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■オープニング本文 神楽の都に私塾を開いている東堂俊一の門下生である泰拳士のチェン・リャンは、他の仲間たちとともに闇の中にいた。 「‥‥罪人たちの罪は消えない」 リャンは言った。 「だから世界は間違った方向へ進んでいる。そうだろう? 俺たちは新しい世界を作りだすんだ。過ちを正すんだ。それが、俺たちの役目だ」 「そうだ――!」 仲間の一人が叫んだ。 「命を掛けて大義を果たそう。俺たちには正義がある。恐れるものは無い」 リャンと仲間たちは、闇の中で拳をぶつけ合うと、立ち上がった――。 神楽の都、とある長屋の近辺で――。 駆け出し開拓者の若者は、初めての依頼から帰って来て疲労の極にあった。依頼は鬼退治だったが、初めてのアヤカシとの実戦でまだ手が震えていた。 太陽はまだ頭上にあったが、若者は一時も早く寝床に入りたい一心だった。 そんな時である。長屋の角からふらりと人影が若者に近づいて来る。人影は少ない。若者はその人影に反射的に目を向けた。 「――?」 若者は眠い目を開けて男を見た。――それは男だった。ぼうぼうに頭髪を生やしていて、浪人者のようだったが、頭に角が生えている。 「え、修羅‥‥?」 若者が呟いた瞬間、男――鬼は抜刀して切り掛かって来た。 「死ね! 開拓者!」 「――!」 若者は反射的に刀を抜いた。一撃! 打ち合った瞬間に刀を飛ばされ、若者は切り捨てられた。それで致命傷だった。遠のく意識で、若者は鬼の牙を見た。 ――リャンが仲間たちと駆けつけた時、若者は絶命していた。 「ひどいな‥‥ここ最近の開拓者を狙った人切り。敵は人間じゃないぞ」 リャンは、若者の体に刻まれた凄絶な傷跡に眉をひそめた。 そこへ、野次馬を押しのけて都の同心たちが駆けつけて来る。 「遅い‥‥な。役人もギルドも間に合わない。何とかしないと」 リャンたちはその場を後にした。 「リャン、どうするつもりだ」 「敵はアヤカシ。それも人語を話すそうじゃないか。そんなものが都に紛れ込んでいる。俺たちでやろう。これ以上の被害が出る前に」 「だが、本当にアヤカシが都にいるのかな」 「そう考えるしかないだろう。あんな傷跡を付けるのは修羅じゃない。どこかに潜んでいるはず。この辺りで使われていない空き家を当たってみよう――」 開拓者ギルド――。 ギルド相談役の橘鉄州斎(iz0008)は、助手の佳織から報告書を受け取る。 「橘さん、一連の事件の情報が集まってきてるんだけど、ここ最近起こっている都に潜んでいるアヤカシの集団のことを凶風連と呼ぶことにしたみたい」 「凶風連か。ぞっとしない響きだな」 「こっちが界隈の人切り事件。こっちはまた別の場所で起こっている事件。それからこっちは‥‥」 佳織は報告書の束を橘に手渡していく。 「こんなにアヤカシが入り込んでいるって‥‥そりゃあ確かにここは大都市だし、隠れる場所はあるだろうが」 「あ、芦屋さんだわ」 「え?」 目を上げると、藤原家側用人の芦屋馨(iz0207)がカウンターの向こうに来ていた。 「馨殿――」 「鉄州斎殿、界隈の人切りアヤカシの正体は鬼のようです。それも、開拓者だけを狙って攻撃を仕掛けている腕利きのようですね。大よその活動範囲は絞り込めました」 「さすがですね‥‥」 「ところで、チェン・リャンと言う泰拳士をご存知ですか?」 「リャンと言えば、腕利きの開拓者ですよ。それが何か」 「ここ最近活発な浪人たちを率いて、中心となって事件を追って熱心に動いているようです。情熱だけなら役人顔負けですね。この鬼を追えばどこかでぶつかるかも知れませんね」 「‥‥まあ、戦力は多いに越したことはありません」 橘が肩をすくめると、芦屋は吐息した。 「蝮党の一件から、まだ都は立ち直っているとは言えませんよ。今回も役人もギルドも後手に回っていますし、ちょっと、私たちにも隙が多すぎますね」 「‥‥‥‥」 橘は唸るように吐息すると、眉間に手を当てた。確かに、ここ最近の事件は自分たちの予測を越えている。都の安全が脅かされるとは‥‥。 「とにかく、俺は出ます。そちらの情報を確認させて下さい。――佳織、開拓者たちを集めてくれ」 「凶風連を退治しに行くって言いますか?」 「その名前はまだ使わないでいいよ。ああいや――やっぱり、きちんと相手のことを伝えて、それから名前を伝えてくれ。それじゃあ、馨殿から詳しい話も聞いた方がいいな」 「はい――」 そうして、橘と佳織は芦屋から情報を仕入れると、市中に潜んでいると言う、開拓者殺しの鬼退治の依頼の準備を進めていくのだった。 |
■参加者一覧
華御院 鬨(ia0351)
22歳・男・志
焔 龍牙(ia0904)
25歳・男・サ
滝月 玲(ia1409)
19歳・男・シ
ジークリンデ(ib0258)
20歳・女・魔
ティンタジェル(ib3034)
16歳・男・巫
黒霧 刻斗(ib4335)
21歳・男・サ |
■リプレイ本文 界隈にて――。 「うぅん、この前、盗賊を盗賊改の方に差し出してぇ、死罪になっちゃたのを恨んでいるのどすかなぁ」 とちょっと罪の意識を感じてしまう華御院 鬨(ia0351)。女形をしていて、常に修行のために女装し、そこいらの女性よりも女性らしい雰囲気を醸し出している。今回は可愛らしい系メイドの演技をしている。白と黒の装備で統一してゴシックに装っている。 「凶風連か! 襲われた人々の無念は必ず晴らす!」 焔 龍牙(ia0904)は鋭い光を放つ赤い瞳で界隈を見渡す。 「駆け出しばかり狙うとはな‥‥腕利きらしいが許せない」 滝月 玲(ia1409)は、言って焔を見やる。 「焔、何か感じるものはあるかな」 「いや‥‥何とも、普通の界隈だな。開拓者が暮らす場所で人切り事件とは‥‥何とも信じ難い。ここは世界でも屈指の安全な都のはずなのに」 「そうだな‥‥」 「先の戦から続く弓弦童子の謀のひとつ。ならば撒かれた塵芥を掃除していき謀を砕くと致しましょうか」 ジークリンデ(ib0258)の言葉に、一同神妙な面持ちになる。 「アヤカシ集団、ですか。集団行動自体が珍しい気がしますが‥‥厄介、ですね。ですが、何としても私たちの手で平和を取り戻しましょう。ここは私たちの町でもあるのですから」 言ったのはティンタジェル(ib3034)。女性と見紛うばかりの静かな可憐さであるが、元気少年だ。 「それじゃあ、ちょっと捜索開始どすぅ」 鬨はそう言うと、仕込箒片手に界隈に入って行く。 「すみません、ちょっとよろしいどすかぁ」 鬨は、適当な長屋の扉を叩く。がらりと、姿を見せたのは壮年の男性。 「よお、何だい」 「うちは開拓者の鬨どすぅ。ちょっと、ここ最近起こっている事件のことで‥‥」 「ああ、あんたが歌舞伎役者の鬨さんかい。噂は聞いてるよ。実物を見るのは初めてだなあ。凄腕の開拓者だろ」 「うふふ‥‥それはともかく、事件のことどすが〜」 「ああ、凶風連の一体が忍び込んでいるって話だろ? 今ここじゃ捜索隊がしらみ潰しに探してるよ。まあ、有力な情報は無いみたいだけどな」 「そうどすか‥‥」 「ただ、あの鬼は、人に似た声を使うぜ。本当に人が叫んでいるみたいなんだ。騙されないように気をつけた方がいい。頭は切れる奴だぜ」 「ありがとうございますどすぅ」 鬨はぺこりとお辞儀すると、 「アヤカシ〜さすらい〜人を切る〜拙いどすぅ〜」 と不思議ちゃんな鼻歌を歌いながら界隈で聞き込みを続ける。 「この辺りは繁華街だったんだな‥‥」 焔は、言って界隈の一角を見渡す。廃棄された家屋などがあった。焔は滝月とティンタジェルともに地域に足を踏み入れる。 「夢の跡か‥‥昔はここにも華やかな町並みがあったんだろうなあ‥‥」 滝月は、一軒の家屋の門扉を見上げた。そこは繁華街の跡だろう。店の看板が朽ち果てていた。 「ティンタジェルさん?」 「ここにはアヤカシはいないようですね」 瘴策結界を使って、ティンタジェルは首を振る。 「待て。誰かいるぞ」 「焔?」 「‥‥とりあえず中に入ってみよう。心眼に反応がある」 「‥‥‥‥」 「気を付けろ」 三人は崩れた門扉を押しのけて、家屋の中に入って行く。日光が遮られる。暗く、血の匂いがする。 「何だ‥‥?」 「血の匂い?」 焔と滝月は刀に手を掛けた。 ――ギャア! と、暗闇の向こうから影が飛び出してきた。 「何だカラスかよ‥‥」 焔は吐息して後ろの日の光を顧みた。 「おい、こっちだ! ティンタジェルさん!」 滝月は叫んで、奥へ駆け出した。 そこへ、男が倒れていた。男は激しく出血しており、息は無かった。 「傷は新しい。すぐ今頃だぞ斬られたのは」 男は上半身を凄絶に裂かれていた。 「ティンタジェルさん、回復できますか」 「分かりません。もう間に合わないかも」 ティンタジェルは神風恩寵を掛けた。 「‥‥‥‥」 男はぴくりともしない。 「もう一度、頑張って下さい!」 ティンタジェルは神風恩寵をかけるが、男はそのまま帰らぬ人となった。 「これは‥‥例の鬼の仕業かな」 「分からないけど‥‥その可能性もあるだろう。同心たちに任せよう。俺達はアヤカシの発見を最優先に」 「私、人を呼んできますね」 ティンタジェルは言って、同心を呼びに行く。 やがて、彼は同心たちを連れて来た。 「開拓者のみなさん、御苦労さん――」 同心たちは遺体に手を合わせると、検分を始めた。 「行こう――」 聞き取りを受けた後で、三人はその場を後にする。 「‥‥そうですか、そんなことが」 ジークリンデは、滝月から話を聞いて、思案顔。 「だとすると、今日、今、すぐそこで行動中と考えた方がよさそうですね。その男性は志体持ちだったのですか?」 「ええ、何でも、近所の長屋に住んでいる開拓者だそうです」 「すぐそこにいたとするなら‥‥みなさんが来るのを察知して逃げた‥‥と言うことも考えられますね」 「ええ。そうなんですよ」 「私の方でも、目撃情報をまとめてみました」 ジークリンデは、そう言うと、界隈の地図を取りだした。 「橘さんが持ってきた情報からさらに絞り込んでみると、界隈の北西を中心に今回の人切りが発生しています。ですから、恐らく敵のアジトはその中心になるかと思われますが」 と、そこへ若者の一団が姿を見せる。 「よおお前ら。捜査は順調か」 「失礼ですけど、そっちは」 「俺はチェン・リャン。今回の事件を追っている。最近の事件ではギルドも役人も後れを取っている。放置できなくてな」 「あなたが噂のリャンですか。お目に掛かるのは初めてですね」 「目星は付いたのか。こっちは大体見当は付いた。これから現地へ向かう」 リャンはそう言うと、ジークリンデの持っている地図を覗き込んだ。 「へえ、良い勘してるじゃないか。俺達が行こうとしている場所と近いな。まあ、頑張ってくれ。俺達は先に行くぜ」 リャンはそう言うと、不敵な笑みを浮かべて開拓者たちの前から姿を消した。 「チェン・リャンですか‥‥何か怖い人物ですね。冷たい感じ」 ジークリンデは橘の方を顧みた。 「ああ。あれでもあいつはお前さん達よりベテランの、古参だ。凄腕の泰拳士だよ。あっという間にトップクラスの開拓者の座に上り詰めた。ただ、泰国で何があったのか本人も語ろうとしないんでな。経歴は不明だよ。どこであれだけの技を磨いたのかな。ギルドへ来た時には、すでに最高クラスの泰拳士だったようだ」 「最近‥‥浪人者たちが動いていますよね? 先の合戦でも、真田悠、森藍可、東堂俊一と言った人物達が顔を出していましたよね」 「そうだな。ああいう連中が顔を見せるのも、何か、乱世の兆しかねえ‥‥」 「乱世ですか? まあ‥‥アヤカシの脅威を考えれば、そう言えるのかもしれませんけど、ちょっと大袈裟じゃないですか?」 ジークリンデの言葉に、橘は笑って吐息した。 「そうだな‥‥何と言うか、アヤカシとばかり相対していると、普段の人間の感覚がどこかへ置き忘れた感覚になるんだよな。いや、みんなが平和を実感しているとは言わないぜ。ただ、アヤカシは格別だ。奴らは人外の化生だからな。分かるだろう?」 「ええ、分かるつもりです」 そこまで言って、ジークリンデは地図に目を落とした。 「ただいまどすぅ」 鬨が帰って来る。 「ちょっと、今日は物騒な日かも知れませんどすなぁ。ついさっきも、界隈で人切りがあったようどすぅ。狙われたのは一般人どすよ」 「一般人が?」 「急ぎましょう。リャンの奴も癪に障るけど、こいつをとにかく押さえないと。どんどんエスカレートしてるよ。今日中に片を付けよう――」 開拓者たちは現場に向かって走った――。 ‥‥薄暗い界隈の廃屋に、鬼アヤカシ――双牙はいた。一見無骨な浪人者のようだが、頭の飾りを取るとそこには大きな角が生えていた。 「くくく‥‥そろそろ奴らが動き出したようだな。開拓者たち。俺を切るつもりのようだが‥‥甘いな。俺を見くびるなよ。それに‥‥」 双牙は歩いていくと、奥に捕えている人質に刀を突き付けた。 人質となっている人々は、震え上がって悲鳴を上げた。 「お前たち、もうすぐ助けが来るぞ。開拓者の連中がやって来るだろう」 双牙はにいっと笑うと、 「お前、立て」 女性に命令した。 女性は泣きながらよろめき立ち上がると、目を閉じて祈った。 「表に出て、例の場所へ開拓者たちを誘導しろ。指示通りに動け、さもないと子供を殺す」 「は‥‥はい‥‥分かりました」 「行け!」 双牙の叫びに、女性は涙ながらに走りだした。 「さて‥‥奴らがここへ来るまでどれくらい掛かるかな。ふふ‥‥」 双牙は、言って人質の一人を睨みつけた。 「お前たちは運がいい。本当なら、とっくにここにはいない――」 開拓者たちは、同心の超越聴覚と、ティンタジェルや巫女たちの瘴策結界でアヤカシを探していた。 「ここでもないか‥‥」 焔は、廃屋の中から出て来ると、首を振った。 「後は、残っている廃屋は少しだけだな」 そこへ、例の女性が駆けこんで来る。 「あの‥‥すいません! た、助けて下さい!」 「どうしました?」 「それが‥‥私見たんです! 鬼が人をさらっていくところを! ついさっきも事件があったばかりで‥‥すぐ近くで。こっちです!」 「ちょっと待って下さい。あなたは‥‥それを目撃したのですか?」 「はい! 早く来て下さい! 私の子供も捕まっているかもしれないんです!」 「子供?」 「お願いします! こっちへ!」 女性の必死の顔に、開拓者たちはとりあえず彼女の言葉に従い、現場へ行ってみる。 「――ここは」 そこもまた廃屋であった。 「ここには何もなかったよな?」 滝月は言って、女性を振り返った。 「本当にここに鬼がいるんですか? 見たんですか?」 「は、はい‥‥」 女性が震えているのを見て、滝月は巫女とシノビに探索を依頼する。 「アヤカシはいませんね」 「何も聞こえないが‥‥」 「‥‥‥‥」 滝月は焔と鬨を伴い、廃屋に入って行く。 中は空っぽで、人っ子ひとりいなかった。 戻って来ると、女性は泣き崩れていた。 「どうしたんですか?」 焔の問いに、ジークリンデは首を振った。 「よく分からないんですけど、突然パニック状態になってしまって」 ティンタジェルは女性をなだめるが、女性は泣き崩れて言葉を話そうとしない。 ――と、その時であった。 隣接するブロックから大きな声が響いて来る。男の声で「助けてくれー!」という叫び声だった。 「何だ――」 開拓者たちはその方角に目を向けた。 「行け。この人は俺が保護する」 橘が言うと、開拓者たちは駆け出した。 「こっちだぞ!」 リャンも同じところへ駆け込んで来る。 鬨は、通行人を捕まえて尋ねてみる。 「すいません。いまこっちから男の人が助けてくれ、て言う声が聞こえてきたんどすが」 「ええ‥‥そうですよね‥‥」 通行人も、怯えたような表情で辺りを見渡す。 「最近多いんですよ。どこからともなく今みたいな叫び声が上がったりして、同心のみなさんに誤報が行ったりして、やられてしまう、みたいな」 「‥‥‥‥」 開拓者たちは不審な顔で考えた。 「おい! ここじゃない! 向こうで人がやられた!」 そのすぐ側を、リャン達が駆け抜けていく。また犠牲者が出たらしい。 「あの女性‥‥」 滝月が呟き、ティンタジェルは思案顔で頷いた。 「そうですね。何か変です」 開拓者たちは来た道を戻り始めた。 橘は、不思議そうな顔で開拓者たちを見やる。 「何だ、もう片付いたのか」 「いえ」 ジークリンデは、女性の前に膝を突くと、静かに問うた。 「あなた、アヤカシのことを何かご存知ですね」 「‥‥‥‥」 女性は震えて、ジークリンデを見返す。 「子供が捕まっているんです‥‥アヤカシに脅されて‥‥開拓者たちをおびき出せって‥‥」 「あなたは‥‥」 「私、アヤカシに捕まっていたんです」 「それじゃあ」 ティンタジェルは吐息して女性を見やる。 「他にも人質がいるんですか?」 「はい。詳しくは覚えていませんが、全員で十人はいないくらいだと思います」 「橘さん、この人をお願いします」 「ああ」 「それで、アヤカシの隠れ家はどこになりますか?」 ジークリンデは、地図を広げた。 女性は、ふるえる指先で、そこを指差した。 「ここです。一軒家の廃屋です――」 「――ここは人の気配がする。何人かの声が聞こえるぞ」 シノビは戻って来ると、開拓者たちに告げる。 「ですがアヤカシはいませんね」 ティンタジェルは、言って深呼吸した。 ――その時だった。 「助けてくれー! 助けてくれー!」 大きな声がすぐ近くから響いてきた。 「奴だ。急ぎましょう。気付かれた」 「行きます!」 ジークリンデはララド=メ・デリタを解き放った。灰色の精霊力が家屋の壁を崩壊させる。滝月、焔、鬨、ティンタジェルらは突入した。 「大丈夫ですか! 誰か! 開拓者です! 助けに来ました!」 「おーい! こっちだ!」 開拓者たちは暗闇の中を駆け抜けた。 「いました! 人質の皆さんです! もう大丈夫です! 安心して!」 ティンタジェルは駆け寄り、人質たちの戒めを解いていく。 ジークリンデは遅れて入って来る。 「アヤカシは姿を見せないようですね」 と、そこでまた声がする。 「こっちだ! まだ捕まっている人がいます!」 開拓者たちは暗闇の中で声がする方へ目を向ける。何か、白いものが一瞬駆け抜けた。 「気を付けろ」 「アヤカシの反応です――」 ティンタジェルは瘴策結界に反応を捉えた。 開拓者たちは人質を守るように全方向へ注意を向ける。 刹那――。 白い肌をした般若のような鬼が影から突進してきた。 一撃――滝月は弾いた。 「お前が――」 「くくく‥‥俺様の裏をかくとはやるじゃないか人間。ここまで興奮する狩りは久しぶりだな」 「お前の相手は俺たちだ!」 その背後から焔が切り掛かる。 正体を現した白い般若鬼アヤカシは疾風のような刀さばきで弾き返した。 「どないして、こないなことしとりやすぅ」 鬨も切り掛かった。 「この都は、権力の中枢ではないが天儀で最も希望にあふれている場所だ。だがそれだけ、我々にとってはうま味があるのだ」 次の瞬間、ティンタジェルの神楽舞「縛」が鬼の動きを封じ、ジークリンデのアークブラスト四連打が鬼の顔面を撃ち貫く。 白般若鬼は絶叫して人外の咆哮を上げた。 「ふざけるな!」 滝月は泰練気法・壱で赤く覚醒すると加速して連撃を叩き込んだ。鬼アヤカシの腕が飛ぶ。 続いて、焔と鬨がスキル全開の攻撃を叩き込む。 「焔龍 炎縛白梅!」 「開拓者の仇どすぅ」 全身に凄絶な攻撃を撃ち込まれ、白般若鬼は仁王立ちで笑った。 「はははは‥‥はははははははは――!」 そして、白般若鬼は最後には瘴気となって霧散したのだった。 凶風連の一体は、かくして撃破されたのだった。 |