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■オープニング本文 陽天は各地の特産品が集まる商業都市である。そして観光名所でもあるので常に多くの人で賑わっていた。 ゆえに、事件や犯罪も頻発していたのだ。 月明かりもない闇夜。陽天から南へ下る街道の一つで断末魔の声が響き渡った。その絶叫に驚き、ギャアギャアと喚いて飛び立つ烏。だが、こんな夜更けに通りかかる者などいない。 「ちく、しょ‥‥だまし‥‥た、な‥‥」 「悪く思うなよ。これも商売だからな」 血溜まりの中にうつ伏せで倒れている男を、得物を引っ提げた六人ほどが囲んで見下ろしている。 首領らしき男が顎をしゃくると、一人がとどめを刺した。呻き声をあげて男は絶命した。それを見届けると、六人は闇夜に消えていった。 許せねえ‥‥絶対に、許さねえ‥‥! かっと目を見開いたままの死体から、どす黒い影がゆらりと立ち上る。 それは強く、濃く、禍々しい怨念となって凝固してゆき‥‥そして、己の体であったものまでをも呑み込んで、怨霊へと変じていった。 盗賊たちがねぐらへ戻り、先の男から奪った大金を前に酒宴を開いていた。 少しばかり危険だが、うまい話があると持ちかけたらすぐに飛びついてきた。最初の数回ほどは約束どおり儲けさせてやった。手駒を換えたほうがいい頃合を見計らい、用が済めば切って捨てる――それが、彼らの常套手段だ。 「うまく踊ってくれてよかったな」 「あまり手間もかからず重畳、ってところか」 ゲラゲラと笑いながら酒を回していると、表のほうでカタリと音がする。 「ん? おい、誰か見て来い」 首領が指図し、戸口に一番近い男が座を立ってそっと外を窺った。カタカタと物音はやまない。 舌打ちした男は刀を引き抜いて戸を開けた。 「‥‥ぎゃあ!」 突然の悲鳴に全員が振り返る。 彼らの目に映ったのは、七尺はあろうかという真っ黒い人型の『影』が仲間の首に喰らいつき、それが木乃伊のようになっていく姿だった。 凍りついたような男たちに向け、黒い影は赤黒く染まった口を三日月に形づくり、怖気をふるうような『呪声』を発する。 凄まじい絶叫が辺りに響き渡った。 ● 花は実りのさきがけ。 昔、村を凶作が襲った。作物が育たず、人々は困り果てていた。そこへ通りかかった安雲の巫女が泉の水を畑に撒いたところ、あっという間に活きかえり、村は飢えずにすんだのだという。 村人は、その泉のほとりに社を建てて祀り、この時期になると泉の神に日々の感謝と、秋の実りを祈るために花祭りを行うようになった。 「‥‥へえ。そういう由来があったんですねえ、花祭りって」 『どれ、ご祭神である泉の神様にご挨拶しようかの』 「はい」 お社の片隅にあった看板を読んだ磊々さまと瓜介は、小さな鳥居が立っている泉のほうへ歩いていく。 もふら牧場からほど近い所にあるこの神社では、毎年『花祭り』が催される。 花枝ひと枝を手に、巫女が舞を奉納する。社の祭壇と泉のほとりに酒や餅をお供えし、祭りの後それらは村人に分けられ、その年も神とともにあることを祈るのだ。 そんな小さな祭りをどこから聞きつけてきたのか、磊々さまが花祭りに行きたいと駄々をこね、必然的にお世話係の瓜介がお供をすることになったのだが――今回は役得、といえなくもない。 泉は小さいながら清らかで澄んでいた。 鳥居の一歩先には岩が置かれ、既にその上には酒や餅、米などがお供えされていた。 磊々さまと瓜介は泉の神に挨拶をすませ、そのほとりへ近づいてみる。 『おお。小魚も気持ちよさげじゃのう』 「そうですねえ」 泉は真ん中あたりが急に深くなっているのか、碧い水の底は見えない。 しばらく、緑の風を受けながら陽光に煌く水面を眺めていたふたりだったのだが、 どん。 『ふぬ?!』 突き飛ばされたように磊々さまの巨体が宙に舞い、弧を描いて泉の中に落ちた。 一瞬、何が起こったのか理解できなかった瓜介は、ぽかんとそれを眺めていたが、すぐさま正気に戻る。 「だ、大丈夫ですかっ、磊々さま!」 瓜介が血相を変えて叫ぶと、泉にぷかりと浮いた磊々さまはニンマリと振り返った。 『わらわを誰じゃと思うておる。もふら磊々は沈んだりはせぬ。まあ、ともあれお世話係よ、早う引き上げてくりゃれ』 「は、はい!」 とは言ったものの、手を伸ばしても届きそうにない。 瓜介は辺りを見回し、長めの枝を拾ってきて腹ばいになると枝の先に磊々さまを引っ掛けようと試みた。 『無礼者! わらわを枝で突っつくつもりかっ!』 「だって手が届かないんですよう。枝がお嫌なら犬掻きしてこっちに来てください」 『きさま、わらわに犬になれと申すのか!』 「そーじゃなくてー。もう。磊々さま、早くしないと磊々さまを突き飛ばした下手人が分からなくなってしまいますよ。それにいつまでもそこにいらっしゃったら泉の神様に叱られてしまいますよ」 『ぬ。それもそうじゃ。泉の神よ、お許しくだされや。それもこれもわらわを突き飛ばした下手人が元凶じゃ。急がねばならん。しかもあやつ、アヤカシじゃぞ』 「な、何ですって?!」 仰天した瓜介は、尚更のんきにプカプカ浮いてる場合ではないではないか、と思ったのだがこのもふらさま相手に言っても仕方ない。 あたりを見回してもそれらしい姿はない。磊々さまと瓜介は巫女に会うために社へ走った。 このままでは村人が襲われる。そうなれば人々の恐怖の念がますますアヤカシを呼び、この地は穢されてしまうだろう。 「あれ? どうして私は襲われなかったんでしょう?」 『知らぬ。わらわと居ったからじゃろ』 瓜介の疑問は、磊々さまの実にいい加減な返答で一蹴された。 村人の姿がちらほらと見え始めている。 磊々さまは社に突進して転がり込んだ。後を追ってきた瓜介も、お邪魔します、と入ってくる。 「まあ、綺麗なもふらさま!」 祭壇の前に座っていた年若い巫女は、突然現れた巨大なもふらさまに驚いたような顔をしたが、すぐに微笑む。褒められて、磊々さまはちょっと誇らしげに胸を張ったのだが、それどころではない。 『巫女殿! 花祭りは延期じゃ! アヤカシが出おった』 「え!?」 瓜介が先刻のことを説明する。磊々さまが気遣わしげに社の外へ目をやったとき、特徴的な法被が目に入った。 『おお! あれは開拓者ギルドの制服ではないかえ?! これぞ渡りに船じゃ! これ、そこな職員、ちとこちらへ参れ!』 社の中から巨大なもふらさまに手招きされ、開拓者ギルドの職員は首を傾げながら入ってきたのだった。 |
■参加者一覧
柚乃(ia0638)
17歳・女・巫
皇 りょう(ia1673)
24歳・女・志
菊池 志郎(ia5584)
23歳・男・シ
琥龍 蒼羅(ib0214)
18歳・男・シ
アレクセイ・コースチン(ib2103)
33歳・男・シ
フォルカ(ib4243)
26歳・男・吟
カメリア(ib5405)
31歳・女・砲
クシャスラ(ib5672)
17歳・女・騎 |
■リプレイ本文 ● 開拓者たちが神社に到着したのは昼過ぎ。社の巫女と村長が彼らを社へと案内した。 「皆様、本日はこんな小さな神社のために来ていただいてありがとうございます。どうぞよろしくお願いいたします」 社の巫女が深々と頭を下げ、村長も倣って一礼した。 「花祭りを楽しみにしている人たちがいるんだもの、放ってはおけません。それに……私もどんなお祭りなのか、見てみたい」 そう言って微笑んだのは巫女の柚乃(ia0638)。 「祭りってのは吟遊詩人には良い稼ぎ場なんだ。アヤカシごときに商売の邪魔されちゃあ困るんだよな」 バイオリンを撫でながら、狼獣人のフォルカ(ib4243)のやけに心情のこもった呟きに一同は笑みをこぼす。 「村の人たちの、大切なお祭りですから、きちんと執り行えるようにしないと、ですね。あ。私カメリアです。よろしくお願いします、ですよぅ。頑張ります」 おっとりと自己紹介した砲術士のカメリア(ib5405)は、ぐぐ、と拳を作った。隣に座っていた騎士・クシャスラ(ib5672)も礼儀正しく一礼する。 「クシャスラと申します。よろしくお願いします」 「アレクセイ・コースチンと申します。よろしくお願いしますね。しかし、久しぶりの依頼にしてはなかなか難儀な相手の様ですね」 アレクセイ・コースチン(ib2103)が溜息混じりに微笑む姿は、さすがに名家の執事らしく優雅である。 「神の領域である神社にアヤカシとは……何とも不穏な話であるな。この皇りょう、不肖ながらアヤカシ退治の任、務めさせて頂く」 武人のような言葉遣いで一礼したのは志士・皇りょう(ia1673)。皇の言に同意するように巫女・菊池志郎(ia5584)も頷く。 「外に出て村の人を襲う前に早く見つけて何とかしたいですね」 「幽霊と怨霊、か。どんな経緯であれ、アヤカシとなった以上は倒すべき相手だ」 淡々と言ったのは全長八尺弱もある斬竜刀の使い手、琥龍蒼羅(ib0214)。 そして、あ、と思い出したように、菊池は呼子笛を社の巫女に差し出した。 「巫女様は社にいらっしゃれば大丈夫だと思うのですが……本当に念のため、呼子笛を。何かありましたら、これで呼んでくださいね」 巫女は笛を受け取り、ありがとうございます、と微笑んだ。 彼らはまず、神社の立地を見てまわり、二箇所ある入り口に『立入禁止』の立て札を立てた。 フォルカとアレクセイの両名が超越聴覚の持ち主のため、急場のやり取りなどの打合せをする。そして、フォルカの案で、比較的侵入しやすいと思われる社の後方に鳴子縄を張っておいた。また、皇の進言で祭り用の篝火も使用させてもらい、できるだけ暗闇をつくらないようにする。 菊池やカメリアたちが神社と近辺を確認している間、アレクセイと皇は村長とともに村へ行き、今夜は家を出ぬよう触れて回る。 「民にも日々の生活があるゆえ、なかなかに難しいお願いだと思うが」 そう、皇が人々を率いる立場にある者だと窺わせるような呟きを洩らす。実際のところ、あまり恐怖感を抱かせてはかえってアヤカシを引き寄せてしまうため情報公開の加減が難しいのだ。 彼らは交代で神社の境内を巡回することにした。柚乃・アレクセイ・皇、琥龍・フォルカ、菊池・クシャスラ・カメリアの三班に分かれる。 日暮近くになって二人の女性が神社の前の立て札に困惑しているのを、巡回中のカメリアが見つけた。 彼女たちは陽天からの帰りで、練り菓子を神社にお供えをしてから村に戻るところだったようだ。菊池が簡単に事情を説明すると、不安そうな顔をする。万一のため、彼女らを社に保護することにした。 「大丈夫、ちゃんと守ります、ですよ」 カメリアのおっとりした物言いは、女性たちに安心感を与えたようだ。奇襲を警戒して菊池は障索結界を張り巡らし、クシャスラはカメリアに案内されていく女性たちの盾になるように立つ。 そのとき。 「きた! 五体、正門左方向!」 菊池は言うや、呼子笛を吹き鳴らす。鳥居の傍の木立から不気味な姿がこちらへ飛んでくる。菊池は魔杖を構え、クシャスラはすぐさまオーラドライブを発動させてフルーレを抜き放った。 「慌てず、騒がず、でも急いで下さいねぇ」 おっとりした物言いはそのまま、だが、彼女は一尺ほどもあるピースメーカーを慣れた手つきで構えると立て続けに撃ちはなった。さらに、菊池の気功波を潜り抜けてきた幽霊が襲い掛かるが、クシャスラのオーラシールドによって阻まれ後退する。 「さ。お二人とも、お早く!」 社の戸が開かれ、ぽーっとしている女性たちを巫女が招き入れる。 駆けつけて来る柚乃や皇の後方で、今度は鳴子縄が鳴った。 「くそ、あっちもか! 俺たちは裏へ行く!」 「気をつけて!」 柚乃の言葉に頷き、フォルカと琥龍は社後方へと駆けて行った。 白霊弾を準備しかけた柚乃の右方向から幽霊が奇襲する。そこへ早駆で割り込むように入ってきた長身が柚乃を庇い、苦無で反撃した。切り付けられながら後退したアヤカシを皇の『白梅香』が霧散させた。 「ありがとうございます。アレクセイさん」 「いいえ。婦女子を護るのは執事のたしなみの様なものですよ。……もっとも、あまり必要とされないお転婆な方もおられますがね、私の主の様に」 礼を言った柚乃にアレクセイは苦笑してみせ、彼女はくすりと笑った。 離れた一体に対し、皇は『斜陽』を発動させ、アヤカシの攻撃能力を低下させる。 「いざ参る!」 言いざま、一気に接近した皇の太刀が一変、白く澄んだ気を纏い梅の香りとともに幽霊を一刀両断した。 残る一体はクシャスラのシールドによって弾かれ、逃れる間もなく柚乃の白霊弾、アレクセイの苦無が消滅させた。 一方。鳴子縄の音に駆けつけたフォルカと琥龍の前に現れたのは、アヤカシではなく三人の若い男たちだった。 「……立て札に気付かなかったのか? その粗忽さで身を滅ぼすぜ」 ぶっきらぼうなフォルカの言葉に、彼らはバツの悪そうな、むっとしたような表情を見せた。 おそらく、事情を聞いて面白半分で見に来たのだろう。怨霊・幽霊となったアヤカシがどんなものか知らぬゆえに――。 そう見て取ったものの、琥龍はそれについては何も言わず、彼らを社へ誘導しようとした。 その、青年たちの背後で。 ゥオオオンン…… 不気味な『声』とともに、七尺の闇のような人型の影に首を掴まれた幽霊が出現した。 「――っ!」 篝火の赤い光の中でぬらりとそそり立つそれは、しかし、彼らに奇妙な感覚を与えた――怨霊が、怨霊となった所以がここにあるのだと――。だが。 躊躇いもなく琥龍が呼子笛を吹き鳴らす。 そう……アヤカシとなった以上、倒さねばならないのだ。 「ひっ!」 「うわあっ!」 その禍々しい姿に青年たちが絶叫した。さらに、『呪声』が彼らの内にある負の感情を増大させる。 「耳障りな声で歌いやがる。ま、神社に出るとは信心深いアヤカシだ。弔って欲しいなら耳かっぽじってよく聴きな」 フォルカのバイオリンが、彼の口調とは裏腹に流麗な音色を響かせた。『重力の爆音』で幽霊の『呪声』を封じ、怨霊の動きを押さえつける。その間に琥龍は駆けつけてきた仲間に三人の若者を託した。クシャスラと皇が社へ誘導する。 首を掴まれていた幽霊が怨霊の手から放たれた。途端、それは真っ直ぐ、捕食の本能だけでこちらに向かってくる。琥龍は鮮やかな動作で長大な刀を抜き、『白梅香』を発動させた。 「断ち切れ……斬竜刀」 主の言葉に応えるかのように、斬竜刀『天墜』が唸りをあげ幽霊を一刀のもとに斬り捨てた。その流れのまま、刃は凄まじい速さで怨霊へと走り、その腕を切り落とした。 ゥオオオオンン…… 怨霊は刃から上空へ逃れ、『呪声』を放つ。開拓者たちはその不快な音に顔をしかめたが、フォルカの『霊鎧の歌』が彼らの抵抗を著しく上昇させている。 「悲しくて、苦しい声……恨みつらみがいっぱい、に見えるアヤカシ……です」 カメリアが哀しげに呟く。菊池が小さく頷いた。 「『呪声』が強いのは、生前よほどの怨みがあったからだと思いますが、それでも生きている人を被害にあわせるわけにはいきません」 言いながら苦無を容赦なく放つ。それを追うように柚乃が白霊弾を、アレクセイも苦無で攻撃を加える。 怨霊は唸り声をあげ、その攻撃をかわすように泉に向かって飛んだ。 だが。 ばしっ! 七尺の巨大な影が、泉の上空からはじき飛ばされた。 「えっ……?!」 その隙を逃さなかったフォルカが『重力の爆音』で怨霊の動きを封じる。 カメリアは短銃を構え、 「……もう、楽になりましょう……?」 怨霊の心の蔵へ向けて撃ち放つ。何発もの銃弾を受けながら、なおも不気味な唸り声をあげ、『呪声』を放とうと口を開いた。 だが――。 「この太刀筋、避けられると思うな」 琥龍のひそやかな声――『秋水』を発動させた彼は、神業ともいえる速さで怨霊の胴を真っ二つに切り裂いていた。 直後。ほの暗い光の中、巨大な闇の塊が紫色の瘴気となって霧散した。 ちりん、と柚乃の精霊鈴輪が小さく鳴った。 「……事情はともあれ、鎮魂の祈りは捧げたく……」 「そうだな……アヤカシになるくらいだ。碌な死に方じゃなかったんだろう。黄泉への旅路の道連れに鎮魂歌を奏でてやる。此処はこれから花祭り。心を残さずさっさと行きな」 柚乃に賛同したフォルカはそう言ってバイオリンを奏ではじめた。 その音色は物悲しくも美しく、人々の心に染み入るようだった。 社にいた人々も恐る恐る出てくる。 バイオリンを奏でる者の他は、静かに鎮魂の祈りを捧げている。彼らに倣い、社の巫女と保護された人々もまた手を合わせたのだった。 篝火の明りが反射したか、泉の水面がきらきらと光を躍らせた。 ● 念のために神社を警護しながら一晩を明かした開拓者たちだが、何事もなく過ごした。 花祭りは翌日、催されることになった。 「皆様、このたびは本当にありがとうございました」 そう言って社の巫女は深々と頭を下げた。横で同じように頭を下げていた村長は恐縮したように言った。 「このたびはうちのバカ息子がとんだご迷惑をおかけして申し訳ない」 村長の言に開拓者たちは顔を見合わせ苦笑した。 ――実は、息子が家にいないことに気付いた村長が事態を察知し、朝になるや否や神社に駆け込んできて、社の床に寝転がっていた息子に特大のカミナリを落とした、という経緯があった。 「また急におれは吟遊詩人になるとか言い出して、まったく性懲りもなく、あのバカ者は……」 「……へえ」 ほとんど独り言のような村長に、フォルカはほとんど棒読みで呟く。社の巫女はじめ開拓者たちはくすくすと笑った。 どん、どん、と太鼓が響く。村人は祭りの準備に忙しい。子供たちはしゃいで境内を走り回っている。開拓者の何人かが遊び相手になってやっていた。 そろそろ花祭りが始まるというころ、アヤカシ討伐を聞いた磊々さまと瓜介が神社にやってきた。 淡藤色の巨大なもふらさまである。その姿は遠くからでもよく目立つ。 それを目ざとく見つけた柚乃がうふふ、と笑う。 「磊々さまはあいかわらずのもふもふっぷり?」 「おお。あれが泉に突き飛ばされたというもふらさまか」 「ああ……そういえば。アヤカシははじかれましたけどね……」 皇が手をかざして目を細め、アレクセイがぽつりと呟いた。 ふむ、と皇は考え込む。 真相は謎だが…… 「もふぎゅ」 柚乃が磊々さまに抱きつく。磊々さまは、ほほほ、と笑った。 『これはこれは、いつぞやの巫女殿ではないかえ。お元気でおじゃったか? ……ほう、今回のアヤカシ討伐に来てくださったと。それはそれは……』 なごやかな雰囲気の中、笛の音が響く。 「磊々さま、巫女さま。お社の巫女さまの舞が始まりますよ」 瓜介がはやくはやく、と手招く。 『これ、お世話係。ちと落ち着かぬか』 やれやれと言いながら磊々さまも社へと向かう。 花は実りのさきがけ―― 花枝ひと枝。白装束を纏い、太鼓と笛にあわせて巫女が舞う。 さらさらと水が流れるような巫女舞はけして派手ではない。だが、何かすっと心に入ってくるような、そんな力があった。 巫女は祈る。 天の恵み、地の恵みに感謝を。そして、秋の豊穣が訪れますように。 人々が幸せでありますように―― 了 |