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■オープニング本文 ──チュン、チュン、チュン。 狸長屋の朝は、小鳥のさえずりと茂三夫婦の怒鳴りあいで大体、始まる。 「お吉、また手前ぇ納豆なんて食いやがって。さわやかな朝が台無しじゃねぇか!」 「五月蝿いよ、お前さん。大体、アヤカシがくしゃみをしたような顔をしてどこが『さわやかな朝が〜』って台詞が出てくるんだい」 「この、面で言うんだよ」 「大体、手前ぇ。大事なだんな様に向かって、アヤカシがくしゃみしたような面だと? 俺がアヤカシなら手前ぇはなんでぇ。鬼瓦か?」 と、こんな感じである。 ケンカするほど仲がいい。とは言うが、毎朝なので長屋の連中は結構迷惑である。 最も狸長屋の連中はのんき者が多いためか、茂三の家に文句を言いに行く事はなく、 「ああ、またやっている」 「よく飽きないね」 「仕事に寝過ごさなくていい」 程度にしか思っていなかった。 ただ、今日は少々勝手が違うようである──。 「納豆か‥あれはいけないね」 あんな臭いものは人間の食べ物じゃない、と右隣の親父(大工)が言った。 「おっとつあんったら、先生が健康の為に毎日食べてください。っておっしゃったじゃない」 「そうよ、おまえさん。それに女は食べると肌が白く綺麗になるって言う話じゃ無い。あたしは兎も角、お紺はまだ18だよ」 今の世の中、黒い肌より白い肌の方がいい嫁ぎ先が決まるって話だよ。と色黒の妻が言った。 家族全員、揃って納豆は得意じゃないが、大事な娘と夫のためだ、と女は納豆を家で作っていた。 「1人じゃ食べるのは苦労かもしれないけどさ、皆一緒に食べようって決めたじゃない」 娘の為に頑張れ、妻が言った。 「納豆ねぇ‥健康にいいっていうのは判るけどなぁ‥」 隣のおかみさんが、だんなの健康の為に納豆作りを始めたのは「どうも(臭くて)いけていない」と隣の隣の浪人が言った。 「納豆は美味いよね。たっぷりの葱と削り節、ちょっと醤油をたらして‥」と茂三の左隣に住む小間物屋の男が言った。 「カラシも必要よねぇ〜、生卵があってもおいしいし。それをあつあつご飯の上にタップリと乗せて」 最高なのは水戸屋の引き割り納豆だ、と男の同棲相手は言った。 「引き割りだって、いけないよ」 あれは邪道だ、と男がが言った。 ──伝染病のように何故だか今日のケンカの原因「納豆」に激しく皆、反応した。 *** 「で‥‥長屋全体のケンカ原因を探して欲しいという訳ですか?」 人々を惑わすアヤカシでもいるのだろうか? と受付は思ったが、大家の反応は違った。 アヤカシがいるとか、アヤシゲな術をかけられたとか、そういうのではない。と大家。 納豆が美味いと思っている人が世間様にどれだけいるのか、不味いと思っている人がどれだけいるのか、示して欲しい、と言う。 「何百人とアンケートが取れればいいんでしょうが、このバカ騒ぎに(この不景気の中)大金はかけられませんよ」 「つまり‥‥?」 開拓者の何人かが長屋に来て住民の前で「ここが納豆の良い・悪いところだ」という話が聞ければいいと大家は言った。 若干、受付はめまいを感じたが、これも世の中の平和の為だ、と大家の申し込みを受け付けた。 ──隔して「納豆のここがすごい(駄目な)点弁論大会出場者募集」という微妙な依頼が張り出されたのであった。 |
■参加者一覧
天津疾也(ia0019)
20歳・男・志
ルオウ(ia2445)
14歳・男・サ
斉藤晃(ia3071)
40歳・男・サ
天ヶ瀬 焔騎(ia8250)
25歳・男・志
ジュニパー・ヴェリ(ib0348)
17歳・男・魔
四方山 揺徳(ib0906)
17歳・女・巫
琉宇(ib1119)
12歳・男・吟 |
■リプレイ本文 床の間に納豆が積み重ねられ、その前に高座が設えられる。 両脇には大家と女房、巨大なお櫃が並び。反対側には納豆を語る開拓者6人が並んで座っていた。 下座にMy茶碗と箸を持った住民達が座ると会が始まった──。 「1番。志士 天津疾也(ia0019)。よろしくたのむで」 高座に上がる疾也に住民達の視線が集まる。 「あー納豆なあ。まあ、独特の風味もあるし、好き嫌いが明確に分かれるからなあ。俺の回りも嫌いなのが多かったし‥‥」 まずは関西人らしく納得したように頷きながら、納豆嫌いのフォローから。 「あ、ちなみに俺は好きなほうな」 「まず臭いの元だが、元来いい納豆っちゅうもんは嫌なにおいがしないんや。悪い臭いっちゅうのは質の悪い品っちゅうことやろ。ええもんは包んでる藁がその臭いとかを吸ってくれるんや」 さすが商家の三男坊。商売人らしい目線から住民らに語り掛ける。 「次にねばねばやが、あれはよーくかき混ぜてくると納豆自体が変化してねばーっとしなくなるんやで。それがないっちゅうことは単に混ぜ方が、納豆への愛が足りないんや!!」 ひたすら掻き混ぜるべし。という疾也。 「さらに体によしや。畑の肉といわれるほど栄養があるしろもんやからな、肉と違ってぶよぶよになる心配もあらへん。お肌も健康にしてくれるんやで」と健康面をアピールする。 「さて、実際に食しておいしい納豆があることを納得させるため質のいい納豆を用意した」 論弁した内容が事実であることを証明する。というのだ。 丼に豪快に納豆を放り込むと疾也はひたすらシンプルに何もかけず納豆を箸で掻き混ぜる。 「ここは、愛を持ってよーくよーく丁寧に掻き混ぜるんや」 茶碗に白飯が盛られ、よく掻き混ぜられた納豆が乗せられる。 他にも粘り気や臭いが少ない揚げ納豆や納豆汁も添えられる住民達も試食である。 「騙されたと思って食べてみるんや」 たしかに匂いがきつくなく。ねばねばもまったく無いとは言わないがすっきりとしている。 「くぁ、やっぱり最高っ!」 がつがつと飯を食う疾也。 「2番、俺はサムライのルオウ(ia2445)! よろしくなー」 「あ、せっかくだし納豆食おう!」 ルオウは持ってきた納豆を器に移すと刻んだ葱混ぜて、醤油をちょっと足すと白飯の上に乗せると住民達に配っていく。 かっ込むルオウがこういった。 「か〜っ、やっぱり旨いね。出来立ては」 腹が落ち着いたところで話し始めるルオウ。 「ジルベリア人とのハーフだけど、生まれた場所は天儀だしはっきり言ってまったく抵抗無く食ってる。ご飯以外にはかけようとかは思わないけどなー邪道って言うわけじゃないけどなんか合わない気がする」 「あ! でもスパゲティだけは別な。お袋がよく材料手に入った時だけジルベリア料理作ってたけど、スパゲティに納豆ってのは結構美味かったなー」と母の手料理を思い出すルオウ。 ちなみに俺は、あんまり健康とか美容とか考えて食ってるわけじゃない、という。 「単に美味いから。その上で健康にもいいっていうなら最高じゃん!」 「‥‥ただジルベリアの友人に聞くと『ええー? これ食べ物なのか?』って言う奴もいるんだよなー。だから食えないってやつもいるのは知ってるけどそれって単なる慣れなんじゃないかって思うんだ」 納豆に限らずチーズも然り。松茸ですら人によっては悪臭に感じるのだ。 「なんか最後擁護してないような意見になっちゃったけど、結論としては慣れればヤミツキになる旨さって事でさ!」と纏める。 「匂いがダメって奴も居んだろうけど、誰だって苦手なもん位あるだろうし、何より飯は仲良く食いたいじゃん? だから文句を言うのだけはよさねえ?」と笑った。 「3番、斉藤晃(ia3071)や。納豆はあの臭みが肴のアテにええんやけどな」 どっかりと高座に座った晃。 「わしの場合は、基本的に嫌いなものはないがね」 なんであんまり参考にならんかもしれん、と前置きが入る。 「豆腐もええが納豆もええの」 手作り納豆の基本を語りながら如何に美味しいを語る晃。 「わしは納豆はウズラの卵と葱でご飯にぶっかけて朝からたべるんがすっきゃねん」 納豆は匂いが悪いが、美容と健康にもよく栄養価も高いと語る。 「素のままやと確かに匂いが悪いがそれを補って余りあるもんがあるんや」 ポンポンと手を叩くと納豆料理と杯が運ばれてくる。 「納豆嫌いという人は匂いから来る者が殆どや」 晃が紹介したのは、納豆オムレツ、納豆餃子、ねばねばキムチの3品を紹介する。 「納豆オムレツは、納豆と卵を混ぜるとマイルドになって匂いが余りきにならへんのや」 餃子の皮に餡を納豆に変え、ラー油とごま油でこんがりキツネ色に揚げてある。 「簡単納豆餃子や。これはスタミナもついて酒の肴にもなる」 餃子の皮包む事により納豆の臭みとねばねばを気にしないで食べる事が出来るという。 そして最後に登場したねばねばキムチだが、納豆、キムチ、オクラをあわせたシンプルな一品である。 「これはご飯との相性もよくてばつぐんにうまいんや!」 普通におかずになると、長屋の女達が晃の料理をぱくついている。 「匂いがきくても食べ方を工夫すれば食べれるものになるのにな」 最後に納豆酒を取り出す晃。 「三寸酒ちゅう納豆をつこうた酒や」 飲み続けると背が三寸伸びると言う逸話があるという楽しい酒だと晃がいった。 晃曰く、ようは手間を惜しまず食を楽しめということらしい。 「4番、衝動的に食べたいときに納豆を食べる志士、天ヶ瀬だ!」 天ヶ瀬 焔騎(ia8250)は、何も言わず「とりあえず納豆食わせろ!」とばかりに丼に白飯を盛る。 解消屋の焔騎にしてみれば、騒動ある所にお仕事あり。 きっちりはっきり食べず嫌いは解消させるとの意気込みである。 火鉢の上に油をひいた鉄板を乗せ、納豆、卵、オクラ、擂った山芋混ぜた代物を丸くぶちまける。 表面がプツプツとしてきた所でコテを使ってひっくり返し、じっくりと焼き上げる。 「お好み焼き風納豆だ!」 どん! と皿を置く焔騎に対して、季節によっては山芋が手に入らないと言う住民達。 「ふ‥‥そんなもの解消屋のクオリティが在れば解消するくらいなんて無いぜ!!」 熱く語る焔騎。 「そして───最後は王道の納豆ご飯だ」 コレは外せないだろう? と焔騎。 ご飯の上に納豆を掛ける。 「更に納豆上級者となれば弁当に納豆を‥‥」 弁当を開けた時の臭いとねばねば感を想像し、ぞくりとする焔騎。 「どんな成分があるかなんて関係ない!! 『豆に粘り強く働く』って事で納豆食えばいんだーー!!」 どうやら仕事で苦労しているらしい焔騎だった。 「5番。魔術師をしていますジュニパー・ヴェリ(ib0348)です。宜しくおねがいします」 「私、無人島に一つだけ食べ物を持って行ってもいいって言われたら、納豆を選ぶと思います。それくらい納豆が好きです」 のっけからLOVE納豆。「究極の選択」の先制攻撃である。 「納豆は何に乗せても美味しいです。御飯、パン、素麺‥‥最近は牛丼に混ぜると美味しいことに気付きました」 キラキラとしながら納豆を語るジュニパー。 「夏場は特にべたべたと思われがちな納豆ですが、細かく刻んだトマトと納豆を御飯にかけると爽やかです」 「食わず嫌いな方には一度食べてから判断して頂きたいと思って、初心者向けメニューを持ってきました」 さっと皿に掛かった布を取るジュニパー。 「『納豆の天ぷら』と『納豆入り玉子焼き』です。ふふっ‥‥被っているなんていってはいけません。玉子焼きというのは色々な種類があるんです。ほら、全然ネバネバしていませんよ」 ちなみに私のはハーブ入りとなっています、とジュニパー。 さすがジルベリアの魔術師である。 「天ぷらは塩、玉子焼きは醤油をつけるのがお勧めです」と食べ方の指導つきである。 「あ、私の分も残しておいて下さいね。絶対に」 「ここで一言申し上げたいのは、嫌いなら嫌いでいいんです。誰だって好き嫌いはありますし‥‥私がどうかと思うのは『健康にいいから』って理由でいやいや納豆を食べてる人です!」 押さえ切れない衝動にぷるぷると震えるジュニパー。 「例えて言うなら、嫌いな女と財産目当てで結婚するみたいな‥‥納豆が嫌いなら嫌いで貫き通したらいいんです。健康にいいくらいで無理に食べるなんて‥‥そんなの‥‥納豆に対する冒涜だ!!」 ジェニパーにどうやら神が降りたようである。 「俺は納豆が健康に悪くたって食い続ける‥‥それが本当に好きってことだろ 俺は納豆を愛してる‥‥この世のどんな食品よりも 世の中の全てが納豆の敵に回っても、俺だけは納豆の味方だ!!」 ゼェゼェと肩で息をするジェニパー。 「‥‥ごめんなさい、つい興奮してしまって」 ふっ‥‥と乱れた髪を整える。 「他の食品では好き派嫌い派で喧嘩になったりしないのに、考えてみればおかしな話ですよね。どちらも互いを尊重する‥‥それでいいじゃないですか」 納豆を愛してくださいとジュニパーは括った。 「6番、巫女の四方山 揺徳(ib0906)。よろしくたのもー。今日は納豆が食えると聞いて参上したのでござるよ!」 とりあえず大家に大盛り飯と納豆を頼む揺徳。 「納豆が好きか嫌いかはいい。納豆を食えでござるー! むしろ拙者が食う! 一昨日から水しか摂取してないでござるー!」とジタバタとしながら座布団を齧る揺徳。 「納豆おいしいです。世の中には食べたくても食べられない人が(以下、略)」 つまり要約すると「なっとうをよこせ せっしゃは かみになるでござる」 駆けつけ3杯丼を空にし、大家の女房特製の胡瓜の古漬けをたいらげまずは一息である。 「まあ‥‥納豆が敬遠されるのは『匂い』『糸を引く。ぬるぬるねばねば』が原因でござろう」とお茶を啜る揺徳。 「匂いは拙者に言わせれば漬け物だって妙な匂いでござろう? 慣れれば、アレがたまらん匂いに感じるようになるでござるよ」と真顔で言う。 「糸引き+ぬるぬるねばねばでござるが‥‥」 にへらっと顔が崩れる揺徳。 「世の中には納豆プレイという物があって、あれがまた、ウヘヘ‥‥(イカン、口が滑ったでござる)‥‥ご飯に混ぜれば、カッこみやすいでござろう」 「何はともあれ納豆スキーな拙者おすすめの食べ方は──そのままモリモリ‥難易度が高かったでござるかね。豆の旨味が良い感じでござるよ? そのままイける様になるまで頑張る事をおすすめでござる」と真顔で勧める。 「厳しいと言うのであれば、色々と混ぜ込むと、嫌われがちな匂いが薄れるでござるよ?」 「例えば‥‥納豆+醤油+高菜炒め。高菜をごま油でさっと炒めた物を納豆ご飯にブチ込むだけでござるー」 ぐぎゅーとお腹が鳴る揺徳。 「想像したら‥‥お腹が減ったでござる」 はぁ〜と切なげに溜息を吐く。 「他にも‥‥納豆汁。味噌汁に納豆を入れるだけでござるー。が、これがまたうまいでござるよ‥‥‥‥お腹減ったでござる」 ぐぎゅー、ぐきゅーと大きなお腹の音を立て、お腹がすいたという揺徳に大家が大きいお櫃を手渡した。 「7番、吟遊詩人 琉宇(ib1119)」 ──7番? ふと見ればいつの間にか1人の数が増えていた。 座敷童かと思ったが、どうやら開拓者のようである。 「僕は琉宇。狸長屋が何か面白そうな事になっているって聞いて来たところ」 実際、覗いてみたら言々轟々の声が聞こえてきたという。 「よく聞いたら納豆でケンカしているじゃない。『あはは、面白そう』ってね。これならば自慢の小噺で応られるかな」 どうやら飛び入り参加らしい。 住民達の前に進み出る琉宇。 「さて皆さん、少しお時間を頂いて噺を披露させていただきます」 高座の上でぺこりと頭を下げる。 「この中で納豆が好きな人ってどれくらいいるのかな」と住民を見回す琉宇。 納豆愛の洗脳がすすんでいるのか、手を上げる人数が会の開始時よりも増えている。 「うんうん。じゃあ嫌いな人は?」 おずおずと嫌いな住民が手を上げる。 「うんうん、同じくらいだね。え? 17人いるんだから奇数だって? あはは、話を伸ばせさせるね、納豆みたいだよ。いいの! そこのもふらさまが挙げていたの!」 くすりと住民らが笑う。 「でも、こんなに好き嫌いが分れる食べ物も珍しいね。食べると健康にいいけれど、食べてる最中は気分を悪くする人もいるしね」 うんうんと大工の親父が頷く。 「いいことを思いついた。納豆好きな人、こっちに集まって。嫌いな人はこっちにね」 両手を箱を運ぶような仕種をする琉宇。 「納豆も同じように、健康に良くておいしいところをこっち側に、気分が悪くなっちゃう部分はこっちに分解するんだ」 「そんなことできない? まぁ小噺なんだから」 「‥‥で、そうすれば納豆好きな人は大満足。嫌いな人は‥‥、あ、あれ?」 あ、あははは。と笑う琉宇。 「じゃあ逆にすれば。好きな人にキブンワルイを、嫌いな人にケンコウダー。 これで帳尻が付いたよ。 ‥‥え、何も解決していない? うんうん、それが納豆のすごくてダメなところだよ。 こんな小噺、食えたもんじゃない? あはは、だって納豆だもの。 おあとが宜しいようで──」 ぺこりと頭を下げると琉宇は高座を降りた。 「お腹が減ったでござる‥‥」 ぎゅるぎゅるとお腹を鳴らす揺徳。 打ち上げ兼ねての試食会である。 「他の人が珍しい食い方してるんなら試してみよーかなー?」とルオウ。 ジュニパーが正統派納豆の疾也と玉子焼きを食べ比べている。 「はぁ〜‥‥良い仕事をした後は、酒が美味いな」 焔騎が晃の納豆餃子を肴に杯を空ける。 「こいつにはチーズや豆腐を餡に混ぜても美味いんや」 ぺろりと指についたキムチを舐める晃。 「しかし流石おっさん、食い物に詳しいなぁ」 「なぁに、呑んべぇの道楽や」 美味い肴を探して色々知っているだけだと晃。 モグモグと他の開拓者が作った納豆料理を食べる開拓者達に対してややグロッキー気味なのは大家夫婦である。 「大家さんは、食べないんですか?」 「さすがに納豆の気に当たったというか‥」 それはそうだろう。開拓者の仕込から何やらを手伝い、一日納豆だらけの生活である。 納豆は流石にしばらく見たくない、といった。 「ならば残った納豆いらないなら下さいでござる」と懇願する揺徳であった。 さて、この後、長屋の住民らがどうなったかというと── 熱い納豆・愛に感化された狸長屋の住人達は、長屋総出でせっせと納豆を作り、納豆を食べることにした。 綺麗なマメと綺麗な水、綺麗な藁。きちんと管理されて作った納豆は損所そこらの納豆よりも上手いと評判になり、長屋の住人達の副収入となったという。 お陰でいつしか狸長屋ではなく納豆長屋と呼ばれるようになったそうな。 どんとはらい── |