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■オープニング本文 天儀本島武天国、龍安家の治める土地、鳳華――。 首都の天承城で、家長の龍安弘秀は先日の凱燕攻防戦の報告書に目を通していた。なぜアヤカシが秘密の地下水路を使ったのか、その経緯は全く分からなかった。 「お屋形様――」 筆頭家老の西祥院静奈が姿を見せる。弘秀は手招きした。 「お呼びと伺いましたが」 「ああ静奈。どう思う? 先日の戦闘は? なぜアヤカシは龍安家の秘密情報を知った」 「手引きした者がいる可能性はあります。確証はありませんが」 「‥‥静奈、この件は優先事項で当たって欲しい」 「そう取り計らいます」 それから静奈は、一息ついて主君に進言した。 「少しお休みになられた方がいいでしょう。とにかくも、攻撃は終息したのですから」 「疲れてはいるが、眠れないんだ」 「とにかく、今日は休息なさって下さい。緊急以外はお呼びしませんから」 静奈の進言に、弘秀は吐息した。 「分かった。後は任せるよ。私室にいるから」 「そうなさって下さい」 年長の静奈は姉のような気持ちで弘秀を見送った。 ところ変わって南部の大都市、東天原――。 「父上――」 青年は執務室に入って、奥の机に向き合っている人物に声を掛けた。父上と呼ばれた壮年の人物――東天原を統治する代官の海原左近は、青年に向き直った。 「勇か、入りなさい」 「父上、凱燕での戦いは‥‥酷いものでした」 「ああ、まさか、都市内部にアヤカシの侵入を許すとは」 「東天原も東は魔の森、敵とは目と鼻の先です。正直言って、恐ろしいです」 「勇‥‥分かるよ。私だって恐ろしい。在天奉閻を倒して、全てが終わったかに思えたのに、アヤカシの攻撃は続いている。だが、私たちは民を守らねばならん。もしもの時には私たちは戦うしかない」 と、そこへ娘が一人姿を見せる。海原愛奈。勇の妹だ。 「兄さん、それでも龍安家のサムライなの? お屋形様が聞いたらお嘆きになるわよ」 「愛奈、お前は敵の恐ろしさが分かってないんだ。アヤカシは強大だ」 「そうね、でもアヤカシは人の恐怖も力にする。怯えてるだけじゃ生きていけないわよ」 「分かったような口を聞くな! 城内で刀を振り回しているだけのお前に何が分かる!」 「父上、兄様を側に置いていても役には立ちませんわ。いざとなったら逃げ出すのが見えていますもの」 左近は目の前で口論する兄妹を見やり、吐息した。この東天原はまだ平和だ。これまで大きな戦に巻き込まれたことは無い。 「左近様、大事です」 女が室内に入って来る。側近の大林綾が早足で室内にやって来た。 「どうした」 「東の魔の森からアヤカシが出現しました。高早の里が攻撃されました。里の中枢が攻撃され、里長一家が誘拐された模様です――」 東天原の東、高早の里――。 破壊された家屋の残骸の周りを、兵士たちが駆けまわっている。 「くそ‥‥何て事だ」 残骸の中で手当てを受ける、男性がいた。陸奥高時。里の長である。 「妻と子供はどこへ行った」 高時は、歩み寄って来る腹心の中山信に問うた。中山は吐息して首を振る。 「分かりません」 「分からないだと?」 「今は情報が交錯しています、奥方と御子息をさらった龍は東へ飛び去ったことは分かっています」 「では妻たちは魔の森へ連れ去られたと言うのか」 「恐らくはそうでしょう‥‥。高時様、魔の森から出現したアヤカシ勢の数も不明です。上空から不意を突かれました。ご覧の通り、里はあちこちで打撃を受けました。ですが悪いことに、これはまだ始まりである可能性もあります」 そこへ兵士が駆けこんで来る。 「申し上げます! 里の郊外でアヤカシの残党と交戦中です! 民が人質に取られており、アヤカシの首魁が高時様を呼べと!」 「言葉を話すのか」 「そのようです!」 「行こう」 高時は立ち上がったが、中山は止めた。 「お待ち下さい。ここはひとまず、東天原からの援軍を待ちましょう。態勢を立て直すのです」 「そんな時間は無い。妻と息子が攫われた。アヤカシは何か要求するつもりだろう」 「ですが高時様‥‥」 中山の制止を振り切って、高時は走り出した。 そのアヤカシの名を、沙九那王と言った。ぼろぼろの顔立ちの死人戦士で、3メートル以上の巨人、人間の言葉を話すアヤカシである。 「陸奥高時は来ないか。来なければ、お前たちは皆殺しになるだけだがな。ふっふっふ‥‥」 おぞましい口許を歪めて、沙九那王はすくみ上がった民を見据える。 しばらくすると、高時らが里の兵を連れてやってきた。 「私に話があると聞いた!」 「陸奥高時、来たか」 「妻と子供をどこへやった!」 「こちらの要求を聞け。そうすれば妻子は無事に返してやる」 「分かった! 言うことを聞く! どうすればいい!」 すると、沙九那王は蛮刀を持ち上げると、ぼろぼろの顔に笑みを浮かべた。 「里の砦から全ての兵を引き上げろ。東天原からの援軍が来る前に、砦の兵を全て引き払え。そして後退しろ。それがこちら側の条件だ」 高時は、震えが止まらなかった。そんなことをすれば、アヤカシは瞬く間に里を制圧しに掛かるだろう。そうなれば、東天原への道を開くことになる。 「そんなことは‥‥出来ない‥‥!」 「そうか。ならばお前の家族は戻らん。そして今ここにいる民も助からん」 沙九那王はそう言うと、手近な民を一人斬り殺した。悲鳴が上がる。 「陸奥高時、お前は何も分かっていない。抵抗したところで無駄だ。ここにいる全員、殺す気か?」 「貴様‥‥」 「ふん、まあいい時間をやる。良く考えろ。こちらにはお前の妻子がいることを忘れるな」 沙九那王はそう言って笑った。部下の死人戦士を怒鳴りつけると、民を引きずって森へ入り、そのままそこで戦闘態勢を取った。 「――あのアヤカシはここを攻撃するつもりだろう」 高時は家臣たちに言った。 「民と妻子を使って私を脅し、里の防備を無力化するつもりだ。そんなことはできない。時間が残っている間に、東天原から援軍を呼び、あのアヤカシを討つ。人質は助けたい。包囲網を敷くぞ」 そこへ、中山が歩み寄って来る。 「高時様、吉報です。東天原から出ていた定期哨戒中の龍騎兵が誘拐された奥方と御子息の行方を追跡していました。お二人は魔の森近郊の深麗山の森で捕らわれています。まだご無事です」 「本当かそれは」 「はい。確かな情報です。アヤカシ兵二、三体が廃屋にお二人を閉じ込めているようです。救出部隊を――」 「よろしく頼む」 「よしみんな聞いてくれ! 高時様の奥方と御子息が見つかった! 救出作戦と同時進行であのアヤカシを討伐する! だが先の凱燕の攻撃の件もある! これは最初の小さな攻撃かも知れん! まだ油断するな! 何が起こるか分からんぞ! 東天原の援軍と協力し、人質を救出、確実にアヤカシを撃破する!」 中山の言葉に、兵士たちは頷き出立の準備を整えて行く。やがて東天原からの援軍が到着すると、作戦は本格的に動き始めた。 |
■参加者一覧
鈴梅雛(ia0116)
12歳・女・巫
華御院 鬨(ia0351)
22歳・男・志
葛切 カズラ(ia0725)
26歳・女・陰
コルリス・フェネストラ(ia9657)
19歳・女・弓
将門(ib1770)
25歳・男・サ
朱鳳院 龍影(ib3148)
25歳・女・弓 |
■リプレイ本文 「人質を取って、降伏を要求してくるなんて。今までの敵とは性格が違うみたいです」 鈴梅雛(ia0116)は、言って里長や仲間たちを見上げた。 「人質を取られた時は、弱腰になってはダメです。要求を呑んだりして、人質が有効だと思われてしまうと、同じ事を繰り返してきますから。無事に人質を助け出して、人質を取っても無駄だと思わせないと」 「その通りあるどすな」 答えたのは華御院 鬨(ia0351)。女形をしていて、常に修行のために女装し、そこいらの女性よりも女性らしい雰囲気を醸し出している。今回は泰国風の先生の演技をしていた。 「また、新しいアヤカシが出たあるどすか。アヤカシも忙しないあるどす」 鬨はそう感想を言った。 「それにしても大胆なアヤカシあるどすな。白昼堂々奇襲攻撃とは。不意を突かれましたな里長殿」 鬨の言葉に、里長は吐息した。 「拙いことになったよ。迎撃する間もなかったからな」 「最近こういう手合いが増えてきてるわね〜〜、嵌められない様に気を引き締めとか無いと」 葛切 カズラ(ia0725)はそう言うと、里長に望みを捨てないように言った。 「御家族のことはお気の毒だったけど、まだ希望はあるわ。こっちで何とかしてみせますから」 「頼む。私には頼むことしかできないが」 「出来る限りのことをします」 「高時様――」 コルリス・フェネストラ(ia9657)は、里長に言葉を掛けた。 「このことは家長の弘秀様にも伝わっているでしょう。弘秀様はいつでも力になって下さる筈です」 「鳳華の状況は、お屋形様は全て把握しているだろう。だがアヤカシの攻撃はここ最近巧妙になっている。天承でも混乱をきたしているのではないかな」 「それはあるかも知れませんが、家老衆の皆さんも尽力しているでしょう」 「ところで、言葉を話すアヤカシだったよな」 将門(ib1770)が言うと、開拓者たちや中山、里長は思案顔を浮かべた。 「それに、砦の兵を引かせろと要求してきた。本当にそんな要求に陸奥殿が従うと思っていたのかな」 「と言うと?」 「ここ最近の流れは見てる。嫌な予感がするんですよ。ここから魔の森はそう遠くないんでしょう?」 「言いたいことは分かる」 中山は頷いた。 「確かに、凱燕であんなことがあったばかりだ。私も、これが最初の兆しではないかと思っている」 「加えて言うなら、単なる攻撃じゃないかも知れない。想像は尽きませんけどね」 将門は言って、肩をすくめた。 「これもまた厄介な事態ではあるが‥‥さて、どうしたものかのう」 朱鳳院 龍影(ib3148)の言葉に、雛は小さな拳を握りしめた。 「人質は必ず助け出します」 「そうじゃな」 「必ずです」 「ああ」 朱鳳院は肩をすくめると、仲間たちと確認を取る。 「やはり連携プレーか。二チームで救出に向かうか」 「そうあるな。深麗山と森へ向かうチームで、奇襲作戦を仕掛けるある」 鬨の言葉に、カズラが頷く。 「里長さん、私たちでご家族の救出に向かいますから、誰か深麗山への案内を頼めるかしら。時間は限られてるわ。動きを読まれたら、万が一ってこともあるしね」 「それなら私が行こう」 中山が進み出た。 「里の指揮は東天原の指揮官もいることだし、お前たちも半分が残ってくれるなら任せる。案内は私がするよ」 「そう。中山さんが来てくれるなら頼もしいわね」 「里長一家の命運が掛かっておるからの。中山が来てくれるならそれは最も確実じゃと私も思う」 「では異論は無いな。里長、では私が行きます。香織様と凪千代様は必ず」 「頼んだぞ」 すると、コルリスは頷くと、 「では全体の作戦を共有しておきませんと。あくまで一案ですが――」 と前置きし救出作戦案を奏上する。 「開拓者は全員龍やグライダーで移動します。里の兵達には、人質のいる各場所への道案内役を除く全員が、里の復旧作業と治安維持等に従事して頂きます。アヤカシは強力なようですから、実際の作戦には開拓者と東天原からの援軍で当たります」 「深麗山の方は少数精鋭で構わんぞ。余り多くも連れて行けんしの。里の方にも戦力が必要じゃろう」 「中山さんと、後二、三人いれば十分とは言わないあるが、奥方を確保したら脱出出来ればそれでいいと思うある」 「では、深麗山の方は、鬨さんとカズラさん、朱鳳院さんにサムライを数名で。人質救助後は全員里へ戻り里を警護ということでよろしいでしょうか。敵別働隊が里を襲撃した際はこれを撃退します」 「構わんよ」 「いいわ」 「大丈夫ある」 コルリスは頷き、サムライ大将の方を向いた。 「では残りのサムライ大将を含むみなさんは、アヤカシの首魁がいる森へ」 「了解した」 「自分及び龍部隊数名は空中班、将門さん達や雛さんに援兵数人は地上班A、サムライ大将、他援兵残りは地上班Bの3班に分かれ、空中班が空から姿を見せ接近する間に、各地上班は別方向から隠密裏に敵に接近。敵が空中班に反応した隙にA班突撃。その間にB班が人質奪回に動き、地上両班の活動を上空班も空から射撃等で支援。人質救助後は味方全員でアヤカシを集中攻撃し退却させる」 コルリスが言うと、将門も思案顔で言った。 「そんなところかな。コルリスと龍安家正規軍数人、全員龍騎乗の空中班。将門、雛殿と正規軍数人の地上班A、サムライ大将と正規軍十数人の地上班B――この三つで接近」 将門はコルリスの言葉を確認しつつ言った。 「高早の警備隊は里に残り警備を固めてくれ。3班の人数配分はサムライ大将の意見を尊重しますよ」 「コルリスの案で私も良いと思うがね」 「ええ‥‥地上班はABそれぞれ違う方向から隠密裏に敵に接近、待機する。時間を見計らって空中班が姿を誇示しつつ空中から敵に接近。敵が空中班を発見して注意がそちらに向いた瞬間A班が突撃。ああ、ここで俺が咆哮を上げ、引きつけつつアヤカシボスに攻めかかりますよ」 「ではそこで我々が突撃」 「そうですね。B班はA班に敵が流れた瞬間に人質奪還の為に強襲。確保に成功したら数名をつけて人質を戦闘地域から離脱させ、残りはA班と合流して戦闘へ。コルリス殿ら空中班も参戦する――」 将門は言って吐息した。コルリスと雛も頷く。 「正規軍のサムライ達には数を活かして、2対1以上でアヤカシ戦士に挑んで欲しい。各個撃破で行きましょう。それから、地上班の隠密行動の成功率を上げるため、里の警備隊員で森に詳しい者がいれば案内役を頼みたい」 すると、里長が「手配しよう」と答えた。 「了解。ではこれで行きますか」 「ええ、これで行きましょう」 コルリスは頷くと、サムライ大将達に挨拶して里兵に狼煙銃を渡す。 「里に敵が来たら赤い弾で合図を」 「わ、分かりました」 「では私たちは行くわね」 カズラは言うと、鬨も朱鳳院も出立の準備を整える。鬨とカズラは龍に乗り、朱鳳院はグライダーで、中山とサムライたちは龍に乗った。 ‥‥カズラたちは上空を深麗山の方角へ向かって飛ぶ。魔の森が遠方に見える。その手前に、小さな山があった。 先頭の中山が合図を送りつつ、高度を下げて行く。開拓者たちもそれに倣い、一行は森の中へ着陸した。 「廃屋はどこ?」 「ここから北へ少し行ったところだ」 「じゃ、中山さんはここで待ってて」 「了解した。注意しろ」 「よし、ここからは慎重に行くあるよ」 「うむ。龍安兵も気をつけよ」 「ああ」 鬨とカズラ、朱鳳院と龍安サムライ三名は、森の中を踏み分け、慎重に進む。 やがて、開拓者たちは件の廃屋へ到着する。外にはアヤカシ兵が三人。 朱鳳院は仲間たちに合図を送る。 鬨とカズラにサムライたちは側面に回り込んでいく。 そして――朱鳳院は大きく呼吸を整えると、咆哮を解き放った。大気を震わせる朱鳳院の咆哮が、アヤカシ達を直撃する。 アヤカシ兵士達は、怒りの雄叫びをあげて朱鳳院に向かってくる。 「行くわよ!」 カズラは符を解き放つと、黄泉より這い出る者を放った。召喚された式から呪いが送り込まれ、アヤカシ兵士は凄まじいダメージにのたうち回った。 「どきなさい!」 カズラは加速した。 アヤカシは態勢を整え切り掛かって来る。 「カズラ殿!」 サムライがその一撃を受け止める。 「お願い!」 カズラは走った。 「うちは剣舞もできるあるどす」 鬨は加速すると、斬竜刀を振るって切り掛かった。 「人質は返してもらうあるどす」 一撃、二撃と撃ち合い、鬨はアヤカシの腕を切り飛ばした。そのまま続いて打撃を与える。アヤカシは後退しつつも刀を振り回す。 朱鳳院は、立派な甲冑をまとったアヤカシ剣士と打ち合っていた。朱鳳院の鋭い飛龍昇の攻撃を弾き飛ばすアヤカシ剣士。 「やりおるの」 朱鳳院はするすると間合いを詰めると、裂帛の気合とともに極北+鬼切で打ち掛かった。凄絶な衝撃がアヤカシを貫通する。アヤカシの鎧は吹き飛び、肉体は砕け散った。 アヤカシ剣士はよろめきつつも、咆哮を上げて朱鳳院にぶつかって来る。 「ぬっ――」 朱鳳院は弾いて飛びすさった。予想以上に手強い。 カズラは家屋に飛び込むと、室内を見渡した。 「奥さん! 凪千代さん!」 二人は部屋の隅にうずくまって身を寄せ合っていた。 「誰なの?」 「開拓者です。さ、急いで下さい」 カズラの声に、奥方は吐息して息子を立ち上がらせる。 「助かりました。里はどうなっているの?」 「里は無事です。話は後で。ここから連れしますのでこちらへ――」 カズラは二人を連れて外に出る。 鬨に朱鳳院はアヤカシと戦っていた。 「急ぎましょう」 「あの人たちは」 「味方です。こちらへ」 カズラは二人を連れて戦場から脱出すると、待機していた中山の下へ走った。 「中山さん!」 「中山――」 「奥様! 凪千代様! ご無事でしたか!」 「急いで中山さん。アヤカシが追ってくるかも。お二人を安全なところまでお連れして」 「ああ。急ぎましょうお二方! さあ龍に乗って下さい!」 「ありがとう開拓者。行きますよ凪千代」 「はい!」 奥方と凪千代は中山とともに龍に乗る。 「では先に行ってる! 追撃を潰してくれ!」 「任せて」 カズラは頷き、飛び立つ中山を見送った。 「さてと‥‥」 カズラは吐息して、戦場に戻った。 斬撃符でアヤカシを牽制すると、カズラは仲間たちに呼び掛けた。 「みんな! 二人は脱出したわ! 中山さんと一緒に逃げた! 私たちも予定どおり里へ戻りましょう!」 「了解したあるが、あのアヤカシの龍を潰しておかないと」 鬨の言葉に、カズラは頷き、回り込んでいく。 「援護して! 斬撃符で潰していくわ!」 カズラはドラゴンゾンビに回り込んでいく。 鬨は銃で牽制する。 ドラゴンゾンビは威嚇の咆哮を上げたが、カズラは構わずに斬撃符を叩き込んでドラゴンを叩き潰した。 「いいわ! 後退しましょう!」 「朱鳳院さん、行くある」 「承知した」 朱鳳院はアヤカシ剣士を殴り飛ばして後退した。 開拓者たちは戦線を離脱し、アヤカシの追撃を振り切って深麗山から飛び立った。 「――用意はいいですか。行きましょう」 コルリスたちは上空からアヤカシの方へ接近して行く。 「ん?」 地上の沙九那王は、コルリスらに気付くと、部下のアヤカシ戦士達を怒鳴りつけた。アヤカシ達はコルリスらが接近すると、武器を振り回して威嚇した。 「人間ども‥‥来る、か」 沙九那王は周囲の森に目を向けた。 雛は瘴策結界を使いながら、森の中を進んでいた。 「大丈夫です」 雛が小声で言うと、将門は頷いて他のサムライ達に合図を送った。前進する開拓者とサムライたち。 沙九那王に接近する。 別の方向から、B班が回り込んでいく。 「良し行くぞ!」 次の瞬間、将門と雛たちが現場に飛び込んだ。 将門は咆哮を解き放った。サムライスキルの咆哮が大気を震わせる。 アヤカシの戦列が崩れる。 「行くぞ突入!」 将門は突進した。 「人質は、返してもらいます。神楽舞・攻――!」 雛は将門を支援する。 「ぬっ――」 沙九那王は将門らを見やり、牙を剥いた。 将門は裂帛の気合とともに加速した。切り掛かって来るのを、沙九那王は蛮刀で弾いた。 「やはり来たか人間ども――」 「行け行け! 人質を確保しろ!」 サムライ大将は部下を率いて突撃した。アヤカシに殺到して人質の奪還に向かう。 人質の民は悲鳴を上げて混乱状態。 「落ち着け! こっちだ!」 サムライ大将たちは部下に指示を出しつつ、民の腕を掴んで脱出させていく。 「行くぞアヤカシ首魁!」 将門はアヤカシ戦士を切り伏せると、気力を振り絞って柳生無明剣を繰り出した。 「将門さん!」 雛の声は戦場にかき消されたが、神楽舞で支援する。 将門の凄絶な連撃が沙九那王を切り裂いたが、このアヤカシはびくともせずに将門を吹き飛ばした。 将門は踏ん張って、再度切り掛かった。 沙九那王は牙を剥いて蛮刀を構えると、高速の剣捌きで連続攻撃を繰り出してきた。 「に――!」 将門はよけ切れずに切り裂かれた。 「将門さん!」 雛は閃癒を掛けて回復する。 「覚えておけ、我が名は沙九那王。これから貴様たちに苦痛を与える者だ」 「く‥‥」 将門は三メートルの巨人、沙九那王に踏みつけられた。 「この程度では済まんぞ人間」 沙九那王は将門の背中に踏みつけで圧力を掛けた。将門は逃れようとしたが押し潰されそうになる。 「鋒!」 上空から、コルリスが安息流騎射術+朧月の合成技で連撃を放った。 一撃、二撃、とコルリスらの矢が沙九那王を貫通する。反動で上体が揺れるが、沙九那王は不敵な笑みを浮かべて視線を上に向けた。 将門は転がって逃れると、立ち上がった。 「くそ‥‥やってくれるな」 そうこうする間に龍安軍がアヤカシ戦士と乱戦に突入して行く。 雛は激戦の中で兵士たちの回復に当たりつつ、沙九那王の様子を見ていた。やがて、龍安軍が包囲網を敷くと、雛も沙九那王と向き合った。 「人質を取られても、アヤカシの言いなりにはなったりしません」 「沙九那王か、ここまでだ。逃がさんぞ」 「そうか――」 沙九那王は蛮刀をびゅん! と振り上げると、ソニックブームを立て続けに放ってサムライ二人を切り殺した。 「あのアヤカシを集中攻撃して下さい」 コルリスらは沙九那王に連続攻撃を浴びせる。矢が何本も貫通するが、沙九那王は倒れない。 「無駄なことだ龍安軍。全ては俺の思惑通り。下準備は整った。必要なものは呼び寄せてある。それは届いた」 沙九那王はそう言うと、今度は全方位に衝撃波を叩き込むと、一挙にジャンプして離脱して逃走した。 アヤカシ戦士達も後退する――。 「――終わったようじゃの」 朱鳳院は里に戻って状況を確認する。 「例のアヤカシは沙九那王と名乗った。必要なものは届いたと‥‥」 将門は言葉を濁した。沙九那王の力の一端は垣間見た。 将門の視線の先で、助かった人質の民たち、それから再開を果たした里長一家が喜び合っていた。 |