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■オープニング本文 その村は二十人ばかりの小さな集落で、開けた平地での田畑が中心だ。近くには森もあり、秋の恵みも多そうである。冬を迎えるこの時期は田を休ませて、冬野菜の収穫に忙しいようだ。 そんな村の様子を森から注意深く観察する目。 やがてその目の持ち主は、顔をにやりとゆがめると森の奥へと消えていく。 「頭ぁ、あの村、なかなか良さそうですぜ」 森の中を抜けてきた男が、大きな洞で焚き火を囲んで車座に座っている男達に声をかける。 「バカヤロウ!声が大きいぞ!」 さらに大きい声で返される。 「こんなところ、めったに人は来やしませんって」 大声の主の隣に座る男が窘める。 「まあとにかく、あの村にゃ刀なんかありそうにねぇ、お手ごろってヤツですぜ」 外から声をかけた男は返された大声に首を竦めながら下卑た笑いを浮かべて、焚き火の男達に加わる。 男達の手にはそれぞれ武器を持っているのが分かる。 その中でも大声の主の手には、炎の灯りでギラリと光る刀が握られていた。 「ヒ、ヒィー!きょ、きょ、狂骨?!」 動く骨の固まりを目撃した村人が、恐怖に駆られて村へと逃げ込む。 手に刀や槍、斧といった武器を持った狂骨らしき骨の群れが村を取り囲んだ。 だが見境なく村人を襲う様子もない。 やがて刀を持った、頭一つ大きな狂骨らしきものが村に向かって声を張り上げる。 「オラ達は狂骨だー!オラ達は酒と食いもんが欲しいー!持ってこぉーい!!」 アヤカシと思って恐怖に震えていた村人達は一瞬ポカンと口を開けた。 頭蓋骨の下には粗野なひげ面が見える。 ‥‥ただの山賊だ。ただ骨を被って、身に着けているだけだ。 とりあえず無闇に殺されるようなことはないという安堵感が生まれた。 しかし村には戦う武器も術もない。 あるのは木の鍬といった木製品くらい、鋼に至っては鍋や釜くらいである。包丁や鎌があっても全部で十有るか無いか。 だから一人の青年が包囲の隙を突いて村を抜け出して、ギルドに駆け込んできたのだ。 「狂骨と名乗るおかしな山賊から俺らの村を守ってくれ!」 村の青年ジロウは集まった開拓者に向かって叫んだ。 その頃村長の家に上がり込み、村長の娘を人質に取った山賊達は、村人が差し出した酒と野菜で酒盛りを始めていた。 多少酔っているが、抜け目なく見張りを立たせている。 「でもなんでこの村なんすか、頭ぁ」 山賊の一人がふとした疑問を口にする。 「そりゃおめえ、たまにゃ大根も食いてえだろ」 刀を持った大男は生の大根に齧り付きながらそう答えた。 この山賊の頭、意外とヘルシー嗜好? |
■参加者一覧
水鏡 絵梨乃(ia0191)
20歳・女・泰
貉(ia0585)
15歳・男・陰
鴇ノ宮 風葉(ia0799)
18歳・女・魔
霧崎 灯華(ia1054)
18歳・女・陰
紬 柳斎(ia1231)
27歳・女・サ
クロウ(ia1278)
15歳・男・陰
空(ia1704)
33歳・男・砂
毛利坂 水心(ia8688)
16歳・女・陰 |
■リプレイ本文 「じゃあ、作戦を確認するね!」 ここはジロウの村の手前にある茶屋。 鴇ノ宮 風葉(ia0799)が改めて今回の「狂骨という名の山賊退治」についての作戦を確認する。 「陽動と潜入に分かれて行動だね。陽動は行商人か旅人に化けて村に入り、山賊たちの目を引き付ける。潜入はその間に村長さんの家に潜入、人質の解放だよ」 「ボクも潜入するよ。それで芋羊羹の行商人として山賊に取り入って、人質を開放するよ」と、両手に持った芋羊羹を頭上に掲げる水鏡 絵梨乃(ia0191)。 全員の目が絵梨乃に集中する。 「頭がよいのか悪いのかよく分からん山賊だが、さすがに村に来た行商人といきなり降って湧いた行商人の区別はつくだろう」 髪を下げて行商人らしく整えてきた紬 柳斎(ia1231)がこめかみを押さえながら絵梨乃にツッコミを入れる。 「だが、その羊羹は使えそうだな。悪いが貰ってくぞ」 柳斎は絵梨乃の手から芋羊羹を持っていく。 「え?」 「あたしも旅人か行商人に変装と思ってたから、村に売りに行く品があってよかったぞ」 絵梨乃が横を見ると、霧崎 灯華(ia1054)が絵梨乃の荷物から芋羊羹の包みを抱えていく。 「え〜?!ボクの羊羹〜!!」 灯華に持っていかれる包みを追う絵梨乃であった。 「そうだね、潜入組の人は、私たち陽動組が山賊の気を引くからその間に人質を救出してね!救出がうまくいかなかったら、もくもく煙を炊いて火事と思わせて‥‥」 毛利坂 水心(ia8688)が火事で気を引き付ける案を出した瞬間、一緒にいた依頼人のジロウが怒鳴った。 「火はやめてくれ!本当に火事になったらどうするんだ!」 煙だけとはいえ、火の無いところに煙は立たない。村の建造物は木造が普通であり、火の取り扱いは厳重なのだから、ジロウが怒るのも当然だ。 依頼人に怒鳴られ、しゅんと気落ちする水心。 「まあまあ、やる前に火は危ないって気づいたんだからよかったじゃない。それよりそっちはどうなの?」 風葉は男性達の方へ振り返る。 動物を模した仮面を被った貉(ia0585)と、外套を頭から被った空(ia1704)がひらひらと手を振って答える。 「俺は大丈夫だ。潜入組だし、そこまで緊張してないな」 「俺もいつでもいけるぜぇ。でもコイツがなぁ」 空が親指で示した先にはギラギラとした殺気を放つクロウ(ia1278)がいた。 (山賊か。俺、なんでこんなにあいつらが憎いんだろう?) クロウは、記憶には無いのだが山賊の類いに強い憎悪を持つ。幼い頃の失われた記憶に原因があることは間違いないが、はっきりしないことには推測することしか出来ない。 「クロウ、アンタ陽動で大丈夫?」 いつものおっとり気味な顔で異様な雰囲気を放つクロウが、山賊を前にして上手く振舞えるかを心配した風葉が聞いた。 「大丈夫、村につく頃にはちゃんと隠すよ」 いつものおっとり口調もどこか棘がある。 「そお?とにかく相手は普通の人なんだから下手に殺しちゃダメよ」 皆に釘をさす風葉であった。 依頼人のジロウには茶屋で待ってもらい、潜入組である風葉、絵梨乃、貉、空は、まず村のそばの森へと身を隠す。 「居るような居ねえような、いや居ねえな」 時折、空が周辺の気配を探る。冬を前に懸命に動き回る小さな命を感じ取るだけで、大型の動物や人の気配はない。 森から眺める村の様子は、人の気配はあるものの静かなものだ。 小さな家が五つ、蔵が一つ。あらかじめジロウから聞いていた通りの家の配置だ。 その五つの家のうち、一つからはわいわいと騒ぎが聞こえる。ジロウの言っていた村長の家だ。他にも静かながら、大勢の気配を感じる家がある。おそらく村人は一箇所に集められて閉じ込められているのだろう。 出歩く村人の居ない村の中を、動物の頭骨であろうものを被った者が二人、刀や斧をちらつかせながら歩いている。あれが山賊の見張りだろう。 そのうち村長の家からまた二人が出てきて、見張りをしていた二人と交代する。 やがて夕刻になり、村の入り口に四つの人影が現れた。 「んじゃこっちも行くかね、人質とってるっつったって相手は雑魚、油断は禁物だが緊張しすぎることもねーな」 貉はその陽動組の姿を確認すると潜入組に声をかけ、静かに村に近づいていった。 「ああ〜ん、おめえら、なんだ?」 村に近づく人影が武器を持ってないと分かって、鈍く光る刀を見せ付けてくる頭骨を被った男。 村の外から来た男は、声をかけられビクッと体を震わす。その男、クロウはぐっと憎悪を飲み込む。 (落ち着け落ち着け落ち着け‥‥) そのクロウの陰に隠れるようにして山賊を覗き込む水心。 そのクロウ達の姿を山賊は怯えと見て取ったようだ。 言葉がすぐに出てこないクロウに代わって、柳斎が答える。 「わ、私達は、この辺りの行商人でございます。あ、あの、こ、こちらは、先ほど出会いました、旅のお方と申しておりまして‥‥」 「あ、あの、あなたは‥‥」 灯華も怯えた演技で山賊の言葉を引き出そうとする。 「ああ、オラたちは『狂骨』だよ、キシシシシシ。おい!行商人だとよ、後二人呼んでこいよ!」 山賊は刀を柳斎に突きつけ、品の無い笑いを浮かべると、もう一人の見張りに伝える。相方はおうと答えると、村長の家から仲間を呼ぶ。 「んで、そっちはなんだ?」 長身の男と背の低い女の、よく分からない組み合わせだ。 「お、お兄ちゃんだよ!」 クロウの背後から水心が、とっさに口からでまかせを言い放つ。 「きょ、兄妹?」 目を丸くする山賊。どちらかといえばクロウと灯華の組み合わせのほうが頭髪の色から合っているような気もするが、夕刻で見分けがつきにくくなっていることも幸いした。 「まあ、いいや。おいおめえら、その二人をあいつらんとこに入れとけ」 見張りは新しく出てきた山賊の二人に、クロウと水心を連れて行くように指示する。 クロウと水心は外から戸を閉められた一軒の家の前につれてこられる。中には大勢の人が居る気配がする。村人が集められている家だろう。 家の戸を開け、クロウと水心を中に入れようとする山賊。 その頃柳斎と灯華は、見張りから行商の中身を問われていた。 「そんでおめえらは何持ってきたんだ」 「あ、あの、これです‥‥」 灯華が背負った包みから一棹の芋羊羹を取り出す。 「こ、こりゃ、羊羹か!」 ごくりとのどを鳴らす見張り。 「その羊羹、貰うぞ!」 見張りは灯華の手から芋羊羹を奪い取り包みをはがすと、その芋羊羹をむさぼり食う。 「あ、甘え!」 「あ、てめえ、オラにも食わせろっての!」 氏族や金持ちが買う練羊羹には劣るが、それでも庶民ではなかなか手の出せない芋羊羹である。普段味わえない甘味と考えれば山賊達が夢中になるのも頷ける。 その山賊達四人の目が村長の家から離れた隙に、潜入組の四人は村長の家の物陰へと隠れたのだった。 空が物陰から内部の気配を察すると、家屋の中心近くに六つの気配、裏口近くに一つの弱い気配を感じた。 常識で考えれば、見張りを連れていない客人はもぐりこんで来た者だ。風葉は奇襲を指示する。 見張りたちの気が羊羹などに向いた瞬間、貉が仮面をつけたイナゴのような蟲の式を呼び出すと頭一つ大きい山賊に向かわせる。同時に長槍をもった空が表の戸口を開ける。 その隙間から見える内部に向かって風葉は山賊の体を歪ませると、裏口からは絵梨乃がそっと入り込み、縛られている村長の娘を引っ張り出す。 「大丈夫、助けに来たよ」 「なんだ、てぶっ」 山賊が言葉を言い切る前に、中に上がりこんだ空は柄で殴りつける。 「血、ちを、ちが、ち、足りナい足りなイタリナイ!」 外套を深く被ってこの台詞は、山賊達にアヤカシか何かと思わせるのに十分である。 貉の蟲に刺された山賊の頭は、全身が痺れたかのように緩慢な動きになる。空に続いて上がりこんだ狢は、さらに仮面をつけた動物の狢のような式を呼び出し、他の山賊にまとわりつかせる。 「痛ぇで済ませてやる、お休み」 狢は動きの鈍った山賊の急所を杖で突く。 「さ、皆頑張って!アタシは巫女だし、力仕事は無理だもん」 風葉も中に上がり、次の山賊の体を歪ませ足止めする。 絵梨乃は背後の人質に気を配りながら、山賊の攻撃をのらりくらりとかわし、拳を打ち込んでは山賊の体勢を崩す。 「動くな、動いたら背骨を踏み折るぞ」 倒れこんだ山賊を絵梨乃は踏みつけるとそう脅す。 それぞれ山賊から反撃を受けたとはいえ、次の瞬間には六人の山賊は打ち倒されていた。 村長の家で喧騒が起きると同時に、柳斎と灯華、クロウと水心は行動を起した。 それぞれが二人の山賊を相手とするため、柳斎、クロウが仲間の盾になる。 柳斎は懐から飛苦無を抜き出して投げつけると、荷物から刀を抜き出す。 灯華は漆黒の鴉の式を呼び出し、山賊に襲い掛からせる。 「今日は機嫌があまり良くないの。さっさとイって頂戴!」 クロウはカマイタチの式を呼び出し、やはり山賊に切りつける。 水心も式を呼び出し、山賊にまとわりつかせる。 「ちょっと眠っておいてね?」 こちらも次の瞬間には、四人の山賊は打ち倒されていた。 「ボクの羊羹、返してぇ〜!」 絵梨乃は灯華の手の包みを奪い返す。 開拓者達は痛みにうめく山賊たちを縛り上げ一箇所に集める。 一番怪我が酷かったのは外にいた山賊というのも皮肉な話であった。打撃を与える武器もなく、切り裂く攻撃が主であったためである。 かろうじて息のある彼らを一人一人、風葉は精霊の力を宿した手で癒していく。 「もう悪いコトすんじゃないわよ?ご飯くらい、真面目に働いて食べなさい!いい?」 風葉が癒す山賊達にクロウは一言声をかけた。 「その人には感謝しとけ。彼女が止めてたから俺はおまえらを殺さなかったんだ」 だが山賊の頭は。 「ふん、おめえら開拓者なんだろ?志体持ち様はえれーよなぁ、食えなくなる心配がねえから、そうやって上から物が言えるもんな」 ガツッ! 減らず口を叩いた山賊の顔を無言で殴りつけるクロウ。 「けっ、気は済んだか、えれー開拓者様よぉ」 殴った拳が痛んだ。 村人を開放した開拓者達は、翌朝茶屋で待つジロウを迎えにいき、顛末を伝える。 「そうか、キョウコは無事だったか。いや、みんなありがとう」 突然出てきたキョウコという名前だが、どうやら人質の娘のことだったらしい。 開拓者達は山賊を役所へ突き出した。 役所から山賊退治の褒賞金が出て、開拓者達はそれぞれ五百文づつ分け、残りを村の賠償に当てた。 だが。 「こんなはした金、酒代にしかならん」 「ん?自棄酒か、しゃーねぇなぁ。付き合ってやるぜぇ」 貉と空の褒賞金は酒代へと消えていったのであった。 |