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■オープニング本文 ここは神楽の都のとある外れ。親から受け継いだ屋敷を一人もて余す老年、鴨弥 忠禅(iz0273)が住んでいる。 彼は、商家鴨屋の元二代目で現在は隠居し、趣味で陰陽術同好会をひらいていた。 この同好会は道楽を出ない程度と言えど、きっちり陰陽道のイロハは心得ていたりする。 今回は、蔵の中にある書物の虫干しの手伝いを、開拓者達に依頼。 照りつける日光、和紙が飛ばない程のそよ風は実に心地よい。庭で干していた本の中身を開拓者達が綴じる。 その様子を、一人縁側で沢庵かじりつつ眺めるものが居た。彼の名は、ラディ。 又の名をジャックオランタン(蕪型)と言う。 とある陰陽師の相棒(ただし無理矢理、そして相手は認めてない)であるが、その相手は別の依頼へ出掛けていて、ラディはこの屋敷で留守番していた。 「NODOKAだな〜」 今回はこんな暢気なカブお化けによる、ひと騒動のお話です。 ●両手のもの 日中を過ぎて、漸く日が陰って来た頃。虫干しも終わり、紐で綴じて、後は蔵に本を戻すのみとなった時だ。 「ラディや、準備しておいた冷やし飴を開拓者様へ出してくれないかな」 「お安いご用!」 そう言ってふよふよ、ラディが浮遊していた。その時であった。突如庭に一人の少女が現れたのだ。 要するに不法侵入なわけだが、彼女の態度はそれを微塵も感じさせないが如くの不遜さ。 「見つけたわよ、切り裂き魔!」 「ゲゲッ! またでた」 疑問符を浮かべる人々の中、ラディだけがその意味を知っているらしく、くり貫かれた蕪の口元(穴)からもうんざり具合が感じ取れる。 「だから、GOKAIだってば!」 「お黙り! ねえ様の仇、今こそ取らせて貰うわよ」 「うわぁぁぁ〜!!」 ラディはそのまま部屋の奥に引っ込んだ。そして彼女は追おうと歩を進めると立ちはだかる開拓者達。 別名、状況が飲み込めず、ただ突っ立っていただけ。 「く、あの切り裂き魔を庇うの!?」 と、こっちの話など聞く耳持たず、取り出すヌンチャク。 「こうなったら、行くわよカリン!!」 よく見れば、傍らには相棒と思わしき天火燐が出現した。話し合いも出来そうにない。どうやら、戦わなければならないらしい。 「あの開拓者様。それ、勿論燃やしたら弁償いただきますよ」 それとは無論。 今『開拓者全員が運ばんと両手に抱えた平積みの書物』の事である。 騒ぐ少女の声を背後に受け、箪笥の陰でラディは肩を落とした。 「もうここにハ、いられないだろな」 |
■参加者一覧
リィムナ・ピサレット(ib5201)
10歳・女・魔
フランヴェル・ギーベリ(ib5897)
20歳・女・サ
雁久良 霧依(ib9706)
23歳・女・魔
サライ・バトゥール(ic1447)
12歳・男・シ |
■リプレイ本文 忠禅は一般人だ。確かに他の者より陰陽道に詳しく、人生経験も豊富だが、それでもただの一般人だ。 今なぜ、開拓者達が少女と火の玉に襲われているのか、そして居候の精霊が逃げたのか、何もわからない。 「いやはや……どうなっているのかな?」 彼はまんじりともせず、その様子を見守る。いや、忠禅にはそれしか出来ないのであった。 ●緊急避難 開拓者達は『もしも』の時に備えて装備を整え、移動を制限されない程度の本を抱えていた。 特にこの屋敷にて、蠢く雑草や歩く蕪お化けに遭遇していたリィムナ・ピサレット(ib5201)、フランヴェル・ギーベリ(ib5897)、雁久良 霧依(ib9706)はそれを良く知っている。 「てい、やぁ!」 少女が地面に踵と振り下ろし、天火燐が身を捻り回転を始めようとした瞬間。 「失礼します」 全てが停止した。動くのは、黒く長い耳を振り動かすサライ(ic1447)ただ一人。一目散に霧依へと向かい、彼女の本を自分の本に加える。そして至近距離で視認した霧依の胸元の膨らみに未練を持ちつつも、駆足で屋敷内へと本を運び終えた。 そして数秒後にサライは停まり、リィムナが動く。彼女も手早くフランヴェルから本を取り去り、同じく駆足で屋敷内に置く。リィムナが一瞬だけ屋内を一瞥するも、ラディの姿は見当たらない。 直後、彼女の背後にて地を揺らす衝撃音と、轟く業火の音が耳に突き刺さる。 軽い火傷を追いつつ煤を払うフランヴェルと、激痛に肩を押さえる霧依。志体持ちでありヒトだからこそ、この程度で済んだのだ。 紙なら黒こげだった。 「うわ、間一髪」 「これは、後で消さないとならないね」 「忠禅……落ち着いてるねー」 「私の日常ですので」 垣根に小火が出ているのに、手慣れた様子で冷静に呟く忠禅。これも年の功なのだろう、か? 「さーてと♪」 リィムナは、次の術技を自らに施すためお手製の片眼鏡に触れた。 「どすこおおおい!」 フランヴェルが咆哮、鬼腕を用いて天火燐を両腕で包み込むように抱く。出来れば彼だって少女の方が良いのだが、どう考えてもこっちの火の玉を止めないと危険な為だ。 (あぁ……ほんのり、あったかいや) フランヴェルを解こうと藻掻く天火燐だが、一向に外れはしない。 そして、心がシクシクなフランヴェルの背後には霧依。武器を杖に持ち替える暇も惜しいのか、片眼鏡から光が放たれる。称える妖艶な微笑み。目標である天火燐からは若干標準をずらし、放たれるブリザーストーム。 「ひょわぁぁぁ!!」 「フランさんなら平気でしょ♪」 吹雪が直撃するフランヴェル。だが、相変わらずの笑顔。 これも彼の実力、その他もろもろを知っているからこそ、霧依だって巻き込めるのだ。 「わ、わー! 見つかったー!」 縁側から聴こえた声に、少女は顔を向けた。そこにはわかりやすく、ラディがピョンピョンと跳ねていた。 「待ちなさい! ねえ様のうらみ、はらさでおくべきかー!」 「GO、GOKAIだよー!!」 正体は、ラ・オブリ・アビスを使ってラディに変身したリィムナだ。予想通り、自分へと少女が向かって走ってくる。 が、それを阻むように少女の正面には、顔を赤らめて視線を落とすサライの姿だ。 自分より年下の少女は殴れない。だからこその、この一手だ。夜春を使い、伏せがちな瞳に晒される褐色の鎖骨を見せ付け、彼は薔薇を片手に話しかける。もとい、口説く。 「乱暴な事は止めてください、美しい貴女にはヌンチャクよりこの薔薇の方が似合いますよ♪」 サライは精一杯な誘惑を放ち、微笑ましげな一笑を浮かべる。 しかし、肝心な少女に至っては…… バシッ ドガッ メぎッ 「うぐっ」 相手の行動の意味すら理解せず、ただがむしゃらに『障害物』へ向かって泰練気法・弐を放ち、サライの鳩尾をヌンチャクの柄で抉る。 「待ちなさい、切り裂き魔!」 そして、精神的な痛みにしゃがみこんだサライを完全無視して、瞬脚でリィムナの目の前に迫ったところで鋭い蹴りを放つ。だが、リィムナはマントを翻して華麗に避けた。 「せやー!!」 「ギギ〜……」 至近距離による天歌流星斬は、天火燐の炎突進に打ち勝った。フランヴェルは、屋敷の反対側に吹き飛び気絶した天火燐を、荒縄で素早く縛り上げる。フランヴェルは素手だったとはいえ、圧倒的な力量で天火燐を沈めた。 霧依はラ・リカルを自分と天火燐に施そうと、治療を行うべく杖を取り出す。その傍らでは屋敷の外に逃げるリィムナ。それを涙目で追う少女。 そしてサライが再度、夜を発動させて時間を静止させた。いかに泰拳士と言えど、この間は無防備である。 その際、少年はなぜかお尻に手を伸ばすが、残念ながらタイムアップ。彼女は妙な感覚を覚え、とっさにサライの手を掴む。 「妙なとこ狙う攻撃ね。油断も隙もないわ!」 「今がチャンスね」 霧依は彼女の背後で、細やかな手のひらを動かす。 「さて、少し静かにしてね♪」 一度のアムルリープは、無事少女にかかった。今は地べたで安らかな寝息を立てている…… ●真実 屋敷の消火も無事に終わり縁側から寝室に入ると、変身を解いたリィムナとフランヴェルが部屋を見回していた。 「おーいラディ。もう大丈夫だから、出てきなよ?」 彼女の声がしてから暫くして、透明だったラディが蕪の葉をシンナリさせながら出現した。 「あーー、ココも見つかっちまったなぁ」 「一体あの子猫ちゃんと何があったんだい? 誤解なら解いた方が良いと思うよ」 「それはこっちのSERIFUだ」とそのまま千枚漬けになりそうな勢いで、ラディは項垂れた。 ラディは、元々色々な町をぶらついて旅をしていたらしい。たどり着いたその町をその夜ものんびりカンテラ片手に浮遊していたらしい。 「そしたら大きなHIMEIがしてよー! ビックリして、カンテラ落として割っちゃってそのKAKERAを拾ってたら」 ――あなたね。ねえ様をその刃で血染めにした切り裂き魔は。 ――慈悲はないわ。覚悟なさい! 「で、どんだけ話してもDAME」 「えー……ラディなんもしてないよね」 話は続く。それからも、あの少女はずーっとラディを、親の仇の様に追いかけ回していたらしい。 「それできみは、いい加減うっとおしいから、この屋敷に身を隠したんだね」 こくり、と大きな頭を縦に動かした。前に訪ねた屋敷に、何とも気の弱そうな少年をいたのを思い出し、そのまま相棒と言う形に自分は無理くりおさまったのだ。 ほとぼりが冷めたら、屋敷を抜け出そう、ラディはそう考えていた……のだが。 「AIVOがほっとけなくなってなー」 そのまま、離れがたくなってしまったらしい。 「あの子だもんね」 「アイツにはNAISYOな?」 押しが弱く、口下手だがやるときはやる陰陽師の少年だったと、リィムナも知っていた。 「けど、おやっさんにMEIWAKUかけたし、これ以上ココにいられないかもな……」 「そっか、そういうことかぁ」 ほぼ同時刻。霧依とサライは、火の手が出てもすぐ消火できる井戸の近くで、少女からワケを聞くことにした。 「ねえ様の悲鳴。足を傷つけられたねえ様。アタシは通り抜けるマントの影を追ったの!」 「そしてアタシは見たの。あの邪悪なお化けが、満月に照らされた煌めく刃を携えているのを」 と、六角形に彩られた縄に縛られつつ、少女は熱烈にラディ遭遇の事件について語る。 「そういうことなのね」 パシン 「や、やめ」 「町で切り裂き魔が度々出現して、貴女のお姉さんも被害にあった、ということね?」 パシン 「ぴぎゃ!!」 「それで姿を追っていたら、あの子を見つけたのね」 パシンッッ 「ひゃぁ!」 それから少女は、ラディを切り裂き魔と決め付け、ずっと追っかけていたらしい。 因みにさっきから聴こえる音は、お仕置きの音。サライの歳のわりに引き締まった臀部を、霧依がひっぱたいてる音だ。 「痛いいい! ごめんなさい、もういやらしい事はしませええん!」 「……男の子のお尻もいいわね♪」 剥き出し状態を、少女に見られている羞恥心も混ざりながら、足がバタバタ空を走る。 サライは最後に使った夜でよからぬことを企んでいたのを、バッチリ霧依に目撃されたらしい。もしアムルリープが遅れたら、今頃は……彼女のお仕置きはしばらく続いた。 だが、相も変わらず少女は、何が原因でこんなことが起こっているのか、さっぱり意味がわからなかった。 ●約束 お互いの言い分を聞いた開拓者達は、縁側で合流することにした。また少女がラディに噛みつくかと思われたが、リィムナと忠禅が用意してくれた茶菓子のおかげか、わりとまったりとした時間が流れている。 本当はお酒でも少女に飲ませようかと思っていた霧依だが、流石に未成年なのでこれは断念する。 「ううっ……お尻が痛い……」 お仕置きはあの後も続いた。いつの間にか手の平が葱に変わり、サライはむず痒い痛みに、一人皆が座る中棒立ちしていた。臀部を擦るサライの姿に、リィムナもまた姉を思い浮かべて、更にその時の自分の姿を思い出し身震いする。 「切り裂き魔、か。悪しき存在なら討伐しなくちゃね♪」 話を聞いたフランヴェルは、焙じ茶啜りつつ呟く。要約すると、ラディが拾っていたガラスの破片を、偶然居合わせた少女が刃物と勘違い。そのまま訳も聞かず、ラディを切り裂き魔認定していたのだ。 「フランさんが言うと、何か妙ね?」 葱を携帯袋に戻しながら、笑みを浮かべ返す霧依に「なんでだろうね」と自分のことを棚上げ甚だしいフランヴェル。 「けど……もぐもぐ、そいつが切り裂き魔じゃない証拠もないわ」 「まだ言うのかよー」 そう凄む少女だが、栗饅頭頬張って言われても何ら説得力はない。 「ギルドに聞いてみるね。何かわかるかも」 そうリィムナが言うが、少女は納得はしていないと言いたげに、苦々しげな顔だ。また平行線か、と沈むラディ。 そこでフランヴェルはラディに助言を加えた。 「きみが事件を解決すれば良い、とボクは思うよ?」 いくら言葉で言っても、相手には通じない。ならば、実際に切り裂き魔の正体を見せれば自ずと誤解は解ける。そう、フランヴェルは助言した。「これなら、出ていかずとも済むね♪」とラディにだけ耳(あるかわからないが)打ちを付け加えて。 「そのHOHOがあったか!」 良いかな?と伺うように忠禅を顧みれば、にこやかに彼は頷いてくれた。 そして、改めるように霧依が少女と天火燐に笑顔でこう言う。 「私も、切り裂き魔を捕まえる手助けをするわよ。約束ね♪」 「だからもう追いかけちゃ、ダメよ」と少女の頭をやさしく撫でて諭す。 「……わかったわ」 頷く少女に、皆も漸く安堵の息をついたのであった。 「そう言えば、名前聞いてなかったぁ。何て言うの〜?」 「禰入藍羅(ねいり あいら)」 よろしくね!とリィムナも自己紹介を終えた。 「さて、お茶と冷やし飴のおかわりを持ってこようかな」 「あ、いいわよ忠禅さん。サライが持ってくるから」 「は、はい」 「それ終わったら、屋敷内の修理も全て、た・の・む・わ・ね?」 「……………ハイ」 霧依のエガオに、深く深ーーく反省をしたサライなのであった。 |