縁起物を考えよう
マスター名:八倍蔵
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 易しい
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/02/18 00:40



■オープニング本文

 善兵衛は鋼の売り買いを生業とする商人だ。
 実は昨年末、鋼を産出している村がアヤカシに襲われたのだが、開拓者に依頼をして万事解決したのだ。
 その善兵衛が再び開拓者ギルドへとやってきた。
 見るからには前のように慌てた様子ではない。
「この前は使用人を助けてもらってありがとね」
 ただ、ちょっとばかり眉を寄せている。
 昨年丸の事件では、村の社に供えられていた武者鎧にアヤカシが取り付いたのだ。
 開拓者達の活躍によって武者鎧は無事返ってきたのだが、再び同じようなことも起きないとは限らない。
「と、まあ、村では不安がっていてねぇ。そこでね、アヤカシがもう出ないようにとお供え物して祈願したいんだよ」
 善兵衛は眉を寄せながらも苦笑を浮かべる。
 実際、アヤカシの発生は雷等の自然現象のようなもの。一度現れたからといって次がすぐあるとは限らないし、その逆に連続して発生する場合もある。それはその土地が持つ状況次第なのだ。
 だが、人は一度被害に遭うと次を不安に思ってしまう。
「そこでねぇ、開拓者の皆さんにも縁起物になるようなものを考えてほしいんだよ」
 善兵衛はそういいながらな、ふと何かを思いついたようだ。
「そうそう、あの村でも作れるような物なら、鋼以外の物も特産にしたいねぇ」
 そこはやはり商人のようだ。商品になるものを考えているようだ。


■参加者一覧
天津疾也(ia0019
20歳・男・志
福幸 喜寿(ia0924
20歳・女・ジ
設楽 万理(ia5443
22歳・女・弓
菊池 志郎(ia5584
23歳・男・シ
和奏(ia8807
17歳・男・志
勧善寺 哀(ia9623
12歳・女・巫
コゼット・バラティ(ia9666
19歳・女・シ
メグレズ・ファウンテン(ia9696
25歳・女・サ


■リプレイ本文

「とまあ、こんな感じなんだけどね」
 善兵衛の案内で、村を一通り見て回った開拓者一同。
 村には砂鉄とたたら場以外は、村の者が食べるだけの小さな田畑くらいしかない。
「この村、本当に木と鉄しかないのね」
 設楽 万理(ia5443)の思い描いていた通りの村であった。
「しかし縁起物を、新しく考えても良いものだったとは知りませんでした」
 まだ準備中ではあったが、土で作られた炉の周りに集められた砂鉄と積み上げられた木炭の山や、炉に空気を送り込む大きなふいごの様子などを思い出しながら、和奏(ia8807)は素朴な疑問を口にした。
 その言葉を聞いて善兵衛はちょっと困ったような顔だ。
「ちゃんと精霊がいるんだ、信じちゃいないわけじゃないんだけどね。信じる心があれば鰯の頭もなんとやらだとあたしは思うんだ」
 村人からしてみれば、形の無いものより形が有ったものの方がいいといったところだろう。
「まあ、確かにアヤカシが出たなら、縁起物の一つや二つはあったほうが精神的にええやろうなあ」
 開拓者が来たというのもあるのだろう、どことなくよそよそしい村人の様子を察する天津疾也(ia0019)。
「ともかく何か思いついてくれたんなら、それを言ってくれないかい」
 立ち話もなんなので、善兵衛は一同を村長であるヤスキチの家へと案内するのであった。

「善兵衛さん、またなんかあったんじゃろうか」
 開拓者を前にそわそわと落ち着かない村長のヤスキチ。
 ヤスキチからしてみれば、開拓者は大変な厄介ごとを解決してくれる者くらいの理解でしかない。
「まあまあヤスさん、落ち着きな。この村に何かいい縁起物でもと思って、あたしが呼んだんだよ」
 さすがに贅沢品である畳とはいかないが、人数分のそろいの座布団に、お茶もそろいの茶碗で出される。
「お、この茶碗、ええもんとちゃうか。高級品とはいわんが、大きさも形もそろっとるやないか」
 疾也が目ざとく品定めをする。
「へえ、ここは他の商人さんも来ますから、善兵衛さんに揃えてもらったんです」
「村自体、他の商人に秘密でも何でも無いしね。客を出迎えるには、ちゃんとしておいたほうが良いと思ってね」
 贅沢は出来ないがそこそこ豊かな村のようである。


「自分からでいいですか」
 和奏が最初に挙手をする。
「こちらの社に祀られている武者鎧を模した鋼の細工物を根付にしてみたらどうでしょう」
 和奏の案にふむふむと頷く善兵衛。
「二つ繋げて、風鈴のように綺麗な音が出るようにすれば、魔除けっぽくなるようで良いと思うんです。ほら、鈴とかって祭事によく使われているのを見かけますし、なんとなく縁起もよさそうです」
「良い音は災いを退けるともいわれとりますな」
 ヤスキチも頷く。
「細工物に村の名前と鎧の銘を刻印すれば、お土産にもなると思います」
 和奏はうきうきと目を輝かせて言った。


 続いてコゼット・バラティ(ia9666)の案。
「鎧を入れる箱なんかどうかな」
「それはまた大きなものになりそうだねぇ」
 善兵衛は武者鎧一式を入れる箱を想像してみる。
「ううん、そうじゃなくて、それを模した小箱というのかな。鎧を閉じ込めて二度と前のようなアヤカシが出ないように、鎧を箱にしまったままで居られる平和な日々が送れますように、と祈りを込めるというか、あやかるっていうか」
「ああ、なんとなく分かります。熊手というか、ちゃんとは説明しづらいですけど」
 上手く説明できずにあたふたしているコゼットにヤスキチが手助けをする。
「そうそう、そんな感じ。箱の周りを彫刻とかで装飾をしたり、オーダーメイドで家紋を付けたりすれば見た目華やかだし、話題にもなるかな〜って」
 なんとなく年末に有名な御社で売っている熊手を思い浮かべる善兵衛であった。


 次は勧善寺 哀(ia9623)。
「個人的な趣味に近くなるけど魔よけの人形を作るのね。木工やここで作られてる鉄、そして藁。それを使って開拓者を模した様な人形を作るの」
「なんか案山子みたいだねぇ」
 畑に立っているスズメ除けの案山子を思い描いて、笑いが漏れる善兵衛。
「だから、これもあんまり大きくないの。鎧の周りに置けだけで良いと思うわ。開拓者を模すからには、大きな斧を持ったサムライ人形、刀を構えた志士人形、踊る巫女人形などなどバリエーションも多くていいわね」
 哀は手持ちの藁人形を取り出す。ただ、どう見ても使用済みなのだが。
「そうだわ。いっそ、名物に等身大の鉄の人形を作って鎧を着せてしまえば良いのよ。アヤカシなんかが入る隙間が無くなって動き出すこともなくなるんじゃないかしら」
「そんな大きな鉄の人形なんて作るのも持ってくるのも大変ですよ」
 さすがにヤスキチも青くなった。


「サムライのメグレズと申します。よろしくお願いいたします」
 礼儀正しく挨拶をするメグレズ・ファウンテン(ia9696)。
「この村は鋼とそれを作る為に必要な木材が豊富と伺ってます。和奏さんと似たようなものですけど、木材から作った板に『旅中安全』や『家内安全』、『災難消除』等の文字を入れ、吊るせるように板の上には紐をつけて、下に特産の鋼で作った鈴をつけてみたらいかがでしょうか」
「そいつは大きいのかい?」
 善兵衛の想像の中では、店の『商い中』のようなものを思い浮かべた。
「いえ、できましたら村に立ち寄る方達がお守りとして携帯するのに便利なくらいの大きさの板や鈴であればいいのですが」
 大きさは思っていたものより小さかったようだ。


 万理はまた違ったものを提案してきた。
「私は逆ね。別のものを使いたくなったわ」
 村を見て回った結果、他のものを思いついたようだ。
「アヤカシに襲われたことは人づてに聞いたわ」
 開拓者ギルドの受付にでも聞いてきたのだろう。
「アヤカシは首を刈られて倒されたようね」
 以前現われた亡霊武者は、鎧だけが浮いているアヤカシだ。体など無かったが、その首を切り落として事件は解決したのだ。
「生首と言えばお饅頭。よく知らないけどお饅頭の起源は人の頭からだそうよ」
「へえ、そうなのかい」
 あやふやながらも万理の豆知識に感心する善兵衛。
「たたら場の熱でお饅頭を蒸すの。それから、この辺の土は鉄が含んで黒いようだから、この色にちなんで中身は小豆の餡、色付けには黒ゴマ。鎧兜から名前は『たたら場特製黒兜饅頭』なんてどうかしら」
 ゴマ餡饅頭。確かに美味しくてお土産には良さそうだが、縁起物としてはどうだろうか。


 疾也も哀と同じく人形を提案してきた。
「そやな、哀のと似たようなもんや。違うんは、哀のがアヤカシを追い払う人形やったら、俺のは護り人形や」
「護り人形とはどんなものなんです?」
 哀と似たような人形と聞いてヤスキチが問う。また人間大といわれたらどうしよう。
「そない大きいものやないって。せいぜい手のひらサイズやな」
 ヤスキチはほっと胸をなでおろす。
「古来から人形というもんは、身代わりに厄を引き受けるとあるんやから、厄除けを求めるにはもってこいや。村で作った木の人形に、村で作った鋼で鎧をっと、なんかそれじゃ哀のと同じやな」
 しばし考え込む疾也。
「まあ、着物を着せてもええやろ。暗い雰囲気にならんよう笑顔を描き込めば出来上がりや」


 菊池 志郎(ia5584)は縁起物に動物を持ってきた。
「縁起のいいものといって思いつくのは動物でしょうか。たくさんいますよね」
 志郎は思いつくままいくつかの動物を上げてみる。
「たとえばフクロウは『不苦労』『福老』という字があてられます。
 兎は『ツキを呼ぶ』と幸運を招く動物だそうです。
 蛙なんて『無事帰る』ですから、アヤカシに襲われないように、という人々の願いにぴったりです。
 後は定番の鶴と亀に、立身出世の象徴である鯉、それに忘れてはいけないもふら様。鋼や木を使って、これらの動物をかたどった置物を作るのはいかがでしょうか」
 再びふむふむと頷く善兵衛。
 その反応を見て、徐々に加熱していく志郎。
「鋼で作る場合は、大きすぎるものや仰々しいものではなく、小さめで手頃なお値段でかわいらしいものがいいんじゃないかと思います。
 精巧な外見のものではなく、丸みを帯びた愛嬌のある雰囲気で。玄関先や庭に飾ってもらうとか、手に乗るくらい小さな置物は文鎮として使っていただいてもよいですし。
 あ、もっと小さくして、同じ種類の動物でも動作や形を少しずつ変えてみたら、一通りそろえたいという蒐集心を刺激できないでしょうか。
 ああそうだ、干支にちなんで毎年メインの動物を変えてみるのもいいかもしれません。
 木で作る場合は、丁寧に彫って彩色して華やかにすれば、鋼とは全く違うものになります!」
 なんだか蒐集家の域に入り込んでしまったようだ。


 最後は福幸 喜寿(ia0924)。
「魔よけになる短刀の鞘に、縁起のいい鶴亀や龍、麒麟などを装飾してみるといいとおもうんさねっ♪鋼の名産地やから、鍛冶もできるやろ♪」
 ぶんぶんと手を振って否定するヤスキチ。
「い、いえ、この村じゃ鋼は作っても、鍛冶はしとりません」
「あたしも鋼を街の鍛冶屋に卸しているだけだよ。お社の鎧も、鋼はここのものだけど、作ったのは領主様お抱えの鍛冶師だね。まあ、街の細工師ならそうゆうものも出来るだろうね」
 基本村では鋼の精製しか行っておらず、のこぎりや斧といった製品は善兵衛達商人が買ってくることがほとんどだ。
 一時落ち込む喜寿だが、すぐさま何か思いついたようだ。
「志郎さんと被るけど、やっぱり基本の精霊力の神様であるもふらさまの招き人形とか、鋼でできたもふら人形とかも面白そうなんさね♪」
「まあ、そのくらいなら何とかなると思いますけど」
「いっそ大鎧一式を全て魔よけ効果があるっていわれてる銀で作ってみる、なんていうのも。面白そうさねっ♪ 」
 今度は善兵衛が青くなる。
「そ、そうゆうものは『万』さんとこでもなきゃ無理だよ!」


「皆ありがとうね。出してもらった案を考えさせてもらうよ」
 村の縁起物は決まらなかったことを善兵衛は丁寧に頭を下げる。
 実際、すぐに決めようとは思っていないようだ。
 その反対にヤスキチはなにやら思案顔だ。
 おそらく村のお社には、近日中にもお守り、人形、お饅頭に置物などが並ぶだろう。

 天儀の平和を祈って、村から縁起物が世界に出回る日が来るかもしれない‥‥?