|
■オープニング本文 草木も眠るなんとやら、今まで静けさだけが支配していた街に突如として声が聞こえた。 命を賭して知らせた、生命の終止符を打つ声。 人はそれを断末魔と言う。 今一匹の走龍が、その命を散らした。 「いたぞ、走龍キラーめ!!」 誰かが逃げ去る音、同時にそれを追う警邏の足音と声が続く。しかし警邏達の足音はあっという間に逃亡者から聞こえなくなり、やがて背中から生えた翼で飛行し、悠々と街から消失した。警邏たちは苦々しげに、ただ塀を手持ちの提灯で照らすばかり。 だがその時逃亡者は気付かなかった。すぐ傍らの木に佇むものがいたこと、そしてその者が一枚の大きな羽根を拾ったことを…… ●依頼者と協力者 場所は北面に属し、源繋と言う。生物を扱った商業にて発展した街で、それだけに生物の重要性も良く心得ている。 この街を統括する若き地主、高戸 賢吏は客室に開拓者達を招き、こう話を始めた。 「ここ数ヶ月、走龍が殺される事件が多発している。それがつい先日もだ、警邏では手に終えなくてな、どうやら志体持ちの可能性がある」 走龍とは、地面を走ることに長けた龍のことで、獰猛な性格でも有名だが、主にアル=カマルやジルベリアで多く見られる。 ソファーに腰掛けながら、悔しげに顔を俯ける賢吏。走龍ばかりを狙う殺人ならぬ、殺龍犯・通称『走龍キラー』と巷では呼ばれている。 「そこできみたちに、調べて貰いたいんだ。彼と協力してな」 開拓者、そして賢吏その他にもう一人ここには居た。その人はシノビらしからぬ程に、気だるげで煙管を吹かしてから机において、微笑を浮かべた。 「拙者は阿尾、ただのしがない情報屋です。以後よろしくお願いしますね」 ●灰色の人 賢吏は説明を始めた。阿尾は度々生物の生息地域などの情報提供をする関係で知り合いであった。そしてこうも、付け加える。 「情報は確かなものだ、情報はな」 本人の目の前で言いますか、と言う阿尾の乾いた笑いと言葉は無論無視だ。 続いて阿尾は懐から、一枚の羽を机に置いた。その大きさはちょっとした小刀な程はあり、色は黒と赤茶と白の混じった三色。阿尾は続けて話す。この羽の落ちたすぐ場所で、背中に光を放つ羽の生えた人物を見た、と。 「月夜でもありませんでしたから、暗くて殆んど見えませんでしたが」 勘がよい人はお分かりだろう。相手は迅鷹系の相棒を持っている、光る羽はその同化した際の技だからだ。 「そして飛んでいった方向、から条件に当てはまる人物が一人浮かび上がりました」 阿尾は纏めた情報を羊皮紙数枚にして、開拓者達に渡した。 そこには見た目30代くらいの、一人の女性の名前と特徴が記されていた。 名前はメアリー・ブロド、金色の髪を持つアル=カマル出身のエルフで、元開拓者の弓術士だ。何故開拓者を止めたか、その理由は記されてないが、過去に娘を野生の走龍に噛み殺された過去を持つそうだ。今は翡翠山という場所で、山守をしている。 「尤も、確証はありませんよ。いくら私怨という、動機はありえど」 「だが、走龍の殺害方法は弓矢による、一撃のみ……一致はしている」 尤もこの情報はまだ公には、していないがと賢吏は付け加えた。 「もしも、何か欲しい情報があれば拙者が請け負いますよ。当然対価はいただきますが」 いくらか、と聞けば阿尾は笑顔で『お気持ちで』とだけ応える。 「俺が代わりに払う、はできないぞ」 「当然です。情報とは必要としている方こそが、受けとるものですよ」 賢吏自身は払う気はあっても、阿尾はその辺り一切妥協をしない。阿尾なりの情報屋の誇り、なのだろうと賢吏はそれについて考えるのをやめて、開拓者へと向き直り口を開く。 「なんとしても、カワイイカワイイ走龍たん殺害の犯人を見つけて欲しい!そのために俺は全面的に協力します」 この事件により、走龍を飼う人々は日々恐怖にかられているという…… |
■参加者一覧
アムルタート(ib6632)
16歳・女・ジ
霧雁(ib6739)
30歳・男・シ
クアンタ(ib6808)
22歳・女・砂
シリーン=サマン(ib8529)
18歳・女・砂
ディヤー・アル=バクル(ib8530)
11歳・男・砂 |
■リプレイ本文 先ずはとばかりに、皆で更に詳しい情報を賢吏に聞くことにした。 「今のところだが、被害にあった走龍は全て商家から出ている。小屋には入らず、格子越しからの一発で仕留めてな」 賢吏の言葉を一つ一つ、書き留めていくのは霧雁(ib6739)。そして気になっていたことを賢吏に聞き返した。 「阿尾殿が発見した羽根は、本当に迅鷹のものでござるか?」 霧雁はもし同化による光の羽根、ならば物体として残るはずはない。そこから、もしや警邏と阿尾が見た目撃者は違うのではないか、とそう考えていた。 「いいや。俺も確認させて貰ったが、間違いない迅鷹の羽根だ。しかも上位のな」 生物の知識人なら、自分の右にでるものはないと賢吏は豪語した。 「拙者が見たのは、実際は外套と頭巾の後ろ姿故多くは語れません。ですが、長い耳は見えましたね」 その時に人工的な明かりは、全く確認してなかったという。 これ以上の情報は、やはり現場に行かなければ難しそうだ。加えて、賢吏はこう付け加えた。翡翠山へ行くには、それなりに時間をかける。急いでも、今から出て、帰りは夕方くらいになるだろうと告げた。 「そうなの、なら私はディヤー様と残るわ。シリーン、そっちはよろしくね」 「わかったわ。坊ちゃん、お風邪など召されないようお気をつけを」 そう言うシリーン=サマン(ib8529)に 、クアンタ(ib6808)は自らが山に行った際、もしメアリーにあったら聞き出したかったことを伝えた。 「ん〜事件現場とかも気になるけど、しょうがないよね〜。 よっし! 頑張って聞いてこよ♪」 何とも楽観的な口調は、アムルタート(ib6632)だ。麓の村へも行くことを決定的して、いの一番に源繋を出た。 ●お気持ち 真っ先に外出をした、アムルタートとは別に霧雁とシリーンと、クアンタはそれぞれ阿尾に情報料を渡した。 「私は、アル=カマルでにおいて馬・龍を駆っていた部族の末で、半分家族として過ごしておりましたので」 特に砂迅騎の三人は、同じ砂漠に住む走龍には特別な思い入れがある。今回の事件は是非とも、解決をめざしたい。 阿尾が金を受け取った後に、腰の物を外す。ディヤー・アル=バクル(ib8530)は言う。自分は従者に財布を握られているため、動かせない。だから、と腰の短剣──盟約のジャンビーヤを手渡した。 「それで調べて欲しい。メアリー・ブロド殿の『無実』を」 「あらあら、困りましたわね……」 阿尾は確かに、そう言いながら。短剣を懐に大切にしまった。 「貴殿らのお気持ち、然と受け取りました。然れども、拙者はあくまで情報を提供するのみ」 推理は出来ない、そう暗にディヤーに伝えた。その事に感づいたように、無論本当に無実を証明したい訳ではないと、語る。 「ただ、もし、余が走龍で二人を失ったら……そう考えたからじゃ」 もし沢山の物に支えられて生きたならば、復讐なんてことは先ず考えないのではないか。 「ディヤー様……」 「……それは一概には言えない、とも言えますよ」 「……無論、人の心は測れぬ」 だからこそ、折角の縁だけに力になりたいと、屈託ない笑みを浮かべた。 「道理で。拙者はメアリー殿の過去に関する情報を、出来るだけ集めると致しましょう」 それでは正午にまた、と何処かへ行ってしまった。 そして、シリーンも遅れて山の麓の村へ行き。残ったのは、クアンタ・霧雁・ディヤー、そして賢吏だった。 「では、頼むよ。現在被害は商家だけだが、これから一般人に被害が及ばないとは限らないからな」 「よし! クアンタ後は頼んだ。余はその辺り、さんぽしてくる」 「ディヤー様、堂々とサボらないで下さい!」 (「先の感動的なやり取りは一体……」) ●現場検証 クアンタ達は今回走龍が、殺された龍舎へと訪れていた。警邏達は既に調査を終えて、外で待っていた。 部屋には何匹かの白や黄色の走龍が、横たえてあった。 クアンタとディヤーは更に近付いて、走龍の死体を詳しく見る。死因は恐らく喉への一撃だろう。それ以外に傷は見当たらない。 「矢による一撃なら、相当な手練じゃの。矢なら、の」 確かに遺体のかたわらには、死んだ数とおなじだけの弓矢が置かれていた。しかし、鏃の形が通常と少し違う事に、クアンタは気付いた。 通常の平刃とは違う、突き通しを目的としたものだろうと、彼女は予測した。 「せめて、苦痛のないように……なんて所か」 一方で、ディヤーの調べていた格子には矢尻などによる傷は全くない。格子のすぐ側で矢を射た、と言うことでは無いらしい。 「ふむ……やはり、夜目でも利かなければ無理じゃな」 その時、走龍の鳴き声が部屋に響く。それもそのはず、走龍キラーがうち漏らしたかわからないがまだ何匹も走龍は生き残っていた。 「仲間がいなくて、悲しいのかえ?」 鳴き声をあげた、白い鱗の走龍にディヤーは優しく問いかけた。 龍舎の出入り口では、霧雁が警邏達から色々と聞き出していた。それによれば、彼等が目撃者したのもまた、外套と頭巾。後は弓矢があることだった。 黒も白も定まらない答えに、霧雁が悩んでいると二人の人間が警邏へと話しかけてきた。 「あのー、まだ終わらないですか?」 「あー、楓屋の主人。もう少しで、完了致します」 不思議な表情を見せる霧雁に、警邏は答える。今回被害を受けた、楓屋の店主と召しかかえの調教師だ。霧雁に気付けば、丁寧に会釈をした。霧雁も事情を話す。 「流石領主様です。ですが、なるべく早めに荷を運べないので」 「ん、あの走龍は、商品じゃないのでござるか?」 その言葉に、店主はこう応えた。 「はい。あれは、積み荷を引くために飼っていまして……」 店主の説明を要約すると、走龍を馬の代わりに荷引きに使っている。走龍は自衛することが出来るため、一部商家で使われている方法だ。それに加えて源繋は、生物により発展した街。そのため、走龍に関してもそれなりに待遇がある。 「まぁ、行きはヨイヨイ帰りはコワいのですがね」 (「?」) 「高戸様が、素晴らしいと言うことさ」 「おや、どうならキミの所も射られたかね」 「これは、これは杉屋の旦那。ええ、それでご相談が……」 笑顔で受け答える楓屋の店主に、こっちへ近づく杉屋の店主もまた変わらぬ笑顔で答える。 「えー、えー、困った時はお互い様。走龍は貸し出しますよ」 「……………」 感謝の意を態度で見せる、楓屋の店主だが。それと違い、調教師の方はあからさまな敵意。詳しい話は向こうでと、去っていった。 一体何だったのだろう。そうは思いながらも、龍舎を抜けたクアンタとディヤーと合流をし、源繋の街中の噂話を聞きに行くのであった。 ●情報整理 三人は街の噂を聞いた後、近くの甘味処に入った。猫や犬が沢山いる中で、ディヤーは蕨餅を食し、二人の情報を纏めを聞いていた。 「襲撃の間隔は疎ら。今回は数週間空いていたみたいだな」 「最初の事件は半年前。巷では商家ばかりが狙われたのもの禍根かとも、でござる」 心なしか、二人とも少し疲れ気味だ。それと言うのも、関係無い噂も沢山聞いた為だ。術技により操られた走龍が殺し合ったとか、コードさんは生物に詳しくては良く相談に乗ってくれる等々…… 「その人なら、余も話を聞いたのう。が、コードさんとは何者じゃ?」 「貴殿らに依頼した、賢吏殿のことですよ」 それが何故か、ディヤーはそれを聞くよりも前に声の主に驚いた。 「阿尾! 場所教えたか?」 クアンタの質問に、阿尾は一服しながら応える。 「まがりなりにも、情報屋ですから。メアリー殿の履歴でしたね 」 阿尾は手に入れた情報を読み上げていく。メアリー・ブロド。三十二歳、女性、開拓者になった理由は当初は生きるため、であった。仲間、と言っても一人での行動が多かったらしい。 「相当この頃から強いと、特に聴覚は抜群で夜の砂漠で、遠くのアヤカシの足音を見分けて足を射ったこともあるとか」 「なるほどのう、夜目が無くとも正確に射抜いたのはそのためか」 視覚より、聴覚の利用。明かりが見あたらなかったのもそれが理由だろう。 「んー、ならば阿尾さんが実は夜目を使い、詳細を隠したワケではないのでござるか」 「霧雁殿は拙者が一味か何かであると、思っていたワケですか」 あ、いや。とつい口から飛び出た言葉にしどろもどろする霧雁に、慣れてますからと一言。次の話題へ。 クアンタが特に聞きたがっていた、メアリーと娘の事件についてであった。が、阿尾の表情が取り繕うほどの笑顔だ。 「……どうも、メアリー殿は特殊な思考の持ち主みたいですね」 考え方が特殊、我々は世界に生かされているのだから世界に従うべき。そんな考えの持ち主らしい。 「実際娘が、事故死した直後も『縄張りに入ったヤツが悪い』と、死ぬことを当たり前と言ったみたいです」 「では、野生の走龍による事故……に間違いないな」 突然の言葉に理解が追い付かないと、クアンタはフードの中の耳を立たせつつ聞いた。阿尾は赤で語っても良いほどです、と肯定した。その後何年か後に開拓者を辞めたので、どうやら直接的要因では無さそうだ。とも、話す。 「ん? 復讐が原因なら、この事件変じゃの」 ディヤーの言うとおりであった。走龍を殺すのは復讐であったならば、こんな理知的な考えには至らない筈だ。 「では、やはり彼女が犯人ではないのでござらぬか?」 「家族は夫と娘二人、但し夫は他界。娘は家出したらしいです。そして、確かに迅鷹は開拓者時代からいたと」 羽根の色も一致、以上です。この情報はもう鳥にて麓の村にも送りました、と甘味の注文を取りながら阿尾は言い終えた。 これで、自分達の出来うることはやり終えた。後は翡翠山に向かう彼らを待つしか無かった。 「あ、蕨餅おかわり。黒蜜多めでな」 「ディヤー様!」 ●救世主 麓の村へと訪れたアムルタート。村は村なりの賑わいは見せるが、酒場などの施設はない。そこでアムルタートは、村長の家でと話を試みた。 「こんにちは! 私ジプシーのアムルタートって言うの! よろしくね♪」 アムルタートは簡潔に、今度仲間と一緒に翡翠山に登るから地図でもないだろうかと聞く。 ヴィヌ・イシュタルと清々しい笑顔で、彼女に抜かりはない。 「あの、山にかえ? 確かにアヤカシは少ないが……地図ならホレ」 意外にあっさりと、村長は地図を手渡ししてくれた。しかし、アムルタートが地図に目を落とすと、中腹辺りで途切れている。 「それより、先は危険なこともあって未開でな。まぁ、危険な場所は山守のメアリーさんが警告してくれる」 尋ねるより先に聞こえた名前へ、アムルタートはオウム返しに呟き、口を開いた。 「山守さんがいるんだ! どんな人なの〜?」 村長は大層穏やかな顔でこう言った。 彼女は、私たちの命の恩人だ。もし会いたいなら、あげた地図に小屋の場所が書いてある。村長が言うと、アムルタートはお礼を言いながら地図に書き物をしつつ、懐にしまった。 戸を小さく叩き、おっとりした声にアムルタートはそれがシリーンその人と知り。村長に別れを告げ、戸を開いた。 「あ! やっほ〜来たんだ〜♪ これ渡しとくね」 そう小声で応えれば、シリーンに地図の隅を見せる。そこには今し方、村長より聞いた情報が記されていた。 シリーンと合流した、アムルタートは他に情報は手には入らないものかと、井戸を探してみた。案の定奥様方や、子供の遊び場と化していた。アムルタートは先の要領と変わらず、雑談に混じった。 「あの翡翠山の由来はね、翡翠色の体を持つ特別な走龍がいるからなのさ」 「翡翠色……きっと、美しいのでしょうね」 アル=カマルでは、まず見かけないその種にシリーンは素直な感想を述べた。 「けど野生だからね。この前なんて、山から村に降りてきて大変よ」 「あー半年前のね。メアリーさんがいなかったら、死人でたね、アレ」 「今まで、無かったのにねー」 「マジで!? 怖いな〜。本当に困ったら言ってね? 力になっちゃうから!」 と身を翻し踊りながら手を振り、アムルタートは別れた。 情報を整理していれば、バダドサイトを終止使っていたシリーンは上空に鳥を発見し、アムルタートに教えた。 「え〜! まさか、迅鷹じゃないよね」 「いいえ、烏のような……あ、此方に来まし──」 「シリーン! 前!」 近くがあまり見えていない、シリーンは危うく鳥と正面衝突。そしてそれが、阿尾が放った鳥で、メアリーの過去の情報も纏めた文が着けてあった。 「う〜ん。身内に厳しくて、他人に優しい人かな〜」 「氏族の掟……?」 あまりにも、村で聞いた印象と文が異なり彼女達は頭を痛める。 こうして、村での準備を終えたシリーンは一人翡翠山へと向かう。 ●邂逅 シリーンは地図を手に、翡翠山を進み山小屋の前まで辿り着いた。予め、魔槍砲を備えていたがここまで必要としなかった。だが、それは逆に彼女の不安を駆り立てた。遠くの景色を認識し、小動物すら確認出来る自分が、ここまで一匹も動物を見ていなかった。山は傾斜もなだらか緑も豊富、生物が住むのに適した環境だろう。 「すみません、メアリー様はおりますか?」 扉を叩き、また一叩きしたが、どうやら留守のようであった。シリーンの目的はメアリーに話を聞くことだと、更に山の奥へと歩を進めた。 地図を見ながら中腹を過ぎてすぐ、シリーンは気付く事になった。 木の枝とは、明らかに違うそれを不幸にも彼女は踏み砕き。 響く大きな音、驚くシリーン。だが彼女に確認の隙を与えず、彼女の足元に矢が突き刺さっていた。 ……耳が良ければ、そりゃ気付かれる。 「警告だ。二度目はない、去れ」 目の前には金髪のエルフが、シリーンに向けて矢を構えている。 「山守のメアリー様、ですね。源繋の件でお話があります」 それだけ、のシーリンの言葉に頷く。 「身共が走龍キラーか、そうだと言えば貴様はどうとする」 語気を荒げていない。それはシリーンも変わらず、だが心中はざわく。恐らく偽りは多く通じない、シリーンは魔槍砲の先端を下ろし真意を語った。 「私はあなたが復讐のために、走龍を殺したとは思えません」 何か理由があるのでは、そう告げてから数秒、メアリーは言う。 「結構。だが、身共はまだ止めるわけにも、捕まるわけにもいかない」 そのままメアリーは、背を向いて奥へと消え去っていく。シリーンはただ、歩むこともせず、ただ見つめた…… やがて、シリーンは山を降りてアムルタートと共に源繋にて全員が合流した。 皆が皆、賢吏に大して情報を渡した。彼本人も彼女の対処法に悩むことになりそうだ。 「また、頼むかも知れないな」 余談だが、ディヤーの短剣は返却された。阿尾曰わく。 「無実の証明は、出来ませんでしたから」と…… |