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■オープニング本文 鳳華首都、天承――。 天承城で、龍安家の家長である弘秀は、庭園に出て息子の清久郎丸と娘の菊音の武稽古を見つめていた。周りは警備兵で守られている。傍らには奥方の春香がいた。 「凱燕の復興は遅れているようですね」 春香の言葉に、弘秀は吐息した。 「ああ――南部の魔の森のことは聞いたか」 「どうも嫌な予感がしますね」 春香は稽古に励む子供たちに手を振りながら、弘秀に言った。 「昔を思い出します。私も戦うことには慣れていますが、それでも常に戦闘状態にあったわけではありませんから」 「ああ‥‥」 ――父上! 母上! 清久郎丸と菊音が木刀を振りかざしている。 と、そこへ筆頭家老の西祥院静奈がやってきた。 「お屋形様、奥様失礼します――」 「静奈、その顔だと悪い知らせのようね」 「ええ奥様」 「どうした」 「はい。南部の魔の森で動きが。高早の里が大規模な攻撃を受けています」 弘秀は静奈の方を向くと、眉間に手を当てた。 「家老たちが集まっています」 「分かった」 弘秀は立ち上がった――。 南部の大都市、東天原――。 「やはり来ましたか」 代官の海原左近は、龍安軍の指揮官米沢行信と向き合っていた。 「海原殿、予想された事態ではあるが、アヤカシの攻撃目標が東天原である可能性は高い」 米沢は吐息して、言った。 「今は、高早の里への攻撃を封じ込めることが最優先ですが。凱燕の轍は踏みません」 「ここは凱燕とは事情も違いますがな。地下水路はありますが隠されているわけではない」 「都市周辺の防備は固めますよ。どうやら空にも動きがあるようだ。念のため龍騎兵を置きます」 「お願いする。凱燕に来たような攻撃を何としても防がなくては」 と、側に控えていた女性、海原の側近の大林が口を開いた。 「海原様。アヤカシの空への動きは警戒すべきでしょう。先だって高早の里は思いがけず空からの攻撃を受けたわけですし。龍騎兵にはお屋形様に援軍を要請してはいかがでしょうか」 「ふむ‥‥」 左近は思案顔で顎をつまんだ――。 東天原の東、高早の里では混乱が生じていた。魔の森からアヤカシの大軍が出現し、大規模な攻撃を開始したのである。先の沙九那王との戦闘を警戒した龍安軍がすでに東天原に待機しており、アヤカシを迎撃していた。戦闘は里の東側の境界線で激しさを増していた。戦場にはアヤカシの将、沙九那王も姿を見せており猛威を振るっていた。 里長の陸奥高時は各所から入って来る報告を受けつつ龍安正規軍と連携して防衛線を展開していた。 「これが沙九那王の本命か。用意は既に出来ていたとはこのことか‥‥」 卓上の地図に目を落とす高時の下へ、サムライ大将の大城奈央がやってくる。 「戦場が混乱しているのはいつものことだけど、あの沙九那王ってのは化け物ね。物理攻撃系なんだろうけど、あのタフさは尋常じゃないわよ」 「沙九那王は止めねばならんぞ」 「分かってる。でも兵士達にも、命を捨ててあの怪物に切り掛かれとは言えないわよ。こっちも精鋭を集めてどうにかしないとね」 と、そこへ高時の家臣が慌ただしく駆け込んで来る。 「高時様――」 側近は高時に耳打ちした。それを聞いた高時の表情が険しくなっていく。 「どういうことだ」 「分かりません」 「何なの」 大城が問うと、高時は吐息した。 「我が家の重臣が殺された。中山信ら他、家臣十名余りが出撃前に陣中で斬り殺されているのが見つかった」 「何ですって? 一体どういうことなの。アヤカシはまだ東で食い止めているわよ」 「分からない。敵のシノビ系か」 「そんなこと‥‥不意打ちにしたって無理でしょう。何百人もの兵士が展開している戦闘地域をすり抜けてくるなんて。透明化スキルでも長時間は持たない」 「では別の方向から侵入したか。この混乱ならあり得る」 「そんな簡単な話じゃない。周りの里だって無防備じゃないのよ。敵の集団なら気付くわよ」 「ではどうする」 高時は苛立たしげに大城に言葉をぶつけた。 「不審な動きが無いか、徹底的に里の内部に監視を敷くのよ。幽霊の正体を掴まないと。アヤカシの可能性は大きいけど、どっちにしても陣中の中山が殺されたのなら、敵はあなたや他の誰にだって近づけるかも知れない」 大城の言葉に、高時は唸って深く息を漏らした。 |
■参加者一覧
華御院 鬨(ia0351)
22歳・男・志
焔 龍牙(ia0904)
25歳・男・サ
コルリス・フェネストラ(ia9657)
19歳・女・弓
将門(ib1770)
25歳・男・サ
朱鳳院 龍影(ib3148)
25歳・女・弓
セシリア=L=モルゲン(ib5665)
24歳・女・ジ |
■リプレイ本文 「実を言えば、私だって本当は戦いに明け暮れるのが好きじゃないんですよ。こう見えても、生まれは歌舞伎役者の家だし、これからも役者として生きていこうと決めているんです」 華御院 鬨(ia0351)の言葉に、焔 龍牙(ia0904)は肩をすくめる。 「それは俺だってさ。こんな戦いが無ければ、フクロウと戯れて一日を過ごしてるんですけどね」 「祝いと歓喜の祝詞をもって。我は敵を撃ち果たさん」 コルリス・フェネストラ(ia9657)が言うと、将門(ib1770)は首を傾げた。 「何ですそれ」 「良い言葉でしょう。私の好きな言葉なんです」 「僧侶みたいだな」 「僧侶になろうとしたこともありますよ」 「嘘だろ」 「嘘です」 と、朱鳳院 龍影(ib3148)はセシリア=L=モルゲン(ib5665)に赤い瞳を向けて問い掛ける。 「こう戦続きじゃと、正直思うところも無いではないの」 「朱鳳院君、私だって考えたわよ。でも私たちにはやるべきことがあるんじゃないかしらね」 「年の功じゃな」 「ンフフ‥‥言ってくれるじゃない。正義の空賊『龍王』の悩みかしらね」 セシリアはおかしそうに笑う。朱鳳院は鬨に向かって言った。 「鬨、いっそセシリアを斬竜刀で突き殺してくれ」 「え? そんなこと私に出来ませんよ」 「‥‥どっちに付いても後が怖いですね。華御院さん頑張って下さい」 焔の言葉に、鬨は肩をすくめる。 「あなたの友情に期待した私が馬鹿でしたよ」 「今日はピクニックみたいですね。行き先が戦場じゃなければ良かったんですけどね」 「コルリス殿、それ笑えないな」 将門が言うと、コルリスは優しそうに微笑んで目を細めた。 「将門さん、そう言う真面目なところが好きです」 「いや、まあ‥‥」 将門が言葉を詰まらせていると、後ろから朱鳳院が将門を羽交い締めにする。 「おぬし、何を真面目ぶっておるんじゃ」 「そうよ将門君。真面目な将門君許せないわァ」 セシリアが鞭で将門をばしばしと叩く。 「興奮するなよ」 「ンフフ、可愛くないわねェ‥‥」 弄ばれる将門の様子を眺める鬨と焔、コルリス。 「災難は将門さんの方へ飛んで行ったみたいですね」 「おいしいキャラだなあ」 「みなさん冷たいですね」 「それはコルリスさんもでしょう?」 「さ、行きましょうか。里は修羅場ですよ。急ぎましょう」 かくして開拓者たちは駆け出した。 高早の里陣中――。 「開拓者か、状況はひどくなってるぞ」 陸奥高時の言葉に、一同頷いた。 「そのようですね」 それから鬨は、 「合戦するのに普段着じゃまずいですよね」 と、割りと普通の男用の服に鎧を着込んで武器を持って戦の準備をするが、鎧を着ると女武者にしか見えなくなる。 「里の家臣の惨殺は気になるな。だが、門前を守らねば全てが無駄になる。全力で排除するのみ!」 焔の赤い瞳は鋭利な光を帯びる。 「あくまで一案ですが」 とコルリスは前置きした上で一同に作戦を奏上する。 「まず一つ、開拓者は全員龍やグライダーを活用すること」 「もちろん」 「そして次ですが、各方面部隊の内、東部、南東部部隊は地形を利用し衡軛陣をとり、砲術士等は近くの砦に籠り支援射撃で各方面の敵を食い止めます。その間に北東部隊は開拓者の指示に従い攻勢をかけ迅速に敵部隊を撃破。その後沙九那王率いる敵東部軍を片翼包囲」 コルリスは地図の上を指を滑らせていく。 「片翼包囲に合わせ東部部隊は魚隣陣で攻勢に転じ、二方向から沙九那王軍を包囲攻撃し撃退に持ち込みます」 「どう思う」 高時はサムライ大将たちを見渡す。 「片翼を潰すことが出来れば包囲攻撃は可能でしょう」 コルリスは頷くと、口を開いた。 「高時様のこと。里内部にいる正体不明の敵への対処として、セシリアさんに里の要人であるみな様方の防衛と敵殲滅を依頼したく思いますが」 「ンフフ‥‥いいわよ。任せてちょうだい」 「護衛の際には、瘴索結界を使える巫女達と伝令役のシノビ数名を増援に派遣し活動を支援させます」 「構わんよ」 「ありがとうございます」 高時が見渡すと、将門が手を上げた。 「将門」 「ああ、俺からはコルリスの戦略を補足する形になるな」 言って、将門は思案顔で顎をつまんだ。 「北東部軍で敵を退けた後、敵本軍の側面を突き、東部軍と片翼包囲を形成する事で敵本軍の壊滅を図る。初期目標は敵北東部軍の撃破だ」 「それで、実際には?」 「一つ、装備が槍か刀10人、弓10人によるサムライの龍騎兵隊を編成する。希望する開拓者も参加だな。俺自身も龍でこっちに参加する。二つ目、戦闘開始後、地上戦力は防御重視。龍騎兵隊は弓兵が敵指揮官に攻撃を集中する。敵航空戦力は槍か刀兵と開拓者が弓兵を守る形で撃破する」 「撃ち合いになるだろうな。誰が行く」 鬨、焔、朱鳳院が手を挙げる。 「サムライ大将と合わせて中心メンバーは七人。制空権を確保が急ぎだな」 「そうです。頭を押さえられちゃ鬱陶しいでしょう。三つ目は、制空権を確保後、弓兵の援護を受けつつ指揮官狙いで開拓者と槍兵か刀兵が強襲します。またここで、制空権確保のタイミングで地上戦力も攻勢に出ます。開拓者も二手に分かれて一気に敵指揮官二名を叩きます」 「私の出番じゃな。地上は任せておけ」 朱鳳院の言葉に、将門は頷く。 「後は目の前の敵軍を潰走させるまで奮戦あるのみです。さて、ここからが勝負です。片翼包囲網ですが‥‥まず一つ、北東部軍は初期目標達成後、戦闘可能者で陣形を整えて敵本軍の側面又は後方に移動。突撃します。この際、龍騎兵隊を初期人数まで編成し直します。サムライ20人と開拓者ですね。欠員補充の優先順位はサムライ大将の方々に決めておいてもらいたい」 「欠員が出ないことを祈ろう」 「二つ目、北東部軍突撃のタイミングで東部軍も攻勢に出ます。制空権確保後は弓兵以外は降下して地上戦闘に移行します。そして、南西部軍は初戦から防御重視で戦い、東部の戦況により敵が後退、混乱を見せた場合のみ攻勢に出ます。以上です」 将門は語り終えて、一息ついた。 「よし、龍安軍は精強な軍隊だ。作戦には応えてくれる。他に意見は」 「ありません。コルリス殿と将門殿の策で行きましょう」 「ンッフフ‥‥ッ! 護衛対象は、私が責任をもって守るわよォ。ンフ」 セシリアはすでに興奮状態にあった。 「言っとくけど高時君やその他の家臣君たちにはこの際厳重に守らせてもらうわよォ。ンフ。みんな里の要人には一箇所に集まってもらうわよォ。嫌とは言わせないんだからねェン。ンフフ‥‥!」 セシリアは、高時の側近を捕まえて、「ンフ」と笑った。 「君、高時君の側近よねェ、責任重大だわァ。護衛のしやすい場所を選定してねェ。そこは任せるから宜しくお願いねェ」 「セシリア殿、そのような色声で指示を出されると仕事にならんのですが」 「刺激的な仕事になりそうよねェ」 「それでは――」 と、コルリスが最後に高時にもう一度声を掛けた。 「高時様、交戦中の各隊大将に向け伝達をお願いします」 「シノビが必要か」 高時はシノビを呼んだ。 「各所の櫓と複数色の旗を使い、各地の戦況が互いにわかる様ご協力をお願いします。各櫓では、黒・黄・赤・青の4色の旗の用意を。各色の意味は、黒が戦況報告求む。黄が交戦中。赤が苦戦中。青が敵撃破――です。各隊大将の指示に従い各隊間の情報伝達をお願いします」 と依頼するコルリス。シノビ達は散って行く。 「よし俺たちも行こう。里長、気を付けて」 「ああ頼む」 高時は、開拓者たちを見送る。 「それじゃ高時君たちは安全なところへ移動するわよォ」 「よろしく――」 「朱鳳院殿、しばらく持ち堪えて下さい」 「しっかり頼むぞ。最初の制空権確保に掛かっておる」 「ええ。それじゃ」 将門に焔、鬨にサムライ大将二人が指揮する龍騎兵部隊は、飛び立っていく。朱鳳院は手をかざしてそれらを見送る。 「さて、我らも行くぞ」 「そうね。お手並み拝見と行きましょうか」 サムライ大将の女は朱鳳院とともに歩き出した。 「行くぞ!」 将門は龍を加速させると、死人龍騎兵に撃ち掛かった。空中で激突する。一撃二撃と撃ち合い、旋回すると上昇して回り込む。死人龍騎兵も巧みな手綱さばきで上昇してくる。 将門は反転してブレーキを掛けると、そのまま急降下してアヤカシに突進した。アヤカシも雄叫びをあげて突進してくる。ザン! と、将門の刀がアヤカシ龍騎兵を真っ二つにした。騎乗者を失った死骸龍は悲鳴を上げて逃走する。 「さすがは将門さんですね」 鬨は旋回して敵龍騎兵の側面に回り込み、白梅香で打ち掛かった。死人龍騎兵は反転するが、よけ切れずに白梅香で切り裂かれた。浄化の力がアヤカシの肉体を滅する。さらに一合二合と打ち合い、鬨はアヤカシの頭部を撃砕した。墜落するアヤカシが空中で瘴気に還元する。死骸龍は旋回して襲い掛かって来るが、鬨は真っ二つに切り裂いた。 「制空権を渡すわけにはいかない‥‥ここに掛かってる。食らえ!」 焔は弓を解き放った。矢が唸りを上げて飛び、アヤカシ龍騎兵を貫通する。龍騎兵は吹っ飛んだ。アヤカシは態勢を立て直しつつ弓で反撃するが、焔は矢を刀で叩き落とすと、突進した。 「行け蒼隼!」 愛騎の駿龍は咆哮すると加速した。焔は刀を両手持ちで水平に構えると、すれ違いざまにアヤカシの胴体目がけて振り上げた。刀が炎に包まれる、炎魂縛武。凄絶な一撃がアヤカシをその武器ごと切り裂いた。アヤカシは悲鳴を上げて逃走する。 弓を構えるサムライたちは、上空からアヤカシの武将に攻撃を仕掛ける。じわじわと制空権を確保して行く龍安軍が空からアヤカシ軍を圧迫する。 やがて、アヤカシ龍騎兵は大きな被害を出して戦場から離脱して行く。 その様子を確認した将門は、刀を振って味方に合図を送る。 「地上へ攻撃を掛けるぞ! 朱鳳院殿! これから攻勢に出る!」 将門は滞空しながら声を張り上げた。朱鳳院は槍を持ち上げてそれに応える。 「よし行くぞみんな!」 将門に鬨、焔、サムライ10人が地上に降下し、それを上空から残るサムライ10人が弓で支援する。 「来おったの。よし我らも行くぞ! 全軍突撃じゃ!」 朱鳳院は槍を振り上げ、自らも最前線に立った。 櫓に立つ砲術士が「交戦中」の意味を示す黄色の旗を振った。 「行くぞ!」 朱鳳院は立ちはだかるアヤカシ戦士を槍で薙ぎ払った。凄絶な一撃がアヤカシを貫通する。右に左に槍を駆使して、朱鳳院はアヤカシを粉砕して行く。 開拓者たちは乱戦を抜けて、アヤカシ武将に向かって突進する。 鬨、焔、将門らはアヤカシ戦士らを叩き伏せながら、道を切り開く。 朱鳳院はアヤカシ武将と相対すると、猿叫で絶叫のような掛け声を上げると極北で槍を繰り出した。アヤカシ武将は恐れを為してわずかに後退する。そこへ朱鳳院の一撃が貫通する。アヤカシ武将は絶叫して、刀を振り回すが、朱鳳院はそのまま槍を振り上げた。アヤカシの上体が吹っ飛ぶ。黒い塊となって崩れ落ちて行くアヤカシは、瘴気に還元して行く。 コルリスは龍を操りながら、「鋒!」安息流騎射術+朧月の合成技で矢を撃ち放って行く。眼下では黄色と赤の旗が振られている。 制空権の確保もまだ出来ていない。地上では沙九那王の猛攻に押されていた。 「状況は北東部次第ですね‥‥」 コルリスは言って吐息すると、旋回しながら矢を撃ち放つ。 と、北東部に動きが見られる。味方がアヤカシ軍を壊走させ、東部アヤカシの側面に回り込みつつある。 「待っていましたよ」 コルリスは安堵の息を漏らすと、旋回して友軍に北東部の味方の動きを伝える。 「コルリス殿! 友軍が来ました!」 「ええ。全軍に知らせて下さい。魚鱗陣で攻勢に出ます」 「承知しました!」 そこへ、将門、鬨、焔たちが龍に乗ってアヤカシ龍騎兵の側面を突いて突進してくる。 「コルリスさん!」 「待っていました」 「今から反撃に出ます! 地上からは朱鳳院さんが支援してくれます!」 「では私たちは一刻も早く空を制圧するとしましょう」 「よし行くぞ! 数ではこっちが上だ! 一気に片付けるぞ!」 焔は檄を飛ばすと、突進して行く。開拓者たちは死人龍騎兵を各個撃破で討ち取って行くと、地上へ降り立って行く。 東部アヤカシ軍を正面と側背から包囲攻撃を仕掛ける龍安軍――。 「ぬう‥‥龍安軍か‥‥」 沙九那王は、アヤカシ兵士が次々と撃破されて行くのを確認して、不敵な笑みを浮かべた。 「すでに奴は発った。里がもぬけの殻となった今となっては‥‥」 沙九那王はそこで、切りこんでくる鬨に焔、将門に朱鳳院に目を向けた。 「いや、これはまた、強そうです。私もあれくらいの体つきなら女性に間違われないのですが」 鬨は変な感想を言って、周囲の兵が沙九那王に臆さない様に気を使っておく。 「沙九那王! そう好き勝手にはやらせはしない!」 「よお、先の借りは返させてもらうぞ」 将門は睨みつけた。 「油断するなよ」 朱鳳院は兵士達に声をかけつつ間合いを詰める。 開拓者たちは沙九那王を取り囲んでスキル全開で打ち掛かった。鬨の白梅香が深々と沙九那王を切り裂いた。だが沙九那王は防御姿勢で攻撃を受け止めると、突然反転して逃走する。 「沙九那王――!」 沙九那王は部下達を龍安軍に叩きつけると、そのまま逃げた。 ‥‥セシリアは人魂で周辺を探っていた。建物の入り口には地縛霊を仕掛けた。巫女たちが瘴策結界を張っている。 「セシリア様! 結界に反応が!」 「ンフ、来たわねェ、外に警戒して」 セシリアは人魂で外に視界を向ける。アヤカシの姿はどこにもない。 「静かねェ、誰も見えない」 その時である。背後で叫び声が上がった。 振り返ったところに、鎧を身につけたぼろぼろのアヤカシ戦士がいた。家臣の一人を切り殺したところだった。 「どういうこと――」 セシリアは飛びだすと、幻影符を放って鞭を叩きつけた。 アヤカシは問答無用で高時に切り掛かったが、セシリアは体当たりを食らわせた。セシリアはアヤカシと地面に転がった。アヤカシの意味不明のざらざらした声が聞こえる。 セシリアは飛び起きながら高時との間に割って入る。 「下がって高時君!」 するとアヤカシは不敵な笑みを浮かべると、反転して壁を突き破って逃げた。 「巫女二人、そこのシノビ君、高時君達をお願いするわよ!」 「セシリアさんは!」 「あいつを追跡するわ」 セシリアは飛びだした。周囲を見渡して、開けた通りに向かう。セシリアは立ち止って、アヤカシを発見する。 「何なの?」 視界の先で、アヤカシだったものが黒い塊に変形して崩れ落ちて行くところだった。すでに変形から30秒以上が経過していた。黒い塊は、地面に吸い込まれるように黒い影と化すと、そのまま移動を開始して姿を消した。 セシリアはアヤカシが吸い込まれた地面に手を当てた。 「影になって‥‥?」 それ以上の追跡は不可能だった。 |