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■オープニング本文 天儀本島武天国、龍安家の治める土地、鳳華――。 首都の天承城――。 「影に擬態するアヤカシだと? そんな話聞いたことが無いぞ」 家長の龍安弘秀は、軍事顧問の山内剛と筆頭家老の西祥院静奈とともに、家老の水城明日香から報告を受けていた。水城はアヤカシ関連では龍安家の専門家であったが、彼女の知識にもそんなアヤカシは記憶に無かった。 「ですが事実です。目撃情報によると、そのアヤカシは影の状態のまま人目に付かずに移動できるようです」 「高早の里の家臣たちを十人以上切り殺した腕利きのアヤカシだぞ。そんな奴が好き勝手に町の中へ出入りしてきたら厄介だぞ」 そこへ、鳳華に滞在している朝廷貴族の長篠安盛が姿を見せる。 「龍安、急いで東天原の代官の身辺を固めろ」 「失礼ですが、どういうことですか?」 「沙九那王の狙いは、高早の里に軍の目を引き付け、その間にこっちの大物を狙う気だ。沙九那王の狙いは、高早の里への攻撃もあるが、代官の海原左近だ」 一同、長篠をまじまじと見やる。 「長篠殿、海原には常に厳重な警備がついています。失礼ですが、そう確信する根拠がおありですか?」 「高い確率でそうなる。海原の警備を固めろ」 と、そこで家臣の一人がやってきて、弘秀に耳打ちした。弘秀は言葉を聞いてから顔を上げると、家臣を見やる。 「今は取り込み中だ、何の用だまた」 「すぐにお会いしたいと外でお待ちです。開拓者ギルド相談役の橘殿が御一緒です」 弘秀は吐息すると頷いた。 「分かった、通してくれ」 そうして、家臣と入れ違いに、橘鉄州斎(iz0008)と黒髪のすらりとした女性が入って来た。女性の名を芦屋馨(iz0207)と言って、藤原家の側用人で陰陽師である。 「お前は‥‥」 長篠は、芦屋を見て驚いたように目を開いた。 「弘秀様、お久しぶりです」 橘が言うと、弘秀は軽く笑った。 「よお相談役、今日は何だ。何で藤原家の側用人が一緒にいる」 「こちらの芦屋殿は、鳳華の報告書をギルドへ閲覧に来られ、その足で鳳華へ向かうとのことでしたので」 「成程、それで‥‥?」 弘秀が芦屋に問うと、芦屋は丁寧にお辞儀した。 「龍安弘秀様、藤原家側用人の陰陽師、芦屋馨と申します。遭都からの依頼を受けて参りました。龍安家を支援するようにと言付かっております」 「それはどうも。藤原家が支援してくれるんですか?」 「そう言うわけではありませんが」 芦屋は笑みを浮かべて肩をすくめた。 「私が来たのは遭都の意思です。そちらにおられる、長篠様と同じく」 「貴様‥‥何を考えているかは分かるぞ。私の邪魔をしに来たのであろう」 長篠は芦屋に詰め寄る。 「とんでもない。私はただの側用人です。貴族である長篠様の邪魔が出来ましょうか」 「ふざけたことを言ってると後悔するぞ」 「そうですか。本当に後悔するのはそちらですよ」 芦屋の何気ない口調に、長篠は押し黙った。 すると、橘が進み出て、口を開いた。 「先日の報告書を確認しました。影に擬態する死人アヤカシが出たと。その件で取り急ぎお知らせに来た次第です」 「鉄州斎、このアヤカシを知っているの?」 西祥院の問いに、橘は頷いた。 「そのアヤカシは『影亡者』といいます。影に擬態し、地中を移動することが出来る極めて稀なアヤカシです」 「影亡者‥‥」 「影亡者が出現するのは決まって、要人の暗殺が行われる時です。このアヤカシは知能は高く、下級アヤカシとは比べ物にならない強さを持っています。影亡者が放たれたと言うことは、アヤカシ側には消しておきたい人間がいるのでしょう。それは間違いありません。東天原を含む近隣の里にも要人の警備態勢を強化するように伝えて下さい」 「最も危険なのは、東天原の代官である海原左近殿とその周辺であると思われます。人を手配しましたので、海原殿の周辺を守らせて下さい」 そう言ったのは芦屋だった。 「警備の人間ならいますが」 「龍安様、橘殿から聞けば、影亡者は手練のようです。遭都から支援するように言われた以上は、私にもできる限りのことはさせて下さい。警備のお邪魔はしません」 「‥‥分かりました。朝廷の派閥争いを持ちこまれるのは正直厄介な気もしますがね」 「ふん」 弘秀の言葉に、長篠は鼻を鳴らす。 「そうだ橘、海原の護衛はお前が指揮を取ってくれ。信頼できる人間に任せたい」 「私で良ければ」 「頼んだぞ」 と、そこでまた家臣が入ってきて、西祥院に文を渡した。西祥院は文を開くと、真剣なまなざしで弘秀を見つめた。 「お屋形様、沙九那王が高早の里へ再度攻撃を開始したようです。それから、魔の森から死骸龍の大部隊が飛び立ち、東天原の上空で我が軍の龍騎兵部隊と交戦に入った模様です」 「始まったな。弘秀様、私はすぐに東天原へ向かいます。芦屋殿が手配した護衛士と海原様の周辺を固めます」 鉄州斎が言うと、弘秀は「頼む」と頷き、山内の方を向いた。 「剛、あんたの読みが当たったな。沙九那王は三度目には東天原を狙ってくるだろうと」 「外れていればよかったのですがな」 山内は唸るように言って吐息した。 「西祥院、海原に伝えてくれ。刺客が行くかもしれないから気を付けろと。それから坂本を東天原へ行かせてくれ。現場の指揮を任せたい」 「承知しました」 「ではよろしく頼む――」 南部の大都市、東天原――。 代官の海原左近は、風信機で状況を確認した。側近の大林綾を呼ぶ。 「海原様、上空には死骸龍の群れが――」 「綾」 「はい?」 「天承から開拓者ギルド相談役の橘鉄州斎が家族の護衛にやってくる。協力してくれ」 「何かあったのですか?」 「とにかく、彼が来たら私のところへ通してくれ」 「分かりました。戦闘はまだ始まったばかりですが、東の空には死骸龍の大軍が見えます」 「状況は随時報告してくれ」 「失礼します――」 一礼して退室する綾を見送り、海原は眉間を押さえた。 「いつか、こういう日が来るのは分かっていたが‥‥」 高早の里――。 里長の陸奥高時は、天承から届いた文を確認して、サムライ大将たちを呼び集めた。 「みな、お屋形様からのご命令だ。我々が為すべきは、ここでアヤカシ軍を魔の森へ押し戻すことだ。これ以上、沙九那王の蹂躙を許すな。ここで止めるしかない。出来得るなら奴の首を上げ、勝利を決定づけよう」 高時の言葉は至難であることを、サムライ大将たちは知っていたが、口に出しては全員が気合を入れた。 アヤカシ軍陣中――。 軍団のボス、沙九那王は、長大な蛮刀を研いで、ぼろぼろの顔にぎらぎらした瞳を浮かべていた。 と、そこへ部下の死人が筒を持ってくる。 沙九那王は筒を開けると、中から文を取りだした。沙九那王は、一瞥して文を握りつぶすと、立ち上がった。 「龍安軍め、影亡者の存在に気付いたか。知恵者がいるな。だが、簡単にはいかんぞ‥‥」 沙九那王の不気味な笑みが、湾曲して吊り上った。 |
■参加者一覧
華御院 鬨(ia0351)
22歳・男・志
葛切 カズラ(ia0725)
26歳・女・陰
焔 龍牙(ia0904)
25歳・男・サ
コルリス・フェネストラ(ia9657)
19歳・女・弓
将門(ib1770)
25歳・男・サ
朱鳳院 龍影(ib3148)
25歳・女・弓 |
■リプレイ本文 東天原にて――。 「影に隠れられるとはやっかいですね」 と華御院 鬨(ia0351)は感想を言った。今回は女形の女装の修行は休みで、普段の男性の格好や仕草をしているが、外見上は男性の服を着た女性にしか見えない。また鬨は武士の正装姿で、外見は身分の高そうな人物に見えた。ここでの仕事が要人の警護であるためだ。 それから鬨は、視線を橘 鉄州斎(iz0008)に向けた。 「橘さん、そちらの方は橘さんの連れ添いかなにかですか」 鬨の言葉に、橘は「ああ」と頷いた。 「こちらはお前さんも知っているはずだ。安須大祭の折に藤原家の側用人として、酒天童子の争奪戦に動いていた、芦屋馨(iz0207)殿だ」 「あなたが芦屋馨殿‥‥と言えば、散々私たちの邪魔をしてくれましたよね」 「そんなこともありましたね」 芦屋は言って目を伏せた。 「ですが何でまたあなたがここに?」 「遭都からの命により、龍安家を支援するように言付かっているのです。ですから、私は味方ですよ」 芦屋の言葉に、鬨は肩をすくめると言った。 「それなら、心強いことですね」 「ねえちょっと」 葛切 カズラ(ia0725)がやってくる。 「こっちは異状なしね。ところで、橘さんは影亡者に詳しいようだけど、実物を知っているのかしら」 「まあな」 橘は吐息した。 「話せば長くなるが、昔に要人の警護に付いた際に戦ったことがある。中々に切れ者だった」 「それで、橘さんは‥‥?」 「出し抜かれたこともあるし、撃破したこともあるがね。実際、影から実体化するまで時間があるんだが、影化している間はほぼ発見できない」 「沙九那王め、一気に攻めてきたか。とはいえ‥‥まずはその影の方をどうにかせんとな」 朱鳳院 龍影(ib3148)は言って、腕組みした。 「鉄州斎、一応確認するが、影亡者が二体以上いる可能性は無いのか」 「可能性だけならどんなこともあり得るがね。二体以上だとこっちも難しくなるな」 「では、もう一度こちらの配置を確認しようではないか」 朱鳳院が言うと、一同海原左近がいる部屋に集まって、地図を確認する。 「敵は影化して地中を移動してくる、だから、防御策としては通路を塞いでも効果が無い。この部屋の周りを全員で取り囲むように守る」 橘は言うと、地図の上に指を置いた。 「奴はどの道ここへ向かってくると言うなら、こちらは海原の周りを全員で固めるのが最善じゃろ」 「芦屋さんが手配した衛士の方には三人程度のチームで動いてもらったらどうかしらね」 朱鳳院とカズラの言葉に、橘は頷いた。 「里から回してもらった巫女を展開して、異変を察知したらすぐに瘴策結界で確認してもらう」 「私は海原様の直衛に付きますので、一人か二人を回して頂けると助かりますね」 鬨は思案顔で言って、橘は「分かった」と答える。 「では一人回そう。後は俺も直衛に付く」 「しかし‥‥考えたくはないが、夜になれば、ますます危険じゃな。城内の明かりでは心許無いの」 「それはだが、十分にあり得る。影亡者の名の通り、夜陰の中ではほとんど発見不可能だろう」 「アヤカシがしくじるのを祈るしかないの」 「よし、ではみな異変を確認したら呼子笛を。配置に付いてくれ」 各自持ち場に付いて行く。 鬨は、海原左近の下へ歩み寄った。海原の家族も一緒だった。 「大丈夫ですよ。必ずお守りしますから」 「あなた開拓者ね? ねえ敵は何人なの?」 海原の娘は言うと、震える息を吐き出した。 「ここへ来るアヤカシは一体だけだと聞いています」 「ねえもし、そのアヤカシが、あなたたちの手に負えなかったら‥‥もしも‥‥」 「大丈夫ですよお嬢さん」 「そう‥‥そうね‥‥これだけの護衛がいて、アヤカシが潜り込めるはずが無いものね」 「愛奈、落ち着け。志体持ちの護衛がこれだけいればまず大丈夫だ」 海原の息子がそう言って、妹をなだめる。 「私が狙いだとしても、代官の代わりなど幾らでもいる。アヤカシの目的はやはりこの東天原に別な攻撃を掛けてくることじゃないかね。凱燕で都市の中枢を狙ってきたように」 海原左近の言葉に、鬨は返答した。 「攻撃はすでに空から来ています。あなたは龍安弘秀様にとって重要な人物でしょう。代官の代わりはそうはいませんよ。今の鳳華を思えば」 「私はお屋形様のことは昔から存じているが‥‥」 「とにかく、あなたを奪われるわけにはいきません」 鬨はこのような攻撃が企図されただけでも龍安家への影響は大きいだろうと思ったが、それは口に出しては言わなかった。 ――と、その時である、呼子笛が鳴って、一同その方向を見やる。 朱鳳院とカズラは駆け出した。 「来たのか」 「瘴策結界に反応がありました」 「どこじゃ」 「すぐに消えてしまって‥‥」 カズラは海原がいる部屋に戻った。 「アヤカシの存在があったみたいだけど」 「影亡者ですか」 「反応が消えてしまったらしくて。でもすぐ近くにいるのでしょう。海原さんの周囲を固めて」 鬨は頷くと、短剣を抜いた。 「影の無いところへ移動しましょう。部屋の真ん中へ」 「‥‥‥‥」 開拓者たちは目を凝らして床、壁、天井を確認する。護衛の志士たちは心眼の探索網を展開した。 「どこにいる影‥‥」 朱鳳院はじっと待った。 三十分が何事もなく経過する。 「粘り強い奴じゃな」 朱鳳院は警戒を解くことなく、部屋の周りを移動した。 「出ました! 瘴策結界に反応! 室内です!」 巫女の叫びで、一同海原がいる部屋に駆け込んだ。 「華御院さん、上!」 カズラの叫びに、鬨は上を向いた。 影の塊が人型に変形を完了したところだった。影亡者は天井から落下して来てそのまま襲い掛かって来た。 「下がって下さい! 橘さん! 海原様達をお願いします!」 鬨は紅焔桜で影亡者の一撃を弾き飛ばした。続いて白梅香で反撃する。浄化の一撃が影亡者を捉える。 影亡者はもの凄い速さで刀を繰り出してくる。 「――!」 鬨は直撃を受けて吹っ飛んだ。 カズラは符を装填すると解き放った。 「斬撃符!」 カマイタチの二連撃が影亡者を切り裂く。式が貫通するが影亡者は微動だにせず、海原に向かって歩き出す。 「衛士! 海原を守れ!」 朱鳳院は駆け出すと、隼襲+極北+払い抜けで朱槍を繰り出した。直撃が影亡者を捉える。朱鳳院はびりびりと腕が痺れた。影亡者は槍を刀で弾き返していた。 影亡者は加速するが、朱鳳院が立ちはだかり、正面から受け止める。 「やりおるの」 朱槍を突き出せば、刃が影亡者を貫通する。が、影亡者は槍が貫通したまま前進してくる。朱鳳院は槍を持ち上げると、影亡者を壁に投げ飛ばした。影亡者は激突し、凄まじい衝撃で壁が破壊された。 カズラは斬撃符を連発して叩き込んだ。 影亡者は不死身のように起き上がって来る。ぼろぼろの死人顔に、笑みを浮かべている。 「この怪物――!」 カズラは新たに符を装填すると、黄泉より這い出る者を撃ち込んだ。 どばっ、と影亡者の肉体が一部粉微塵に吹き飛んだ。しかし、影亡者は前進してくる。 影亡者はざらざらした声で意味不明の言葉を投げかけると、また突進した。 朱鳳院は無双の槍捌きで影亡者を受け止める。 鬨が白梅香を解き放ってぶつかった。 影亡者は咆哮すると、朱鳳院と鬨を刀で吹き飛ばした。 だがそれが最後だった。影亡者はぼろぼろに黒い塊となって崩れ落ちて行くと、瘴気に還元して消滅した――。 高早の里――。 焔 龍牙(ia0904)とコルリス・フェネストラ(ia9657)、将門(ib1770)らは、里長の陸奥高時らサムライ大将とともにいた。 「東天原のことも気になりますが、まずは里を守らなくては」 焔は言って、一同を見渡した。高時らは目の前の沙九那王の大軍に集中しており、東天原の状況を知る由は無かった。 「では私から一案ですが」 コルリスはそう前置きした上で作戦を提案した。 「里北東部、南東部部隊は地形を利用し衡軛陣を構え、砲術士等は付近の砦に籠り支援射撃で各方面の敵軍を防戦します。その間に味方龍騎兵は開拓者の指示に従い迅速に空を制し敵南東軍を撃破。その後敵北東軍を空から包囲攻勢。北東部部隊は魚隣陣で攻勢に転じ、空陸二方向から沙九那王を攻撃します」 「いわゆるハンマーと金床ですよ」 将門が言った。龍安家軍は精兵だ。作戦実現は可能だろう。影亡者は、華御院達を信じるしかないな‥‥。将門は胸の内に言い聞かせると、コルリスの戦略を補足した。 「ハンマーと金床とは?」 高時らは聞き慣れない言葉に問い返す。 「打ちつけるハンマーと受け止める金床です――。金床で沙九那王本軍を押しとどめている間にハンマーが後背に回り込み、挟撃により潰走させる。戦術です」 「そう言ってくれれば私にも分かるんだがね」 将門は肩をすくめると、説明を始めた。 「金床は北東部軍です。侍大将十人にサムライ二十五、志士五十、弓術師五十、砲術師五十、陰陽師三十、巫女二十。ハンマーは南東部軍です。侍大将五人、サムライ百七十五人、巫女十人から成ります。内訳は龍騎兵百人、地上部隊九十人。龍騎兵は近接武装が五十人、弓兵五十人に分けます。俺と焔が南東部に所属します」 そこまで行って、将門はサムライ大将たちを見やる。 「配置は大丈夫ですか?」 「大丈夫だが、随分と難解な戦術だ」 「今から説明します」 将門は地図上に指を置くと、詳細について語り始めた。サムライ大将たちは真剣に将門の説明を聞いた。 そうして、説明を終えた将門は、サムライ大将たちを見渡した。 「何か質問あります?」 「こいつは、動きを連動させるのが大変そうだが」 「今までみなさん少なからず経験しているでしょう」 「ここまで緻密な動きは試したことが無い。我々の相手はほとんどアヤカシだからな」 「大丈夫ですか?」 「ああ、もちろん」 「お願いしますよ」 将門の説明が終わると、コルリスは続けた。 「では、戦術についてはよろしいでしょうか」 「了解した」 「東天原への防戦案としましては、空はサムライ大将指揮のもと龍騎兵で迎撃。開拓者は影亡者退治に尽力します。高早の里の味方部隊から瘴索結界を使える巫女達と護衛数名を東天原へ派遣し退治を支援します」 そこでコルリスは東天原の状況を説明することになる。 「私には理解できんよ。この攻撃自体が囮なんて。私の里が壊滅しようとしているのに」 高時はうめくように言って吐息した。 「とにかく、敵殲滅後に東天原の龍騎兵は全員高早の里救援に急行して頂きます」 「坂本様なら大丈夫だろう。敵次第でもあるだろうが」 そう言って、高時はコルリスの作戦を許可した。 「それでは――」 コルリスはシノビを呼び集めると、交戦中の各隊大将と東天原に向け伝言を託す。 「各所の櫓と複数色の旗を使い、各地の戦況が互いにわかる様ご協力願います。各櫓では黒、黄、赤、青、緑の5色の旗の用意を。各色の意味は黒が戦況報告求む、黄が交戦中、赤が苦戦中、青が敵撃破、緑が増援送る、です。各隊大将の指示に従い各隊及び両所の情報伝達を頼みます」 そうして、龍安軍は動き出す。 「よし行くぞ。アヤカシどもを魔の森へ後退させる」 高時は号令を下した。 「攻撃開始――!」 南東部で龍騎兵隊が飛び立つ。 「敵部隊の後方に周り込め!」 弓部隊が空を疾駆してアヤカシ軍の後背に回り込むと、上空から射撃を開始した。 アヤカシ軍の航空戦力を近接武装班が圧倒的な数で撃破していく。 地上では黄色と赤の旗が振られる。 制空権を確保した龍安軍は二班に分かれると急降下して行く。敵の中枢を突く。死人武将目がけて加速する。弓兵の援護を受けた近接武装班が急襲する。 「将門さん、そちらは任せました!」 焔は龍から飛び降りると敵陣の真ん中に降り立った。 「全部隊攻撃開始!」 地上部隊が攻勢に出ると、焔は勢い切りこんでいく。 アヤカシ足軽を粉砕して行きつつ、死人鎧武者に突進する。混戦を切り開き、炎魂縛武で鎧武者を打ち砕き、死人武将に加速する。 「『焔龍』を――!」 焔は死人武将の太刀を弾き飛ばすと、そのまま相手を真っ二つに切り裂いた。 将門も地上に降り立つと、次々とアヤカシ足軽を粉砕して行き、死人武将を焔陰で粉砕した。 上空からの射撃と連動して、龍安軍はアヤカシ軍を粉砕して行く。 指揮官を失ったアヤカシ軍は全くの混乱状態に陥り、龍安サムライたちに各個撃破されて行く。次々と壊走して行くアヤカシ達。龍安軍はこれを徹底的に叩いた。 青色の旗が振られる。 「ここまでだ! 北東部に向かうぞ!」 将門は櫓に合図を送ると、緑色の旗を振らせた。 コルリスは上空から射撃でアヤカシ軍の猛攻を押さえていた。 「緑‥‥やりましたね将門さん、焔さん」 緑色の旗を確認して、コルリスは地上に降り立つとサムライ大将たちに合図を伝えた。 「南東部は勝ちました。味方が来ます」 「そうですか! ではいよいよですな!」 サムライ大将たちは魚鱗陣を編成すると、志士を先頭に加速する。 将門と焔が合流する。 「コルリス殿――!」 「将門さん、やりましたね」 「いや、ここからだ」 そうして、サムライたちは全員騎龍すると、沙九那王本隊の後背に回り込んでいく。圧倒的な勢いで上空を制圧すると、射撃を開始する。 「あそこ! 沙九那王だ!」 焔は旋回すると、友軍とともに陣取る沙九那王に突撃した。 将門とコルリスも続く。 沙九那王の肉体に何十という矢が突き刺さる。 「ぬう‥‥!」 沙九那王は圧倒的な龍安軍に牙を剥くと、空に向かって長大なソニックブームを放った。撃墜される龍安サムライたち。 焔は降り立つと、炎魂縛武で切り掛かった。 「沙九那王! 覚悟しろ!」 将門は側面から柳生無明剣で切り掛かる。 コルリスは「鋒!」安息流騎射術+朧月の合成技で沙九那王を狙う。次々と矢が沙九那王を貫通する。 焔と将門の連続攻撃が沙九那王を切り裂く。 龍安軍は数でアヤカシ軍を圧倒して行き、沙九那王にも包囲網を敷く。 サムライ達も焔と将門とともに沙九那王の足を狙う。 「行くぞ沙九那王!」 焔が白梅香と秋水を使った一撃を放つ。 「ぬ――!」 沙九那王は後退した、瞬間、焔の太刀が沙九那王の方足を叩き斬った。 「おおおお‥‥おのれ!」 沙九那王は全方位に衝撃波を飛ばして焔たちを吹き飛ばした。 「撃て!」 「撃って撃って撃ちまくれ!」 沙九那王に集中攻撃が浴びせられる。 「これで、終わりだ!」 焔が加速する。白梅香と秋水の連続攻撃で切り札、 「焔龍、梅紅秋翠!」 沙九那王の上体が凄絶に切り裂かれる。 将門も柳生無明剣を叩き込み、コルリスが朧月を撃ち込む。 「俺が‥‥討たれるだと‥‥馬鹿な‥‥」 沙九那王は遂に黒い塊となって崩れ落ちて行き、瘴気に還元して消滅した。 東天原はのアヤカシ達はやがて壊走し、里のアヤカシ軍は崩壊した。 戦場に青い旗が振られると、龍安軍の勝ち鬨が高らかに響いた。 |