もふ太郎の竹狩物語
マスター名:八倍蔵
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: やや易
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/06/10 08:11



■オープニング本文

 あるところにおじいさんとおばあさんと一緒に暮らすもふらさまがいました。
 もふらさまの名前はもふ太郎。
 一年程前おじいさんが山へ芝刈りに、おばあさんが川へ洗濯に行きました。
 おばあさんが洗濯をしていると、川上からもふもふした毛に包まれたもふらさまが流れてきたのです。
 おばあさんはそのもふらさまを家に連れ帰り、もふ太郎と名づけたのでした。

 今日も今日とて、かわいいもふ太郎のために鉢巻と旗を作るおじいさん。
 おばあさんが織った布に『もふ太郎』と文字をいれ、鉢巻と旗は出来たけど、旗を支える竿がありません。
「おい、ばあさん、ばあさんや。竿はどこやったかのう。まだ残っとったはずじゃが」
「何言ってるんですか、おじいさんが全部旗に使ってしまいましたよ」
「そうじゃったか?おかしいのう」
 おじいさんは最近物忘れが多くなってきたようです。
「仕方ないのう。もふ太郎や、一緒に竹を取りに行こう」
「わーい、行くもふ行くもふ!おばあさん、おだんご作ってもふ〜」
 もふ太郎はおばあさんにおだんごをねだります。
「はいはい、ちょっとまっててね」
 今日も今日とて、おばあさんの超絶おだんご奥義『団獄殺』の技が冴えます。
 おばあさんが作ったおだんごを包んだ風呂敷を背負って、もふ太郎とおじいさんは竹林へと出かけていきました。

 竹林に着いたもふ太郎とおじいさん、竿に良さそうな竹を探します。
「うーん、なんか変な感じがするもふ‥‥」
 なんだかもふ太郎の様子が変です。
 そういえば竹林の中がとても静かです。
「そうじゃのう、ちょっとおかしいかのう‥‥、お?」
 竹を探して歩くおじいさんは、足元の感触に気づきました。
 ほんのちょっとポコッと盛り上がった感触、そうタケノコです。
 もう時期は過ぎてしまったけど、さっき足元にあった感触はタケノコのそれでした。
 竹取り用の鉈しかありませんが、おじいさんは鉈を使って掘り返してみました。
 出てきたのは間違う事なく‥‥と言いたいところでしたが、タケノコがパチリと一つ目を開きました。
『タケノッコォーンッ!』
 パカッと開いた口から渋い男の声で叫び、手足を生やして穴から飛び出していきました。
「おじいさん、危ないもふ!アヤカシもふ!」
 もふ太郎は飛び出したアヤカシタケノコに向かって体当たりをして弾き飛ばします。
 吹き飛んだアヤカシタケノコは離れたところに穴を掘るとその中に隠れてしまいました。
 するといくつかの竹が光り、一つ目がぎょろり。
『タケノッコォーンッ!』
『タケノッコォーンッ!』
 光った竹はアヤカシでした。
「おしいさん、逃げるもふー!」
 もふ太郎はおじいさんを背負うと、一目散に竹林から逃げ出しました。

「あら、もふ太郎君じゃない」
 並んだ依頼書を眺めていた受付嬢、増代・エイトタイムズ(iz0128)さんは、白いもふらのもふ太郎が開拓者ギルドに現われたことに気づきました。
 いつものもふ太郎であれば、依頼書を眺めているはずでした。でも今日はいつもと違います。鉢巻も旗もありません。
 かわりにどこかのおじいさんが一緒です。
「お嬢さん、厄介ごとはここでええのかのう」
「え、ええ。おじいさん、どうかしました?」
 もふ太郎からではなくおじいさんから声を掛けられ、少しあせってしまう増代さん。
「わしはもふ太郎のじいさんですが‥‥」
 と、おじいさんは今日竹林であった出来事を増代さんに話します。
「おじいさん、それは大変でしたね」
「なあに、わしにはもふ太郎がおったからのう」
「うん、おじいさんを守るもふ!」
 優しく頭をなでるおじいさんに、もふ太郎は誇らしげに胸を張って答えます。
「それでなんじゃが、やっぱり竹林にアヤカシがおるというのは嫌なもんでのう、退治してもらえんじゃろうか」
 再び増代さんに向き直ったおじいさんは、改めてアヤカシ退治の依頼を出すのでした。
「お姉さん、僕も竹狩りをするもふ!犬、猿、雉、熊、蟹、臼、栗、蜂のお供を集めるもふ!」
 もふ太郎の目が燃えています。
「おじいさんの竹林は僕が守るもふ!」


■参加者一覧
森羅・秋雨(ia0382
20歳・男・泰
紗耶香・ソーヴィニオン(ia0454
18歳・女・泰
アーニャ・ベルマン(ia5465
22歳・女・弓
千羽夜(ia7831
17歳・女・シ
朱麓(ia8390
23歳・女・泰
櫻吏(ib0655
25歳・男・シ
岩宿 太郎(ib0852
30歳・男・志
志宝(ib1898
12歳・男・志


■リプレイ本文

 もふ太郎とは別の部屋で、お供となる開拓者さん達は色々と打ち合わせていました。
 相手が竹のアヤカシと聞いて 母親が泰国出身ということもあり紗耶香・ソーヴィニオン(ia0454)さんが不思議な動物のことを思い出したようです。
「確か竹を食べる動物が、泰の奥地にいると母から聞いたことがあります」
「ああ、知ってる知ってる。『大熊猫』と言ってな、熊のような体で模様が白と黒に、はっきり分かれているんさね」
 泰国出身の朱麓(ia8390)さんは、その珍獣を知っているようです。
 それを聞いた岩宿 太郎(ib0852)さんと志宝(ib1898)さん、なんとなく意気投合した者同士で頷きます。
「その姿絵、描いてくれないか」
「面白そうな珍獣ですね。ぜひやらせてください!」
 そんな二人に気圧された朱麓さんは、拙いながらも熊の横姿に目の周り、耳、四肢を黒く塗った動物の姿を描き上げました。
「こんな珍獣が本当にいるんですね。楽しくなってきました!」
「街中でこの化粧は役人を呼ばれそうだな。よっしゃ、俺達は竹林の前で待ってるから後は頼んだぜ」
 志宝さんと太郎さんの二人は開拓者ギルドから飛び出すと、目的地へと行ってしまいました。
「あたしもあいつら見張りながら待ってるさね」
「はーい、私も姐さんと一緒に竹林に行きます!」
 朱麓さんが二人の後を追いかけるというと、千羽夜(ia7831)さんも手を上げました。
「では残りの皆さんはもふ太郎さんをもふもふしに‥‥ではなく、迎えに行きましょう!」
 アーニャ・ベルマン(ia5465)さんはもふ太郎をもふもふしに、ではなく迎えにいくのでした。

「あ、もふ龍もふ〜。今度もよろしくもふ!」
 もふ太郎は紗耶香さんの朋友もふ龍を見つけると再会を喜び、二頭は仲良く前足に挟んだおだんごを一齧り。
『このおだんごはおいしいもふ!』
「もふ太郎ちゃん、またお供させてくださいね」
 犬の紗耶香さんともふ龍はすっかり顔なじみです。
「蜂さんが来ましたよ、今回も宜しくね〜!相変わらず良いモフ毛ですね〜」
「くすぐったいもふ〜」
 もふ太郎をもふもふしている蜂のアーニャさんも知らない顔ではありません。
(「うっ、も、もふもふしたい‥‥」)
 クールに装いつつ、心の中で葛藤しているのは森羅・秋雨(ia0382)さん。
「俺は栗の秋雨だ、よろしくな」
 秋雨さんは挨拶しながら、もふ太郎の頭をなでました。
(「もふもふしてる‥‥、もふもふしてるーーーー!」)
 なんだか凄く感動したようです。
 開拓者ギルドの最後のお供は、怪しげな雰囲気の櫻吏(ib0655)さん。
「くっくっくっ、私は櫻吏と申します。微力ながら御手伝いに参りました、もふ太郎殿」
「よろしくもふ。ところで櫻吏さんは何のお供もふか?」
 櫻吏さんは愉快なアヤカシがいると聞いて参加したようですが、もふ太郎のお供のことまで気が回らなかったようです。
「はて、何にいたしましょうか?」
「じゃあ、すばしっこそうだから櫻吏さんはお供の猿さんもふ!」
 いつものようにおばあさんのおだんごを受け取り、モチモチした歯ごたえ、ふわっとした食感、そして口の中に広がる甘味を堪能したもふ太郎一行は元気に竹林へと向かうのでした。

「おじいさんの竹林はこっちもふ」
 もふ太郎の案内で一行が竹林に向かうと、朱麓さん達が待っていました。
「初めまして、あたしは熊の朱麓さね。もし何か困ってるようならあたしとそこに居る妹分を連れてってくれんかね?」
「もふ太朗、初めましてっ!熊の千羽夜よ」
 もふ太郎に抱きつき頬擦りする千羽夜さんも、黄色い熊耳に尻尾をつけ赤い忍び装束を身に纏い、やる気十分のようです。これでハチミツの壷があったらとか言ってはいけません。
 さらにそこには白黒の顔をした奇妙な珍獣がいました。
「俺は大熊猫の太郎!もふ太郎隊長、太郎仲間として手助けしてあげよう!」
「僕は大熊猫の志宝!おじいさんを驚かせるなんていい迷惑だね、僕も隊長のアヤカシ退治を手伝ってあげるよ!」
 顔を白く塗り、目の周りをたれ目のように黒く塗った太郎さんと志宝さんが立ち上がります。
「も、もふ太郎さん、アレは人間ですからね。退治しちゃいけませんよ‥‥」
 あまりのことに顔を引きつらせながらもふ太郎に注意するアーニャさん。
 もふ太郎もさすがに引き気味です。というか仮装はしなくてもいいんですけどね。
「まあ、気持ちは分かるが、あんたに拒否権なんてないんだ」
 もふ太郎の頭を優しくなでる朱麓さんでした。


 竹林に入ったもふ太郎一行はアヤカシ達を探し始めました。
 紗耶香さんは怪しそうな竹を探っていきます。その傍らではもふ龍ともふ太郎は一緒にくんくんと臭いを嗅いでいます。
 秋雨さんは開拓者ギルドから借りた鉄鍋とおじいさんから借りた鉈を取り出しました。
「こいつでガーンとやればびっくりするだろうぜ」
 そして最終兵器太郎さん、自前の物と、アーニャさん、千羽夜さんから借りた、合わせて3つ(全部で6つのベル)のブレスレット・ベルをつけて出撃完了です。
「あいつらは大きな音に弱い!植物だから火は怖いはず!そして竹を食べる大熊猫!これで驚かないはずがない!!」
 炎魂縛武で次々に火が灯っていくブレスレット・ベル。
 アーニャさんが鏡弦でアヤカシを察知すると、千羽夜さんはぴょろろ〜♪と間抜けな笛の音を竹林に響きわたらせます。
「大熊猫兄弟、れっつごー!」
「竹ども、大熊猫が食ってやるぞぉ!」
 千羽夜さんがアヤカシのいる方向を指差すと、太郎さんは炎のベルをヂャリンヂャリンと鳴らしながら竹林の中を駆けていきます。
 そんな太郎さんを囮にし、太郎さんの姿に驚いたアヤカシ達をアーニャさんと朱麓さん、千羽夜さん、志宝さんは退治していきます。
『タケノッコォーンッ!』
 紙製の箱での潜入工作が得意な人の声が竹林に響き渡ります。
「これならどうだーー!」
 あまりの騒音のため、次々に光る竹。アーニャさんはその光る竹を次々と朧月で撃ち抜いていきます。
 太郎さんが踏んだのか、掘ってもいないのにタケノコが飛び出してきました。
「姐さん!」
「はいよっと!」
 千羽夜さんが声をかけると、朱麓さんは飛び出したタケノコを捕まえました。
 千羽夜さんは捕らえられたタケノコの脇をくすぐり始めます。
『タケノ‥‥アハ、アハ、アハハハハ』
 渋い声のまま、身もだえして笑い始めるタケノコ。
「キモい!」
「可愛くないっ!」
 朱麓さんが上から叩きつけるところを、千羽夜さんが蹴り上げました。
 ほぼ2倍の威力になった蹴りにタケノコは真っ二つに砕け、飛んでいきました。
「うわっ、たくさん出てきたっ!!」
 また別のタケノコが飛び出し、志宝さんの炎魂縛武の刀が貫きます。
「燃え上がれ、我が刃!!」
『タケノ‥‥ジョウズニ、ヤカレマシタ〜‥‥』
 幻の炎ですが、やられたタケノコは奇妙な断末魔をあげるのでした。

「くっくっくっ、中々微笑ましく素敵な催しで御座いますな」
 櫻吏さんはニヤニヤと大熊猫兄弟の暴れっぷりを生暖かく見守っています。
「こっちは地道にいきましょう」
 紗耶香さんは先ほどから光って叫んでいる竹に向かって骨法起承拳を打ち込んでいきます。
 竹は節を狙われ縦方向に発した衝撃によってパカンと割れていきます。
 秋雨さんは手に持った鍋を呆然と見つめています。
 太郎さんのインパクトが強すぎて、全て持っていかれたような感じです。
「参ったなぁ‥‥、ちきしょう!おっさん、叫んでんじゃねぇよ!」
 傍らの竹をおじいさんの鉈で、縦に切りつける秋雨さん。
 竹に食い込んだ鉈の刃を、空いた手でさらに押し込み、力任せに真っ二つにしました。
 もふ太郎ともふ龍は地面の臭いを嗅いでいます。
「御主人様、ここもふ」
「猿さん、掘るもふ!」
「ほう、ここですかな」
 櫻吏さんはもふ太郎が伝えるままに、刀で掘りおこします。
 そこからなかなか立派なタケノコが出てきました。
『タケノッコォーンッ!』
 タケノコはパチッと目を覚まし、櫻吏さんに飛び掛ります。
「危ないもふ!」
 もふ龍が体当たりして離れた場所に落します。
 落ちたタケノコが地面を掘り返そうとしたところで、今度は櫻吏さんの手裏剣が襲いかかります。
「今だもふ!」
 足止めされたタケノコは最後にもふ太郎の体当たりを食らいました。
 タケノコは砕けると、瘴気へと戻り霧散していきました。

 一刻も大熊猫さん達が暴れまわると、竹林は元の静寂を取り戻し始めました。
 太郎さんのお尻には何本かの矢と苦無が刺さっていましたが、皆は大した怪我はなかったようです。


「アヤカシ退治ってこんなに大変なんだ〜」
 太郎さんと一緒に竹林を走り回った志宝さんは一言つぶやきましたが、まだやることはありました。
 おじいさんのために、何本か程よい太さの竹を切り取っていきました。

 今日は皆でもふ太郎を家まで送っていきます。
「じいさんに鉈を返さなくちゃな。しかし、あのだんごは美味かったなぁ」
 出発前にもふ太郎から貰ったおだんごの味を思い出す秋雨さん。
 おじいさんの鉈を返しにいきますが、おだんごが目当てなのは明らかです。
「ええ、あの御団子はおいしゅう御座いました。是非もう一度御相伴に預かりたいと思っておりました」
 櫻吏さんもおだんごの味が忘れられなかったようです。

 一方ちょっと気がかりなのは紗耶香さん。前におばあさんから言われたことがあったからです。
「おばあさんは一体あたしに何を伝える気なのかしら」
 紗耶香さんは色とりどりのもふら饅頭をお土産に持ってきましたが、今はそれよりおばあさんとのやり取りが気になるのでした。

「おじいさん、おばあさん、ただいまもふ!」
 元気に凱旋するもふ太郎。
 今日はたくさんのお供が送ってくれました。
「じいさん、鉈貸してくれてありがとな。役にたったぜ」
 秋雨さんはおじいさんの鉈を返します。
「おじいさん、竿用に竹を取ってきました。よかったら使ってください」
 志宝さんも採ってきた竹をおじいさんに渡すのでした。

「おやおや、いつも皆さんありがとうね〜。今日も美味しいおだんごをたくさんありますよ〜」
 皆の前には山盛りのおだんごが差し出されました。
「おばあさんのお団子、おいしいです〜」
「ほっぺが落ちそうっ♪」
「いや、本当においしゅう御座いますね〜」
「美味い美味い、竹なんかよりよっぽど美味い!」
 早速おだんごを頬張るアーニャさん、千羽夜さん、櫻吏さん、太郎さん。
『そうもふ!このおだんごはおいしいもふ!』
 再びもふ太郎ともふ龍は前足で挟んだおだんごを一齧り。
 皆ひと時、幸せな気分に浸ります。

「あ、あのおばあさん。これ、うちで作ったお饅頭ですけど‥‥」
 おずおずとお饅頭を差し出す紗耶香さん。
「おやおや紗耶香さん、会いにきたということは承諾ということでいいね」
「いや、その、そうゆう」
 ゴウッ。
 おばあさんから有無を言わせない強い気迫があふれ出します。
 それはまるで殺気です。
「私の腕を右腕だけで受け止めるんだよ‥‥」
 不気味に目を光らせたおばあさんは紗耶香さんに向かってきました。
 初めはよく分からなかった紗耶香さんはむやみにおばあさんの腕を受け止めていましたが、次第におばあさんと同じ構えをすれば受け止められることに気づきました。
 その動きは全ておだんごをこねる所作。やがて全ての所作を受け止め終えると、それぞれ背中を向けた状態になり、紗耶香さんの背中にも『団子』の文字がオーラで現われました。
「いまここに、紗耶香・ソーヴィニオンを『団極殺継承者』として認める」
 おばあさんは厳かに紗耶香さんを団極殺継承者として認めたことを伝えました。
「後は各々精進するんだね〜」
「あ、あれが噂の『団獄殺』か‥‥あたしも教えて貰いたいな」
 朱麓さんは小さくつぶやくと、最後のおだんごをぱくりと頬張りました。

 めでたしめでたし。