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■オープニング本文 ● 「なんだか、お祭りみたいだね……」 来風(iz0284)は、朱藩国、春夏冬の地を訪れていた。 それというのも―― 『街のゆるキャラを決めよう!』 と言う、何とも魅惑的な言葉をギルドで発見してしまったためである。 ゆるキャラ。 早い話が、街の『ますこっと』というやつだ。どこか力抜けしたようなものの方がいっそう好まれるらしい、とは誰かが言っていたような気がする。 「それにしても、ずいぶん賑やかな街だなぁ」 賑やかさと言う点では安州が勿論朱藩の首都なので賑やかなのだが、彼女が知っている街では特に賑やかな印象を受ける。 「お嬢ちゃん、ここは何しろ観光の街だからね。観光のためなら、結構なんだってやっているものさ」 屋台で大判焼きを売っていた男性がそう言って笑った。それをはむはむと頬張りながら、もふらのかすかがこっくり頷く。 「つまり、あそんでもかまわないまちもふね?」 「そういうこった」 ゆるキャラコンテストとやらも、その一環らしい。 実在・非実在を問わず、街のマスコットになり得る存在を募集――これは街の「愛犬茶房」女給頭の月島千桜(iz0308)の発案だそうだ。来風はその見物にきたというわけだが、さて。 きっと愉快なことが、もうすぐ始まる。 |
■参加者一覧
御陰 桜(ib0271)
19歳・女・シ
蓮 神音(ib2662)
14歳・女・泰
羽喰 琥珀(ib3263)
12歳・男・志
黒曜 焔(ib9754)
30歳・男・武 |
■リプレイ本文 ● 春夏冬の街も、どうも再開発当初に比べればそれなりの知名度は出てきているようで。 『ゆるキャラこんてすと』なるものが開催されるとなって興味を抱いたであろう観光客はそれなりの人数がいた。春夏冬の街じたいが、平時よりもずいぶん混雑した印象を与える。 月島千桜(iz0308)はといえば、そわそわとしていた。 以前に観光大使を決めたことはあったが、あれも年を経て変化するであろうもの。 しかしゆるキャラに関しては、よほどのことが無い限り変更と言うことがあり得ない。それは二次元の存在であることがほとんどであり、街の象徴として刻みつけられるからだ。 ――そんなわけで、いつになく緊張している千桜である。 ありがたいことに応募はそれなりの数を頂いた。 ゆるキャラの案にあわせての諸々のセッティングはで来ている。 あとは、本番を待つのみ――だ。 ● ――こんてすと前日。 春夏冬の街は今日も賑々しい。。明日になれば街のますこっとが決まるわけだから、注目しないでいるという方が無理な話だ。 「……そういえばゆるきゃらを作ろうなんて話も出てたわねぇ……見物がてら一つくらいは案でも出してみようかしら」 そう思いながら応募していたのは春夏冬の――いや、愛犬茶房の常連の一人、御陰 桜(ib0271)である。今日も相棒の闘鬼犬・桃、更に又鬼犬の雪夜も伴っての外出。相棒たちもなんのかんので勝手知ったる春夏冬の地、ほんのちょっぴりはしゃぎ気味である。 彼女の思う春夏冬の印象――というのは、なんといってもやはり愛犬茶房と、相棒連れで入浴の出来る相棒温泉だ。街全体が相棒という存在にどこかやさしいこの春夏冬では、こうやって複数の犬を引き連れている姿も結構見受けられる。 (うーん、うちのコたちは当然カワイイけど、ずっと春夏冬においとくわけにもイかないし……着ぐるみを作る方向で行くのがイイかしらね♪) まあ桜が望めば桃はきっちり仕事をこなすだろうが、あいにく桜の方がそれを望んでいるわけではない。それならゆるい雰囲気の着ぐるみが歓迎してくれる方が、長期的に見れば望ましいだろう。 鼻歌を歌いながら、彼女は町中を見て回る。 こんてすとまでは、まだもうすこし余裕があるのだから。 「おおー。やっぱこーして街が大きくなってくのを見るのって、いーもんだなー。な、薫青もそー思うだろ?」 上空から嵐龍に乗って街を見下ろしていたのは虎の神威人、羽喰 琥珀(ib3263)だ。名前の通りと言った感じの大きな琥珀色の瞳をキラキラと輝かせて、春夏冬の街を見下ろしている。薫青もその通り、とばかりに首をゆるくねじる。 今回は相棒温泉での慰労もかねて春夏冬にやってきたわけだが、彼も決して春夏冬の街と無縁というわけではない。同じように噂を聞きつけ、神楽の都からはるばるやってきた来風(iz0284)を見つけた時はわずかに目を丸くしていたが。 「あれ、来風も来てたんだ? 久しぶりじゃん」 街に降りてさっそく屋台で抱えきれないほどの食べものを持ったまま、少年はにんまりと笑う。来風の方はというと、この地域でとれたという新鮮な川魚の塩焼きにやはりかぶりついていた。普段はどこかおとなしくしているが、美味しそうな匂いには抗えなかったらしい。 「あ、琥珀さん。なんだか楽しそうな催しがあるって聞いて、来ちゃったんですけどね」 来風はニコニコと、本当に嬉しそうに微笑む。その脇ではもふらのかすかもなにやら口の中でくちゃくちゃとやっていて、既に街をずいぶんと堪能しているようだった。 「さっきあっちで美味しそうなお団子があってね、さっそく食べてみたの。美味しくて、まるでほっぺたが落ちてしまいそうで!」 来風が言うと、脇にいたかすかも神妙きわまりない顔で頷く。その様子が妙におかしくて、周囲の観光客たちがくすりと笑みをこぼした。 「へー、どらどら。後で行ってみないとなー、そんなに美味いんだったら」 琥珀もいかにも楽しそうに笑うと、 「そういえば、なんだかゆるキャラこんてすとっていうのもやるんだろ? そっちは参加しないのか?」 「ああ、それは見物だけにしておこうと思って。あんまり絵心とか、美術の方は自信がないんです」 来風は照れくさそうに笑う。兄が泰の大学で彫金を学んでいることを考えると、やはり適材適所というのはあるらしい。 「……にしても、さっすが観光と交易の街だな。食いもんがどれも美味いっ」 琥珀が言いながら、こちらは芋餅を堪能している。無論、目標は屋台の制覇だ。 「よーし、待ってろよー」 そう言う琥珀は、本当に楽しそうだ。 と、そこに通りかかる神威人がもう一人。黒髪と黒い猫耳、猫しっぽの彼もまた、来風とは面識のある一人だった。 黒曜 焔(ib9754)、今日も変わらずすごいもふらのおまんじゅう連れである。ある意味ぶれないのが彼の強みでもあった。 「おや、来風ちゃん。奇遇だねえ」 来風も焔にはずいぶんと世話になった気がする。焔はというと、手に小ぶりながら具の詰まった、良い香りの大判焼きを持っていた。 「黒曜さんもこんにちは。その大判焼きも美味しそうですね」 来風が挨拶をすると、琥珀も屈託なく挨拶を交わす。そういえば琥珀と焔、それぞれ面識という意味では怪しいが、来風の知人となれば『共通の知人を持つ仲間』というわけで、慌てて焔も挨拶を返した。そんな光景を見て、来風も少し笑顔をこぼす。 「考えてみれば、開拓者になってから色んな人のお世話になりましたねぇ……」 少しばかり感慨深げなのは、やはり大きな戦いが終わったことも関係しているのだろう。平和になったこの世界で、どうやって生きるのか。それは開拓者たちにとっての目下の課題であった。 「それにしてもかすかちゃんの食べっぷりもかわいいねえ……」 まあ、焔はどちらかというともふらと一緒にいられればそれで良いような性格なので、深く考えているかどうか、まったくわからないが。そう言いながら、ほっぺたにみたらしあんをくっつけているかすかの顔を優しくぬぐってやる。 「そういえばゆるきゃらを募集しているんですよね、ここ」 来風がふと思い出したかのように言うと、焔はにっこりと頷いた。 「子どもから大人まで親しみやすく可愛らしいものなのだよね? それなら、」 そう言ってちらりと視線を向けるのはおまんじゅう。 まさかとは思ったが、そう言うことらしい。ちなみに本人(?)はとりあえず一心不乱に団子を食べふけっている。視線を向けられているのにややあって気づいたのか、 「もふ? もふはかわいいって言われるのだいすきもふよ? こんてすとに参加したら、みんなにもふもふしてもらえるもふ? もふ、がんばるもふ!」 そんな風に返すおまんじゅう。相変わらず団子はまだ食べ続けているので当然ながらお口の周りはねちゃねちゃだ。この天然な対応……何とも言いようのない感じである。 「じゃー、明日は対決だな。よろしくなっ」 琥珀が笑って握手を求めると、焔もそっと手を差し出し返した。 「あ、千桜さーん!」 元気よく声をかけるのは、蓮 神音(ib2662)。以前、千桜がずいぶんと世話になった開拓者だ。 「おひさしぶりです。元気そうで何より」 千桜が笑うと、神音も顔をほころばせた。 「うん、こっちは元気にしてる。そっちも元気そうでよかった。……そういえば、その後茉莉さんたちとはどう?」 茉莉というのは開拓者時代の千桜の友人だ。大怪我を負って一時期は自暴自棄になっていたが、今は地元で手習いと初歩的な陰陽術の師匠をしているらしいと教えると、神音も安堵したように頷く。気の強い彼女なら、そう言うことも十分につとまるだろう。 千桜のもう一人の友人――紅葉は、めしいた眼に光を取り戻すことが出来ないかと、さまざまな文献を探したりもしているらしい。無論本人は読むことが出来ないが、相棒の手を借りてさらなる陰陽術の研究に取り組んでいるらしい。とは言っても陰陽寮にも所属していない身では限界もあるだろうが。 「……それでも、みんなが少しずつ、道を歩き出している」 千桜はそう言って、彼方の友人に思いをはせた。紅葉と茉莉の関係もそれなりに良好のようで、それも二人にとっては喜ばしい現実だった。 そう、こうやって人は一歩一歩進んでいくのだ。 「そういえば、凄い賑わいだね! お祭りみたいな感じになってるけど、何か面白いことでもあるのかな」 神音はどうやら知らずにこのタイミングで訪れたらしい。千桜が簡単に説明をすると、 「へー、ゆるキャラこんてすとって言うのかぁ」 「はい、この春夏冬の街の、象徴的存在を決めるんですよ♪」 千桜はそう言って嬉しそうに笑う。ついでに、自分が司会をするのだとも言って、また楽しそうに頷いた。神音もむくりと興味がわいたらしい。 「飛び入り参加みたいなことって、出来るかなあ」 「申込期間は今日までだから、それは大丈夫」 興味を持ってくれた神音に、はい、と渡されたのは申込用紙。とはいえ、今のところまだこれという発想が出ない神音はうーん、と頭をかく。とりあえず団子でも食べながら考えようかなとおもって手をそちらに伸ばしてみれば――ない。自分のぶんの団子がないのだ。そのくせ、また団子が運ばれてくる。 何者の仕業か、言われなくともわかる神音は、少し頬を膨らませながら相棒の神仙猫くれおぱとらを見やった。予想通りというか、くれおぱとらの目の前にはどーんと団子の串だけが溜っている。どうやら気づかぬうちに、勝手に注文していたらしい。 「そんなに食べると身体がお団子みたいになるよ!」 神音は呆れも混じった声音で、相棒にそう言って――ふっと頭の中に何かがよぎるのを感じた。 (……なんか、良いこと思いついたかも) 幸いこの街は材料になり得る者が山とある。今回の参加者向けにも、青年会が準備してくれているらしい。 神音は筆を、動かしはじめた。 ● こんてすと当日。 事前にギルドで宣伝したりしていたのも功を奏したのだろう、前日にましてかなりの賑わいである。なんというか、それこそいくつかの屋台では行列が出来るくらい。 そんな屋台の中で、琥珀は懐かしい顔を見つけた。 以前、この街へと誘った銀細工職人だった。繊細な模様の入った腕飾りを手に取り、懐かしそうに声をかける。 「久しぶりー。どーだい、この街は?」 「ああ、いつぞやはありがとうございます。こっちでのびのびと、いろいろ作らせて貰ってますし、街の有力者たちの伝手で、最近は他国からのお得意様っていうのも増えました」 「そりゃ良かったなー! 確かに屋台村見てるだけでも、他の儀の品物や食いもんが前来た時よりも増えたんじゃねーかなって思うし」 琥珀はアル=カマル風の焼き肉串とやらを頬張りながら頷いた。 「もともと交易の街ですからね、そう言う伝手もやっぱり多いみたいで。最近は開拓者さん以外でも他の儀の人らしい服装の人を結構見かけますよ」 商人か、あるいは観光客かはわからないが、春夏冬の街の商人はずいぶんやり手が多いらしい。再開発は大成功しているといえるだろう。 「ん、あんたも元気そうでよかった。今日はさ、ゆるキャラこんてすとって奴に応募しててさっ」 琥珀が笑えば、なるほどと青年は頷く。 「応援させて貰いますね」 「おう!」 昼下がりの、ちょうど良い時間。 街の中央広場には、舞台が設置されていた。 「はいっ、それでは今日の一番の目玉、ゆるキャラこんてすとです!」 そんな千桜の声に拍手がわき上がる。参加者たちも拍手を送り、神音などは 「千桜さん、頑張って―」 と声援を送った。 そんな励ましが効いたのだろう、千桜は一つ深呼吸すると、説明をはじめた。審査の方法などである。 簡単に見えて、なかなか奥が深い。 いよいよますこっと候補のお披露目である。 (うーん、どうなるかな) 神音はドキドキした。もうすぐ自分の番だ。飛び入りに近いが、出来には自信がある。一応。 「はい、それでは次は――」 神音は前に出る。ゆるキャラの中身になっているので、手を振ってアピールしてみた。 大きな丸い頭と同じ大きさの胴体という二頭身。手足もまん丸で、しっぽには丸い玉は三つくっついている。丸い鼻に丸い耳、つぶらな瞳でにっこりと笑顔を浮かべたその姿は、愛嬌のある姿になっている。よくよく見れば猫髭が付いていて、身体の色は白いがくるりと一回転すると背中にはみたらしあんのような色。 「『にゃんごちゃん』です!」 団子のような猫のような、まさしくゆるキャラ。愛犬茶房のお団子から着想を得たというわけだがなかなか愛らしい。手をピコピコと振りつつ、 「団子は妾の好物じゃ!」 そんな風に言ってみる。控え室からそれを見ていたくれおぱとらは (まさかあれは妾をモデルにしたのではあるまいな……?) ちょっぴり胡乱な目つきでそんな主を見守っていた。 というか作っていることに気づかなかったのか、くれおぱとら。 アピールタイムが終わって戻ってきた神音にこの件でかみついた(非物理)なのは当然である。尋ねられてとぼける神音だったが、まああとで何か食べさせることを心に決めておいた。そうしないと何かと後が怖い。 「続いては、『温犬(ぬくいぬ)』ちゃんです!」 千桜の言葉出前に出てきたのは桜と相棒、そしてデフォルメの効いた相棒柄の浴衣を着て首に手ぬぐいをかけたどこか愛らしい柴犬の着ぐるみだった。 ちなみに着ぐるみの中身は愛犬茶房の店員に交渉したらしい。 「えっと、設定は温泉好きなわんこで、みんなに温泉を楽しんでもらえるよう活動をしている……相棒温泉が好きそうなキャラですねっ」 千桜が渡された紙を読み上げると、観客たちからもなるほど、と声が上がった。相棒温泉もこの街の大事な観光資源、そこをゆるキャラの心臓部に持ってきたというわけで、審査員たちにはずいぶん好感度高めのようだ。あらかじめ温泉で桃たちとの特訓で犬っぽい仕草を身につけて貰ったので、その小さな仕草の一つ一つがいかにも本物っぽく、それも受けているのだろう。 また、桜はいつもの忍装束ではなく、温犬と同じ柄の浴衣を身につけていた。 「温泉大好きなわんこのぬくいぬちゃんよ♪」 温犬の中の人もその言葉に従うように、何かしらの仕掛けを仕込んであるのだろう、くるんと巻いたしっぽを小さく揺らしながら 「わん♪」 と応じる。 「春夏冬の温泉は気持ちイイわよ、ね♪」 「わんわん♪」 桜の言葉にこくこく、と頷く温犬。 「よろしくね♪」 「わん♪」 二人はそろってお辞儀をすると、桜は顔を上げた瞬間にそっとウィンク。別に術を使ったわけではないが、その艶めかしさに思わず声を上げるのは、まあありがちなことなので仕方が無い。 二人と相棒たちは悠々と、控え室に戻っていった。 「はい、ありがとうございました。続いては」 千桜の言葉で、琥珀がぴょんっと飛び出る。 「『あきないくん』です!」 なんというわかりやすい名前。出てきたのは二足歩行、二頭身の狸の着ぐるみだ。 街の名前が入った前掛けをつけて大きな算盤を手にした姿は、どことなく商人を思わせる。もともと商人たちが作り上げた街というこの街の来歴を、身体で表現している。 「狸は縁起の良い動物で、『他抜き』、つまり天儀や他の儀の誰もが知るような街になって欲しいという語呂合わせともかけた姿なのだそうです。ちなみに趣味は街の温泉での長湯、興奮すると算盤に乗って滑るけれど転ぶ……性格設定もしっかりしてますね」 お茶目な性格に、観客が笑い声を上げる。考えたなぁ、という声もどこからか聞こえた。 青年会の一人が着ぐるみになってくれたあきないくんもさりげなく算盤にのる仕草をしてしっかり転ぶと、これまたやんやの拍手。 「よろしくなー!」 琥珀がそう手を振ると、観衆も思わず手を振り替えしていた。 「……では最後の参加者です、どうぞー!」 琥珀が退場してから、やってきたのは焔とおまんじゅう。……着ぐるみは、いない。 「ええと、ゆるキャラはもしかして……」 千桜は台本通りに焔に尋ねる。焔は非常に嬉しそうに目を細めると、頷いておまんじゅうに目をやった。 「もふらさまの内面からにじみ出てくる愛らしさ、完成された語尾……これこそまさに天然のゆるキャラなのだよ!」 よく見れば、いやよく見なくても、焔が着ているのはまるごとすごいもふらさま。 おまんじゅうはというと、流石に今は何も食べていないらしい、が、よだれがちゅるり。そして自らぺらぺらと話し出す。まあ、もふらだし。 「秋はもふの好きなおいしいものがいっぱいあるから秋がないのはさみしいもふねー。つまり秋の食べものはもふのおなかのなかに入るさだめもふね?」 またもよだれじゅるり。 言われて焔もはっと気づく。 (秋がおなかのなかに入ってない、あきないますこっともふら……これか) 言い出しっぺの割に気づかなかったらしい、恐ろしい子。 「春は桜餅にお花見団子、夏のスイカにかき氷、それに冬のあったかお鍋……どれももふがおいしく食べて宣伝するもふ! 季節に合わせて相棒の作った着物もきちゃうもふ! よろしくもふ〜!」 「ええと、それでは『おまんじゅう』ちゃん、どうもありがとうございましたー!」 観客は笑顔で拍手する。 これで参加者は審査結果を待つのみだ。 琥珀はその間も楽しんで貰おうと、舞台で様々な儀の衣装を身に纏い、早替えをしながら横笛を吹き、あるいは踊り、会場を盛り上げる。 独特の旋律、あるいは踊りに誰もが心癒やされた。 ● やがて―― 審査結果が、千桜の元に届く。一足先にそれを見た千桜は驚いた顔をしたが、とりあえず発表せねば。 「審査結果が届きました! なんと、同数票での首位がお二方いらっしゃいます」 おお、とざわめく観衆たち。 「一人目は、御陰 桜さんの『温犬』。そして、もうお一人は、黒曜 焔さんの『おまんじゅう』ちゃんです」 まさかの一騎打ち。現在、審査員は決選投票をしているらしい。 そして。 「……最終結果が、決まりました――」 千桜は、震える声でそう告げた。 ● 結果として、審査員が選んだのはおまんじゅうだった。 天然ゆるキャラはやはり強かったと言うことだろう。ただ、開拓者の相棒と言うことでまだまだ何かと忙しいことも多いだろうから、おまんじゅうと焔には名誉町民としての資格が与えられた。 一方温犬の方は相棒温泉のますこっとにする方向で落ち着いたらしい。これは審査員の中で提案として出たところ非常に受けたのだそうだ。 桜には、副賞として相棒温泉の永続利用権が贈られることになった。 「いや、凄かったなー。すっげー楽しかった」 琥珀が笑うと、神音も頷く。 「うん、参加出来るだけでも楽しかったよ、これ!」 そう、こういうものは参加にこそ意義がある。 焔も、桜も、同様に『楽しむ』ための提案をした結果なのだ。 勝ち負けとかは関係なく、悔いは無い。 「よし、またなんか食いに行くかー」 「神音もなんか食べよっと。千桜さんにもお疲れ様って言わないとね」 二人はそう言いながら会場をあとにする。 「温犬ちゃん、やったわねー♪」 桜は相棒たちにそう話しかけると、二匹ともこくこく頷いた。相棒たちの助力あってこそのここまでの成功、ありがたい話である。しかも相棒温泉をずっと使えるなんて! 「あとで、また入りに行こうかしら♪」 「桜様、私もおともします」 さっそく使う機会が巡ってきている。 そして。 この街のますこっととなったおまんじゅうは。 おいしいものを沢山食べて、満面の笑みを浮かべていた。 「これからはずっと、こんな楽しい時間を過ごせる世界であるといいね」 焔は感慨深げに、そう微笑んだ。 ――春夏冬の街は、今日もこれからも賑やかだ―― |