|
■オープニング本文 ●「からくり」 アル=カマル、神砂船の船室より発見された、人間大の動く人形。 陶磁器のように美しい肌は、継ぎ目ひとつ無い球体を関節に繋がれて、表情は無感動的ながらも人間さながらに柔らかく変化する、不思議な、生きた人形。 あの日、アル=カマルにおいて神砂船が起動され、「からくり」の瞳に魂が灯ったその日から、世界各地で、ぽつり、ぽつりと、新たな遺跡の発見例が増えつつあった。何らかの関連性は疑うべくもない。開拓者ギルドは、まず先んじて十名ほどからなる偵察隊を出した。 「ふうむ‥‥」 もたらされた報告書を一読して、大伴定家はあご髭を撫でる。 彼らは、足を踏み入れた遺跡にて奇怪な姿の人形に襲われたと言うのである。しかも、これと戦ってみた彼らの所見によれば、それらはアヤカシとはまた違ったというのだ。 なんとも奇怪な話であるが、それだけではない。 そうした人形兵を撃破して奥へと進んでみるや、そこには、落盤に押し潰された倉庫のような部屋があり、精巧な人形――辛うじて一体だけ無事だったものだが――の残骸が回収されたのだ。 「‥‥まるで、今にも動き出しそうじゃのう」 敷き布の上に横たえられた「人形」を前に、大伴はつい苦笑を洩らした。 無論、大伴定家にとっては、勝ち戦のほろ酔いが口端に乗せたちょっとした冗談であったのだけれども‥‥ ●ヴェル・デ=バジェ 風と砂に削り出された巨岩・奇岩の聳え連なる峡谷の相を成す大地の亀裂。 雨季の間に岩の隙間に溜まった雨水がゆっくりと滲み出して乾いた地を少しばかり湿らせるその一帯は、砂礫ばかりの不毛の荒野が連なる砂漠地帯においては比較的緑に恵まれた遊牧民の多く集まる土地である。 ジャウアド・ハッジの勢力圏ではないものの、土地柄故、アル=ステラとも縁遠かった。 ジプシー、あるいは、吟遊詩人が唄う物語に語られることの多い‥‥精霊の加護ある地よりもたらされたその一報に、《ぎるど》の職員はほんの僅か眸を細める。 乾いた大地に突き刺さるように林立する巨岩の隙間を縫うように《ヴェル・デ=バジェ》を巡る岩の回廊。 その一角が崩落し、新たな道が開けた。――それ自体は、さほど珍しいことではない。――強大なる自然の営みの中で、世界は日々刻々と姿を変えていくものだから。 とはいえ、開けた遂道よりアヤカシともケモノともつかぬ「人形」が這い出してきたら‥‥これはもう怪奇現象というより、ちょっとした怪談である。 《ぎるど》職員の脳裏を、大伴定家の戯言が過ったのは言うまでもない。 おそらくは、岩遂道の奥に遺跡のようなものがあるのだと推測されるが、人ならざるこの「人形」たちが思いがけず強力で。《ヴェル・デ=バジェ》の砂迅騎たちも手を焼いているようだ。 アヤカシとはいくらか異なり、ある範囲を踏み越えなければ向こうから襲いかかってくることはないこともあって――強く差し迫った脅威ではないと判断されたのだろう――積極的に事態を究明しようという動きは沈静化しているという。 「――なんだか気になりません、これ?」 悪い言霊とかでなければ、良いのだけれど。 自分は意外に古風な人間だったのだなぁ‥と。しみじみ天儀を懐かしみつつ、どうにか歳入役より探索費を分捕った彼は壁に依頼を張り出したのだった。 |
■参加者一覧
志野宮 鳴瀬(ia0009)
20歳・女・巫
氷海 威(ia1004)
23歳・男・陰
鞍馬 雪斗(ia5470)
21歳・男・巫
藍 舞(ia6207)
13歳・女・吟
リューリャ・ドラッケン(ia8037)
22歳・男・騎
アイリス(ia9076)
12歳・女・弓
雪切・透夜(ib0135)
16歳・男・騎
長谷部 円秀 (ib4529)
24歳・男・泰 |
■リプレイ本文 異郷のジンを先導していた砂迅騎が、おもむろに枝分かれした道のひとつを指でさす。 思わずそちらへ視線を向けたのは無意識のなせる業。松明や《夜光虫》に頼るほどではないとはいえ、薄暗い岩陰に慣れた目に砂漠地帯特融の眩い陽射しは強烈で、氷海 威(ia1004)は僅かに双眸を細めた。 指された先にあるもの。 周囲とさほど変わらぬ巨岩に穿たれた亀裂。それが、ごく最近出来たものであることは、周囲の岩との色の違いからも明らかで‥‥削ぎ落とされたばかりの真新しい岩壁を背景にして、降り注ぐ強烈な光の下に佇む人形の陰影は、雪切・透夜(ib0135)に一巾の絵を思い起こさせた。 ●目覚めた人形 まるで、生きているかのような‥‥ 雛遊びにはさほど興味のない志野宮 鳴瀬(ia0009)をして、そう感嘆させる程度には出来の良い。――少なくとも手掛けた造型師にとっては、趣味や遊びといった片手間の仕事ではなかっただろう。 「眠る事も恐れる事もない忠実な兵、確かに最適だろうね。人形というものは」 その上、不平不満もサボタージュもなく、条件が許せば時間をも超越する‥‥岩遂道の人形兵たちのように‥‥雇用者には理想的な駒かもしれない。呆れと嘲弄の入り混じった竜哉(ia8037)言葉に、雪斗(ia5470)も小さな苦笑を零した。 神砂船といい、太古の遺産だと言ってしまえばそれまでだが、謎ばかりが積み上げられて行くような。全てを紐解く為にも、先ずは手掛かりを集めることが重要で。 「色々、試して正体を暴きにいきますか。‥‥間違って入り込んだ人が危害を加えられては危ないですしね」 「今回のうちは研究者として動きましょう」 状況を楽しむかのように肩をすくめた長谷部 円秀(ib4529)。普段とはひと味違う探究者の顔を覗かせて胸を張った藍 舞(ia6207)の隣で、アイリス(ia9076)はちょっぴり憂鬱そうに吐息した。 「うぅ、アイリスはこういう人形はちょっと苦手なのですよ〜」 人の姿に酷似しているからこそ。 その人為らざる部分への違和感が大きくて‥‥それは、時に嫌悪さえ感じるモノであることが多い。殊に《開拓者ギルド》に持ち込まれる人形の殆どは、再び動き出すことのないよう破壊されている。亡骸とさして変わらぬモノが無造作に置かれているのを見るのは、やっぱりちょっと気味が悪い。 もちろん、アイリスだって岩遂道の奥に隠されたモノ自体には、とても興味があるのだけれど。 人形の存在については、最初の1体が見つかった神砂船を棲処としていた上級アヤカシ、ラマ・シュトウさえ知らなかったものだと思われる。――彼女の性格からして、既知のものを利用しないとは思えないから――人形兵がアヤカシにどのような反応をするのかは未知数だが、遺跡にアヤカシが棲み付いている可能性もあった。 幸いにも今のところアイリスの《鏡弦》に共鳴を返すものはなく‥‥また、破壊された人形が瘴気となって霧散したという事例も聞かない。 ともかく現在のところ、神砂船での発見を皮切りに、世界中で発見が報告され始めた精巧な「からくり」とアヤカシは、全くの別物だと考えても良さそうだ。 ●人形芝居 林立する巨岩の間をすり抜けるように繋がる岩がちの乾いた道は、訪れた来訪者が自然の妙を想い感嘆を落とす《ヴェル・デ=バジェ》の奇観のひとつだ。 まず、圧倒され。 次いで、そこへ至る過程を想う。 地を埋める砂と小石――時に、人の頭ほどある岩の切片など――が、かつてこの聳え立つ巨大な岩の一部であったことを思い出し、己の小ささに気づいてほんの少しばかりの不安に影を兆すのだ。 多少、力を入れた程度では揺るぎもしないことは実証済みだが、「もしも」を想像してしまうのは開拓者の性か。‥‥そも、《ヴェル・デ=バジェ》での人形の発見は、崩落が原因だと言うではないか。 乾いた岩壁に走る幾つもの亀裂に何度目かの視線を彷徨わせた鳴瀬と同じく、先導する砂迅騎とひとつふたつ言葉を交わした竜哉も気難しげに眉根を寄せた。 もちろん、手加減するつもりはない。 手加減する気は毛頭ないが、手にした巨大なハンマーを辺り構わずただ力任せに振りまわすだけの狭視野な人間でもないつもりである。 「――察するに、入口付近の坪庭みたいな空間が人形の領域ってことかしら?」 「これは思った以上に狭いな‥‥」 哨戒の真似事だろうか。 陽光の落ちる僅かな空間に佇む人形と奥へと続く遂道の入り口を目測しつつ小首を傾げた舞の呟きに、氷海も僅かに顔をしかめて顎を引いた。身体を横にしてすり抜けたり、身を屈めて潜り抜けたりすることを想えば比べれば幾らかマシか、と。密かに安堵していた自分との感覚の違いに小さな苦笑を零した雪切とアイリスも、先を想って気を引き締める。 「さて。どうしてくれようかしら」 遂道入口の前で微動だにしない人形を睨めつけて、舞は瞬時に考えを巡らせる。 いくら足音を忍ばせたからと言って、あの距離で気づかれることなく人形の横を通り抜けるのはまず無理だ。‥‥とすれば、《抜足》を使う意味もない。 呼吸も、鼓動も感知できないのは、人形だから当たり前。 文字通り、敵が領域に踏み込まない限り、ぴくりとも動かないのだろう。――相手が家具や岩と同じなら《超越聴覚》の精度も当てにならないじゃないの!――思い浮かぶ行動案を、取捨選択の秤にかけて切り捨てる。 いらいらと爪に歯をたてたところで、ふと、心配気に見つめる土偶・獅猩と目と目があった。 「行きなさい、獅猩。ぽっと出の人型なんかに負けるんじゃないわよっ!」 『‥‥んな‥っ?!』 そんな、無体な―― 無表情ではあるものの明らかにそう言いたげな様子ではあったけれども――獅猩だけでなく、居合わせた者全ての心の声だったに違いない――意外に従順な土偶はひと声吠えると、軍配を掲げ人形めがけて走り出す。金色に塗り分けられた鬣が降り注ぐ陽光を弾き、鮮やかな光の華を散らせた。 岩の陰から躍り出た異形の土偶に、人形の眸がひらく。 重い脚が大地を踏みしめる振動。あるいは、《心眼》、《鏡弓》に似た索敵の網を張り巡らせているのだろうか。それは、網に掛った獲物を捕える蜘蛛の動きにも似て。 かちり、と。 歯車の噛みあう音を聞いた気がした。 魂を吹き込まれでもしたかのように、それは唐突に動き出す。――どすんどすんと見るからに重たげな土偶の動きに比べれば――驚くほどなめらかに翻された腕の動きは、演舞の所作を思わせるほど。先手必勝っとばかりに襲いかかった獅猩に向けて伸ばされた腕の、肘から先が乾いた破裂音と共に切り離されるその瞬間まで。開拓者たちは、「彼」が人形であることを忘れかけていた。 『‥‥へ、ぶ‥っ!?』 燻銀の軌跡を引いて打ち出された腕が、唐突に伸びた間合いに面食らい回避の遅れた獅猩に痛烈なカウンターとなって喰らいつく。 乾いた大地を蹴り、高く跳躍した人形は、残った片方の手に携えた槍をくるりと回転させ、鋭利な煌めきを放つ白銀の穂先が珍妙な侵入者へと照準を合わせた。 「――獅猩っ!」 「ああっ!!」 切羽詰まった舞の悲鳴と勝敗の行方から思わず顔を背けた鳴瀬の耳に、衝撃を伴う轟音が大気を切り裂いて鳴り響く。 閃いた光におそるおそる眸を開いたアイリスが見たものは―― 「‥‥間に合った、か‥?」 神秘のタロットを握りしめた雪斗が、小さな安堵を吐息に落とす。 放たれた《サンダー》の衝撃に弾き飛ばされ地に叩きつけられた人形は、だが、むくりと人為らざる動きで起き上った。 あり得ない方向に曲がった腕と‥‥人間であればまず平静ではいられぬ重傷を負ってなお‥‥先刻と寸分動かぬ表情が不気味さを増す。 「ああいうのが、嫌なのですよ」 「思いのほか‥‥器用な動きをするんだな。ただの傀儡とはとても思えん‥‥」 思いっきり顔をしかめたアイリスの隣で、雪斗は少し感心した風に先刻の「人形」の戦い振りを思い返して呟いた。 ゆらりと立ち上がった人形は己を撥ね退けた攻撃の出所を探すかのようにゆっくりと周囲を見回し、やがて開拓者たちが身を顰める岩陰へと視線を向ける。 「うわ。目が合ったかも」 深い群青のガラス玉を填め込んだ澄んだ眸に、竜哉の後ろから身を乗り出していた長谷部は慌てて首を引っ込めた。何事もなければ、ここは人形たちの守備範囲の外であるはずだけれども。――とはいえ、人形兵が敵を認めて動き出す境界が思い描いていたほど広い場所ではないことに、雪切は落胆を隠せない。 「‥‥出てくるわよ‥」 《超越聴覚》によって強化された聴覚が、俄かに増大した音によって敵の存在を舞に知らせた。――哨戒の人形が戦闘を始めたコトが伝わったのだろう。 ざわり、と。 不穏の色に大気が揺れた。 ●戦場への誘い 踏み込みと同時に下段より切り上げられた「長曽禰虎徹」の晴れやかな刀身は、突き出された人形兵の鋭い爪を掻い潜り、球状の関節を持つ腕を切り飛ばす。 周囲に散りしきる紅は、鮮血ではなく、《紅蓮紅葉》の燐光。 硬質な、それでいてどこかやわらかく粘りのある感触は、これまでに切ったどんな敵とも異なるもので。綺麗な放物線を描いた白い腕が乾いた大地に転がる様を確認し、長谷部は溜めていた息を吐いた。――《白梅香》の浄化能力が期待したほど効いていないところを見ると、アヤカシとは異なるモノだという推測はおそらく正しいだろう。 ひと雫の血も滴らず、瘴気となって消え失せることもない。 それはそれで、少し奇異に感じるのだけれど‥‥否、むしろ腕を切り落とされて苦悶も見せず平然と動き続ける姿に、「人形なのだ」と改めて認識させられている気がした。 追い詰められる。 漠然とした不安が氷海の胸中に焦燥の影を広げた。 目算が外れ、地の利が人形――あるいは、ここに秘密を隠した者――に、味方したと言うべきか。 聳え立つ岩と巌に挟まれた回廊は、戦闘には十分な広さがあるとは言い難い。1体づつ誘い出すことは出来ても、その人形と対峙できる味方も、ひとりかふたりだ。自由に動ける方向が制限されれば、当然、空間を大きく使った回避もままならぬ。 それに‥、と。 雪斗は確かなものになりつつある懸念に、顔をしかめた。 人形兵の動きが変化しつつある。 最初の2、3体は舞の挑発に乗って、容易に開拓者が待ち受ける岩陰へ近づいてきたのだが‥‥5度、6度と繰り返すうちにやや反応が悪くなった。 舞が近づくと臨戦態勢を取るものの、退けばそれ以上の追撃をしてこなくなったのだ。 まるで、侵入者に先へ進もうとする意図がないと判断したかのように。――何度か矢を放って挑発しようにも、複数の人形が攻撃の機を伺う領域では思うように狙いも付けられない。 「状況を判断して行動を決めているみたいだ」 「――こちらの言葉に反応する気配はほとんどなかったが、な」 雪切の感想に、切り結んだ人形に何度か質問を投げた竜哉は唇の端に皮肉っぽい笑みを浮かべる。 自然に発生するものではない以上、彼らの存在には意味があるはずで。それを解き明かしてこその任務だが‥‥前線に立つ兵隊に、大量の情報を持たせて戦場に送りだす黒幕は希少だ。それが、使い捨てにできる「人形」ならば、尚のこと。 「ヤツらに意思がないのなら、操っているヤツが奥にいるということになりそうだが‥‥」 「アイリスたちには判らない情報伝達の手段を持ってるですか?」 「そうなるか」 膠着に陥った戦況と、人形たちの動きについて分析する氷海とアイリスの会話を聞くともなしに耳を傾けていた鳴瀬は、ぱらぱらと頭に降りかかった細かな砂に気づいて、顔を挙げた。 暗褐色の岩壁の奥で白い光を放つ空。 日陰に慣れた目には眩過ぎる光の中に、あり得ないモノを見つけて、鳴瀬は小さな悲鳴をあげた。――聳え立つ岩に蜘蛛のように四肢を這わせた人形が、ひとつ、ふたつと‥‥逆光の中から姿を現す。 「く‥っ! これを狙って――!!」 反射的に抜き出した符に念を込めて顔の前に立て、氷海は軽く飛び退くと同時に、人形に向けて式を解放した。五芒の星を記した符より抜け出した式が呪縛となって人形に絡みつく。動きを封じられ、転がり落ちた人形の細い首を狙って雪切は躊躇うことなくバトルアックスを振り下ろした。 人と寸分変わらぬ端正な頭に、アイリスはうぅと顔をしかめる。――日頃は沈着な雪切も、さすがにこの時ばかりは血の流れぬ相手に感謝した。 「こんなところで囲まれたら面倒だからね‥っ!」 雪斗の詠唱に渦を巻いた風が真空の刃を紡ぎ、砂礫を巻き上げ突き抜ける。さらに2体の人形を切りつけて、雪切は素早く立ち上がると人形兵の待ち受ける遂道の前庭を顎でしゃくった。 「出よう。戦場にするなら、あっちの方が広い」 「そうだな。この数なら何とかなりそうだ」 竜哉の言葉に、長谷部が駆け出す。 陽のあたる場所へ。そして、いくらか数を減らした人形兵の待ち受ける戦いの場所へ―― 「無限に出てくるものでも無いようね」 遂道の奥を動き回る足音も聞こえない。 全体の上限なのか、この場所の上限なのかは、未だ不明であるけれど‥‥ともかく、目の前にいる数を倒せば、今回は終わりにしても良さそうだ。‥‥内心の安堵を表情に出すまいと苦労しながら、舞は懐より小さな帳面を取りだす。 「ならば、早々にケリを付けてやろうじゃないか」 好戦的な笑みを浮かべて、竜哉はじりじりと間合いを探り近づいてくる人形兵を睨めつけた。 長さの異なる二刀を携えた長谷部。鳴瀬を背中に庇った雪切も、中央に赤い宝石の嵌め込まれた楯を掲げ、ジルベリア風の戦斧を構える。 ●終わりと始まり 「彼ら」は、何を隠しているのだろう。 干戈を交えた人形兵が、文字通り「ガラクタ」と帰した前庭を見回して、アイリスは肩を落とした。――隠れ住んだ先人の痕跡を岩の渓谷の奥に隠し、護人に精巧な人形兵を配備してまで。 明らかに自然の造形とは異なる通路を覗き込み、舞もまた顔をしかめた。 「ここを作ったヤツは、よほどの人間嫌いか根性曲がりね!」 きっとそのどちらでもあり、どちらでもないのだろう。 薄暗い――この先は、松明か夜光虫が必要だろう――通路の奥は完全なる沈黙に支配され、人の気配は感じられない。 この奥に人形を操っているモノがいるのは確かだが、おそらくそれは人間ではない。――創造主の意思を汲むモノ。あるいは‥‥ アヤカシでなければ良いのだけれど。 言葉にはできぬその想いを、鳴瀬はただ切に願った。 |