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■オープニング本文 あるところにおじいさんとおばあさんと一緒に暮らすもふらさまがいました。 もふらさまの名前はもふ太郎。 一年程前おじいさんが山へ芝刈りに、おばあさんが川へ洗濯に行きました。 おばあさんが洗濯をしていると、川上からもふもふした毛に包まれたもふらさまが流れてきたのです。 おばあさんはそのもふらさまを家に連れ帰り、もふ太郎と名づけたのでした。 ある日もふ太郎は大好きなおばあさんの昔話を聞いて一大決心をしたのです。 「僕はまた冒険に行くもふ!」 おじいさんとおばあさんは驚きましたが、もふ太郎の一大決心を汲んでくれました。 おばあさんはもふ太郎が大好きな甘いおだんごを作ってくれました。 おじいさんはまたまた『もふ太郎』と書かれた鉢巻と旗を作ってくれました。 おだんごと鉢巻、旗を持ったもふ太郎は意気揚々と出かけるのでした。 所代わってとある村。 村人達が村長の家に集まっていた。 「あいつら、なんとかならねえだか」 「毎回毎回、出し抜かれて、くそっ!」 村は未曾有の危機に瀕していた。 毎日のように猿の群れが村を襲うのだ。 そのたびに食糧は奪われ、村人は怪我をさせられてきた。 「村のもんでどうにかなんねえだか?」 村長は村人達に聞き返す。 そのとき外から奇声が聞こえてきた。 「ほーっほっほっほっ、村人の皆さん、ご機嫌いかが?」 甲高く、癇に障るような声だ。 声の主は猿。どことなく神々しい角を生やした猿がしゃべっているのである。 「は、羽沼だ‥‥!」 しゃべる猿のケモノ『羽沼』の前に手下の猿たちが木の皮で作った綱でぐるぐる巻きにした男を放り出す。 「あ、ヨサク!」 羽沼を捕らえてやると意気揚々と山へ出かけたヨサクだが、ご覧の有様、返り討ちにあってしまったようだ。 「小ざかしいことはしないで、素直に私に従えば良いのですよ」 以前から羽沼は村が自分の支配下になるよう言っていたのだ。 「だ、誰が猿の言うことなんか聞くもんか、言いなりになんかならねーだよ!」 村人達は羽沼の言葉を拒否するが、唯一猟師であるヨサクが敵わないとなると、村では打つ手は無い。 「ほっほっほっ、それはしかたないですねぇ。また日を改めて来ますよ。お前達、今日は好きになさい」 羽沼は配下の猿に命令を下すと、村から去っていった。 村は配下の猿に荒らされていった。 壁板は穴を空けられる、家に入り込んでは食糧は奪われる、種を植えた畑は掘り返される、鋤や鍬の仕事道具は壊される。 一通り暴れて満足したのか猿達は山へと帰っていった。 家の中に隠れながら外の様子を眺めていた村長は小さくつぶやいた。 「うん、しかたねえだ。開拓者に依頼するだ!」 開拓者ギルドに依頼が張り出された。 『ケモノ退治』 その張り出された依頼書を眺めながら、受付嬢は目をこする。 ケモノ退治の依頼書を眺めている、あの子供くらいの白いもふらさま、もふ太郎がいるのだ。 頭と背中の鉢巻と旗は、それぞれが三つに増えている。 「僕が悪いお猿さんを退治するもふ!」 またもふ太郎が開拓者ギルドにやってきたのだ。 「犬、猿、雉、熊、蟹、臼、栗、蜂のお供を集めるもふ!」 |
■参加者一覧
朧楼月 天忌(ia0291)
23歳・男・サ
紗耶香・ソーヴィニオン(ia0454)
18歳・女・泰
四条 司(ia0673)
23歳・男・志
アーニャ・ベルマン(ia5465)
22歳・女・弓
風月 秋水(ia9016)
18歳・男・泰
ルエラ・ファールバルト(ia9645)
20歳・女・志
ルンルン・パムポップン(ib0234)
17歳・女・シ
四方山 揺徳(ib0906)
17歳・女・巫 |
■リプレイ本文 開拓者ギルドの受付嬢に依頼の内容と、もふ太郎というおまけがついてくることを説明してもらったルエラ・ファールバルト(ia9645)さん。 もふ太郎がついてきた依頼の顛末を読ませてもらいました。 「もふ太郎さんって結構有名なもふらさまなんですね」 それはきっと気のせいでしょう。 そこへやってきたのは噂のもふ太郎。「もふ太郎」と書かれた鉢巻を頭に三つ巻き、同じく「もふ太郎」と書かれた旗を三本背負ってやってきました。 「おねえさん、お供の人は集まったもふ?」 ルエラさんはもふ太郎の前に進み出てご挨拶。 「はじめまして。志士の‥‥じゃない、蟹のルエラと申します。よろしければ猿退治に同行してもよろしいでしょうか?」 続いて、なんだか不機嫌そうな表情の四条 司(ia0673)さん。 「えっと、よくわからないんですが、僕は栗役をやればいいんですか?」 だけど司さんの心の中では(「ってか栗って何っ!!何で栗っ!?」)と声にならない叫びを上げています。 「きゃ〜〜、可愛い〜〜、一緒に退治に行くのですか?大丈夫でしょうか〜」 もふらさまが大好きなアーニャ・ベルマン(ia5465)さんは、歌いながらもふ太郎におだんごをねだります。 「も〜ふたろさん、もふたろさん、お腰に付けたおだんご、一つ私にくださいな♪私は蜂のアーニャです♪」 元気よくもふ太郎に駆け寄ったのはルンルン・パムポップン(ib0234)さん。 「私は臼の精のルンルン、ぜひお供にくわえてください!」 紗耶香・ソーヴィニオン(ia0454)さんとその朋友のもふ龍は、もふ太郎と顔なじみ。 「もふ太郎さんもふ太郎さん、犬の紗耶香にお団子を下さいな」 「犬のもふ龍にもお団子を下さいもふ☆」 朧楼月 天忌(ia0291)さんはなんだか怒っています。 「ちょっと待て。何でオレらが仮装ごっこに付き合わなきゃならねえんだ。しゃーねーから付き合ってやるが、何でオレが猿なんだ!」 いえ、別に仮装はしなくてもいいんですけど。 四方山 揺徳(ib0906)さんはもふ太郎に襲いかかりそうな勢いです。アーニャさんのように、もふらさまが好きでたまらないという意味ではなく‥‥。 「もーふたろさんもふたろさん、おこしにつけたおだんご♪食〜わ〜せ〜ろ〜!昨日から塩と水しか口にしてないでござるよー!」 お腹が空いて、じたばたと暴れています。 「じゃあ、みんな、おだんごあげるもふ、がんばって悪い猿を退治するもふ!」 もふ太郎は背負った風呂敷から、おばあさんが作ってくれたおだんごを取り出します。 おいしそうなおだんごを前に、ごくりと唾を飲む揺徳さん。 「もしかして、これを食べたら雉になってしまうのですかーッ!?」 いや!いや!いや!いや!いや!そんなことはありません! 「てーか猿退治に猿味方っておかしくねえ?」 手渡されたおだんごを食べながら、ふと疑問が浮かんだのは猿の天忌さん。 「猿がみんな悪い猿じゃないですからね。もふ太郎さんといい猿さんが悪い猿を退治に行く、だからおかしくないですよ」 仲間をちゃんとフォローしてくれる紗耶香さん、さすがに慣れたものです。 「ようし出発するもふ!」 開拓者ともふ太郎は元気よく出発したのでした。 もふ太郎達一行が村を目指して歩いていると、仁王立ちの男の人がいました。 風月 秋水(ia9016)さんです。 もふ太郎一行が近づくと、その前に立ちはだかります。 「熊の秋水だ、ずっと立ってて腹減ったでござる。何か食える物くれたら、力になるでござるよ」 一人で待ち続けて、さみしいやら、お腹が空くやらで大変だったようです。 「おだんごあげるから、熊さんもお供になるもふ!」 こうして熊さんを加えたもふ太郎達一行は、村を目指して再び進むのでした。 村についたもふ太郎一行、まずは猟師のヨサクの家へと向かいました。 アーニャさんは目をキラキラさせながら、ヨサクに聞きました。 「サルの生態ならバッチリですよね?」 「へ?」 ヨサクはちょっと猟の上手い、普通の人です。猪の獣道に罠を仕掛ければ猪がかかることは知っていますが、猿の暮らしに詳しいわけではありません。 司さんはアーニャさんに替わってヨサクから話を聞きました。 「山に詳しいようですので、罠を仕掛けられる場所等について教えて頂きたいのですが」 こうしてもふ太郎一行はヨサクから獣道の位置等を教えてもらいました。 ふとアーニャさんがヨサクの家の戸口にあったものに気づきました。 「あ、これは‥‥」 「ああ、それはオラが罠を仕掛けようとしたら、羽沼のヤツが投げつけてきたものだ。おかげでぐるぐる巻きになっちまっただよ」 それは木の皮で作った綱の両端に石の重り。 アーニャさんはにやりと笑うと、自分の荷物から荒縄を取り出し、なにやら作り始めるのでした。 もふ太郎一行は山道を慎重に進みます。 羽沼達が罠を仕掛けているからです。 というのも、秋水さんが突き進んでいくと、不意に輪になったツタが秋水さんの足首を締め、そのまま逆さ吊りにしてしまったのです。 「く、熊さん、だいじょうぶもふか?!」 もふ太郎達が駆け寄り、秋水さんを助け出します。 「いや、いきなりで驚いたでござる」 仕掛けとしては単純で、ツタをたどった先には重石として大きな石や大木がいくつも括りつけられていました。 どうやら猿達がタイミングよく括りつけられた石を落とし、秋水さんを引っ張り上げ、宙吊りにしてしまったようです。 ルエラさんと司さんが気配を探ると、周りにたくさんの動物達を感じました。 猿達です。もふ太郎達を見張っているようです。 「ここに何かありそうですね」 ルエラさんが藪に大薙刀を突き入れます。 「もう少ししたら、開けた場所のはずです。気をつけて進みましょう」 司さんはヨサクに教えてもらった道筋を思い出しながら、周りの気配に探ります。 「というわけで、ここから先は安全になったはずです。えっへん」 アーニャさんがバーストアローで怪しい茂みを吹き飛ばします。 「ルンルン忍法ジゴクイヤー!悪い仕掛けなんて、お見通しなんだからっ!」 ルンルンさんが耳を澄まし、仕掛けの僅かな軋む音を聞き分けます。 「おや、ここにも罠がありました」 「ご主人様、やっちゃうもふ」 仕掛けられた罠を紗耶香さんの気功波が打ち砕きます。 「オッラァ!」 天忌さんの刀が藪を真っ二つ。 「猿なのに罠とは生意気でござるー」 揺徳さんは、あれはきっと落とし穴でござるーと枯葉の山を指差し、草が結んであるかもしれないでござるーと足元を眺め、う●こ踏んだでござるーと大騒ぎ。 もふ太郎一行は次々罠を突破していったのでした。 もふ太郎一行は山の中の開けた場所につきました。 周りの猿達は付かず離れずといった感じです。 「よーし、羽沼をおびき出すために罠を仕掛けましょう。猿の好物ってなんでしょう?」 アーニャさんが罠を作ろうと提案しました。 「猿の好物?柿なんじゃねえの?いや、なんとなく‥‥」 天忌さんが村人からもらった干し柿を取り出しました。 「ナイスです!」 アーニャさんが干し柿を囮に罠を仕掛けようとしました。 そこへブーンと音を立てたものが飛んできました。 しかし、アーニャさんはそれを読んでいました。 「人間を舐めるんじゃなーい!」 アーニャさんが村で作っていたのは即席のボーラでした。 そのボーラを、おそらく羽沼が放ったボーラに向かって投げつけました。 二つのボーラは絡まりあうと、バランスを崩してあらぬ方向へと飛び‥‥。 「きゃあ!」 ルエラさんをぐるぐる巻きにしてしまいました。 「あう、一番猿にやられそうな役ということで、ご勘弁願います」 司さんに助け出されたルエラさんは、申し訳なさそうに弁解します。 「そんなことより、ついに来たようですよ」 司さんは油断無く刀を構えます。 もふ太郎一行の前に現われたのは、多くの猿を引き連れた、神々しい角を生やした猿、羽沼です。 「全力ではないとはいえ、よくあの一撃をかわしました。褒めてあげますよ」 羽沼は嫌みったらしくアーニャさんを称えました。 「お前が羽沼かもふ。こんなことはやめるもふ。おとなしく山に引っ込んでるもふ!」 もふ太郎はビシッと前足を羽沼に向かって突き出します。 「ただのもふら風情が何を言う、出来るものならやってみなさい!」 羽沼ともふ太郎の戦いが始まりました。 「やあ!」 ルエラさんは大薙刀を素早く切り返し、猿達を吹き飛ばしていきます。 「ていていていてーい!」 アーニャさんはバーストアローを連射していきます。 「ご主人様、『アレ』やってみたらどうもふ?」 「ダメよ、『アレ』はおばあさんに許しを得ないと‥‥」 とかいいつつ、紗耶香さんともふ龍は連携して猿達を倒していきます。 「オラ!テメエら雑魚猿が何匹かかろうと敵じゃねえんだよ!」 天忌さんは回転切りでなぎ倒します。 「頑張れでござるー!」 揺徳さんはくねくねしながら皆の応援です。 「はああああ!」 秋水さんは泰練気法・壱で体を赤く染めながら、猿達を殴り倒していきます。 司さんは飛んできたボーラをかわすと、炎魂縛武によって炎を纏った刀で羽沼に向かって切り込んでいきます。 「ちぃ!」 羽沼は司さんの刀を上に跳んでかわします。 そこへ司さんの影から飛び上がるルンルンさん、木を三角跳で蹴って、羽沼のさらに上の位置を取ります。 「今こそ臼の力を見せる時、ルンルン忍法臼落とし!」 ルンルンさんは羽沼に向かって落ちて、お尻で押しつぶします。 押しつぶされた羽沼、ちょっと雰囲気が変わりました。 「ぐ、よくもやってくれたな。いいだろう、この俺の本気の力で相手をしてやる。お前もあの人間のように引っ張り上げて痛めつけてやる!」 羽沼は血走った目でもふ太郎をにらみつけます。 「あの人間のようにもふ‥‥?熊さんのことかもふ‥‥熊さんのことかもふーーーっ!!!」 もふ太郎がなんだか神々しいオーラを背負って羽沼に体当たりしました。 もふ太郎の体当たりを受けた羽沼は、勢いよく飛んでいきました。 「うお!たかがもふらにこんな力が‥‥」 「お前じゃ僕に勝てないもふ」 精霊の力そのものの塊であるもふらさまのもふ太郎に対して、精霊の力の一部が動物に宿ったケモノ程度の羽沼では勝てないのも道理です。 はっきりとした力の差に、羽沼はがっくりとうなだれました。 「召し捕ったもふ〜」 もふ太郎一行は勝鬨を上げました。 「はい、皆注目もふ〜。今日からこの人がボスもふ」 羽沼の元配下の猿達に向かって、もふ太郎が天忌さんを指します。 「おい、テメエら!今日からオレがボス猿だぜ!」 「まあ、それはそれとしておいて、お前達は山に帰って静かに暮らすもふ」 もふ太郎がそう告げると、猿達は一匹一匹散り散りに山の奥へと消えていきました。 「一件落着もふ」 「‥‥俺がボス猿って意味は?」 「特に無いもふ」 山に夕日が落ちていきました。 羽沼を役所に引き渡した後、紗耶香さんともふ龍はもふ太郎を送るという名目で、再びおばあさんのところへとやってきました。 紗耶香さんは、自分が作ったおだんごをおばあさんに食べてもらおうと思ったのです。 「‥‥どうですか?」 恐る恐るおばあさんに感想を聞く紗耶香さん。 「味は悪くないよ、ただ歯ごたえがちょっと物足りないというか」 紗耶香さんのおだんごを食べたおばあさん、キランと目が光ったような気がします。 「紗耶香さんといったね、どうだい、私の『技』を継いでみる気はないかい?次のときまで考えておいておくれよ」 「え?!」 おばあさんからの不意の申し出に、紗耶香さんは一時呆けていましたとさ。 めでたしめでたし。 |