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■オープニング本文 天儀本島武天国、龍安家の治める土地、鳳華――。 首都の天承城にて――。 「一体何事だ」 龍安弘秀は、アドバイザーたちが集まる部屋に入って来るなり言った。 「まだ里の戦況は分からんのだろう。急報とは?」 弘秀は、傍らの筆頭家老の西祥院静奈に言った。 「お屋形様、郷梨の里の南東から東部にかけて、新手のアヤカシ数百が展開しつつあります」 「新手か」 弘秀はうなるように言って、席に着いた。 「それで我が軍は――」 弘秀が一同を見渡すと家老の水城明日香が口を開いた。 「すでに増援を送りました。ただ一つ問題が……ありまして」 「何だ」 「それはこれを御覧下さい」 静奈が一通の文を差し出すと、弘秀は差出人の名前を見た。 「笹山与左衛門? 郷梨の里の筆頭家老だろう」 弘秀は文を開く。 「何だこれは……」 そこには、不確かな情報ながら、郷梨の里の里長である秋信子が反乱を起こそうとしている、と書かれていた。 「秋が反乱を起こす? そんな馬鹿な話があるか」 「それが実はおかしなことになっておりまして」 「何がだ」 「笹山に風信機で問いただしたところ、このような文を出した覚えはないと言うのです」 「それじゃあこれは一体何なんだ?」 すると、アドバイザーの朝廷貴族の長篠安盛が言った。 「龍安、これはアヤカシの策謀であろう。我々を混乱させるのが目的、それしか考えられん」 その言葉に同じくアドバイザーの芦屋馨(iz0207)は頷いた。 「弘秀様、私もこの件に関しては長篠様と意見を同じくします。アヤカシ側に何か特別な動きがあるものと考えるべきでしょう」 「詰まるところ戦場以外で何かが起きると言うのか?」 そこで赤毛の若者が口を開いた。龍安家のシノビの頭領、赤霧である。諜報活動を専門とする達人級のシノビである。 「お屋形様、最悪の可能性は、アヤカシの策謀が実在し、実際に秋が反乱を起こす、と言う可能性です」 「どういう意味だ」 「反乱と言っても、兵士を率いて起こさずとも、アヤカシの攻撃を手引きすると言う可能性があります。秋の指揮権はサムライ大将に匹敵するものですから、例えば防備を手薄にし、アヤカシを招き入れると言うことも考えられるでしょう」 「ちょっと話が飛躍しすぎじゃないのか」 弘秀は肩をすくめて一同を見渡す。 「お屋形様――」 静奈が言った。 「具体的な危険は分かりませんが、秋に大きな指揮権があるのは確かです。秋は兵士たちを動かすことが可能なのです」 続いて、赤霧が言った。 「お屋形様、これはあくまで推測にしか過ぎないのですが、秋がアヤカシに何か弱みを握られていたら話は違ってきます。例えば禍津夜那須羅王に人質を取られているとか」 「おいおい本気で秋が裏切ると思うのか。俺は秋を良く知ってる。鳳華の旧家の生まれで、龍安家にずっと仕えてきたんだぞ」 「お屋形様、ですから、事実を確認させて下さい。何事も無ければ、それで済む話ではありませんか」 「一通の文を以って俺たちを混乱させるとは、それこそ禍津夜那須羅王の企みではないのか」 「お屋形様――」 赤霧が言うと、弘秀はうなった。 「分かった……では、ことの真偽を確かめてもらおう。赤霧、この件はお前に任せる」 「承知いたしました」 「それから、里の最新の状況が入ってきたら知らせてくれ。よろしく頼むぞ――」 そうして、弘秀は立ち上がった。 郷梨の里――。 里長の秋と、筆頭家老の笹山は本丸の一室にいて、密談をしていた。 「里長、どうやらお屋形様は私たちを疑っておいでのようです」 「なぜお屋形様がご存じなの」 「私の名前で文が届いたそうです。里長が反乱を起こすつもりであるとの内容であったそうです。否定はしましたが……恐らく調査に誰か送られて来るでしょう」 「禍津夜那須羅王だわ。ことの全てを仕切っているのはあのアヤカシなんだから」 「里長、お屋形様に報告しましょう。そうすれば……」 「駄目よ。禍津夜那須羅王に知れたら、あなたの子供は殺されてしまうわ。東の防備さえ突破出来れば禍津夜那須羅王は子供を返すと言ったんだから」 「アヤカシが約束を守るわけがない。禍津夜那須羅王に捕えられた時に、もう諦めています。あの子は今頃魔の森のどこかで……。どうか里長、このままではあなたが処罰されることになります」 「処罰を受けましょう。あの子のためなら……」 「信子……」 笹山は、秋を抱き寄せると、「すまない」と言った。 「なるほどそういうことか――とんでもないスキャンダルを聞いちまったな」 一部始終を超越聴覚で聞き取っていた赤霧は、吐息して頭を掻いた。 「仕方ねえな。よし、お前ら魔の森へ行け。状況は分かってるな。人質を救出するんだ。禍津夜那須羅王がどこかに隠しているだろうが、南の魔の森だ。行け」 赤霧は部下のシノビ達に命令を下すと、同行して来た開拓者たちを振り返った。 「それで赤霧さん?」 「うん……」 赤霧は、開拓者たちに事情を説明する。驚く開拓者たち。 「まあ……二人の説得には俺が当たるとしてだ、総大将の楢の奴も南で手いっぱいだろうし、東の戦場はお前たちに託すとするかね」 「筆頭家老の子供さんが……って、赤霧さん大丈夫?」 「何とかしてみる。戦場の方、よろしく。俺から楢に伝えておく――」 そうして、開拓者たちは戦場に向かう。 再び天承城にて――。 夜、プライベートルームの風信機の前に、長篠安盛の姿があった。 「――と言うわけだ。禍津夜那須羅王が何を考えているのか知らんが、せっかくここまでお膳立てしてやったのに苦労が水の泡だ」 風信機の向こうで、小さな笑声が上がった。 「それで? どうするんだ。秋と笹山が動かなきゃ策はおじゃんだろ」 「…………」 長篠は沈黙ののちに、口を開いた。 「二人にはここで消えてもらう。始末しろ。禍津夜那須羅王が余計なことを言いだしたら厄介だ」 風信機の向こうの「男」は、低い声で笑った。 「保険を掛けといて正解だったな。報酬はよろしく頼むぜ」 「そんなことを心配するな」 「了解した」 「…………」 長篠は通信を切ると、部屋から出て行く……。 魔の森の奥地で……。 禍津夜那須羅王は、その「男」と対面していた。その黒髪碧眼の男は、浪人風の風体をした剣士だったが、凄絶な剣気を身にまとっていた。この男の名を、ジェイクと言った。 「それでアヤカシさんよ、全てあんたの差し金通りか。随分手の込んだことを考えるんだなあ」 禍津夜那須羅王は、いまだ回復しない肉体を術士たちに回復させていた。ただ、だいぶ元通りになっていた。 「ジェイクとか言ったな。殺すのは男だけにしろ。里長には、その上で指示を出す」 「そこまでうまくいくかね」 「お前は言われたことをやればいい」 「もちろん、あんたとやり合おうなんざ思っちゃいねえ」 立ち去るジェイクを見送り、禍津夜那須羅王は自分に傷を負わせた開拓者たちのことを思い出すのだった。 |
■参加者一覧
柊沢 霞澄(ia0067)
17歳・女・巫
華御院 鬨(ia0351)
22歳・男・志
焔 龍牙(ia0904)
25歳・男・サ
滝月 玲(ia1409)
19歳・男・シ
ルオウ(ia2445)
14歳・男・サ
コルリス・フェネストラ(ia9657)
19歳・女・弓
ジークリンデ(ib0258)
20歳・女・魔
将門(ib1770)
25歳・男・サ |
■リプレイ本文 華御院 鬨(ia0351)。女形をしていて普段は常に修行のために女装しているが、今回は修行は休日なので何もしていない。ただし、見た目から男性の服を着た女性にしか見えない。 「本当はこのまま、禍津夜那須羅王の所に向かいたいどすが、相手も色々と考えている様ですね」 と冷静に感想を云う。 「何やらきな臭い動きがある様だが、やれることをやるまでだ!」 焔 龍牙(ia0904)は言って、目の前の秋と笹山を見やる。 秋と笹山は、龍安家直参の家老でもある赤霧の命によって、後方へ移されていた。 焔と鬨は、自ら彼らの警護に当たっていた。秋と笹山が禍津夜那須羅王と繋がっている以上、迂闊に目を離すわけにもいかなかったのだ。 そこへ、ジークリンデ(ib0258)と将門(ib1770)がやって来る。 「禍津夜那須羅王は大破してお休みのようですね。不穏な動きもあるようですので、時間稼ぎが敵の狙いかと思いますが、良い機会ですので敵の策を逆に利用して滅ぼすのもよいでしょう」 静かに言うジークリンデに、将門は吐息した。 「里の重臣の子供が人質ね……攫われた状況にもよるが、アヤカシだけで可能かね……今回の攻勢を退けたら、一度、内部調査をした方が良いんじゃないか? 禍津夜那須羅王のフットワークの軽さを考えると郷梨に限定せずに、な」 その言葉に、赤霧はうなった。 「昨年の凱燕攻防戦辺りから、情報漏洩の可能性は俺達も考えている。何者かが手引きしている可能性があると」 「ふむ……」 将門は頷くと、思案顔で言った。 「誰だって子供は可愛い。処罰覚悟で裏切りを決めかけた秋、笹山を軽蔑する気はないよ。ただ、命懸けで戦っている兵のこと。防備を突破されることで里が蹂躙されることをどう考えているのかを聞いてみたいがね」 秋は、下を向いて口を開いた。 「私は里長失格ですね。それは分かっています。ですが、こんな窮地に立ってみて、初めて自分がこのような状況には耐えられないと分かったのです」 「答えになっていないぜ……まあ、とやかく言うつもりはないがね」 「ごめんなさい……私には……出来ない……」 秋は涙をこぼしたが、将門は責める気にはなれなかった。 「ここはお任せ下さい」 ジークリンデが言うと、将門と赤霧は頷き、出て行った。 「私は後方支援としてここに居させていただきます。私は龍安家の家臣でもありますからね」 鬨は言って、二人を牽制する。と龍安家家臣としての面目の元に二人の側にいる。 「里長の秋殿、筆頭家老の笹山殿、警護は我々が行いますが、決して軽はずみな行動は取られない様にお願いしますね」 焔も言って、二人の行動を封じる。 と、笹山が動き出そうとした瞬間、鬨は「どうなさいました」と気をこちらに引き、逆に何もできない様にする。 「それにしても……禍津夜那須羅王も随分回りくどいことを考えますね」 ジークリンデが言った時、室内に兵士が入って来た。 「恐れ入ります。お二人を本丸から移すように総大将より指示が出ております。どうかお急ぎ下さい」 だが、兵士が放っている殺気を開拓者らは尋常ではないと察知した。 「貴様何者だ。龍安の兵士ではないな」 焔は刀に手を掛けた。 次の瞬間、男は抜刀して突進した。凄絶な一撃を焔は受け止めた。 「俺はジェイク。笹山を殺しに来た。禍津夜那須羅王から雇われてな」 その瞬間、ジークリンデの四重のアイヴィーバンドがジェイクを絡め取った。魔法の蔦が見る間にジェイクを覆い尽くす。 「如何なる達人も私の戒めの前では凡人に成らざるを得ません」 ジェイクはもがいたが、ジークリンデはさらに四重のバンドを掛けた。 鬨と焔はジェイクの武器を弾き飛ばし、刀を突き付けた。 「もし、禍津夜那須羅王以上の大金を支払うといったら、裏切ってくれるんですか」 「くく……敵は禍津夜那須羅王だけじゃないぜ龍安家。長篠安盛。龍安家のアドバイザーでありながら、アヤカシと内通している」 「何ですって? どういうことですか」 「長篠は大した役者ぶりだよ。最初からそのつもりで、龍安家に乗りこんできたんだからな」 それからジェイクは、嘘か真か、長篠が長年不厳王(iz0156)の指示を受けて活動していることを話し出した。 開拓者は長々と話すジェイクに一瞬隙を見せてしまった。ジェイクは魔法の効果が途切れた瞬間に飛び起きて全力疾走で逃げた――。 さて、そんな事件とは並行で、軍議は進められていた。 柊沢 霞澄(ia0067)は、秋と笹山のことを思い、小さな胸を痛めていた。 大きな戦です……このような状況で人質を取られ、敵への協力を強要されたお二人の心境はどれだけ辛いものでしょう……。本来であれば私も人質救出に赴きたい所ですが、今は相手の策に乗らない事が肝要だと考えます……。あちらを任せられた人達を信じ、私もこのような大きな戦で何ができるか、最善を尽くしましょう……。 コルリス・フェネストラ(ia9657)は進み出ると、仲間たち、楢新之助、各隊大将達に言った。「一案ですが」と前置きし作戦案を奏上するが判断は委ねる。 「まず、今回は東方面は防戦。その間に東南方面が攻撃、撃破しそのまま迂回、東方面の敵軍を挟撃し撃破すると言う作戦案を提案いたします」 コルリスは続ける。 「前回の教訓から宝珠砲は小型砲台を防戦側に集中運用。中型、大型砲は攻勢側に配備。防戦側は予め三隊に分け、二隊は後方左右に潜伏。一隊が敵軍と交戦後、敗走を偽装し伏兵二隊の潜伏場所へ誘導。左右から伏兵隊に攻撃させ包囲殲滅する釣り野伏を実施いたします。宝珠砲弾は榴弾とし、防戦側は予め小型砲の砲撃弾着地帯に砲兵から見える形で事前に目印線を構築。敵兵が目印線に到達したら小型砲を目印に向け砲撃させ敵兵を順次撃破。開拓者の大半は混戦を利用し、砲撃がしゃ髑髏を強襲、撃破いたします。空戦では味方龍騎兵は四指戦法や味方弓術師、砲術士の射程範囲まで敵を誘導し対空射撃で順次撃破し制空権確保。空の敵を駆逐後、砲台列は鶴翼陣を保ち左右からの砲撃を交差する十字砲火の形にさせ、互いを支援できる様砲門角度を調整し敵を駆逐いたします」 コルリスが言葉を切ると、滝月 玲(ia1409)は口を開いた。 「では……南東部を撃破後、東へ移行、鶴翼陣で敵を包囲殲滅ですが。集中砲火するポイントやタイミングはどうなるでしょうか。砲撃ポイントや段取りは徹底しておかないと大変だからね」 「そうですね。予測ではありますが、前回のアヤカシの戦力からして、敵を受けるのはこのライン……ですので、宝珠砲はここに配置することになるでしょう」 コルリスは卓上の駒を動かしていく。 「俺はサムライのルオウ! よろしくなー。しかしなんかいろいろ面倒な事になってるみたいだよなー……俺そういうのは苦手なんだよなー。とりあえずぶん殴ってから考えるたちだからなー」 ルオウ(ia2445)は手を頭の後ろで組んでのほほんと言った。 「俺もコルリス案を支持する」 将門は、ルオウ少年を苦笑して見やりつつ言った。 「南東方面における中型宝珠砲、大型宝珠砲の運用案だが、射程距離が違うが、配置や発射角度を調整する事で同じ場所に撃ち込めるように設定すべきだろう。中型、大型の射撃を集中させたい。砲弾は榴弾でいい。敵陣形を崩す事が目的だ。初弾の後は陸戦部隊の勝利を信じて、敵の退路付近に照準を合せて、駄目押しを狙いたい」 「うむ……」 楢は諸将からも意見を聞き、戦術案を取りまとめて行く。 そこへ、ジークリンデと焔が入って来た。 「警護はどうした」 楢が問うと、焔は事の次第を報告する。一同ざわめく。 「それが本当なら……昨年の凱燕からの不審事は全て長篠の……赤霧様これは」 「ああ。至急天承の西祥院に報告する」 赤霧は急ぎ足で風信機のもとへ向かう。 「ですが……お二人を狙う試みが失敗したわけですから……これ以上の危険は去ったのではないでしょうか……」 柊沢が言うと、ルオウは拳を床に叩きつけた。 「許せねー! 禍津夜那須羅王の奴! こんな汚い手を使いやがって!」 「とにかく、これ以上何人もお二人についていても仕方ありません。後は鬨様にお任せして、戦場に出るがいいでしょう」 ジークリンデが言うと、楢はもう一度戦術案を説明する。 「分かりました。では私も釣り野伏を支援すべく動きます」 「宜しく頼む。では一同、今一度心を保ち、敵に備えようぞ!」 楢の言葉に、「おお!」と答え、龍安軍は迎撃に出る――。 「撃て!」 砲兵隊長の号令とともに、中型砲台、大型砲台が火を吹く。ドウ! ドウ! ドウ! ドウ! と長射程の砲撃がアヤカシ軍に炸裂する。 柊沢は、後方にあって回復に備えていた。 「一人でも多くの人の傷を癒す事、それが私の戦いですから‥‥」 「霞澄! 後ろは任せたぜ!」 ルオウ少年はにかっと笑った。 「なんか裏でごちゃごちゃした動きがありそうだけど、そっちはそっちを担当する仲間にお任せだぜ! 気にしてちゃ相手の思う壺だしな! 信じて自分は自分のやる事をする。それが援護ってもんだよな!」 「ルオウさん‥‥私も精いっぱいできることをするつもりです‥‥こんな状況ですが‥‥」 「じゃあな! 行くぜ!」 ルオウは将門とともに空に舞いがった。 「宝珠砲か‥‥なるほど大したもんだが油断はできんな‥‥」 将門は加速すると、龍安軍龍騎兵と連携してアヤカシ軍の敵航空戦力にぶつかっていく。将門が刀を振り下ろすと、龍安騎兵は整然と四騎一組みの戦闘隊形を取る。二騎一組みを更に二つ組み合わせた四指戦術だ。 「俺が相手になってやんぜーーーーー!!」 ルオウ始め、龍安軍から咆哮が叩きつけられると、アヤカシ軍の先陣が乱れる。 将門は一刀で死骸龍と骸骨鳥を切り捨てると、死人騎兵大将に襲い掛かった。妙見のラッシュフライトを発動して急接近、至近から柳生無明剣の斬撃を打ち込む。凄絶な剣撃がアヤカシ大将を切り裂く。アヤカシ大将は真っ二つになって瘴気に還元する。 「行っくぜーーーー!」 ルオウは猛進すると、すれ違いざまにアヤカシを撃墜していき、アヤカシ大将に迫る。 「てめえら覚悟しやがれえーーーー!」 ルオウはアヤカシ大将と打ち合い、撃墜させた。 続いて、宝珠砲が打ち込まれて行く。 戦術が有効に働き、空を確実に制圧していく龍安軍。 地上ではがしゃ髑髏が砲撃を開始していた。 吹っ飛ぶ兵士を、柊沢が回復する。 「精霊さん達‥‥アヤカシと戦う皆さんに力を‥‥」 「いってえ‥‥! がしゃ髑髏が、厄介だぜ!」 「しっかりして下さいね‥‥私にできることは致します‥‥巫女のみなさんもお願いします‥‥」 柊沢が中心となって最初の打撃を回復していく。 将門とルオウはがしゃ髑髏に突進すると、龍から飛び降りた。そのまま髑髏に刀を撃ち込む。 将門とルオウがまずスキル全開の一撃を叩き込み、がしゃ髑髏を叩き斬る。 「突撃せよ!」 サムライ大将の号令とともに、龍安軍は総攻めに転じた。 宝珠砲が最後の砲撃を終えて、東方面への布陣に移行していく。 龍安軍は空と陸から南東のアヤカシ軍を突き破った。 「南東は突破したようですね。さすがです」 コルリスは、望遠鏡で戦況を確認し、陸戦部隊に釣り野伏の実行を指示する。 中型、大型宝珠砲が布陣を整えるまで時間が掛かる。 コルリスは小型宝珠砲の位置を確認し、合図を送る。砲兵は接近されたら何もできない。砲は強力だが運用は計画的に行う必要がある。そのために目印となる砲撃線を事前に敷いた。 滝月は先鋒にあり、アヤカシ軍の砲撃が着弾して接近して来るのを目で確認していた。 「ここが忍耐だな。戦の要か」 滝月は、砲撃線にアヤカシ軍が到達するのを待った。 上空では、焔とジークリンデが出発しようとしていた。コルリスは砲撃のタイミングを図っていた。 「では俺たちはそろそろ行きます!」 焔は言って、空戦部隊とともに前進する。 「蒼隼! ここからお前の力が必要だ! よろしく頼む! ソニックブームで蹴散らせ」 両軍空で激突するが、南東からルオウと将門が援軍とともにやって来る。 合流する開拓者たち。 「龍牙! さっさと片付けてすっきりさせようぜ!」 ルオウは乱戦の中、赤毛をなびかせながら牙を剥いた。 「敵は半減している、各個撃破で落とせるだろう」 将門の言葉に焔は頷いた。加速、前進する龍安軍。 「砲撃開始――」 コルリスは合図を下した。 十五門の小型宝珠砲が一斉に火を吹き始めると、榴弾がアヤカシ軍の戦列を打ち砕いて行く。 がしゃ髑髏からの応射が来るが、柊沢たち巫女が結束して回復に当たる。 「これ以上お味方に怪我はさせません‥‥」 「来るぞ!」 滝月は、砲撃を掻い潜って突進して来るアヤカシ軍と激突する。焔術を好み風貌と異なり一度牙を剥くと鬼気迫る様から「炎帝」と称される男。龍安軍を最前線で鼓舞しつつ、アヤカシ軍の攻勢を退くと見せかけおびき出す。困難な戦術を可能にするのは龍安の兵の鍛錬の賜物だが、それも事前の打ち合わせが大将間で共有されていることによる。 滝月は前進と後退を繰り返しながら砲撃ポイントにアヤカシを誘導し、砲撃によるアヤカシ兵の減少を狙い再度突撃する。 「気を抜くなよ、でっかいのが来るぜ急げー!」 勢い前進して来た砲撃がしゃ髑髏に突撃。がしゃ髑髏は直射態勢に入っていたが、滝月らは機先を制してを髑髏を打ち倒した。兵に持たせた焙烙玉を砲口から中に投げ込み内部から破壊する。 ジークリンデの超魔術が上空から叩き込まれる。彼女は釣り野伏で最も難しい包囲前に潰されてしまうのを防ぐべく、メテオストライクでの支援砲火を行う。爆炎がアヤカシ軍を薙ぎ払うと、アヤカシ陣中に巨大な穴が開く。さらに空爆と同時進行で敵指揮官をアークブラスト連射で狙撃。敵の混乱を誘い、友軍の総攻撃を支援する。 と、その時だった。滝月の視界に赤霧殿配下の忍びたちの姿が入って来る。滝月は駆け出すと、咆哮を放ち引きつけフォロー。 「いくら赤霧殿だってその子が居なきゃ始まらん、大事になる前に急ぎな」 「助かる」 シノビらは、その少年を抱きかかえて、後方に急ぎ行く。 滝月はアヤカシの追撃を叩いた。 最終局面、龍安軍は釣り野伏による包囲殲滅に出る。勢い龍安軍は南東の友軍と合流して、敵を殲滅していく。さらに万全の布陣を敷いた宝珠砲による十字砲火を叩き込み、アヤカシ軍を粉砕した。 ‥‥里の本丸にて。 鬨は、味方が勝利したことを里の家老から聞いた。彼の後ろでは、救出された子供が秋らと再会を果たしていた。 「とにかく、必要なことは成し遂げましたが‥‥代償も大きい戦いでしたね。さて、禍津夜那須羅王はどう出ますか」 鬨は憂慮していたが、ほどなくしてそれは現実のものとなる。 |