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■オープニング本文 ● 神楽の都の北のはずれ。 そこには身寄りをなくした子どもたちや、彼らが頼りにしているババ様という存在がいたりして、何かと賑やかだった。 金はなくても心は豊かというやつである。 それでも冬は寒い。 寒い季節なので、子どもたちもつい縮こまってしまう。 そんな頃に、一人の神威人の青年が入り浸るようになったのはつい最近のことである。 ● 「あ、フーガ兄ちゃん!」 彼を見つけた子どもの一人が、わっと近づいてくる。八歳くらいの、ヒトシという名前の少年だ。 「よお、元気にしてるみたいだな」 フーガという青年は、このへんのヌシ的存在であるババ様に見出された開拓者ということだったが、人懐こい性格のせいかすぐに子どもたちに気に入られたのである。 「最近寒いなー。こういう時こそ子どもは風の子っていうんだけどな」 「それでも寒いのは寒いよ、兄ちゃん」 ヒトシと同じ年頃のカズマがぷうっとリンゴのような頬をふくらませた。 「そっかぁ。それなら、開拓者の兄ちゃん姉ちゃんたちも巻き込んで、鬼ごっことかしたらどうだろうな?」 フーガがニヤリと笑う。 「え、なにそれ。すっごい面白そう」 「開拓者さんって、みんなすごそうだしね」 子どもたちはその提案にすっかり頬を赤らめて喜ぶ。 「じゃあ、俺が少し声をかけてみるか。兄ちゃんにまかしとけ」 フーガはワシワシと子どもたちの頭をなでて、そしてまた笑った。 |
■参加者一覧 / 羅喉丸(ia0347) / 玄間 北斗(ib0342) / 无(ib1198) / リィムナ・ピサレット(ib5201) / わがし(ib8020) / 何 静花(ib9584) |
■リプレイ本文 ● 寒い季節になっても子どもは元気というもので。 とは言え決して裕福ではない子どもたちは、寒空の下で駆けまわる。 ……白い息を吐いて、綿入れを羽織ることもなく。 ● 「あ、この間のおにいちゃんだ!」 子どもたちの誰かが、羅喉丸(ia0347)を指さし、そして駆け寄ってくる。 この間――というのは、先日催された鍋パーティのことである。これによって開拓者と子どもたちが縁を結ぶことが出来たのだが、羅喉丸はそれに参加していたのだ。 「おお、みんな元気そうで何よりだな」 子どもの頭を優しく撫でると、羅喉丸は笑う。 「今日はみんなと遊びに来たんだが……聞いてないか?」 すると子どもの一人がピッと手を上げた。 「鬼ごっこだよね! もう割り振りも考えてあるよ!」 その子は良く見るとあげた手が寒さにかじかんでいる。リィムナ・ピサレット(ib5201)は目を大きく開けて、そしてにっこりと笑った。 「寒いもんねー。今日はおもいっきり遊んで、いっぱい動きまわって、あったまろうね!」 子どもたちもリィムナの明るい声にこくこくと頷く。元気な、同世代ほどの少女でも開拓者がいることは知っているが、彼女の人懐こそうな笑顔を子どもたちもすぐ気に入ったようだ。しかも、彼女は今回子どもたちよりもさらに薄手のバラージドレスをまとっている。寒い中でも元気のあるところを見せるにふさわしい格好であろう。 そんな姿を見て、无(ib1198)がわずかに笑んだ。懐には宝狐禅のナイが、首を傾げて无を見上げている。それにそっと触れながら、幼いころのことを懐かしく思い出していた。そして、丁寧に挨拶をする。 「私は无、といいます。こちらは尾無狐のナイ。よろしくお願いしますね」 そしてひとりひとりの顔を優しく見つめ、名前を問うていく。子どもたちもそういう扱いを受けるのが嬉しくて、我も我もと名乗りを上げた。 「そうだ、これは私からなんですが」 手土産にと携えてきたのは防寒胴衣。子どもたち全員のぶんがある。裕福ではないがために薄っぺらくなった綿入れや、あるいはそれもなしで歩きまわっていた子どもたちは、わっと声を上げて喜んだ。早速渡された防寒具に袖を通す。 「うわあ、開拓者のおにいちゃんありがとう!」 「あったかーい!」 子どもたちも嬉しそうに笑う。リィムナも実は同じような手土産を用意しているので、考えることは似ているなと思わず苦笑してしまった。 「冬のあったかい服装って、ふたつあっても不便はしないでしょ?」 しかも子どもたちの保護者的存在である『ババ様』――トシ刀自のぶんもあるのだという。ちょろっと舌を出したリィムナは楽しそうに笑った。 「あ、鬼だ!」 「鬼のねーちゃんだー!」 誰かが開拓者のひとりを指差す。鬼と言ってもそれはいわゆる『角のある外見』――つまり。 「違う、修羅だー」 何 静花(ib9584)がその声に合わせるようにしてばあっと手を広げる。真面目で義理堅い割にどこか抜けているなど、何かと残念な彼女だが、今回もしっかりと土産などは用意してあった。 弁当やお菓子や飲み物は子どもたちと一緒に分けて食べられるよう。 冷えた体を温めるための七輪や毛布。飲み物もあたたかくして飲めるようにという配慮付きだ。 ……だがちょっと待て、と誰かが心のなかで思ったのは、ツッコミ用のハリセン、それに――ぱんつ。 繰り返す、ぱんつ。 「鬼のぱんつだー」 「よいものだー」 所持品の中からそれを見つけた子どもたちがキャッキャと騒ぐ。 「いやそれ変態だろ」 冷静……に、ツッコミを入れる静花。まあ、子どもの戯れるさまはだいたいいつもこんな感じであろうから、気にしすぎてはいけない。 「でも、やるからにはしっかりと……ですよ。でもその前に、少しだけ話をしましょうか」 静花が温かい茶を振舞っている間、わがし(ib8020)が琵琶を取り出す。嫋々とそれを弾き語るさまは、流石吟遊詩人という感じであった。 「……大アヤカシに果敢に立ち向かうは英雄たち。彼の者は切り込み、また彼の者は傷を癒やす。さてその結末は……おや、そろそろいい頃合いでしょうかね?」 琵琶を使って語るさまは堂々と、一方で普段の感情は読みにくいわがし。けれど幼い子どもたちとあることで、どこか刺激を受けたのだろうか、ほんのりと微笑んでいた。と、向こうの方からどこか傾いた印象の神威人の青年が駆け寄ってくる。羅喉丸は見覚えがある顔だった。先日の鍋の時にもいた、フーガという青年だ。 「おお、今日も寒い中来てくれてありがとな。こういうのも、たまにはいいだろ? ガキの頃思い出してさ」 フーガはケロッと笑う。 「鬼役は少ないようなので、逃げる方に回ろうかと」 「私は見た目がこれだからな。鬼をやるには適任だろう」 わがしと静花は早々に決めていたらしく、それぞれ分かれていく。他の仲間達もさくっと鬼と逃げる側にわかれる作業は終わる。 すなわち、鬼役には静花、リィムナ、无。 逃げ役に羅喉丸、わがし、そして玄間 北斗(ib0342)。 北斗は『子どもたちが笑顔で楽しめるように』と、コミカルなたれたぬきさんの姿で今回訪れている。じっさいその効果は抜群で、すっかり子どもたちの人気者になっていた。 「おいらもみんなの仲間だから、がんばるからな」 そういえば、同じように逃げる側の少年少女達も大喜び。 フーガは鬼側につくことにした。そのほうが面白そうだと踏んだのだろう。 「まずは開始までに少し作戦会議をしたいですね」 わがしが提案する。人数の差、戦力の差などを考えても、それは良い考えであるのは間違いなかった。 「子ども相手だから、開拓者は手加減もしないといけないしな」 羅喉丸も頷いた。北斗は子どもたちの支援を中心に考えているらしい。 「もし捕まっても、おいらたちに任せておくのだぁ」 笑顔が、妙に心強かった。 一方の鬼側は、三人の子どもたちとこちらも作戦会議。 「やはりこういう時は子どもが主役でしょう? 私は補助に回らせてもらおうかと思います」 そう言って微笑む无。 「あたしは空中機動とかでみんなにも楽しんでもらいながら追跡しようと思うんだ♪ あ、もちろん子どもたちには手加減するけど、開拓者にはガチだからね」 リィムナは子どもゆえの無邪気で怖い発言をさらりという。 「開拓者にはハリセンを使うつもり、だが。大丈夫だろう、問題ない」 人見知りだがボケにはきっちりとツッコミを入れるような妙な生真面目さを持つ静花は、静かにそう言ってみせる。 「おお、なんだか楽しくなってきたな!」 フーガが嬉しそうに茶色い毛並みの尾を振れば、子どもたちもニンマリ笑顔を作ってみせる。こちらに来た子どもはどうやらいずれもいたずら盛り、楽しそうに今か今かと待ち構えている。 「さあ、それじゃあ始めるか!」 フーガの言葉に、子どもたちはきゃっと歓声をあげた。 ● ――逃げるは十人、追うは七人。 子どもたちは楽しそうにきゃっきゃと言いながら逃げまわる。そして開拓者はといえば――彼らの持つ驚異的な身体能力や特殊な技能を披露しつつ、楽しく逃げ、あるいは追いかけていた。 「今日は俊敏さに磨きをかけてきたんだ♪」 リィムナは防御よりも攻撃に回る側。広場を疾走すると、ぴょいっと斜めに跳躍した。空中から自作のアンカーを地面に投げて刺し、さらに方向転換して引きぬき、巻き取って着地する。こうすることで空中を自在に飛び回ることができるのだ。しかも跳躍するときは大道芸人も真っ青な開店やひねりを加えて見る者を驚かせるように心がけている。 もちろん、誤ってアンカーを人に当てたり、体当たりが起きないようにという配慮は欠かせない。 「開拓者ってすごいなあ……」 子どもの一人が、感心したように声を上げる。開拓者の卓越した能力を垣間見る機会はなかなか無いので、心なしか嬉しそうだ。 一方、逃げる側の羅喉丸たちとて、決して手を抜くわけではない。手加減というのは実はかなり技術を要するものである。 (俺の他にも瞬脚を使える参加者がいてもおかしくないな) そう思いながら、背後への注意を怠らない。回避力も上げて、捕まりにくいようにする。 北斗はあえて子どもたちの脚力にあわせた行動をしていた。同じくらいの速度で逃げ回れば、子どもたちも安心するだろう。すっと仲間に近寄ってくる鬼役の子どもたちをけん制するかのように、逃げ役の子の背中を軽く押して逃げやすくしたり、あくまでも子どもが主役というように動き回っている。 子どもが主役―― それは他の開拓者たちも似たようなことを考えていて。 无は、 (少しずるいですけれどね) そう思いながら人魂を操り、隠れている子どもたちがいないかを確認する。それを見つけたら子どもにこっそり伝え、活躍してもらう――そんな構図だ。 もちろん開拓者が相手となれば手は抜かない。むしろ『子どもでも開拓者を捕まえることが出来た』という喜びを与えるために呪縛符を用いて逃がしにくくする――といった塩梅。 お互い『開拓者には問答無用』と半ば思っているから、スキルや術を適度に用いるのだ。 また、わがしは『おとり作戦』をを考えていた。 陣地を守る鬼はかならずいるはず。そこを少数であえて攻め、深追いさせた隙に残った鬼達より多い人数で攻めて解放する……うまくこれを繰り返せばそれこそイタチごっこだ。 北斗の方も似たようなことを考えていて、逃げる子どもの数が少し減ったら、体力のことも考慮して大丈夫そうなら鬼たちのもとに近寄りつつ、引き寄せられたところで移動力を向上させて一気に仲間を解放する、という算段。 じっさい、さっくりと鬼に捕まった子どもたちは二、三人。そして残って守りを固めているのは開拓者のフーガなので気をつける必要はあるが、それでもわがしがおとりとなって引き寄せればその隙に北斗が近づき助け出す、ということは難しくなかった。 フーガ、どうやら身体が先に動いてしまう質らしい。 その代わりにわがしが捕まってしまったが、しかしこれも彼の計算のうち。子どもが主役なのなら、自分が捕まるほうがあるいは楽しめるだろうという配慮なのだ。 ちなみに鬼の静花は基本的に開拓者を狙う。羅喉丸の読み通り瞬脚を使っての移動をこなすことができる静花、逃げ足の早い羅喉丸に照準を定めて追いかける。ハリセン持って。……なにげに怖いというか、シュールな光景である。 それでもその光景を見て、子どもたちが応援したりもするものだから、これはこれで面白い。 「おにいちゃん、がんばれー!」 「鬼のおねーちゃん、負けるなー!」 走り回っているとみんなが楽しそうで、通りかかっただけの大人などもおもわず笑顔をこぼしている。子どもたちと無邪気にはしゃぐ開拓者たちは、やはりどこか微笑ましいのだ。 そして同時に感謝も。 この地区に住む子どもは何かと不遇な目にあった経験のある子が多い。子どもだけで暮らしている家もある。 そんな全てに目を行き届かせるのは難しいもので、だからこそこうやって世話を焼いてくれる開拓者の存在はありがたいものなのだ。 そして北斗も適当なところでわざと捕まり、子どもたちに情けない声を出して助けを求める。 「捕まってしまったのだぁ〜、たすけてなのだぁ〜」 わざと出した声の情けなさに、子どもたちもつい笑ってしまう。 リィムナはアクロバットをしながら子どもたちを追いかけ、无は无で術を駆使して逃げる子どもを捜索する。 しかし、最終的にこれは勝者を決めるための鬼ごっこではなく――そう、動きまわって楽しむための鬼ごっこなのだった。 適度に体があたたまったところで、フーガが苦笑する。 「そろそろやめるかー」 ● 「ねえねえ、さっきの話の続き教えて!」 そう言ってわがしの傍に近づく子どもたち。 「ええ、せっかくですからね。開拓者の話というのは面白いですよ、保証します」 わがしはそう頷くと、嫋々と琵琶をかき鳴らす。 「私も色々なところで聞いた話や、見てきたことくらいなら話すことができるよ」 无もそう言って、お疲れ様と出された茶に口をつけた。外つ国の話に興味を沸かせる子どもは、今度は无のそばにも集まる。 「楽しかったね♪ この後はみんなでお風呂とかもいいなー」 自分の持って来た防寒胴衣を子どもたちとババ様に……と贈ってから、リィムナは無邪気に笑う。寒い時はあったかくなりたいよね、と言いながら。 「でも、みんなすごかったのだぁ〜。おいらも楽しませてもらったのだ」 北斗はそれだけ言ってまたたぬきのようにニコニコと。 とは言え空はそろそろ夕闇色。 開拓者とてそろそろ帰らねば、寒いというものだ。 「ねえ、また会える?」 子どもが問う。 「ああ、縁があるからにはまた会えるさ」 羅喉丸がそう言った。縁――それは何より大切なもの。 羅喉丸も、また会いたいと思ったからこそ、今回の鬼ごっこに参加したのだろう。 「鬼のねーちゃんも、また会える? 節分のとき?」 「いや、そういうネタはもういいから。でも、……うん、会えれば楽しいだろうな」 静花も頷く。 「それにしても今日はありがとな。随分助かった」 フーガが笑う。彼もそれなりに忙しいし、一人で子どもたちの面倒を見るのも大変なのだろう。 「ああ。また会えればいいな」 だれからともなく微笑むと、青年は言った。 「楽しかったぜ。ちょっと小さい頃のこと、思い出したりな」 そう、みんな楽しかった。 みんな、幼いころを思い出していた。 それは案外、子どもたちからの最良の贈り物、だったのかもしれない――。 |