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■オープニング本文 天儀本島武天国、王都、此隅――。 武天の国王、巨勢王(iz0088)は、万屋から取り寄せた武器を手に取っていた。 「これが魔槍砲か‥‥」 魔槍砲はアル=カマルの武器で、万屋が調達してから、その後朱藩国で改良が加えられていた。巨勢王が手に取っているのも、最新型の改良式魔槍砲である。魔槍砲はまだ天儀では広まっておらず、巨勢王が取り寄せることが出来たのも十数丁であった。すでに巨勢王自身試し撃ちをしており、その威力は体感していた。いずれ魔槍砲が流通する日も来るのだろう。巨勢王はそんなことを考えつつ、魔槍砲の試験的な実戦投入を思案する。噂に聞けば朱藩国もすでに試験投入を始めているという。巨勢王は家老を呼び出すと、魔槍砲を彼に差し出して言った。 「鳳華の龍安弘秀と連絡を取ってくれ――」 神楽の都、開拓者ギルド――。 ギルド相談役の橘鉄州斎(iz0008)は、報告書に目を通していた。 「アル=カマルか‥‥」 鉄州斎は呟いて、まだ見ぬ新天地に思いを巡らせた。ギルドに入って来る報告は激動の戦いの様子を伝えていた。アル=カマルとの国交が引かれた今、多くの開拓者たちが家の地でも記録を残すことだろう。ただ、彼がかの地を訪れるのは、まだ先のことになりそうだった。彼には他にも担当する仕事が山積みであった。 鉄州斎は、報告書に目を戻したところで、机向かいの人影に気づいた。 「あなたは‥‥」 長い黒髪を束ねた女性が鉄州斎を見つめていた。先日、遭都から鳳華へ派遣されてきた藤原家側用人、芦屋馨(iz0207)であった。 「こんにちは鉄州斎殿。先日無事に助かった娘さん、あかりさんはお元気ですか」 「おかげさまで元気ですよ」 鉄州斎は芦屋が社交辞令に来たとは考えていなかったが。第一その事件を知っていると言うことは身元調査でもしたのかといぶかった――。 「ところで、アヤカシに狙われる心当たりはありますか?」 そして唐突な芦屋の問いに鉄州斎は首をひねった。 「何ですか?」 「開拓者として撃破したアヤカシは数知れず、その中には、名前付きの上位アヤカシも多数。アヤカシの謀略を打ち破った回数も最上クラス。そんなあなたが今まで生き抜いてこれたのは、運だけではないですね。アヤカシたちはあなたのことを知っているでしょう」 「芦屋殿、俺のことを調べたんですか?」 「ええ、時間はたっぷりありましたからね。凄腕の開拓者ギルド相談役の過去を拝見しました」 「まさか、それを俺に伝えるために来たんじゃないですよね?」 「もちろんです」 芦屋が笑みを浮かべると、鉄州斎は両手を広げた。 「用件があるならどうぞ。今は仕事中ですので、俺も相談役として聞かせてもらいますがね」 「龍安家からの依頼をお伝えしに来たのです」 「と言いますと?」 「鳳華の東を覆う広大な魔の森――東の大樹海のことはご存知ですね?」 「もちろん」 「今年に入ってからも、東の大樹海の動きは活動的で、屍人や怪骨などの死人下級アヤカシの群れが頻繁に里へ向かっています。龍安警備隊との小規模な戦闘だけなら一日に百回近くになります」 「異常な数字ですね」 「いいえ、これは東の大樹海における平時の状態です。昨年、在天奉閻が鳳華の中央まで侵攻した際には、東の大樹海と里との境界線は許容範囲を越えて崩壊寸前まで行ったのですから」 「なるほど」 鉄州斎は驚いた様子も見せずに肩をすくめた。 「それで、本題は何なのですか」 「ここ最近、里との境界線で女の姿をした人型アヤカシが目撃されています。名前は琴南王。人語を話す上位の死人アヤカシで、志士のようなスキルを使う剣士です。警備隊が何度か交戦し、これまでに三名の死者を出しています」 「話の雲行きが怪しくなってきましたね」 「残念ですが、この琴南王が下位のアヤカシ達を束ねているのは確実で、龍安家は東のどこかで大規模な攻撃が始まるのではないかと見ています。龍安正規軍も一部が前線に送り込まれました。要するに軍は兵站を動かし始め、戦闘状態に入ったと言うことです」 「その琴南王がどこに出るかはまだ分からないのですね」 「今は。ほとんど魔の森の奥地で指揮を取っているようです。部下と思われる強力な指揮官クラスの死人アヤカシとは、時折警備隊が遭遇しています」 「分かりました。また、鳳華は臨戦態勢に入ったと言うことですか。ここ最近多いんじゃないですかね」 鉄州斎の言葉に、芦屋は頷いてから口許を結んで思案顔で顔を少し傾けた。そして芦屋は言った。 「私はまだ来たばかりですけど、噂の激戦区で働けるのはいい経験になりそうです。あ、そうそう、まだ言ってませんでしたけど、遭都からは他にも言付かっていることがあるんですよ。アヤカシに付け狙われている人間には注意しろと」 その言葉に、鉄州斎は眉をひそめた。 「何ですそれ。それはどういう‥‥」 「分かっていますよ鉄州斎殿。安心して下さい。私もあなたも、立場は違えど朝廷に仕える身。窮地に陥ったあなたのことは私も助けたいのです」 「何と言ったらいいか‥‥開拓者ギルドは確かに朝廷からの承認を受けた組織ではありますけどね。ですが芦屋殿――」 「馨です」 「はい?」 「私のことは馨と。これから仕事をする機会は多いんですよ。私はあなたの友人です」 芦屋は鉄州斎に穏やかな視線を向けた。遭都で藤原家側用人の女性に友人は少ない。敵の方が圧倒的に多いだろう。鉄州斎はこの友情の申し出に言葉が出なかったので驚いたように両手を広げると、吐息してから眉間を押さえた。 「そうですか――では」 鉄州斎はそれから一瞬間を置いて口を開いた。 「依頼の件は了解しましたよ」 鉄州斎が言うと、芦屋は口許に笑みを浮かべた。 「ではよろしくお願いします。鳳華でお待ちしていますので」 そう言って、芦屋は踵を返した。 そこへ、同僚の受付係の女性が声を掛ける。 「橘君あの人知り合いなの? 凄く綺麗な人じゃない。私が見た感じだと、間違いなく橘君に好意を持ってる」 「そんなわけないだろう。俺のことを事前に調べてる。昨年の事件のことも知ってる」 「うそー、橘君のこと調べてたの? 凄いわね」 「おい川崎、あの人は芦屋馨だぞ」 「芦屋馨って‥‥あの藤原家側用人のことじゃないわよね?」 「だからそうなんだよ」 「えー! そうなのー? 一緒に仕事するならちょっとサインもらってきてよ」 「本気で言ってるのか? そんなこと言ったら俺がどんな目に遭うとか考えないのか」 鉄州斎は呆れ返ったように同僚を見やる。 「良いじゃないサインくらい」 「きっと恐ろしく冷ややかな目で見られる」 「それくらいどうってことないでしょ」 「どうってお前‥‥」 「じゃお願いね」 川崎はぱたぱたと引き上げていくと、やってきた開拓者の応対を始めた。 「サインなら俺が貰いたいよ」 鉄州斎はぶつぶつと呟くと、開拓者たちにこの依頼を斡旋し始めた。 |
■参加者一覧
天津疾也(ia0019)
20歳・男・志
華御院 鬨(ia0351)
22歳・男・志
葛切 カズラ(ia0725)
26歳・女・陰
鴇ノ宮 風葉(ia0799)
18歳・女・魔
焔 龍牙(ia0904)
25歳・男・サ
コルリス・フェネストラ(ia9657)
19歳・女・弓 |
■リプレイ本文 ●幕間 鳳華首都、天承城にて――。 開拓者たちは城に立ち寄る。そこにはギルド相談役の橘(iz0008)がいて、藤原家側用人の芦屋馨(iz0207)と言葉を交わしていた。 そこへ歩み寄る華御院 鬨(ia0351)。女形をしていて、常に修行のために女装し、そこいらの女性よりも女性らしい雰囲気を醸し出している。今回はを西洋風お嬢様を演じていた。鬨は「こんにちは」と二人に声を掛けた。 「よお鬨」 「こんにちは華御院さん」 「この魔槍砲、もう少し装飾をつけたいどすわね。ね、芦屋さん」 鬨が芦屋に女性として同意を求めると、芦屋は少し笑みをこぼして「そうですね」と応じる。それから――。 「そういえば芦屋さんは橘さんとはお付き合いしとるんどすか」 鬨の問いに、芦屋はおかしそうに口許を緩める。 「やっぱり分かりますか?」 と笑った。 橘は頭をかいて吐息した。 「あの芦屋殿――」 芦屋は改めて肩をすくめた。 「いいえ、本当はお付き合いなどしていませんよ」 「そうなんどすか」 「鬨、そんなことがあるわけないだろう」 橘は鬨の肩に手を掛けて歩き出した。 「鬨、俺はギルドの下級官吏で、芦屋殿は遭都の上層部に近い上級役職だぞ?」 「うち、ちょっと妄想爆発どすかな?」 「ああ」 そうして、開拓者たちは天承を出発する。 鳳華東方、東の大樹海との緩衝地帯――。 「おーおー、仰山おるわなあ。まったくこれからよく出てくるあの黒いGどもみたいやな、うっとおしいことこの上ないわ」 天津疾也(ia0019)は望遠鏡を下ろすと、アヤカシの大軍相手に胸をさすった。 「何やこう‥‥胸がむかむかするな」 「やることはいつもと変わりやせんわね。この魔槍砲がどれだけの威力があるのか気になるところどすけど」 鬨は天津に言うと、天津は肩をすくめる。 「ま、武天の王様が直々に試験投入したがっとる武器を最初に使えるのは役得やなあ」 「新兵器のデータ採取には手頃と言えば手頃な戦力よね〜〜。敵方を見る限りではだけど。魔の森の近くでやる訳だし気を引き締めていかないとね」 美しき妖艶なる陰陽師の葛切 カズラ(ia0725)は、言ってから魔槍砲を手に取る。 「新兵器って言っても物理攻撃だからね〜〜私には向かないわ。龍安大将の方お願いね〜」 「陰陽師でも十分使えると言う話ですけどね」 「物理攻撃なら、サムライが使った方がいいんじゃないかしら」 サムライ大将は唸って、部下の一人に魔槍砲を手渡す。 「部隊長‥‥って、あたしの柄じゃないわよねぇ‥‥ねえあんた、あたしちょっと一人で行ってくるから、此処見といてくんない? ‥‥駄目? けち!」 サムライ大将と揉めているのは鴇ノ宮 風葉(ia0799)。一人でさっさと行こうとするので引き止められていた。 「ここ最近世界征服の足取りが鈍っているのよねぇ‥‥何かこうやる気が出ないと言うか‥‥」 風葉はぶつぶつと言って、魔槍砲を手に取った。 「錬力消費はデカい癖に、術者が使うなら術の方が早い‥‥なんともビミョーな武器ね、これ」 風葉は基本的に兵器や武器の類が嫌いで、銃器や刃物も使ったことがない。魔槍砲については試作品の試し撃ちということで渋々所持している。 「まぁ錬力的にも自分が使った方が良さそうだしね‥‥て、あによ橘――」 「お前さんそういや世界征服がどうのと言って何年か経っちまったなあ」 「あたしはね、夢を諦めたわけじゃないの。これは平坦な道のりじゃないんだから」 風葉は肩をすくめる。橘は口許を緩めて頷いた。 「世界征服が全てじゃないはずだ。それはお前さんにとっての一部だろう」 「それどこかの宗教家か有力者の受け売りでしょ?」 「まあそんなところだがね」 「あんたもちょっと見ないうちにむかつく奴になったみたいね。黙ってれば良い奴に見えるのに」 「それはどうも。成長するのは自分だけじゃないからな」 「ちょっと! よくそんなこと言うわね!」 風葉は橘にパンチを繰り出した。 「かなりの数のアヤカシが現れた様だな。魔槍砲の試し撃ちに丁度良いのか!?」 焔 龍牙(ia0904)は言って、望遠鏡を下ろした。 「橘さん、また何かアヤカシに動きがあるようですね」 「全く、次から次へとよく湧いて出てくるな。天津の言う通り、夏場に繁殖する例のGの如しだな」 「せやろ? まあアヤカシが大発生する方が人類にとっては脅威やけどなあ」 「これだけのアヤカシが動員されるからには、少なくともどこかに上級アヤカシ以上の存在があっても不思議じゃないな。いや‥‥そんなことは分かっているのか」 「せや。アヤカシの遭都襲撃の際にここから武天の王都を攻撃した大アヤカシがおったやろ」 「不厳王か‥‥」 「その通り。今は何があっても不思議やないんやで。奴ら、とっくに動き出しとるからな。まあアル=カマルへの道が開かれたりして世界は広くなっとるけど、どこでもアヤカシが消えることは無いみたいやからなあ。ほんまに、たまに憂鬱になるで?」 天津は肩をすくめると、また望遠鏡に目を戻した。 焔は思案顔で続けた。 「琴南王ですか‥‥また人型アヤカシとは相当な相手なのでしょうね。亡王奈落、子具乃王、そして沙九那王――ここ最近の鳳華のアヤカシの黒幕は相当な切れ者ぞろいですからね」 「噂では、北と南の魔の森のアヤカシたちもここ最近活発になっているらしい。龍安家はまた臨戦態勢だよ」 「またですか。アヤカシ軍の戦力は無限ですからね。いつもこちらが分の悪い戦いを強いられます」 焔の言葉に橘は唸った。 「分の良い戦いと言うのは聞いたことが無いな」 そこで、コルリス・フェネストラ(ia9657)が仲間たちに作戦を提案する。 「ちょっと良いでしょうか? 魔槍砲を使用しての琴南王軍との戦闘及び可能な限り敵を削減する。それが今回の目的ですよね」 一同がコルリスを注視すると、コルリスは続けた。 「あくまで一案ですが」 と前置きし、作戦案を提示する。 「まずは戦闘区域までは密集して進撃。敵を探索し敵位置を把握すると共に、最初に魔槍砲の攻撃で敵の陣形を崩した後交戦を開始します。この際魔槍砲を扱う味方を次の発射ができるまでサムライ達が周囲を守り発射支援します。それから緩衝地帯での戦闘は臨機応変に集合と離散を繰り返し、味方部隊が敵集団と交戦したら別の味方部隊が後ろや横に回り込み敵の死角から不意打ち。三十の敵には六十、十の敵には二十と常に局所では数の優位を確保し、敵が分散している間に各個撃破を繰り返す『胡蝶陣』を取ります。倒す敵は敵の各部隊を率いる中級指揮官のアヤカシを最優先で仕留めます。そうして敵が分散状態から包囲を狭めてきたら追撃を撃退しつつ退却します」 みなコルリスの言葉を思案顔で聞いていた。 「まあそんなところで良いんとちゃうか。相手の数も分からへんしな」 「そうどすわね。うちも良いと思います」 「そうね。概ねそんな感じで行きましょうか」 「あたしも異存なし」 「俺もありませんよ」 それから、サムライ大将たちもコルリスの作戦を了承した。 「ありがとうございます。失敗時の責任は私が負いますので皆様はご自分が最良と思える行動をお願いします」 「責任も何も、こっちが負けたら緩衝地帯にアヤカシの進出を許す。単にそれだけのことだ。アヤカシとの戦闘に終わりはない。鳳華にはそのことで君を責めたりする人間はいないよ。作戦に関する承認は全て、お屋形様が出されているんだからね」 サムライ大将の一人がそう言って、コルリスをフォローした。 「よっしゃ、ほな行くで。こっちの時間は限られてる。出来る限りのことをしようや」 天津はそう言って、みなの音頭を取った。 開拓者たちと龍安軍は出立する。 ――天津は望遠鏡を下ろした。アヤカシ軍の集団を確認する。 「よっしゃ、ほな行こか」 死人アヤカシ戦士の小集団に対して、倍する兵力を束ねて強襲する。 「そっちから周り込め」 林を利用して、天津はアヤカシ部隊の側面に回り込んでいく。 「配置に付いた」 「よし、行くで!」 天津と龍安軍は突撃した。殺到して加速して行く龍安軍。アヤカシ軍と激突する。 天津は指示を出している巨漢のアヤカシに切り掛かって行く。 「悪いな! 速攻で行かせてもらうで!」 紅焔桜をかけてからの秋水を叩き込む。刀身が桜色の燐光をまとう。凄絶な一撃が撃ち込まれる。アヤカシボスは一撃で真っ二つになった。瘴気となって消えていく。 「よっしゃあ! 指揮官は討ち取ったあ!」 龍安軍は勢いアヤカシ軍を粉砕して行く。 鬨はサムライたちとともに龍で空へ上がった。魔槍砲を振るうと、集団の先頭に出て指揮を取る。 「いきますどすわね! 全部隊戦闘隊形!」 龍騎兵が展開して上空の死骸龍と相対する。 龍の倍以上はある巨大な死骸龍のボスは咆哮すると、集団を率いて前進してくる。 鬨は魔槍砲改・弐式を構えた。 「銃撃‥‥開始‥‥!」 鬨は魔槍砲の引き金を引いた。凄まじい爆音とともに炎の弾丸が飛び出した。死骸龍の一体を直撃すると、それをばらばらに打ち砕いた。練力を大きく持って行かれたが、その威力は凄まじい。ばらばらになった死骸龍は瘴気に還元した。 「これが魔槍砲の破壊力どすわね‥‥確かに並み外れたものがありますわ」 「華御院殿!」 「行きましょう! あのボスはうちに任せて下さい!」 全騎加速――。鬨は巨大な死骸龍に突撃する。魔槍砲を振りかざし、槍として攻撃すると同時に白梅香と銃撃を同時に行って効果を確かめてみる。爆炎が死骸龍を貫通する。攻撃は同時に命中するが、厳密には白梅香と銃撃は別々の行動である。死骸龍ボスはその連続攻撃を受けて吹っ飛び墜落して行く。 カズラは部隊の一員として攻撃に加わった。 「行くわよ! 神風特攻斬撃符!」 式を解き放てば、「あれ」が巨人を凄絶に切り裂く。 「カズラさん、敵が――!」 コルリスが上空から鏡弦で新たなアヤカシ足軽の出現を捉える。 「新手ね。隊長さん! アヤカシ足軽が別方向から来るわ!」 「コルリス殿! 増援を!」 「了解しました!」 コルリスは地上と連携して増援を送り込む。 「巨人を先に潰しておかないとね! 行くわよ! 黄泉より這い出る者!」 圧倒的な知覚攻撃で巨人を破壊する。 「足を狙え!」 龍安軍は巨人を切り倒していく。 そこへ二十人の増援が到着して、アヤカシ足軽を迎え撃つ。 「御苦労さま、魔槍砲をお願い」 「了解しました」 数人のサムライが魔槍砲を構えると、突撃してくるアヤカシ足軽に魔槍砲二式を叩き込んだ。凄まじい火力がアヤカシ軍を直撃する。アヤカシ足軽は消滅した。 「よし! 突撃!」 「助かったわコルリスさん!」 カズラは後方から駆け出すと、アヤカシ武将に斬撃符を連射した。それから黄泉より這い出る者を撃ち込む。龍安軍は倍する兵力でアヤカシ軍を撃滅して行く。 「――だからお待ちなさいって言ってるでしょう鴇ノ宮!」 サムライ大将の女性は風葉をもの凄い力で引きもどした。 「あ痛! ちょっとあんた、加減てものを知らないの」 「あなたが大人しく後ろへ下がってくれたらね」 相変わらず先陣切って行こうとする風葉に、サムライ大将の女性は呆れたように吐息した。 「余計な仕事を増やさないでくれる?」 「いいじゃない。指揮官の護衛が仕事でしょ」 「指揮官はわ、た、しです」 「は〜、融通の利かない大将ねえ」 「いいから陰陽師は下がって」 「敵はアヤカシ術士でしょ。だったら互角」 「そう、頼もしいわね。銃撃用意! 魔槍砲一式を叩き込め!」 アヤカシ術士から瘴気弾が飛んでくるのを受け止めつつ、サムライたちは魔槍砲を撃ち込んだ。炎の弾丸がアヤカシ術士を焼き尽くす。 「あによ、けち!」 風葉は前進すると、魔槍砲二式を連射した。物理攻撃は得意ではない風葉だが、その炎はアヤカシを一撃で粉砕した。 それから風葉は蛇神を使って友軍を援護する。ギルドトップレベルの凄まじい知覚攻撃でアヤカシを薙ぎ払う。 「よし行くわよ! 総員突撃!」 風葉はアヤカシの指揮官に加速すると、ヨモツヒラサカ――黄泉より這い出る者の連射で波状攻撃を行う。 「花道は開いた! 後は主役が歩くだけっ‥‥行くわよあたしのとっておき! 全弾喰らっておひねり寄越しなさいな!」 ボスを潰すと、殿に立って蛇神を連射して味方の撤退を援護する。 「まー、こんなものよねえ」 「こんなものじゃないわよ。全く。次は大人しくしてもらうわよ」 「あんた主役に向かってその口の利き方は無いでしょう」 「どうも、おみそれしました!」 女サムライは両手を広げて呆れたように首を振った。 焔は魔槍砲改・弐式を手に取り、上空を制圧して行く。死骸化け鳥の群れを龍騎兵と連携して撃墜して行く。 「よし! 制空権を確保した! 地上へ攻撃するぞ!」 「焔さん――」 「コルリスさん!」 「地上と連携して下さい。北へ五百メートル、アヤカシ騎兵が展開しています」 「了解しました!」 焔たちは上空から攻め込むと、急降下でアヤカシ達を挑発し、バラバラになっているアヤカシを一箇所に集めていく。 「よし! 魔槍砲銃撃開始! 魔槍砲の威力を、甘く見るな!」 爆音が連発して轟き、アヤカシを打ち砕いていく。 やがて、新たな死骸龍の群れが魔の森から出現すると、焔たちはまた上空に舞い上がる。 蒼隼がソニックブームを撃ち込み、加速して焔は太刀で切り掛かる。炎魂縛武を撃ち込む。 「俺達の息の合ったコンビネーション攻撃を受けきれるか!」 死骸龍は撃墜される。 ――戦場に琴南王が部隊を率いて出現する。コルリスがその姿を最初に捕えた。 「あれが琴南王‥‥」 美しい女性の姿をしているが、近づけば肌は青っぽく、口許には牙が見えた。 「龍安軍か‥‥龍安弘秀に伝えるがいい! 私の手勢がこれからお前たちの里を攻撃する! それを止めることは出来ん!」 鬨は龍から降り立つと抜刀した。 「あなたが新しい指揮官どすわね。挨拶代わりにお手合わせ願いやすわ」 紅焔桜と白梅香で打ち掛かるが、琴南王は小馬鹿にしたように青白い炎に包まれた刀で鬨の攻撃を弾いた。 「鬨さん――!」 焔は続いて打ち掛かる。炎魂縛武で攻撃。一撃離脱。 鬨と連携して攻撃を足に集中させ、移動能力を奪い、仲間との協力で集中攻撃を行う。 「お手並み拝見!」 琴南王は刀を軽く動かして、攻撃を弾いて行く。カズラや風葉、コルリスから遠距離攻撃を受けてようやく後退した。そうして、やがて何百もの大部隊を呼び寄せる。 「おーおー来おったで」 天津は望遠鏡を下ろすと、早々に撤収の準備を整えていく。サムライたちに魔槍砲改・参式を用意させる。 「撃て!」 一斉射撃の後、タイミングをずらして着弾の間を開けないようにして弾幕を張り相手の足を止め、他部隊の弐式を使った攻撃の援護をする。 魔槍砲でアヤカシの先端を挫いた開拓者・龍安軍は、戦場から離脱するのであった。 |