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■オープニング本文 天儀暦997年、天儀本島武天国、鳳華――。 鳳華の東部はことごとく魔の森に覆われて行く。数多の里が魔の森に飲み込まれ、民は西へ逃げた。そしてこの年、東を覆い尽くした魔の森から鳳華史上最大のアヤカシの攻撃が来た。後に在天奉閻を筆頭に鳳華の七魔将と呼ばれることになるアヤカシを首級とするその集団によって、里は蹂躙され、破壊され、多くの血が流れた。それでも鳳華の氏族たちは大氏正を筆頭に集結し、須賀尾ヶ原と天春日高原に最終防衛線を引き、アヤカシ軍との決戦に臨もうとしていた。だが、その前に鳳華軍の前線は崩壊しつつあった。 娘――西祥院静奈は、血を拭って辺りを見渡した。時間の感覚が失われつつある。雨が降っており、木々の向こうからアヤカシ達の咆哮が聞こえる。 「みんなしっかり。もうすぐ帰ることが出来るわ。アヤカシ達が過ぎ去ったら」 「静奈‥‥俺はもう駄目だ。歩けないんだ」 兵士の一人が、うめくように言った。 「諦めちゃ駄目よ」 と、雨の向こうから血まみれの若者――長山平五郎が姿を見せた。 「静奈、アヤカシ達は移動しつつある。だが、このままじゃ全員逃げ切れないだろう。誰かが囮にならないと」 「平五郎‥‥」 「おい! 権六! 動ける奴を四、五人ばかり集めて来い! みんなを逃がすぞ!」 「平五郎、何をするつもり」 「俺たちが囮になる。静奈、お前はみなをまとめて逃げろ」 「馬鹿なこと言わないで! 囮になるなんて‥‥そんなこと許さないわよ!」 「この戦いは必ず勝てる。俺たちには大氏正がいる。あのお方ならきっと鳳華を一つに結束させられる。アヤカシに勝つんだ」 「‥‥‥‥」 静奈は平五郎を見つめた。言葉が出ない。 「平五郎さん! 動ける仲間を集めてきました!」 権六がやってくる。 「よし行くぞ! アヤカシどもの度肝を抜いてやろう!」 「はい!」 「平五郎――」 静奈は平五郎の腕をつかんだ。平五郎は、口許に笑みを浮かべる。 「行け、静奈」 そうして、平五郎たちは森から出て行った。 「みんな! もうすぐここから出られるわよ! 合図と一緒に全力で走るのよ!」 「静奈‥‥俺は‥‥駄目だ」 と、そこで巨漢――山内剛が立ち上がった。 「それじゃあ仕方ねえ。お前は俺が担いで行ってやるよ」 「山内‥‥」 「泣きそうな顔するな。平五郎たちが足止めしてくれる」 そう言って、山内は傷ついた兵士を肩に担ぎ上げた。 ――と、森の向こうで怒号と咆哮が交錯し、やがて声は遠ざかって行く。 静奈は前を向いた。視界が開ける。 「みんな! 行くわよ! さあ全力で走って――!」 そうして、静奈を先頭に、兵士達は渾身の力で森から飛び出した。雨の中を、彼らは走った。振り返ることなく‥‥。 現在、天儀暦1011年――。 天儀本島武天国、龍安家の治める土地、鳳華、首都の天承城にて――。 落ち着いた雰囲気のある女性が室内で報告書に目を通している。彼女――筆頭家老の西祥院静奈は、報告書に目を通していた。 そこへ、初老の男――最高軍事顧問の山内剛と、壮年の男性――軍事顧問の一人である長山平五郎がやってくる。 「最近はアヤカシの手口も巧妙になったな。昔は攻撃と言えば奴らは大兵力を率いて魔の森から進発してきたものだが」 山内が言うと、長山は肩をすくめた。 「巧妙になった分、民の不安は増大しています。いつアヤカシに狙われるか知れませんからね」 「アヤカシは人間を食料としか見なしていない敵対勢力だ。世界は確かに危険だが、実は禍津夜那須羅王みたいな連中があちこちにいて、人界を侵食しているんだとしたら、私は今すぐにでも引退して余生は泰国ででも過ごしたいね。ここで仕事を続けるよりはましだろう。無限回廊だよ」 「泰国も最近じゃ安心出来ないでしょう。アル=カマルに冥越八禍衆の一体が出没するようなご時世ですからねえ」 二人のやり取りを聞いていた静奈は、報告書を机に置いた。 「それで、二人とも何があったの。泰国やアル=カマルに引っ越したいって言うなら、お屋形様に取り次ぐわけにはいかないわよ」 山内は笑って、「それはいい」と軽く手を振った。 「本題に入ろうか。禍津夜那須羅王の件だ」 「那須羅王がどうしたの」 「仁西の里へ攻撃を行おうとしている」 「それじゃ今度は南部の魔の森ね。攻撃はいつ始まるの」 「すでに警備隊が下級アヤカシの集団と交戦に入っている」 そこで、長山が口を開いた。 「那須羅王は里の東にある蓮高山に航空戦力を集めている。総数百体を越える死骸龍騎兵に、十体を越える亡幻骸を揃えている。東の空から里を制圧するつもりだろう。魔の森からの戦力は恐らく囮だ」 「亡幻骸ねえ‥‥あれは主に空から無差別攻撃を行うための先遣隊だったわね」 「ああ、だから最初の攻撃を防がないと、被害は拡大する」 「‥‥‥‥」 静奈は数瞬考えて、立ち上がった。 「行きましょうか」 西祥院は、山内と長山を伴ってすぐ隣の家長の龍安弘秀の執務室へ入って行く。 「失礼しますお屋形様」 弘秀は顔を上げると、 「勢揃いだな。また俺をよってたかっていじめようってのか」 と読んでいた文を置いた。 「お屋形様――」 「何があった」 山内が進み出る。 「仁西の里へ禍津夜那須羅王が攻撃を開始しようとしています」 「那須羅王は龍安家に恨みは無いんだろう。何だって今になって我々を攻撃するんだ」 「蓮高山に百以上の死骸龍騎兵部隊と、亡幻骸が十体以上展開しています」 「亡幻骸? 聞いたことが無いぞ」 「飛行能力を持った死人アヤカシです。十メートル級の空飛ぶ肉塊で、あちこちに付いた口から瘴気を吐き出し対地攻撃を行います。前線で無差別攻撃に使用されるアヤカシで、放置すると広範囲に被害をもたらします」 「‥‥‥‥」 弘秀は唸るように吐息して、静奈を見やる。 「対応できるんだろうな」 「亡幻骸はあくまで下級アヤカシです。生命力と食欲は相当なものですが、動きは単純です」 「だが龍騎兵と連携されたら厄介だろう。それくらい分かる。那須羅王は間抜けじゃない」 と、そこへ上級顧問の芦屋馨(iz0207)が入って来る。 「弘秀様――」 「これは芦屋殿。たった今情報が入ったところです。仁西の里へ那須羅王が攻撃態勢を整えているようです」 「今知らせが入りました。死骸龍に騎乗した死人武将らが里の南部に出現し、警備隊のサムライ三人を捕縛、蓮高山へ連れ去ったとのことです」 弘秀たちはまじまじと芦屋を見やる。芦屋は、言葉を続けた。 「三人のうち一人は、里長の御子息で警備隊長、香川和政殿です――」 「何てこった‥‥悪夢だな」 弘秀は言葉を失った。 「救出部隊の手配が必要ですな」 山内は言うと、長山を見やる。 「里長と話します」 長山は急ぎ足で退室した。 「お屋形様、みな別室で待機しています」 「分かった‥‥行こう」 弘秀は立ち上がると、歩き出した。 |
■参加者一覧
華御院 鬨(ia0351)
22歳・男・志
焔 龍牙(ia0904)
25歳・男・サ
谷 松之助(ia7271)
10歳・男・志
コルリス・フェネストラ(ia9657)
19歳・女・弓
ジークリンデ(ib0258)
20歳・女・魔
長谷部 円秀 (ib4529)
24歳・男・泰 |
■リプレイ本文 開拓者たちは里入りした。里内は騒然としていて、混乱していた。里長が退いた今、指示を出しているのは家老達だったが、誰一人としてこの混乱を収めることは出来ず、里はまとめ役を欠いていた。開拓者たちは家老達のもとへ通されたが、彼らは狼狽していた。 「大変なことになった‥‥人質を取られて、里長は指揮から退かれた」 「御子息が人質では、無理もないことだが‥‥」 「だが、混乱は里全体へと広がっている。それも、我々の指揮が行き届かないためだが‥‥禍津夜那須羅王が来ると言うではないか。一体どうすれば‥‥」 華御院 鬨(ia0351)は見渡して、思案顔で吐息した。 「やはり、人質を取られると士気が下がるあるどす」 と士気上げる方法を考える。 「里の安全に関しては、軍に全てお任せ下さい。みなさんは里内の動揺を少しでも押さえて下さい。アヤカシに付け入る隙を与えることになりますよ」 焔 龍牙(ia0904)は言って、赤い瞳で家老達を見やる。 「里長は何処においでか」 谷 松之助(ia7271)の問いに、家老の一人が彼を案内する。 「こちらです」 松之助は、室内に通された。室内には、里長と奥方がいた。 「里長、開拓者の谷松之助と申します」 「ああ‥‥開拓者か。助けに来てくれたのだな」 「何と申せばよいか、御子息のことは――」 「里が混乱しているのは承知している。だが‥‥私には和政が八つ裂きにされようとしている中で指揮を取るのは無理だった。報告を受けていてもみんなの声が聞こえないんだよ。情けない里長と思われても仕方ない」 「和政殿は無事でしょう。必ずお救いしますので」 「禍津夜那須羅王は巧みだな。こうなることを見越していたのだろう。私も分かっている。息子が生きて戻る保証はどこにもない」 「‥‥‥‥」 松之助は言葉が出なかったが、目の前の里長は冷静に見えた。 「では、我々は参りますので」 「よろしく頼む」 「お願いします」 里長と奥方は深々とお辞儀した。 「松之助さん――里長殿はどうでしたか」 コルリス・フェネストラ(ia9657)の言葉に、松之助は吐息した。 「意外に落ち着いておられたが、内心は穏やかではないのでしょう。悲しんでおられます」 「そうですか‥‥」 「何としても人質をお救いしませんと。里全体の士気に関わります」 ジークリンデ(ib0258)の蒼氷色の瞳が憂いを帯びる。コルリスは、その氷の瞳に悲しみの色を見た。 「まあひとまず内政に関しては家老のみなさんにお任せするとして、私たちはアヤカシの撃破に努めましょう。軍は到着しているのですよね?」 長谷部 円秀(ib4529)の言葉に、ジークリンデとコルリスは顔を見合わせた。 「では行きましょうか。龍安軍は精強ですからね。彼らは簡単には折れないでしょう」 開拓者たちは龍安軍の本陣を訪れた。 ――本陣は里の中心から外れたところに設けられていた。兵士たちが整然と隊列を組んで警戒態勢を取っており、サムライ大将たちは軍議を始めようとしていた。 「こんにちはみなさん」 「おおコルリスか。久しぶりだな。開拓者たちだな。丁度今から軍議を始めるところだ。入ってくれ」 開拓者たちはサムライ大将たちの列に加わる。 「東の蓮高山に敵航空戦力。南の荒地に屍人の大軍。予断を許さない状況だ。皆の意見を聞かせてくれ」 場を取りまとめる壮年のサムライ大将が言うと、コルリスが口を開いた。 「あくまで一案ですが」 と前置きし作戦案を奏上する。 「開拓者全員とサムライの大半は龍に騎乗し蓮高山へ攻撃に出ます。敵航空戦力殲滅及び禍津夜那須羅王の食い止めが最優先となります―― 空戦では味方龍騎兵は二人一組となり一方が敵を格闘戦に引き込み、その隙にもう片方が敵を横撃する『機織り』戦法を実施します。ただし無理に実施せず状況に応じ戦法を変化させ敵を殲滅します」 「サムライを投入すべきか――」 一同を見渡す壮年のサムライ大将。 「やはりそうなるでしょうな。そのためにサムライが投入されたようなものですからな」 「ああ、その意見には賛成だ。禍津夜那須羅王を押さえるにはそれしかない」 「然り――」 「よし、コルリス、続けてくれ」 コルリスは頷き、口を開いた。 「仁西の里では衡軛陣で防戦を。それから砲術士は里の各砦に籠り支援射撃を行います。敵航空戦力殲滅後は開拓者の一部が禍津夜那須羅王の食い止めに回り、残りは攫われた香川和政様らの救出や仁西の里救援に向かい、各地の敵を撃破し撤退に持ち込みます」 「よし、どうだ――」 すると、ジークリンデが手を上げた。 「鳳華は久しぶりになりますね。微力ではありますがお力添えさせて頂きましょう」 それからジークリンデは言った。 「私も龍騎乗で龍安家の方々と共に航空戦を挑みますが――。サムライ数名に咆哮を使った誘引を行って頂き、術士と射手を左右に展開、私の魔法と陰陽師、砲術士、弓術士の十字砲火による火線の集中で敵を速やかに葬っていく作戦を提案いたします。巫女の方にも龍に乗って頂き後方支援をお願いし、負傷兵の回復と敵の咆哮により陣形が乱されることのないよう、即座に解術の法で状態の回復を指示いたします」 「なるほどな‥‥戦術的には問題はないがな。お前さんの魔術があれば心強い。ジークリンデ・フランメ・ケリン。ただ、言葉が足りなかったようですまないが、龍を持っているのは龍安軍の正規兵であるサムライだけなんだ。他のクラスはほとんど傭兵でな」 「あ‥‥そうなんですか」 「ああ。だが十字砲火に敵を捕えるのは良いんじゃないかな」 サムライ大将は場を見渡す。 「他に――」 「うちも蓮高山のアヤカシ航空戦力をまず叩き戦力を削ぐことには賛成ある。那須羅王の進行を足止めしませんとな。人質はシノビ達に探してもらって、余裕があったらうちらで対応すると言う感じで良いと思うある」 鬨が言うと、 「那須羅王に一太刀浴びせてみせる!」 焔は拳を持ち上げた。 「蓮高山の航空戦力の殲滅と、人質の救出、那須羅王の撃退――今回もよろしくお願いします! 航空戦力を叩いておかないと、のちのち厄介な存在になりそうですね! 今のうちに叩いておきますか!」 「そうだな。ここで可能な限り撃墜しておくに越したことはないだろう」 「空を飛ぶ屍と剣の達人たるアヤカシか。厄介な‥‥剣の達人たるアヤカシに敵うとは思わん。だが、開拓者の一人として微力ながらも役立ちたいのだ」 松之助は短く言って、里長の顔を思い出した。 「敵が誰であろうと、いくら強かろうと戦うからには勝ちにいきましょう。そこに存在する以上、斬れない訳はないのですからね」 長谷部は言って、思案顔で顎をつまんだ。 「救出成功の為に敵主力の足止めが必要になるでしょう。可能であれば、王に対して一太刀でも手傷を負わせたいですね。倒すという意思表示みたいなものですが」 それから、サムライ大将たちからもコルリス案を支持する声が出て、作戦はまとまった。 「よし、それじゃサムライの大半で蓮高山を押さえる。里では衡軛陣で防御。那須羅王を撃退に追い込み、南部の屍人を叩く。いいか。攻勢に出るぞ」 「おお!」 サムライ大将たちは立ち上がった。 出立前にコルリスは里の大将達に向けシノビを介し伝言を託す。 「南方面の砦の櫓と複数色の旗を使い、戦況が互いにわかる様ご協力をお願いします。各櫓では黒、黄、赤、青の4色の旗の用意を。各色の意味は黒が戦況報告求む。黄が交戦中。赤が苦戦中。青が敵撃破です。各隊大将の指示に従い各隊間の情報伝達をお願いします」 「承知しました」 「よろしくお願いします」 「よし行くぞ! 那須羅王を後退させる!」 焔は兵士達を鼓舞した。歓声が上がる。 ――鬨は里へ向かって歩き出すと、里の兵士達に声を掛けた。彼らを激励する。武装していない女性の格好で気丈な京女を演じながら――。 「戦うんは指揮者やなくて、あんさん達どす。男ならあんさん達で何とかするぐらいの気できばりんさい。蓮高山はうちらで何とかするあるどす」 と蓮高山へ向かう前に里の兵を叱咤して士気を上げる。 里の兵士たちは驚いたように、演説を打つ鬨を見つめた。と、兵士たちの大将が進み出て来て、鬨に言った。 「分かった。里のことは任せろ。そうだよな。俺たちがやらなきゃ駄目だよな――みんな! 聞いたか! 里を守るのは俺たちの役目だ! 屍人くらいで挫けてたまるか! 里長は立派な人だよ! 自分から身を引かれたんだ! 俺たちで里長の勇気に応えよう! 忠義を見せろ!」 「おおー!」 兵士たちから歓呼の声が上がる。 鬨は吐息して兵士たちの前から立ち去った。 「行くあるよ!」 鬨は飛び立ち、蓮高山へ突進する。 「側面から回り込みますよ! 一隊! 続け!」 長谷部は山の南から回り込んでいく。 「行くぞ!」 「我に続け!」 焔に松之助も加速する。 「みなさん確実にアヤカシを撃破することを優先に! 機織り戦術で行きましょう!」 コルリスは腕を振り上げた。 「では、サムライの方は咆哮をお願いしますね。砲術士と弓術士、陰陽師のみなさんは左右に展開して舞い降りて来たアヤカシを十字砲火に捕えて下さい」 ジークリンデはゆっくりと舞い上がる。 ――と、蓮高山からおぞましい咆哮が沸き起こる。アヤカシ軍がばらばらと飛び立って来る。 「ふむ、予想通りだな。空から来たか。いいだろう――」 禍津夜那須羅王は自身も龍で飛び立つと、亡幻骸に進撃を命じる。 巨大な肉塊アヤカシが瘴気を吐き出しながら動き出す。――亡幻骸。 それから那須羅王は部下達に命じると、アヤカシ達は二体で一組みになって動き出す。 「ん‥‥?」 鬨はその動きに気付いた。鳥銃を構えると一撃叩き込んだ。銃弾が貫通して、アヤカシは吹っ飛んだ。その側面から別の一体が突進して来る。鬨は短針剣に持ち替えて受け止める。 「ぬ――!」 焔と松之助、コルリスらもアヤカシたちの統制された動きに虚を突かれる。 機織り戦術を行うつもりが、アヤカシ達も二体で一組みで連携して攻撃してきたのだ。 龍安軍とアヤカシ軍は上空で交錯して互いに牽制しながら空戦に移行する。 「咆哮を――!」 ジークリンデは部隊と連携しつつ、アヤカシを引き付ける。 サムライたちが咆哮で引き寄せると、地上からの十字砲火でアヤカシを粉砕していく。 ジークリンデの手から驚異の火炎弾が解き放たれる――メテオストライクの凄まじい爆炎がアヤカシを薙ぎ払う。 「やりますね‥‥こちらと同じ戦術を」 長谷部は言いつつ、アヤカシ指揮官と打ち合う。紅焔桜を叩き込む。アヤカシ指揮官は刀を振り回して咆哮して距離を保ち、旋回する。 「あれを行かせるな――!」 焔は加速する亡幻骸に突進した。 口々から瘴気弾を吐き出す亡幻骸。すれ違いざまに、焔はその巨体を切り裂く。真っ二つになって消滅する巨大なアヤカシ。 「これでは切りがない。どうにかしないと」 松之助は飛び交いながら、アヤカシ龍騎兵と交戦する。 戦況は一進一退。お互いに二騎一体戦術を使い、戦闘は膠着していた。 個々の戦闘力で勝る龍安軍はじわりとアヤカシ軍を削って行くが、それでも状況は進まない。 「裂!」 コルリスは安息流騎射術+響鳴弓の合成技でアヤカシを撃ち落としていくが、今回はやや驚かされた。まさかアヤカシが二騎一体戦術を用いて来るとは想定していなかった。 「さすがは那須羅王ですか‥‥巧みな」 だが、ジークリンデが築いた十字砲火は確実にアヤカシを撃破していく。彼女の火力は単独で戦況を打開できるほど凄まじかった。 「負けるわけにはいきません」 「サムライ衆! 咆哮を使って下さい! アヤカシ軍の戦列を崩すにはそれしかない!」 長谷部は言って、サムライたちを促す。 「心得た!」 サムライ達は次々と咆哮を解き放つ。 やがて、その影響を受けたアヤカシ龍騎兵たちがばらけていく。 「よし! 統制を崩せばこちらのもの! 波状攻撃で各個撃破していきますよ!」 長谷部は友軍を鼓舞して、突撃した。 ようやく、戦闘の手綱を握った龍安軍は、アヤカシ龍騎兵を各個に撃破していく。 と、長谷部のもとへ、黒い龍騎兵が殺到して来た。――禍津夜那須羅王である。 「ぬ――!」 一撃、長谷部は弾いた。 「きみが禍津夜那須羅王か、会いたかったですよ」 「開拓者か。しぶとい奴らだ。だがまあ、これまでの実力を見れば当然か。緑茂では炎羅を倒したほどだし、今は瘴海を相手に回しているのだからな」 「褒め言葉ですか」 「私が本気で言ってると思うか? ふふ‥‥」 那須羅王は長刀を一閃して長谷部を吹き飛ばした。 と、その那須羅王を鬨の鳥銃が撃ち抜いた。 「ようやくご登場どすな」 那須羅王は加速すると切り掛かって来る。鬨は受け止めた。 「お強いのに人質とか色々と考えているあるどすなぁ。そないに心配性あるどすか。男気ないあるどすなぁ」 「心配なのはそっちだろう。人質がどうなったか、知りたくはないのか」 「こっちも挑発には乗らないある」 鬨はスキル全開の一撃を撃ち込む。 「貴様の相手を俺達だ! この前の様にはいかないぞ」 焔は突撃した。一撃、二撃と弾かれる。 「やはり一筋縄ではいかないな!」 「実力を見せてみろ開拓者」 「これで、どうだ!」 太刀「阿修羅」で白梅香と秋水の連続攻撃で切り札――。 「焔龍、梅紅秋翠!」 刀身が貫通する――! 直後――反撃に出た那須羅王の刀身が闇緑色の光に包まれると、その一撃を繰り出した。凄絶な一撃が来て、焔は龍ごと切り裂かれた。墜落する焔と蒼隼。 「やらせぬ!」 松之助は加速して打ち掛かって行く。那須羅王と十合打ち合い、離脱。 「裂!」 コルリスは立て続けに矢を叩き込み、ジークリンデは魔術を叩き込んだ。 「アイシスケイラル!」 凄絶な氷の刃が那須羅王の肉体で炸裂する。那須羅王は僅かにのけ反った。 長谷部は紅焔桜の虎徹、白梅香アゾットを織り混ぜつつ攻撃。 「私はしつこいですよ? 一度噛みついたら離れませんからね」 「いいだろう。感情を私にぶつけろ」 「私は勝つまで戦うのを止めません‥‥我慢比べですよ」 長谷部と那須羅王は激しく打ち合う。 そこへコルリスとジークリンデの攻撃が炸裂する。 「魔術師が‥‥邪魔だな」 と、那須羅王は長谷部に向き合うと、高速で長刀を連続で打ち込んできた。 一撃ごとに長谷部は押し返され、最後には龍ごと切り裂かれて叩き落とされた。また墜落していく長谷部と韋駄天。 禍津夜那須羅王は周囲を見渡す。部下達は多くが討ち取られている。 「だが実りのある戦いだったな」 そう言うと、那須羅王は手の平に瘴気の塊を集め、その感触を確かめた。そうして、禍津夜那須羅王は後退する。 その後、屍人を撃退した龍安軍のもとへ、香川和政が生還して、里に歓声が湧き上がったのだった。 |