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■オープニング本文 ● 石鏡・歴壁――ここは遭都との境界であり、最大の街道を守る関所が存在する。遭都石鏡間を通過していく旅人のほとんどが歴壁を通る。 かつまた、良質な温泉が湧き出る場所でもあり、温泉街ともなっていた。 『ほう、さすがに歴壁は人が多いのう』 淡藤色の体長五尺以上もある巨大なもふら、磊々さまは面白そうに辺りを見回した。 「そうですねえ……あ、土産物屋までありますよ」 磊々さまのお世話係である瓜介は、立ち並ぶ温泉宿に交じっている商店を覗く。 そうして行き交う人々の流れを縫いながら、ふたりが泊まる温泉宿を探した。 「あ、磊々さま。あそこじゃありませんか?」 瓜介が指した先にあったのは、大きな店構えであるにも関わらず、何故か人の出入りのない宿だった。 正確に言うならば、その宿から隣や向かいの宿へ移っていく客がちらほら見える。 「……?」 磊々さまと瓜介は顔を見合わせた。 ● そもそも、彼らが歴壁に来ることになったのは、もふら牧場の牧場主に届いた知人からの書簡が発端である。 【少し困ったことが三日ほど続いていて、どうしていいものか悩んでいる】 詳細な説明は無く、一度来てほしい、とだけあった。 そこで立候補したのが誰あろう、磊々さまである。 確かに、問題解決なら自分が行くより磊々さまのほうが適任であろうし、いざとなれば開拓者たちに頼ることもできよう。 牧場主は知人に手紙を書き、瓜介に持たせるとふたりを歴壁へと送り出したのだった。 温泉宿へ尋ねてきた青年ともふらさまの組み合わせに、一瞬がっかりした顔をした宿の主人だったが、牧場主からの手紙を読んで少し気を持ち直したらしい。 宿の主人は、ふたりを彼の部屋へと招き入れた。 さっそく詳細を尋ねた磊々さまに、主はいくぶん肩を落としてぽつりと、三日前に入ってきた七人の用心棒らしき男たちが原因だという。 「一泊七人分の宿代を先に払ってくれたまでは良かったんだが……」 彼らは『金はある』と小判を見せびらかしつつ、好き放題やり始めたのだ。他の宿泊客を脅す、温泉から追い出す、夜通しどんちゃん騒ぎをする……常連だった客も早々に宿を替えていき、三日目には客足が遠のいた。新しい客が入っても、一刻ほどで出て行ってしまう始末。 通りで瓜介たちが見たのはそれだったらしい。 『警邏隊を呼べばよかろうに?』 磊々さまが不思議そうに首を傾げると、宿の主人は怖くてできないという。 彼らの背後に大きな『金貸し』組織が控えているらしく、一度、宿の主人が出て行くよう彼らに言ったところ、店をめちゃくちゃにしてやると逆に脅されたのだ。 考えあぐね、知人に手紙を書いたが、万一を恐れて詳細を書けなかったのだと言った。 『やれ……面倒な者どもじゃのう……して、金貸し組織なるものがついているというのは、まことなのかや?』 「……いや、わかりません……。あいつらがそう言ったもんで……」 磊々さまの問いに、宿の主人は首を振った。 これが本当なら、例えば、警邏隊に引き渡したとて背後の組織が役人に金を握らせ、何事もなかったかのように見せかけることはなきにしもあらず。宿はともすれば釈放された者どもの嫌がらせを受け、潰されることは想像に難くない。 また、それが横行するようになれば歴壁の街自体が荒んでいくことは間違いない。 「……じゃあ、やっぱり開拓者の方にお願いした方がよさそうですね。ちょっとお金がかかりますけど……」 瓜介が思案するように言う。 「……開拓者……」 どうやらその考えはなかったらしく、宿の主人は目をぱちくりさせる。彼にとって、開拓者たちというのは辺境や他国に現れるアヤカシを討伐する専門家、という概念だったようだ。 それだけではない、と磊々さまは首を振る。 歴壁の警邏隊がどの程度のものかは知らぬが――と言い置いて、 『確かに、開拓者への報酬は世間一般の報酬とは違うて高額ではあろうが……後々のことを考えれば、そのほうがよかろうとわらわも思うがの。これを機に開拓者らが移動の際の宿にここを使うてもらえるようになれば自然、客足も戻ろうし、安心してもいられよう……まあ、これはもしもの話じゃがの』 にんまりと笑った磊々さまを見つめ、しばらく思案していた宿の主人は、心を決めたように頷いた。 |
■参加者一覧
レイア・アローネ(ia8454)
23歳・女・サ
レジーナ・シュタイネル(ib3707)
19歳・女・泰
巳(ib6432)
18歳・男・シ
羽紫 雷(ib7311)
19歳・男・吟
ジョハル(ib9784)
25歳・男・砂
白鬼院 紅葉(ic0612)
18歳・女・泰 |
■リプレイ本文 ● 久々に依頼を受けたレジーナ・シュタイネル(ib3707)は、旅人を装って温泉宿近辺を確認しつつ歩いている。 (考えて、迷って……でも結局……ここに、戻ってきた。私は開拓者として、できることをひとつひとつ、やってくしかないんだと、思う) 仲間の足を引っ張らないように、と心に呟いた。 温泉宿が並ぶ通りをいくつか過ぎると、表の喧噪が嘘のように静かな町の姿がある。 ジョハル(ib9784)もまた戦闘に使えそうな場所をいくつか探し、誘導の際、足掛かりにする酒場の目星もつけた。 その情報をもとに、開拓者らは宿に居座る用心棒たちをどこへおびき寄せるかを検討する。 「さーて……勘違いしてる奴らをからかいに行くとすっか」 巳(ib6432)は紫煙をふっと吹き、ついでにジョハルの演技とやらも見物させてもらおうと、くつくつ笑った。 ● 温泉宿の主人は市女笠の女に宿の造り、用心棒たちの部屋、また厠の位置や空き部屋を尋ねられた。開拓者であろうことは想像できたものの、怪訝そうにする主人に女――『菊(巳)』は笠の奥から妖艶に微笑んだ。 「ふふっ、理由はいずれわかりますよ」 その日、温泉宿に何組かの客が入った。 そのうちの一人、羽紫雷(ib7311)は宿内で演奏の許可を願い出た。 宿の主人は目を白黒させながら、『どうぞ』と頷く。 雷は『口笛』を吹き始めた…… 「なんだ、今日はえらく客が多いな……」 「口笛か、うめぇじゃねぇか」 宿の大部屋を陣取り、自堕落に寝そべっていた用心棒たちは流れてくる旋律に興味を示す。そして冷やかし半分、ぞろぞろとそちらへ向かうと無遠慮に襖を開け放った。 「……ほう」 居たのはフルートを持った演奏者のほかに若い娘が二人と金持ちそうなエルフ――用心棒たちの目に奸心の色が浮かぶ。 娘の一人、白鬼院紅葉(ic0612)が美貌に微笑みを浮かべて軽く一礼すると、少し離れて座っていたレイア・アローネ(ia8454)も硬めな雰囲気ながら小さく一礼した。 「通りすがりの旅人の……まぁ、曲芸師のようなものですが、どうかお耳を傾けて下されば光栄です」 雷は微笑み、執事のような丁寧な仕草でゆったり一礼してみせると『心の旋律』を歌い始める。 言葉はわからぬものの、情熱的な愛の唄であることが伝わって、用心棒たちはやんやと囃し立てた。 「いいじゃねぇか……おおい、酒を持って来い!」 用心棒の一人が大声で呼ばわる。 裏口から入り込んだ菊は、頃合いを見計らって宿の主人に辛口純米酒を二本手渡した。 「この酒を……用心棒の方々に渡してくださいませんか? あなたからでも、匿名でも……どちらでも構いません」 宿の主人が客間に酒を持って行き、しばらく――『超越聴覚』で探っていた菊は、座敷から二人が厠へ向かってくるのを聞きつけた。 そのうちの一人は開拓者らが来る前から飲んでいたらしく、大声で喚きつつぐでんぐでんに酔っ払い千鳥足だ。 これなら―― 菊は、二人の男が用を済ませたあと、厠の影からそっと声をかけた。 「もし、そこの素敵な方……。よろしければ、私と花札でも如何でしょうか? ……花札以外のことでも……遊んでいただきたいのですが……」 艶を含んだ目で見上げてくる美しい女に、用心棒たちの鼻の下が伸びる。 「いいとも。遊ぼうぜ、姐さん」 菊は二人を連れ、空き部屋の一つへ誘い入れた。 二人の男が厠へ立った隙に、紅葉は小さく告げる。 「あの……あなたのこと一目見て気に入ってしまったの……少しでいいのです。ご一緒していただけませんか? 外へ散歩でも……」 若く美しい娘にこう言われて否やはあるまい――仲間が戻らぬうちにと、二人外へ出た。 ジョハルはつい、と座を移動して二人の男へひっそりと声をかける。 「腕のいい方がいらっしゃると聞き及び、参りました。どうかこの情けないエルフにご助力頂けませんでしょうか?」 首から下げたアメジストのネックレスが揺れ、二人の用心棒はちらりと目を見交わす。 そうして三人は宿の外へと出て行った。 しきりに誘ってくる男へ酌をしてやりながら頃合いを見たレイアは、とうとう折れた、というように言った。 「ここでは困る……別の宿へいかないか?」 用心棒二人は好色そうに笑いながら立ち上がる。レイアは、彼女の大剣を預かってくれているレジーナの元へ二人を連れ出したのだった。 ● 空家がぽつんとあるだけの空き地で、レジーナはレイアの大剣とともに待っていた。 「おい、どこまで行くんだい、姐さん」 「何ならここでもいいんだぜぇ?」 「この先だ」 暗がりの中から二人の男の声がし、それへレイアが応える……その三人の目の前に、レジーナが立ちはだかった。 「?」 レイアがにっこりと彼女の方へ駆け寄り、彼女たちが擦れ違う―― 怪訝そうに立っている用心棒の一人へ、レジーナはいきなり『空気撃』を放った。 不意をつかれ、転倒した用心棒は怒声を発してレジーナに掴みかかろうとする。 するりとそれを躱し、相手が刀を抜く前に跳躍した彼女は高々と振り上げた踵を男の脳天目がけて蹴り落とし、昏倒させた。 愛剣を手にしたレイアは、もう一人をレジーナから目を反らさせるため『咆哮』で引き寄せる。 「このアマ……ッ!」 叫びざま居合で切り掛かる用心棒を『地断撃』が襲った。地がめくれ、足元を崩され体勢を崩したところへ、レイアの渾身の一撃が鳩尾を抉った。 「ぐっ……」 呻き声をあげ、男はばったりと地に倒れた。 レイアは松明を灯し、レジーナが用心棒たちを縛り上げる。 「それにしても、金貸し組織って……本当、なのでしょうか」 レジーナが呟き、一人を頬を叩いて起こす。目を覚ました男ははっとしたように顔をあげ、怒声を発した。 「てめぇら……っ!」 「……あなたがたの背後の組織なんて嘘、なんでしょう?」 レジーナはくすくす嗤う。 「う、嘘じゃねぇぞ! 俺らはそこで仕事したんだからな」 「そうですか。本当なら、私があなたを担いで届けてあげます。用心棒いっぱいなら……私なんて、一網打尽でしょう。場所はどこですか?」 男たちは松明の明かりに浮かび上がる二人の若い娘を交互に見遣る――身ごなし、得物を見て、普通の娘ではないことに思い至り、脂汗を浮かべた。 座敷から用心棒たちが居なくなった時、雷は演奏を止めて紅葉の支援に向かった。 あらかじめ決めておいた場所へ歩いてきた紅葉は、用心棒の手からさりげなく逃れると、 「付き合ってくれて嬉しいわ、おかげで……好き勝手動けるってもんだ!」 ガラリと口調を変え、『正拳突』を放つ。 いきなり牙を剥いた少女に面食らった用心棒は、体勢を崩して転倒した。だが、瞬時に体勢を立て直すと、刀に手を掛けて油断なく相手を睨み据える。 「……唯の娘じゃなかったわけだな……まあいい」 言うや否や、用心棒は瞬時に間合いを詰めると彼女を切り払うように刀を抜き放つ。 凄まじい速さで襲い掛かった剣撃を紙一重で躱した紅葉は、身体を捻ったその勢いのまま男の脇へ素早い回し蹴りを蹴り込んだ。 「下心みえみえのお前に僕の動きを躱せるかってんだ!」 紅葉の言葉に男は殺気を噴き上げる。剣気は伊達ではないようだった。油断すれば命が危うい――紅葉はそう悟る。 と、そこへ、ゆったりとしたフルートの音色が響いた。 追ってきた雷が『夜の子守唄』を奏で、それは用心棒の殺気を上回るほどの抗い難い眠気……ふっと一瞬、視界が霞む。 その隙を見逃すはずもない。 紅葉は一気に間合いを詰めると『正拳突』を鳩尾に突き入れ、用心棒を昏倒させた。 気を失った男を見下ろし、鼻を鳴らす。 「僕を女だからって舐めないほうがいいぞ。皆見た目で騙されるが、修羅なんだからなっ! ……雷は、ありがとう」 隙を生み出してくれた雷に礼を言った紅葉へ、彼は柔らかな微笑みで応えた。 温泉宿の空き部屋に二人の用心棒を招き入れた菊は、『旡装』で紫爪の存在を隠し、花札を胸元から取り出す。だが、酒が入って本能剥き出しの男たちはいきなり菊に覆いかぶさろうとした。 「きゃ」 と声をあげつつ、咄嗟に押し返すふりをして紫爪を男の首へ滑らせ、片方で小太刀の鞘を鳩尾に突き込んでいた。 男はまるで痺れたように震えながらばたりと畳の上に転がった。 「何やってやがんでぇ」 何が起きたのかわからなかったのだろう、今一人はげらげら笑うと菊へ掴みかかる。 太い腕からするりと逃れた菊は、誘うように手を伸ばし、ついと男の首筋へ触れた。 「……っ!」 首に走った微かな痛みとそれを追うようにじわりと広がる鈍痛……徐々に霞んでくる目を幾度がしばたいて、やっと異常を悟ったが、その時には先に転がっていた仲間ともども荒縄で縛り上げられた。 「て、てめ……」 体に力の入らない用心棒の口へ恵方巻が突っ込まれる。 「ふふっ、お味はいかが? 私じゃなくて残念ね?」 金の目を怪しく光らせた菊は妖艶に微笑み、ひらひら手を振って座敷を出て行った。 そのエルフは私怨に身を振るわせながら用心棒たちに訴えた。 「金を払って店で楽しく遊んでおりましたが、迷惑だと理不尽な言いがかりを受け……その場にいた開拓者にこのような傷を……私は何も間違った事はしていない。しかし、道理を通すには腕に覚えもありません。どうか私の代わりに仇を打っては頂けませんか」 エルフは右半身の火傷を少し見せると、すぐさま包帯で隠した。開拓者にそれほどの傷をつけられるとは、よほど目に余る豪遊だったのか、それとも気の荒い開拓者だったのか……いずれにしてもこの仕事がうまくいけば大金が手に入ることは間違いないだろうと、用心棒たちの脳内では計算が始まっていた。 エルフ――ジョハルは彼らの様子をそれとなく観察し、エメラルドのネックレスをそっと仕舞いながら続ける。 「……何でも大きな組織の方だと聞き及んでおります。このような些細な宝飾品ではお礼にもなりませんでしょう」 ジョハルの言に、用心棒たちは一瞬詰まったものの、鷹揚に頷いてみせた。 それに気づかぬふりで、ジョハルは前祝いだと言って、いったん酒場へ彼らを案内した。 「復讐相手がこの町で暢気に温泉に浸かっている事は調べ済みです。酒場から宿への通り道を狙いましょう……ささ、どうぞ一献」 ジョハルは気前よく酒を飲ませ、口八丁で用心棒たちを煽り立てると、そろそろだと店を出る。 温泉街から少し離れたその場所で、いもしない『開拓者』が通りかかるのを待つ用心棒たちの背後――ジョハルは一人の足を『ゼロショット』で撃ち抜いた。 絶叫を放って転げまわる男の隣で、今一人が仰天したように振り返る。 「……悪いね」 怯えていたエルフは跡形も無く、立っていたのは漆黒の銃を構えて微笑む砂迅騎だった。 「騙しやがったな!」 怒りに顔を赤黒く染めた用心棒は、駆け寄りざまに刀を抜き払う。 それをするりと躱したところへ声が掛かった。 「あら、お困り? ……でもなさそうかしら」 「いや、助かるよ」 面白そうに微笑む菊に、ジョハルは落ち着き払って応える。 「なんだてめぇ……」 隙のない身ごなしで近づいた女の手が、視界の端でひらめいたと思った瞬間、男は眩暈を感じたように激しく瞬いた。その直後、銃を構えていたジョハルの目が赤く輝き、ふわりと駆け寄る。 彼の革靴の爪先が用心棒の鳩尾を抉り、男はぐえ、と声を発したあと地にくずおれた。 一方、菊は痛みに喚いて転げまわる男を押えて縄で縛り上げると、その口へ恵方巻を突っ込む。 「ご近所迷惑よ?」 そこへ、駆けつけたレイアとレジーナが菊を見て目を丸くした。 「え……巳さん……? うわ、お綺麗……ですね」 目をぱちくりさせたレジーナに、菊はふふっと笑った。 「わたくしは今『菊』ですので……お間違いの無きよう……」 ● 温泉宿の主人は何度も礼を言って頭を下げた。 用心棒たちが吹聴する『金貸し組織』とは、どうやら彼らが所属しているのではなく一度そこで仕事をした、という程度のものらしいことが発覚した。 『まあ、何にせよ良かったのう……開拓者殿らがいるうちに警邏隊へ引き渡したがよかろう』 彼らの目が光っていると知れれば警邏隊の面々も身が引き締まるだろう。そう磊々さまが言うと宿の主人は頷いてすぐさま警邏隊に連絡を入れた。 宿の主人から話を聞き、縛り上げられた七人を引っ立てて行く警邏隊に、開拓者たちはさりげなく付け加える。 「これで安心して報告書が書けるな」 「あとはよろしく」 警邏隊の隊長はいくぶん緊張の面持ちで『かしこまりました』と敬礼した。 『おお、ジョハル殿も元気そうで何よりじゃ。チビすけは息災かの?』 「花見以来だね。ちびは元気だよ」 顔見知りを見つけて目を細めた磊々さまを、ジョハルはぎゅっと抱き締める――チビとはジョハルの『もふらさま』のことだ。 レジーナは巨大な淡藤色のもふらさまをまじまじと見つめ、何となく両手を握った。 「磊々さま……とっても、素敵ですね。……あの……、いえ、何でもありません……」 目をぱちくりさせた磊々さまとレジーナを見たジョハルが笑う。 「そりゃあ、もふりたいよね」 ――どうやらそういうことらしかった。 温泉宿の主人は開拓者らに料理と温泉を提供すると申し出た。 磊々さまの襟毛に顔をうずめていたレジーナにレイアが声を掛ける。 「レジーナ、どうだ? 入るか?」 「あ、そうですね……いただきましょうか」 そして彼らは仕事の疲れを癒すため、温泉に入った――女装姿の巳が『男湯』へ行く際にひと騒動あったのは余談として。 温泉を遠慮したジョハルは磊々さまとまったり過ごしつつ、瓜介は宿の主人を手伝い裏方で走り回った。 立ち上る湯気をぼんやり眺め、一息―― レイアも紅葉ものびのびと四肢を伸ばしてくつろいでいる。 レジーナは久々の依頼に思いをめぐらせつつ、心中で呟いた。 (うん……次も、頑張れる……かな) 今日も歴壁の温泉街は穏やかな夜に包まれ、旅人たちの疲れを癒している。 |