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■オープニング本文 天儀本島理穴国、魔の森との境界線――。 砦の警備隊長――守山美香は望遠鏡を下ろした。遠くに見える黒い森と青い空の境界には、小動物のようなアヤカシが飛び回っている。森からは人外の咆哮が聞こえて来る。二年前に比べると魔の森は幾分縮小したが、それでも今なお理穴の東部は巨大な魔の森に覆われている。その全貌は不明であり、他に強力なアヤカシが入り込んでいるのではないかと言う噂も出回っている。 「隊長――」 龍で定期哨戒に出ていた兵士が戻って来る。 「森の奥でアヤカシの集団が蠢いています。ぼろぼろの巨人兵とアヤカシ戦士です。恐らく死人アヤカシでしょうが‥‥」 「出てきそうか」 「ゆっくりとですが、森を出ようとしています」 「そうか。周辺に警戒態勢を取るように伝えろ」 「はい――」 兵士はもう一度龍に乗ると、砦を飛び立った。 美香は砦に戦闘態勢を取るように命じると、森の方角にまた望遠鏡を向けた――。 ‥‥数日後。 「おーい! 砦がやられたらしいぞ!」 村人たちの間にざわめきが走る。 「アヤカシがここまで来るかも知れん! 逃げた方がいいぞ! とにかく! 理穴の警備隊と開拓者が駆け付けるまで、避難した方がいい!」 近隣の村々は一様に騒然となり、人々は慌てて西の避難地域に向かって移動を開始する。 それから、理穴の正規軍が砦の西に到着して、壊滅したと言う砦に偵察を送る。やがて、その全貌が明らかになって来る。生き残った兵士の証言によると、アヤカシの集団が押し寄せると同時に嵐のような衝撃が来て砦を破壊していったと言われていた。 「そいつは禍津夜那須羅王だな‥‥噂の上級アヤカシだな」 正規軍の隊長石川友則は、偵察で明らかになった情報からアヤカシの総大将が禍津夜那須羅王であると確信する。 「石川様、警備隊の兵士達ですが、まだ生きています。守山殿始め、兵士十数名が捕縛されています」 「守山‥‥が生きているのか」 石川は驚いたように部下を見やる。部下達は知らないが、石川と美香は友人以上の付き合いだった。 「それじゃあ、人質も何とかして救出しないとな。禍津夜那須羅王に利用されたらお終いだ。手遅れになる前に何とかして救出部隊を手配しないと」 「その気持ちは分かるが、まずは禍津夜那須羅王を押さえることを考えた方がいいぜ。奴が動き出したら人質の救出作戦に時間を掛けている余裕はないぜ」 そう言ったのは、開拓者たちとともに到着したばかりのギルド相談役橘鉄州斎(iz0008)であった。 「何だと? 人質を見殺しにしろと言うのか!」 石川は橘の胸倉を掴んで睨みつけた。 「落ち着けよ司令官。そうかっかすることはないだろう。那須羅王に足元をすくわれるぜ」 石川は橘の言葉に爆発しそうになったが、どうにか感情を押さえた。手を離すと、頭を抱えて吐息した。 「人質は俺に任せとけ。部下を数人借りて行くぜ。あんたは那須羅王に集中しろ。開拓者たちも力になる」 橘の言葉に、石川は振り返った。 「‥‥‥‥」 「何だよ。俺が信用できないのか?」 石川は首を振ると、吐息して手を振った。 「分かった。人質を頼む。必ず助けてくれ。頼むぞギルド相談役」 「あんたこそしっかり指揮してくれよ。アヤカシを押さえてくれないと、それがまず最優先だし、あんたの役目だろう。増援を頼んでいる時間は無いんだからな」 「分かった。うるさく言うな」 石川は橘の言葉に苛立たしげに手を振ると、戦闘態勢にある部隊の方へ歩き出した。 橘は肩をすくめると、開拓者たちを顧みた。 「そう言うわけだ。お前さん達はアヤカシの方を頼むぜ」 そう言った時、上空の黒い雲から雷鳴が鳴り響き、雨がしとしとと降り始めた――。 |
■参加者一覧
井伊 貴政(ia0213)
22歳・男・サ
華御院 鬨(ia0351)
22歳・男・志
葛切 カズラ(ia0725)
26歳・女・陰
コルリス・フェネストラ(ia9657)
19歳・女・弓
黒木 桜(ib6086)
15歳・女・巫
羽紫 稚空(ib6914)
18歳・男・志 |
■リプレイ本文 ●作戦会議 雨が降り始めていた――。 コルリス・フェネストラ(ia9657)がみなを、兵士達を見渡す。石川や橘も聞いている。 「まずは敵の情勢を伺いましょうか」 コルリスの問いに、石川は兵士達を見渡し、吐息した。 「あれから動きは無いな。今のところ砦を制圧し、禍津夜那須羅王は止まっている。あるいは、こちらの動きを見ているのかも知れんが、だとしてもこちらから奴らを潰さないと。ここから後ろは村が広がっている」 「そうですか――ではあくまで一案ですが」 と前置きし作戦案を提示するが判断は仲間達や石川友則らに委ねる。 「まずは魚鱗陣を組み、禍津夜那須羅王のいる砦跡に向かうまでの間に弓術師等遠距離攻撃のできる味方は射撃で激突前に敵の数を減らすこと。そらから、禍津夜那須羅王へは開拓者全員が攻撃。残りの敵は味方部隊が迎撃します。ですが、恐らく禍津夜那須羅王は私達が一点集中を狙うと想定し西部隊で私達を食い止める間に、北と南部隊を迂回西進させ、私達を両翼包囲し殲滅する動きに出ると思われますので、禍津夜那須羅王との戦闘前後で味方部隊は近遠距離攻撃を駆使し、襲来する敵北、南部隊の片方を集中攻撃し、片方を殲滅、もう片方は食い止め、敵の両翼包囲を挫きます。最後に、味方が敵殲滅、食い止めを実施する間に禍津夜那須羅王へ開拓者達が集中攻撃し撃退します。私から提案する戦術的な流れは以上ですが、いかがでしょうか」 「そうだな‥‥」 石川は思案顔で数瞬考えた。 と、井伊 貴政(ia0213)が口を開いた。 「この前は那須羅王を仕留め損なったのでね。今回こそは、という感じかな。まぁ勿論、アヤカシさん達に好き勝手をされちゃ困るし」 貴政は思案顔で頷いた。 「今回も僕は例によって前衛要員かな。先の大規模戦で負った傷も癒えて多少の無理は利くと思いますから、全体指針に基づいてばんばん戦いましょう。そうすれば人質救出部隊への注意も逸らせるかも知れませんしね。コルリスさんの作戦通り、いつものごとく先頭に立って、向かってくるアヤカシを倒しながら、那須羅王へと向かっていきます。周りとの共闘で数の有利を作りながら戦い、出来る限り損失を防いで行きたいですね」 貴政は言って肩をすくめる。 「まあ対那須羅王でも基本的な戦い方は変わりませんが、出来るだけ逃がさないように、機を見て畳み掛けたいですところですが、果たしてどうでしょうか? あのアヤカシはとんでもないですからね。万が一、こちら側のダメージが大きくなった場合は、戦略的撤退も考えないといけないかなぁ。ま、そんな時も殿は務めますけどね」 続いて口を開いたのは歌舞伎役者の華御院 鬨(ia0351)。女形をしていて、常に修行のために女装し、そこいらの女性よりも女性らしい雰囲気を醸し出している。今回は京美人の女装をしていた。 「こちらが、砦の攻略をせいへんとは、いつもとは立場が逆どすなぁ」 とおっとりと感想を云う。 「うちの案としては、コルリスはんが言わはる通り、上級アヤカシ一人と禍津夜那須羅王の相手を開拓者でして、味方軍は囲まれへん様に一点集中で、どちらか一方に攻撃する様にするのがええと思いやす。従って、どちらかアヤカシが南北少数の翼へ集中攻撃を行い、こちらから禍津夜那須羅王を半包囲体勢に持ち込めれば上出来かと思いやすが」 鬨は言って、仲間たちに落ち着いた視線を向ける。 妖艶なる陰陽師、葛切 カズラ(ia0725)はしなやかな指で顎をつまんだ。 「陽動で済ませる精神だと意図を見破られた挙句、逆に潰されかねないので、ガチで殲滅するつもりでいかないとね」 カズラの艶やかな声が流れる。 「流れはコルリスさんの案で良いんじゃないかしら。先ずは一極集中で北か南を叩きに行き、西やもう片方の戦力が攻め込んで来たら包囲されない様に分かれて展開して応対って感じで。私たちは禍津夜那須羅王狙いの方で動くってことで」 カズラは言って、橘を見やる。 「人質の方はよろしくお願いね。禍津夜那須羅王の策略だとしたら何か待ち受けているかも」 「ああ任せとけよ。こっちも百戦錬磨だ。上級アヤカシの裏をかいてやるさ。それに、美人が捕まっているかと思うとやる気が出て来るね」 「あらそうなの? もてもての相談役がそんなこと言ってると、嫉妬する女性達に呪い殺されるんじゃない?」 「ああ、それなら本望だよ。もてもての相談役ならねえ」 「調子に乗り過ぎでしょ」 カズラが冷ややかに言うと、橘は肩をすくめた。 「私の力が、何処までお役に立てるか解りませんが、全力で支援いたします」 黒木 桜(ib6086)は言って、きりりと表情を引き締める。実は雷が苦手だが、今は戦闘の緊迫感でそんなことは忘れていた。 「気を引き締めて参りましょう。戦闘後の闘いで傷をおられた方がいたら、スキルなど使い手当も行いますから。後方支援は任せて下さい。天候も、地が滑りやすくなっていることでしょうから、注意を呼びかけながら闘う必要もありそうですね。――雷になんて負けていられません!」 桜は空を見上げる。 「禍津夜那須羅王は強敵ですが、頑張りましょうね稚空」 桜の恋人である羽紫 稚空(ib6914)は、にかっと笑みを浮かべる。 「どんな状況だろうが、桜は俺が守ってみせるぜ! そして、勝つ!」 稚空は熱く拳を掲げた。 「作戦はフェネストラの案で行こう。俺ら開拓者は全員禍津夜那須羅王のみを攻撃し、残りは味方部隊に任せる。ケリがつき次第、他のアヤカシの相手もするか――」 稚空は言って、桜の肩に手を置いた。 「とは言えだ――さてな、今回はかなり無謀な気もするが、来ちまったもんは仕方ねぇしな。やるだけ、やってみるしかねぇよな。桜との連携、上手く行けばいいんだけどな‥‥。メインが片付いたら、残っているアヤカシも同じ足止め作戦を使って動き鈍らせて攻撃‥‥が、無難かねえ。つーわけで、囮は任せろ!」 危険な位置は俺の役目。桜に怪我させないことが最優先だが、絶対に勝つ! そして、強くなってもっと彼女をしっかり守れるようにするんだ――! 稚空は胸の内に呟き、桜の目を見て頷いた。桜も頷いて、稚空の手を取って笑みを浮かべた。 それから石川は頷き、吐息して眉間を押さえた。 「そうだな‥‥流れは悪くないと思う。禍津夜那須羅王に開拓者で集中攻撃を掛けると言うのは、実際それしかないと思う。軍は補助に回ろう。実際気になるのは、禍津夜那須羅王の攻撃をどこまで抑えきれるかだな。聞くところによると、刀の衝撃波で天守閣を切ったとか言われているし‥‥どうなんだ?」 「確かに尋常じゃない」 橘は言った。 「奴は恐らく物理系の攻撃が中心だろうが、その破壊力は凄まじい。目で見たから分かる。恐らく砦を破壊したのは奴だろう」 「そうか、そんな奴に守山が‥‥」 「何だって?」 「いや、何でもない。橘、開拓者たち、よろしく頼む。ではコルリスの案で行こう」 「ありがとうございます」 コルリスは軽くお辞儀すると、味方兵達に挨拶の後、作戦内容を簡単に説明して回る。 それから、開拓者たちは攻撃に出るのだった。 ●戦闘開始 理穴軍と開拓者たちは、魚鱗陣でアヤカシの西部隊に加速していく。コルリスの読みは当たった。やがて、接近するにつれて、アヤカシたちが北と南から前進して来るのが確認される。 「迎撃用意! 弓部隊、攻撃開始!」 弓術士たちが目にも止まらぬ速さでアヤカシの戦列を打ち砕いて行く。ばたばたと倒れて行くアヤカシ達。それでも、南北から挟撃を仕掛けると同時に、禍津夜那須羅王も前進して来る。 「よし、ここから南北の翼は任せろ! お前たちの幸運を祈っている!」 石川は言って、北のアヤカシ軍に兵を率いて突進していった。 「我々は南へ向かう! 行くぞ!」 残りの兵士達は南へ向かう。 「行きますよ!」 コルリスは矢をつがえると、突進して来るアヤカシ兵に一撃撃ち込んだ。矢が貫通して、アヤカシを粉々にした。 「行くわよ――! 出でよ氷龍!」 カズラが式を召喚すると、巨大な白銀の龍が出現して、口から凍てつくドラゴンブレスを吐き出した。直線20メートルを薙ぎ払うブレスが、アヤカシの戦列を貫通する。アヤカシ兵は苦悶の咆哮を上げて消滅する。 貴政は加速すると、裂帛の気合とともにアヤカシを切り捨てた。 「ふう‥‥やりますねカズラさん」 鬨は、黒夜布「レイラ」を纏うように翻すと、その刃と化した布で舞うようにアヤカシを切り刻んでいく。美しい、舞うようにレイラを操り、鬨はアヤカシを切り裂いた。 「稚空、行きますよ――! 神楽舞『速』!」 桜の舞で加速する稚空。巫女の舞が力を与える。 「うおおおおおお、行くぜ――!」 稚空は切り掛かった。一撃、二撃と切り結び、アヤカシ兵士の腕を切り飛ばす。続く攻撃でアヤカシ兵士を斬り伏せる。 「桜――!」 稚空は軽く手を振って見せると、前を向いた。 「稚空、気を付けて! 禍津夜那須羅王が来ます!」 「ん――?」 悠然と、緑光の瘴気をまとい、黒装束に身を包んだ美貌の青年の姿をした禍津夜那須羅王が歩いて来る。 「成程、開拓者か――瘴海を倒したようだな。理穴はお前たちを呼んだか。尤もな選択だが‥‥」 「おまえはんも、毎回、色々とイベントを考えはんなぁ。もう、そろそろ幕を引いてもええんやないか」 鬨は注意を逸らすように言って、レイラを構えつつ間合いを測る。 「華御院鬨か。ふふ‥‥まだまだこれからだよ。私たちはお前が生を受ける遥か昔から世界を作って来た」 「そうですか。それは興味深いですね。御講釈を賜りましょうか」 「井伊貴政、そうしてやってもいいが、そうすると天地がひっくり返るだろう」 「随分余裕なことね。あなたたちは相次ぐ敗北で、天儀から魔の森は後退しつつあるわ」 「それは違うな葛切カズラ。確かに大アヤカシが二体倒されたが、それは我々の活動に何ら支障をきたすものではない」 「あなたは所詮不厳王(iz0156)の使い走りでしょう。結局のところ、最前線に送り込まれたわけですからね。不厳王に動きがあるのですか」 「コルリス・フェネストラ、不厳王様の秘密には、近づかぬが吉だぞ。あの方の思惑はお前たちの想像を越えている」 「そうやってこちらの不穏を煽るのがアヤカシの常套手段だろう。その手には掛からないぜ!」 黒羽が言うと、禍津夜那須羅王は長刀を一閃した。 「お前たちは淡く脆い光だ。蝋燭の炎のように、不安定で、大きな風が吹けばその光は消え去る」 「言ってやがれっての――桜! 気を付けろよ!」 「稚空! みなさん! 支援します!」 開拓者たちは散開した。 「これでも食らえ! 桜!」 黒羽と桜はありったけの岩清水を禍津夜那須羅王に投げつけた。そこへ桜が氷霊結を解き放つ。 「氷よ、彼の者を捕らえる鎖となれ! 氷霊結!」 禍津夜那須羅王が足を出したところへ、氷が張りつく。 「今だ!」 稚空は加速した。貴政、鬨も加速する。コルリスが「砕!」とスキル全開で矢を解き放ち、カズラが蛇神を連射する。 桜は神楽舞を舞い続ける。扇子で舞をし、髪を揺らしながら可憐に舞う。 「お遊びはよせ」 だが、禍津夜那須羅王は氷を踏み潰すと、加速した。卓越した刀さばきで、鬨と稚空、貴政の連続攻撃を弾いていく。 コルリスの矢とカズラの式が貫通するも、禍津夜那須羅王の動きは衰えることなく神速の早業を繰り出して来る。 鬨と貴政、稚空の攻撃をほぼ同時に弾き返すと、稚空に突進する。 「――にっ!」 禍津夜那須羅王の高速の一撃が飛んで来る。稚空は受け止めたが、全身がばらばらになりそうな衝撃を受けて吹っ飛んだ。 「稚空!」 「にゃろう‥‥! さすが‥‥半端じゃねえよ。桜! 援護してくれ!」 「はい!」 稚空は立ち上がると、突進した。 「さすがどすな那須羅王。冗談で戦っているわけではないようどすな」 「どうかな鬨。私が本気で戦っていると思うか」 禍津夜那須羅王は鬨と激しく打ち合う。鬨はなめらかな舞でレイラで那須羅王の一撃を弾き返す。 「本気じゃないなら、本気にさせてあげますよ〜」 貴政は柳生新陰流の奥義、柳生無明剣を解き放った。空を切り裂くオーガスレイヤー。禍津夜那須羅王はその凄絶な一撃を受け止めた。 もの凄い衝撃で、禍津夜那須羅王はわずかに後退した。 「今です! カズラさん! 集中攻撃ですよ!」 コルリスはサイドに回り込んでいくと、カズラとともに遠距離からの攻撃を浴びせる。 「砕!」 鷲の目+響鳴弓の合成射撃技。 「出でよ蛇神! 律令の如く万物を撃ち貫け!」 カズラは蛇神を連射する。アレが蛇のように伸びて突進する。 コルリスの矢とカズラの蛇神は凄絶に禍津夜那須羅王を貫通した。知覚攻撃はやはり有効なようだ。 「ちっ‥‥陰陽師か」 禍津夜那須羅王は手を振り上げると、瘴気の散弾を放った。爆発――。 直撃がカズラとコルリス、桜を襲う。三人とも地面に叩きつけられた。 「桜! くそ!」 稚空は裂帛の気合とともに切り掛かった。 「あんさんも意外に小物どすな。それでも上級アヤカシどすか」 「そうですよ。上級アヤカシなら、堂々と僕たちを打ちのめしたらどうですか」 鬨と貴政もスキル全開で猛攻を掛ける。 「ちい‥‥!」 禍津夜那須羅王は牙をむき出しにして、三人の刀身を弾き返した。 直後――。 凄まじい衝撃が来た。禍津夜那須羅王の長刀が地面を切り裂き、三人をまとめて吹き飛ばした。 貴政と鬨、稚空は切り裂かれて地面に転がった。 「ちょっと、怒らせてしまいましたかね‥‥」 貴政は、頭から流れる血を拭った。 「聖なる癒しの光――愛束花!」 桜が懸命に回復術を掛ける。巫女のスキルが、三人のダメージを回復させていく。 禍津夜那須羅王の体から、緑光の瘴気が立ち上る。那須羅王は、長刀を振り上げると、ゆっくりとそれを下ろした。 「こういう時に、気の利いた台詞でも思いつけばいいのだがな。だが、アヤカシが面白いことを言っても楽しくもあるまい」 禍津夜那須羅王はそう言うと、戦場を見渡す。南北の部下達はほとんど壊滅状態である。 「ふん‥‥まあいい」 禍津夜那須羅王は腕の中に瘴気の渦を集めると、それを吸収して後退した。 「ふう‥‥」 稚空は禍津夜那須羅王が姿を消して、地面に座り込んだ。 「桜‥‥あ、駄目か」 見れば、桜は鳴り響く雷鳴に怯えて蹲っていた。 「大丈夫どすか」 鬨が稚空に手を差し出す。 「ああ、何とかな。半端じゃねえなあいつは」 「全くどす」 「それにしても‥‥どうして僕たちの名前を知っているのでしょうか?」 「ちょっと顔が割れ過ぎたかしらね。向こうにも私たちのことを調べるつてがあるのかしらね」 貴政の言葉に、カズラは思案顔で吐息するのだった。 コルリスは、桜をなだめていた。やがて桜は立ち上がり、仲間たちの手当てを行う。 |