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■オープニング本文 魔の森の奥地で‥‥。 大アヤカシ不厳王(iz0156)は瘴気の中に佇み、世界各地に張り巡らせた情報網から人界の動きを探っていた。 そこへ影が近づいていく。 「不厳王様――」 「何か」 「今のところ、例の計画は滞りなく進んでおります。人間たちは誰も気づいていないでしょう」 「気付くはずがない。ところで、奴はアル=カマルから戻ったか」 「は‥‥すぐに報告させます。ところで、例の遺跡にはからくり人形が関わっているそうですが」 「からくり人形だと?」 「興味がおありなら捕獲してきましょうか?」 「いや‥‥構わん。それより、計画の監視を続けよ。もういい、下がれ」 「は‥‥」 影が辞すると、不厳王は瘴気を吐き出して瞑想に入った。 ――天儀本島武天国、龍安家の治める土地、鳳華――。 家長の龍安弘秀は、筆頭家老の西祥院静奈と次席家老の栗原直光、家老の水城明日香、軍事顧問の山内剛と戦況に付いて話し合っていた。そこには、朝廷貴族の長篠安盛と、藤原家側用人の芦屋馨(iz0207)も加わっていた。 「琴南王の軍勢は北部の破厳山周辺に集結しつつあります」 水城が言った。琴南王とは、先日魔の森から軍勢を率いて攻撃を仕掛けて来たアヤカシの将である。 「緩衝地帯の下級アヤカシは後退させましたが、琴南王は魔の森から主戦力を用いて攻勢に転じるつもりです」 「では、奴は山岳の里、静小に攻撃を仕掛けるつもりか」 弘秀の言葉に栗原が応じる。 「あるいはこの攻撃自体が陽動ってこともあり得ますよ。ここ最近の南北の魔の森の活動ぶりを見れば、アヤカシは何か仕掛けてくるつもりなのかもしれません」 栗原の言葉に、西祥院は思案顔で頷いた。 「そっちは何か分かったことはあるの明日香」 「いいえ、私たちの方でも分析は行っているけど、今のところ下級アヤカシの散発的な攻撃が発生しているだけで、大規模な攻撃が始まる兆候は無いわ」 「アヤカシの攻撃に理由など探していても仕方がない。奴らは準備が整えば軍隊アリのように押し寄せる」 山内は唸るように言って、弘秀に言葉を投げた。 「御屋形様、鳳華で下級アヤカシの活動が起こるたびに過剰反応する必要はありませんが、我々も準備は怠ることのないようにしませんと」 「静小に向かっているのが小手先のアヤカシならどうってことは無いが、琴南王は大軍を動員できるアヤカシの上級指揮官だ。無視はできんぞ」 そこで長篠が口を開いた。 「琴南王の攻撃は始まりかもしれんぞ。敵の戦力が測れない以上、我々も最大限の戦力をぶつけるしかあるまい。それが戦線の拡大を防ぐ最善の策だ。そんなことは私でも分かることだがな」 「長篠殿、お言葉痛み入ります。ですが志体持ちは生身であっという間に数里を駆ける。それはアヤカシも然りです。我々の戦いは単純に常策で測れるものではないのです」 弘秀の言葉に、長篠は口許を歪めた。 「言うじゃないか龍安。それならもう勝ったも同然だな。超人の戦闘は想像がつかんよ」 「あなたがここにいる理由もないでしょう‥‥」 栗原が呟くと、長篠はじろりと彼を睨みつけた。 「何か言ったかね」 「いえ、何でもありません」 そこで、芦屋が弘秀に意見を述べた。 「弘秀殿、また私の方から衛士を送っても大丈夫でしょうか? 静小の里に遭都から呼び寄せた衛士を送ろうかと思います。要人の警護や里の避難には万全を期しておくべきでしょう。今回は一個中隊を呼び寄せましたので」 「それは助かります。警備に当たって下さるなら有り難い。人手不足ですからね」 「このような会合に参加させて頂いて、何もしないわけにはいきませんからね。そうでしょう長篠様」 「芦屋、私がそんな単純な挑発に乗ると思ったら大間違いだぞ」 「やめて頂けませんかお二人とも。ここであなた方に命令できる人間はいないのですから。私にしたってそうですし、我が家の家老たちも同様手に負えないのですから」 弘秀の言葉に、芦屋はお辞儀して、長篠は腕組みして唸っていた。 「とにかく、静小の里へ部隊を派遣しよう。龍の動員も許可する。琴南王が何を考えていようと奴を止めろ」 弘秀は二人以外の家臣たちに言って立ち上がった。 「それじゃ終わろう。よろしく頼んだぞ――」 鳳華北東部、山岳の里、静小――。 深緑の森が里を包み込んでいた。燦々と降り注ぐ太陽が眩しい。開拓者ギルド相談役の橘鉄州斎(iz0008)は、手をかざして太陽を振り仰いだ。 「橘殿――」 総大将を務める龍安家家老の坂本智紀がやって来て、白い歯を見せた。 「静小は初めてでしょうな」 「ええ」 橘は頷き、軽くお辞儀した。 「戦でなければ、静かな場所ですね」 「全くですよ。山にこれだけのアヤカシが攻めて来るのも珍しいことですがね」 「山岳地帯の要衝、守りには堅い。琴南王の出方次第ですか」 「斥候の龍騎兵から入った情報によると、奴は陸と空から攻め込んで来るようですな。相当数の死骸龍騎兵を集めているようです。それに、巨人も多数とか」 「なるほど。先だっての言葉通り、本気で来るつもりですな」 「橘殿、丁度今、開拓者たちも到着しましてね」 「来ましたか。ちょっと顔を出してきます」 「サムライ大将たちにも顔を合わせるように言ってあります」 「ありがとうございます」 橘は坂本にお辞儀して、陣中に向かって歩き出した。 アヤカシ軍陣中――。 青い肌をした妖しげな女剣士がいる。琴南王だ。 そこへ、死骸の人面鳥が舞い降りて来る。人面鳥は、アヤカシの言葉で何事かを琴南王に伝える。 「そうか」 琴南王は頷いた。 「ようやく龍安軍の前線部隊が到着したか。今回は逃がさんぞ。前回の汚名を注いでくれる。見ておれ、奴らの退路を絶ち、殲滅してやる」 琴南王は、部下の死人鎧武者に命じると、龍騎兵を率いて龍安軍の背後に回り込むように指示を出す。 準備を整えていると、骸骨の一体が琴南王のもとへ筒をもってやって来た。 「何じゃ」 琴南王は筒に描かれた印を見て、顔色を変えた。眉をひそめて筒から文を取りだす。 「‥‥‥‥」 琴南王は文を読み終えると、思案顔でしばらくそれを見つめていた。 『承知したとお伝えせよ』 アヤカシの言葉で骸骨に言ってから、琴南王は自身の龍に向かって歩き出した。 |
■参加者一覧
華御院 鬨(ia0351)
22歳・男・志
葛切 カズラ(ia0725)
26歳・女・陰
焔 龍牙(ia0904)
25歳・男・サ
コルリス・フェネストラ(ia9657)
19歳・女・弓
長谷部 円秀 (ib4529)
24歳・男・泰
リラ=F=シリェンシス(ib6836)
24歳・女・砂 |
■リプレイ本文 作戦会議が始まった――。 華御院 鬨(ia0351)は今回は気さくな浪人風に男装していた。変装しないと女性にしか見えないためだが。 龍安軍副将の南雲香と里長側近の森夕奈に歩み寄ると、鬨は彼女たちをナンパする。 「やあ、はじめましてかな。作戦確認がてらお茶でもしないかい」 南雲は面白そうに鬨を見つめる。 「これから会議だけど?」 「語らいながらでも会議は出来るよ」 「そう言うわけにはいかないでしょう。戦闘が終わった後なら‥‥」 「オッケー、じゃ後で」 それから森の方に声を掛ける。 「夕奈さんどうだい」 「困ります鬨さん‥‥今は戦闘中ですよ」 「いいじゃないか別に」 「本当に困るんですよ」 「堅く考えなくても、ちょっとお茶するくらいどうってことないでしょう?」 「あの‥‥本当に困るんです」 そこで、南雲が口を挟んだ。 「鬨、それくらいにしておきなさい、あなた見境なしね」 「いや、今日はこういう状態ですからね〜」 葛切 カズラ(ia0725)は呆れたように鬨を見やりながら、口を開いた。 「琴南王か、有言実行とはいい心がけね〜、望み通り御出迎えしてやらなきゃ」 それからカズラは、坂本に兵力の配置に付いて書き記した文書を差し出した。 「敵の配置を目安に、みなと相談して兵力配分を考えてみたのよ」 「ふむ‥‥」 兵力配置依頼 空:サムライ大将5人、サムライ120人 東:サムライ大将5人、サムライ30人、志士30人、泰拳士10人、弓術士10人、砲術士10人、陰陽師10人、巫女10人、シノビ5人 北:サムライ大将5人、サムライ20人、志士20人、泰拳士5人、弓術士10人、砲術士10人、陰陽師10人、巫女5人、シノビ5人 南:サムライ大将5人、サムライ30人、志士50人、泰拳士15人、弓術士15人、砲術士15人、陰陽師10人、巫女10人、シノビ5人 砦:弓術士5人、砲術士5人、巫女5人、衛士30人 「なるほど、いいだろう」 坂本は側近のサムライに文書を渡した。 「各部隊に伝えろ」 「そんな簡単に決めちゃっていいの?」 「私の命令が出ればそれで決まりだよ」 坂本は言って頷いた。 「砦を攻撃対象とするとは‥‥何か策があるのか‥‥ただの無謀か?」 焔 龍牙(ia0904)は思案顔で言ってから、龍安軍の首脳に挨拶する。 「焔です。初めての方もそうでない方もよろしくお願いします」 「噂は聞いてるわ」 南雲は言って、焔に会釈した。 「俺はみんなの戦術を基本に、空に出て迎撃に向かいます」 「分かった。よろしく頼むぞ」 坂本は頷く。 コルリス・フェネストラ(ia9657)は同じく首脳たちに挨拶の後、口を開いた。 「あくまで一案ですが」 と前置きし作戦案を奏上する。 「一つは空戦対応。サムライの大半は龍に騎乗し空中戦に参加して頂きます。敵航空戦力の殲滅による制空権確保が最優先目標となります」 「兵力配置に修正は必要か?」 「いえ、そこまでは結構です。それから空戦では味方龍騎兵は二人一組となり、一方が敵を格闘戦に引き込みその隙にもう片方が敵を横撃する『機織り』戦法を実施します。ただし無理に行う必要はありません。戦況に応じサムライ大将や開拓者の指示に従い行動して頂きます」 「機織り戦法はいつだったか使った記憶があるな」 「地上ですが、制空権確保までは北、東、南の各方面で衡軛陣を敷いて防戦します。砲術士は各砦に籠り支援射撃を。制空権確保後は地形を利用し空と地上の二方向から残りの敵を攻撃し撤退に持ち込みます」 「大きな流れとしてはいいだろう。制空権の確保は優先だし。作戦を許可する」 「ありがとうございます。では青葉さん――」 「何だい」 青葉はコルリスに視線を向けた。 「各方面の砦の櫓と複数色の旗を使い、各方面の戦況が互いにわかる様ご協力をお願いします」 「なるほど、どうすれば?」 「各櫓では黒、黄、赤、青の4色の旗の用意をして頂きます。各色の意味は黒が戦況報告求む。黄が交戦中。赤が苦戦中。青が敵撃破となります。各隊大将の指示に従い各隊間の情報伝達をお願いします」 「分かった。伝えておこう」 長谷部 円秀 (ib4529)は、飄々とした口調で言った。 「山岳戦でも負ける気はありませんね。それでは、ひとつ勝ちにいきましょうか。奇襲の妙というやつを見せてやりましょう」 それから長谷部は続けた。 「崖、森林等の地形を使った奇襲と機動及び罠による牽制等を多用したゲリラ戦を展開して陸上の敵を遅滞し、空の敵を倒す時間を確保し味方の防御準備を万端にすると共に敵を減殺。可能であれば大将まで接近して手傷を負わせるつもりです」 「ここまでの流れに異存が無ければ、部隊を率いて敵の前進を止めてくれ」 「承知しました」 「山岳戦か‥‥砂漠では山岳地域なんてなかったからちょっと緊張するかも。でも絶対に負けない」 リラ=F=シリェンシス(ib6836)のオッドアイがきらめく。左が紫、右が赤の瞳をしている。左目に掛けたモノクルの奥では、深い光が揺れていた。赤い髪に黄色の髪が一部にあるメッシュ。アル=カマルで機械修理していた頃の名残か、服装はいわゆる作業着でポケットが多め。はち切れそうな胸が作業着を押し上げていた。 「私は砦で全体の状況を把握しながら防衛に徹する。みな、後ろは任せておけ。私が守る」 坂本はそれから意見を集約すると、開拓者と部下達を見渡した。 「それでは戦闘開始だ。アヤカシどもを叩き潰す。出陣!」 砦に押し寄せるアヤカシの群れ。鬨はそれを見下ろし、刀を振り下ろした。 「――ここは地の利を生かして防戦だ。撃て!」 銃撃と弓の射撃が叩きつけらる。ばたばたと倒れて行くアヤカシ。しかし、巨人を先頭に押し出して突進してくる。 「奴らを通すな! 撃ちまくれ!」 何十発もの攻撃が巨人を貫く。 巨人は咆哮して登ってくる。その脇から骸骨剣士と死人戦士が抜けて来る。反撃の矢が砦の中に撃ち込まれる。 ドウ! と鬨の肉体に矢が突き刺さった。鬨は舌打ちして矢を引き抜くと、それを投げ捨てた。 「怯むな! 撃ち返せ!」 「それじゃ行くわよ――!」 カズラは龍で舞い上がると、旋回しながら死人龍騎兵との空中戦に突入する。 「カズラ殿! 某が敵を引き付けます!」 「よろしくお願い!」 アヤカシ兵は加速してくると、サムライが突進して激突する。一撃、二撃と打ち合い、そこへ側面からカズラの斬撃符が撃ち込まれる。 カズラの斬撃符は一撃でアヤカシの死骸龍を両断した。喚きながら墜落して行くアヤカシ兵。 「お見事です!」 「まだよ! 来るわ!」 焔も蒼隼に騎龍して飛び立つ。 「行くぞ蒼隼! 俺たちの連携を見せてやろう!」 加速する蒼隼。焔は太刀に炎魂縛武の炎をまとわせると、アヤカシ龍騎兵を切り裂いた。 「よし! そっちだ!」 焔は旋回して、友軍と連携する。 「焔様!」 「回り込め! 俺は正面からやる!」 龍安サムライと連携してアヤカシの指揮官に立ち向かっていく。 「蒼隼、ソニックブームだ!」 蒼隼がソニックブームを撃ち込む。死骸龍が切り裂かれる。 「俺達の息の合ったコンビネーション攻撃を受けきれるか!」 続いて突進する焔。 アヤカシ指揮官は咆哮して焔と激突する。 激しく打ち合う焔とアヤカシ。 「これでも食らえ!」 炎魂縛武を撃ち込めば、アヤカシ指揮官の腕を吹き飛ばした。後退するアヤカシに肉薄し、焔はアヤカシ指揮官を叩き斬った。 そのまま上空のアヤカシを攻撃し、撃破していく。 「ん? 奴は‥‥琴南王!」 焔はアヤカシ軍の総大将を発見して、旋回する。 「焔さん――!」 カズラがその横に付く。 「カズラさん、琴南王だ! まずは奴を地上に叩き落とす!」 「援護するわ」 「よろしく!」 焔とカズラは琴南王を挟み撃ちにする。 「琴南王!まずは地上に降りて貰おうか!」 太刀「阿修羅」に炎魂縛武で攻撃を行う。攻撃方法は一撃離脱。 「ぬうっ――」 キイイイイイン! と焔の一撃を刀で弾き返した琴南王。龍の態勢を立て直し、焔を目で追った。 そこへ、カズラの火炎獣が炸裂する。あれの口から火炎放射。直線10メートルを焼き尽くす炎が琴南王を包み込んだ。 「やった! カズラさん!」 しかし次の瞬間、青い閃光が火炎を切り裂きカズラの肉体を切り裂いた。 「何なの――!」 炎の中から琴南王が姿を見せ、青い光に包まれた刀を持ち上げていた。 「やってくれるな陰陽師、わしの龍は死にかけたわ」 「カズラさん!」 焔は突進。 カズラも蛇神で反撃しながら後退する。 「琴南王こっちだ――!」 焔は加速した。 ここで使うしかない。太刀「阿修羅」+スキル「炎魂縛武」とスキル「白梅香」の連続攻撃で切り札「焔龍 炎縛白梅!」 直撃! 太刀が琴南王を貫いた――。 しかし次の瞬間、閃光が爆発して、焔と蒼隼は吹き飛ばされた。瘴気の波動。 「ぐ‥‥何だと‥‥!」 焔は切り裂かれた肩を押さえた。 「ふん」 琴南王は冷たい笑みを残して、地上に降りて行く。 「大丈夫焔さん!」 「はい、しかしあいつ‥‥怪物だな」 「どうする?」 「俺たちはこのまま制空権の確保に向かおう。こっちが遅れてる。他のアヤカシを撃破すれば撤退に追い込めるだろう。そちらを優先しよう」 「そうね‥‥私たちだけで追撃は出来ないわ。コルリスさんに知らせておきましょう」 コルリスは上空から指揮を執りながら、地上を支援する。上空から旋回して、アヤカシへの攻撃を指示する。 「撃て!」 遠距離武器に持ち替えた龍安兵が砦の中から地帯射撃を行う。 コルリスは鏡弦で敵の位置を把握し、「裂!」安息流騎射術+響鳴弓の合成技で飛行するアヤカシを撃ち落としていく。 「琴南王が地上へ? それは‥‥注意を呼び掛けませんと」 コルリスは本陣へ降り立つと、坂本と青葉にその旨を伝える。 「琴南王が下りて来たか‥‥青葉、各方面に注意を呼び掛けろ」 「はい」 「私は引き続き上空から支援を行います」 コルリスはまた空へ戻る。 地上では黒、黄、赤、青の旗があちこちで振られている。 長谷部はシノビが持ち帰った情報からアヤカシの通る経路沿いの崖に待ち伏せ、奇襲の準備を整えていた。 「来ました――」 「行きましょう」 龍安軍は雪崩を打ったように駆け降りて行く。 長谷部が紅蓮紅葉を発動し、一気にアヤカシ指揮官を兵士たちと強襲する。狼狽するアヤカシ兵士たちは次々と討ち取られて行く。 長谷部はアヤカシ指揮官に一撃目に頭部、胴への致命打を狙う。アゾットを突き刺し白梅香により内部からの浄化で致命傷を負わせる。指揮官アヤカシは消失する。 「これくらいで良いでしょう。離脱しますよ!」 事後、山の林等からの突撃、離脱により徹底的に相手の行動を遅らせ、味方に空地同時には戦わせない。 「中々空はうまくいかないようだね‥‥」 鬨は上空の影を見やりつつ、各方面の陣地を渡り歩いていた。制空権の確保は遅れていた。 その時である。前方のアヤカシの中に、人型のアヤカシが姿を見せる。 「あれは‥‥琴南王じゃないか。ここへ来たのか――全員警戒しろ! 琴南王のお出ましだ! 狙いを定めろ! 撃て!」 琴南王は攻撃を弾き返しながら、兵士を率いて山を登って来る。 「我に続け! 突撃!」 琴南王は青白い炎で燃え盛る刀を振り上げると、青い瘴気の波動を龍安軍の陣に叩きつけた。寸断される陣。 「くっ‥‥やってくれるな‥‥迎撃するぞ!」 鬨は兵士達を激励しながら立ち上がった。琴南王に向かって駆け抜ける。 「うむ、よく見ると中々の美人じゃないか。そんなくだらない事はやめて私とお茶でもしないか」 とナンパを仕掛けてみるが、琴南王に冗談は通じなかった。 「それならお前を食らってやろう開拓者」 琴南王はぐわっと牙をむき出して切り掛かって来た。 「それは勘弁だな」 鬨は紅焔桜を使用した後に白梅香で打ち掛かった。直撃! しかし、直後に琴南王から神速の一撃が飛んで来た。虚心で見切ることも出来ずに、鬨は切り裂かれた。 「にっ――!」 「死ね!」 「何の!」 鬨は転がるように逃げると、手元の土を掴んで投げつけた。 「小賢しいわ!」 琴南王は刀を立て続けに振り下ろすと、瘴気の波動を撃ちこんできた。陣が破壊される。 「くそ‥‥! 撤退だ! ひとまずここは退く!」 リラはバダドサイトで状況を確認していた。 「ん? あれは‥‥」 本陣の背後で赤い旗が振られているのを確認したリラは、陣中に警戒を呼び掛ける。 「気を付けろ。後ろから何か来るぞ」 「見えるか」 坂本の問いに、リラは目を凝らした。 「青い肌色の女のアヤカシがやって来る。もしかして琴南王か?」 「そうだ。ここを背後から突く気か」 「私も出る」 リラはカービン銃とメテオブレードを手に前戦に向かう。 「総員私に続け! 琴南王が来るぞ!」 林原が駆け寄って来る。 「リラ、こっちの陣は突破されたの?」 「いや、局地的に劣勢になっているだけだ。琴南王が強引に攻め込んで来るようだ」 「そう‥‥制空権の確保が遅れているせいね」 「そっちはもうすぐ何とかなるだろう。急ごう。退路を寸断される前に琴南王を後退させないと。ここで持ち堪えるんだ」 リラは言って、衛士や兵士たちと駆けだした。 「琴南王の他に‥‥アヤカシ二十から三十。巨人はいない。敵の数はそれだけだ。私が戦陣『槍撃』で支援する」 「では魚麟の陣で行きましょう。私が先鋒に立つ」 林原は言って部下達に指示を飛ばす。 「見えた、来るぞ琴南王」 リラはカービン銃を構えながら戦陣「槍撃」を使用した。 「突撃!」 林原達衛士は加速すると、アヤカシ達を切り捨てその先端を打ち砕いた。 その次の瞬間、琴南王から瘴気の波動が飛んで来て、衛士たちを薙ぎ倒した。 「何だ今のは‥‥」 リラは燃え盛る刀を持ってやって来る琴南王を確認して、狼煙銃を空に向かって打ち上げた。 「リラさん! 無事か!」 上空から焔とカズラ、コルリスが舞い降りて来る。 「空の方は?」 「押さえたわ。すぐに味方が地上へ攻撃に回るわ」 更に、呼子笛が鳴ると、龍安兵士達を集めながら、長谷部と鬨が琴南王の背後から遅れてやってくる。 「さすがに単騎で深入りし過ぎたか‥‥」 琴南王は長谷部らを見やり、口許を歪めた。琴南王は、じり、と後退する。 「好機! 一気に攻めるぞ」 「琴南王、今度は逃がしませんよ」 開拓者たちと龍安兵が包囲する。 そして開拓者たちが先陣切って打ち掛かった。 「ただでとは言いませんが、ここで倒れて貰いますよ?」 長谷部は琴南王の懐に飛び込んだ。肉を切らせて骨を絶つ――。 手ごたえはあった。しかし、長谷部も全身に激痛が走った。琴南王の刀が腹部を貫通していた。長谷部は崩れ落ちる。 琴南王は開拓者たちの攻撃を弾き返して笑声を残すと、舞い降りて来た死骸龍に捕まって飛び去った。 だがその後、龍安軍は反転攻勢に転じてアヤカシ達を撃退する。 |