【妖精】ユールクラップ
マスター名:津田茜
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/12/19 04:43



■オープニング本文

●白い妖精
 寒い季節に現われるという、《白い妖精》。
 《開拓者ギルド》に端を発した噂は、たちまち神楽の都中に広がった。
 時も、場所も選ばない。素敵な出会いを運んでくれるという妖精の存在は――あたかも、幸運の運び手であるかのように――天儀を揺らした様々な波乱に憂いた人々の心に幾許かの希望と温もりの種を撒く。
 《開拓者ギルド》の内輪に留まらず。
 ‥‥《白い妖精》の存在を信じる全ての人が、妖精発見の報告を待ち望んでいた。


●ユール・クラップ
 華やかに鐘の音が鳴り響く。
 外は冬将軍の麾下に取り込まれた風精が痺れるような凍気を撒き散らしていたが、赫々と熾った暖炉の前はぽかぽかと春のように暖かい。
 ぴったりと閉ざされた硝子窓にくっついて蒼白くけぶった石畳の通りを見下して、アーレスは吐息をひとつ。――風花の舞う季節は嫌いだ。
 大人たちが急に慌ただしくなって、お留守番が増えるから。
 夏場のように気易く外に出してはもらえず――良い子でいることを約束させられて、ばあやの後を付いて歩くのは外出とは言わない――大人しく本を読むなんて、考えるだけで気分が滅入る。
 新年のお祭りには少しばかり気が早い。
 年末にだけ広場に立つ聖夜市も、開かれたばかり。街角が通りに面した家々の窓が華やかに飾りつけられ、お祭気分が盛り上がるのもこれからだ。
 石造りの瀟洒な街は、まだゆるやかな時間の流れの中で寛いでいる。

「‥‥はぁ‥」

 退屈だ。
 退屈で、退屈で‥‥溶けてしまいそう。
 風にさらわれた粉雪が凍った大地を滑るのにも似た、とても冷たく透明な鈴の音は、そんな忸怩たる思いを抱えて通りを眺める少年の耳に、幻想的な調べを奏でた。

 きらり、と。

 何かが輝く。
 朝陽にきらめく氷の粒を想わせる幻想的な光が窓越しの広場‥‥馬車道に沿って露店の並ぶ一郭で揺れていた。息づくようにまたたく光に、アーレスは眸を瞬かせた。

 見間違い?
 ‥‥それとも‥‥あれは、もしかして‥‥

 正体を確かめようと目を凝らし、ふと脳裏に閃いた特別な存在に、アーレスは腰かけた窓敷居から飛び降りる。
 勢いが付き過ぎて椅子を蹴倒してしまったけれど。部屋に響き渡った大きな音に、暖炉の前で寛いでいた猫が飛び起き‥‥慌ただしく廊下を掛けてくる足音が聞こえた。
 扉を開けたばあやの脇をすり抜けて――外套と手袋は玄関のクロークに掛けてある――制止の声を置き去り、痺れるように清冽な凍気の世界へ。


●冬の邂逅
 確かこの辺だったはず。
 壮麗な石造りの建物に囲まれた広場の片隅‥‥異国情緒を漂わせた安っぽい雑貨を扱う露店の影は、喧騒から取り残されたかのような静謐が満ちていた。
 忘れたかのような沈黙の中、少女は不思議そうに周囲を見回す。
 きらきらと石畳に踊る小さな光を追いかけて――白い妖精を確かに見たと思ったのだけど――気が付けば、ずいぶん賑やかな所まで来てしまった。
 都市で冬を過ごす貴族の館が立ち並ぶジェレゾの中でも指折りの瀟洒な街は、彼女の暮らす下町界隈とは雰囲気が違えば、空気も違う。少し気遅れした風に後退した少女の後ろで、ぱたぱたと石畳を踏む軽い足音がぴたりと止んだ。

「あれ、妖精は?」

 思わず振り返った視界が真っ先に見つけたのは、くすんだ月毛の猫っ毛に闊達な光を湛えた青灰色の眸。
 駆けてきたのか息を弾ませたまま、少年は先刻の彼女と同じくきょろきょろと興味深気に周囲を見回し、最後に視線を少女に戻した。

「今、ここにいたよね?」

 寒い季節に現われるという、《白い妖精》。
 見つけた者に訪れるのは、幸運と言う名の――‥



■参加者一覧
酒々井 統真(ia0893
19歳・男・泰
皇 りょう(ia1673
24歳・女・志
フェルル=グライフ(ia4572
19歳・女・騎
菊池 志郎(ia5584
23歳・男・シ
アイリス(ia9076
12歳・女・弓
ジークリンデ(ib0258
20歳・女・魔
リィムナ・ピサレット(ib5201
10歳・女・魔
シーラ・シャトールノー(ib5285
17歳・女・騎


■リプレイ本文

●ユール・クラップ
 鐘の音が降り注ぐ。
 冷たく澄んだ大気を震わせる厳かな祈りの音色は瀟洒な石造りの建物に撥ね返り、聞き慣れぬ者の耳には共鳴する街全体が歌っているかのような錯覚さえ抱かせてしまうかもしれない。
 幾重にも深く響き合う精霊の歌声に、フェルル=グライフ(ia4572)は我知らず背筋を正した。凛と張り詰めて隙のない、心を律する清冽さは今の季節そのものだ。鐘の音に冬を想い浮かべる理由が理解った気がする。――彼女が天儀に移り住む以前、心に刻まれた原風景のひとつなのかもしれない。
 ふと足の止まった恋人を振り返った酒々井 統真(ia0893)と彼の朋友・人妖の氷桜。
 ひと巾の絵画にも喩えられそうなお洒落なオープンカフェで艶やかな銀の毛並みの管狐と一緒に――小さな屋台を借りて冬季市で営業していたシーラ・シャトールノー(ib5285)謹製の――発酵乳を混ぜて焼いた薄い生地でたっぷりの果実ジャムと生クリームを巻いたブリヌイとお気に入りの砂糖漬けの果実で遅いブランチを愉しんでいたジークリンデ(ib0258)も。
 言葉なき誘いに見上げた蒼穹はどこまでも高く、冷たく。
 玲瓏と響く鐘の音に揺らめく大気中の氷の粒が淡い琥珀色の光球より投げかけられる透明な陽射しにきらめきながら、瀟洒な街に幻想の翳を重ね合わせた。
 駆鎧工房に持ち込んだ武神号のメンテナンスが終わるまで‥と、自分に言い聞かせ。
 天儀とは趣の異なる華やかで荘厳な石造りの街並みとその雰囲気に相応しい品々を前にときめく乙女心と武人であろうとするストイックな自戒――そして、心まで温めてくれそうなジルベリア料理のあれこれ――の間で揺れる皇 りょう(ia1673)も、露店に並んだオーナメントを興味深げに手に取った酒々井を相手にその意味や由来を根気よく説くフェルルの仲睦まじい姿から意識して視線を逸らし、防寒着で着膨れた子供たちへと注意を向けた。
 戸外で遊ぶ子供の姿は、泰平の証でもある。――街に舞い降りた寒気のせいか、めっきり少なくなってはいるけれど――アイリス(ia9076)やリィムナ・ピサレット(ib5201)など、既に開拓者として赫々たる経歴をスタートさせている者たちの姿が混じっているように見えるのだけれど。

「ここに精霊がいたよね?!」

 聞き覚えのある幼い声に紡がれた問い。
 興味を惹かれたのは、どちらにだろう。襟巻代わりに首に巻いた管狐ごと振り返った菊池 志郎(ia5584)は、内のひとりにほんの少し眼を細めた。
 暖かそうな外套ともふら毛糸の帽子、襟巻に着膨れて、思い出すのに少し時間が掛ったけれども。子供らしい頬のラインと青灰色の眸に宿った生意気そうな光には覚えがある。ジェレゾより少し離れた貴族の荘園で、夏の数日を一緒に過ごした双子の兄弟‥‥きかん気が強くて、物怖じしない性格は兄だったか、弟だったか‥‥
 鐘の音と共に街に舞うきらめく光を追いかけて広場の石畳を踏んだアイリスも、思いがけない再会に大きな青い眸を驚きと喜びの色で飾った。

「アーレスさんじゃないですか☆ お久しぶりなのですよ。こんな所で会うなんて、奇遇なのですよ〜」

 巷で話題の、《白い妖精》――
 見つけた者に素敵な出会いを約束してくれるのだとか‥‥決して、何かを焦っているワケではないのだけれど‥‥何故か無視できない吸引力持つ話題に、思わずぴくりと耳を欹てたりょうとジークリンデを巻き込んで。
 聖なる夜へと連なるお伽噺は、秘められし遣者のノックの音に幕開く。


●妖精を探しに
 太陽は既に天頂にあるというのに、大気は温む気配がない。
 雲の影さえ見えぬ鮮やかに晴れた蒼天の真ん中で淡く輝く硝子玉のような光球を見上げた統真と、彼の陣羽織から顔だけ出して主に倣った氷桜に、フェルルはくすりと微笑んだ。

「雪が降るかもしれませんね」

 こんなに晴れているのに。
 フェルルの言葉を疑うワケではないけれど。――統真の眼に映る空の色は、どう見上げても快晴で。――悪戯っぽい笑みを浮かべた主人と、ちょっぴり眉を顰めたその恋人を交互に眺め迅鷹は小さく首を傾げる。
 只でさえ、石造りの街を包む底冷えは半端ないのに‥‥これ以上の寒気は、正直、御免こうむりたい。そう異議申し立てをしたい想いはあるのだが、ことジルベリアに関してはフェルルに一日の長があった。
 気の効いた切り返しを思案する統真の年齢より幾らか幼く見える容貌を横切る様々な表情の片鱗に、フェルルはくすくすやわらかな笑声を響かせる。――そして、負けん気の強い恋人が本気で機嫌を損ねる前に、街の一郭を指差した。

「統真さんっ、あの飾り何だか知ってます?」

 建物の扉や窓、店先を飾る色鮮やかな装飾。
 言われてみれば、前回、ジェレゾを訪れた時にはなかったような。――請け負った依頼を解決するのが最優先で、ただ通り過ぎただけの記憶だけれど――注連飾りに似ているが、もっと華やかで賑々しい。

「冬のジルベリアは寒くって厳しい印象が強いですけど、この時期の街には雪の白以外にも飾りが色とりどりでとっても華やかになるんです」

 ジルベリアに暮らす人々が、春と同じくらい心待ちにしているお祭りは、雪の季節にやってくる。天儀とは明らかに異なる街の誘惑に、氷桜はもっと眸を凝らそうと統真の陣羽織より身を乗り出した。途端、

「妖精、いた!」
「ええっ!? どこっ、どこにいるですのっ!!?」

 流行りものなら、氷桜だって是非見ておきたい。
 慌ててきょろきょろ周囲を見回すも、何故か自分――正しくは、氷桜を陣羽織に抱いた主人――が、わらわらと集まった子供たちに取り囲まれているではないか。

「え、え、ええぇ?? 私は確かに白い服ですけど、妖精ではないですの〜〜〜!!」
「‥‥ちょ‥‥ま‥て、落ち着けっ!!」

 可愛らしい恋人を射止めたのは、主人の甲斐性。もちろん、朋友として応援はしたけれど。陣羽織の中でわたわた慌てる氷桜に振り回される統真に、子供たちの興味はいっそう盛り上がる。
 人妖の存在を知る志郎やアイリスの助けで誤解は解けたが、恋人たちの甘いムードを払拭する、とんだ横槍。氷桜には災難だったが、白い妖精の話題にフェルルは眸を輝かせる。
 きらきらと輝く光が白い妖精の徴なのだとすれば――

「統真さんっ、もしかしたら噂の妖精に会えるかもしれませんよっ! ほら、サンちゃんも氷桜ちゃんも一緒に探そ」

 もう少し二人の時間を楽しみたい統真と寒さに億劫な迅鷲を促して、妖精捜査隊への参加に手を挙げる。嬉々として子供の輪に飛び込むには少しばかり抵抗のある統真の視線に、志郎は小さく笑って肩をすくめた。

『志郎! 今日はジルベリア料理を食べ尽くす約束だったぞ』
「それは、また後で。‥‥ほら、シーラさんのお店も休憩時間のようですし。いや、残念だな〜」

 話が違う!
 と、息巻く雪待の抗議を受け流し、エプロンを外し露店から出てきたシーラに軽く目配せ。
 志郎の意を汲み、「ごめんなさいね」と素早く口裏を合わせて微笑んで見せたシーラよりふわりと漂うバターと香料の甘い香りに、管狐は恨めしげに鼻を鳴らした。

「アイリスは、妖精さんは絶対居ると思うですよ」

 しふしふ鳴くかどうかは別として。
 開拓者として一歩先んじた年長者を見上げる眩しげな視線に誇らしく胸を張り、アイリスは物知り顔で頷いた。天儀で流行の話題だが、白い妖精にはジルベリアの景色が良く似合う。

「妖精さんを見つけると、幸せになれるらしいですし、アイリスも見つけたいのですよ」
「そういうことなら‥‥よし、手伝おう」

 温かい煮込み料理は、それだけでも十分魅力的だが。ひとつの糧を分け合える相手がいれば、尚‥‥腹どころか、胸まで満たしてくれるはず。
 即断即決は武人の本領。お手本のようなりょうの英断(?)に、ジークリンデも心の中で午後の予定を書きかえる。妖精を探してムニンと一緒に街を歩いてみるのも悪くない。――ふっかふかの銀の毛皮が自慢の甘えん坊の管狐と一緒なら、冬のジェレゾもきっと寒くないから。

「よーし! みんなで町を探検して妖精見つけ出そう!!」

 宝珠を填め込んだ箒を掲げ元気に「妖精捜索隊」の結成を宣言したリィムナの音頭に、アイリスとアーレス、そして子供たちも倣って拳を空に突き上げた。


●雪月の街角で
 楽しげに跳ねる子供たちの温もりは、冷え切った石造りの街を笑顔の花で彩った。
 先頭を行くのは、リィムナ。――ジェレゾの生まれではないけれど、以前に受けた依頼のお陰でこの街の地理にはちょっと詳しい。――統真の腕を引っ張るフェルルと、睦まじい恋人たちの様子がちらちら気になるりょうは少し遅れて。聖夜に向けて華やぎを増す街には、ついつい目移りしたくなる誘惑もたくさん。
 優雅に街を歩くジークリンデに甘えるムニン。志郎の襟を暖める雪待は、良い匂いのする屋台を見かける度に、立ち止まるよう切々と囁く。管狐にも其々、個性があるようだ。

「アイリスちゃん、そっちは行き止まり〜」
「‥‥‥‥」

 方向音痴な主人の為に正しい道を選んでくれる雪の如く白い駿龍は、港にてお留守番。
 滑空艇−オランジュ−も冬備えのメンテナンスを受けながら、アイリスの柚木と共にシーラの帰りを待っている。さすがに今の季節のジルベリアにて、肌に風を感じたいと望む豪の者はいなかった。

「うーん、妖精見つからないなー」
「どこに隠れちゃったのかなぁ」

 街を歩くこと数時間。
 気がつけば朱金に染まった太陽は、西の空へと移動している。――家路へと急いでいるのか、通りを行き交う通行人の足取りも心なしか忙しない。気温も少し下がったようだ。

「ほう。今の時期だけ‥‥ぷんしゅ‥‥ぐりゅーわいんとはまた違うのだな‥‥」

 目に付いた屋台の謳いに興味と実益の双方を満足させるべく、りょうは差しだされた温かな陶製のカップに財布の紐を少し弛める。

「優しい気持ち、幸せな気持ちに惹かれているのではないかと考えていたのですけれど‥‥」

 湯気の立つプンシュのコップを受け取って思案気に小首を傾げたジークリンデの呟きに、リキュールと柑橘の果実、香辛料の混じり合った温かい飲み物を朋友と分け合っていた志郎は、口許に小さな笑みを刷いて彼女を労う。――ほんの少し緩慢になった皆の意識に活を入れたのは、リィムナだった。

「そうだ! お伽話だと、妖精と魔女って一緒に出て来る時あるよね? 伝承でも、魔女の集会に妖精が来る、っていうのあるし!!」

 ひらめいた!
 迅鷹・サジタリオの《友なる翼》で彼の朋友と同化したリィムナの背中には、光の翼。
 身を包むのは艶やかな漆黒のドレス《ナイトウィッチ》、手には宝珠のきらめく魔法の箒。黒いマントに三角帽子は、ハロウィンで席捲した、アレ。――得意気にその場でくるりと回って見せるのは、どこから見ても《なりきり魔女》。

「じゃーん! 美少女ウィッチ・リィムナちゃん誕生ー!」

 《ホーリーコート》まで発動し、箒に跨って空を飛ぶ。
 驚きと憧憬と――ちょっぴり呆れが混じっていたような気もするけれど――見上げる者たちの注目を一身に受けて、美少女ウィッチはご満悦。

「いやー、これ一度やってみたかったんだよね! 白い妖精さーん! あなたの仲間の魔女だよー!!」

 吹きつける北風が凍り付くほど冷たくなければ、超ゴキゲンだったのに。

「さっむ――――――い!!」

 さもありなん。
 王宮の尖塔にて翻る帝国旗に上空を駆ける風精の勢いを推し量り、りょうはそっと瞼を閉じた。

「‥‥だ、大丈夫でしょうか‥‥ひゃあ‥っ?!」

 失速するリィムナを心配そうに見上げたフェルルは、唐突に頬に触れた温もりに思わず悲鳴をあげる。――不意打ちとは卑怯なり。してやったりと満足気な恋人の表情に、怒りはどこかに飛んでしまったけれど。

「もうっ、統真さんったら!」
「普段は、色々と突然でこっちが驚かされたりするしな。そのお返し、ってことで」

 光満ちる異国の空の下、こちらもいつもより積極的であるようだ。いつも以上に仲の良さげな主人を前に、人妖と迅鷲は顔を見合わせて首をすくめる。
 そして――
 厳かな鐘の音がお伽噺のように世界を揺らせた。

「おや。もうこんな時間ですね」
「アーレスさんはそろそろ帰らないと。――お家の人がきっと心配しているですよ」

 言い難そうに。
 それでも、毅然と――楽しい時間に終りがあることを告げるのは、良識ある大人の役目なのだから――鐘の音を響かせる時計塔を見上げて、志郎の言を継いだアイリスは終幕を提示する。
 抗議の声は自らを律する厳格さを取り戻したりょうの風格に、発せられる前に立ち消えた。

「妖精を見つけることができなかったのは残念ですけど。‥‥あら‥?」

 降り注ぐ鐘の音と共に、ふうわりと白い風花が空を舞う。
 ゆるやかに夕陽へと変わりつつある陽光にきらめきながら、ふわり、ふわりと。

「‥‥雪‥か‥‥」

 なるほど、冷え込むワケだ。
 ふるりと身震いした志郎を気遣うように雪待は、自慢の尻尾でそっと主人を包み込む。

「そうね、ブリヌイを焼いてあげるわ。――紅茶と焼きたてのお菓子。食べ終わったら家に帰るのよ?」
「アイリスが送って行くですよ」

 街を歩き回って、ちょうど小腹も減る頃合いだ。
 シーラの提案に否を唱える声はない。瀟洒な広場へと戻る石畳の道を歩きながら、ジークリンデはつと顎を上げてきらめく風花が舞う空を見上げる。
 出会いをもたらすという白い妖精。
 単純に邂逅と言うならば、このひと時も当てはまるのかもしれない。

 玲瓏と鐘が鳴る。
 聖なる日を迎えんと華やぎ満ちる街に、届けられた福音を報せる鐘が――