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■オープニング本文 過去――。 「待てリャン――!」 背後から怒声が飛んでくる。チェン・リャン(iz0241)は振り返ることなくもの凄い速さで駆け抜けて行く。その拳は真っ赤に染まっていた。 「リャン――!」 その側面から剣を構えた男が突進して来るが。 「邪魔だ!」 リャンは凄い速さで男の横に回り込むと、回転蹴りを叩き込んだ。男は吹き飛び崩れ落ちた。 「待てリャン――!」 声が追い掛けて来る。 ここにはもういられない。リャンは自身の拳を見下ろした。どうせいつかはここを出ると決めていた。未練は無かった。リャンは人ごみの中に紛れると、追手を振り切って駆け出した――。 ――現在。 リャンはいつものように東堂俊一(iz0236)の私塾にいた。ここは彼の居場所の一つだった。 「先生――」 リャンは、思案顔で東堂に語りかける。 「どうかしましたか。何か心配ごとでも」 「いや‥‥まあ、正直、自分が今こうして先生の建策に関わっているのが信じられなくてですね」 「誰にでも過去はありますよ。人はみな、傷を負っていますからね」 「俺たちは、世界を変えることが出来るんでしょうか」 「建策の準備は進んでいます。そう遠くないうちに、私たちの建策は天儀王朝にも開拓者ギルドにも認められるでしょう。浪志隊として」 「浪志隊ですか‥‥」 リャンはその響きが気に入っていた。 「先生、俺は‥‥」 と、そこへ塾で養われている子供が駆けこんできた。 「チェン! 大変だ! 界隈で七助が刺された!」 「何だって?」 「早く来て! あいつらだ! 凶風連だよ!」 リャンは立ち上がると、子供を肩に乗せて走りだした。 「どっちだ!」 「あそこ!」 人だかりが出来ているのを、リャンは押しのけて、七助のもとに辿りついた。 「七助! しっかりしろ!」 七助は十歳になろうかと言う少年だ。胸から血が溢れている。 「チェン‥‥赤い鬼だ‥‥いきなりぶつかって来たんだ‥‥」 「喋るな! すぐに医者に連れてってやる!」 「チェン‥‥俺‥‥先生に拾われて‥‥みんなと出会えて‥‥楽し‥‥かった‥‥よ‥‥」 七助の息は絶えた。 「何で‥‥何でだよ! くそっ」 リャンは拳を振り上げると、それを地面に叩きつけた。 ‥‥肌色も人間に近く、服装はかぶき者風に変身し、編み笠で角を隠した赤般若鬼は、その様子を見やりつつ笑みを浮かべた。 「まだまだこれからだ‥‥白般若はしくじったようだが、俺様はそう簡単には捕まらん‥‥」 そうして、赤般若鬼は界隈に紛れた。 ‥‥一週間後、開拓者ギルド。 「佳織〜!」 ギルド相談役の橘鉄州斎(iz0008)は、文に目を落としながらアシスタントの佳織を呼ぶ。 「そんな大きな声出さなくたってここにいるわよ」 佳織は書類の束を抱えて橘の方へ歩いて来るところだった。 「ここ最近動き回っている赤般若鬼の情報を集めてくれ。凶風連の一味か。この一週間で三人が殺されてる」 「ようやく相談役様の出番じゃない」 「甘く見過ぎた」 橘が眉をひそめると、佳織は書類の束を彼の目の前に置いた。 「今回は手強そうよ。行動範囲が広がってるし、身を隠すのもかなりの熟練ね。変身能力はありそうだし、簡単に鏡弦や瘴策結界にも掛からないみたいだし、用心深い相手よ」 と、そこへ神楽では情報活動を行っている芦屋馨(iz0207)が姿を見せる。 「鉄州斎殿――」 「これは馨殿。もしかして‥‥」 「赤般若の件ですよ」 「それは‥‥何か掴めましたか?」 「シノビから有力な目撃情報が入りました。赤般若が変身しているのは、赤い髪をした編み笠で顔を隠した長身のかぶき者であるそうです。また人語を話すようですよ」 「かぶき者ですか‥‥」 「今は見失ってしまいました。この広大な神楽の都で、どうやって見つけ出すかですが‥‥」 「確かに」 「ただ、犯行前には下調べを行っているようで、不審なかぶき者が現場に出入りしているのは確かなようです」 それから、芦屋は思案顔で付け足した。 「そう言えば、また例のチェン・リャンが赤般若の後を追って動いているようですね。リャンは開拓者だそうですが、今は何をしているのですか?」 「さあ‥‥聞くところによると浪人だそうですが、どうしてですか?」 「いえ‥‥浪人たちの動きもここ最近目立ちますので。少し気になりましてね。神楽の都が騒がしくなるのと同時に彼らが現れたのは偶然なのかと」 「考え過ぎでしょう。それより、そちらからもシノビの援護をお願いできますか」 「分かりました」 それから橘は、佳織に顔を向けた。 「開拓者たちを集めてくれ。この赤般若鬼が次の犯行に移る前にかたを付ける。神楽で好き勝手にさせてたまるか」 「橘さん、気を付けて下さいね」 「心配してくれるのか。まあ言葉だけでも嬉しいよ」 「本当に心配してるんですよ。橘さんが倒れちゃったら、私も失業でしょ」 「そっちの心配かよ。まあそんな心配より、早く仕事に掛かってくれよ」 「はい――」 神楽の都を舞台に、赤般若鬼との戦いが始まる。 |
■参加者一覧
華御院 鬨(ia0351)
22歳・男・志
焔 龍牙(ia0904)
25歳・男・サ
滝月 玲(ia1409)
19歳・男・シ
ルオウ(ia2445)
14歳・男・サ
コルリス・フェネストラ(ia9657)
19歳・女・弓
ティンタジェル(ib3034)
16歳・男・巫 |
■リプレイ本文 開拓者ギルド――。 歌舞伎役者の華御院 鬨(ia0351)は、今回は気さくな浪人風に男装していた。彼は実際男なのだが、変装しないと女性にしか見えないためだ。鬨はギルドへ来ていた芦屋馨(iz0207)へ声を掛ける。 「やあ馨さん。今日も美しいな。敵は歌舞伎者に変装しているとの事だし、僕が歌舞伎者を演じるにあり心がけている行動心理を教えてあげようかい」 と挨拶代わりに理由をつけてナンパする。 「行動心理と言いますと?」 「それはねえ‥‥」 歌舞伎役者でもある鬨は自分の専門分野について語りだした。芦屋は興味深げに鬨の話を聞いていた。芦屋は政治が本職だが、民俗芸能に関心が無いわけではないし、歌舞伎は何度か見たこともあった。 「またもや、神楽の都で襲撃事件か。立て続けだな‥‥誰かが糸を引いているのか」 焔 龍牙(ia0904)は言って、仲間たちを見渡した。 「そうだな、若者を狙って恐怖感の伝染でも狙っているのだろうか」 滝月 玲(ia1409)が言うと、ルオウ(ia2445)は拳と手のひらを打ちつけた。 「俺はサムライのルオウ! よろしくな! どんな理由かしんねえけど、これ以上人殺しなんてさせっかよっ!」 「それにしてもここ最近の神楽の都は物騒ですね。同心たちの手に余りある事件が頻発しているようですしね」 コルリス・フェネストラ(ia9657)が言うと、ティンタジェル(ib3034)は思案顔で吐息した。 「瘴索結界にも掛からないアヤカシ‥‥厄介ですね。それでも何とかして見付けませんと‥‥」 「まあとにかく、作戦通り始めるか。長丁場になるかも知れんが、必ず奴を見つけ出そう」 ギルド相談役の橘鉄州斎(iz0008)は言った。 「――それじゃあ、依頼が片付いた後にでも」 「ええ。構いませんよ」 芦屋は頷き、鬨は彼女と歌舞伎を見に行く約束を取りつけた。 開拓者たちはまず手分けして行動を開始する――。 鬨は過去に襲われた場所から、どの範囲で発生しているかを確認し、その周辺を集中的に調べる。また、何かの特定の場所に共通性があるかなども確認しておく。 現地へ入った鬨は、見慣れた街並みを見渡した。行き交う人々の中に目を凝らす。 「‥‥‥‥」 鬨は歩き出した。赤い髪を探して見るが、実際神楽の都では赤毛の人間などあちこちにいて見当もつかない。 「かぶき者か‥‥目立ちそうなもんだが」 鬨はそのまま裏通りに入って行く。子供たちがはしゃいで駆け抜けて行くのを、鬨は見送った。 「ちょっと、御免よ」 鬨は店の前を掃除している女性に声を掛けた。 「はい――?」 「ついこの間、この辺りで事件があっただろう? かぶき者が起こしている事件のことだけど」 鬨が問うと、女性は不審な顔で鬨を見やる。 「ああ、僕は開拓者だ。怪しい者じゃない」 「そうですか‥‥またお役人が来たのかと」 「何かあったのかい」 「いえ‥‥私、多分犯人を見たかもしれないんです」 「それはどういうことだい」 「何日か前から、うちの店に赤毛のかぶき者が出入りしていたんですよ」 「どんな奴だった?」 「人間だと思ってましたから、話を聞いていただけですよ。自分はあちこち旅して回っていたからって、気さくに色々話していたんですよ。あのかぶき者、アヤカシなんでしょう? 恐ろしい。きっと私たちを見て、血に飢えていたんでしょう?」 「それから奴は何か言ってなかったかい」 「恐ろしいことを言ってましたよ。覚えてるんです。近く天儀でアヤカシの大きな攻撃がある、その攻撃はここにも向けられているって」 「なるほどねえ‥‥」 「ねえ開拓者さん、神楽の都は安全ですよね?」 「もちろんだよ。アヤカシの狙いはそうやって人の恐怖に入り込むことなんだ。このアヤカシは単独犯だからね」 鬨は礼を言うと、その場から離れた。 「さて‥‥」 焔は襲われた界隈やギルドにて、情報収集する。襲われた者の特徴や、共通点などを仲間と手分けして収集する。 焔は見慣れた景色を見ながら歩いて行く。 「ちょっと、すいません」 焔は、事件があった付近の民家へ聞き込みに行った。 「俺は開拓者なんですが、ここでかぶき者に襲われた方はどんな方でしたか?」 焔の問いに、住人の若大将は唸るように言った。 「可哀そうに、まだ十代の女の子だよ。あのかぶき者、人型アヤカシなんだって? 一体どうなってんだい。ここは神楽の都だぞ」 「必ずアヤカシは見つけます。俺たちの町でもありますからね」 「ああ、開拓者の町でアヤカシが溢れ返っていたんじゃ話にならんよ。あんたら、自分達で市中見周りでも始めた方がいいんじゃないか」 「まあ‥‥そうですね。そう思わないでもないですが」 「頼むよ。この町は天儀の希望だぜ? 俺たちが安心して暮らせるようにしてくれよ」 「ありがとうございました。失礼します」 焔は若大将に礼を言ってその場を後にする。 滝月は、事件のあった界隈に来ていた。被害者に共通点の有無が無いか調べる。被害者の親や友人などに人となりや交友関係や最近変った事がなかったかを聞いてみる。 「あの子は明るくて元気な子でした‥‥ごく普通の十四歳の女の子だったんです‥‥何でこんなことに巻き込まれるんですか? 凶風連って‥‥何が目的なんです」 「その、幸さんですが、交友関係を教えて頂けますか?」 「近所の子たちとも仲が良かったし、面倒見のいいお姉さんでした。悪童たちとつるんだりするような子じゃありませんよ」 「そうですか‥‥ありがとうございます」 滝月はそれから彼女の友人のもとを訪ねた。 「幸さんのことで教えてほしいんだけど。彼女の周りでここ最近赤毛のかぶき者を見たりしなかったかな」 「‥‥‥‥」 女の子たちは首を振って悲しげに言った。 「開拓者さん、幸の仇を取って下さい。凶風連をやっつけて町を平和にして下さい」 「もちろんだよ」 それから滝月は、聞き込みを続けて、被害者が襲われた場所や時間、人混みの有無も確認する。 「ここが現場か‥‥」 滝月は現場に供えられた花束を見やり、手を合わせた。 「開拓者でもない一般人か。それも、人通りの多い場所に限って狙いを付ける」 若者を狙うのは負の感情の質? ――と、滝月に声を掛けて来る女の子がいた。 「あの‥‥」 「君はさっきの。どうしたの」 「私見たんです」 「見たって何を?」 「赤毛のかぶき者です」 「それは‥‥どこで?」 すると、少女は通りの一角を指差した。 「学校から帰る時に、まるで幽霊みたいにあそこに立って、私たちを見ていたんです。じっと。何だか気味が悪いなって思ってたんですけど‥‥」 「そうか。ありがとう。大丈夫だよ。安心して。アヤカシは必ず俺たちが見つけ出すから」 滝月は少女に頷くと、そこへ向かった。 少女が指差したのは、一軒の廃屋の前だった。ぼろぼろの張り紙がされていて、家は売りに出されていた。だが恐らくもう買い手もいないのだろう。 「アヤカシがアジトにするには持って来いの場所だが‥‥」 滝月は一度空き家の中へ入って、中を見て回った。家の中は荒れ放題だったが、新しい足跡が付いていた。 「‥‥‥‥」 赤般若はここにいたのかも知れないが、手掛かりはない。 滝月は次の現場へ向かう。 ルオウもまた現場へ回っていた。 「よお、俺は開拓者のルオウだ。例のかぶき者の事件を追ってるんだけどな。犠牲者の人相とか職業、近況とか教えてくんないかなあ」 ルオウは、市場の野菜屋でキュウリを買い求めると、それをかぶりながら店主に聞いてみた。 「あの子はまだ十代の子供だったよ。元気のいい溌剌とした男の子だったけどねえ。学校でもうちの子と友達だったけど、アヤカシに狙われるなんてねえ‥‥」 「そうか‥‥その、亡くなった男の子だけど、何か変わったこととか無かったかな」 「かぶき者ならね。俺も見たことがあるんだよ。ここ最近、子供たちの学校の帰りにある廃屋の前にあの赤毛が立っているのを見たんだよ」 そこまで言って、店主は怖くなったらしい。 「正直俺の前にうろついたりしないで、さっさと退治してくれよ。開拓者に協力していることが知れたら、うちの子がやられるかも知れねえ。凶風連はどこにいるか知れねえんだからな」 「ま、ご協力に感謝だな」 ルオウは言って、店を離れる。 それからルオウは少年の家族のもとへ向かった。 「帰ってくれ!」 少年の父親は、ルオウに罵声を浴びせた。 「アヤカシと関わるのはご免だ! 開拓者に話すことなんてない!」 父親はぴしゃりと扉を閉ざしてしまった。 「‥‥まあ、しょうがねえな。こんな事件に巻き込まれたんじゃな」 ルオウは吐息して、その近所に聞き込みに回った。 「ああ、赤毛のかぶき者なら見たよ。近くの空き家から出て来るのを見たんだ。いかにも怪しい奴だったけど、アヤカシだってな! 信じられないよ!」 「そいつがどっちへ逃げて行ったか分かるかな」 「ああ、町の北へ向かって行ったよ。あの子がやられたすぐ後だったな。確かに見たんだよこの目で」 「どうも、助かったぜ」 それからルオウは聞き込みを続ける。 コルリスは子供が狙われたと言う通学路に足を運んでいた。 「子供ばかりを狙うとは‥‥赤般若は通学路のどこかに目を光らせているのでしょうか‥‥」 だが、それなら場所は特定することが出来る。神楽の都と言えども学校と呼べる塾や寺子屋の数は限られている。場所は限られて来る。 コルリスは市女笠と外套で装備を隠し、被害者達のそれぞれの特徴を被害者のいた各地域で聞き込みを行う。 この一週間で亡くなったのは、東堂俊一(iz0236)の私塾に通う七助と、都の東に住む幸、南に住む幸助の三人だ。 七助は東堂の私塾で養われているが、その後で狙われたのは、二人ともそれなりに裕福な家庭の子供だった。確たる共通点はないが、赤般若がまた学校に通う子供を狙う可能性はあった。 コルリスは手帳に被害者の情報などを記録して行くと、仲間たちとの集合場所へ向かう。 ティンタジェルは、東堂俊一の私塾へ足を運んだ。子供たちの笑声が聞こえる。 「失礼します」 ティンタジェルの声に、姿を見せたのは東堂の門下生で浪人の開拓者チェン・リャン(iz0241)。 「何だ、開拓者か。何か用か」 「あなたは‥‥前回もお会いしたチェンさんですね」 「それがどうした。何の用だ」 リャンはティンタジェルを冷ややかに見据える。 「あの、例の赤般若の事件を追っています。七助さんは最初の犠牲者ですよね。七助さんのことを聞かせてもらっても良いですか」 「何をいまさら」 リャンは吐き捨てるように言った。 「凶風連が神楽の都に入り込んでいる。七助は偶然狙われたにすぎない。運が悪かった」 「ここ最近、七助さんの身に変わったことはありませんでしたか」 ティンタジェルは諦めずにリャンに問うた。 「‥‥‥‥」 リャンはしばらくしかめっ面でティンタジェルを見つめていたが、やがて口を開いた。 「子供たちの話だと、七助は最近都の北へ出かけることが多かったようだ。何をしていたかは俺も知らん。調べてみたが何もなかった」 「北へ‥‥」 「もういいか。俺達は独自に凶風連を追っている。今回の一件は時間がかかりそうだが、必ず赤般若を倒す。都の民人のためにもな。ギルドも役人も対策が遅すぎる。俺達は、自分の手でこの町を守って行かなくちゃならない。お前、そんな話に興味はあるか?」 「え?」 「今、世界は大きな力を必要としている。人の世はアヤカシに侵され、民人は救われない。誰かが立ち上がらねばならないと思わないか」 「何ですかそれは‥‥」 ティンタジェルは戸惑ったように言葉を濁すと、リャンは口許に笑みを浮かべた。 「もうすぐ分かる。東堂先生は浪志隊の建策を進めておいでだ」 そして、リャンはティンタジェルの肩を叩いて出て行った――。 開拓者たちは集合場所で集まると、情報を交換する。 「学校に通う子供たちが狙い‥‥か?」 「幼いほど奪い去った未来と同じくあとに残る者の憎しみや悲しみは深いのかも知れないな」 「それで‥‥赤般若は最後に向かったのは都の北ですか」 「ではしばらくシノビを都の北へ集中的に飛ばして見ようぜ。学校の周辺に廃屋などがあればそこへ重点的に見張りを入れて――」 それから一夜明けて、シノビ達から情報がもたらされる。 北部の廃屋近辺で赤毛のかぶき者が目撃されたのだ。 ――学童に扮したティンタジェルは、通学路を歩きながら、周辺に注意を払っていた。隣には同じく変装した鬨がいた。 「赤般若はすぐに攻撃して来るのでしょうか‥‥」 「それは分からないな。こちらを見ているなら、人気のないところへ出て行けば姿を見せるかも」 その頃、コルリスは市女笠と外套で装備を隠し、ルオウとともいた。ティンタジェルらと距離を保ち、鏡弦で根気強くアヤカシの気配を探る。徐々に人気のないところへ向かっていく。 「どうだコルリス?」 「いえ‥‥」 コルリスはもう一度、弓の弦を掻き鳴らした。その瞬間、コルリスはアヤカシの反応を察知する。 コルリスは素早く目を向けた。 赤毛が通りの角を曲がって行く。 「ルオウさんあそこ――」 「ああ」 ルオウは屋根の上にいるシノビに手を上げて合図を送った。 滝月と焔はシノビから連絡を受けて、散開していく。 ティンタジェルと鬨は、屋根の上からシノビのサインを見て、さらに人気のない方へ歩いて行く。 「ティンタジェル、次の角だ。来るぞ。気を付けろ」 「はい」 鬨はレイラを抜く準備をしていた。 ――刹那。二人が角に差し掛かったところで赤般若鬼が刀を突き出して突進してきた。 「ティンタジェル!」 鬨は鬼の突きをレイラで弾き返した。 「歌舞伎者に演じるんだったら、もう少し目立った事をしないとな。闇討ちじゃ目立たなすぎる」 「貴様――!」 赤般若鬼はアヤカシの姿で、驚いたように後ずさった。 そこへ焔と滝月が駆けこんで来る。滝月はふな寿司をミンチにした匂い玉を鬼にぶつける。匂い玉が炸裂! 「逃がしはしねえぞ!」 ルオウは咆哮を叩きつける。 だが、赤般若鬼は罵り声を上げて大通りへ向かって逃走する。 「ちい!」 「そうはいくか!」 滝月は瞬脚で加速すると、骨法起承拳を叩込み赤般若鬼の手の逆関節を決め肩を使って腕折り、刀を奪い仲間の方へ投捨てる。 「悪いな、こっちが本職でね」 グロテスクな赤鬼の顔を見た人々が叫び声を上げる。 「うわ! 何だ!」 「あ、アヤカシか!?」 通りは「凶風連」の言葉で騒然となり始める。 「おのれ!」 赤般若鬼は曲がった腕に力を込めるが、滝月は泰練気法・壱で覚醒し骨法起承拳の連撃。鋭いパンチの勢いそのままに体を回転させ回し蹴り! 吹っ飛ぶ鬼へコルリスの連撃とティンタジェルの力の歪みが鬼の足を捉え、崩れ落ちたところをルオウと焔、鬨の攻撃が貫通する。 赤般若鬼の胴体と首が飛ぶ。赤般若鬼は咆哮を残して瘴気となって消滅したのだった。 |