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■オープニング本文 開拓者には新年も何もない。 アヤカシは待ってくれないのだから。 年が明けて、澄んだ朝の空気に初日の出が輝く。 人々は精霊に新年を祝い、いつもとは違う特別な料理に舌鼓を打ち、陽気に酒を飲む。 「新年おめでとう。いやあ、今年も無事迎えたねえ」 「ああ、おめでとう。ああ、めでたいねぇ」 毎年の挨拶がそこかしこで行われる。 平和な新年の昼間のひと時であった。 夜。 ウオーン。 夜の闇の中、遠吠えが響き渡る。 遠吠えに目を覚ましたコウスケは、妻カヨと娘ヨウを起すとぶるぶると震える体を寄せ合う。 寒さだけではない。あの遠吠えの主がなんなのか。これから何が起ころうというのか。恐怖が心を支配していく。 「なんなんだ、なんなんだ。新年からこれは一体どうゆうことなんだよぉ」 恐怖でコウスケは泣きそうな顔だ。ヨウは十にもならない子供だ。すでに不安で泣いている。カヨだって顔を真っ白にして懸命に恐怖を堪えようとしている。 遠吠えはだんだんと近づいているようだ。 やがて‥‥。 ガツン! ガツン! 小屋の壁板に何かぶつかってきた。 やがて壁板はミシミシとめり込んでくる。 バキィ! ついに壁板が打ち破られる。 ヴルルルル。 冬の冷気と共に小屋の中に入り込んできたものは、二頭の狼のようだ。 いや狼は人家に無理に押し入ることは無い。大体あんなにも爪や牙が大きいわけがない。恐怖で大きく見えるのか。ではあの所々に生えている角はなんだ。狼には角は無い。 コウスケは目の前の狼に似た化け物がなんなのか分からなかった。いや知りたくなかったのかもしれない。 化け物は一飛びでコウスケに圧し掛かると、その喉に牙を立てる。 コウスケの薄れ行く意識の中、妻と娘の悲鳴が聞こえた。 「新年早々ですが、仕事です」 新年だというのに開拓者ギルドの職員は忙しそうにしている。 受付嬢は地図を広げて『×』の印の指差す。 「この村で怪狼の群れが目撃されました。数は八、村の家屋の半数が襲われました」 受付嬢は説明を続ける。 「ただこの怪狼達、夜遅く現われ、明け方には去っていくそうです。村で難を逃れた者達も早朝、怪狼達が村から立ち去ったためか命拾いをしたようです」 受付嬢は怪狼達が立ち去った方向をなぞるが、その先には集落はない。 また指は戻り、『×』印の村までなぞる。 「おそらく怪狼達は、また村を襲うでしょう。皆さん、これ以上被害が広がらないよう怪狼を退治してください」 |
■参加者一覧
斑鳩(ia1002)
19歳・女・巫
輝夜(ia1150)
15歳・女・サ
天目 飛鳥(ia1211)
24歳・男・サ
皇 りょう(ia1673)
24歳・女・志
ペケ(ia5365)
18歳・女・シ
綾羽(ia6653)
24歳・女・巫
天ヶ瀬 焔騎(ia8250)
25歳・男・志
サンダーソニア(ia8612)
22歳・女・サ |
■リプレイ本文 十軒ほどの家が広場を囲むように建つ村だ。 その半数ほどの家には戸や壁が壊され、血の匂いが漂っている。家の中には誰もいない。皆、怪狼達に貪り食われたのだ。 残る家の戸や壁にも、大きな爪で引っかいた跡や、体当たりでもしたのか何かが突き刺さったような跡が残っていた。 怪狼は狼によく似た姿をしているが異なるところがある。爪や牙が狼のそれより大きいこともあるが、何よりも大きく異なるのは体のあちこちから生えた角である。 生き残った村人達は着の身着のまま、手元にある少ない食料を持って避難したのであろう。晩の食事の冷えた残りもそのままに、人の気配だけがなくなっていた。 開拓者達は開拓者ギルドに用意してもらった篝火の薪等を、怪狼に襲われた村へと運び込む。 夜の戦闘に備えてのことだ。怪狼を村の広場へとおびき出し、一網打尽にしてしまおうという作戦だ。 村の広場では篝火が組み立てられていた。 「新年早々アヤカシ退治とは、開拓者に休みはありませんね」 篝火を組みながら斑鳩(ia1002)がぼやく。 「村がアヤカシに襲われると言うのは、残念ながら珍しくも無い話ではあるがな」 篝火の薪を運んできた天目 飛鳥(ia1211)が言葉をつなげる。 「痛ましい話だ。今年も戦に明け暮れる一年になりそうであるな」 同じく薪を運んできた皇 りょう(ia1673)が答える。 「おおーい、こいつはこの辺りでいいのか?」 組み立てた篝火の位置を確認する天ヶ瀬 焔騎(ia8250)。戦場となる村の広場はなるべく明るく自分たちに有利なほうがいい。そのためには篝火の位置も重要だ。 村の広場の奥のほうでは、綾羽(ia6653)とサンダーソニア(ia8612)がおびき出すための生肉を用意していた。 「ねえねえ、このお肉、焼いててもいいかな?」 サンダーソニアはおこぼれにあやかれるかもと、生肉を切り分けながら聞く。 「そうですね、焼いたお肉の美味しそうな匂いがすれば、怪狼を上手くおびき出せるかもしれませんね」 人の感覚だが、肉を焼いた匂いの方がおびき出しやすいかもしれない、綾羽はそう考えた。 その反対、村の入り口というか、怪狼が来て去っていった方向では輝夜(ia1150)とペケ(ia5365)が網を仕掛けていた。 おびき出された怪狼達の逃げ道を塞ぐためだ。 「怪狼達は引き際を心得ているような気がします。逃げに転じられると大変だと思うんです」 ペケは怪狼の行動について不安があるようだ。 「それは仕方あるまい、いつも万全の体制で迎え撃てるわけではないからの。こうやって一つ一つ退路を塞ぐ事が、今の我らの出来ることじゃ」 ペケを諭すと、次の逃げ道になりそうな箇所へ網を仕掛けに行く輝夜であった。 怪狼をおびき出す囮役は斑鳩、輝夜、りょう、サンダーソニア。 広場の奥のほうで、まず二つの篝火を灯す。 目の前には切り分けられた生肉が置いてある。 おびき出された怪狼の退路を塞ぎ強襲する挟撃役は飛鳥、ペケ、綾羽、焔騎。 飛鳥もペケも綾羽もすぐに飛び出せるよう、近くの空き家へと隠れ潜む。 焔騎だけは視界を確保しようと言うのか、屋根の上に身を潜め、左腕を持っていた短刀で傷つける。 怪狼が来るであろう方向をにらみつける斑鳩と輝夜に香ばしい匂いが漂ってきた。 「少しくらい食べても良いよね?」 振り返ると篝火の火で、木の串に刺した肉をあぶっているサンダーソニアの姿があった。 ぐぅ。 傍では後を向くりょう。顔が火照ってくるのを感じながら、干し肉を取り出しガシガシと齧る。 (「むぅ、こんな時にも元気な腹の虫が恨めしい!」) 肉の匂い、焼ける匂い、人の匂い、そして新しい血の匂い。 いくつかの人は肉や村に混じってよく分からないが、血の匂いがする人は分かりやすい。 屋根の上からだ。 「ウォウ」 声をかけ半数が血の匂いへと向かう。血の匂いということは怪我をしている。襲い易い。 こちらはそのまま肉と人を襲う。 「ウオーン!」 一声遠吠えをあげると、返答がある。 「ウオーンウオン!」 さあ、食事の時間だ。 怪狼達は村へと駆け出していった。 ウオーン。 ウオーンウオン。 真夜中を過ぎた頃、二つの遠吠えが聞こえてくる。 周囲の気配を探りながら、村の家屋に身を潜めていた飛鳥は、村へと近づいてくる存在を探り出した。 数は四。 (「数が合わねえ。残りはどこだ?」) そう思った瞬間、別方向で待機していた焔騎が屋根の上から落ちてきた。 同時に飛鳥が見つけた気配が急速に村へと近づくのであった。 時間は少々前後する。 屋根の上の焔騎の自らつけた傷は、小さな血溜りを作るくらいの血が流れ落ちたが、すぐに固まり傷口を塞ぐ。 流れ落ちた血も屋根の上で固まる。 時は過ぎ、遠吠えが二つ聞こえる。 (「そろそろか」) 聞こえてきた遠吠えに身を引き締め、気配を探る。 外から村に近づいてくる存在が四つ。まさに焔騎のいる方向へと近づいてくるようだ。 アヤカシか何かは分からないが、もう少し近づけば屋根から飛び出しても届くだろう。 ヴルルル‥‥。 闇の中から唸り声が聞こえてきた。 次の瞬間、一つの気配が焔騎の目の前に現われた。いや、実際には気配の動きは追えていた。隣の家の壁板を蹴った反動で屋根まで上がってきたのだ。だが目の前に現われたかと思うほど早かったのだ。 角を生やした狼が焔騎の目の前にいる。狼は焔騎に体当たりをすると、焔騎を屋根から村の広場へと落す。 焔騎は広場へと落ちていく中、残る三つの気配が屋根に上がり、自分に向かって飛び掛ってくるのを感じ取っていた。 「ぐはっ!」 焔騎が広場に落ちてくるのと同時に八頭の怪狼がなだれ込んできた。 四頭は正面から、四頭は焔騎を追って屋根の上からである。 落下の衝撃自体は、焔騎の志体の体にはほとんど効いていなかったが、次々に食い込む爪が深い傷を残していく。 なぜ焔騎が屋根の上で怪狼達に襲われたのかは、他の仲間は誰も分からなかったが、それでも皆行動を開始する。 りょうは気配を探りながらも備えていた火のついた松明で、灯っていない篝火へ灯す。 輝夜は投げ網を構え、声を張り上げ怪狼の気を引こうとした、が。 「おい!‥‥けほっ」 大声を張り上げるよう体を慣らしていなかったためか咽ていた。 飛鳥は逃げ道である村の入り口に立つ。 ペケは唯一空いていた村の入り口に、紐一本で下ろせるようにしていた網を下ろす。 焔騎は食い込む爪を振り払い、家の壁を背にして防戦に回る。 斑鳩は精霊を呼び出し、落ちてきた焔騎を治療する。 綾羽は火霊を呼び出し、残った篝火に火をつける。 サンダーソニアは口の中の肉を吐き捨てると、松明で篝火へ灯しに行く。 戦いは始まった。 怪狼の牙を受け流すと、りょうは刀で切りつける。 「使い古された手段とは、それなりの効果が望める手段でもあるということじゃの」 輝夜は投げ網で怪狼達の動きを止めると、長槍で撫で切る。 爪の攻撃を受けつつ、飛鳥は一歩踏み出し攻撃すると見せかけ、怪狼が回避した先へと炎の精霊を纏わせた刀で足を切りつける。機動力を奪うためだ。 ペケは圧倒的な脚力で、焔騎を襲った怪狼が見せたように壁を蹴り上げた反動で屋根の上に飛び乗ると、夜の闇を見透かす目で見通し、残っている怪狼に投げ網を投げる。 焔騎は刀に炎を纏わせ、切りつける。 「くっ、貴様等にはこれ以上好きにはさせんぞッ!」 怪狼の爪や牙をどうにか掻い潜り、ゆったりとした精霊の加護の舞を舞う斑鳩。 全ての篝火に火を灯し終えると、軽やかに精霊の加護の舞を舞う綾羽。 サンダーソニアは自分の背丈ほどある剣を振り下ろす。 怪狼達は牙や爪、角で反撃するも、一頭また一頭と倒されていく。 怪狼の数が半数になるとジリリと下がる気配を見せる。 「逃がすわけにはいかぬ!」 りょうは怪我を承知で怪狼に組み付く。りょうを振りほどこうと爪や角を突き立てる怪狼。 「折角の正月じゃ、汝らにはおせちの代わりに我の『長葱「羅漢」』でも馳走してやろう」 輝夜は長槍を気合と共に全力で振り下ろす。 ペケは怪狼の背後にまわり、雷の手裏剣を生み出す。 「危険過ぎる狼の化け物は此処から逃すわけにはいきません!!」 雷の手裏剣は怪狼へと投げつける。 「お前たちの相手は、このボクだ!!!」 サンダーソニアが気合を込めた雄たけびをあげると、怪狼達は彼女に向かって駆け出す。 あとは開拓者達がそれを迎え撃つだけであった。 翌日、朝日の照らす中、篝火等を片付けていく開拓者達。 「気休め程度ではあるが、瘴気を払う為に、精霊への祈りと共に剣舞を捧げさせて頂こう」 一通り片付け終わると、りょうが剣舞を舞うと進みでる。 「そうゆうことなら、我はおせちを持ってきた。皆でこれを食べて供養となさないか」 輝夜は持ってきたおせちを広げる。 朝日の中、りょうが剣舞を舞う。 朝日の中、皆でおせちをつまむ。 亡くなった者達の冥福を祈って‥‥。 |