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■オープニング本文 ●畜生働き 暗闇に、白刃がきらめいた。 悲鳴とも言えないような小さな呻き声を挙げて初老の旦那が事切れる。強盗が、男の口元から手を離す。彼の手にはじゃらじゃらと輪に通された鍵が握られていた。 「馬鹿め。最初から素直に出しゃあいいものを」 男は蔵の鍵を部下に投げ渡すと、続けて、取り押さえられた娘を見やった。小さく震える少女の顎を刀の背で持ち上げる。 「‥‥ふん。連れて行け」 少女は喚こうにも口元を押さえられて声も出ず、呻きながら縄に縛られる。縛り終わる頃には、蔵の中から千両箱を抱えた部下たちが次々と現れ、彼らは辺りに転がる死体を跨ごうが平然とした風で屋敷の門へと向かう。 「引き上げだ」 後に残されるは血の海に沈んだ無残な遺体の山のみ。「つとめ」とも呼べぬ畜生働きである。 ●道場主 「ひでぇことしやがる‥‥」 屋敷に広がる惨状を前に、青年は思わず呟いた。 歩き回るに従って、血に濡れた足跡が増えていく。遺体は、既に近隣住民が庭先に茣蓙を敷いて並べ始めていた‥‥が、青年――真田悠は、ふと違和感を覚えて遺体を眺めた。 「なぁ、娘さんの遺体はどうした?」 「え? ‥‥あっ」 悠に指摘されて改めて遺体を見回した男の顔が、みるみる青くなる。 だが、対する彼は慌てる様子も無く、じっと考え込んで屋敷を後にする。刀の鍔に手を掛け、その手触りを確かめるようにして、ずかずかと歩み去る。 「売り物にする気なら、まだ無事な筈だ‥‥!」 ●婆娑羅姫 広々とした邸宅。 その一角では、どちらかと言えば小柄な女性が大杯を傾けていた。月明かりに風鈴が鳴り響く中、どたばたと廊下を走る音がする。 「なンだよ、うるせぇなぁ‥‥」 「森様、奴らの盗人宿が割れました!」 縁側に駆け込んできた男の声に女性――森藍可が振り返る。様相は幼いが、酔った目元はぎらぎらと輝いて喰らいつかんばかり。まるで、飢狼だ。 「ようやくか‥‥あんだけ連日の畜生働きだ。腐れ外道どもめ。たんまり溜め込んでやがンだろうな‥‥」 ふらっと起き上がって、身の丈を越えた十文字槍を担ぎ上げる。彼女は、大杯を飲み干すや、大きな声で人を集めろと叫んだ。 ●東堂 その報に、書生風の青年が深いため息をついた。 ギルドを通じて事が大っぴらになれば、人質の命が――涙目で語る商人を前に、東堂俊一という名のその青年は、一言、捨て置けぬと呟く。その言葉に、周囲の若者が詰め寄る。 「しかし先生、建策を控えたこの大切な時期に」 「そうは申せども、見過ごす訳には参りません」 「先生!」 なおも言い募る弟子を手で制し、彼は静かに口を開いた。 「先ず隗より始めよ。世に義を問うならば、まずは自ら示すべきでしょう。‥‥開拓者の手配を。伝手を辿り、気取られぬよう内々に」 ‥‥泰拳士の青年チェン・リャンは弟子たちの輪から抜けて、東堂のもとから立ち去ると、一言「下らねえ‥‥」と呟く。 「盗賊のやることなんざ放っておけばいいものを」 だが――とチェンは笑った。 「確かに先生には見過ごせねえだろうなあ。先生は正義を行おうとしているお方だ」 そして、チェンは開拓者ギルドに向かって歩き出した。 ●神楽の都〜開拓者ギルド ギルド相談役の橘鉄州斎(iz0008)は、盗賊改方からの要請を受けて依頼を確認しているところだった。 そこへ最近橘の助手になった娘、雪野佳織が報告書をもってやって来る。佳織はアヤカシに村ごと家族を奪われ、保護されていたのだが、最近になってギルドで働き始めた。 「橘さん――」 「ああ佳織、出来たか?」 「はいこれ。蝮党の情報と、今回の依頼に関する情報のまとめ。それからこっちが依頼書」 「ありがとう」 「ちょっと聞いても良いですか?」 「いいよ」 「この蝮党って、畜生働きを行う凶悪犯ですけど‥‥神楽の都って世界で一番治安が良い町だって思ってたんですけど。こんなこと頻繁に起こるんですか?」 「何とも言えないな。知ってるだろうけど今年は遭都が攻撃されたし、世の中物騒になって来てるからね」 「私許せないんです。でもそれ以上に怖くて‥‥橘さん、この依頼に出るんですか?」 佳織の言葉に、橘は顔を上げて肩をすくめた。 「佳織――これ良く出来てるよ」 「そうでしょう? 私を雇って後悔したとは思わせませんから」 「調子に乗るなよ」 「はい」 佳織はそこでやってきた女性二人に目を向ける。藤原家側用人の芦屋馨(iz0207)と護衛の志士だった。 「何かご用でしょうか?」 「用と言うほどのものではありませんが、ここにも屋敷を構えることにしましたので、鉄州斎殿に少し挨拶をと思いまして」 「そうですか。申しわけありません、私まだ入ったばかりで橘の客人の顔を覚えていなくて‥‥」 「佳織――」 橘は佳織を下がらせると、芦屋と向き合った。 「馨殿、神楽の都でも仕事を始められるんですか?」 「ええ。鳳華で上級顧問をやっているだけが任務ではありませんからね。ここは世界でも有数の情報が集まる都ですから仕事の拠点を置くことにしたんです」 「そうですか‥‥例えば朝廷の密命を受けて働くとか?」 「ええそんなところです、藤原家は帝をお支えする重要な役割を持っていますからね。私の仕事についてお話しましょうか?」 「馨殿、ちょっとした冗談ですよ」 「分かってますとも。もちろん私がここで仕事をするのを宣伝する気はないんですよ。用心に越したことはありませんからね」 「実は、これから依頼に出るんですよ。蝮党ってご存知ですか?」 「ええ、噂には聞いていますよ。ここ最近神楽の都で活動している盗賊でしょう?」 「連中が拠点にしている盗人宿が分かったんですよ。盗賊改方から連絡がありましてね。蝮党には志体持ちも揃っているようで、人質も捕まっているとかで、開拓者たちにも協力要請が来たんです」 「それで‥‥あなたも現場に?」 「そういうことです」 「そうですか‥‥」 芦屋は少し考えて、護衛の女性に言葉を掛けた。 「奈美、鉄州斎殿の護衛に付いて下さい。現場ではお守りするように」 「承知しました」 奈美と呼ばれた護衛の志士は短く頷いた。 橘は手を振って口を開いた。 「馨殿、大丈夫ですよ。私はこう見えても現場の方が専門なんです。盗賊相手に後れを取ったりしませんよ」 「そうはいきません」 「でも馨殿‥‥」 「奈美、頼みましたよ」 「はい」 「では鉄州斎殿、また後ほどお会いしましょう」 芦屋はそう言って、踵を返した。 「‥‥‥‥」 橘は吐息して、奈美を見上げた。佳織が作った書類を差し出す。 「蝮党のこと、一応知っておいた方がいいぜ」 「私をただの小娘と思っておいでなのでしょう」 「いや、そんな、ただの小娘が芦屋殿の護衛を務めているとは思わないけどね」 「どうだか」 奈美は肩をすくめると、文書を受け取り目を通し始めた。 |
■参加者一覧
無月 幻十郎(ia0102)
26歳・男・サ
鈴梅雛(ia0116)
12歳・女・巫
華御院 鬨(ia0351)
22歳・男・志
西中島 導仁(ia9595)
25歳・男・サ
鉄龍(ib3794)
27歳・男・騎
椿鬼 蜜鈴(ib6311)
21歳・女・魔 |
■リプレイ本文 「娘さん達は無事に返したいねぇ。我輩は全員逃がすつもりはないぜぇ」 無月 幻十郎(ia0102)は豪放快活に言うと、にかっと笑って鋭い眼光を覗かせる。 「しかしまあ蝮党とは‥‥いつの間に入り込んだんだかねぇ。開拓者が集まる都で強盗とはいい度胸してるじゃねえか」 「これ以上被害者が出る前に、残らず捕まえましょう」 鈴梅雛(ia0116)は言って、小さな拳を握りしめた。 「こんな悪党には裁きを受けさせなければ。ひいなはとても許せません」 「まあそうだろうなぁ。‥‥だが雛殿、気を付けろよ。相手は畜生働きを繰り返す凶賊だ。大人しく捕まるとは思えんしなぁ」 「はい、幻十郎さん」 華御院 鬨(ia0351)は女形をしていて、常に修行のために女装し、そこいらの女性よりも女性らしい雰囲気を醸し出している。今回は可愛らしい系(メイド)の演技をしている。白と黒の装備で統一してゴシックに装っている。 「メイドどすから、お掃除は得意どすぅ。人でもなんでもお掃除しちゃいやすぅ」 と可愛らしいが危ない発言をする。 「蝮党か‥‥全く、人の風上に置けんな。必ずその報いを受けさせねばならん。そして、人質も救い出さねば」 西中島 導仁(ia9595)は熱のこもった口調で言うと、件の材木問屋に目を向ける。 「それにしても、こいつは俺向きの仕事だな‥‥」 鉄龍(ib3794)は短く言って、椿鬼 蜜鈴(ib6311)の方を見やる。二人は古い付き合いであった。 「まさか、蜜鈴と仕事をすることになるとはな」 「さて鉄龍よ、共に戦うは初の事じゃて世話になるぞ?」 「ああ、こっちこそな」 「それにしても成り上がりが調子付くは当然じゃて。早うにひねり潰してしまわねばのう」 そこで開拓者たちと盗賊改の同心たちは、材木問屋の見取り図に目を落とす。 「我輩たちは救出班に回る。そっちのシノビと陰陽師もこちらに回ってもらいたい」 「了解した」 「さて‥‥これを見る限りだと、幾つか人質が捕まっていそうな部屋はあるが、実際には中には行ってみないと分からないだろうな。こことここ、それからここ‥‥」 幻十郎は図面を指でなぞりながら言って、唸った。 「人質のいる場所を掴むのが難しそうですね」 雛の言葉に、鬨はしなやかな指を頬に当てた。 「幸い裏口はあるようですから、うちらはそっちから回ると良いやすね」 にこにこと愛嬌を振りまく鬨。 「囮は任せてもらおう。せいぜい派手に暴れてやるさ。外道どもに容赦はいらんしな」 西中島の言葉に、鉄龍が頷く。 「同心のみなには注意してくれ。志体持ちの相手は志体持ちがすること。同心は志体持ち以外の対応を。囮班には巫女がいないので手傷を負った者は無理せず一度引くこと」 「ああ、その辺りは抜かりなくやるさ。こっちはここまで奴らを追い詰めたんだ。必ずここで終わらせる」 「しっかり頼むぞ。そうは言ったって、蝮党には熟練もいるだろうからな。奴ら実戦慣れしてるようだからな」 「危険なところは鉄龍に任せておけばよい。おんしらの手に負えないところは鉄龍がカバーしてくれるじゃろうからな」 「蜜鈴、そんなこと言ってしくじるなよ」 「わらわがしくじると思うか。素人扱いするな」 「すぐ本気になる。そうやってむきになるところはちっとも変わらないな」 「おんしも相変わらず口の減らん奴じゃのう」 そこで、開拓者たちは盗賊改とともに材木問屋を正面と裏口から包囲して行く。 白昼の踏み込みである。 「よし行くぞ――!」 「待てぃっ!」 西中島は腕組みしつつ咆哮。 「力無き者を守るために自らの力を使わず、一方的に奪うために振るおうとする者どもよ。そのような行いは決して許されず、必ずその報いを受ける事となる‥‥人それを『裁き』という」 衝撃が蝮党たちに走る。 「何だお前たちは!」 「貴様らに名乗る名前はないっ!!」 「そこまでだ蝮党。逃げ場はないぞ。今日限りで貴様等の悪事もおしまいだ」 鉄龍は言って、剣を構えた。 此度も煙管と扇は身に付けて行くが‥‥囮か‥‥手始めに雷でも放ってみようかの。表で大立ち回りをすれば人も集まろうてな。賢しい者なら直に気付くやもしれぬがその頃には人質は救出出来ようて派手に弄れさせて戴こうかの。此度はわらわも剣を振るおうか‥‥背は鉄龍に任せよう。 蜜鈴は腕を振り上げた。 「手始めな花火じゃて。ほうれ客寄せじゃ」 サンダーを放った。雷光が家屋を貫通する。 「蝮党ども! 盗賊改方である! 神妙にいたせ!」 蝮党の党員たちはようやく事態を把握し始める。だが、それで易々と崩れるような連中ではなかった。 「けっ!」 党員の一人が荒々しく踏み出してきた。 「盗賊改方か! 蝮党をなめんなよ! おう! 野郎ども出て来い! 役人が来やがった! 全員ぶっ殺せ!」 「役人だとお!」 「旦那! 盗賊改方でさあ! やばいっすよ!」 「構うことはねえ! 金は頂戴した! 出立の準備をしておけ! こいつらを叩き斬ってとんずらするぞ!」 「おう!」 蝮党は勢い刀を手に突進してくる。 「ふざけるな!」 西中島は志体持ちと激突すると、刀を押し返した。一撃、二撃と弾いて、西中島は刀を振り下ろした。――ガキイイイイン! と刀がぶつかる。 「てめええええ! 邪魔するな!」 蝮党の剣士は修羅のような顔で西中島を睨みつける。 「やかましい凶賊! 畜生働きの外道が! 無辜の民の無念を知れ!」 西中島は裂帛の気合とともに刀を押し返すと、真空刃を叩き込んだ。 「新たに得た力、ここに見せる! 震空烈斬!!」 大上段から踏み込みつつ振り下ろす。ザッシュウウウウウ! と鮮血が舞う。蝮党剣士の腕を切り飛ばした。 「ぐおおおおおお‥‥!」 「報いを受けろっ‥‥成敗!」 スキル成敗! 蝮党剣士を切り捨てると、刀を振って刀身から血を振り落とすように鞘に戻した。 「畜生おおおお!」 一般人の党員が群がって来る。西中島は腕を振るってそれらを弾き飛ばした。 「雑魚は引っ込んでろ! 死にたいのか!」 「盗賊改方に捕まるくらいなら死んだ方がましだ!」 「俺は開拓者だ!」 「開拓者だと!? てめえも役人働きかよ! 正義の味方のつもりか!」 「貴様等から説教じみたことを言われる筋合いはない! 下がってろ! 俺の相手は志体持ちだ!」 「うわあああああ!」 「くそ!」 西中島は党員を切り捨てた。 鉄龍はずかずかと中に踏み込んでいく。襲い掛かって来る一般人党員の攻撃を左手の竜鱗で攻撃を防ぎ、爪や剣で足や腕を狙い戦闘不能にさせる。 「邪魔だ。雑魚に用は無い」 「畜生‥‥俺にも志体があれば‥‥」 「うおおおおおおお!」 一般党員が背後から刀で切り掛かって来る。キイイイン! と、鉄龍の肉体に弾き返される。 鉄龍は悠然と党員の方を向くと、素早く間合いを詰めた。まるで赤子の手をひねるように叩き伏せる。 「ぐあ!」 「言ったろう、馬鹿な真似はするなと」 「そこの盗賊改――」 奥からゆらりと、死人のような顔をした浪人が姿を見せる。 「出来るなあ‥‥なかなかの腕前とみた」 「‥‥‥‥」 鉄龍は右目を細めると、剣を構えた。 「俺はここで終わるつもりはない。蝮党が死んだって、俺は死なない。くくく‥‥」 浪人は不気味な笑みを漏らすと、柳のようなしなやかさで切り掛かって来た。速い――。 鉄龍は軽く後退しつつ、ガードで受け止めた。 「けははははははは! 死ね死ね!」 鉄龍は耐えつつ、反撃の機会を窺っていた。 「ははははははは‥‥は!?」 次の瞬間、鉄龍の剣が跳ね上がり、浪人の腕を切り飛ばした。 絶叫が響き、鮮血が舞う。 「ぐおおおお‥‥野郎‥‥俺様の腕を‥‥許さねえ!」 浪人は落ちた刀をもう一本の腕で拾い上げると、血を舐めて加速してきた。 鉄龍は一瞬目を細めて、そして裂帛の気合とともに剣を繰り出した。――ザン! と血しぶきが舞い上がって壁と天井に飛び散った。 浪人は崩れ落ちて、鉄龍は真っ赤な返り血を浴びた。 「お‥‥わああああ‥‥逃げろ!」 一般党員は恐れを為して逃走する。 椿鬼もまた建物の奥に踏み込む。 「烏合の衆、じゃの‥‥しかし慢心は禁物か」 賢しい者程早々に逃れようとするのが常じゃて、頭目と思われる者はとりあえず捕縛せねばの‥‥。石壁にて退路を防いでしまおうか‥‥あぁ、舌を噛んで自害なぞせぬように顔を凍らせてしまおうか。 「開拓者ぁ!」 浪人が切り掛かって来る。 「蜜鈴――!」 鉄龍が間に割って入る。 「鉄龍よくやった。おんしには聞きたい事がある故、逃しはせぬよ?」 椿鬼は言って、浪人にフローズを叩き込んだ。 「自害なぞ考えぬ事じゃ。死よりも辛い夢を見せてやろうてな」 強烈な冷気が浪人にダメージを与える。 「首領はどこにおる」 「何だと?」 「おんしらの首領じゃ。どこにおるかと聞いておる」 「あのお方ならこんなへまはしないだろうな。ふふ‥‥やれ!」 「ぬっ――!」 椿鬼の側面から、また浪人が切り掛かって来る。 「ちい!」 椿鬼は剣を振り上げてその攻撃を弾き返した。 「この娘は任せろ! 片づけてやる!」 「椿鬼!」 「椿殿!」 西中島が飛び込んで来る。 「大丈夫ですか!」 「おう、わらわなら何ともない。と言いたいところじゃが、さすがに浪人どもには手が出んの。ところで、正面の方はどうじゃ西中島」 「何とか、制圧しつつありますよ。ここはもう修羅場ですけどね。相当数が捕縛されています」 「人質が保護出来れば下郎共の事なぞ知った事か。許しを請う位ならば最後まで足掻いてみせれば良かろうに‥‥くだらぬ」 「まあそうですがね。さて、人質の方は無事に進んでいるんですかね‥‥」 幻十郎と雛、鬨らは、正面から囮班が攻撃を開始したのと同時に、裏口から侵入していた。 「こっち見張りはいるかね」 幻十郎はシノビと陰陽師に聞いてみる。超越聴覚と人魂で探索するが、人の気配はない。 「よーし行こう」 「向こうが状況を把握する前に、浚われた人を助けましょう」 雛は建物の奥の方を覗き込んだ。 「んー、ちょっとうちの心眼では効果範囲が広すぎて分からないどすぅ」 鬨は言って、仕込箒片手に肩をすくめた。 それから、超越聴覚と人魂で探査しながら幻十郎らは進んでいく。 「女性の声がする‥‥何が起きているのか‥‥これは人質か?」 「見つけました」 陰陽師は言って、廊下の先の扉を指差した。 「あそこです。あの部屋に娘さんたちが閉じ込められている」 「急げ――」 開拓者たちはするすると移動して行く。 幻十郎が扉をこじ開けた。中には五人の娘たちが閉じ込められていた。 「大丈夫。こっちは盗賊改方です。俺たちは開拓者だし。助けに来ましたよ」 「助けに? 本当ですか?」 「今ここに踏み込んだところです。さ、急いで。ここから逃げましょう」 「もう大丈夫ですよ」 「さ、早く、急ぐどすぅ」 娘たちは慌ただしく立ち上がると、脱出する。 と、そこへ浪人が一人ふらりと現れた。 「何だ‥‥おいお前ら何してる」 「見つかったか」 幻十郎は抜刀した。 「娘さんたち、ちょっと目をつむって下さい」 「お前ら盗賊改か!」 「それと開拓者」 「おい来てくれ! 娘たちが逃げる! ――くそ!」 浪人は切り掛かって来る。 「おっと、人に使う為の技じゃぁないのだがねぇ」 幻十郎はスキル全開で撃ち込んだ。唐竹割を叩き込む。 ――ギャリイイイイイン! と浪人の刀が砕け散った。 「くそ!」 浪人は腰から脇差を抜き放った。 そこへ鬨が急襲する。紅焔桜+白梅香で暗器の仕込箒とバトルヒールで攻撃する。連撃が浪人の肉体にめり込む。 浪人は罵り声を上げて突撃して来る。 幻十郎は裂帛の気合とともに雲耀で打ち掛かった。ザン! と浪人は切り裂かれて血しぶきを上げて倒れると、呪いの言葉を吐き出して冥府へ旅立った。 「よし片付いた。娘さんたち、こっちへ、そのまま目を閉じて――」 そうして、開拓者たちは人質を脱出させると、正面から行った囮班に合流する。 雛は修羅場に微かにむせかえりそうになったが、口を押さえて仲間たちの支援に回る。 「西中島さん――」 「おう雛殿! 人質はどうなりました」 「こちらは大丈夫です。人質の皆さんは無事です」 「それは何より」 「ひいなはこれから支援に回ります。神楽舞で支援しますので蝮党たちを倒してしまいましょう」 「それは心強い。お願いする!」 鬨と幻十郎は、屋敷内の捜索に向かっていた。 「きっとうちの勘では、このどさくさに奪ったお金を持って逃げようとする輩がいるはずどすぅ」 「いい勘してるねぇ鬨殿は。それは言えてるかも」 二人は、倉庫の中で千両箱を漁っている賊たちを発見する。 「そこまでどすぅ。持ち逃げはさせないどすぅ」 賊たちは、ぎょっとしたように顔を上げた。 「よおお前ら。そいつは無いだろうぜ」 幻十郎は抜刀した。 「お、お願いだ! 殺さないでくれ! おとなしく捕まるから!」 「どうする鬨殿」 「本当におとなしくするなら、盗賊改に任せるどすぅ」 「だってよ、大人しくするか?」 「も、もちろんでさあ!」 賊たちは涙ながらに歩み寄って来る。と、幻十郎と鬨が武器を下ろした瞬間を見計らって部屋から飛び出した。 「おい! って、まあどうせ逃げられはしないわな」 「よかったどすぅ。盗賊改の方を呼んで来た方がよさそうどすなぁ」 それから、死闘の末に、材木問屋は制圧される。蝮党員はほとんどが討ち取られるか、捕縛された。だが、一部の党員は混乱の隙に脱出したようであった。それから、奪われた千両箱は回収され、持ち主のもとへと帰って行った。それから後の事だが、捕縛された蝮党員には奉行所から全員死罪が言い渡され、河原に晒し首となったのだった。 「娘は無事で居ったかえ? 傷物になってしもうては手遅れじゃて、無事保護出来て良かったのう」 椿鬼はそう言うと、からからと笑って、鉄龍を見やる。 「鉄龍よ依頼は果たした、帰って祝杯じゃ」 「そうだな‥‥何とか無事に終わったな」 そうして、椿鬼と鉄龍は酒場の暖簾をくぐった。 「いらっしゃいませー!」 「おんし、わらわとこっちのに冷酒を二つ頼む。それから何か‥‥適当につまみを」 「はい!」 店員の娘は元気よくカウンターに戻って行くと、二人の注文を出した。 しばらくして、娘は冷酒と練り天ぷらを持ってきた。 「ありがとう――さ、鉄龍乾杯じゃ」 「ほんと酒好きだなみっちゃんは、まあ構わんが」 「鉄龍‥‥おんし未だわらわを幼子扱いし居るかっ!?」 「そう怒るなよ。みっ‥‥蜜鈴。まあとにかく、お疲れさんだったな」 「鉄龍、こうして飲んでおると昔を思い出すのう。覚えておるか、あの時わらわとおんしは‥‥」 依頼は解決。そうして、神楽の都の夜も更けていくのだった。 |