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■オープニング本文 ‥‥魔の森の奥地で。 不厳王(iz0156)は、瘴気の中で瞑目していた。と、そこへ影が近づいていく。影は、不厳王の前にこうべを垂れた。 「不厳王様――」 「何か」 「そろそろ、橘鉄州斎(iz0008)の件にも手を打つべきかと」 「ああ‥‥何者だったかな」 「神楽の都の開拓者ギルド相談役です」 影の言葉に、不厳王は僅かに体を動かした。 「そうであったか‥‥どうする」 「橘を、我が方へ引き入れます」 「引き入れる? 開拓者ギルド相談役をか」 「お任せ下さい。この時のために手配はしております」 「好きにせよ。人間一人どうしようと、わしの知ったことではない‥‥」 「そのお言葉だけで十分です‥‥では、失礼いたします」 後退する影を、不厳王は軽く手を上げて下がらせた――。 ――天儀本島理穴国。 赤龍と言う男をリーダーとする賊集団「赤龍党」は、現在理穴に潜伏していた。今年初めに姿を消していた赤龍党のもとへ、また依頼人から文が届いた。赤龍は、部下の女剣士、氷華が見つめる中で、文を開いた。 「娘を使って橘鉄州斎をおびき出せ、か‥‥」 文面に目を通した赤龍は、唸るように言って、吐息した。 「橘の娘は、例の跋扈王に殺されたのでは?」 「どうやら違ったようだな。橘あかり――その一人だけ、捕えていたらしい」 「随分と手の込んだこと」 文面には、橘あかりを人質に鉄州斎をおびき出し、理穴の凛河村の村長を鉄州斎に斬らせるように指示が出ていた。 「面白い展開ですわね。橘鉄州斎がギルドを裏切るでしょうか」 「見込みは薄い計画だな。俺たちも策を講じる必要があるだろう。近辺の町の同心たちにも時期を見て情報を流せ。凛河村の村長が、橘鉄州斎に斬り殺された、とな」 「橘が来なければどうしますか?」 「奴は来る。――隠れ家へ移動するぞ。橘あかりを拾っていく」 それから赤龍たちは、廃村に立ち寄り、橘あかりと対面した。 あかりは生きていた。瞳には、強い光があった。 「橘あかりか」 赤龍はあかりの前に立つと、その頭を軽く撫でた。 「喜べあかり。九か月ぶりにお父さんに会えるぞ」 「私をどうする気」 あかりの声が力強いことに、赤龍はやや驚いた。 「おとなしくしてろ。黙っていれば鉄州斎がやって来る――」 「お父さんに何をするつもり」 「父親思いだな。俺たちは何もしない。動くのは鉄州斎だ」 「お父さんはあんたたちの言いなりにはならない」 「それはどうかな。鉄州斎も人の子だ。試してみる価値はあるだろう。それにしても‥‥タフな小娘だ。立て。行くぞ」 開拓者ギルド――。 橘鉄州斎は、届いた文に目を通して、何度も読み返した。 「あかりが‥‥」 橘は、あの時確かに娘の遺体を見た。にわかには信じ難い話であった。 文の内容は簡潔。あかりを無事に返して欲しくば、凛河村の村長を切り殺せとあった。差出人は不明。 橘はまず信頼出来るシノビを雇って、凛河村を調べさせるとともに警告を送った。数日後、シノビから連絡が入って来た。橘は風信機の前で報告を受けていた。 「それで、何か分かったか」 「ああ。ここ凛河村は、魔の森からは離れていて、アヤカシの気配はない。ただ、不審者が紛れ込んでいるようだ。どうやら、あの赤龍党が関わっているらしい」 「赤龍党だと?」 「ああ。その男が赤龍の部下と連絡を取っているところを確認した。恐らく、お前さんが来るのを見張っているのだろう」 「赤龍の居場所は分かったか」 「いや、そこまでは」 「そのまま待機してくれ。これからそっちへ向かう」 「了解、相談役」 それから橘は、風信機の前から離れると、受付に戻って開拓者たちを呼び集めた。 「協力して欲しい」 橘は、集まった開拓者たちに状況の説明を始めた。 |
■参加者一覧
無月 幻十郎(ia0102)
26歳・男・サ
華御院 鬨(ia0351)
22歳・男・志
焔 龍牙(ia0904)
25歳・男・サ
玲璃(ia1114)
17歳・男・吟
井伊 沙貴恵(ia8425)
24歳・女・サ
鳳珠(ib3369)
14歳・女・巫 |
■リプレイ本文 「鉄州斎殿、御息女のことは無事で良かった」 無月 幻十郎(ia0102)の言葉に、橘鉄州斎(iz0008)は吐息した。 「生きているなら何としても助けたい」 「必ず救い出して見せますぞ。今度こそは必ず」 「心配するな橘、私は女性を助ける事になると120%の力を発揮できるんだ」 と華御院 鬨(ia0351)は冗談を含めて橘の心配を少し楽にしてあげる。今回は気さくな浪人風に男装(変装しないと女性にしか見えないため)している。 「鬨、あかりは八歳だぞ」 「え、そうなのか?」 鬨は肩をすくめた。 「赤龍党か、やつらが動いたとすると背後に糸を引いてるやつがいるってことだな。必ず、尻尾を掴む!」 焔 龍牙(ia0904)は言って、橘を見やる。 「鉄州斎殿、今回の動きあなたなら、どう見る?」 「俺をはめようとしている、と言うのは考え過ぎだろうか」 「あなたは過去に相当数のアヤカシの謀略を阻んできましたからね」 そこで玲璃(ia1114)が口を開いた。 「橘さん、あなたは狙われています。それは間違いありません。自覚なさった方がいいですよ」 「ずばりと言ってくれるね」 「最近の動きを見ていると、危険に思えて仕方ありません」 井伊 沙貴恵(ia8425)は、玲璃の言葉に同調した。 「玲璃君の言うことも尤もだと思うわよ橘さん。あなたには確かに、去年あたりから身の回りで危険なことが起こり過ぎてるわ」 「せめてあかりは助けてやりたい‥‥」 「赤龍党絡みの報告書は閲覧しました。厳しい相手のようですが‥‥橘さん、みなであかりさんを守りますから」 鳳珠(ib3369)の言葉に、橘は吐息した。今回の作戦の概要をこれから村長に説明することになる。 「何と言っていいか‥‥だが、村長を危険には晒せん」 「最善を尽くしましょう。望みはあります」 鳳珠は言って、頷いた。 ――と、村の中へ入って行く開拓者たちのもとへ、旅装束の男が近づいて来た。 「橘さん」 「陣兵衛。ご苦労さん。みんな、シノビの陣兵衛だ。今回の作戦に協力してくれる」 橘が紹介すると、陣兵衛は頭を下げた。 「陣兵衛と申します。皆さんよろしく」 それから一同歩き出す。 「状況はどうなっているんだ」 鬨が尋ねると、陣兵衛は頷いた。 「例の不審者ですが、ここ最近村にやってきた旅の男で、赤龍の部下と連絡を取り合っています。村長宅を監視していますが、身のこなしから志体持ちではないかもしれません。少なくともシノビではないようです。赤龍党の部下は、さすがに用心深い。あっしが追跡出来たのも村の郊外までです。会話を聞きとることは出来ましたが、橘さんが来るのを向こうは待っているようです。それ以上のことは分かりませんや」 「いいわ。村の周辺は私と陣兵衛さんで捜索して見ましょう。みんなは橘さんと村長さんのところへ行って。村長さんの説得には、みんなで当たるしかないでしょう」 沙貴恵は言うと、「行きましょう」と陣兵衛とその場から離れた。 「村長殿を説得するには、きっちりと状況を説明しないと。こちらの状況を正直に話すしかないだろう」 幻十郎の言葉に、焔が頷く。 「分かってもらえるはずだ。ここの長ならきっと協力してくれる」 そうして開拓者たちは村長宅の扉を叩いた。 「どちら様ですか」 「開拓者ギルドの者です。あなたに警告を送った橘です。他は開拓者です」 村長は「そうですか」と頷き、一同を家の中へ通した。 「それで‥‥賊が襲撃してくるかもしれないと言うことですが‥‥」 村長が開拓者たちに向き合うと、奥方がお茶を持ってやってきた。奥方も不安そうに村長の隣に腰を下ろした。 「状況が込み行っておりましてな」 幻十郎が切り出すと、村長は「と言いますと」と問う。 「賊から、要求が出ておりましてな。こちらの橘殿の娘が賊の人質になっておりまして。賊は、それで娘を無事に返して欲しくば橘殿にあなたを切るようにと、要求してきたのです」 「何と言う‥‥」 村長は言葉を失った。 「それでは、あなたは娘さんを人質に取られているのですか」 「左様です」 橘は軽く頷いた。 「私を殺せと言うことですか」 「無論、そんなことはさせません。賊の要求を飲むつもりはありません」 そこで、焔が口を開いた。 「村長、こうしてお話に上がったのも、あなたにお願いがあるからなのです」 「伺いましょう」 焔は橘に目を向け、それから村長の方を向いた。 「賊は橘さんを見張っています。この村に賊の協力者がいます。あなたが死んだことにならなければ、橘さんの娘は助かりません」 「そうでしょうな。話が見えてきませんが‥‥」 「一芝居打って頂けませんか」 「芝居?」 「はい。橘さんにあなたが殺されたと、賊に思わせたいのです。時間を稼ぎ、賊の不意を突いて娘さんを救い出し、賊を討伐します。あなたの協力が必要なのです」 「私に死んだ振りをしろと言われるのですか?」 「その通りです。無茶なお願いであることは承知していますが、身の安全はお約束します。私たちがお守りします」 「そんなの駄目よ!」 そこで村長の奥方が叫び出した。 「あなた良く考えて。今からでも遅くは無い。奉行所に行って、きちんと身の回りを守ってもらうのよ。賊を逮捕してもらえれば、何もかも収まるわ」 玲璃は、奥方を落ち着かせるように手を差しだした。 「落ち着いて下さい。この賊たちは並みの相手ではありません。必ず私たちがお守りしますから。本当にこの賊が乗り込んできたら、町の同心では押さえられないでしょう」 「あなた! 私たちを脅迫するつもり!?」 「すみません、そういうわけでは」 「無理強いは致しません。我々としてもあなた方の身を守ることが最優先ですから。ご協力頂けないなら‥‥」 橘が言うと、村長は手を上げた。 「協力しましょう」 「あなた! 何を言ってるの!」 「協力すべきだ。開拓者たちが守ってくれる。橘殿の娘さんを見殺しにはできない」 「そんなことをして村が攻撃されたらどうするつもりなの! あなたは村長なのよ!」 「今なすべきことは賊の討伐に協力することだ。それが村の安全にもつながる」 「それがこれだって言うの!」 「その通りだ。お前も開拓者に協力しなさい」 村長の言葉に、奥方は勢い立ち上がると部屋から出て行った。 「それで、どうすればいいのでしょうか」 村長は言うと、開拓者たちに問うた。 「これを使って下さい」 玲璃は、鶏の血が入った袋を幾つか渡した。 それから鳳珠が説明した。 「橘さんが表に出て、あなたを切る振りをしますから。そこで、適当に倒れて血袋を破って下さい。現場は私たちが押さえておきます。村人たちは近づけません。その後あなたの身柄を隠した後に、私たちは賊の討伐に向かいます」 「分かりました‥‥やってみましょう」 「ではお願いします。ご協力に感謝します」 そして、開拓者たちは作戦を開始した。 ――開拓者たちは村長宅から出ると、予定の広場の側にある小屋の影に隠れた。橘も別の場所で待機し、村長がやって来るのに備えた。 やがて、村長がやってくる。村人たちに挨拶しながら、辺りを窺う。と、村長は隠れている開拓者たちの方を見やり、小さく頷いた。村長は手を上げて合図を送った。 橘が素早く駆け寄り、刀を抜いた。 「村長! お前に恨みは無いが、これも大義のためだ! 覚悟しろ!」 「な、何だお前は――」 「悪く思うなよ」 橘は刀を振り下ろした。突然のことに民から悲鳴が上がる。村長は倒れざまに血袋を破って地面に派手に転がった。 村民たちは悲鳴を上げて、後退する。 「人切りだあ!」 開拓者たちは飛びだした。村長の身柄を確保すると、橘を見やる。 「よし橘、お前は身を隠せ。ここは俺たちが――」 と、野次馬の向こうから、突如町の同心たちが現れて一帯を包囲する。 「橘鉄州斎! そこを動くな!」 「何だ――同心か? 何でこんなに早く‥‥」 幻十郎は舌打ちした。 「赤龍党、すでに手を回していたのか」 「橘! お前を奉行所に連行する! 抵抗するな! 刀を捨てろ!」 橘は刀を捨てると、手を上げて同心たちの方へ歩いて行く。橘は同心たちに捕縛され連れて行かれた。 「お前たちは何だ。そこをどけ、遺体の検分を行う」 同心の頭が歩み寄ってきて、見慣れぬ姿の開拓者たちに問うた。 「作戦を壊さないで下さい。私たちは開拓者です」 鳳珠の言葉に、同心の頭は眉を吊り上げた。 「開拓者だと? どういうことだ」 「申し上げたはず。今は作戦中なのです。村長は死んではいません。敵にそう思わせるために、芝居をしてもらいました」 同心の頭は唸るように吐息して、 「では橘が斬ったと言うのは嘘か」 「そうです。ですが、こうなっては仕方ありません。差し当たり、橘さんを形式通りに扱って下さい。私たちは賊を追跡中なのです」 「事情は分かった。一言言ってくれれば‥‥」 同心の頭は、部下を率いて撤収する。 「よし、村長を運び出そう――。村長、ありがとう、うまくいきました。これからあなたを隠します」 開拓者たちは村長を運び、彼の家に戻った。 ‥‥村の外れで。 「例の相談役が村長を切りました。同心に逮捕されて連行されたようです」 男は、赤龍党の一人にそう言うと、笑みを浮かべた。 「確かか」 「間違いありません。この目でしかと見届けました」 「よし、ご苦労だったな。赤龍様に報告する。またいつか使ってやる」 赤龍党の男はそう言うと、間者の男に金子を渡して村から出て行った。 「ありがとうございます」 男はにんまり笑うと、袋の中身を確かめた。 「へへ、ちょろい仕事だったぜ」 男は町の方角へ歩き出して、今夜のことに思いをはせた。今日は豪勢な夜になりそうだ。 と、男は側面から殺到してきた陣兵衛と沙貴恵に押さえつけられた。 「赤龍党はどこ」 「あ、が‥‥な、何だお前ら!」 「赤龍党はどこなの」 沙貴恵は男を持ち上げると、その目を見据えた。 「赤龍党なんて知らない!」 「嘘おっしゃい」 沙貴恵は男を村の方へ引きずって行く。 ――開拓者たちは間者の男を目の前にしていた。男はすくみ上がっていた。 「俺は何も知らねえ! 本当だ! ただ開拓者ギルド相談役が村長を切り殺すかどうか見届けろって言われて金をもらっただけだ!」 「そんな嘘が通用すると思うのか? 知っていることを話せ。話せば今回は見逃してやる」 鬨は刀に手を掛けると、男を睨みつけた。 「俺を殺すのか? 俺はただの一般人だ! 役人にそんなことが出来る筈がない!」 「私たちは役人ではありません。あの相談役の友人です。お分かりですか?」 玲璃はそう言うと、冷たい瞳で男を見据えた。 「どの道話せば俺は消される!」 「そんなことにはなりません。奉行所に口添えして、あなたを守ってもらうようにします」 鳳珠が言うと、男はパニック気味に顔を振った。 「何言ってんだ? 役人じゃないなら、何でそんなことが出来るんだよ!」 「私たちは開拓者です」 「開拓者?」 男は一同を見上げた。 「知っていることを話せ。お前が話さないなら自分たちで探すだけだ。その上で赤龍党を倒したら、お前を奉行所に付きだす。分かったか」 鬨の言葉に、男は縮みあがった。 「指示を受けたアジトなら知ってる」 「どこだ」 「村の北。森の中の廃村だ」 「そこに十歳くらいの娘はいたか」 「そんなこと知らない」 沙貴恵は、鬨に手を掛けた。 「急ぎましょう。余り時間は無い。赤龍党は逃げ出すわ」 「あかりさんが無事じゃなかったらただじゃ済まないからな」 鬨は男を睨みつけた。 開拓者たちは北の森に走った。 廃村の中で――。 「――それで、橘は村長を切り殺したのか」 赤龍の言葉に、部下の男は頷いた。 「差し当たり、成功したようです。橘は同心たちに連行されました」 「そうか。では裏を取ってからあの方に言って、次の準備に取り掛かろう。橘と接触する段取りをつけないと‥‥」 そこで赤龍は言葉を止めた。外に人影が見えた気がした。 「お前、付けられてないか」 「え? そんなことは無いと思いますが」 「氷華。外の様子を見て来い」 赤龍は刀を抜くと、部下達に合図を送った。 「気を付けろ。誰かいるぞ」 次の瞬間、赤龍たちの後ろから壁を吹き飛ばして開拓者たちが突入してきた。 幻十郎、沙貴恵、焔は赤龍党のサムライ達を斬り伏せて行く。 「お嬢さん、また会うなんて運命的な縁だ。いっそう、付き合わないかい」 外では鬨が氷華と相対していた。 「開拓者――!」 「赤龍! 今日は逃がさんぞ! 誰が背後にいるか教えてもらう!」 焔は切り掛かった。赤龍はその一撃を弾き飛ばすと、素早く移動した。 鳳珠と玲璃も室内に飛び込み、あかりの姿を探した。 「あかり殿!」 幻十郎の呼び掛けに、赤龍が応じた。 「開拓者ども動くな!」 見ると、赤龍があかりの首に刀を当てている。 「武器を捨てろ! 橘あかりを殺す!」 「赤龍終わりだ! 人質を解放しろ!」 「武器を捨てろ!」 赤龍は刀を開拓者に突き付けるように持ち上げた。その瞬間、あかりが拳を跳ね上げ、赤龍の腕から脱出した。 「何だ!」 あかりは勢い駆け出してジャンプした。彼女は志体持ちなのだった。 「撃ち殺せ!」 赤龍の怒号に、部下の一人が矢を放った。 矢はあかり撃ち抜いた。 「あかり殿!」 開拓者たちの注意が逸れた瞬間に、赤龍は壁を突き破って逃走した。 あかりはほとんど即死に近かった。 「鳳珠さん急いで下さい!」 玲璃は生死流転であかりの生命力を繋ぎとめる。そこへ鳳珠が少彦名命で回復する。 「どうなった!」 鬨が中へ入って来る。 「赤龍は逃げた」 「こっちも逃げられた。あかりさんか?」 「ああ」 玲璃はあかりの様子を見る。 やがて、あかりの呼吸が戻る。目が微かに開いた。 「あかりさん、大丈夫ですよ」 「あなたたちは‥‥」 「開拓者です。よく無事でしたね――」 牢屋に閉じ込められていた橘のところへ、同心がやって来た。牢番に告げる。 「出せ」 橘は牢から出ると、同心に問うた。 「どうなった」 「凛河村の村長と開拓者から事情は聞きました。賊は逃亡しましたが、娘さんは無事です」 「ありがとう」 橘は外に出た。 「お父さん!」 あかりが駆け寄って来る。鉄州斎はあかりを受け止めて抱きしめた。 「あかり! 無事だったか! 本当に‥‥すまない‥‥辛い思いをさせて」 「開拓者のみんなが助けてくれた」 あかりは満面の笑みで、鉄州斎と向き合った。 橘は顔を上げた。開拓者たちがいた。 「ありがとうみんな。本当に‥‥」 鬨は歩いてやって来ると、あかりに声を掛けた。 「あかりちゃん、神楽の都に帰ったら、お芝居でも見に行こうか。都は知らないだろう? 案内するよ」 「いいよ。お父さんが許してくれたら」 「鬨は信用できるが、簡単には許せないぞ」 橘は言ってから、開拓者たちに改めて礼を述べた。 「良かった、本当に良かった」 幻十郎は言って、橘親子の再開に涙を流すのだった。 |