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■オープニング本文 その村の墓には、アヤカシとの戦いで死んだ兵士が葬られていた。 その昔アヤカシが現れ、その討伐のために送り込まれた兵士達であったが、大怪我を負ってしまい、治療という名目で村へ残こされていったのだ。 村に残された兵士達はいずれも瀕死であり、村人達の手厚い看病のかいもなく、一人、また一人と死んでいった。 死んだ兵士達は村の者ではなかったが、アヤカシと戦ってくれた勇敢な者として村人達は村の墓に手厚く葬った。 それから数年経ったある夜のことだ。 ボコッ。 兵士の墓の盛り土から骨の手が空に向かって突き出る。 盛り土の中から骨となった兵士達が次々と這い出てくる。 翌朝、カラカラと乾いた音を立てる狂骨が村をねり歩いていた。 「このままじゃ村も危ないし、迷い出たとはいえ兵士さんもかわいそうじゃ。お前さん達の力で成仏させてやってくれんか」 カラカラと悲しそうに笑う狂骨を不憫に思い、人の好い村の人の好い村長は狂骨退治の依頼を開拓者ギルドに出したのであった。 |
■参加者一覧
月夜魅(ia0030)
20歳・女・陰
福幸 喜寿(ia0924)
20歳・女・ジ
玲璃(ia1114)
17歳・男・吟
九竜・鋼介(ia2192)
25歳・男・サ
喜屋武(ia2651)
21歳・男・サ
茉莉 瑠華(ia5329)
18歳・女・シ
谷 松之助(ia7271)
10歳・男・志
茉莉華(ia7988)
16歳・女・巫 |
■リプレイ本文 村までの短い道中、玲璃(ia1114)は狂骨の出た原因を推測しようとしていた。 「これはあくまで個人的な意見ですが、アヤカシと化したその方達は、今もなお『村を守らなければ』という想いで動いているのかもしれませんね」 以前に似たような経験をした喜屋武(ia2651)はぼやく。 「何かあまり戦いたくない相手だなぁ、アヤカシと戦った人間のアヤカシとは」 村に伝わる弔いの歌がないかと茉莉華(ia7988)が村長に聞いていた。 「すまないのう、葬儀は村人皆で冥福を祈るだけなんじゃ」 「そうですか、ないですか‥‥」 弔いの歌がないことを知った茉莉華は、その後幼き記憶を頼りに一言一言唄をつむぎだしていた。 前方小さな集落が見えてくると福幸 喜寿(ia0924)は村人への伝言を思いつく 「村の人を集めて、兵士さんたちの最後を看取るよう伝えたらどうさね」 村長はちょっと眉を寄せる。 「うーん、村のもんには戸締りをして外に出ないように言ってあるからのう」 そこはアヤカシの研究者でもある陰陽師の月夜魅(ia0030)が狂骨についての特徴を答える。 「あら、それでしたら狂骨は受け答えが出来るほどの頭はありません、外から村長さんのお名前と一緒に伝えてあげたらどうでしょう」 「お、さっすがつっきみーさね!」 喜寿は以前からの知り合いである月夜魅をそう呼んで肩を叩く。 「でも福幸さん、それ、音、します‥‥」 同じく知り合いである茉莉華は喜寿の足首でチリンチリンと鳴る小さな鈴の輪を指す。 「なら私の出番だね!」 シノビである茉莉 瑠華(ia5329)が元気よく手を上げる。 「私が村の人に、開拓者が来たって教えに行ってあげるよ!」 瑠華の言葉に九竜・鋼介(ia2192)と谷 松之助(ia7271)も頷く。 「よし、俺も行こう」 「我も。というか手順どおりに分かれて伝えにいかないか」 開拓者達はあらかじめ二人一組で狂骨と対峙する事を取り決めていた。 「では私は鋼介さんと行きましょう」 玲璃は扇子を開いてアヤカシの位置を探る。四つの反応が村の中に感じられたことを皆に伝える。 「私と喜寿さんは、村の前で村長さんと待機していますね」 「俺と茉莉華さんは大きく回って反対側に回ろう。合図は任せてくれないか」 開拓者達はそれぞれに分かれ、アヤカシに気づかれないよう村人の家を回る。 「さあ来い!」 村に大きな雄たけびが響き渡ると、狂骨との戦いが始まった。 村人達は恐る恐る戸の隙間から外を窺うのであった。 喜寿と月夜魅は元々知り合いのためか、よい連携を見せる。 「つっきみー!骸骨の足止めをお願いしますさねっ!」 月夜魅が呪縛符を詠唱する。 「すみません、少し苦しいかもしれませんがお許しを、すぐに終わります」 月夜魅が呼び出した式は狂骨の手足に纏わりつく。 「喜寿さん、後はお願いしますっ!」 月夜魅が足止めをしている間に、喜寿は己の武器に気力を込め、それに答えた死神の鎌は刃を激しく燃え上がらせる。 「恩人やけんども、今は死神として、うちが魂を天に送ってあげるさね!」 炎を纏った刃が一閃し、狂骨は地に伏した。 玲璃は鋼介のために舞い続ける。 「俺に髪の毛はあっても、その気(け)はないんだけどなぁ」 女性にしか見えない玲璃の姿に、鋼介がふと洒落のようなものを言葉にする。 「私だってそんな気はありません」 玲璃の優美な守護の舞は、鋼介の大紋を強固にさせる。 鋼介は力を込めた大薙刀の連打を狂骨に浴びせる。 狂骨も一撃与えようと拳を振り上げるが、鋼介は間を取り反撃させない。 たとえ狂骨の一撃を受けたとしても、玲璃の守護の舞により打撃は届かないだろう。 そして鋼介は最後の一刀を振り下ろす。 「成敗!」 大薙刀の一撃により、狂骨はガラガラと崩れ落ちた。 「悲しいです。でも、仕方のないこと。もう一度、寝てくれること、願います‥‥」 普段はぼうっとしている茉莉華も、この時ばかりは狂骨を憐憫の眼を向ける。 「茉莉華さん、ちょっと確かめたいことがあるので、最初は手を出さないでくれ」 喜屋武は自分の腰までしかないような少女の前に立つと、全身に力を込める。 「さあ来い!」 雄たけびを上げる喜屋武に気づいた狂骨が近づいてくる。 喜屋武は兵士の狂骨に心が残っているのか確かめたかったのだ。 だが空腹に支配されているのだろう、狂骨は目の前にある喜屋武の腕に噛み付く。 しかし硬質化した喜屋武の筋肉の前に、狂骨の歯は通らない。 「お力、発揮できますよう‥‥」 茉莉華の舞が喜屋武の手斧に力を与える。 「もう心は残っていなかったか」 力強い一撃に弾け飛んだ狂骨はもう動かなかった。 「ミイラ取りがミイラにか。師匠に助けられなければ、我もこうなっていたかもしれないな」 松之助は彷徨う狂骨を哀れむ。 「私達開拓者の力を見たら安心できちゃうかなっ?いっくよーっ!」 手裏剣と苦無を構えて瑠華は飛び出していった。 「瑠華殿!少し落ち着け!」 松之助は体捌きと刀により狂骨の注意をそらし、瑠華と挟み込む位置につく。 その間に手裏剣、苦無で打撃を与えた瑠華はヴォトカを狂骨に降りかける。 「ごめんね、ちょっと熱いかもしれないけど少しの辛抱だよ!」 すかさず火遁の術を叩き込む瑠華。高い純度のアルコールに引火し燃え上がる狂骨。 「うわ!もう少し考えてから術を使ってくれ!!」 一瞬にして目の前が炎の柱となった松之助は、前髪を少し焦がして一歩引く。 「ご、ごめんなさい!」 炎の向こうからあわてた声が聞こえてくる。 火はすぐに消えたが、燻りながらもまだ立っている狂骨に松之助は力強く踏み込む。 「かつての兵士よ。無念は分からんでもないが眠ってくれ!」 頭蓋を砕かれ、大の字に倒れた狂骨はバラバラになった。 全ての狂骨が倒れると、目に涙を浮かべた村人達が戸を開け出てくる。 村人達は開拓者に向かって一礼をすると、狂骨の崩れ落ちた骨を拾い集め、村の墓地へと向かった。 兵士の墓では墓標が倒れていた。鋼介が拾い上げ、そこに書かれた文字を読もうとしたが擦れて読めない。 『村を守りし武士の墓』 鋼介が墓標へ新たに書き入れる。 まもなく村人の手によって新たな桶が用意され、四人の骨は再び埋めなおされた。 茉莉華のたどたどしくも韻の長い唄が響く。唄に合わせて喜寿と玲璃がゆっくりと舞を舞う。 開拓者と村人は静かに鎮魂の祈りをささげる。 (「この村は必ず、私達開拓者が護っていきますので、安心して下さい」) (「尊き魂よ、安らかに」) (「この村にまたアヤカシが現れたときは今みたいに私達が守るから、あなた達はそんな私たちを応援してねっ、おやすみ!」) 安心して眠ってくれ、それが皆の願いでもあった。 静かな祈りの中、松之助は死んだ家族のことを思い出していた。 アヤカシに殺された両親、そして師匠でもある伯父。 (「この兵士達にも家族はいたのだろうか?」) 葬儀の後、村人達は干した野菜や肉の煮込み汁、漬物といった質素な食事と酒で開拓者達をもてなす。 「なにぶん閉じこもっておりましたのでこんなものしかご用意できませんが、どうぞ食べて、飲んで疲れを癒してください」 ささやかな量とはいえ、これからの季節への貯えが気になって村人に聞いてみる。 「大丈夫ですよ。皆様が守ってくれたこの村があります。畑があります。何より生きるものの土地があります」 「まだ山菜も残ってるだろうし、猟に行けば鳥や鹿もいる。皆、兵士さん達が守ってくれたものだ」 食事を用意した村長の息子夫婦が答えてくれる。 村人達はこう思っているのだ。今この村があるのは、兵士達が村だけではなく、生きるものの領地をアヤカシから守ってくれたのだと。 「寂しいから、出てきたかもです。度々お祈りすることで、安心、するかもです。だから、忘れないで、あげて欲しいです‥‥」 茉莉華の言葉に頷く村長。 「これからも変らず兵士さん達を奉りますじゃ。しかし、もしかすると故郷に帰りたかったのかもしれんのう」 生まれ育った場所から離れた土地で倒れた兵士を思い、静かに目を伏せる村長であった。 「皆様、この度はどうもありがとうございました」 開拓者達を村人総出で見送る。 「以前もアヤカシにやられてアヤカシ化した敵と戦ったけれど、過去に自分と同じ境遇にいた分素直に戦えないな」 元が兵士であった狂骨との戦いを思い返し、喜屋武が小さくこぼす。 何かが動いたような気配に喜寿が村へと振り返る。見送る村人と共に、墓標の上で深々と頭を下げる四人の兵士が見えた気がした。 |