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■オープニング本文 ※このシナリオは初夢シナリオです。オープニングは架空のものであり、ゲームの世界観に一切影響を与えません。 ……たぶん。 ● 三が日も終わり、だれもがうとうととまどろんでいた。疲れもあるのだろう。目を閉じたら、すうっと眠りに吸い込まれていく。 そんな中でふと目を覚ますと――何やらおかしい。そんな気がした。 甘い香りのする、霞のかかったような世界。 何故だろう。 胸騒ぎがして、ぼんやりする中をぽてぽてと歩く。そこで、あることに気づいた。 ――おかしい。 人間の姿が、ない。 いや獣人もエルフも、修羅もいない。 からくりはかろうじているが、最近増えた主を持たないからくりではないらしい。 どうして分かるかというと、どう見ても戸惑っているからである。自主性の強いからくり開拓者よりも、明らかに主体性を伴っていない。 その代わり、めったやたらと相棒の数が多い。正確には、相棒と称されるケモノや精霊たちの姿が多い。しかし、彼らもわずかに戸惑いを感じつつも、普通に生活自体はしているようである。 そして。 ――そういえば鏡を見ていなかったな。 ……たぶん、嫌な予感がするから見ていなかったのだけれど。 いつもと異なる視線の位置。 いつもと異なる世界で、自分だけが変わらないだなんて誰が信じられる? 恐る恐る水鏡をのぞく。 そこには果たして――いつもの姿ではない姿になった自分がうつっていた。 |
■参加者一覧
羅喉丸(ia0347)
22歳・男・泰
礼野 真夢紀(ia1144)
10歳・女・巫
鈴木 透子(ia5664)
13歳・女・陰
アルフィール・レイオス(ib0136)
23歳・女・騎
エルレーン(ib7455)
18歳・女・志
澤口 凪(ib8083)
13歳・女・砲
伊波 楓真(ic0010)
21歳・男・砂 |
■リプレイ本文 たった一晩の、それはきっと夢。 人のいない世界で、人ならざるモノになった、夢。 ● 羅喉丸(ia0347)は、己の姿をゆっくりと見下ろして、そしてふうっと息をついた。その身体は、普段見慣れたものではない。いや、ある意味で見慣れてはいるが――己の身体ではないものであるのだ。 (……胡蝶の夢等というが、まさか自分が鋼龍になってしまうとはな) 苦笑交じりのようなつぶやき。けれど、こういう時こそ焦ってもしようがないことは、彼自身よくわかっている。 (鋼龍の身体というのは、どういうものなのだろうな……?) 準備運動がてら、身体を軽く動かす。人間とは違う骨格などの身体の構造を理解すべく、あちこち動かして確認をするのだ。 ……と、ふとあることが羅喉丸の頭をもたげた。 動物の動きを拳法に取り入れた象形拳というものがこの世には存在する。もし、動物の肉体をもったものがこれらの拳法の動きをしたら、一体どうなるのだろう。 ――面白そうだ。 羅喉丸は口元をニッと歪め――といっても龍であるからその細やかな動きははっきりと伝わらなかったであろうが――いくつかの型をとってみる。 動物の持つ体力というものは人間とは比べ物にならない。龍であれば尚更だ。その強靭な肉体で、人の編み出した術理を使えばすごいことになるのではないか――彼の泰拳士としての、純粋な好奇心と探究心が、体を動かす喜びに打ち震えた。 「上手くいくかはわからないが、試してみるのも悪くはあるまい」 バサリと翼を広げ、そしてそれを何度か動かしてみる。元々が泰拳士、身体を動かすことは得意中の得意なのだ。 鋼龍の名前にふさわしい頑丈さを兼ね備えているか、それを体当たりや尻尾での薙ぎ払いで試していくのも段々と面白くなっていく。はじめは硬くないものを相手にしていたが、身体が物足りぬと主張しているかのように、木や岩にも突進していくのであった。 (それにしてもどうしてこうなったものか) 羅喉丸は考える。原因不明とはいえ、このまま何もせずに手を拱いているのも性分ではない。翼をはためかせると、彼は都の中心に向かっていった。 ● (……記憶があるから、これは多分夢だとは思うんだけど……) そう胸の奥でつぶやいてため息を付いたのは礼野 真夢紀(ia1144)。 (たぶん、正月や四月や十月に時々起きる、奇妙な夢現象のひとつよね) そう頷いて、うんっと伸びをするその姿は真っ白い子猫又の姿。彼女の相棒である小雪とよく似ているが、頭には水姫の髪飾りをつけている。それが真夢紀であることの証明ともいえた。 からくり相棒であるしらさぎが三食を作ってくれるため、食事についての不便はない。相棒のそれとは別に盛られた、特製卵雑炊を食べつつこれからのことを考える。 「……取りあえず、ギルドに行ってみましょうか」 (でも、人のいないこの世界でギルドや依頼の存在ってどうなっているのかしら?) 結局しらさぎに、小雪ともども毛布で包まれた状態でギルドへ連れて行ってもらう。これが存外楽だというのがしみじみとわかり、子猫又がしょっちゅう懐に入るのも理解できるのだが、まあそれは別の話。 ギルドの中にいるのはほとんどがからくりであった。もちろん他にもいることはいるが、筆を持つことができないとやはり厳しそうだ。 掲示板を見れば、見覚えのある文字が。 「あ、来風(iz0284)さんの物語を教えて依頼はあとひと枠、かぁ……この姿のままだとすき焼きつくろう依頼も無理よね……」 開拓者の勤めとして、依頼の吟味も忘れない。 (そういえば来風さんの相棒ってもふらさまよね? でももふらさまって……筆を持てるのかしら?) そんな素朴な疑問を抱きつつ、しっかりと来風の依頼を受ける真夢紀は開拓者の鑑といえる。 「そうとなればお土産を持って行きましょうか。おはぎと……小雪用のスルメも忘れたらいけないわね。歯を強くするには必要なのよ?」 「えー。こゆき、するめもすきだけど、あまいのはもっとすきー」 そんなやりとりはまるで姉妹のようで、普段は冷静沈着なしらさぎもわずかに微笑んだ。 ● 「……ん?」 そんな中で比較的いつも通りな目覚めを迎えたのは、からくりの天邪雑鬼に変化した鈴木 透子(ia5664)。額には御札が下がっていて、それでこれが相棒だとわかったのだ。しかし、なんといっても仕事中というわけでもなく、しかも夢現の霞かかった世界なれば、からくりになっているということも大して気にしないという、なかなか肝の据わった少女である。 それでもどうにも身体がうずくのは、相棒の性格が乗り憑った故だろうか。普段はどちらかと言うとぼんやりしていることの多い性分だけに、なんとも不思議な気分である。 (落ち着かないなら出かけてしまう方が楽かもしれない……?) それならばと、透子は街を散策することにした。透子にとって画期的だったのは、その足取りがスキップになっていることである。普段はおっとりぼんやりの透子とはずいぶん違う足取りに自分でも驚きつつ、それでもやっぱりどこかぼんやりな彼女はふと思った。 「そーいえば、この子は普段何をやってるんだろ?」 そんなことを思いつつ近所の子ども――と思われる忍犬や猫又たちと出会うと、彼らは楽しそうに天邪雑鬼の姿をした透子に近寄り、話しかけてきた。 「あ、――ちゃん!」 その呼び名は、恐らく子どもたちが相棒の長い名前を聞いてつけたあだ名であろう。センスが良いか悪いかというと甚だしく微妙だが、それを聞いた透子は心の中で一言。 (……うーん、じぇじぇじぇ?) それにしても気になるのは集まっているのが男の子ばかりであることだ。性別の分かりかねる相棒の友人というには男女比がかなり偏っている気がするが、それもそのはず、なんと隣街の子どもたちとの戦争ごっこが流行りなのだという。天邪雑鬼はどうも、この戦争ごっこにおいて外人部隊的存在らしい。透子としては行く気はなかったのだが、相棒の影響だろうか、思わず飛び跳ねて賛成していた。 はじめはやる気もそれほどなかったが、遊びが進んでいくうちにどんどん本気になるのは本物のアヤカシとの戦闘も知っているからだろうか。 (この子もこんなことしてるんだな) 透子はなんだか嬉しくなった。 ● 周囲を見ると、ケモノや精霊ばかり。 自分を見れば、相棒の羽妖精ルフィアの姿――アルフィール・レイオス(ib0136)は一瞬言葉を失った。 (あいつはよくこんな格好で平気だな……着替えたいがそれもないし、仕方がない) ちなみにこんな格好というのは露出度はやや高めだがごくありがちな女物の衣服である。アルフィールは女性である自覚が薄いため、婦人用品を身に纏うことも滅多にないのだ。 (まあ、外見がルフィアなら女物でもそれほど酷くはないか。中身が俺と考えると、元のルフィアに比べて似合わんだろうが) そういえば元のルフィア本人はどうしているのだろう? 考えてみると彼女の姿はない。身体の大きさや羽での飛行になんだかんだで適応している自分に驚きつつ、ふと思うのはよく考えると至極真っ当なことだった。 「……なにはともあれ都を回って調べるしかないな。これが夢なら楽なんだが」 しかしその場合も内容が内容だけに自身の精神状態に自信が持てない気もしなくはない。しかし何をどうすべきかもわからないので、頭を抱えてしまう。 ――と、空を悠々と飛ぶ鋼龍の一体が、すっと近づいてきた。羅喉丸である。 「おお、俺以外にもいたのか」 「まったく同じ気分だ」 羅喉丸とアルフィール、ずいぶん身体のサイズは異なるが同士を見つけた喜びに感動していた。 「しかし不思議な世界だな。まるで夢のような……」 「俺も同じようなことを考えていた。しかし元に戻れないことも想定して、この体に慣れることも考えねば」 アルフィールはその身体で刃物を振りかざす。厳密には包丁なのだが、今の彼女には十分な得物だ。 「……まあ、気をつけることだな」 体の大きさが変われば、見る世界も変わってしまう。それがわかる羅喉丸だからこその忠告を与え、彼はまた飛び立っていったのだった。 ● 手足の長さが圧倒的に違った。 「え、ええっ?!」 エルレーン(ib7455)は、驚愕に震えた。顔を洗うにも一苦労、歩きにくいことこの上なし。 そう――彼女は今、すごいもふらになっていたのだから! 「とりあえず、ご飯をつくろう……」 しかし、それはわずか十分もたたずに挫折せざるを得なかった。 なぜなら、肉球おててでは包丁は握れないから! そしてもふらさまといえば、普段は四足歩行。二足歩行もできなくはないけれど…… 「ううっ、よつんばいで歩くなんて……ぜっったい、いやっ!!」 涙混じりのエルレーン。普段は相棒であるすごいもふらのもふもふにかなり傍若無人な振る舞いをしているから、余計なのかもしれない。 「うーん、おそばとか食べたいけれど……」 外食のためにぽてぽてと歩きながら、首を傾げる。 「おはしとか、どうすればいいんだろ……」 もふら七不思議のひとつである(嘘)。 おなかがくちくなったところで、開拓者ギルドの存在を思い出したエルレーン。 (もしかしたら……何か、情報が得られるかも?) もっふもっふと歩いて行く……が、なにしろもふらさまの手足である。短い。ということはすぐへとへとになってしまう。 「うう……疲れちゃったもふぅ」 その瞬間、エルレーンは恐怖に打ち震えた。 もふら語が、彼女を侵食していることに気づいたからだ。慌てて取り繕うとする……が、 「や、やだあ、このままだったら……わ、わたし、本当にもふらになっちゃうもふぅ〜!」 ぶわっと泣きじゃくり始める。周囲に人間がいないか、必死で探しまわるが……人らしき姿は、ない。 「このままもふらのままでおわっちゃうのかな、もふ……まだすてきな恋人もできてないのに……。もふらさまとけっこんして人生、じゃなくてもふ生がおわっちゃうんだ……」 しくしくと泣きぬれるエルレーン。 と、 「そこのもふらさん、もしかして……?」 からくりに抱っこされた白い猫又が、目をパチクリさせながら尋ねる。真夢紀だ。エルレーンも何度か、その猫又やからくりを見たことがあるからピンときた。これは救いの手だと。 「もふ〜!」 恥も外聞も投げ捨てて、エルレーンはしらさぎに泣きついた。 ● (それにしてもどうなってるんだろうねぇ、これ……) 澤口 凪(ib8083)は呆然と途方に暮れた心境で、己の姿を見下ろす。相棒である岳よりはわずかに小さいが、それでも立派な甲龍の姿なのだから、驚かないほうが不思議というものだ。と、ふとある疑問が頭をもたげた。 (普段は背ぇに乗してもらってんけんど、自力で飛ぶってぇどんな塩梅かね?) 元に戻る手段はひとりでは見つけられそうもない。それならいっそこの状況を楽しんでしまうほうが勝ちというものだろう。開き直ってしまえば年若い少女のこと、空を飛ぼうと張り切り始めてしまうのも自明の理。 (ちゃんと飛べるようなら、他にも空を飛んでる奴らとかと話してみたいなあ) 考えることはいかにも少女らしく夢のあることだ。とはいえ、彼女は結構な現実主義でもある。 (まあこの状況だと、元から龍やケモノや精霊ってぇよりも、自分のように姿がおかしなことになっちまったヤツのほうが多そうだろうけどねぇ) 翼を何度か試しに羽ばたかせると、確かに飛べそうだ。力を無理に入れず、軽く地を蹴ってみれば、ふわりと身体が空に浮く。もちろん満足な飛び方ではないけれど、それでも十分すぎるくらいだ。 見える限りの遠くまで飛んだり、川で魚を捕まえたり……そんなことをぼんやりと夢見る。 近づいてくる鋼龍にも、はじめは気づかなかったくらいだ。 「おーい、あんたはもしかして開拓者か? ヒトか?」 そう尋ねられてよくよく見れば、見事な鱗の鋼龍が、彼女に問いかけてきている。 「あなたは?」 凪は驚きを隠せぬままに問いかける。もちろんこの鋼龍は羅喉丸であり、互いの状況をすぐに理解することができたが。 「……とりあえずあたしは、もうちっとこの状況を楽しんでおくよ。夢にしろ真実にしろ、めったに無い機会なのは間違いないからねェ」 凪は年頃の少女らしい笑顔を浮かべる。 「そうか。俺はもう少し、この辺りを確認してくる。……夢なら、覚めるといいな」 「それはお互い様」 羅喉丸の言葉に凪は首を縦に動かした。 ● ――どうしてこんなところに? 伊波 楓真(ic0010)は、野原に放り出されたような状態でぼんやりしていた。その姿は黒い身体に白い角の、見事な炎龍である。しかし、彼はまだそのことに気づいていない。 (うーん、見たことのない場所ですね) そう首を動かして、体の違和感にようやく気づいた。 いつもよりも、重い。 慌てて水鏡に写してみれば、そこにいたのは一匹の龍。 しかし驚きはしたけれど、彼にとっては喜びのほうが大きかった。 「一人で大空を駆けまわることができるだなんて!」 はじめこそ慣れない飛行という経験に戸惑ったが、コツを掴めばこちらのもの。楓真は喜びのあまりアクロバット飛行までしてしまったくらいだ。 ひょいと地上を見てみれば、酒場のランプが目に入る。街を龍の巨体が闊歩しても何も言われないのはやはりおかしな状況である――とは思ったが、まあいい。しかし、酒場に入ろうとして気づいた。 身体が大きくて入り口でつかえてしまうのだ。 何度も何度も身体をぶつけながら、無理やり入ろうとするけれど、流石にそれは無理のある話。 「店主、もう少し入り口を大きくしてもらえないですかねぇ」 そんな言葉も聞き流され、結局疲労困憊、諦めるほかなかった。 「あぁ、元の姿に早く戻りたいですね」 そんなため息が、知らずに漏れる。すると、それを見ていたもふらが、大きな目に涙をためて喜びの声を上げた。 「この人、開拓者もふぅ〜!」 同じ状況にあるエルレーンは、むせび泣きながら楓真に抱きついた。 「まゆたち以外にもいましたね、やっぱり……」 後ろから真夢紀も近づき、喉を鳴らす。 楓真も仲間の発見を喜ばないわけがない。エルレーンと真夢紀を背に乗せ、最初にいた野原まで戻って戻る方法をああだこうだと三人で話し合う。 しかし冬にしては暖かな風が吹くなか、柔らかい日差しと相まって、三人共がやがてうとうととまぶたが重くなっていった。 考えすぎてもダメだ。少し休憩もしないと―― そう思って、三人は目を閉じた。 大きな身体の炎龍と、それに寄り添うようにして微睡むすごいもふら、そして幼い猫又。 それはまるでお伽噺の挿絵のように、優しい光景だったろう。 ● たった一度の夢のなか、人々は何を思う。 けれど、言えるのは。 どんな世界でも、人は変わらぬということ――かもしれない。 |