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■オープニング本文 ●幕間 天儀本島武天国、王都此隅――。 武天の王、巨勢王(iz0088)は、家老達との会議を終えて文に目を通していた。ふと、先日の伊織の里の出来事を思い出す。大アヤカシを撃破した開拓者たちの、立花伊織の顔が脳裏に浮かぶ。 「立花伊織か‥‥」 巨勢王は苦笑する。あの者も今回の戦を経験して大きく成長したことだろう。里は巨大な打撃を受けたが、あの者ならば必ずや里を再興出来るだろうと信じていた。 ――と、そこへ王の秘書が入って来る。 「陛下、朝廷から、芦屋馨(iz0207)様がお見えになっております」 「芦屋? 藤原の側近ではないか。予定を入れたのか?」 「ええ、朝廷からの使者とあれば、お断りするわけにはいきませんでしょう」 「また何かきな臭い話を持って来たんじゃあるまいな。断れないのか」 「陛下――」 「分かったよ。通してくれ」 巨勢王は肩をすくめると、唸るように吐息した。 秘書と入れ違いに、芦屋が入って来る。 「芦屋殿。よくぞ参られた。直接お会いするのはこれが初めてですかな」 国王ともなれば朝廷の使者の御機嫌を取る必要もないのだが、巨勢王は礼儀として芦屋を出迎えた。 「陛下、お会いできて光栄です――」 芦屋は微笑んで会釈した。 「こちらこそ。最近はそんなことを言ってくれる人間もめっきり減りましたよ。みなわしのことを赤入道と呼んで煙たがりますからな。どうぞ、おかけ下さい」 「失礼します」 芦屋はお辞儀して腰かけた。 「先の合戦では、開拓者たちが見事な働きを見せてくれました。陣頭指揮に当たられた大伴殿の采配は健在ですな」 「朝廷でも此度の勝利には大伴殿始め、開拓者たちの功績大という声が上がっております」 「そうでしょうな――」 部屋の外で、芦屋の護衛として来ていたギルド相談役の橘鉄州斎(iz0008)は何気に壁に掛けられたケモノの毛皮を眺めていた。 「それは全て陛下が仕留められたものですのよ」 秘書の女性が橘に言う。 「へえ、そうですか」 「それも素手でね。陛下は幼少のころから頑健で、よく運動代わりに山へ入っては素手でケモノを仕留めてきましたの。その巨大熊の毛皮は、陛下が五歳の時に仕留められたものなんですよ」 「それはすごいですね。尊敬しますよ」 橘は目の前の秘書にからかわれていると分かって、軽く笑みを浮かべた。 それから巨勢王と芦屋の会談が終わるまで、橘は秘書のうんちくを延々と聞かされることになる。 ●龍安家〜鳳華 ところ変わって、武天国の龍安家が治める土地、鳳華。 家長の龍安弘秀は、文に目を通していた。ここしばらく大きな戦が無かったこともあって、鳳華では復興が急速に進んでいた。それでもそのたびにアヤカシに攻撃されてきた鳳華だが、民は何度でも立ち上がって来た。 「お屋形様――」 室内に入って来たのは筆頭家老の西祥院静奈であった。 「静奈、ここ最近アヤカシの大きな動きは無い。魔の森も静かになっているようだしな」 「お屋形様、東の魔の森との緩衝地帯にアヤカシが進出しています」 「緩衝地帯にアヤカシが進出して来るのはいつものことだろう」 「アヤカシ兵五百以上の軍勢です」 「何だと?」 弘秀は耳を疑った。 「アヤカシは太紅封原を包囲するように緩衝地帯を突破しつつあります」 「くそっ」 弘秀は机を叩いた。 ――それから弘秀は水城明明日香や山内剛ら、軍事アドバイザーである家老初め、武将たちから報告を受ける。 「太紅封原は東部の平原地帯の一角を占める里です。接近するアヤカシ兵は五百余。死人戦士と巨人、死骸龍騎兵、それから死骸巨竜を主戦力としています」 「アヤカシは既に里の外縁部に達しており、北部と東部、南部の砦の多数が陥落しています」 「里は既に一部空からも攻撃を受けており、死骸巨竜のドラゴンブレスに村が幾つか焼かれました」 「民の避難はほぼ完了していますが、懸念事項が一つ。この攻撃を指揮しているのが例の上級アヤカシ禍津夜那須羅王であると言うことです」 「坂本智紀様を大将とする第八軍団、第十五軍団、第二十二軍団が迎撃態勢に入っています。太紅封原へは間もなく到着します」 一連の報告を受けて、弘秀は唸るように吐息した。 「禍津夜那須羅王か‥‥聞くところによると、理穴や朱藩でも蠢動しているそうだな」 「どうやら、活動範囲は広範囲にわたるようですね」 静奈は頷き、一同を見渡した。 「禍津夜那須羅王は厄介ですよ。これは周到に準備された攻撃です。これだけの兵を揃えるのは時間が掛かるはずですから」 「分かってはいるが、上級アヤカシともなると打つ手が早い」 明日香の言葉に弘秀は唸った。それに山内が口を開く。 「開拓者ギルドにも依頼を掛けてあります。彼らもすでに軍に入っております」 「瘴海を倒した英雄たちか」 弘秀はそう言うと、頷いた。 「出来る限りのことをやろう。被害を最小限に食い止めるしかない」 弘秀が立ち上がると、一同起立する。 「いつか必ず魔の森を焼き尽くしてやる」 弘秀はそう言ってみなを見渡し、部屋から出て行った。 「みんな、状況を報告して頂戴」 静奈はそう言うと、弘秀の後に続いて退室するのだった。 |
■参加者一覧
華御院 鬨(ia0351)
22歳・男・志
葛切 カズラ(ia0725)
26歳・女・陰
滝月 玲(ia1409)
19歳・男・シ
コルリス・フェネストラ(ia9657)
19歳・女・弓
将門(ib1770)
25歳・男・サ
長谷部 円秀 (ib4529)
24歳・男・泰 |
■リプレイ本文 龍安軍陣中――。 「敵は優勢ですな」 軍団長である老将の問いに、総大将の坂本智紀は頷いた。 「すでに緩衝地帯の防備は破られた。これ以上の侵入を許すわけにはいかん」 坂本は諸将を見渡し、意見を聞く。 サムライ大将たちから活発な意見が飛び出したところで、コルリス・フェネストラ(ia9657)が手を上げた。 「コルリス――」 坂本が言うと、一同の視線が集まる。コルリスの戦略はしばしば龍安軍を救ってきた。 「あくまで一案ですが――」 コルリスはいつものように切り出した。 「まず、開拓者は全員龍等に騎乗し味方龍騎兵と共に迅速な制空権確保を目指します。その間里に残る防御施設に砲術士達を籠らせ、陸上では各方面で衡軛陣をとり、制空権確保まで防戦します。空戦においては敵南東隊、東部隊、北東隊の順に一度南から迂回し回り込む形で各部隊を攻撃いたします。戦力配分は坂本様や軍団長にお任せします。私たち開拓者で、厄介な死骸巨竜を最優先で撃破いたします」 「なるほど、制空権の確保か‥‥それまで陸戦部隊が持ちこたえなければならないな。だが、空を抑えるのは私も賛成だ」 坂本は言って、諸将を見渡す。一同「よき案です」と頷く。コルリスは続けた。 「その空戦なのですが、敵も機織り戦法を使う事を考慮し、二人一組を上下に配置し四人一班とし、上下いずれかの味方に敵が機織り戦法の横撃をしかけても、味方が上下機動によりそれを阻止し相互支援できる、『四指』戦法を提示いたします」 「そう言えば、機織り戦術は対策を取られたのだったな。では四人一組か。いいのではないか。南東から各個撃破を仕掛けるなら、一挙に敵軍を殲滅したいところだな」 「はい――。そして制空権確保後には、味方飛行部隊は各敵軍の東に回り込み、味方の陸上部隊と挟撃する形で空から包囲攻撃。優先攻撃対象は死骸巨人で退治後、開拓者は禍津夜那須羅王に集中攻撃をかけ撤退に持ち込む。‥‥という流れでいかがでしょうか」 「ふむ。どうだ?」 坂本は三軍団長に問う。三人は頷き、「よく考えましたな」とコルリスの案に賛同する。 「よし、みなもコルリスの案でよいな」 「ははっ――!」 続いて、将門(ib1770)が手を上げた。 「構いませんか坂本殿」 「将門――」 指名を受けて、将門は一同を見渡す。 「本当は平野で決戦を行いたいところだが、ここまで差し込まれていれば贅沢はいえん。里の三方から攻める敵軍をこちらも三軍に分かれて防衛する。防衛している間に制空部隊が敵航空戦力を撃滅。しかる後に陸空連携して攻勢に出る。‥‥制空部隊の制圧スピードに全てがかかっている。急ぐべきでしょうな」 「ふむ」 「俺からは、まあ、一案として兵力配分を考えてみました」 将門は卓上の駒を動かし、話していく。 「制空部隊に百二十五、サムライ大将五名、サムライ百二十。北東戦線百四十八、侍大将五名、サムライ五十名、航空サムライ四十名、志士十五名、泰拳士五名、弓術士十五名、砲術士五名、巫女五名、陰陽師五名、シノビ三名」 続いて――。 「東戦線百八十四名。サムライ大将十名、サムライ五十名、航空サムライ四十名、志士二十名、泰拳士十名、弓術士二十名、砲術士十名、巫女十名、陰陽師十名、シノビ四名」 終わりに――。 「南東戦線百八名。サムライ大将五名、サムライ五十名、志士十五名、泰拳士五名、弓術士十五名、砲術士五名、巫女五名、陰陽師五名、シノビ三名」 そうして、将門は一息ついた。 「コルリスの言うとおりに、制空部隊は南東戦線で開始。以後、東から北東と味方航空戦力と合流しつつ空を制圧します。陸戦部隊ですが、とにかく空の制圧まで耐えることが命題です。防御施設が巨人相手にどこまで通用するか疑問なので、巨人の接近は砲術士や弓術士、陰陽師などの火力を集中して阻むべきでしょう。制空権確保後は空の部隊と連携して敵の撃退に出ます」 「なるほど」 坂本は思案顔で卓上の駒を見つめていた。三軍団長も頷く。 「バランスの取れた兵力配分だな。いいだろう。配置は将門の案でいこう。みなも相違ないな」 「よき案です。それで参りましょう」 サムライ大将たちも頷く。 「那須羅王は鳳華にも攻めてきましたか。本当に色々と手をうってきますね」 と感想を云ったのは華御院 鬨(ia0351)。女形をしていて、普段は常に修行のために女装しているが、今回は修行は休日なので何もしていない。ただし、見た目から男性の服を着た女性にしか見えないほど美しい。 「私もコルリスさん、将門さんの作戦に賛成ですね。はじめは航空戦力を叩き、敵方の航空戦力がある程度削がれたら、自軍の航空戦力を使用して、陸の敵方を有利な条件で攻撃して敵の戦力を削ぐ。陸戦では篭城などをしてもらい、遠距離攻撃などで敵方を足止めする様に防衛戦をする。これが最善の策でしょう」 妖艶なる陰陽師の葛切 カズラ(ia0725)は、形のよい眉根を寄せて考える。 「色々と裏を考えるとキリが無いけど、取り敢えずは一つづつ潰してかないとね。私は東南の方にあたる部隊に制空権確保に参加で、空を制したら東部隊への攻撃に参加って感じかしらね」 「‥‥その裏というと?」 ふと坂本は、興味を持ったのか問いかけてくる。 「禍津夜那須羅王のことです。先の依頼の折に遭遇して、私たちの名前を知っている感じだったんです」 「それは、つまり、あなたたちの情報がどこからか禍津夜那須羅王に伝わっているということですか」 「そんなこと考えたくもないですよね。と言いますか、そこまで神楽の都が侵されているとも考えづらいんですけどね」 「なるほど‥‥」 坂本は、思案顔でうなった。 「カズラ殿はあの時参加されていましたかな。凱燕攻防戦の折に」 「ああ‥‥あの時も確かに不自然でしたね。そうでした。そんなこともありましたね」 「油断は禁物ですな」 「禍津夜那須羅王の件ですが――」 滝月 玲(ia1409)は、仲間や龍安の人々に問う。 「その上級アヤカシのことは報告書では読みましたが、実際のところはどれほどの強さなのですか」 「とんでもないですよ」 言ったのは長谷部 円秀(ib4529)。 「圧倒的な剣術に、凄まじいスキルを使います。城を衝撃波で切るほどですからね。ですが唯一、知覚攻撃に弱点があるようですが、それを補って余りあるタフさも持っています。高い身体能力から繰り出される攻撃は変幻自在ですしね」 「それに、今カズラさんも言われましたが、確かに裏がありそうですね。大アヤカシ不厳王(iz0156)の直属と言うこともありますし、何か得体の知れない手段を使って人界に網を張っているのかも知れません」 鬨が長谷部の言葉を補足する。 「そうですか‥‥」 滝月は、小さく吐息して「とにかく」と顔を上げた。 「今は戦いに集中しましょう。コルリスさんの作戦で行きましょう」 それから、長谷部は真剣な表情で一同を見渡す。 「相変わらず敵は手強いようですね。だからといって負けるわけにも行きません。我らに勝利を呼び込みましょうか。敵を撃破、後退させて里を守るのは最低限しないといけませんね。あわよくば、王に手傷を負わすか、撃破してアヤカシの侵攻を止めておきたいというところですか」 「禍津夜那須羅王は強敵だが‥‥これまでにも撃退してきた。それに、鳳華は易々とは落ちない。これくらいの攻撃ではな」 坂本の言葉に、一同頷く。 「これくらいの攻撃とはいえ、とにかく、民の皆さんが無事でいるのは何よりですが」 鬨の言葉に、一同吐息した。 「御屋形様は被害を食い止めろと言われるが、前線に立つ者としては、禍津夜那須羅王を撃破したいものだな」 坂本はそう言って、鬨の言葉に答えた。 「よし、それでは各部隊に作戦を伝えろ。すぐに迎撃に入る。取り掛かろう――」 開拓者たちは龍で空に舞い上がった。百二十五名の空戦隊とともにアヤカシ軍の南から回りこんでいく。 「時間との戦いだ‥‥急げよ」 一人北東部に向かった将門は仲間たちが到着するまで現地で指揮を取る。 龍安軍空戦部隊が南から四騎一組で加速していくと、アヤカシ龍騎兵と死骸巨龍が咆哮して突進してくる。 最初の一撃は巨龍のドラゴンブレス。轟音とともに火炎が空を貫いた。龍安兵は散開してかわした。 「さすがにとんでもないですね。予想はしていましたが」 鬨は加速すると、斬竜刀で切りかかった。すれ違いざまに巨龍の翼を叩き切る。バランスを崩したところへ滝月が斬竜刀で急襲する。 「ここは明け渡すわけにはいかない!」 滝月は裂ぱくの気合とともに加速する。「炎髪を振乱し炎纏いて戦うは炎帝の如くその牙は鬼龍也」滝月の師が言ったことだ。その一撃は死骸巨龍を真っ二つに切り裂いた。 「行きますよ! 今回は空での迅速な機動を駆使し迅速な制空権確保と空陸の味方の連携、相互支援が鍵です」 コルリスは兵士たちに合図すると、鞍上から矢を構える。 「駿龍の翼!」 龍に命じると、応鳳は回避行動をとってアヤカシの矢をかわす。 鏡弦で敵位置を把握し味方に報告。 「十時の方向! 敵四!」 龍安兵たちは四騎一組で展開する。 アヤカシ龍騎兵は二騎一組で突進してくるが、兵士達は上下機動によってアヤカシの動きを封じると逆撃を加え、各個に撃破していく。 「砕!」 コルリスは安息流騎射術+鳴響弓の合成射撃技で死骸巨竜を撃墜する。 「いつでも厄介な相手なのよねえ全く‥‥だけどこっちだって負けてられない!」 カズラは死骸巨竜を優先で攻撃していく。呪殺符を使用した斬撃符を頭部と翼の根元狙いで一撃づつ計三発を一体当りに使用する。凄絶な式の攻撃が巨龍を粉砕していく。 「ちっ‥‥!」 突進してくるアヤカシ龍騎兵を回避しつつ、その龍を狙って鞭で頭部狙いの牽制攻撃。 「練力は一応温存していかないと‥‥ねっと」 「その厄介な炎は封印してもらいますよ」 長谷部は巨龍に突進していく。 「空からの火は地上戦力の脅威ですからね。摘み取らせてもらいますよ!」 長谷部は旋回して、巨龍の背後を取ると加速した。万力を込めてその翼に刀身を叩き込む。肉と骨がちぎれる音がして、巨龍の翼は破壊された。悲鳴を上げる巨龍に鬨が突き進む。ごうっ、と炎が吐き出されるのを回避して、鬨は長大な刀を打ち込んだ。 「そうはいきませんよ」 鬨は巨龍の頭部を爆砕した。 龍安軍は四指戦術で圧倒的な勢いで空を制圧していく。 「この勢いで行けば‥‥」 コルリスは合図を送り、東へ逃走するアヤカシたちの追撃命令を出す。 「このまま東部を制圧しましょう。急ぎませんと」 「分かりました。みなさん! 次に東部へ向かいます!」 鬨は仲間やサムライ大将たちに向かって刀を振って合図を送る。 「将門さんが待ちくたびれてるわよ」 カズラは言って、滝月と長谷部に肩をすくめて見せる。 「行きましょう――」 将門は北東部の空で奮戦していた。四指戦術でアヤカシ龍騎兵を抑えつつ、自身は主に巨龍を狙いに行く。 「将門! 南東部は我が軍が片付けたようだ! 今知らせが来た!」 「そうか――さすがに早い。やるな。間に合ってくれればいいが。こっちも踏ん張ろう」 将門は加速すると、四騎一組でアヤカシを撃破していく友軍を見やり、攻勢に出るように刀を振る。 「行くぞ――」 巨龍の側面から切り込んでいく。凄絶な一撃が巨龍を切り裂く。巨龍が噛み付いてくるのをかわし、将門はその首を切り落とした。 「あの世へ還れ。いや、それはないのか――」 東の制空権を確保した龍安軍は勢い北東部のアヤカシに殺到する。 「将門さん――」 「よお、早かったな意外に」 「空は数で圧倒出来ましたが、地上は苦戦ですね‥‥」 コルリスは、将門に言って、鞍上から眼下を見下ろす。 「ああ、早くこっちを片づけちまおう」 「みなさん! このまま行けば空はこちらのものです! 勢い制圧しましょう!」 「おお!」 コルリスら龍安軍は、そのままアヤカシを撃破し、制空権を確保すると地上のアヤカシの背後から攻撃を開始する。 ――地上では巨人が凄まじい突破力で里の防備に迫っていた。砲術士達や弓術士たちは撃って撃って撃ちまくった。 「よし行け!」 滝月は先陣切って加速して行く。すれ違いざまに巨人の首を切り飛ばした。 鬨、カズラ、将門、長谷部らは兵士達を率いて巨人を撃ち倒していく。 「ですが‥‥間に合いますか」 コルリスは、中央になだれ込んで来る東の禍津夜那須羅王を中核とする集団に目を留めた。 「禍津夜那須羅王が来ます!」 「突破されるぞ!」 「やる!」 開拓者たちは地上を寸断する巨大な衝撃波の向こうにいる禍津夜那須羅王の側面から攻撃を開始する。 「今度は大群ですね。次は地中からでも攻めてきますか。まぁ、次はないですがね」 鬨は舞い降りて上から打撃を与える。 「行くわよ化け物!」 カズラも蛇神を連射する。触手部分が絡み合って大蛇の様になり突撃。凄絶な式が那須羅王を貫通する。 滝月は禍津夜那須羅王の背後から突撃し、将門は飛び降りるとそのままぶつかるように刀を振り下ろした。 「よお、噂の上級アヤカシ」 禍津夜那須羅王は受け止めると、将門と滝月を弾き飛ばした。 「どこかで見た顔だ。開拓者、か」 「俺はお前のことなんて知らん」 将門は立ち上がると、切り裂かれた腕を押さえた。 「負ける気はありません。あなたがいくら強くとも」 直後、長谷部が禍津夜那須羅王の頭上から急襲する。紅焔桜で一気苛烈に攻めつつ、禍津夜那須羅王の気を引く。味方が敵を殲滅する時間と王に対処の余裕を与えないように龍安家のサムライとも連携して攻め続ける。 「砕!」 コルリスはスキル全開で矢を解き放った。ドウ! ドウ! と矢が禍津夜那須羅王を貫通する。 一撃、二撃と打ち合い、長谷部は那須羅王の腕を斬り飛ばしたが吹き飛ばされた。 それから那須羅王は飛び上がると、鬨が乗っている龍に掴みかかり、鬨を鞍上から投げ飛ばした。龍は那須羅王に手綱を取られて怒りの咆哮を上げる。 禍津夜那須羅王は乱暴に壱華を操ると、地上に向かって衝撃波を叩き込んだ。 「壱華っ!」 鬨は転がるように逃げた。地面が切れる。 「禍津夜那須羅王――!」 カズラは蛇神を連射、コルリスは矢を撃ち続ける。 那須羅王は腕を振り上げると、二人に向かって瘴気弾を投げつけた。牽制程度だが、カズラとコルリスは鞍上から振り落とされた。 那須羅王は飛び降りると、開拓者たちを吹き飛ばして前進する。 龍安軍の戦列が割れる。 「く‥‥何て奴だ」 将門は後退しつつ、戦場を見渡す。 巨人を中心に、勢いを取り戻したアヤカシ軍が防御陣を突破する。 「まだだ! 里は明け渡すわけにはいかない! 里の本丸まで後退する! 一時後退して戦列を整えるぞ!」 坂本は全軍に触れを出し、龍安軍は本丸まで後退する。 アヤカシの、禍津夜那須羅王の逆襲に、戦闘はまだ終わらない。 |