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■オープニング本文 西暦2150年、ギガシティ『カグラ』。 人口1億人が住む巨大都市だ。ギガコーポレーション『テンギ』によって作られた都市だ。 他にも『泰公社』『ジルベリア・インダストリアル』といったギガコーポレーションに作られた巨大都市が点在している。 しかしカグラで暮らす下級市民には関係ない話だ。 下級市民は『テンギ』の製品を買うしかない。他のギガコーポレーションの製品は高い関税が掛けられている。他社の製品なんて、結局は金持ちの道楽でしかない。 『テンギ』のために働き、『テンギ』のために消費する。ここはそうゆう街だ。 「起きるだっぴょん、お仕事だっぴょん!」 ネットナビのエイプリルがたたき起こす。エイプリルは『テンギ』がカグラに張り巡らせたネットワークの仮装人格ナビゲーションシステムだ。 2頭身少女の3Dアイコンがけたたましく騒ぎ立てる。『MOE』は隆盛を繰り返しながらも100年以上消えることはなかった。ある作家によれば、ジャパンには神話の時代から『MOE』はあったらしい。 「盗難された『ケモノ』の奪還だっぴょん」 『テンギ』に登録した傭兵の中から、無作為に選ばれた者へ概略が伝えられる。もちろんこの時点で拒否してもいい。次の傭兵に回されるだけだ。 『OK』のアイコンをクリックする。 生体認証後、エイプリルが仕事の説明を続ける。エイプリルの脇に、猫のような耳を生やした裸体の少女が表示される。愛玩用か、それともそれに偽装した暗殺用か。まあ、そんな情報は傭兵に関係ない。 「昨日20:32、カグラ支社Bテク部セキュリティより警備ロボ1体にアヤカシウィルス感染ワーニング発生。感染直前のデータより、3以上の生命体によりBテク部保管庫から『ケモノ』が1体盗難されただっぴょん」 3人の人間が撮影カメラに向かって何かを放った映像が流れる。アヤカシウィルス感染直前に警備ロボから転送された映像だろう。 「現在アヤカシウィルスに感染した警備ロボが所在不明だっぴょん。セキュリティ部では犯人と行動していると推測してるだっぴょん」 アヤカシウィルスは暴走するまでは、ある意味安全だ。安全な場所まで護衛させ、逃走時に暴走させる、よくある手段だ。 「犯人の生死、警備ロボの破壊は問わない、『ケモノ』の奪還がお仕事だっぴょん」 最後に集合場所と時間が表示される。 着替えて装備を整えるとエイプリルが手を振って送り出す。 「お仕事、がんばるだっぴょん!」 ※このシナリオはエイプリルフールシナリオです。実際のWTRPGの世界観に一切関係はありません。 |
■参加者一覧
静雪 蒼(ia0219)
13歳・女・巫
朧楼月 天忌(ia0291)
23歳・男・サ
樹邑 鴻(ia0483)
21歳・男・泰
王禄丸(ia1236)
34歳・男・シ
ルオウ(ia2445)
14歳・男・サ
赤マント(ia3521)
14歳・女・泰
日御碕・神楽(ia9518)
21歳・女・泰
御形 なずな(ib0371)
16歳・女・吟 |
■リプレイ本文 ●契 「こっちの仮契約は4人っと」 ブレードマスターの朧楼月 天忌(ia0291)は端末を操作して、4人分の仮契約を行う。 「チーム【野槌】、仮契約完了しただっぴょん。メンバーにメールしておくだっぴょん」 エイプリルは騒がしく手を振り、天忌が率いる傭兵チーム【野槌】の仮契約が完了したことを知らせる。 天忌の部屋をゴシックロリータファッションに白衣の幼女が覗き込む。 「また天忌さんやろ。うちの端末にメール来やはったわ」 ここは【野槌】が拠点とする静雪 蒼(ia0219)の診療所。このスラムに近い診療所のドクターである彼女は、チームメンバーやスラム住人達のサイバネティックのメンテナンスを行っている。そこに天忌は住み込んでいるというわけだ。 ゴスロリ衣装が似合う幼女の外見の蒼だが、その技能の高さから見た目どおりの年齢でないことが伺える。 「蒼ちゃんー、私のところにもメール来てるー」 蒼の背後からナースの格好をしたグラップラーの日御碕・神楽(ia9518)が現われた。 蒼に施術してもらったサイバネティックの代金を、診療所で働きながら返しているのである。 「ん〜お仕事?いいよー蒼ちゃんに返さないといけないしね」 エイプリルから仕事の概略を聞いた神楽はOKボタンをクリックして契約を行う。 「面白そやし、うちもOKやわ」 蒼も契約を完了させる。 エイプリルがチームからのメールを知らせる。 「天忌の仕業かぁ、まっためんど臭そうな依頼、取ってきたなぁ‥‥」 そうぼやくのはブレードランナーのルオウ(ia2445)。 気になったのは残りの少なくなった貯金。 「‥‥生きてくにはやらないといけないしな」 ルオウは小さくつぶやくと、エイプリルが指差すOKボタンをクリックした。 「さってと、きっとドクターんとこだろ。寄ってくか」 ルオウは棲家を後にすると、蒼の診療所へと向かった。 ●集 集合場所に現われた【野槌】の4人に、樹邑 鴻(ia0483)は納得したような顔をして手を上げる。 「契約枠がまとめて埋まっていると思ったら、やっぱり天忌のとこか」 鴻も蒼の診療所の世話になっている。クンフーアプリを使用するクンフーマスターとして、骨格や神経の強化を施してもらったのだ。そのほか普段の生業である何でも屋として、診療所には出入りをしていた。 そして、そこにはスーツをビシッと決めた大柄な男もいた。 「ルール上問題ないとはいえ、こちらにも仕事を回してもらわないとな」 男は傭兵企業ウェストフォレストのアームマスター、王禄丸(ia1236)と名乗る。傭兵企業というからには、このスーツもそれなりの防刃防弾素材で作られているのであろう。だがこのスーツにはそれ以上の秘密もあった。 「皆、おっそーい!」 上から赤い影が突き刺さるように降りてきた。軽業師の赤マント(ia3521)だ。 「僕は速さが信条なんだ。早く仕事を終わらせてお目当てのもの、買いたいんだからね!」 赤マントの目当ての品は泰公社製の有翼靴。このためにどれだけ節約し、どれだけ仕事を請けてきたことだろう。 それが今回の報酬で手に入るとなれば、期待も大きくなる。 そして、しばらくするとヘッドフォンをつけた少女が現われた。 「私が最後なんや、遅くなってカンニンやで」 少女はサイコテラピストの御形 なずな(ib0371)と名乗った。 「遅すぎるよ!」 「いや、時間通りだ」 赤マントは最後に現われたなずなに食って掛かるが、王禄丸がその間に割ってはいった。 「では、この8名で今回の依頼に当たる。そちらにもそちらの流儀というものがあるだろう。どこか落ち着けるところがあれば、今後の打ち合わせを行いたい」 「なら、うちの診療所、使ってええよ。今は予約も入ってへんわ」 王禄丸が拠点となるところを問うと、蒼は自分の診療所を提示するのであった。 ●調 王禄丸は契約企業の一員としてBテク部の調査を開始した。 Bテク部の社員も王禄丸が契約企業の依頼受諾者ということで、機密以外のことは語ってくれた。 「あのケモノはまだブランクで、これから試作のメンタルモデルをインストールするところだった」 まだあのケモノには自我がなかったということだ。 「で、そのメンタルモデルの内容は?」 「こればかりは教えられないな。ただそのメンタルモデルに合わせて調整を行ったケモノだということだ」 確かにゼロから作り直しては莫大な損失になる。 その他王禄丸はBテク部棟内部の状態を調査する。 内部に慣れた者の仕業でないことは見て取れた。足跡が分かれ道で逡巡しているようであった。おそらく内部見取り図でも見ながらの移動だったのだろう。 赤マントはBテク部棟前の路面を調べていた。 一般的なテンギ製ワゴンのタイヤ痕が残っていた。 「うーむ、テンギの車を奪って逃げたのかな?」 唸る赤マントに鴻が推測を述べる。 「だろうな、テンギのワゴンなら怪しまれることはない。泰やジルベリアの車だったら逆に目立ってしょうがない」 「じゃあ、もうお手上げ?」 小さく手を上げてみせる赤マント。 鴻はにやりと笑みを浮かべる。 「ところがだ、テンギのネットでワゴンを捕捉していないとなると・・・」 「あ!」 赤マントも気づいたようだ。 「そう、他社のネットかスラムにいる」 「蒼ちゃん先生ー、患者さんですー」 『本日休診』の看板を出してきた神楽は、奥にいる蒼に向かって呼びかける。 診療所にスラムの住人がやってきたのだ。 「おや、ゲンタさんかい。今日はしまいなんやけど、どないしはった?」 ひょこっと顔を出した蒼は来客を確認する。 「ちょっと耳の調子が悪いんで、先生に診てもらおうと思ってな」 ゲンタという初老の男は、サイバネティックではない方の耳を指差して蒼に答える。符丁である。 実は王禄丸、鴻、赤マント達が調べてきた情報を元に神楽が、何人かの患者の『本日休診』のお知らせをメールしていたのだ。そしてこれも符丁で、送った相手は情報屋でもあった。 「そらあかん。ほな、診察室へ入って」 ゲンタは蒼と同じくスラムに近いところで飲み屋を開いている。 「昨日な、常連客が店に入る前にジルベリアんとこでテンギの車を見たんだと」 ゲンタは一応蒼から診察を受けながら、世間話をする。 「そいつがジルベリアんとこから出ていったって話は聞いてねえな」 「ほーそないなんや。ほい、しまいや」 蒼はゲンタの診察を終える。 「で、診察料なんやけど」 「先生、うちのツケ、先に払ってくれよ」 蒼はツケ代として情報料を払うのであった。 「おい、こうゆう奴らは見なかったか?」 「なあなあ、こんなやつ知らない?」 天忌とルオウは、残っていた映像からプリントアウトした犯人の画像をスラムの住人に見せていた。 二人とも画像をプリントアウトするなり、スラムへと飛び出していったのだ。 その二人の後ろを、意地の悪そうな顔でなずながついていく。 二人が何かしでかさないかと、蒼がつけた見張り役だ。 もちろんそれだけではない。 なずなは裏とのつながりが深いほうでもあった。サイコテラピストと名乗っているが、彼女は音を操り、曲で催眠術をかけることの出来る、この時代に蘇った呪詛師でもあった。蒼とはまた違ったつながりでもあった。 「お二人さん、喉が乾きまへん。ちょいと潤しましょ」 なずなはスラムの一角にある酒場を指しながら、天忌とルオウの二人に声をかける。二人は埒の明かない聞き込みで疲れてきていた。 「しょうがねえな。あー、お前らは酒飲むなよ」 天忌が一応釘を刺す。 「えー、酒場来て飲まないってのはないでしょ」 ルオウが不満を漏らす。 「まあまあ、この後もお仕事が控えておることやし、差しさわりのないもんにしときましょ」 なずなは酒場へと足を踏み入れる。 天忌とルオウは店の客にも聞き込みを行っていた。 一人カウンターに腰掛けたなずなにバーテンが話しかける。 「アンタが出遅れるなんて珍しいな、もう診療所の方に行ってるぜ」 「ええんや、別に今回は競争やあらへんし。向こうに行ってるんやったらそろそろやな」 そう話している間に、なずなの端末へ神楽からのメールが届く。 『ジルベリアネットに集合』 「さ、お二人さん、一杯飲んで、さっさとお仕事しましょ」 それぞれの端末に届いた神楽からのメールに天忌とルオウは顔を見合わせていた。 ●闘 「なんや、また最後か」 なずな達がメールの集合場所についたときには、皆が揃っていた。 「この先の倉庫にワゴンが入っていったとの情報だ」 倉庫はジルベリア・インダストリアル系列の子会社のものだと王禄丸が説明する。 「依頼主んとこにすぐ戻るって素人かいな」 なずなは犯人の手際の悪さにあきれている。 「急いでいるのかもしれないぜ」 犯人の逃走ルートの拙さについて鴻が憶測を述べる。 「じゃ、じゃあ、俺達も急がないと逃げられるかもしれないってことか?」 鴻の憶測にルオウが慌てる。 「ああ、だからさっさと行くぜ。それとも今ここで何か手を考えるか?」 天忌は今にも駆けていきそうなルオウを止めながら王禄丸のほうを向く。 「いや、今最善の策は奇襲だ。奴らが逃げ出す前に、さっさと首を押さえてしまおう」 王禄丸は天忌の案に賛同する。 天忌はにやりと笑うと倉庫の小さなシャッターに向けて手に持ったブレードを叩きつける。 全身の人口筋肉がチップからの情報によって連動し、普通ではありえない膂力を生み出す。 シャッターは天忌の目の前で真っ二つに切り裂かれた。 倉庫の中にはカグラではよく見かける物体が二つあった。 テンギ製のワゴンと警備ロボだ。 その向こうには3人の男と人一人が入るほど箱があった。 「もう来たのかよ!」 アーマージャケットを着た男がブレードを手に、天忌達の方に一歩踏み出す。 その背後で1人が小さな無線スイッチを押し込むと、天忌達の目の前にある警備ロボが動き始める。 無線スイッチはアヤカシウィルスの暴走用スイッチのようだ。 「アヤカシか!」 動き出した警備ロボはバチバチと音を立てるスタンガンを取り出してくる。 「アヤカシは任せな!」 ルオウが警備ロボに向かって駆け出す。 「遠慮なく破壊してもいいって話だ。景気良く行くぜ」 ルオウの隣に鴻が立つ。 2人を確認した警備ロボはスタンガンを振りかざして襲いかかってきた。 アーマージャケットを除く男達は箱をワゴンに押し込もうとする。 後の男達を護るように、アーマージャケットは天忌の前に立つが、その脇を赤い影が走り抜ける。 アーマージャケットの脇を駆け抜けた赤マントは、強化神経『速度蟲』を起動すると超高速で打ち込まれた拳から衝撃波を生みだし、ワゴンに当てる。 ワゴンの前面がぐしゃりと潰れる。 「あ、クソ!」 ワゴンを破壊された男達は無線端末を取り出す。 アーマージャケットは天忌の放った一撃をブレードで受け止める。その動作はカグラのものではなかった。 「てめぇ、まじジルベリアのもんだな」 「だったらなんだ」 アーマージャケットはそっけなく答える。 「邪魔なヤツはぶった斬る!ただそれだけだ!!」 天忌が吼えると、2人のブレードがぶつかり合った。 ルオウはアドレナリンチップを使用し、生身の箇所が熱くなるのを感じた。 速度を上げたルオウには警備ロボの繰り出すスタンガンがスローモーションで見える。 軽々と回避すると、手からのワイヤーで警備ロボを絡め取る。 速度を生かしてブレードを警備ロボに叩き込む。 徒手空拳の鴻はその独特の動きで警備ロボの攻撃を『化』す。 そして全身の人口筋肉と強化神経を総動員する。 「爆発する間も無い位に‥‥ぶっ壊す!!」 警備ロボの装甲に押し当てられた拳が、次の瞬間には装甲を突き破り内部にまで貫いていた。 動きの止まった警備ロボから腕を抜く鴻の全身を鈍い痛みが走る。 「いてて、こりゃフレーム(骨格)まで歪んじまったかな?」 男が端末を向けると、赤マントのチップが過剰電流を流す。 「きゃっ!」 全身を走る電流に思わず叫び声が出る。 「あいつら、ハッカーのようやわ。攻撃的となるとクラッカーやろうか?」 蒼は戦況を確認する。おそらく残りの2人はハッカー系だ。スカートに手を差し入れ、ガーターからアンプを取り出す。 「私も行きますー。蒼ちゃん、サポートお願いね」 神楽が残る男へと突進する。神楽の手から圧縮された空気の塊が撃ち出され、男を転倒させる。 転倒した男は酷く怯えた様子で手に持った端末を神楽に向ける。 「ひ、ひぃ!RUN!RUN!RUN!」 神楽の耳に大量の音が流れ込んでくる。 「うわああ、蒼ちゃん、耳、耳!」 「そっちは感覚操作系やわ」 急な大音量にうずくまる神楽の様子を冷静に判断する蒼。 「ちぃ、こいつ、うざってぇ!」 天忌の相手は天忌のブレードを受け流し、力強い一撃を返す。攻撃と防御をしっかりとこなすのだ。 「お前ら、面白いものを味わわせてやる」 赤マントに電撃を放った男が少し下がると、天忌達3人に端末を向ける。 「加熱したチップの為の冷却装置、そいつの過冷却だ!」 「うお!」「きゃ!」「ああ!」 3人の体の中を冷気が巡る。 「うわ、ヤバ!」 蒼はすぐさま拡散治癒アンプを振りまく。細胞の一時的な活性化によってダメージが軽減する。 そして蒼の背後の大男が動き出した。 「面白い見世物だったな。なら、こっちも見せてやろう」 腕の中に格納されていたブレードが展開しその手に握られる。体の各所から悪魔のようなかぎ爪を持った隠し腕が現われる。 王禄丸のスーツの一部が舞い上がり、王禄丸の顔を覆う。それは凶悪な件へと変貌する。 マイクロマシンで展開するスーツ、それが王禄丸のスーツであった。 王禄丸の変身に驚く男達の耳に陰惨な曲が流れてくる。 王禄丸の前に立つなずながギターを爪弾いているのだ。 「私は相手が持ってる能力を思うように発揮できず、苛立った顔をしながら倒れてゆくところを見るのが何よりの楽しみなんよ」 「ひ、ひやぁ」「か、体が」「うわ、うわあ」 裏の見え隠れする少女の笑顔に引きつりながら、男達は件へのディナーとして体を差し出すのであった。 ●還 箱の中身は案の定ケモノであった。男達はジルベリア・インダストリアルの傭兵であった。 テンギの技術の奪取、これも企業間戦争というものであろう。 奪い返したケモノをBテク部に送り届けた後、赤マントは壊れたワゴンと警備ロボをジャンク屋に売り飛ばしたのだ。 思わぬ臨時収入に顔がにやける。 「うひひ、儲かちゃった〜」 うきうきと泰公社のショップへと足を向ける赤マントであった。 |