【龍王】郷梨の波濤
マスター名:安原太一
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 難しい
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/01/20 19:01



■オープニング本文

 天儀本島武天国、龍安家の治める土地、鳳華――。
 万覇軍は撃退された。多大な被害を受けた件のアヤカシ軍はいったん魔の森まで後退し、戦線の立て直しを図るつもりなのかもしれない。
 龍安家の頭首である龍安弘秀は、大きな被害を受けた北部の里の境界線を立て直すように里長たちに指示を出して、筆頭家老の西祥院静奈とともに首都の天承に帰還する。北部の里には、復旧のための人員が送られることになる。

 ――ところで、この世界には以前から宝珠砲と言う兵器が存在する。いわゆる大砲のことであり、ここ最近では万屋がその新作を北面に送り込んでいる陸戦兵器である。宝珠砲とは、宝珠の力によって砲撃を行う大砲の総称なのだ。種別も、直射砲から曲射砲、固定型の大型砲から戦場で移動もできる小型砲まで様々なものが作られている。長い射程と高い破壊力を誇り、その機能から志体などが運用すると自身の攻撃力などを加えて砲撃を行うことも可能。欠点として、一度発射すると次弾発射までに練力の充填に一定時間を必要とし、また、重量とその手間から個人で運用することは難しく、移動目標を攻撃するのにも適していないため、あくまで集団戦で効力を発揮する武器と言える。
 使用手順は、まず宝珠によって練力を充填させる傍ら、大砲に砲弾を装填、砲撃の威力と角度を調整して狙った場所へ着弾させる。準備から発射、着弾まで自然と時間が掛かるため、移動目標を狙うことには適していない。なお、充填中は自由に活動が可能。基本的に、狙った位置に着弾させるには角度と初速を調整せねばならず、三角関数などの数学的知識が必要となる。そうでないならば、実際は何発も撃って調整するしかない。それも大砲ごと地形ごとに違いが出るから、過去に使ったことがあろうと「勘」以上のものは引き継げない。
 砲弾は榴弾、徹甲弾の二種類が中心で、徹甲弾はいわゆる単なる金属の弾、榴弾は中に少量の火薬と練力の込められた宝珠の欠片が詰められたものである。榴弾を使用する際は導火線に火を付けてから発射する。この導火線は元が長いため、適当な長さに切断してから点火することで、難しいながらも任意のタイミングで炸裂させることも可能。
 また、曲射砲とは上方へ向けて発射し、曲線を描いて目標地点に着弾させるものであり、対する直射砲は標的に向けて直接照準で発射するものである。前者の方が高威力、長射程だが扱いが難しく、後者は扱い易いながら射程が短くなる。基本的には曲射砲が主流である。
 小さいものでは30センチくらいのものも存在し、個人で抱えて運搬できるが、基本的に大砲というより迫撃砲の類である。逆に3〜5メートル規模のものは城砦などの固定設置用か、大軍で多くの軍馬に引かせながら数日掛けて運搬、準備するものである。
 いずれにしても、宝珠砲の運用には、専門の教育を受けた専属の砲兵が必要であった。武天の宝珠砲には大まかに大、中、小のサイズが存在し、大型のものは主に城砦などの固定砲台、中型、小型のものは戦場での支援兵器として用いられている。
 そして、龍安家にも宝珠砲は存在し、これまでに砲兵の教育を行い、配備を進めてきたのであった。かくして龍安家には現在、小型の砲が総数百前後、中型、大型の砲がそれぞれ二十門前後配備を完了している。また、宝珠砲の運用には飛空船などの原理を用い、いわゆる「砲撃船」や「浮遊砲台」として宝珠砲を設置し、地形を克服するべく機動力を高めていた。
 弘秀は宝珠砲の運用の重要性を理解しており、砲兵の育成にも力を注いでいたのであった。現在、龍安家は一定数の宝珠砲と砲兵は確保したが、兵の育成と生産体制を進めることはこれからの課題でもあった。そしてそれは現在進行形で進められている。

 ……南部の魔の森との境界線。
 年中無休で哨戒に当たる兵士達は、この日異変を察知する。散発的な下級アヤカシの進出を撃退していた彼らは、魔の森の方角からアヤカシの集団が隊列を為して前進して来るのを確認したのである。
「お屋形様が北部の攻撃を撃退したばかりだろう。また新手か?」
「くそ……少しは眠る時間をくれよ」
 兵士たちは悪態をつきながら、敵軍を観察する。
「あれは……大砲か?」
「あれは先年の武州の戦いに出現した轟砲に似ているな」
「轟砲の小型版と言うところか。見た目は四足歩行の骸骨だが。その上に大砲を積んでやがる」
 ――と、ドン! ドン! ドン! ドン! と、その砲撃アヤカシたちが搭載している大砲から瘴気弾が放たれた。
「来るぞ!」
 兵士達は後退しながら、敵の戦列を可能な限り確認する。やがて、兵士達の近距離に瘴気弾が着弾して炸裂する。
「急げ!」
 兵士達は待機させていた龍に搭乗すると、空へ逃げた。
 魔の森からは空へも死骸龍や骸骨鳥が飛び立ってくる。
 望遠鏡でアヤカシ軍の前進を確認する兵士たち。
「天承と郷梨の里へ報告だ。南の魔の森からアヤカシ数百出現。至急迎撃の部隊を派遣されたし、とな」
 隊長は言って、部下を飛ばした。

 龍安弘秀は、子供たち――清久郎丸と菊音の剣術稽古の様子を見つめていた。その傍らには、奥方の春香がいた。
「……兵士の妻はいつも夫の死を覚悟しなければいけない。でも、龍安家の頭首であればそんな危険な目には遭わない……そう信じたいのは私の幻想なのでしょうね」
 春香の言葉に、弘秀は吐息した。
「何をいまさら。敵の総攻撃であれば、俺が出陣するしかあるまい」
「あなたが死んだら、誰が龍安家を継ぐんです? 子供達はまだ七歳なんですからね。何のために家臣たちがいるんですか」
「そう怒るなよ。お前だって武家の女だろう。いざとなれば本丸を守らにゃならん」
「そんなことは分かっています」
「じゃ何で怒ってるんだ」
「怒っちゃ悪いんですか!」
 春香が苛立たしげに声を荒げると、弘秀はお手上げとばかりにうなった。
 ――そこへ、筆頭家老の西祥院静奈がやってくる。
「失礼しますお屋形様、奥様」
「静奈か、いいところへ来てくれたな。ちょっと、春香を何とかしてくれないか。実際お前から見たら春香は妹みたいなもんだろう」
「すみませんお屋形様。郷梨の里から敵襲の報告が入っています。魔の森に動きがあるようです」
「……分かった」
 弘秀は立ち上がると、
「春香、また後で話そう」
 と言ってその場を立ち去る――。

 南部の魔の森の奥地で……。
 上級アヤカシの禍津夜那須羅王は、先の戦で大打撃を受けて半壊した肉体を術士達に修復させていた。その状態で部下達にアヤカシの言葉で命令する。
『人間たちを休ませてはならん。奴らには間断ない攻撃を仕掛け、常に危険状態に置かねばならん。隙あらば、里の民を食らえ。兵士どもを引き裂き、戦場を奴らの恐怖で満たすのだ』
 禍津夜那須羅王の言葉に、部下の死人戦士達は咆哮して魔の森から打って出るのだった。


■参加者一覧
鈴梅雛(ia0116
12歳・女・巫
華御院 鬨(ia0351
22歳・男・志
葛切 カズラ(ia0725
26歳・女・陰
焔 龍牙(ia0904
25歳・男・サ
滝月 玲(ia1409
19歳・男・シ
ルオウ(ia2445
14歳・男・サ
コルリス・フェネストラ(ia9657
19歳・女・弓
サクル(ib6734
18歳・女・砂


■リプレイ本文

 龍安軍陣中――。
「宝珠砲は強力ですが、もし破壊されでもしたら大変です」
 いつも壁の後ろに隠れている鈴梅雛(ia0116)が開口一番言った。
「宝珠砲を壊されたら、戦力の大幅な低下に繋がります。それは何としても避けないと。遠距離から高威力の攻撃をしてくる砲撃がしゃ髑髏をまずは何とかしないと。砲は近付かれると弱いです。敵が寄せてくる前に、砲撃して敵を吹き飛ばしましょう。ひいなは、中央で押し寄せてくる敵を迎撃に当たる人を支援します。中央へ引き込んで、鶴翼陣に移行する予定ですが、こちらが意図しない突破をされては困るので、準備が整うまでは敵を食い止めます。強力な指揮官を見つけたら、直ぐに報せて下さい。今回敵軍には禍津夜那須羅王も居ませんし、指揮官を失えば、大きく崩れると思います」
 そこまで言って、呼吸を整える。
「事前に砲撃予定地点の確認も必要でしょう。宝珠砲の砲撃地点付近には近付かない様に気をつけますが、何らかの理由で、誤って砲撃地点に入ってしまった時のために、何らかの連絡手段を用意してはどうでしょうか。狼煙銃等の遠くからでも見える連絡手段を使って、砲撃中止や支援砲撃要請などを出来れば、前線で戦う兵と、後方の砲撃兵での意思疎通がやり易くなると思います。今後、効果的に宝珠砲を運用する為にも、連携の為の情報伝達は重要だと思います」
「…………」
 一同、普段おとなしい雛の言葉を圧倒されるように聞いていた。雛の言葉には熱意と説得力があった。
「驚いたな鈴梅。お前さんからそんな言葉が出て来るなんて」
 総大将の楢はいたく感心して、雛の言葉を全面的に取り入れる。
 砲兵大将も頷いて「良く分かりました。部下達に徹底させましょう」と言った。
 華御院 鬨(ia0351)は女形をしていて、普段は常に修行のために女装しているが、今回は修行は休日なので何もしていなかった。ただし、見た目から男性の服を着た女性にしか見えない。また、この格好の時は標準語を話す。
「全く、休暇というものを知らないようですね」
 と修行休暇中の自分が感想を言う鬨。
「詳しいことは後で話があるでしょうが、作戦としては地帯射撃――射撃精度を第二位に置き、簡略な射撃修正で射撃地区、空域一帯を砲撃――を推奨します。私は龍でまず砲撃がしゃ髑髏を狙い、その砲撃を無効効果する事を最優先に動きますので。砲撃を無効化できたら、倒さなくても次のがしゃ髑髏に向かい、全がしゃ髑髏の砲撃を無効化出来ればと思いますね」
「了解した。他に――」
 妖艶なる陰陽師、葛切 カズラ(ia0725)が口を開く。全くカズラの声には独特の艶があった。
「宝珠砲ね、大規模で何回か見てきたけど、ココでも実戦配備が進んできたのね。大火力って好きよ。私自身は空戦の方に回るわね。空の始末に目星がついたら地上の砲台潰しに回って、それからボス退治ってとこだけど。敵の砲台も厄介よね。私たち一般人じゃないから宝珠砲で戦闘の勝敗が決まるとは思わないけど」
 焔 龍牙(ia0904)は、いつものように気迫を前面に出す男だ。
「宝珠砲の威力を拝見いたしますか! 今回は、アヤカシの撃破はもちろんですが、宝珠砲の確認も大きな目的ですね!」
 それから焔は、仲間たちを見やり諸将に言った。
「俺は制空権の確保の優先と、砲撃がしゃ髑髏、および上級死人戦士の撃破を目的とします。龍安軍の方も宜しくお願いします。基本的な戦術については、コルリスさんから説明があるかと思いますが、敵航空勢力を攻撃し宝珠砲の射程領域に誘導し、宝珠砲による攻撃を支援しようかと思いますがどうでしょうか。宝珠砲攻撃後の残党敵航空勢力を攻撃し、撃破。大型宝珠砲の射程領域――攻撃影響範囲――に入る様に上空から攻撃を行いつつ誘導。宝珠砲攻撃後、残っている地上に降りて、残党アヤカシを排除」
 楢は、思案顔で頷いた。
「まあ、宝珠砲は確かに強力な決戦兵器だが、雛が言ったように運用次第だな。アヤカシのがしゃ髑髏はその点何の経験も無いわけだから我々がリードしている」
 続いて滝月 玲(ia1409)が口を開く。
「砲撃についてですが、序盤から大砲性能が敵に解ってしまうのは砲撃戦ではまずい。可能な限り中型、大型砲は射程いっぱい撃たず短めに調整して砲撃を行い、龍安の大砲や砲撃手など恐れるに足らずと敵に思わせてはどうでしょうか。特に大型の射程は出来るだけ隠しておきたいところですね」
「難しい注文だな……が、ぎりぎりまで引き付けて撃つことにもなりかねんが。いけるか?」
 楢は砲兵大将に問う。
「砲兵は歩兵や騎兵の支援次第ですからね。それに、鳳珠の力で浮いているわけですから、ある程度の調整ならどうにか」
「よし、では滝月の提案を入れよう」
「ありがとうございます。それに伴いシノビの頭領赤霧殿が居ればお願いしたきことがあるのですが……」
「ん? 赤霧はここにはおらんが。ここにいるシノビでは無理なのか」
「では、シノビの方にお願いします。戦場で砲撃がしゃ髑髏の位置を把握することが出来れば砲撃隊も運用しやすいでしょう。変化する戦況の中、砲撃がしゃ髑髏の動きを各隊隊長、最低でも砲撃隊指揮官に上げて下さるようお願いします。同時に後の戦の為、射程、威力、移動速度など能力記録もお願いします」
「そうだな……では頭領、宜しく頼む」
「は……」
 頭領は一礼して、滝月にもお辞儀する。
「俺はサムライのルオウ(ia2445)! よろしくなー。宝珠砲かー、スッゲー興味あるけど今回撃たせて貰ってる暇なさそうだしな。禍津夜那須羅王が高みの見物してるみてぇだけどほえ面かかせてやんぜぃ!!」
 ジルべリアと天儀のハーフ、恋する赤毛の熱血ルオウ少年は、「だーっ!!」と拳を突き出した。だがこの少年、ギルドでも指折りの剣客である。
「後で宝珠砲見せてくれよな! 俺、機械は彼女の次に大好きなんだよなー!!」
「誰もそんなこと聞いてないわよ」
 ぐりぐりとルオウの頭を掻きまわすカズラ。
 さて、コルリス・フェネストラ(ia9657)が「一案ですが」と前置きし作戦案を奏上する。
「まず、敵の動きに応じ衡軛陣から鶴翼陣へと各隊大将の裁量で柔軟に陣形を変化させ迎撃。次に、宝珠砲は中央に大型砲台、両翼先頭に中型砲台、小型砲台をその間に並べ全体でV字を描く様に配置します。そして小型砲は対空砲撃、大型、中型は地上砲撃。砲弾は榴弾とし、地空帯射撃――射撃精度を粗くし簡略な射撃修正で射撃地区、空域一帯を砲撃――で陸空の敵を迎撃します。砲撃支援のもと制空権確保に併せ、開拓者の大半は砲撃がしゃ髑髏を強襲し撃破。可能なら大型、中型砲台は砲撃がしゃ髑髏が曲射射程範囲に入ったら優先的に地帯射撃で砲撃します。最後に、空戦は味方龍騎兵は四指戦法や小型宝珠砲台の射程範囲まで敵を誘導し、宝珠砲台の砲撃で順次撃破し制空権確保。空の敵を駆逐後、小型宝珠砲台は地上の敵に標準を変更。砲台列は鶴翼陣を保ち、左右各翼列からの砲撃が交差する十字砲火の形をとらせ、互いに各翼部隊を支援できる様砲門角度を調整し地上の敵も駆逐します」
 コルリスは言って、「宜しくお願いします」とお辞儀した。
「いいだろう。気がかりなところはあるが、まあ実戦経験と言うところかな」
 楢は頷いた。
「ところで、宝珠砲についてはいいんだが、地上に関しては――」
 すると、ダークエルフのサクル(ib6734)が手を上げた。
「私からは最も数の多い敵中央部隊の迎撃案を提案いたします。御味方のサムライと砲術士の方々にご協力願えれば敵中央部隊を突出させ撃破する事は可能かと思います」
 サクルは戦術案「車懸り」ついて言った。
「まずは味方中央に砲術士を集め、五人一列の組を四段構築致します。両脇をサムライ部隊でカバーします。そして敵が射程距離に入ったら最前列は一斉射撃し、発砲後四段列の最後尾に走り再装填。続いて、その間に続く列の砲術士達が一斉射撃。この要領で各列の砲術士達は発射する度に後退し、前線を下げていきます。砲術士達の機動を、左右で守りにつくサムライ部隊が敵を食い止める形で守り、敵に損害を与えながら突出を誘引します。そして味方陣形が鶴翼陣になったところで反撃に転じ、今度は射撃を終えた列が最後尾に下がり、装填を終えた砲術士の列が進み、四段構えの射撃で敵を間断なく射撃します。射撃支援を受けサムライ隊が左右から挟撃し敵中央隊を撃破します」
「成程、では中央はサクルの案を採用しよう。他にないか」
 それから諸将たちからも提案が為され、コルリスの基本戦術もとに龍安軍の行動は決まった。
「ではこれより我が軍は迎撃に当たる。各自、獅子奮迅せよ」
「おう!」
 一同立ち上がると、戦場に出立する。

「撃て――!」
 中型、大型の宝珠砲が火を吹く。着弾した榴弾が炸裂し、アヤカシの全面に叩きつけられる。まずはあえて射程を落として、こちらの砲撃が届かないと見せかける。
 その様子を望遠鏡でみつめていたコルリス。
「コルリスの姉ちゃん、宝珠砲の射程だけど、どのあたりに来た時が一番砲撃を集中しやすいんだ?」
 ルオウの言葉に、コルリスは思案顔で答える。
「中型は三百メートル、大型が五百メートル、小型が百メートルです。接近してからは敵を鶴翼の中へ誘い込んでからが集中砲撃のタイミングです。十字砲火で殲滅します」
「よし! んじゃあきっちり引き付けてやんぜ!」
「敵航空戦力来ますね。では行きますか」
「行きましょう」
「行くぞ! 蒼隼頼む!」
 アヤカシ軍航空戦力が前進して来る。
「対空砲撃開始――」
 小型宝珠砲が対空砲撃を開始するが、これにはやはり無理があった。宝珠砲は移動目標を狙うのに適していない。地上でさえ至難の業であり、対空砲火を命中させるのはほぼ不可能であった。砲撃は空中で炸裂するものの、個別にアヤカシを捉えるには至らない。
 それでもルオウは百メートル近辺を狙って動いた。ドンナーの速度をあわせて考えて、初手でぶつかる位置が聞いてる内でベストポジションになる様に発進。
「き・や・が・れぇええええええ!!」
 咆哮を放ってアヤカシの戦列を乱す。
「これでも食らえ!」
 先頭のアヤカシの顔面目がけて焙烙玉を投げ付けた上で、滑空機で全速でその場を離れる。離れる時に狼煙銃を撃ち込んで砲撃タイミングを教える。
 その上で、アヤカシにすり抜けざまに一撃放ちやり過ごす。
 それでも、小型砲が命中することはない。
「中々……難しいものですね。対空砲撃は無理ですか」
 コルリスは、その様子を見やりつつ、口許を引き締めた。
「禍津夜那須羅王がいないのは幸運ですが……」
 鬨は言いつつ、斬竜刀でアヤカシ死骸龍を切り捨てる。
「行くわよカナちゃん!」
 カズラは龍に衝撃波を命じ、斬撃符を叩き込む。凄絶なアレの一撃がアヤカシを粉砕する。
 焔もアヤカシを切り捨てて行く。
「宝珠砲は当たらないか……まあいい! それならば、それで四指戦術で撃破させてもらう!」
 焔は龍安兵に合図を送り、自身も切り込む。
「蒼隼との力を合わせた連携攻撃、どこまで耐えられるかな!」
 蒼隼の移動に合わせて、死人龍騎兵を中心に攻撃し、死骸龍、骸骨鳥、死人人面鳥も合わせて攻撃する。
 ――地上では、中央部隊に雛とサクルがいた。
「いよいよですね。砲撃がしゃ髑髏がどのくらいのものか」
 雛の言葉に、サクルは思案顔で頷く。
「砲撃戦となれば射程が長い方が有利なのは歴然。ですがその点では、私たちに利があるようですね」
 サクルは、望遠鏡で敵の集団を見つめていた。砲撃がしゃ髑髏はまだ砲撃してこない。まだ射程が足りないのだろうと思われる。
「コルリスさん。大丈夫でしょうか。ひいなは心配で」
 雛は小さく呟く。空を見上げる顔は、まだ十二歳の女の子だ。
 コルリスは、その言葉を聞いていたわけではないが、中型、大型の宝珠砲に砲撃命令を下す。
 いよいよ、宝珠砲が本格的に敵陣に撃ち込まれる。
「撃てー!」
 ドウ! ドウ! ドウ! ドウ! ドウ! ドウ! と砲門から閃光がほとばしり、アヤカシ軍の戦列に撃ち込まれた榴弾が炸裂する。吹っ飛ぶアヤカシたち、粉々になって消失する。
 そうする間に、やがて鬨たちは空を制圧していく。アヤカシ龍騎兵は悲鳴を上げて壊走していく。
 上空を前進する龍安軍。砲撃がしゃ髑髏に上空から接近していく。
 滝月は龍安兵を率いて、アヤカシ軍の接近に備えていた。まず最初の狙いはがしゃ髑髏。
 ――と、およそ距離が百メートルに達したところで、がしゃ髑髏が砲撃を開始する。
「来るぞ! 備えろ!」
 龍安軍に髑髏の瘴気弾が着弾する。吹っ飛ぶ兵士たち。
「しっかり、ひいなが回復します」
 雛は巫女たちと協力して、兵士たちを回復する。閃癒の力が兵士達を回復していく。
「みなさん、お願いします。ひいなだけでは手が回りません」
 雛は祈るように、傷つく兵士の傷を癒していく。
 サクルは、兵士達を指揮して、車懸りを開始する。四列横隊を展開、砲術士たちが銃撃を開始する。一斉射撃がアヤカシ達を薙ぎ倒す。
 流れるような動きで、砲術士達は後退しながらアヤカシ兵士の突進を受け止める。
 サクル自身は、最前列で戦陣「横列射撃」を駆使して味方の射撃や後退、進撃を支援する。
「次! 銃撃開始!」
「撃て!」
 鬨、カズラ、焔、ルオウたちは、がしゃ髑髏に向かって上空から突撃していくと、それらを叩き潰す。砲塔を潰し、髑髏の戦力を封じて行く。
 滝月は、サムライたちと敵陣に切り込むと、焙烙玉を所持して互いをフォローし合える二列の陣形で前進する。
「あそこだ!」
 砲撃がしゃ髑髏に辿りつくと、その足を集中的にする。傾くがしゃ髑髏は、巨体をよろめかせて倒れ伏した。その砲塔に焙烙玉を投げ込み内部より破壊する。
 開拓者たちも陸上で合流し、龍安軍は鶴翼の陣形に移行していく。
「アヤカシを十字砲火に追い込み、集中砲撃を開始して下さい」
 コルリスが合図を送ると、地上ではサクルが反転攻勢に転じる。間断ない銃撃でアヤカシ軍の正面を粉砕し、サムライたちが側面から切り込む。
「響!」
 コルリス自身も鳴響弓+安息流騎射術の合成技で順次迎撃。
 アヤカシ軍の先陣が崩れると、開拓者たちも加速し、戦場で上級死人戦士らを撃破する。
 龍安軍の包囲下に、宝珠砲の集中攻撃が加わり、アヤカシ軍を殲滅していく。
 やがて、アヤカシ軍は崩壊し、魔の森へ壊走しいく……。

 サクルはバダドサイトで魔の森を探っていたが、禍津夜那須羅王の姿は発見できなかった。
 その後ろでは、鬨が龍安家お抱え芸人として女形の姿に戻って、
「ご苦労様どす。うちの舞でも見て気を休めてくれやす」
 と兵士の前で勝利の舞を舞っていた。
 この後、続いてアヤカシ軍の攻撃が来るとは、まだこの時開拓者達も知らない。