|
■オープニング本文 天儀本島武天国、龍安家の治める土地鳳華――。 南部の平原に広がる里、草渡にて――。 東の魔の森から死人アヤカシの出現が頻発していた。里と森との間にはアヤカシとの交戦地域である緩衝地帯がある。里の警備隊は相次ぐ下級アヤカシとの戦闘に追われていた。そして、アヤカシの指揮官クラスが出現したとの知らせを受けて、龍安家の上級指揮官である南雲香が正規軍の一部を率いて迎撃に向かっていた。 南雲は望遠鏡を上げると、里へ向かって来るアヤカシの集団を確認する。 「南雲様――」 「静小の次はこっちか‥‥アヤカシどもも忙しいことだな」 南雲は言って、部下に望遠鏡を投げてよこした。 「数は二十から三十と言ったところでしょうか‥‥」 「我らも打って出るぞ。急げ」 南雲らはそうして、アヤカシの集団に接近して行く。 敵は死人戦士と骸骨剣士の一団。中に、上等の鎧を身につけた死人戦士がいた。恐らくアヤカシの指揮官クラスであろう。 南雲らとアヤカシ軍は互いに牽制しつつ、交戦に入って行く。 南雲はアヤカシ指揮官に向かって加速した。 裂帛の気合を込めた南雲の一撃は、並みのアヤカシなら一刀のもとに切り捨てる。 「――!」 しかし、その一撃は受け止められた。アヤカシが持つ燃え盛る青白い刀によって。 「こいつ‥‥」 「甘いな龍安の大将」 「何っ、言葉を――」 次の瞬間、アヤカシ指揮官が変身していく。醜い死人戦士から、青い肌の女性人型アヤカシへと。 「貴様、琴南王――!」 「今頃気が付いたか」 琴南王は牙を剥きだすと、燃え盛る刀身を振り下ろした。青い閃光が炸裂する。 南雲は受け止めたが、瘴気の波動は南雲の肉体を貫通した。鮮血が飛び散った。南雲は血を吐いて崩れ落ちる。 「く‥‥おのれ‥‥!」 琴南王は、南雲の胸に無慈悲に刀を突き入れた。刀身が貫通する。 南雲の口から血が溢れる。 「お屋形、様‥‥」 南雲は薄れる意識の中で、琴南王の笑声を聞いていた。 鳳華首都、天承の城で――。 家長の龍安弘秀は、執務室で家老たちと会合に臨んでいた。各地の状況の報告を受けているところだった。 そこへ、筆頭家老の西祥院静奈が入ってくる。 「お屋形様――」 「静奈、どうかしたのか」 「南部の里、草渡で戦闘があり、南雲香が琴南王との交戦で戦死しました」 「何だって?」 弘秀の大きな声に、一同主君を注視する。 「すまんなみんな。外してくれるか」 弘秀は、家老たちを下がらせると、西祥院に向き合った。 「何があった」 「小規模な戦闘でした。ただ、アヤカシの集団の中に琴南王が紛れ込んでいたのです。死人戦士に変身して。南雲は不意を突かれたようです」 「犠牲者は南雲だけか」 「いえ、他に三人のサムライが琴南王の犠牲に」 弘秀は、吐息して肩を落とした。 「くそっ‥‥。南雲は武人だし、常に覚悟は持っていただろう。だが‥‥こんな形でやられるとは」 「そうは言いましても、琴南王の変身能力は知られていませんでしたから」 「亡くなった者たちには私から連絡しよう。南雲の家とは古い付き合いだ。何と言ったらいいか‥‥」 「私からお伝えしておきましょうか」 「いや、自分で伝えるよ。それより、草渡の里に動きはあるのか」 「はい。アヤカシの大部隊が魔の森から前進してきています。里の東に展開しつつあります。アヤカシ軍の指揮官は琴南王です」 弘秀は頷くと、重々しく口を開いた。 「静奈、行ってくれるか。俺が行きたいところだが、またいつここを狙われるとも限らないからな。活発な魔の森にも注意が必要だし、影亡者の件もある」 静奈は背筋を伸ばすと、静かな瞳で弘秀を見やる。 「その言葉を待っていましたよ。香の仇はとります。琴南王の首、必ず上げて見せましょう」 そうして、静奈は弘秀の前を辞した。 と、入れ違いに藤原家側用人の芦屋馨(iz0207)が入って来る。芦屋はここで上級顧問を務めており、弘秀とはいつでも直接に会える立場であった。 「弘秀殿――」 芦屋の言葉に、弘秀は顔を上げた。 「ああ芦屋殿」 「草渡の里で戦闘が近いと聞きましたが‥‥」 「南雲が死んだんです。琴南王に殺された。我が家の上級指揮官です」 「琴南王はよほどの強敵のようですね。西祥院殿は戦場に?」 「ええ。私の代わりに行ってもらいます。ここで終わりにしたい」 「開拓者たちにも依頼を出しませんと」 「そうですね。今回もやはり彼らの力が必要だ」 「決着をつけましょう。琴南王をこれ以上里へ入れるわけにはいきませんから」 「本当を言えば琴南王が展開している何倍もの兵を送りこんでアヤカシを殲滅したいんですよ。それは不可能じゃないんです。長篠殿が良く言われるようにね」 「ですが魔の森の焼き討ちは過去にもまず成功した例がありません」 芦屋の言葉に、弘秀は吐息して頷いた。 「それに巨勢王陛下もそうですが、我々はアヤカシの恐ろしさをよく分かっているんですよ。龍安家の、そして鳳華の歴史を知っていれば、大軍を送りこんでこの戦いが終わるとは思わないでしょう」 「冥越八禍衆をご存知ですか?」 芦屋の問いに、弘秀は眉をひそめた。 「アル=カマルの戦いで出現した上級アヤカシでしたか? 冥越を滅ぼした際に活動したアヤカシの首領たちとか‥‥」 「朧大瀧はその一体に過ぎません。後の七体は、今もどこかで反撃の機会を窺っているでしょう」 「‥‥‥‥」 弘秀は吐息して、芦屋を見つめた。 「全てをお話しするわけにはいかないんですよ。例え朝廷が私たちの想像を越える秘密を持っているとしてもです。お分かりでしょう芦屋殿」 すると、芦屋は思案顔で言った。 「とにかく、私は今回も衛士を里へ派遣しましょう。それから、開拓者ギルドとは連絡を取っておきます」 弘秀は頷いた。 「よろしくお願いします――」 草渡の里、東部‥‥。 琴南王は今はこれまで通り青い肌の女の姿をしていた。上等な鎧に身を包んでいる。 これまでの戦闘でかなりの消耗があった。手駒を相当数討ち取られたことは琴南王の予測を越えていた。本来なら、魔の森との緩衝地帯の向こうにある鳳華の里は大半を自分の手で破壊するつもりであった。少なくとも幾つかの里を壊滅させる、そうなる段取りであった。だが、今のところ戦果は芳しくない。 「これでは、鳳華の中央を押さえるのは難しい。少なくとも東から攻め込むには兵が足りない‥‥」 琴南王にも思うところが無いわけではないが、今以上の戦力を望むわけにもいかなかった。 そこへ、部下の死人の武将が文を持ってやって来る。アヤカシに文が届いていることは、誰も知るべくもない。 琴南王は文を開くと、目を通し始めた。やがて、琴南王は口許に笑みを浮かべた。 「そうか、龍安軍の総大将は西祥院静奈か。ここであの女を殺せば帳尻が合う。これまでの借りを返してやろう」 琴南王は文を握り潰すと、いよいよ兵を整え始めた。 |
■参加者一覧
星鈴(ia0087)
18歳・女・志
井伊 貴政(ia0213)
22歳・男・サ
華御院 鬨(ia0351)
22歳・男・志
葛切 カズラ(ia0725)
26歳・女・陰
焔 龍牙(ia0904)
25歳・男・サ
コルリス・フェネストラ(ia9657)
19歳・女・弓 |
■リプレイ本文 開拓者たちも交えて、龍安軍の本陣で軍議が始まる――。 「それじゃ、皆の意見を聞きましょうか」 甲冑に身を包んだ西祥院静奈は、言って一同を見渡した。 「あくまで一案ですが」 と前置きして口を開いたのはコルリス・フェネストラ(ia9657)。 「まずは味方を敵中央、右翼、左翼に対応する形で中央と左右翼部隊に分け、丘や川等地形を利用し布陣。そして開拓者を含め攻撃力のある味方は中央部隊へ集結。魚鱗陣で敵中央部隊へ攻勢をかけ琴南王討伐に集中します。その間、敵左右翼部隊の攻撃は左右翼隊が各自衡軛陣で防戦します。砲術士は各砦に籠り支援射撃を続行。やはりここは琴南王の討伐に集中したいところですね」 「なるほどね。やはり開拓者たちの動きは重要になって来るわ。軍としては異存ないわね。他に――」 「琴南王‥‥一手、武を交えてみるんもエエかもしれへんな」 星鈴(ia0087)は呟くと、手を上げた。 「ああ、またみんなん世話になるな。よろしゅう頼むで」 「星鈴ね。またともに戦場に立てることを嬉しく思うわ」 西祥院は笑みを浮かべて頷いた。 「おおきに。うちから言わせてもらうと、コルリスはんの補足になるんやけどな。開拓者は全員敵中央部隊へ向かい、敵右翼、左翼を本陣に残した味方部隊に防いでもらい、その間にうちらで琴南王を迅速に討ち取る。この作戦を押すで。やっぱり琴南王を潰しておきたいさかいな」 「なるほどね」 「うちは主に先鋒役とし中央部隊への切り込み役を買って出させてもらうで。琴南王が中央にいるなら、そこで決着付けたる」 「やっぱり琴南王狙いね。開拓者と軍が連携するなら、それが一番大きいところかしらね」 続いて口を開いたのは井伊 貴政(ia0213)。 「こちら方面はご無沙汰だったのでねぇ。たまには顔出さないと忘れられそうだし」 貴政が苦笑すると、西祥院が笑みをこぼした。 「ええっと、誰だったかしらねえ、確かうちの女性兵士にちょっかい出してばかりで有名だった人がいたけど」 「そんなおっちょこちょいはこの戦場にはいませんよ静奈さん」 「ああ、あなた、井伊貴時さんだったっけ」 「一応正式な名前は貴政ですよ」 「冗談よ。悪かったわね。よく来てくれたわね。感謝するわ」 「ま、アヤカシのボスクラスを倒すことが出来れば、この地方の危機もそれだけ水準が下がるだろうし、その一助になれればと思います」 それから貴政は、真面目な顔で西祥院と林原鈴香に言った。 「僕は今日は誰も死なせはしません。女の子は特に。西祥院さんも、林原さんも、傷つくような目には合わせませんよ。僕が守ります」 西祥院と林原は、何とも言い難い顔で肩をすくめた。 「若く見られるのは嬉しいけど、その心意気は琴南王にぶつけて頂戴」 西祥院は三十代だ。西祥院が言うと、林原は複雑な表情を浮かべる。 「西祥院殿は私がお守りしますから、貴政殿には、琴南王に集中なさって下さい。それが私たちの仕事ですから」 「ま、僕も任務は果たしますよ。手加減はしませんよ」 貴政は言って、晴れやかな笑顔を浮かべた。 「琴南王は確かに剣の腕も作戦立案もそれなりにできるどすが、無愛想なんは役者としては欠点どすなぁ」 と感想を云うのは龍安家お抱え芸人の華御院 鬨(ia0351)。 女形をしていて、常に修行のために女装し、そこいらの女性よりも女性らしい雰囲気を醸し出している。今回は京美人の女装をしていた。 「鬨、今日も変装が決まってるわね」 「どうも西祥院さん」 「それで、何かあるのかしらね」 「そうどすな、今言われたように中央に攻撃するのがいいと思いやす。中央に琴南王が見当たらない場合には自分は中央に残り、琴南王の変装をしているアヤカシがいることを考慮し、本陣に戻ろうとする自軍がいないかを確認しやす。琴南王が紛れ込んでいる可能性は否定出来ませんからな。また、隠れて本陣へ向かうアヤカシがいないかも確認し、本陣へ行かせない様にする必要もあるかと思いやす。平原で見渡しは良いどすが、念のためどすな。あと、うちは本陣で何か騒ぎが起こっても中央が片付くまでは中央に残り警戒します。中央が終了したら、片翼のどちらか不利な方へ向かいますわ」 「そうね‥‥琴南王が素直に正面に留まっていてくれるとは限らないしね‥‥。警戒するに越したことは無いか。では、その辺りは鬨に任せるわ」 「ありがとうございます、どす」 それから西祥院は、仲間たちの話を聞いていた葛切 カズラ(ia0725)を見やる。カズラは肩をすくめて口を開いた。 「琴南王は――高スペックのバランス型で欠点という程の物は無い上に、変身能力まで持ってるとなると早々に退場願いたいわね」 「南雲のことは残念だったわ。まさか変身能力があるとはね」 西祥院が吐息すると、カズラは思案顔で言った。 「未熟なら御し易く熟達すれば難攻不落、後者の志士は厄介よね」 「確かに、琴南王は志士に似た魔法剣士だけど、どこかに弱点らしきものもないわね」 「それでもやるしかないわね。作戦通りに敵中央部隊狙いで行くわ。琴南王が居る場合はそのまま攻め落としに。本陣等に琴南王が出た場合はそちらに向かうってことで」 「西祥院殿! 南雲殿の仇は必ず討つ! 琴南王を必ず討伐する!」 言ったのは「焔龍」焔 龍牙(ia0904)。 「俺も中央への攻撃に集中することで良いと思います。アヤカシ軍を殲滅し、今日は琴南王を討伐します、何としても!」 「よろしく焔」 最後に、またコルリスが各隊大将に挨拶し、シノビに連絡を依頼する。 「各隊周辺の砦や櫓で複数色の旗を使い、各隊の戦況が互いにわかる様ご協力をお願いします。各櫓では黒、黄、赤、青の4色の旗の用意を。各色の意味は黒が戦況報告求む。黄が交戦中。赤が苦戦中。青が敵撃破となります。各隊大将の指示に従い各隊間の情報伝達をお願いします」 「承知しましたコルリス様」 それからコルリスは少し声を落として焙烙玉を西祥院に手渡す。 「本陣に琴南王が襲来したらこれを爆発させ音で合図をして下さい」 「よく分からないけど大丈夫よコルリス。本陣に琴南王が来たら派手に太鼓を鳴らして全軍に知らせが行くわ。隠す必要はないでしょう?」 そうして、西祥院は頷き、それから副将の長山平五郎や里長の牧原章介、ギルド相談役の橘鉄州斎(iz0008)他、サムライ大将たちの意見を取りまとめ、中央隊に魚麟陣、両翼に衡軛陣の布陣を決する。 「ではみんな、よろしく頼むわよ。迎撃に備えて」 諸将が解散していく中、焔が西祥院に歩み寄る。 「西祥院殿――」 「どうしたの焔」 「少し、陣内を捜索させてもらえませんか」 「どういうこと?」 「ここ最近のアヤカシの動き、何か違和感を覚えるんですよ。確かに、ある程度はアヤカシも情報収集しているんでしょうが‥‥こちらの情報が漏れていると言うことは無いでしょうか?」 西祥院は吐息した。 「その件は凱燕での攻防戦の時に疑惑が持ち上がって調べているわ。ただ、どこにも痕跡が無いのよ。表では同心たちに調べさせているし、隠密にも調査に当たってもらっているわ。それに、大きな声では言えないけど、龍安家が信用する人間を鳳華内部の里に里長たちには秘密で送り込んで裏ルートも使って調べているわ」 「そうなんですか」 「それでも何も出てこないのよ。確実な情報は何もね。だから里内部での裏事情の動きは私たちも把握しているわ。ただ、アヤカシが関わっている痕跡は無いのよね」 「分かりました。ですが、機会があれば俺たちも協力しますよ。何かあれば言って下さい」 「ありがとう。その時はよろしく頼むわ」 「では戦場に戻ります」 「ええお願い」 西祥院は思案顔で焔の背中を見送った――。 「ほなみんな行くで!」 星鈴は先陣切って加速すると、飛んで来る矢を叩き落として突撃した。そのまま死人戦士と激突する。星鈴は裂帛の気合とともに死人戦士を切り伏せた。右に左に死人を切り捨てていく。 櫓から黄色の旗が振られる。砲術士たちが砲撃を開始する。死人戦士は櫓にも群がり、その一つが倒された。 「ち‥‥やるやんか亡者ども‥‥!」 星鈴は群がる死人戦士を蹴散らしていく。 「無理は禁物ですよ星鈴さん」 赤い旗が振られて、一軍を率いて駆けつけたのは貴政。部隊に号令を下すと次々と死人たちを撃退していく。 「琴南王は後ろですかね。最新の情報では中央にいたようですが」 鬨は、行動力3を生かしての連撃で死人戦士を圧倒していく。 「琴南王、今日はあんさんを逃がしはしませんよ。出てきなはれや‥‥」 鬨はあちこちで振られる黄色と赤と黒の旗を見上げて、吐息した。 「素直に出てくればいいものを。世話が焼けますな」 カズラは練力を温存しつつ前線に出る。死人戦士相手には前衛職の人間を盾にしつつ鞭で牽制や援護を行う。 「行って、支援するわ」 「よろしくカズラ殿!」 サムライが切り掛かって行くのを、鞭で援護する。死人戦士の弓を破壊する。 「オオオオオオ‥‥」 と、立派な鎧に身を包んだ上級死人戦士が前進して来る。 「上級が出たわね」 「カズラさん!」 「焔さん――上級死人戦士よ」 「任せて下さい! カズラさんには支援をお願いします!」 「一応気を付けて。それじゃ行くわよ、律令の如く出でて万物を切り刻め!」 カズラは一撃だけ斬撃符を放った。凄絶な一撃が上級死人戦士の腕を吹き飛ばした。 「食らえ! 炎魂縛武!」 焔は加速すると、炎に包まれた刀身を叩き込んだ。上級戦士の刀を粉砕して、そのまま焔はアヤカシを叩き斬った。 戦場のあちこちで旗が振られる。 「琴南王はまだ奥ですかね。ここは突破ですね」 「行きましょう。みんなも同じよ」 コルリスは、中央部隊の弓兵を指揮しつつ進撃する。 「前方にアヤカシの数は二十弱ですか。地帯射撃を――」 精神を研ぎ澄まして弦を掻き鳴らし、鏡弦でアヤカシの動きを探査する。 「攻撃開始!」 「撃て!」 弓術士たちが目にも止まらぬ速さで矢をつがえて連続攻撃を行う。死人たちを撃ち貫いていく。 「砕!」 コルリスも六節+響鳴弓の合成技で上級死人戦士を撃破する。 開拓者たちは前進した。彼らは龍安軍の先鋒にあり、アヤカシ軍の戦列を突破して突き進んだ。 龍安軍も開拓者たちをサポートし、周辺の死人戦士を切り崩していく。 やがて視界が開けた。アヤカシ軍の防御陣地の奥に、琴南王が死人戦士たちを従えて、開拓者たちを見返した。 「何事じゃ‥‥人間? ここまで来たのか貴様ら」 星鈴は踏み出して、大薙刀を一閃した。 「琴南王! いざ、尋常に勝負や!!」 「ようやく会えましたね琴南王。南雲さんの仇は討たせてもらいますよ」 貴政が大剣を構えれば、鬨は針短剣を低く構えた。 「うちからも、ようやくここまで来ましたな。今日があんさんの命日になるどす琴南王」 「強敵なのは百も承知。でも、私たちはまたあなたを倒して道を切り開くわ」 カズラは行って、符を構えた。 「琴南王! 南雲殿を殺めた代償は必ず貰う!」 焔は太刀「阿修羅」を構えて、赤い瞳で琴南王を見据えた。 「みなさん気を付けて。琴南王には範囲攻撃があります」 コルリスは矢を装填しながら、仲間たちの注意を喚起した。 琴南王は悠然と踏み出して来る。 「人間どもの、明日の無い未来が、絶望と恐怖が、さらにわしを強くする」 琴南王は至近距離まで歩いて来た。 「来い、最後に勝つのはわしだ、開拓者ども」 開拓者たちは呼吸を整えると、「行くぞ!」と突進した。 星鈴、貴政、鬨、焔が同時に切り掛かる。 琴南王は腰から二刀を抜き放つと、開拓者たちの攻撃をギャリイイイイイン! と受け止めた。 「神風特攻斬撃符!」 カズラは琴南王の足を狙って呪縛符と斬撃符を連射する。式が琴南王の足を切り裂く。 「砕!」 コルリスはスキル全開で矢を放って行く。ドウ! ドウ! と矢が琴南王の肉体を貫通する。 「ぬうん!」 琴南王は刀を振り上げ、四人の開拓者たちを吹き飛ばした。 「ちぃっ!? やっぱりなかなかやるやんか!」 「まだまだ!」 「こんなもんじゃないどす」 「行くぞ!」 開拓者たちは立て続けに打ち掛かる。 琴南王は巧みな剣さばきで、星鈴、貴政、鬨、焔の攻撃を弾き返していく。 それでも、手数で圧倒する開拓者たちは一撃、また一撃と打撃を与えて行く。 「そぉれ、今こそ好機ってやつやな、みんな行くで!!」 星鈴は切払で加速した。 貴政は柳生無明剣を繰り出す。 鬨の紅焔桜+天辰が空を駆け抜け、 「今回は逃がす訳にはいかないな!」 焔の白梅香+秋水が奔る。 開拓者たちの刀身が琴南王の肉体を凄絶に貫通する。 「汎用が効くという事は一芸に欠き、ただの一穴でも開けばそのまま貫けるという事」 カズラは符を装填すると、黄泉より這い出る者を連射する。 「故に無理を通して撃ち貫く!」 「これで終わりです琴南王! 止めの、砕!」 コルリスも矢を連射した。 大打撃を受けて、琴南王の片腕が吹き飛んだ。 「おおおおおお‥‥!」 苦悶の声を上げる琴南王。しかし、開拓者たちを見据えると、口許に笑みが浮かんだ。 「わしをここまで追い詰めたのはいつ以来かの‥‥人間ども!」 琴南王は刀を振り上げると、それを一閃した。 次の瞬間大地に瘴気の波動が奔り、開拓者たちを吹き飛ばした。 「ぐ‥‥何‥‥!」 「‥‥まだかい‥‥!」 琴南王はゆっくり前進して来ると、刀を立て続けに振り下ろし、瘴気の波動を撃ち込んできた。 大打撃を受けて大地に転がる開拓者たち。 「終わりのない闇が、お前たちを待っているぞ。とこしえに逝かせてやろう」 「それは‥‥こっちの台詞や!」 星鈴は立ち上がり、焔、鬨、貴政たちは突進した。 「あんさんの筋書き通りにはいきません、うちらがここで終わらせる!」 「ぬう――!」 琴南王は刀を振り下ろしたが、それを星鈴と貴政が受け止め、焔と鬨が再度スキル全開の攻撃を撃ち込んだ。 「代償は必ず貰うと言ったはずだ!」 「アヤカシは最後には負けると決まってるのよ、しぶとい!」 カズラはもう一度黄泉より這い出る者を撃ち込んだ。 「これでも!」 コルリスも全身全霊を込めて矢を撃ち込んだ。 ザン! と琴南王の足と腕が吹き飛んだ。 「何い!?」 崩れ落ちる琴南王。 「終わりですよ琴南王」 「南雲殿の仇は討たせてもらう!」 琴南王は「くく‥‥」と笑声を漏らした。 「引き下がっておればいいものを‥‥わしが敗れれば、もはやあの方たちが動かざるを得んのだぞ‥‥」 「誰が来ようと返り討ちにして上げますよ」 貴政は大剣を振り上げた。 「やれ――」 琴南王は笑ったまま言った。 貴政は剣を振り下ろし、琴南王に止めを刺した。琴南王は、瘴気に還って消失した。 琴南王が撃破されたことを受けて、死人軍は壊走していく。 開拓者たちは、ここにまたアヤカシの首級を上げたのだった。 |