、わきから二の腕へ通じるなめらかなラインがまるだしだ。華奢ながらも出るところの出た輪郭を、スーツのサイドに入った編みこみと後ろシームが強調している。
 刃兼の隣で鍔樹が鋭く口笛を吹いた。
「おー、普段と全っ然印象違うじゃねーの、いいぞもっとやれ!」
「え、えええっ。だってこんな……着替える、着替えてくる!」
「朱宇子ー、そんなに恥ずかしがらなくてもいいでしょ。別に見せて減るもんじゃないし、いいじゃないのよう」
「姉さん、もうそれ年頃の娘の台詞じゃないから!」
「あんた、前に泰国のドレスを着た時も、素足が出るって赤くなってなかったっけ」
 姉さんったらと両手をふりまわす朱宇子。はずみで段差がふるんふるんしていて、正直、目のやり場に、とても困る。目元を覆い天を向いた刃兼は、頬が熱くなるのを感じていた。
 二式丸は自分の服を引っ張ってみた。はずみでほどけかけたリボンタイを結びなおす。たしかこれはジルベリアの、給仕の制服、だった気がする。
(「普段。和服しか着ない、から……変な、感じ」)
 武器はどこへ消えたんだろう。腰周りが軽すぎて落ち着かない。ぺたぺた触っているとシルフィリアが笑顔で座敷へご案内。テーブルの上で鯛の姿作りが待っていた。昆布のうまみがしみだした鍋では豆腐が泳いでいる。再度口笛を吹いた鍔樹がさっそく席に着く。
「気風のいい包丁筋だ、悪くねぇ。潮騒の名残につまのぴんとした香りが混じって胃の腑にぐっとくるな。呂宇子、酒だ酒!」
「おー! 飲もう飲もう! 泡盛あるよ、いっとく?」
 並んでメニューを開いている二人に二式丸がまばたきをする。
「…………え。これで食べる、の?」
「格好がどうあれ、細けえことはいいんだよ。美味い酒と美味いメシがありゃあそれで十分ってもんよォ」
 なるほどと思いなおし、二式丸も鍔樹の隣へ着席。片側の席が埋まってしまった。刃兼と朱宇子が、はっと顔を見合わせる。これは、二人並んで座るしかないじゃないか。そうなると必然的に――説明しよう! 座敷にはカミザと呼ばれる神聖不可侵な空間があり、その座へつく者は全宇宙を支配するという。転じてカミザをゆずるとは相手への絶対的信頼感を示す行為である! ――かはさておき、刃兼と朱宇子はお互い視線をあさってにやったまま、どうぞうどうぞ、いえいえどうぞどうぞとやりあっていた。視界の端に入るみずみずしい肌が、どうにも刃兼の気を散らす。妹のように大事にしているだけに、服装程度で普段と態度を変えたくないのだが。対して朱宇子もなにやら気もそぞろな様子。
(「刃兼、給仕服も似合ってるな。……あんまりじっと見たら失礼だよね。あ、蝶ネクタイがおそろいだ。ちょっとうれしいかも」)
 かえすがえすも気になるのは自分の格好だ。幼い頃から慕っていた相手の前で、こんなぶっとんだ衣裳になるとは夢にも思わなかったし、もしかしてこれ夢なのかな。どう思われているのかな。頭がぽーっとして来た。乾杯待ちをしている鍔樹と呂宇子はにやにやが止まらない。
(「煮え切らねェー……。なんで気付かねェかな」)
(「二人とも照れちゃって、かわいいんだから、んひひ」)
「湯豆腐が。食べごろ、だから早く、座ったほうがいい」
 えんえんと続きそうなに奥手二人へ、二式丸は鍋から目を離さず声をかけた。
「呂宇子も、朱宇子も、結構似合ってると、思うし」
 それに、と二式丸は続けた。
「慣れてしまえばどうということはない」
「発言が直球過ぎだろ! 全面的同意するけども!」
 思わず左手でツッコミを入れた刃兼は、我に返り照れくさげな笑み浮かべ朱宇子を座らせ、自分も席に着いた。なにはともあれと鍔樹が身を乗り出す。
「諸々お疲れさんと、まーた明日か気張ろうぜェ! かんっぱーい!」
 乾杯! ジョッキが鳴る。朱宇子はいつものように鍋の加減を見た。火を弱め、湯豆腐を取り分ける。
「うん、じぃんとあつーく、中はほろっと人肌。朱宇子サイコー!」
「姉さん食べこぼさないでね。いま落とすと焼けどするよ」
「二式丸もちゃんとメシ食えよ、もやしなんだからよ」
「もやし」
 二式丸の手が止まった。朱宇子はその皿へお代わりをいれる。普段からしているせいか手馴れたものだ。
「もやし……」
 二式丸はまだうなだれていた。
 刃兼は口の中に広がる大豆のうまみを味わっていた。ついで、ワサビとつまを重ねちょいと醤油をつけたぷりぷりの身を口に入れる。鯛の弾力ある身をかみしめ淡白な甘みが溶け出す頃合いに、泡盛できゅっと流し込む。鼻に抜ける余韻を楽しんでいると思わず笑みになった。
「ん、うまい」
 物いいたげな朱宇子の視線に気付き、刃兼は片眉をあげた。おずおずと問われる。
「……ウサミミは、かわいい、かな?」
「……かわいい、かもな、ウサミミも」
 やがてとっくりの数が十を越えるころ、誰ともなく故郷の歌を歌いだす。潮騒と海猫の小さな儀の歌を。二式丸は血の気の薄い唇でかすかに口ずさみながら、残った料理をもしもし食べていた。

●没ちゃん
「オマエの嫁だろう、なんとかしロ!」
 どういう風の吹き回しか、振り向いた先にはアルマーニョのスーツを着た霧雁(ib6739)の姿だ。豪傑じみたヒゲから貫禄が漂う、その胸元にはメカジミーのアップリケ。ラウンジ風の一角で長椅子へ寝そべり、ワイングラスを傾けている。キャラ差、そんな単語が倭文の脳裏をかすめた。
「青春でござるな。戦え、何を、人生をでござる。真剣勝負の邪魔をする野暮ではござらん」
 裾の長いのし柄、紫の和ニー姿の葛切 カズラ(ia0725)が、足元でうねうねしている趣味の産物を踏みつける。
「泰拳士と砂迅騎が鉄板で殴り合ったらどうなるのか見物よね〜」
「好きとか嫌いとか最初に言い出したのはどちらだったのでしょうか、お願いです、姉さん。教えてください、気になるんです!」
「仮想戦闘卓に泰拳士が常駐している程度にはインファイト愛好家」
「悪魔狩人シリーズを初代からやっているくせに剣しか使ってないだけありますね!」
「だから血宮10面が限界なのよ」
 姉と色違いで小手毬柄の和ニーな妹の葛切 サクラ(ib9760)は、頭痛がするのか額を押さえた。二人そろってブラヴォーなバストの持ち主でレザーの和ニースーツからあふれんばかりだ。
「それにしてもおかしいです……潰れるほど飲んだ覚えはないのに……どうしてこんなところでこんな恰好をしているんでしょう?」
 もしや、同士? 反応したふしぎが声をかけようとしたが……。
「これはやはり昨日着用してお客さんの相手をしたからでしょうか? その時に思いのほか燃えたからでしょうか? 指名されたらどうしましょうか?」
「とりあえず追加サービスに関しては手なら1枚、口なら2枚、胸なら3枚で。そこから先は要相談の持ち帰りね〜〜」
 回れ右をした。
 参は腰に手をあて、倭文を挑発している。
「早くリングに上がるにょ。支配人はバニーファイトをお望みだにょ」
「そうです、私が支配人です」
 奥の扉が開き、荘厳な音楽が流れだした。逆光を背負い現れたのは、毛皮を使った変則バニーだ。柚乃(ia0638)は白いウサギのもこもこファーのスーツ、ボトムへふわっとチュールのスカートを重ねている。ほっそりした両足はブラウンのタイツ。ロングブーツとウサギのヘアバンドにも本物の毛皮を使い、カフスボタンにはルビーが輝いている。
 ポン。
 煙が立ち、柚乃はモノクルをつけた真っ白い神仙猫翁に変わった。もったいねぇと炉火が頭をかきむしる。
「演出が逆だろ! バニーが猫に変わる必要はねぇ!」
「そちらはなかなかの視覚的暴力じゃのう」
「オッサンがバニー着ちゃいけねぇ? そんなの関係ねぇな!」
 翁は霧雁の長椅子へ腰掛けると開けにくそうな大きな箱を取り出す。
「聞いて驚くな? 勝者へは……」
 たっぷりもったいぶると蓋を開く。
「60cmクラスドール『しげねバニー』! ピュアスキンライトトーン、18mmグラスアイ、UVコーティング済み! ウサミミ尻尾は最高級のもふもふ感と手触り、絶妙なつくりの一品! さらに今なら着せ替えドレス、儀弐王さまセット申し込み券付きを与える! 転売は認めぬぞ、ほっほっほ」
「ほう……」
 霧雁がため息のような声を発した。鋭い視線は美術品を鑑定するそれだ。支配人はうむうむとうなずき、倭文へリングインを促す。
「巻きエプロンは足捌きが大変そうと慮ってのこと」
「今考えただろそれ」
「大変といえば、いつもの商人風の格好も足技が使いにくそうだ」
 白猫はあごをしごき、下はズボンなのかレギンスなのかそれが問題だと口にした。
「そこまでよ〜」
「下着のことを考え出したら万屋の暁くんが大量の褌を抱えてやってきます、笑顔で!」
 葛切姉妹に止められ、支配人は座りなおした。場を見渡したサクラはふと疑問を抱いた。
「ところで、和風なのに金髪銀髪率が高いですね」
「すね毛とか悩まなくていいからじゃない?」
「あー」
「毛色が薄いと三日くらいほったらかしてもぱっと見わかんないし」
「あー」
「三日といえば(社外秘)さんの依頼はどうしていつも三日なのかしか。出発、現地、帰路なのかしら。おうちに帰るまでが依頼ですってことなのかしら」
「あー……いつも精霊門くぐってましたっけ」
「葛切さん達もそのへんにするでござる。終わったら梨那とのイチャイチャが待っているので拙者はいいこで待っているのでござる」
「いや、立とうゼ。嫁の暴走をなんとかしてくれよ霧雁殿」
「膝に乗られておねだりポーズで一生のお願いを発動されては、拙者に止める術はござらん。存分に戦うでござるよ梨那!」
「物分りのいい旦那を持つと人生バラ色だにょ」
「どうでもいいから早く始めてくれない?」
「ついでにラガーをジョッキでお願いします! こういう時はとりあえず飲んで気分を上げていくのが一番ですから!」
「「「かんぱーい!」」」
 勝手に盛り上がる観客に、倭文は渋い顔。霧雁はひょいと欧へ面を向けた。
「で、どっちが勝ったのでござるか。支配人のことだからダイスだけはしっかり振っていたのでござろう?」
「命中の差で倭文の勝利。梨那は攻撃主体で他は一般的な砂迅騎より低めだ。戚史はオール1でHPだけ四桁」
「仮想戦闘卓からそのまま引っ張ってきたような詳細な解説でござるな」
「どちらも退場予定であったゆえ」
「思うところあって〜だのとコメに書いておきながらでござるか」
「思うところなんてそんなラスボス戦のあれだあれ。正直に言ったら突き返されるのわかってたからNPCをPCと結婚させるためのシナリオと言い張って通したがな、さすがに鉄壁の(社外秘)さんからOKをとるのは骨が折れた」
「結婚がオマケだったのでござるか」
「大規模手伝ったんだから許せや」
「シェフの気まぐれ泰動パラノイア風ヘルシングテンションあえを食わされる身にもなるでござる。あと終わる終わる詐欺はよすでござる」
「それは本当」
 説明しよう。蓮シリーズの元ネタは泰動のとある裏設定である。泰儀の人間の何割かはフェンケゥアンの潜在的な宿主であるというたいへんよくひどい設定で、だから本体を倒さなきゃいけないよという理由付けに使われていたのだがあまりにあんまりだと闇へ葬られていたのをおいしいですムシャ……着想を得て作成。ゲームとしてはノーヒントから異次元のボスまで辿りつけば達成となる。三話時点でPC勝利が予想されたうえ、グランドシナリオである大規模の雲行きが大いに怪しくなり、これは以前から捏造していたあれこれをぶちこむチャンスですぞ殿、と欲をかいた結果が延長戦のあれである。某MSが狼狽するほど(社外秘)さんから設定チェックをいただいたことや、えらいひとからもケジメ案件である旨を言い渡されていたこと、詮方なく大量にほどほどエンドを準備していたがぜんぶ無駄になってめでたしめでたしで終わったことなどは、よい思い出である。
「きちんと目を見て話すでござるよ」
「なんのことだろうか。私は何も言っていない」
「ちなみに夫人は」
「イニシアチブ勝負で負けたら即死確定だな、ははは。巫女の彼には悪いことをした」
「強いかませでござるな」
「追い立てるのが私の役目だったからな。今夜ばかりは飲ませてもらおう」

●金策寺
「わぁ、若い頃の春さん!」
 ルンルン・パムポップン(ib0234)が驚きに目を見張る。人を駄目にするクッションにうもれて、某携帯ゲームを片手間にプレイしているのは誰であろう愛しの君その人だ。さっそくルンルンはお引きずりをからげ、今にも寝落ちしそうな彼の背中にまわった。頬を染めたまま後ろからそっと目を塞ぐ。
「だーれだ、なのです」
「ほたるん?」
「どこの女よ!」
「ぐえっ、……そ、そこの人」
 常春が指差す先に偽春が居た。青ざめたまま固まっている。ルンルンはその手からゲーム機を取り上げ、画面をのぞいて納得した。下位麒麟シリーズに身を固めた女ハンターの姿がある。キャラ名は『ほたるん』。
「ネカマですか…」
「ネカマではない、女キャラ使いだ。貴様もキャラ名で呼ぶな、常春!」
「本名で呼んだらすごい嫌そうな顔するくせに」
「なんだ、誤解しちゃうところでした」
 ルンルンはころりと機嫌を直し、夫に抱きついた。
「若い頃の春さんって、今見るとちょっと可愛いのです」
 常春はこくびをかしげた。
「ルンルンさんはいつもと雰囲気が違うね」
「それは私が未来から来たからです」
 バニースーツからあふれんばかりのむちむちぽよんな体型は年月でさらに磨きぬかれていた。上から羽織った皇妃の泰服が彩りを添えている。
「……今は2人の間に、子供も居るんですよ」
 色気とうぶさを兼ね添えた微笑を浮かべ、常春の胸元へ寄り添う。なるほどと偽春が扇を閉じた。
「結婚したのか。このたびはご愁傷様です」
「きゃあ直球で言われちゃった♪ えへへー、おそれいりまーす♪ さぁ、ほたるんさんもこっちへ。お酌してください、お酌! うふふ、なんだか若返った気分。あ、ウェイターさん、注文でーす!」
 片手と一緒に明るい声を上げるルンルンへからす(ia6525)が寄ってきた。注文を承ると一礼し、リングサイドでぎゃいぎゃいやっている巌坂組を傍目にカウンターへ戻る。
(「ケンカするほど仲がいい連中ということか。最後までどうにも……。はっちゃけているようできれていない中途半端さが、店の特徴といえば特徴だな」)
 自らカウンターに入り厨房の応援に回る。倉庫をのぞくとダン箱の中、三角座りでべそをかいている結花を発見した。が、無視して部屋に戻った。酒瓶を追加し、ブルーマンデーをたしなむフランヴェル・ギーベリ(ib5897)へ話しかけたのは、比較的まともな顔色だったからだ。
「で、バニー戦争は一応まだ続いてるわけなのだよね」
「悲しいけれどそのとおりだね」
 フランヴェルは目一杯のキメ顔で振り向き、動じないからすに内心感嘆した。
(「……この子、ボクの眼力が効かない。男装の少女は余裕で守備範囲なのに」)
 ジルベリアにこのド変態ありと恐れられた美幼女キラーの眼力を、涼風のごとく受け流すからすはチャイナカラーの給仕服を着ていた。フランヴェルから勧められた新聞の見出しをざっと読み、からすはそれをたたんでまた棚へ戻す。
「後ろシームvs網タイツか、拘りはヒトの数だけあるからね。許容が足りないよね彼等。私?『バニーはもうキグルミでもいいんじゃないか』派、可愛ければどうでもいいのだよ。倉庫から出てきたこのまるごとうさぎ着るかね?」
「遠慮しておくよ」
「可愛いは」
「正義」
 その点だけは馬が合ったらしい二人だった。
「というわけでバニー戦争の首謀者とかちょっと調伏してくる」
「へえ……楽しそうだ」
 フランヴェルも立ち上がった。からすがしきりに店の壁を叩き、ふと立ち止まる。
「ここだな」
 すぱん。からすが壁を叩くと、そこが隠し扉のようにくるりとひっくりかえった。現れた景色はどこか謹厳実直な雰囲気漂う司令室。カーキの軍服を着た連中が雁首そろえて目をむいている。高官ぞろいだとは、これみよがしな勲章の数々を見なくともわかった。
「何者だ。ここをヴェ=ガ総本部としっての狼藉か!」
 腰を浮かせたヴェ=ガ総帥は、思っていたよりぜんぜん若かった。泰国系のハイティーンの青年に見える。ついでにいうと背は低いほうで、どちらかというと童顔で、整った顔立ちは血筋のよさを伺わせ、ようするにどう見ても常春だ。からすは総帥をとくとながめ、常春と偽春に目をやり、視線を戻して、うんとうなずいた。
「叛乱が、うまくいってしまったパターンかね」
 痛いところをえぐられたのか総帥の頬が朱に染まり、偽春は肩を落とした。
「梁山時代からン百年経って唐突に春王朝天帝のそっくりさんが生まれたくらいだから、ヴェ=ガで似たようなことがおきても特段不思議ではないのだよね」
「おまえの遺伝子って時限爆弾かなんかなの?」
「……私に言われても困るよ」
 偽春に肘で小突かれた常春が心底どうでもよさそうに答える。
「お逃げください総帥! 天儀の奴らめ。網タイツの良さも知らずに……!」
 血気に逸るヴェ=ガ軍の皆さんを、フランヴェルが手刀の一薙ぎで制す。彼女は端正な口元へ余裕の笑みを乗せ、手品のように小箱をとりだす。箱には大きなボタンと『押すな!』の一言があった。
「……キミ達はまだ本当のバニーを知らない」
 フランヴェルの指先がボタンの表面をなぞる。
「お目にかけよう。人類の夢の進化形、ニュータイプバニーを!」
 フランヴェルは箱を窓へ向かって思いっきり分ぶんげた。窓を割った箱は首都の暗い空へ。無機質な建物が並び、人工的な光に包まれたヴェ=ガの上空で七色の光が弾け、巨大な像が浮かび上がる。魔力が収束し、幻影が生身の肉体へ変換される。
 らーらーらららららら〜。
 流れる曲にあわせ白鳥のようにくるくると舞うのは少……幼女、リィムナ・ピサレット(ib5201)。なんだかいつもより幼い。ズームアップされ人間サイズになったリィムナの服装は赤のハイレグバニースーツ、後ろはTバックに近い。ぷりっとした尻にはスク水型の日焼け跡がくっきりついている。すっからかんの胸元は、段差どころか大峡谷だ。何より下半身が。
「生足だよ♪」
「見たかねヴェ=ガの民よ。生足ぺったん巨大ロリバニー、これが新時代の正統派だ!」
 司令部の皆さんは総帥を交えて審議に入った。
「……正統派」
「正統、派?」
「希少価値の高いものを正統派とは呼ばない! カードで言えばコモン、それが正統派!」
「だがしかし待ってほしい。かのおひめさまツクールにおいて、バニーコスが最も引き立つのは、やはり最年少時ではないか」
「何十人とプリンセスをメイクしようとも、娘は顔もわからんボンクラ王子をすっとばして王妃になる始末」
「おまえもおとうさんは風来坊ですと作文で読み上げられる苦しみを味わえ!」

 ズドン!

「関係ないお話は〜、さっさと打ち切ったほうがいいと思うんですよね〜」
 フランヴェルの影から現れたカメリア(ib5405)がにこりと微笑む。艶やかな海老茶の燕尾服の下は、サイドに迷彩柄を使ったグレーのバニースーツだ。ガンベルトが細い腰を強調している。カメリアにあわせ、ふしぎも叫んだ。
「そうだよ! これが人の革新なんて、僕は信じないんだからなっ!」
 それと、と彼は続けた。
「僕は天儀側の人間だけど、やっぱりバニーさんは編みタイツだと思うんだぞ。別にドキドキするとか、そんなことないんだからなっ!」
 勢い込んで胸のうちを訴えた彼は、カメリアの視線に気づいてそそくさと自分の耳と尻尾を隠す。
「見ちゃだめなんだからなっ」
「バニーで世界は平和になるのですよぅ、素敵ですねぇ♪」
 にこにこしたままうなずいたカメリアは人差し指を頬に当てる。
「……で、何するんでしたっけ 接待、したらいいでしょうか。楽しんでいただくには……芸ですよねっ」
 彼女は笑みのまま銃口を総帥の額へ向けた。
「特技は射撃です♪ 頭にリンゴ載せて、的当てとかしましょうか? ヴェ=ガ総帥サ・マ♪」
 からすはポンと総帥の肩へ手を置き、語りかけた。
「うまいこと乗っ取ったはいいものの戦争特需に頼り切っていた経済がまわらなくなり紛争を吹っかけざるをえなかった、というところだろうかね。周りがバニーボケしているうちにごめんなさいしたほうがいいと考える。さもないと……」
 いつのまにかすべての席へ、軍人の代わりにまるごとうさぎが置いてある。とどめに。
「きゃはは、なにこれー。蟻の巣みたーい!」
 ズーン、ズーン。
 巨大化サイズで市街地を踏み潰すリィムナの姿があった。フランヴェルがあごをつまむ。
「おいでリィムナ」
 リィムナへウインクしたとたん、彼女の頬が火がついたように赤くなる。
(「素敵なお姉さんだ♪」)
「はーい」
 音を立てて元の大きさに戻り、フランヴェルのひざに乗る。夜風が尻を撫でていった。
「は、は、ぶぁっくしょい! ……あーっごめんなさいい! え、えっと……」
「『フラン』でいいよ、子猫ちゃん。フフッダメじゃないか」
 彼女のくしゃみで汚れた顔をレースのハンカチで拭きながら、フランヴェルは幼いリィムナを見つめた。
(「間違いない、これは七歳の頃のリィムナ。開拓者になる直前くらいか。つまり調教前のフレッシュな頃頃だな。ということは今から私好みに育てていけば……プリンセス真EDも夢じゃない」)
「ふふっ、くっ、クックック……」
「どうしたのお姉さん」
 どす黒い笑みを一気にさわやかスマイルと入れ替え、フランヴェルはリィムナをうつぶせにさせた。
「ともあれお仕置きしないといけないね」
「……うんっ、わかった」
 すなおに、そして無邪気に待っているリィムナのお尻を、軽くゆっくりと吟味するようにペンペン叩く。
「ふにっ……ひゃあっ、ごめんなさい」
「いい子だ、よしよし♪」
(「全然痛くないや」)
 愛しているよとつぶやいたフランヴェルが幼い体を抱えあげた。
「さーてお持ち帰りしていいかな? いいともー♪ 退散!」
 窓から飛び出し、次元の狭間へ踊りこむ。
 それを見た倭文は後ろ手で居酒屋の壁を殴りつけた。扉のように壁が開き、巌坂の青い空が広がっている。
「帰って飲みなおそうぜ、明燕」
「うん、わーい、おうちでもしゃおうぇといっしょ」
 彼は嫁の肩を抱き、参へひらひら手を振ると舌を出した。
「我は不戦敗でいいゼ。じゃあまた後でナ」
 ぱたんと壁が閉じ、二人の姿を隠した。床を蹴りつけた参が霧雁の胸へ飛び込む。
「あーもー、ダーリン聞いて! 明ちゃんがお嫁にいっちゃった、私さみしいっ!」
「泣き止むでござるよ梨那。こんなこともあろうかと、召喚、メカジミー! 新婚旅行でござる!」
「マジで。やった♪」
 ころりと笑顔になった現金な妻を抱き上げた彼は、割れた窓から物理法則を軽く無視してメカジミーの操縦席へ飛び込む。
「いざ行かん、星の大海に!」
 レバーを押し上げると、メカジミーの両目が輝き、足元からジェットが噴射する。ルンルンが両の瞳をきらきらさせ、カウボーイみたいに投げ縄を偽春と総帥へ投げかける。ぐえっとか、ぎゃうっとか悲鳴が上がった。
「私も私もー! 三人ともお持ちかえりしちゃいます、今日は大漁ですね♪ さ、ほたるんさんと総帥さんをダン箱につめつめしますよ。常春さん手伝って!」
「枕も入れてあげようよ」
 カメリアは手にした銃を長銃へ挿げ替えた。
「お開きタイムです? じゃあ、最後にはこれですっ!」
 砂糖菓子みたいな特製ブレンドの弾丸を銃にこめて空へ撃ちだす。柚乃が飛び出し、ぺこりとお辞儀をした。
「これまでお世話になりました。そして、ありがとうございました。では皆様、ごきげんよう、さようなら。それから……」
 
「「「またね!」」」

 ――ドォン!

 ヴェ=ガの空に大輪の花が咲いた。