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■オープニング本文 右手に緑まぶしい山林を見ながら進む道は、馬車がようようすれ違えるだけの道幅だが、商業用として使われているため舗装もしっかりなされていた。この道はやがて陽天へ伸びる街道とぶつかる。 瓜介と磊々さまが乗った馬車はのんびりと進んでいた。もふら牧場まではもう一刻半、というところ。 瓜介の実家を出る際、父親が牧場主と磊々さまへの手土産に、瓶詰めしたばかりの野生蜜蜂のハチミツを持たせてくれた。 磊々さまはいたくお気に召したようである。 『……とれたての野生蜜蜂のハチミツ、旨かったのう。お世話係よ。みやげに貰うたこの一瓶はわらわ専用なのじゃから、他の者にやってはならぬぞえ』 「はい。それは磊々さまのハチミツですよ……なんなら、名前を貼っておきましょうか」 『おお、それは名案じゃ! 毎日ひと匙ずつ食すのじゃ』 うふふーと笑いながら、磊々さまは馬車の荷台をごろごろした。 やがて、街道の辻にさしかかろうというころ、道端に屋台が出ているのが見えた。陽天から来たのか、陽天へ行くのか……こんなところに店を出しているのも珍しい。 それを目ざとく見つけた磊々さまが身を乗り出した。 『おお? お世話係よ、ちと馬車を止めてたも!』 「これはこれは、もふらさま。いらっしゃいませ」 屋台の主は磊々さまを見て相好を崩す。 瓜介が馬車を止めて降りたときには、磊々さまは屋台の前に陣取って並べられている品々を楽しげに眺めていた。 飴玉や手ぬぐいなど食品雑貨、そのほか様々なものを扱っているらしい。その中に一抱えもありそうな大きな白い『もふらのぬいぐるみ』がでんと座っていた。 『ふおお。かわゆらしいのう! お世話係よ、これを買うてたも!』 「えっ」 磊々さまが珍しい『ツブラナヒトミ』と『オネダリ』を発動させている。ちなみに、磊々さまは『トッテコイ』という技は持っていない。その代わり、『トッテコサセル』という荒技を得意とする。 「磊々さま。私こんな大きなぬいぐるみが買えるお金なんて持ってませんよ……」 瓜介は困ったような顔をして磊々さまの『技』を受け流す。屋台の主も苦笑を浮かべていた。値札がついていないところをみると、大きなぬいぐるみは屋台の看板として置かれてあるものなのだろう。 その『もふらのぬいぐるみ』を、何となく手を伸ばして手に取った瓜介だったが…… 「わっ!」 叫んで、思わず放り出す。 磊々さまがその仕打ちを叱り飛ばそうとしたとき、放り出されたぬいぐるみがクルリと反転して立ち上がるや、いきなり瓜介に襲い掛かってくる。仰天して立ちすくむ自分の目の前に巨大な影が飛び込んできたと思ったときには、すでに吹っ飛ばされていた。 磊々さまが瓜介もろとも『モフラアタック』をくらわせたのである。 『これはわらわのお世話係じゃ!』 ひっくり返った瓜介はともかく、磊々さまとぬいぐるみはもふもふ同士で音もしないが、跳ね飛ばされたぬいぐるみから黒っぽい寒天のような塊がこぼれ落ち、ひょっ!と再びぬいぐるみに入った。 『こやつ、アヤカシか! あろうことか、わらわの似姿に憑くとは小癪な!』 ぬいぐるみに憑いたアヤカシは餌となる人間が数人いるのを惜しげに見やり、立ちはだかる巨大なもふらさまを睨む。だが、形勢不利と判断したのか身を翻すと陽天へ向かって走り出した。 『あっ、待ちや! 瓜介、あやつを追うのじゃ! 陽天へ紛れ込んでは事ぞ! よいか! 今は余計なことを考えるでないぞ!』 「は、はいっ!」 呆然としていた瓜介だったが、何が起きたのか把握できず、おろおろしている屋台の主を放っておいて馬車の御者台へ駆け上がる。そう、とにかく今はアヤカシを追わねば……。 走り始めた馬車の荷台へ、磊々さまは見事な身ごなしで飛び乗った。 アヤカシが憑いたぬいぐるみは、まるで煤でもかぶったように黒く変じている。遠くから見ると大きな煤玉が高速で転がっているようだ。 「どいてくださーい! っていうか、誰か、その黒いぬいぐるみを捕まえてくださーい!」 瓜介は馬車を走らせながら叫ぶ。通行人は避けるのが精一杯で、瓜介の言葉を聞き取る余裕もない。だが、すかさず磊々さまからダメ出しがでる。 『ばか者! ただの人にあれがどうこうできるものか!』 「す、すみませんっ!」 ガラガラと激しい音を立てて走る馬車の前方に、武装した人々が数人、陽天へ向かって歩いているのを磊々さまが発見した。 『瓜介! 止めるのじゃ!』 「ええっ!?」 後ろから磊々さまにのしかかられ、瓜介は慌てて手綱を引いて馬車を減速させる。完全に止まる頃には、磊々さまは武装した数人に向かって走っていた。 瓜介は磊々さまをちらちらと気にしながらも、黒いぬいぐるみが走っていく方向をしっかりと確認する。 『もし! そこな開拓者たちよ! ぬいぐるみに憑いたアヤカシを捕まえてたもれ!』 開拓者たちは磊々さまの訴えを聞き入れてくれたようだった。陽天に向かって走ろうとするのを瓜介が呼び止める。 「乗ってください! 飛ばします!」 そして、開拓者たちを乗せた馬車は陽天への道を疾走し始めた。 |
■参加者一覧
柚乃(ia0638)
17歳・女・巫
プレシア・ベルティーニ(ib3541)
18歳・女・陰
カメリア(ib5405)
31歳・女・砲
匂坂 尚哉(ib5766)
18歳・男・サ
玖雀(ib6816)
29歳・男・シ
落花(ib9561)
14歳・女・巫 |
■リプレイ本文 ● 「ふに〜……ふにっ?!」 まったりとお稲荷さんを食べながら歩いていた陰陽師プレシア・ベルティーニ(ib3541)はものすごい勢いで駆け抜けていった黒い塊に目を丸くした。 (あれってアヤカシかな〜?) ふにふにしながら首を傾げていると、今度は馬車が疾駆していく。その勢いに、隣を歩いていたシノビの玖雀(ib6816)も呆れたように見送った……が、それが急停止した。 馬車の荷台から巨大な淡藤色の塊が飛び降りてくる。 『もし! そこな開拓者たちよ! ぬいぐるみに憑いたアヤカシを捕まえてたもれ!』 街道を歩いていた開拓者たちは目を丸くした。 「あ。こんにちは。磊々さま」 巫女の柚乃(ia0638)は目を輝かせて挨拶する。傍らを歩いていた砲術士カメリア(ib5405)もおっとりと微笑んだ。 「あらぁ、磊々さま。今日も素敵にもふもふですねぇ♪」 『おお? 久しぶりじゃの、方々。あ、いやいや、それどころではないのじゃ」 磊々さまは見知った顔があったことに驚きつつ、簡単に事情を説明した。 「……ほむ、アヤカシです? それは大変なのです」 「え、アヤカシ?」 カメリアと柚乃は顔を見合わせ、こく、と頷く。 「ここで会ったが百年目……ってな。俺らが居合わせたのがアヤカシの運のつきってとこか」 匂坂尚哉(ib5766)は不敵ににやりと笑う。が、ちら、と磊々さまを見て心中呟いた。 (しかし、通りすがりに開拓者見つけて呼びつけるもふら様もなかなかみねぇな……) 「何かもふら様って喋るのも億劫そうにしてるイメージが……」 つらつら考えているうちに、思わず口に出してしまったらしい匂坂の言葉を、磊々さまが『耳ざとく』聞き取った。 『ほほほ。わらわをそこらのもふらと一緒にしてはいかぬぞえ、紫髪の開拓者よ。……む? 匂坂とな。よしなにのう』 (え。何それめんど……) たまたま彼らと一緒になっていたらしい落花(ib9561)は、彼らの背後で思わず頬を引き攣らせた。 「それじゃあ、今の内に何とかしないとだね〜!」 プレシアが元気に宣言し、開拓者たちはもふらのぬいぐるみが走っていった方に目をやっている。 (あれ? ……みんな行くの? ちょ、これ断ったら空気読めてない人……) どうにも他人の前では『普通のいい子』を演じてしまう落花は、うえぇぇ、と思いながら頷いていた。 「承知致しました。これも何かの縁にございます。私でよければお力添え致しませう」 「よし、とっとと済ませてしまおうか」 玖雀の一声で駆け出そうとした開拓者たちに、馬車の手綱をとっていた瓜介が叫んだ。 「乗ってください! 飛ばします!」 ● 陽天へ近づくほどに街道は人通りが多くなる。だが、陽天まではまだ遠く、小さく見えているのは街道沿いの村か。 瘴索結界を張り巡らせていた柚乃が声を上げた。 「いました。前方、まだ街道を走っています」 ほどなく、彼らの目にも煤玉のようなものが見えてきた。 「道をお開けください! 馬車が通ります!」 その間も、疾駆する馬車から落花が叫ぶ。開拓者たちの注意喚起に人々は慌てて避けつつ、何事だろうという顔で見送った。 「……そういや、今回は相方連れじゃねーんだな」 「……なんでだ?」 「いや。べつに」 何気なく訊いた匂坂へ、玖雀が目をぱちくりさせる。横へくっついていたプレシアの青い目が玖雀と匂坂をいったりきたりした。 安定がいいとはいえない馬車の荷台に、さぁて、と呟きながら匂坂が立ち上がり、傍らにいた磊々さまに笑った。 「ま、頼られた以上は力になってやんぜ…………『あっちこっち煤だらけにすんじゃねえ、この灰かぶり野郎!』」 すると、前方を走っていた煤玉――もふらのぬいぐるみに憑いたアヤカシ――は、匂坂の放った『咆哮』に反応したか、くるりと向き直った。 『ほう……すごい技じゃのう』 磊々さまが感心したように呟く。 馬車はまだかなりの速さが出ているのだったが…… 「うんしょうんしょ」 「……プー、待て」 いそいそと馬車を降りようとしていたプレシアを玖雀が呼び止める。 「ふに? 追っかけないとあのもふもふ止められないよ〜?」 「心配するな。いい考えがある」 「ふぇ? いい方法があるの〜? すご〜い!!」 突っ走る馬車の揺れをものともせず、無邪気にぴょんこぴょんこ跳ねるプレシアは、無造作に襟首を掴まれた。 「ふ!?」 「任せろ、投擲には自信がある。――よし、行って来い!!」 言いざま、玖雀はプレシアをもふらのぬいぐるみ向かってぶん投げた。 後で怒られ齧られポコられるだろうと思いつつ……。 「ふぅぅにぃぃぃ〜〜っ!?」 「あらあら」 カメリアは頬に指をあて、柚乃や落花もあっけにとられて飛んでいくプレシアを見送る。 馬車は減速し、開拓者たちは次々に降り立った。 カメリアはマスケットを空に向けて空砲を一発撃ち放つ。しん、と静まり返った人々の目に、銀色の銃身が日の光に眩しく煌いた。 「はい、皆さん。慌てず騒がず、お子さんとしっかり手を繋いで『やや足早で』離れてください、ですね。ここは、暫く、ちょーっと危ない、のですよ」 カメリアはおっとりと通行人たちを押し止めるようにすると、にこっと笑った。その柔らかな笑顔につられて笑った人々は、彼女の手にある長大なマスケットを目にして、素直に頷く。 一方、落花もまた物珍しげに近寄ってくる人々に声をはりあげていた。 「そちらの黒もふらさまへはお手を触れませぬよう! ただいま、大変気が立っておられますゆえ!」 『……ある意味、正しい言じゃのう……』 落花の言葉に暢気な感想を洩らした磊々さまと瓜介も、人々に近づかぬようにと触れ回る。実際、自分たちではアヤカシに対抗できないので、開拓者たちの邪魔にならない場所にいるしかないのだ。 仲間たちが馬車から降り立つ頃、玖雀に放り投げられ空中を飛んでいたプレシアと、黒く煤けたもふらのぬいぐるみは――。 「お〜届きそうなんだよ〜! よぉ〜〜し! まずは〜……でっかいはんぺん!」 プレシアはぐぐぐ、と丸くなり、勢いよく両手を広げた。途端、ぬいぐるみの背後に白い壁が立ちふさがった。 「次は〜ねばねば納豆でねばぁ〜!」 着地と同時に『呪縛符』の式を放つ。が、ぬいぐるみは間一髪で回避し、式は壁にぶつかり黒い炎となって消えた。 「フン、愛らしい姿になれば手加減されるとでも?」 プレシアの後方から、玖雀は容赦なく手裏剣を投げる。壁の向こうへ逃げようとした鼻先を刃が掠め、飛び退いたぬいぐるみは素早く反転した。 『もふらのぬいぐるみに憑いたアヤカシ』と聞いて心苦しく思っていた柚乃は、改めて黒いぬいぐるみを目にして少し首を傾げる。 「でも、なんだか……もふら様というより、ふらも?」 この状態ではそう見えるのも無理はない。だが、そうではないということをすぐさま確認することになった。 匂坂の『払い抜け』でぬいぐるみの片手がちぎれかけ、その衝撃で中から黒い寒天のようなものがぼとりと落ちたのである。 「こいつが本体か」 玖雀が言いざまに手裏剣を放つ。アヤカシは一部を瘴気にされつつも再びぬいぐるみの中に入ってしまった。 だが、すかさず落花が神楽舞でぬいぐるみの俊敏性を封じる。 「よぉ〜し、今度こそ納豆〜!」 プレシアは再び『呪縛符』を使い、ぬいぐるみの足を絡めとった。 「ふにっ! うまくいったの〜! 後は任せたよ〜!」 満足そうに笑うところんころん、と転がる。 「踏むぞ、プー」 玖雀は苦無を握りながら、軽くプレシアを踏んでいく。足元から『ふにっ』という声が聞こえるが気にしない。 「これなら憑代を傷つけずにすむかもしれません」 柚乃が進み出て『浄炎』を放った。 もふらのぬいぐるみが絶叫を放ち、炎に包まれたアヤカシが飛び出してきた。 ターゲットスコープでマスケットを構えていたカメリアの目はその一瞬を逃さず、『空撃砲』でアヤカシを落とす。 匂坂が『隼襲』で襲い掛かかり、弾力のあるアヤカシ本体を三分の一、切り飛ばした。 入れ替わるように見えたのは靡く黒と一筋の赤――玖雀の苦無がアヤカシに深々と突き立てられ、捻り抜かれた。 毒々しい色の花が散るように、飛び散った紫の瘴気とともに、黒い塊は霧消した。 「ほみぃ〜、終わったかな〜?」 寝転がっていたプレシアは起き上がると、とてとてと玖雀のほうへ駆けていく。 「よし、プー。がんばった褒美だ。受け取れ!」 玖雀は懐から串団子を振り抜くと、大きく振りかぶって投げ飛ばす。 「?! おりゃぁ〜!」 プレシアは目を輝かせ、空中を飛ぶ団子目がけて跳躍し、見事、ぱくりと食らいついた。鮮やかに着地と同時に嬉しそうに頬張る。 カメリアは、汚れてぼろぼろになった大きなもふらのぬいぐるみを抱えあげた。これでは洗濯はおろか、修繕しても無理だろう。 「大きくて素敵なぬいぐるみ……まっしろなうちに、もふもふしたかったのですよ……」 「はい……」 柚乃も残念そうに頷く。 「ふに〜、あれってもふらさまのおお〜っきいぬいぐるみだったんだね〜。ボク海苔巻きにおにぎりかと思っちゃったよ〜」 「どんだけデカイ握り飯だよ」 団子を頬張りながら驚いたように言ったプレシアの頭を、玖雀は苦笑とともにわしゃわしゃとかき回す。ちら、と瓜介と磊々さまのほうへ目をやった彼は、カメリアと柚乃からぬいぐるみを受け取った。 一瞬、玖雀の周囲に炎が現れる。 そして、手にしていたのはいくぶん小さいもふらのぬいぐるみだった。 「お? アヤカシが抜けて一回り小さくなったようだぜ?」 彼はそう言って笑いながら、磊々さまにぬいぐるみを差し出す。 『……ほう。手ごろになってかわゆらしゅうなったのう。どれ。では屋台の店主にこちらを渡してこようかの』 彼の心遣いに、磊々さまもほっこりと笑ったようだった。 玖雀は、ふふ、と笑いながら磊々さまの頭を撫でる。 「あー。店主に謝りにいくなら俺らも行くぜ」 匂坂が言えば、他の面々も頷く。 ● そうして、彼らは屋台のあった街道辻まで来たのだったが―― 『おや……』 そこには既に何もなかった。 通る人もまばらで先を急ぐばかり……他に店などないゆえに屋台の行方を聞こうにも聞けぬ。 「……仕方ないですね……。玖雀さんがくださったぬいぐるみはお預かりして、いつか会えたときにお渡しすることにします」 瓜介はそう言って大事そうにぬいぐるみを抱えた。 「まあ、いないなら仕方ねぇな……」 『ふむ。ぬいぐるみはお世話係がお預かりいたす。開拓者殿、こたびはほんにかたじけのう……この磊々、心より御礼申し上げる』 「ありがとうございました」 磊々さまと瓜介が深々と一礼すると、開拓者たちはそれぞれお互いに労いの言葉を投げかける。 「この拙き体で皆様のお力に少しでも成ったのならば……この上なく幸せな事に御座います。では、私はこれにて……」 そう言って一礼した落花は、彼らに背を向けたとたん疲れた顔になった。 (おわ……った……久々に大声出した……つかれたぁ……) すると柚乃が思い出したように言った。 「あ。折角なので、牧場まで寄っていきませんか? 頂きもののスイカを冷やしたいし……お裾分け」 (え……) 落花は振り返り、行く気満々の仲間たちを見つめる。 柚乃は馬車の荷台に置いたままだった西瓜を抱えてにっこり笑う。食べ物に目がない磊々さまは嬉しそうだ。 『おお。先ほどから見事な西瓜じゃと思うておったのじゃ。……したが、そこな巫女殿はたいへんなお疲れのようじゃが……』 磊々さまの視線を受けて、落花はにこりと笑ってみせた。 「大丈夫でございます。では、私もぜひ……」 「すいか〜」 プレシアはいそいそと馬車に乗り込んで出発を待っていた。 その日、牧場は珍しいお客を迎えててんやわんやだった。 何しろ、常は一般公開されていないもふら牧場である。つまり、牧童たちはお客に慣れていない。開拓者たちに会うのも初めての者が多いようだった。せわしない人間どもに、磊々さまの一喝が下り、やっと大人しくなる始末――。 開拓者たちと磊々さま、幸運にも相伴にあずかった瓜介は冷たいスイカを味わい、しばしのんびりと牧場の風を感じながらくつろいだ。 別れ際、柚乃は磊々さまにお土産をくれた。 酒『も王』と猫族秘伝の糠秋刀魚に、磊々さまはいたく感激したらしい。瓜介に『これにもわらわの名前を貼っておくのじゃ』と指示を飛ばす。 「それにしても、あんなに大きなもふらさまのぬいぐるみ……何処で売られてるんでしょう」 柚乃が呟けば、カメリアもこくりと頷いた。 『さての……売り物ではないようであったゆえ、誰ぞの手作りやもしれぬが……屋台の主がおらぬでは、入手先もわからぬの。まあ、もふらならここに居るゆえ、此度はわらわで我慢しやれ』 磊々さまの言葉に、柚乃とカメリアは笑うとかわるがわる抱きしめる。 賑やかに陽天へと向かう開拓者たちを、磊々さまと瓜介は見えなくなるまで見送ったのだった。 |